飯波市立、飯波病院。ここには今、ミイラ男が大量に入院している。
「やあ、駒犬銀之介君。久し振りじゃないか」
そのうちの1人、全身包帯でぐるぐる巻きにされた、帽子をかぶったミイラ男が病室に入ってきた少年に気づき挨拶をする。
「本当に、お久し振りですね。漆野刑事さん」
銀之介と呼ばれたその少年は絞り出すようにミイラ男の名を呼ぶ。
(出来れば、このまま会わずにすませられれば良かったんですけど)
のどまで出かかったその言葉をぐっと飲み込む。少年…駒犬銀之介の勘が全力で警告音を鳴らす。
あの状態ならともかく、普段の銀之介の勘は別に鋭くも何とも無いのだが、この手の…特にこの人が絡んだ時の勘だけは外したことが無い。
この人が出てくるときは大抵ろくでもないことに巻き込まれるのだ。
だが、今回ばかりはそんなことも言ってられない。何しろ、とんでもないことが起こっているのだ。
ゴードンさん経由で銀之介に伝えられたその内容は、ひじょ~に衝撃的なものだった。
たまたま夫婦水入らずで1週間のアメリカ国内旅行に出かけていた両親に電話だけして日本へ駆けつけるほどに。
銀之介はゴクリとつばを飲み込み、言う。
「それで…本当なんですか。飯波に…狼男が、それも叔父さんが現れたって」
そのうちの1人、全身包帯でぐるぐる巻きにされた、帽子をかぶったミイラ男が病室に入ってきた少年に気づき挨拶をする。
「本当に、お久し振りですね。漆野刑事さん」
銀之介と呼ばれたその少年は絞り出すようにミイラ男の名を呼ぶ。
(出来れば、このまま会わずにすませられれば良かったんですけど)
のどまで出かかったその言葉をぐっと飲み込む。少年…駒犬銀之介の勘が全力で警告音を鳴らす。
あの状態ならともかく、普段の銀之介の勘は別に鋭くも何とも無いのだが、この手の…特にこの人が絡んだ時の勘だけは外したことが無い。
この人が出てくるときは大抵ろくでもないことに巻き込まれるのだ。
だが、今回ばかりはそんなことも言ってられない。何しろ、とんでもないことが起こっているのだ。
ゴードンさん経由で銀之介に伝えられたその内容は、ひじょ~に衝撃的なものだった。
たまたま夫婦水入らずで1週間のアメリカ国内旅行に出かけていた両親に電話だけして日本へ駆けつけるほどに。
銀之介はゴクリとつばを飲み込み、言う。
「それで…本当なんですか。飯波に…狼男が、それも叔父さんが現れたって」
緊張とともに吐き出されたその言葉に、漆野は頷き、言う。
「ああ。私も最初はあり得ないと思っていた。駒犬君の叔父さんが死亡したと言うのは聞いていたしね。
どうせ他愛のない噂か何かの見間違えだろうと思っていたんだ。だが、実際に襲われた人間が出た」
そう言ったのち、部屋の他の患者を見る。そこには無数のミイラ男がうんうん唸っている。
1ヶ月はベッドから動くこともできないだろう。なぜか、その枕もとには、お揃いの割れた仮面が置かれていた。
「彼らは…まあ、観光客みたいなものらしい。その彼らが病院に運び込まれたのが、1週間前。
なかなかに用意周到な連中でね。襲ってきたものの写真を残していた。そしてそれが…」
「…叔父さんだった、と?」
「ああ。多分、だがね」
そう言って枕もとの机から写真を取り出す。
襲われたときに撮られただけあってぶれて、ピンボケだが、この銀色の毛並みは間違いない。
「確かに、叔父さん…少なくとも、大人の男で、駒犬家の人間だと思います」
「うん。私もそう思った。そこで奴には半年前の借りもあるし、準備をして、捕獲しようとしたんだ」
「捕獲、ですか?」
漆野の言葉に銀之介が驚いた声を上げる。
「そのとおり、捕獲だ」
そう言いながら机の引き出しを再び開ける。そこには黒光りする拳銃と…
「弾も半年前のものが大量に余っていたし、生きたまま捕まえて連れてけば賞金を出すって話だったからね」
銀色に輝く無数の銃弾。
思わず銀之介が身震いする。銀の銃弾は狼人間にとっては天敵とも言うべき存在だ。狼人間が持つ驚異的な再生能力。
だが、それは銀で出来た銃弾で撃たれた場合には発揮されないのだ。
「それで、叔父さん…狼男と戦って、漆野刑事さんは病院に運び込まれたんですか?」
「うむ、実はそれなんだがね…」
