女の方は赤くてふわふわした髪を2つにまとめた、愛らしい少女。ちょっぴり古風なクリーム色の服が可愛らしい。
整った、ちょっと青白い顔は、今は不機嫌そうにむくれている。
飯波市では滅多にお目にかかれない2人に、店内の客は何事かと遠巻きにしながら見ていた。
「じゃあ、僕はミックスサンドとストレートティーを。サフィーちゃんは?」
「…任せるでしゅ」
「では、チョコレートケーキと、カフェオレを」
オーダーを済ませ、静はサフィーに向きなおる。
「さて、これで納得してもらえたかな?」
「…分かったわよ。アタシの負け。とりあえず、アンタの言うこと、少しは信じてあげるわ」
静の言葉に溜息をひとつついて、サファイアが答えた。
整った、ちょっと青白い顔は、今は不機嫌そうにむくれている。
飯波市では滅多にお目にかかれない2人に、店内の客は何事かと遠巻きにしながら見ていた。
「じゃあ、僕はミックスサンドとストレートティーを。サフィーちゃんは?」
「…任せるでしゅ」
「では、チョコレートケーキと、カフェオレを」
オーダーを済ませ、静はサフィーに向きなおる。
「さて、これで納得してもらえたかな?」
「…分かったわよ。アタシの負け。とりあえず、アンタの言うこと、少しは信じてあげるわ」
静の言葉に溜息をひとつついて、サファイアが答えた。
あの後、静はぼ~ぜんとするサフィーを連れ、街へと出た。サフィーの替えの服と細々とした生活用品を買い求め、ついでとばかりに商店街を歩きまわったのだ。
おかげで飯波商店街では『翠の髪のお兄ちゃんと赤い髪の妹の美形外人さん兄妹』の噂は瞬く間に広がった。
サフィーとしてもその事で、認めざるをえなくなった。真昼間の街中を平気で歩き回れる自分が、今までとは一味もふた味も違うと言う事を。
おかげで飯波商店街では『翠の髪のお兄ちゃんと赤い髪の妹の美形外人さん兄妹』の噂は瞬く間に広がった。
サフィーとしてもその事で、認めざるをえなくなった。真昼間の街中を平気で歩き回れる自分が、今までとは一味もふた味も違うと言う事を。
「良かった。なかなか納得してくれないから、苦労したよ」
「当たり前でしょ。こっちは500年吸血鬼として生きてんのよ?今さらウィザ…?」
「ウィザード?」
「そうそれ。ウィザードになりましたとか言われても納得いくわけないでしょ。しかも、アンタが原因で」
不機嫌そうな表情のまま、サフィーは言う。
「う~~~ん。それに関しては僕だけの責任にされても困るんだけど。むしろ原因は君だろう?」
それに静は無駄にさわやかに言い返した。
「当たり前でしょ。こっちは500年吸血鬼として生きてんのよ?今さらウィザ…?」
「ウィザード?」
「そうそれ。ウィザードになりましたとか言われても納得いくわけないでしょ。しかも、アンタが原因で」
不機嫌そうな表情のまま、サフィーは言う。
「う~~~ん。それに関しては僕だけの責任にされても困るんだけど。むしろ原因は君だろう?」
それに静は無駄にさわやかに言い返した。
『ウィザードの血を吸ったことにより、その力の一部も一緒に吸収し、結果ウィザードとして覚醒したのではないか?』
ファー・ジ・アースの吸血鬼の中にも自らの血を分け与えることで人間を吸血鬼にすることができるものがいる。
ならば逆にウィザードの血を吸った吸血鬼がウィザードになることがあってもおかしくは無い。
それがこの現象に対する静なりの結論であり、サフィーへと説明した理由だった。
ファー・ジ・アースの吸血鬼の中にも自らの血を分け与えることで人間を吸血鬼にすることができるものがいる。
ならば逆にウィザードの血を吸った吸血鬼がウィザードになることがあってもおかしくは無い。
それがこの現象に対する静なりの結論であり、サフィーへと説明した理由だった。
「なんにせよ、君は確かに“ウィザード”になった。吸血鬼の常識を超えて人間のように暮らせるし、魔法を使うことだってできる」
静が断言する。
「魔法?」
その言葉にピクリ、とサフィーが反応する。
「ああ、ウィザード、つまりは魔法使いだからね。魔法使いなら、魔法を使えても、おかしくないだろう?」
「それもそうね。で、ウィザードってのはどんな魔法が使えるの?」
