少女が目を覚ますと、そこは、薄暗いアパートの一室だった。
(どこよ?ここ?)
まずは、状況の把握が必要だ。そう考えた少女はそこから動かずに考える。
少女は、部屋のベッドに寝かされていた。身体についていた血はきれいに洗われ、大きい男物のYシャツをパジャマ代わりに着せられている。
時計があってるのなら、時刻は午後1時、太陽がまだまだ高い時間だ。にも関わらず薄暗いのはぴったりと閉じられたカーテンのおかげだろう。
身体の調子は、すこぶる良好。だが、同時に体内に微妙な違和感を感じる。もやもやした何かが、身体にとどまっている感じだ。
次に、昨日、眠りにつく前に起こったことを振り返る。
(確か昨日は…そう、死にかけて、見つけたあの子の血を頂いて…)
だが、少女の思考は途中で中断された。
「やあ、目が覚めたようだね」
そんな声と共に部屋の電気がつけられて明るくなり、中に人が入ってくる。
眼鏡をかけ、スーツを着た、昨日の美少年。手にはサフィーの服とティーセットの乗せられたお盆を持っている。
辺りに紅茶の匂いが漂う。
「ああ、ちなみに君の世話は僕じゃなくていのり君、僕の仲間の女の子がやってくれたから、安心して。
それと、君のきていた服は洗って繕っておいたけど、早めに別の服を用意した方がいい。損傷が激しいし、何より目立ちすぎるからね」
そう言いながら少年は部屋の机にティーセットを置き、椅子に腰かける。
「…あんた、ちょっとお人好しが過ぎるんじゃないでしゅか?アタシはあんたの血を吸ったんでしゅよ?」
至れり尽くせりの状況に、かえって少女は警戒を強める。
初めてこの街に来たときに出会い、今は2重の意味で“弟”となった青年ならば、ただ困ってる人を見捨てられないからでもいいだろう。
だが、目の前の少年は、そこまでのお人好しにも、馬鹿にも見えない。
大体、初めて出会った時に吸血した相手に何もなしここまでする奴がどこにいると言うのだ。
案の定、少年は肩をすくめて、言う。
「…ま、事情は分からないでもないからね。それに、僕の方でも少し君に聞きたいことがある。
さ、まずは自己紹介と行こうじゃないか。僕の名は、静=ヴァンスタイン。ファー・ジ・アースから来た、ウィザードさ」
少年…静の言葉に少女の思考が目まぐるしく回転する。空回りでなしに。
ファー・ジ・アース?聞きなれない言葉だ。ウィザード…魔法使い?魔法を使う人間が現実にいるなんて話は、500年生きてるが聞いたことが無い。
頭ではそんなことを考えながら、少女は目の前の少年に返す。
「アタシは、サファイア。サフィーでいいでしゅ。これでも500年は生きてる、吸血鬼でしゅよ」
吸血鬼。改めてその言葉を口にして反応を見る。
「分かった。サフィーちゃんだね。よろしく」
だが、目の前の男はそれを気にした様子も無く、さわやかに握手を求める。
「……驚かないのね?」
目の前の男はどう見ても普通の人間で、しかもサフィーを吸血鬼と認識しているにも関わらず、落ち着きはらっている。
そのことにサフィーは疑問を覚え、思わず素に戻って聞き返す。
「僕には吸血鬼の知り合いはいないけど、ウィザードなら別段珍しくもないだろう?」
また、ウィザードだ。そりゃあ吸血鬼とか悪魔とか死神とかなら呼ばれたこともあるが、魔法使いは無い。
「ウィザード?なにそれ。そりゃあアタシらは超能力使えるけど、魔法なんて使えないわよ?」
「え?だって君は…ああ、そうか。ウィザードはいないと聞いてたけど、イコール非常識の存在がいない、とはならないのか。
となると…もしかしてあの時か…?」
少年…静は考え始め、一人で呟く。
「…ちょっと、一人で納得してないでこっちにもちゃんと説明しなさいよ」
その態度にちょっとムッとしてサフィーが言い返す。
「ああ、ごめんごめん。説明するよ。ただ、ちょっと長くなる。だからまずは…」
