ナイトウィザード!クロスSS超☆保管庫

第04話

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狂える犬の群れは威嚇するように唸り声を上げて2人を取り囲む。
「数はざっと…20頭ってところか。それと…」
静は冷静に敵を観察し、それを見つける。店の外で威圧するように2人を見つめる、子牛ほどもある黒い犬。
「あれが親玉ってところかしら?」
「恐らくは。多分こいつら10頭分より強いんだろうね」
状況確認終了。2人は各々戦闘体勢を取る。それを察知したのか、犬たちも身構える。
そして、戦いが始まった。

「まずはお手本だよ」
最初に行動するのは、静。魔法を完成させ、親玉を狙う。
「…《ヴォーティカルショット》」
静の魔法、見えざる虚無の弾丸が狼に襲いかかる。それは正確に相手をとらえ、その巨体を揺らす。

グルルルルル…

だが、さすがは群れの主と言ったところか、威嚇するように黒い犬が唸り声をあげる。
「う~ん。流石に一撃は無理か。ここで倒せれば終わりだったんだけどねえ」
「…ほんとに魔法が使えるのね」
そんな様子を見て、サフィーがしみじみと言う。
「魔術師だからね」
それににこやかな表情のまま、静は返した。
「やれやれ。敵の攻撃を受けるのは前衛の仕事なんだけどねえ」
「…つくづく常識の通用しない連中ね」
親玉の喉の奥に燻るものを見て、相手の意図を悟ったサフィーが肩をすくめる。
サフィーにも分かる。現実ではともかく、昔遊んだゲームなんかではお馴染みの能力だったから。

ゴアアアアアアアアアアアアアアアアアアア

そして、2人の予想通り、黒い犬の口から火炎の息が吐き出される。それは正確に2人へと向かう。
「残念。《プリズムアップ》」
だが、その衝撃波が2人に届くより早く、静が完成させた防御魔法がサフィーを包む。
防御魔法に守られたサフィーと、元々魔法攻撃に対して高い防御力を持つ静。この2人に炎はあっさりと阻まれる。

ウォオオオオオオオオオオオオオオン

炎は合図の意味もあったのだろう。2人が炎に包まれたのとほぼ同時に犬たちが一斉に襲い掛かる。
「静!あんたは自分の身を守りなさい!」
早速防御魔法を詠唱しはじめた静にサフィーが言う。
「いいのかい?」
一瞬詠唱を途切れさせた静に
「なめんじゃないわよ」
サフィーは鋭く返す。
「分かった。じゃあそうさせてもらうよ…《ディフェンスアップ》」
静の周りに現れた防御結界が狼たちの攻撃を阻む。それによって狼たちの爪や牙は静には届かない。
「くぅ…」
一方のサフィーはよけようともしない。噛みつかれ、爪を受けて痛みにわずかに顔を歪める。
だが、数々の修羅場をくぐってきた吸血鬼であるサフィーを止めるにはその程度では、足りない。
「お返しでしゅ!」
叫びと共に、サフィーの不可視の力が解放される。サフィーを中心として展開されたそれは、正確に犬だけを吹き飛ばす。
犬たちは床やテーブルに叩きつけられて、溶けるように消滅する。
「やるじゃないか」
「フン、この手の数で押してくるような連中には慣れっこなのよ」
強力な再生能力で受けた傷を急速にふさぎながら、サフィーが答えた。
「さて、後は…」
静が狼の方を見る。
炎が効かなかったのを見て、離れていては殺すことはできないと悟ったのだろう。狼はまっすぐにこちらへと突っ込んでくる。
牙の並ぶ大きな口を開け、2人をかみちぎろうと迫る。
「残念だけど、君はここまでだ」
それをつまらないTVでも見るようにしながら、静が宣言し、魔法を起動する。静の手に光が収束し、形を成す。
「…《リブレイド》」
そして、静の手から放たれた光の束が狼を貫き、絶命させた。

 *

「…まだ、終わりでは無いみたいだね」
戦いを終え、傷を受けたサフィーを治療しながら、静が空の紅い月を見て、言う。
「そうね…」
一方のサフィーはいつの間にか店の奥の席に座っていた、コートを着込み、目深に帽子を被った男の方を見る。
「サフィーちゃん、まだいける?」
「あんたの方こそ、へたれんじゃないわよ」
「きしししし…仲がいいねえ…」
お互いの状態を確認し合う2人を、コートの男は嘲笑う。
「2人ともやるじゃねえか。嬢ちゃんには挨拶だけにしとけって言われてるが…」
ゆらりと、男が立ち上がる。そして、ゆっくりと帽子を取る。
「あの連中仕留めそこなったせいで血が騒いでなんねえんだよ!」
その瞬間、男の立っていた場所には帽子のみが取り残される。
「くう!」
サフィーの左肩の肉をえぐり取られる。帽子が取れてあらわになったその男の顔は…
「…吸血鬼の次は人狼。後は人造人間でも出てきたらパーフェクトだね」
銀色の毛をした、狼だった。
「それにしても関心しないな。こういうときは、男から襲うもんじゃないかな?」
静を無視してサフィーに襲いかかった男に、静は問いかける。
人狼は、獰猛な笑みを浮かべてそれに答える。
「決まってんじゃねえか。野郎より女子供のが柔らかい分引き裂いたときに楽しいんだよ」
「なるほど、見た目通りのゲス野郎ってわけだ」
冷静に、だが確かな怒りを込めて、静が言う。
「へっ…褒め言葉と受け取っておくぜ。野生の狼はな、人間のくそみてえな道徳なんぞに縛られねえんだよ。
それよか、そこのガキの心配でもした方がいいんじゃねえか?俺の爪は、特別製だぜ?」
「くっ…また…」
男の言葉に、サフィーが肩口をおさえて顔を歪める。自らの身に起きた異変に気づいたのだ。
傷が塞がらない。あのときと、アラキから魔法を食らったときと同様に。
「こっちに帰ってくるときに、嬢ちゃんから貰った呪いの力って奴だ。魔法でだってその傷は治んねえぜ?
ま、ちょっとの間…そこのガキが死ぬまでの間くらいだけどな!」
その言葉と共に人狼が再びかき消える。
「!?…《ディフェンスアップ》!」
それに気づいた静がとっさに防御魔法をサフィーに向かって展開する。