とりあえず、ウィザードのことを知らないと始まらない。そう判断したサフィーが静に聞く。
「うん。じゃあまずは、ウィザードなら全員できる事柄から説明するよ」
そう言うと、静は集中を始める。
「なにこれ!?」
サフィーは辺りを見渡す。サフィーの吸血鬼の感覚は急にあたりの空気が変わったことを鋭敏に感じ取っていた。
目には見えない、だが確かな変化。サフィーの他には誰一人この変化に気づいていないらしく、他の客は気にも留めていない。
「…これが“月匣”だ。効果は、まあ、分かりやすく言うと、自分が好きにルールを決める、結界のようなものかな?」
「どういう意味?」
「ああ、それはね…」
「お待たせしました」
静が説明しようとしたところで、マスターが注文した品を持ってくる。
「…ちょうどいい、実演してみせるよ」
そう言うと静は虚空へと手をやる。何かをつかむ手つきをしたあと、すっと引く。その手には、1冊の本が握られていた。
「え!?あれ?」
その事にサフィーは混乱する。一見すると手品のようにも見えるが、種も仕掛けもまったく分からない。
どう見ても、何も無いところから取り出したように見えた。
「では、ごゆっくり」
対するマスターはそれを気にとめた様子も無く、注文された品を並べ終えて、奥へと戻って行く。
「今、僕は月匣のルールを“目の前で何か変なことが起こってもそれが変だと思わない”と設定したんだ。
この月匣の中にいる人たちは、僕の決めたルールに従わなくちゃいけない。ウィザードには効かないけどね」
「それより今…」
さらに質問をしようとするサフィーを手で制して静は更に続ける。
「で、本を取り出したのが“月衣”と言って、ウィザードに備わった個人用の結界。
これには魔法を帯びていない攻撃を遮断する効果と、もうひとつ、ある程度までものを収納しておいて好きな時に取り出せると言う能力だ。
この2つが、ウィザードなら誰でもできること、かな」
一通り説明を終え、静はお茶を飲み出す。
「…あんがと。大体分かったわ」
対するサフィーは今までの情報を整理しながら、恐る恐るケーキに手をつける。ひとかけらを切り取って口元まで運び、手が止まる。
サフィーの脳裏に、ずっと昔、吸血鬼になって間もない頃、試しに食べてみようとして、吐き出した記憶がふとよぎる。
だが、まずは確認しないと始まらない。サフィーは意を決して口の中にケーキを放り込む。
甘くて、おいしかった。人間の血液じゃないのに。普通の吸血鬼じゃなくなった。その事実がサフィーに改めてのしかかった。
静が断言する。
「魔法?」
その言葉にピクリ、とサフィーが反応する。
「ああ、ウィザード、つまりは魔法使いだからね。魔法使いなら、魔法を使えても、おかしくないだろう?」
「それもそうね。で、ウィザードってのはどんな魔法が使えるの?」
とりあえず、ウィザードのことを知らないと始まらない。そう判断したサフィーが静に聞く。
「うん。じゃあまずは、ウィザードなら全員できる事柄から説明するよ」
そう言うと、静は集中を始める。
「なにこれ!?」
サフィーは辺りを見渡す。サフィーの吸血鬼の感覚は急にあたりの空気が変わったことを鋭敏に感じ取っていた。
目には見えない、だが確かな変化。サフィーの他には誰一人この変化に気づいていないらしく、他の客は気にも留めていない。
「…これが“月匣”だ。効果は、まあ、分かりやすく言うと、自分が好きにルールを決める、結界のようなものかな?」
「どういう意味?」
「ああ、それはね…」
「お待たせしました」
静が説明しようとしたところで、マスターが注文した品を持ってくる。
「…ちょうどいい、実演してみせるよ」
そう言うと静は虚空へと手をやる。何かをつかむ手つきをしたあと、すっと引く。その手には、1冊の本が握られていた。
「え!?あれ?」
その事にサフィーは混乱する。一見すると手品のようにも見えるが、種も仕掛けもまったく分からない。
どう見ても、何も無いところから取り出したように見えた。
「では、ごゆっくり」
対するマスターはそれを気にとめた様子も無く、注文された品を並べ終えて、奥へと戻って行く。