机に置いたティーカップに紅茶を注ぐ。紅茶の匂いがさらに強くなった。
「落ち着くために、サフィーちゃんも一杯どうだい?」
その言葉に、サフィーはカチンと来た。思わず反論する。
「…ちょっと、馬鹿にしてるの?」
「え?君は、紅茶は嫌いなのかい?」
嫌いも何も無い。サフィーたち吸血鬼に取っての食料は、人間の血液のみだ。それ以外は、食べることすら出来ない異物にすぎない。
吸血鬼の扱いは心得ているくせに、こんな基本的なことも知らないのかと、サフィーは怒りを感じる。
「しょうがないな。ちょっと待ってて」
そう言うと、静は部屋を出て行く。そして、再びカップを手に戻ってくる。
「これなら、君の口にもあうと思うんだけど」
手にしたカップに注がれているのは、真っ赤な液体。
普通の人間なら、そうそう用意できない代物をあっさり持ってきたことに、サフィーは更に疑問を覚える。
「…頂くわ」
警戒しながらもカップを受け取り、口へと含む。転がすように味わい、飲み込む。
「…おいしい」
それは意外なほど美味だった。飲みなれない味ではあるが、強い酸味と、その奥に隠された甘味、2つを繋ぐ塩味が心地よい。
「よかった。君のために昨日のうちに取り寄せておいたんだ」
その事にホッとした表情で、静がさわやかに言う。
「オクタヘドロン謹製、吸血鬼御用達キラートマトのトマトジュース。結構高かったんだよ?」
(どこよ?ここ?)
まずは、状況の把握が必要だ。そう考えた少女はそこから動かずに考える。
少女は、部屋のベッドに寝かされていた。身体についていた血はきれいに洗われ、大きい男物のYシャツをパジャマ代わりに着せられている。
時計があってるのなら、時刻は午後1時、太陽がまだまだ高い時間だ。にも関わらず薄暗いのはぴったりと閉じられたカーテンのおかげだろう。
身体の調子は、すこぶる良好。だが、同時に体内に微妙な違和感を感じる。もやもやした何かが、身体にとどまっている感じだ。
次に、昨日、眠りにつく前に起こったことを振り返る。
(確か昨日は…そう、死にかけて、見つけたあの子の血を頂いて…)
だが、少女の思考は途中で中断された。
「やあ、目が覚めたようだね」
そんな声と共に部屋の電気がつけられて明るくなり、中に人が入ってくる。
眼鏡をかけ、スーツを着た、昨日の美少年。手にはサフィーの服とティーセットの乗せられたお盆を持っている。
辺りに紅茶の匂いが漂う。
「ああ、ちなみに君の世話は僕じゃなくていのり君、僕の仲間の女の子がやってくれたから、安心して。
それと、君のきていた服は洗って繕っておいたけど、早めに別の服を用意した方がいい。損傷が激しいし、何より目立ちすぎるからね」
そう言いながら少年は部屋の机にティーセットを置き、椅子に腰かける。
「…あんた、ちょっとお人好しが過ぎるんじゃないでしゅか?アタシはあんたの血を吸ったんでしゅよ?」
至れり尽くせりの状況に、かえって少女は警戒を強める。
初めてこの街に来たときに出会い、今は2重の意味で“弟”となった青年ならば、ただ困ってる人を見捨てられないからでもいいだろう。
だが、目の前の少年は、そこまでのお人好しにも、馬鹿にも見えない。
大体、初めて出会った時に吸血した相手に何もなしここまでする奴がどこにいると言うのだ。
案の定、少年は肩をすくめて、言う。
「…ま、事情は分からないでもないからね。それに、僕の方でも少し君に聞きたいことがある。
さ、まずは自己紹介と行こうじゃないか。僕の名は、静=ヴァンスタイン。ファー・ジ・アースから来た、ウィザードさ」
少年…静の言葉に少女の思考が目まぐるしく回転する。空回りでなしに。
ファー・ジ・アース?聞きなれない言葉だ。ウィザード…魔法使い?魔法を使う人間が現実にいるなんて話は、500年生きてるが聞いたことが無い。