気を取り直して質問した銀之介に、わずかに歯切れ悪く、漆野が言う。
「実は、無用の混乱を招くと思って、ゴードンさんには黙っていたことがある」
漆野がその日のことを語り出す。
「その日…そう、今から3日前、月が紅い満月の晩だった。その日、狼男を追っていた私は、敵と遭遇したんだ」
「え…それがど~無用の混乱を招くんですか?」
銀之介が漆野の言いたいことをつかめず、聞き返す。
「うむ…分かりやすく言うとだ、私が遭遇した敵、それがよりによって銀の銃弾が効かない方だったんだよ」
「銀の銃弾が効かない方?」
漆野の言葉に銀之介は更に首をかしげる。
「一応WHOにも問い合わせてみたんだが、あれに有効な弾は今は作って無いらしくてね。手に入れるのは難しそうなんだ。
そこで、駒犬君には私に代わって調査を…」
「ちょ、ちょっと待ってください」
相変わらず混乱した様子で銀之介が漆野に尋ねる。
「銀の銃弾が効かない方って…もしかして漆野刑事さんを襲ったのは狼男じゃないってことですか?」
「…ああ、失敬。私としたことが、うっかりしていたよ。駒犬君は知らないんだったね」
はた、とそれに気づいた様子で漆野が言う。
「君の疑問に答えれば、その通り。私を病院送りにしたのはね…吸血鬼だったんだ」
「きゅ、きゅうけつき~?」
漆野の言葉に思わず銀之介はすっとんきょうな声を上げる。
吸血鬼。映画なんかでは狼男と並んでホラーの代表格な怪物だが、本当にいるとは思っていなかったのだ。
「狼男がいるんだ。吸血鬼がいたっておかしくないだろう」
「そ~ゆ~ものですか?」
「そ~ゆ~ものだ」
納得しかねている銀之介を無視して漆野は話を進める。
「ちなみに、狼男の方がいることも間違いない。さっき見せた写真もそうだし、ほらそこの…」
漆野がちらりととある方向を見る。つられて銀之介もそちらを見て…目が点になった。
そこにはミイラ男が寝かされていた。眠っているのかピクリとも動かない。それは良い。だが、その傍らに置かれているのは…
「…きぐるみ?」
「本人いわく、黄色い大根マンだそうだ」
黄色い棒に手足をつけたような怪しいきぐるみ。なんでそんなものが病室に置かれているのか。銀之介には永遠の謎だった。
「そこで寝ているのはちょっとした私の知り合いでね。元吸血鬼退治の専門家だったんだが、彼を襲ったのは狼男の方らしい。
運ばれてきた本人を無理やり叩き起して聞き出したから間違いない。おかげでしばらくは目を覚ましそうにないが」
「ってことは…もしかして…」
漆野の話に、今の状況が見えてきた銀之介が顔を青くして呟く。
「うむ。今、この街には吸血鬼と狼男が同時に出現していることになる」
漆野が、重々しく頷いた。
「ああ。私も最初はあり得ないと思っていた。駒犬君の叔父さんが死亡したと言うのは聞いていたしね。
どうせ他愛のない噂か何かの見間違えだろうと思っていたんだ。だが、実際に襲われた人間が出た」
そう言ったのち、部屋の他の患者を見る。そこには無数のミイラ男がうんうん唸っている。
1ヶ月はベッドから動くこともできないだろう。なぜか、その枕もとには、お揃いの割れた仮面が置かれていた。
「彼らは…まあ、観光客みたいなものらしい。その彼らが病院に運び込まれたのが、1週間前。
なかなかに用意周到な連中でね。襲ってきたものの写真を残していた。そしてそれが…」
「…叔父さんだった、と?」
「ああ。多分、だがね」
そう言って枕もとの机から写真を取り出す。
襲われたときに撮られただけあってぶれて、ピンボケだが、この銀色の毛並みは間違いない。
「確かに、叔父さん…少なくとも、大人の男で、駒犬家の人間だと思います」
「うん。私もそう思った。そこで奴には半年前の借りもあるし、準備をして、捕獲しようとしたんだ」
「捕獲、ですか?」
漆野の言葉に銀之介が驚いた声を上げる。
「そのとおり、捕獲だ」
そう言いながら机の引き出しを再び開ける。そこには黒光りする拳銃と…
「弾も半年前のものが大量に余っていたし、生きたまま捕まえて連れてけば賞金を出すって話だったからね」
銀色に輝く無数の銃弾。
思わず銀之介が身震いする。銀の銃弾は狼人間にとっては天敵とも言うべき存在だ。狼人間が持つ驚異的な再生能力。