「今、僕は月匣のルールを“目の前で何か変なことが起こってもそれが変だと思わない”と設定したんだ。
この月匣の中にいる人たちは、僕の決めたルールに従わなくちゃいけない。ウィザードには効かないけどね」
「それより今…」
さらに質問をしようとするサフィーを手で制して静は更に続ける。
「で、本を取り出したのが“月衣”と言って、ウィザードに備わった個人用の結界。
これには魔法を帯びていない攻撃を遮断する効果と、もうひとつ、ある程度までものを収納しておいて好きな時に取り出せると言う能力だ。
この2つが、ウィザードなら誰でもできること、かな」
一通り説明を終え、静はお茶を飲み出す。
「…あんがと。大体分かったわ」
対するサフィーは今までの情報を整理しながら、恐る恐るケーキに手をつける。ひとかけらを切り取って口元まで運び、手が止まる。
サフィーの脳裏に、ずっと昔、吸血鬼になって間もない頃、試しに食べてみようとして、吐き出した記憶がふとよぎる。
だが、まずは確認しないと始まらない。サフィーは意を決して口の中にケーキを放り込む。
甘くて、おいしかった。人間の血液じゃないのに。普通の吸血鬼じゃなくなった。その事実がサフィーに改めてのしかかった。
*
「…ところでさっき、ウィザードなら誰でもできることは2つだって言ってたわよね?」
2人が各々食べ終えたのち、サフィーが静に質問する。
「うん。そうだよ。で、それが何か?」
「じゃあ、全員が使えない魔法ってのもあるの?」
「ああ、それか…」
サフィーの疑問を聞いて、静はテーブルの上に先ほど取り出した本を広げる。その本にはびっしりと、文章が記されていた。
「これは、魔導書。僕が使える魔法を書いてある」
「ずいぶんあるのね」
魔導書をパラパラとめくりながらサフィーが言う。英語で書かれたその本には、様々な魔法の効果や名前が記されていた。
「ああ、僕はウィザードの中でも魔法を専門に扱う、魔術師だからね。当然使える魔法も多いんだ」
「魔法を専門に扱う魔術師?ウィザードの中にも魔法が得意な奴と苦手な奴がいるってこと?」
「理解が速くて助かるよ。その通り。たとえば、僕の仲間のいのり君は、魔法は簡単なものをちょっと使えるくらいだ。
その代わり、魔物使いとして強力な魔物を自在に操って戦うことができる。対する僕は、身体能力は普通の人間とあんまり変わらない。
まあ、魔法が苦手なウィザードは大体身体能力がものすごく優れているか、強力な特殊能力を持っているかするのが普通だね」
「なるほどね…」
静の話を、サフィーは整理する。そして湧いてきた疑問を静に聞く。
「…じゃあ、アタシはどうなの?吸血鬼だから、体力には割と自信あるけど、武器の扱いとかは知らないわよ?」
7歳の頃に吸血鬼化して成長の止まったサフィーの体格では、普通の武器の類を扱うのは難しい。
そのため昔からサフィーは不可視の力と呼ばれる超能力の方を多用していた。
「う~ん。元々吸血鬼は魔法も肉弾戦も大丈夫なクラスだったと思うけど…君は、魔法の方が向いてると思うよ」
そう言いながら静は魔導書を開き、そのページを指し、言う。
「僕の見立てでは、君の属性は冥と虚。冥の魔法は僕は使えないから持ってきてないけど、僕にも扱える虚の魔法は色々持って来ている。
これは制御がちょっと難しいんだけど、それだけに威力と命中率は折り紙つきな、攻撃用の魔法だよ」
「ふ~~~ん。で、これがなんなの?」
「うん。君に覚えてもらおうと思って」
「そう、覚えるてらもらおう…って、魔法って普通もっと勉強とかするもんじゃないの?」
あっさりと言い放った静にサフィー怪訝そうに聞く。
「ああ、これは魔装だからね。覚えようと思えば、すぐに覚えられるよ」
魔装とは、半年前の世界結界の弱体化以降に編み出された、新たな魔法の使い方である。
事前に覚えておくことで今までの詠唱中無防備になると言う弱点が無い代わりに、魔法力と行動力に制限を受けると言う代物である。
「…そう。よく分からないけど、とにかく簡単に覚えられるってんなら、ありがたいわ。で、覚えるにはどうすればいいの?」
「へえ。よく分からないなら、嫌がるかなと思ったんだけど?」
サフィーの言葉に、静は少し驚いたように言う。説明を受けたばかりの、覚醒したてのウィザードならもっと混乱しているのが普通だ。