頭ではそんなことを考えながら、少女は目の前の少年に返す。
「アタシは、サファイア。サフィーでいいでしゅ。これでも500年は生きてる、吸血鬼でしゅよ」
吸血鬼。改めてその言葉を口にして反応を見る。
「分かった。サフィーちゃんだね。よろしく」
だが、目の前の男はそれを気にした様子も無く、さわやかに握手を求める。
「……驚かないのね?」
目の前の男はどう見ても普通の人間で、しかもサフィーを吸血鬼と認識しているにも関わらず、落ち着きはらっている。
そのことにサフィーは疑問を覚え、思わず素に戻って聞き返す。
「僕には吸血鬼の知り合いはいないけど、ウィザードなら別段珍しくもないだろう?」
また、ウィザードだ。そりゃあ吸血鬼とか悪魔とか死神とかなら呼ばれたこともあるが、魔法使いは無い。
「ウィザード?なにそれ。そりゃあアタシらは超能力使えるけど、魔法なんて使えないわよ?」
「え?だって君は…ああ、そうか。ウィザードはいないと聞いてたけど、イコール非常識の存在がいない、とはならないのか。
となると…もしかしてあの時か…?」
少年…静は考え始め、一人で呟く。
「…ちょっと、一人で納得してないでこっちにもちゃんと説明しなさいよ」
その態度にちょっとムッとしてサフィーが言い返す。
「ああ、ごめんごめん。説明するよ。ただ、ちょっと長くなる。だからまずは…」
机に置いたティーカップに紅茶を注ぐ。紅茶の匂いがさらに強くなった。
「落ち着くために、サフィーちゃんも一杯どうだい?」
その言葉に、サフィーはカチンと来た。思わず反論する。
「…ちょっと、馬鹿にしてるの?」
「え?君は、紅茶は嫌いなのかい?」
嫌いも何も無い。サフィーたち吸血鬼に取っての食料は、人間の血液のみだ。それ以外は、食べることすら出来ない異物にすぎない。
吸血鬼の扱いは心得ているくせに、こんな基本的なことも知らないのかと、サフィーは怒りを感じる。
「しょうがないな。ちょっと待ってて」
そう言うと、静は部屋を出て行く。そして、再びカップを手に戻ってくる。
「これなら、君の口にもあうと思うんだけど」
手にしたカップに注がれているのは、真っ赤な液体。
普通の人間なら、そうそう用意できない代物をあっさり持ってきたことに、サフィーは更に疑問を覚える。
「…頂くわ」
警戒しながらもカップを受け取り、口へと含む。転がすように味わい、飲み込む。
「…おいしい」
それは意外なほど美味だった。飲みなれない味ではあるが、強い酸味と、その奥に隠された甘味、2つを繋ぐ塩味が心地よい。
「よかった。君のために昨日のうちに取り寄せておいたんだ」
その事にホッとした表情で、静がさわやかに言う。
「オクタヘドロン謹製、吸血鬼御用達キラートマトのトマトジュース。結構高かったんだよ?」
ぶほぁっ!
正体を聞いて、サフィーは盛大に口の中のものを噴き出す。ごほごほとむせながら、静に抗議の声を上げる。
「ちょっとアンタ!なんてもん飲ませんのよ!?吸血鬼が血以外ダメなんて、常識でしょうが!?」
その言葉を聞いて、静は頷きながら、言う。
「そうか。こっちの世界の吸血鬼は、本来そう言うものなのか。と言うことはやっぱり…」
「…な、なによ?」
「落ち着いて、聞いてほしい」
静は真面目な顔になり、サフィーに言う。
「君は、ウィザードに“なった”」
「…はあ?」
静の口から出た言葉に、思わず聞き返す。それを無視して、静は窓へと近づく。
「ちょっとアンタ!なんてもん飲ませんのよ!?吸血鬼が血以外ダメなんて、常識でしょうが!?」
その言葉を聞いて、静は頷きながら、言う。
「そうか。こっちの世界の吸血鬼は、本来そう言うものなのか。と言うことはやっぱり…」
「…な、なによ?」
「落ち着いて、聞いてほしい」
静は真面目な顔になり、サフィーに言う。