だが、それは銀で出来た銃弾で撃たれた場合には発揮されないのだ。
「それで、叔父さん…狼男と戦って、漆野刑事さんは病院に運び込まれたんですか?」
「うむ、実はそれなんだがね…」
気を取り直して質問した銀之介に、わずかに歯切れ悪く、漆野が言う。
「実は、無用の混乱を招くと思って、ゴードンさんには黙っていたことがある」
漆野がその日のことを語り出す。
「その日…そう、今から3日前、月が紅い満月の晩だった。その日、狼男を追っていた私は、敵と遭遇したんだ」
「え…それがど~無用の混乱を招くんですか?」
銀之介が漆野の言いたいことをつかめず、聞き返す。
「うむ…分かりやすく言うとだ、私が遭遇した敵、それがよりによって銀の銃弾が効かない方だったんだよ」
「銀の銃弾が効かない方?」
漆野の言葉に銀之介は更に首をかしげる。
「一応WHOにも問い合わせてみたんだが、あれに有効な弾は今は作って無いらしくてね。手に入れるのは難しそうなんだ。
そこで、駒犬君には私に代わって調査を…」
「ちょ、ちょっと待ってください」
相変わらず混乱した様子で銀之介が漆野に尋ねる。
「銀の銃弾が効かない方って…もしかして漆野刑事さんを襲ったのは狼男じゃないってことですか?」
「…ああ、失敬。私としたことが、うっかりしていたよ。駒犬君は知らないんだったね」
はた、とそれに気づいた様子で漆野が言う。
「君の疑問に答えれば、その通り。私を病院送りにしたのはね…吸血鬼だったんだ」
「きゅ、きゅうけつき~?」
漆野の言葉に思わず銀之介はすっとんきょうな声を上げる。
吸血鬼。映画なんかでは狼男と並んでホラーの代表格な怪物だが、本当にいるとは思っていなかったのだ。
「狼男がいるんだ。吸血鬼がいたっておかしくないだろう」
「そ~ゆ~ものですか?」
「そ~ゆ~ものだ」
納得しかねている銀之介を無視して漆野は話を進める。
「ちなみに、狼男の方がいることも間違いない。さっき見せた写真もそうだし、ほらそこの…」
漆野がちらりととある方向を見る。つられて銀之介もそちらを見て…目が点になった。
そこにはミイラ男が寝かされていた。眠っているのかピクリとも動かない。それは良い。だが、その傍らに置かれているのは…
「…きぐるみ?」
「本人いわく、黄色い大根マンだそうだ」
黄色い棒に手足をつけたような怪しいきぐるみ。なんでそんなものが病室に置かれているのか。銀之介には永遠の謎だった。
「そこで寝ているのはちょっとした私の知り合いでね。元吸血鬼退治の専門家だったんだが、彼を襲ったのは狼男の方らしい。
運ばれてきた本人を無理やり叩き起して聞き出したから間違いない。おかげでしばらくは目を覚ましそうにないが」
「ってことは…もしかして…」
漆野の話に、今の状況が見えてきた銀之介が顔を青くして呟く。
「うむ。今、この街には吸血鬼と狼男が同時に出現していることになる」
漆野が、重々しく頷いた。
「それで、僕に何とかして欲しい、と」
漆野の頼みを理解して、銀之介が漆野に尋ねる。
「ああ。本当は知り合いの吸血鬼にも頼もうと思ったんだが、あいにく今世界の何処にいるのかすら分からない状態でね」
「相変わらず、とんでもない顔の広さですね」
サラッと言う漆野に、銀之介が呆れたように言う。
「まあ、何にせよ有効な武器が用意できないなら純粋な体力勝負になる。そうなると同じ吸血鬼か狼男でもないと話にならないだろう」
「そりゃあ、まあ…」
漆野の話を聞いて、銀之介は考える。
狼人間は普通の人間じゃどうしようも無いのは確かだし、吸血鬼も漆野を病院送りにできるくらい強い奴らしい。
確かに変身した自分じゃないと、何とかすることはできないだろう。それに…
「…分かりました。任せてください」
飯波の街には守りたいものがたくさんある。
「うん。駒犬君ならそう言ってくれると信じていたよ」
銀之介の返事を聞いて、漆野が机から一枚の写真を取り出す。
「持って行ってくれ。この写真の真ん中に写っている2人、ジルさんと森写歩朗君と言うんだが、それが私の知り合いの吸血鬼だ。
もし、会うことがあったら手伝ってもらうといい」
「分かりました。女の人の方がジルさんで、男の人の方が森写歩朗さんですね」