こんなに落ち着いているのは、珍しかった。
2人が各々食べ終えたのち、サフィーが静に質問する。
「うん。そうだよ。で、それが何か?」
「じゃあ、全員が使えない魔法ってのもあるの?」
「ああ、それか…」
サフィーの疑問を聞いて、静はテーブルの上に先ほど取り出した本を広げる。その本にはびっしりと、文章が記されていた。
「これは、魔導書。僕が使える魔法を書いてある」
「ずいぶんあるのね」
魔導書をパラパラとめくりながらサフィーが言う。英語で書かれたその本には、様々な魔法の効果や名前が記されていた。
「ああ、僕はウィザードの中でも魔法を専門に扱う、魔術師だからね。当然使える魔法も多いんだ」
「魔法を専門に扱う魔術師?ウィザードの中にも魔法が得意な奴と苦手な奴がいるってこと?」
「理解が速くて助かるよ。その通り。たとえば、僕の仲間のいのり君は、魔法は簡単なものをちょっと使えるくらいだ。
その代わり、魔物使いとして強力な魔物を自在に操って戦うことができる。対する僕は、身体能力は普通の人間とあんまり変わらない。
まあ、魔法が苦手なウィザードは大体身体能力がものすごく優れているか、強力な特殊能力を持っているかするのが普通だね」
「なるほどね…」
静の話を、サフィーは整理する。そして湧いてきた疑問を静に聞く。
「…じゃあ、アタシはどうなの?吸血鬼だから、体力には割と自信あるけど、武器の扱いとかは知らないわよ?」
7歳の頃に吸血鬼化して成長の止まったサフィーの体格では、普通の武器の類を扱うのは難しい。
そのため昔からサフィーは不可視の力と呼ばれる超能力の方を多用していた。
「う~ん。元々吸血鬼は魔法も肉弾戦も大丈夫なクラスだったと思うけど…君は、魔法の方が向いてると思うよ」
そう言いながら静は魔導書を開き、そのページを指し、言う。
「僕の見立てでは、君の属性は冥と虚。冥の魔法は僕は使えないから持ってきてないけど、僕にも扱える虚の魔法は色々持って来ている。
これは制御がちょっと難しいんだけど、それだけに威力と命中率は折り紙つきな、攻撃用の魔法だよ」
「ふ~~~ん。で、これがなんなの?」
「うん。君に覚えてもらおうと思って」
「そう、覚えるてらもらおう…って、魔法って普通もっと勉強とかするもんじゃないの?」
あっさりと言い放った静にサフィー怪訝そうに聞く。
「ああ、これは魔装だからね。覚えようと思えば、すぐに覚えられるよ」
魔装とは、半年前の世界結界の弱体化以降に編み出された、新たな魔法の使い方である。
事前に覚えておくことで今までの詠唱中無防備になると言う弱点が無い代わりに、魔法力と行動力に制限を受けると言う代物である。
「…そう。よく分からないけど、とにかく簡単に覚えられるってんなら、ありがたいわ。で、覚えるにはどうすればいいの?」
「へえ。よく分からないなら、嫌がるかなと思ったんだけど?」
サフィーの言葉に、静は少し驚いたように言う。説明を受けたばかりの、覚醒したてのウィザードならもっと混乱しているのが普通だ。
こんなに落ち着いているのは、珍しかった。
「…まあ、相変わらずよく分からないのは確かだけど、強い武器ならば、持っておきたいの。アタシの敵は、強い奴だから」
静の言葉にサフィーはすまして答える。元々吸血鬼としての戦いの経験は豊富な彼女の勘が、今はこれを受け取っておくべきと判断していた。
サフィーの言葉に、静は一つ頷いて、言う。
「じゃあ、このページの上に手をおいて」
「これでいいの?」
静に促され、サフィーは右手を魔導書のページの上に乗せる。それを確認して、静が頷く。
「後は、集中。この魔法を覚えたいって、念じればいい」
静の言葉を受け、サフィーは念じる。魔法を、覚えたいと。
変化はすぐに訪れた。頭の片隅に、呪文のようなものが流れ込んでくる。
「よし。これで完了だ」
「そう。じゃあ、これでこの魔法が使えるようになったってこと?」
「そうなるね。まあ、使う前に起動しないといけないけど」
静が再び月衣に魔導書をしまいこみながら、言った。
静の言葉にサフィーはすまして答える。元々吸血鬼としての戦いの経験は豊富な彼女の勘が、今はこれを受け取っておくべきと判断していた。