「君は、ウィザードに“なった”」
「…はあ?」
静の口から出た言葉に、思わず聞き返す。それを無視して、静は窓へと近づく。
「今の君は、本来のこの世界の吸血鬼からはかけ離れた存在なんだ」
そう言いながら、静はカーテンを開け放つ。まだまだ夏の名残の残る日差しが部屋に差し込む。
「ちょっと!何考えてんのよ!吸血鬼の弱点くらい知って…!?」
とっさに布団でその日差しを遮ろうとしてサフィーは気づく。
嫌悪感、吐き気、眩暈、皮膚の痛み。太陽光を浴びた吸血鬼が当然感じるもの。それが一切無いことに。
「朝、君は差し込んだ日差しに気づかずに眠っていた。だから、もしかしたらと思っていたんだけど…」
明るさを増した部屋で静は言う。
「詳しい話は、外でしよう。着替えが終わったら言ってくれ」
ぼ~ぜんとするサフィーのすぐ近くに服を置き、静は外へと出て行く。
「何が、どうなってんのよ…」
一方のサフィーはいまだにぼ~ぜんとしていた。500年の間培ってきた吸血鬼の“常識”が通用しなくなった、自らの身体に。
そう言いながら、静はカーテンを開け放つ。まだまだ夏の名残の残る日差しが部屋に差し込む。
「ちょっと!何考えてんのよ!吸血鬼の弱点くらい知って…!?」
とっさに布団でその日差しを遮ろうとしてサフィーは気づく。
嫌悪感、吐き気、眩暈、皮膚の痛み。太陽光を浴びた吸血鬼が当然感じるもの。それが一切無いことに。
「朝、君は差し込んだ日差しに気づかずに眠っていた。だから、もしかしたらと思っていたんだけど…」
明るさを増した部屋で静は言う。
「詳しい話は、外でしよう。着替えが終わったら言ってくれ」
ぼ~ぜんとするサフィーのすぐ近くに服を置き、静は外へと出て行く。
「何が、どうなってんのよ…」
一方のサフィーはいまだにぼ~ぜんとしていた。500年の間培ってきた吸血鬼の“常識”が通用しなくなった、自らの身体に。
*
話はまたもや少しだけさかのぼる。
キーンコーンカーンコーン…
ホームルームの合図であるチャイムを、飯波高校1年2組担任、倉地香は不機嫌な様子で聞いていた。
「いい度胸してるじゃない…」
獲物を前にした女豹。今の倉地の表情を評するならそんな感じだろう。
その表情を見守る生徒たちの表情はきっちり2種類に分かれていた。
「いい度胸してるじゃない…」
獲物を前にした女豹。今の倉地の表情を評するならそんな感じだろう。
その表情を見守る生徒たちの表情はきっちり2種類に分かれていた。
怒りをあらわにする飯波高校の女帝に恐れおののくのが1人を除いた女子と一部の男子
普段は見せない表情をする飯波高校の女神の表情にときめいているのが1人を除いた男子と一部の女子
普段は見せない表情をする飯波高校の女神の表情にときめいているのが1人を除いた男子と一部の女子
飯波高校最強の称号は伊達ではないのだ。
「いや~初日から遅刻とは、留学生もなかなかにやりますね~」
そんな倉地に気安く話しかけるのは、このクラスでただ1人倉地を恐れも崇拝もしていない女子。
ちょっとだけ茶色がかったおかっぱ頭に青いリボン。可愛い感じだが、分厚いぐるぐるメガネがすべてを台無しにしている。
「いや~最近は面白い記事になりそうな話も手に入らなくて、ネタ切れ気味なんですよ。例の吸血鬼と狼男の目撃情報もなかなか集まらなくて。
お姉ちゃんも探してるんですけどなかなか…ああ、そう言えばお姉ちゃんと言えば、3年生の方の留学生は今日はお休みらしいですよ。
なんでも風邪をひいたとかどうとかで」
「吸血鬼と狼男、ねえ…」
ミニ三石ちゃんと呼ばれた少女の言う組み合わせに倉地は遠い目をする。
3年前、色々あって吸血鬼の少女と結婚した元同級生と、つい半年前、卒業間際に学校を去って行った狼男の教え子(出席日数は足りてたので無事卒業と言う事になった)