「甘いぜ!こんな壁で、狼が阻めるかよ!」
だが、それをものともせず、男は防御魔法ごと、サフィーの体を引き裂く。
今度は、足。パッと鮮血が飛び散り、裂けた肉の間から白いものが見える。
「さて、これで逃げられねえな」
返り血を浴びて真っ赤に染まった手をなめながら、男が言う。
「ところでよお…吸血鬼っつっても頭をもぎとりゃさすがに死ぬよな?」
そんなことを言いながら身構える。とどめを刺すために。
(まずいな…僕の魔法だけでは止めきれない)
仲間の危機的状況に、静の頭は逆に冷静となる。危険な時こそ冷静であれ。
それが、幼いころからウィザードとして修業と実戦を重ねてきた静の学んだことだった。
「…サフィーちゃん」
「…なに?」
それは、サフィーも同様らしい。すでにボロボロにも関わらず、その声は冷静そのものだった。
「合図に合わせて、実践編だ。起動して、使う。OK?」
「…了解」
「なんだあ?どっちが死ぬかの話し合いかあ?」
対する人狼の方は勝利を確信し、血に酔っている。
「ま、いいや…どのみちお前ら2人ともここでひき肉だからな!」
再び突っ込んでくる人狼。それに対し
「《リブレイド》!」
静が魔法を発動させる。光が人狼を直撃し、その毛皮を焼き焦がす。
「あちいなあ…だが、その位でどうにかなると思ったのかよ!」
魔法に焼かれてもなお、男は止まらない。
「思ってないさ」
男の挑発を、静はさらりと受け流す。
「だってこれは…ただの目くらましだからね!」
「なんだ…とお!?」
その言葉で男は気づく。もう1人、サフィーが強烈な威圧感を放ちながら、自らに右手を向けてる事に。
(なるほど…とんでもない力ね)
サフィーは頭のどこかでそんなことを考えながら、自らの中の変化を感じ取る。
自らの中に宿る不可視の力が、魔法の起動と共に収束し、強固なものに変わっていく。
どこまでも圧縮、純化の進む力。小さく、硬く、速いそれは、例えるならば、不可視の力で出来た、ライフルの弾丸。
完成したのを感じ取ると同時に、サフィーは叫ぶ。その、力を開放する“言葉”を!

「…《ヴォーティカルカノン》!」
「ぐふぉ!?」
無音で飛ぶ、強力無比な見えざる虚無の弾丸が、男の肺を突き破る。
「驚いたぜ。まさかこの世界の吸血鬼が、魔法を使えるようになるたあな…」
口から血泡を飛ばしながらなお、男は嬉しそうに言う。
「おもしれえ。ひき肉にすんのはお預けだ」
店の外に飛び出し、屋根へと駆け上がりながら、男が叫ぶ。
「“銀之助”の野郎にも伝えとけ!次会った時には、まとめてハンバーグにしてやるってな!」
そう言い残し、屋根を飛び移って男はいずこかへ去る。
「クソッ…仕留めそこなった…」
それを見送りながら、サフィーが毒づき、ついで倒れこむ。
「だ、大丈夫ですか!?」
それと同時に月匣が解除され、客の様子がおかしいことに気づいた店長から声が掛けられる。
「ええ。大丈夫。ちょっと貧血を起こしただけです」
時間が立って再生が始まった傷が周りに見えないようにとっさに静がきていた上着をかぶせて、言う。
「すぐに休ませたいので、ちょっと部屋をお借りしても?」
サフィーをおぶい、買ってきた替えの服の袋を持ちながら、静は店長に尋ねる。
「ど、どうぞ…救急箱もそこにおいてあるんで」
事態が掴めず混乱しながらもサフィーの顔色の悪さを見てただ事では無いと悟り、店長は店の着替え用の部屋へと案内する。
「ありがとうございます。いつものことなんでちょっと休ませれば大丈夫だと思います。あなたは、お仕事にお戻りください」
丁寧な、だが、断固とした口調で、静が店長に伝える。
「え、ええ。じゃあ、何か会ったら呼んでください…」
案内を終えて、店長が部屋を出て行く。
「じっとしてて」
サフィーに言い聞かせ、治癒の魔法を唱えはじめる。
「…いつの間にやら魔法使いにはなってるし、狼男には襲われるし…まったく、今日は厄日だわ…」
静の治療を受けながら、サフィーが一人呟いた。


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