サフィーの言葉に、静は一つ頷いて、言う。
「じゃあ、このページの上に手をおいて」
「これでいいの?」
静に促され、サフィーは右手を魔導書のページの上に乗せる。それを確認して、静が頷く。
「後は、集中。この魔法を覚えたいって、念じればいい」
静の言葉を受け、サフィーは念じる。魔法を、覚えたいと。
変化はすぐに訪れた。頭の片隅に、呪文のようなものが流れ込んでくる。
「よし。これで完了だ」
「そう。じゃあ、これでこの魔法が使えるようになったってこと?」
「そうなるね。まあ、使う前に起動しないといけないけど」
静が再び月衣に魔導書をしまいこみながら、言った。
「さて、こっちの説明も済んだことだし、今度は君のことを聞かせてほしいな。特に、昨日何があったのか」
魔法を覚える簡易儀式が済んだところで、静がサフィーに尋ねる。
「分かったわ。話してあげる。と、その前に、1つ、確認しておきたいことがあるの」
「なんだい?」
「あんたの知ってる魔法の中に…黒い、球みたいのをぶつける魔法って無い?」
昨日の戦いの記憶を掘り起こしながら、サフィーは静に尋ねる。
「うん?それなら《ヴォーテックス》って言う、冥の魔法がそんな感じだね」
「…そ。ありがと」
やっぱり、とサフィーは心の中で思う。
死んだはずの吸血鬼が蘇り、本来は使えないはずの魔法を使っている。それが意味することは…
そんなことを考えながら、サフィーが話し出す。
「昨日、アタシを殺しかけた奴の名前は、ドクターアラキ。6年前に死んだはずの、吸血鬼よ」
死んだはず、その言葉を特に強調する。
「本来ならありえない。あいつは完全に土に還ったもの。そうなった吸血鬼が蘇ったなんて話、今まで聞いたことも無いわ。
…この世界の“常識”ではね」
「…それで、そのアラキと言う男もウィザード化したと?」
サフィーの言わんことを正確につかみ、静がたずねる。
「小説に出てくる吸血鬼なら、灰になったって蘇ってくるでしょ?それに、アンタの話が確かならアタシはアラキから《ヴォーテックス》を食らって、死にかけた」
「なるほどね…」
サフィーの言葉を聞き、静は考える。確かにファー・ジ・アースの吸血鬼の中には例え塵になっても蘇ってくる連中もいると言う話は静も聞いたことがあった。
だが、6年もの時間を経てから蘇る吸血鬼。それはむしろウィザードと言うよりも…
「サフィーちゃん。もう1つ教えてくれないかな?」
「何よ?」
「他に気づいたこと、特にアラキと遭遇したときのことで何か変わったことはなかったかな?」
「変わったこと?」
静の言いたいことが分からず、サフィーが怪訝そうな顔をする。
魔法を覚える簡易儀式が済んだところで、静がサフィーに尋ねる。
「分かったわ。話してあげる。と、その前に、1つ、確認しておきたいことがあるの」
「なんだい?」
「あんたの知ってる魔法の中に…黒い、球みたいのをぶつける魔法って無い?」
昨日の戦いの記憶を掘り起こしながら、サフィーは静に尋ねる。
「うん?それなら《ヴォーテックス》って言う、冥の魔法がそんな感じだね」
「…そ。ありがと」
やっぱり、とサフィーは心の中で思う。
死んだはずの吸血鬼が蘇り、本来は使えないはずの魔法を使っている。それが意味することは…
そんなことを考えながら、サフィーが話し出す。
「昨日、アタシを殺しかけた奴の名前は、ドクターアラキ。6年前に死んだはずの、吸血鬼よ」
死んだはず、その言葉を特に強調する。
「本来ならありえない。あいつは完全に土に還ったもの。そうなった吸血鬼が蘇ったなんて話、今まで聞いたことも無いわ。
…この世界の“常識”ではね」
「…それで、そのアラキと言う男もウィザード化したと?」
サフィーの言わんことを正確につかみ、静がたずねる。
「小説に出てくる吸血鬼なら、灰になったって蘇ってくるでしょ?それに、アンタの話が確かならアタシはアラキから《ヴォーテックス》を食らって、死にかけた」
「なるほどね…」
サフィーの言葉を聞き、静は考える。確かにファー・ジ・アースの吸血鬼の中には例え塵になっても蘇ってくる連中もいると言う話は静も聞いたことがあった。