2人とも、今では良い思い出だ。
「も~~~~。そんな遠い目をしてないで、今のうちに留学生のこと、教えてくださいよ。新聞部として、是非とも取材しなくちゃなんないんですから!」
いつの間にかメモ帳とペンを手にした少女が思い出ぽろぽろモードに入っていた倉地を現実に引き戻す。
それに倉地は少し困ったように答える。
「私も実は留学生のことはよく知らないのよ」
2学期早々、突然降ってわいた留学話。だが、留学生を受け入れるこのクラスの担任である倉地も東京の方の私立の学校で、
地方の学校との交流がどうとかで1ヶ月の短期留学生が来るとしか聞いていなかった。
「一応3年生の方がイギリス人の男の子で、このクラスに来るのが日本人の女の子らしいんだけど…まあ、初日から遅刻するなんて、いい度胸としか言えないわね」
そう、留学生だ。自分で言って再び怒りが再発する。そもそも今日はさっさと留学生に自己紹介してもらって、ホームルームを終了する予定だったのだ。
「う…ま、まあ遅刻ならすぐ来ますよってほら!廊下を走る音も聞こえてきました!」
怒りゲージマックスでオーラだか気だかをまき散らす倉地にさすがの少女も引き攣りながら答える。そして、少女の言葉に、クラスの皆も気づく。
廊下を爆走する、足音。遅刻、遅刻~と叫ぶ声も聞こえる。
足音が教室まで近づき、遠ざかって…通り過ぎたことに気づいて再び戻ってくる。
「いや~初日から遅刻とは、留学生もなかなかにやりますね~」
そんな倉地に気安く話しかけるのは、このクラスでただ1人倉地を恐れも崇拝もしていない女子。
ちょっとだけ茶色がかったおかっぱ頭に青いリボン。可愛い感じだが、分厚いぐるぐるメガネがすべてを台無しにしている。
「いや~最近は面白い記事になりそうな話も手に入らなくて、ネタ切れ気味なんですよ。例の吸血鬼と狼男の目撃情報もなかなか集まらなくて。
お姉ちゃんも探してるんですけどなかなか…ああ、そう言えばお姉ちゃんと言えば、3年生の方の留学生は今日はお休みらしいですよ。
なんでも風邪をひいたとかどうとかで」
「吸血鬼と狼男、ねえ…」
ミニ三石ちゃんと呼ばれた少女の言う組み合わせに倉地は遠い目をする。
3年前、色々あって吸血鬼の少女と結婚した元同級生と、つい半年前、卒業間際に学校を去って行った狼男の教え子(出席日数は足りてたので無事卒業と言う事になった)
2人とも、今では良い思い出だ。
「も~~~~。そんな遠い目をしてないで、今のうちに留学生のこと、教えてくださいよ。新聞部として、是非とも取材しなくちゃなんないんですから!」
いつの間にかメモ帳とペンを手にした少女が思い出ぽろぽろモードに入っていた倉地を現実に引き戻す。
それに倉地は少し困ったように答える。
「私も実は留学生のことはよく知らないのよ」
2学期早々、突然降ってわいた留学話。だが、留学生を受け入れるこのクラスの担任である倉地も東京の方の私立の学校で、
地方の学校との交流がどうとかで1ヶ月の短期留学生が来るとしか聞いていなかった。
「一応3年生の方がイギリス人の男の子で、このクラスに来るのが日本人の女の子らしいんだけど…まあ、初日から遅刻するなんて、いい度胸としか言えないわね」
そう、留学生だ。自分で言って再び怒りが再発する。そもそも今日はさっさと留学生に自己紹介してもらって、ホームルームを終了する予定だったのだ。
「う…ま、まあ遅刻ならすぐ来ますよってほら!廊下を走る音も聞こえてきました!」
怒りゲージマックスでオーラだか気だかをまき散らす倉地にさすがの少女も引き攣りながら答える。そして、少女の言葉に、クラスの皆も気づく。
廊下を爆走する、足音。遅刻、遅刻~と叫ぶ声も聞こえる。
足音が教室まで近づき、遠ざかって…通り過ぎたことに気づいて再び戻ってくる。
ガラッ!ピシャン!
勢いよく教室のドアが開けられ、一人の活発そうな、ショートカットの少女が入ってくる。
「おはよー!おはよー!みんなおはよー!…あれ?」
笑顔で少女はいつものように挨拶して…あっけにとられるまるで見たことのない顔ぶれに固まる。
「すいません。間違えました」
ガラガラガラ…ピシャン。ドアが再び何事も無かったかのように閉じられ
「って、留学生なんだから見たこと無いのは当たり前でしょ~が!」
自己突っ込みと共に再び扉が開けられる。
「すいません!寝坊しました!」
とりあえず、教壇の前に立つ、倉地に頭を下げる。
高校生なら誰しも1度は使ったことのある、定番のセリフ。だが、留学初日で使うのは珍しいだろう。
「そ、そう。とりあえず自己紹介してちょうだい。時間も無いから手短にね」
少女のハイテンションに気圧され、毒気を抜かれた倉地がとりあえずとばかりに挨拶を促す。
「はい!分かりました!」
その言葉を聞いて、少女は生徒の方に向きなおる。
「東京の輝明学園から来ました、要いのりです!ど~ぞよろしくお願いします!」
そう言ってクラスの同級生たちに頭を下げた瞬間
「おはよー!おはよー!みんなおはよー!…あれ?」
笑顔で少女はいつものように挨拶して…あっけにとられるまるで見たことのない顔ぶれに固まる。
「すいません。間違えました」
ガラガラガラ…ピシャン。ドアが再び何事も無かったかのように閉じられ
「って、留学生なんだから見たこと無いのは当たり前でしょ~が!」
自己突っ込みと共に再び扉が開けられる。
「すいません!寝坊しました!」
とりあえず、教壇の前に立つ、倉地に頭を下げる。
高校生なら誰しも1度は使ったことのある、定番のセリフ。だが、留学初日で使うのは珍しいだろう。
「そ、そう。とりあえず自己紹介してちょうだい。時間も無いから手短にね」
少女のハイテンションに気圧され、毒気を抜かれた倉地がとりあえずとばかりに挨拶を促す。
「はい!分かりました!」
その言葉を聞いて、少女は生徒の方に向きなおる。
「東京の輝明学園から来ました、要いのりです!ど~ぞよろしくお願いします!」
そう言ってクラスの同級生たちに頭を下げた瞬間
キーンコーンカーンコーン…
絶妙のタイミングでホームルーム終了のチャイムが鳴り響いた。
*
普段幼馴染を起こしに行ってるだけあって、要いのりは本来寝坊をするタイプでは無い。
昨日は大変だったのだ。夜の街の見回りで静が見つけた、吸血鬼の少女。
ファイアワークスに運ばせて、お風呂場で血を洗い流し、静のワイシャツを着せて寝かしつけ、少女の服を洗い、破れたところを繕う。
結局寝れたのは日付もすっかり変わってからだった。
元々姉と違って夜更かしすることも無く、エスカレーター式で受験勉強の必要もなかったいのりにとっては未知の領域。
疲れきって泥のように眠り、目を覚ましたときにはすっかりデッドラインだったのも仕方のないことなのだ。
だが、まさかそんなことを言うわけにもいかず、授業後みっちり絞られたいのりは、すでに心身ともにボロボロだった。
昨日は大変だったのだ。夜の街の見回りで静が見つけた、吸血鬼の少女。
ファイアワークスに運ばせて、お風呂場で血を洗い流し、静のワイシャツを着せて寝かしつけ、少女の服を洗い、破れたところを繕う。
結局寝れたのは日付もすっかり変わってからだった。
元々姉と違って夜更かしすることも無く、エスカレーター式で受験勉強の必要もなかったいのりにとっては未知の領域。
疲れきって泥のように眠り、目を覚ましたときにはすっかりデッドラインだったのも仕方のないことなのだ。
だが、まさかそんなことを言うわけにもいかず、授業後みっちり絞られたいのりは、すでに心身ともにボロボロだった。
「うう…あたしも休んどけばよかった…」
吸血鬼の少女の様子を見るからと、1人アパートに残ることにした静がうらめしい。
吸血鬼の少女の様子を見るからと、1人アパートに残ることにした静がうらめしい。
ぐうううう~
いのりの腹の虫が歌い出す。そう言えば急いでいたため朝ごはんも食べていなかった。
「ご飯、ご飯~」
そんなことを呟きながら立ち上がり…
「って、学食も購買も場所知らないよ…」
がっくりと座り込む。探しに行く気力も残って無い。
「要さん、か~な~めさん」
そんな時だった。椅子にがっくり座りこんだいのりに声が掛けられたのは。
「んあ?」
いのりは声のした方を見る。