だが、6年もの時間を経てから蘇る吸血鬼。それはむしろウィザードと言うよりも…
「サフィーちゃん。もう1つ教えてくれないかな?」
「何よ?」
「他に気づいたこと、特にアラキと遭遇したときのことで何か変わったことはなかったかな?」
「変わったこと?」
静の言いたいことが分からず、サフィーが怪訝そうな顔をする。
「そう、たとえば…空の月が紅かった、とかね」
サフィーの大きな目が驚きで見開かれる。それを見て静は確信する。サフィーが出会ったものの正体を。
「僕としたことがうっかりしていたよ。ウィザードについて、1つ大事なことを言い忘れてた」
ミスをしたと言うように、静がかぶりを振って、呟く。
「大事なこと?」
「そう、僕らがこの街に来た理由」
静が柔和な表情から一変して、引きしまった、マジな顔になる。
「僕ら、ウィザードが戦う力を持っているのはね、世界を侵略する敵と戦うためだ。そいつらの名は、エミュレイター。
詳しく話してる暇はなさそうだけど、1つだけ。エミュレイターが現れるときには…」
静の言葉にあわせるように、世界が紅く変貌する。
「…ちょっと待って!?何で月が出てるの!?今、まだ3時よ!?」
突然の変化に思わず外を見たサフィーが声を上げる。見れば店内にいたはずの客も店員もいつの間にか消えている。
「こんな風に紅い月が昇るんだ」
その変化にも動じず、静がサフィーに言う。
「どうやら向こうも僕らを放っておくつもりは無いらしいね」
言いながら静が立ち上がる。サフィーの方も察しって、黙って立ちあがる。
「早速だけど、魔法の使い方の実践編に行こうか。と言っても難しくは無い。使い方も、一緒に覚えたはずだ」
「本当なら、慣れるまで練習しておきたいところなんだけどね」
「残念だけど、今回の講師は気が短いみたいだよ」
ガラスが割れて、店内に何かが飛び込んでくる。2人はテーブルから離れ、背中あわせに立つ。
「…気が短いっつってもせめて外に出るまで待ちなさいっての」
「残念ながら、そう言う空気も読めないらしい。今回の講師は、人にものを教えるのには向いてないね」
軽口のたたき合い。お互いにすでに理解していた。背中を任せた相手は、お互いこの手の出来事には慣れっこだと。
「じゃあ、授業を始めようか」
そう、静が宣言すると同時に。
「僕としたことがうっかりしていたよ。ウィザードについて、1つ大事なことを言い忘れてた」
ミスをしたと言うように、静がかぶりを振って、呟く。
「大事なこと?」
「そう、僕らがこの街に来た理由」
静が柔和な表情から一変して、引きしまった、マジな顔になる。
「僕ら、ウィザードが戦う力を持っているのはね、世界を侵略する敵と戦うためだ。そいつらの名は、エミュレイター。
詳しく話してる暇はなさそうだけど、1つだけ。エミュレイターが現れるときには…」
静の言葉にあわせるように、世界が紅く変貌する。
「…ちょっと待って!?何で月が出てるの!?今、まだ3時よ!?」
突然の変化に思わず外を見たサフィーが声を上げる。見れば店内にいたはずの客も店員もいつの間にか消えている。
「こんな風に紅い月が昇るんだ」
その変化にも動じず、静がサフィーに言う。
「どうやら向こうも僕らを放っておくつもりは無いらしいね」
言いながら静が立ち上がる。サフィーの方も察しって、黙って立ちあがる。
「早速だけど、魔法の使い方の実践編に行こうか。と言っても難しくは無い。使い方も、一緒に覚えたはずだ」
「本当なら、慣れるまで練習しておきたいところなんだけどね」
「残念だけど、今回の講師は気が短いみたいだよ」
ガラスが割れて、店内に何かが飛び込んでくる。2人はテーブルから離れ、背中あわせに立つ。
「…気が短いっつってもせめて外に出るまで待ちなさいっての」
「残念ながら、そう言う空気も読めないらしい。今回の講師は、人にものを教えるのには向いてないね」
軽口のたたき合い。お互いにすでに理解していた。背中を任せた相手は、お互いこの手の出来事には慣れっこだと。
「じゃあ、授業を始めようか」
そう、静が宣言すると同時に。
ワォオオオオオオオオオオオオン!
それにこたえるように店に飛び込んできた真っ赤な目の犬の群れが一斉に遠吠えをした。