「どうも~」
そこにいたのはぐるぐるメガネで茶髪なおかっぱの少女だった。
「えっと、何かよう?」
空腹と疲れから、おざなりにいのりは聞き返す。
「ええ。実は倉地先生からよろしく頼まれまして。学食に一緒に行きませんか?」
「え、マジ!?行く行く!」
思わず立ち上がり、目の前の少女の手を取る。
「…で、え~と…」
「あ、申し遅れました」
そう言うと少女は制服のポケットから名刺を取り出す。ゲーセンで作れる奴だ。
『新聞部記者1年2組 三石春美』
「三石ちゃんだとお姉ちゃんと紛らわしいので、春美ちゃんって呼んでください」
「分かった。春美ちゃんだね。よろしく~!それとあたしもいのりでいいよ」
手を握ったまま、いのりがにこやかに言う。
「はい。こちらこそ。では、学食に行きましょうか」
そう答える春美の顔はまるで天使のように、いのりには見えた。
「いや~あんがとね。学食の場所教えてもらえなかったら、午後もすきっ腹抱えてるところだったよ」
すっかり空になった大盛りのどんぶりをテーブルに置き、満足気な表情でいのりは春美に礼を言う。
「いえいえ。私としてもいのりさんとは今のうちに接触しておきたかったんでちょうどよかったです」
「接触?ど~ゆ~こと?」
いのりはきょとんとして聞き返す。
「ええ…実は今度の新聞に是非とも東京からやってきた留学生のお話を載せたいと思いまして。
聞いて来いと編集長…部長から言われているんですよ」
「ああ、なるほどね。そう言えば、新聞部なんだっけ」
春美の新聞と言う言葉に、いのりは納得する。
「いいよ。学食に連れてきてもらったお礼もかねて、何でも聞いて!」
どんと、薄い胸を叩いていのりは言う。
「じゃあ、さっそく質問させてもらいますね…」
その瞬間、春美愛用のぐるぐるメガネがキラリと輝いた。
「ご飯、ご飯~」
そんなことを呟きながら立ち上がり…
「って、学食も購買も場所知らないよ…」
がっくりと座り込む。探しに行く気力も残って無い。
「要さん、か~な~めさん」
そんな時だった。椅子にがっくり座りこんだいのりに声が掛けられたのは。
「んあ?」
いのりは声のした方を見る。
「どうも~」
そこにいたのはぐるぐるメガネで茶髪なおかっぱの少女だった。
「えっと、何かよう?」
空腹と疲れから、おざなりにいのりは聞き返す。
「ええ。実は倉地先生からよろしく頼まれまして。学食に一緒に行きませんか?」
「え、マジ!?行く行く!」
思わず立ち上がり、目の前の少女の手を取る。
「…で、え~と…」
「あ、申し遅れました」
そう言うと少女は制服のポケットから名刺を取り出す。ゲーセンで作れる奴だ。
『新聞部記者1年2組 三石春美』
「三石ちゃんだとお姉ちゃんと紛らわしいので、春美ちゃんって呼んでください」
「分かった。春美ちゃんだね。よろしく~!それとあたしもいのりでいいよ」
手を握ったまま、いのりがにこやかに言う。
「はい。こちらこそ。では、学食に行きましょうか」
そう答える春美の顔はまるで天使のように、いのりには見えた。
「いや~あんがとね。学食の場所教えてもらえなかったら、午後もすきっ腹抱えてるところだったよ」
すっかり空になった大盛りのどんぶりをテーブルに置き、満足気な表情でいのりは春美に礼を言う。
「いえいえ。私としてもいのりさんとは今のうちに接触しておきたかったんでちょうどよかったです」
「接触?ど~ゆ~こと?」
いのりはきょとんとして聞き返す。
「ええ…実は今度の新聞に是非とも東京からやってきた留学生のお話を載せたいと思いまして。
聞いて来いと編集長…部長から言われているんですよ」
「ああ、なるほどね。そう言えば、新聞部なんだっけ」
春美の新聞と言う言葉に、いのりは納得する。
「いいよ。学食に連れてきてもらったお礼もかねて、何でも聞いて!」
どんと、薄い胸を叩いていのりは言う。
「じゃあ、さっそく質問させてもらいますね…」
その瞬間、春美愛用のぐるぐるメガネがキラリと輝いた。
…そう、いのりは知らなかった。飯波高校の生徒の間ではよく知られたこと。
不思議研の三石ちゃんと新聞部の三石ちゃん、通称三石ちゃん姉妹に関わってはならないと。
その事をいのりが身を持って知るのに、そう、時間はかからなかった…
不思議研の三石ちゃんと新聞部の三石ちゃん、通称三石ちゃん姉妹に関わってはならないと。
その事をいのりが身を持って知るのに、そう、時間はかからなかった…