その写真を見ながら、銀之介が確認する。
「ああ。それでいい。それともう一つ」
「もう一つ?」
「モンドー…そこで寝てる外人に言われてるんだ。もし、吸血鬼と戦うと言う人が現れたら、ぜひそこのものを託してくれ、と」
そして漆野が指差した先を見た銀之介は…
「全力でお断りします」
即答だった。
「やっぱりか」
分かっていた、とでも言うように漆野もそれ以上は言わない。
「はい」
黄色い大根マン(本人談)のきぐるみ着て戦うなんて、銀之介だってまっぴらごめんなのだ。
漆野の頼みを理解して、銀之介が漆野に尋ねる。
「ああ。本当は知り合いの吸血鬼にも頼もうと思ったんだが、あいにく今世界の何処にいるのかすら分からない状態でね」
「相変わらず、とんでもない顔の広さですね」
サラッと言う漆野に、銀之介が呆れたように言う。
「まあ、何にせよ有効な武器が用意できないなら純粋な体力勝負になる。そうなると同じ吸血鬼か狼男でもないと話にならないだろう」
「そりゃあ、まあ…」
漆野の話を聞いて、銀之介は考える。
狼人間は普通の人間じゃどうしようも無いのは確かだし、吸血鬼も漆野を病院送りにできるくらい強い奴らしい。
確かに変身した自分じゃないと、何とかすることはできないだろう。それに…
「…分かりました。任せてください」
飯波の街には守りたいものがたくさんある。
「うん。駒犬君ならそう言ってくれると信じていたよ」
銀之介の返事を聞いて、漆野が机から一枚の写真を取り出す。
「持って行ってくれ。この写真の真ん中に写っている2人、ジルさんと森写歩朗君と言うんだが、それが私の知り合いの吸血鬼だ。
もし、会うことがあったら手伝ってもらうといい」
「分かりました。女の人の方がジルさんで、男の人の方が森写歩朗さんですね」
その写真を見ながら、銀之介が確認する。
「ああ。それでいい。それともう一つ」
「もう一つ?」
「モンドー…そこで寝てる外人に言われてるんだ。もし、吸血鬼と戦うと言う人が現れたら、ぜひそこのものを託してくれ、と」
そして漆野が指差した先を見た銀之介は…
「全力でお断りします」
即答だった。
「やっぱりか」
分かっていた、とでも言うように漆野もそれ以上は言わない。
「はい」
黄色い大根マン(本人談)のきぐるみ着て戦うなんて、銀之介だってまっぴらごめんなのだ。
*
「それにしても、狼男だけでも大変だってのに、吸血鬼かあ~」
帰り道、オレンジにそまった住宅街をとぼとぼと歩きながら、銀之介は1人呟く。
「まあ、私は詳しくは知らんのだがね」
そんな前置きと共に漆野から聞かされた、吸血鬼の話。何でも空が飛べたり、超能力が使えたりして、狼人間並みか、それ以上に強いらしい。
狼人間については詳しく知っている。自分がそうなのだから。映画と現実じゃ違うなんてところも含めて。
だが、問題は吸血鬼だ。映画や漫画のしか知らない。知り合いに実は吸血鬼なんですなんてな人もいない。
「え~~~~と、吸血鬼って言うと…」
とりあえず銀之介は、映画なんかに出てくる吸血鬼を思い浮かべる。
「まず、血を吸うんだろうな。吸血鬼ってくらいなんだから。そんで血を吸われると吸血鬼になっちゃう、と。
そんで確か…太陽に弱い。まあこれは漆野刑事もそう言ってた。間違いない。
けど十字架とニンニクは効かないって言ってたな。後は…吸血鬼って言うと…」
再び映画や漫画、ゲームに出てくる吸血鬼を思い浮かべる。
「確か…色々変身できるんだよな。霧とか、蝙蝠の群れとか。そんで心臓に杭を打たないと死なない…」
ぶつぶつと呟きながら、歩いている銀之介。よその人に見られたら通報とかされそうだが、夕方のこの時間、人通りは少ない。
「う~~~ん。ど~しよう?」
そもそも狼人間の方だって本当に叔父さんだったら銀之介1人では荷が重いのだ。それに加えて吸血鬼までいるとなると…
「僕1人じゃ無理だよなあ…ゴードンさんに言って狼人間の応援頼んだ方がいいかなあ…?」
そんなことを言って、溜息をついたときだった。
「…ん?なんだろ、空が赤くなったような…?」
辺りの色が夕方のオレンジ色から赤に変わる。それに気づいた銀之介は空を見上げた。
空にはいつの間にやらぽっかりと満月が浮かんでいる。だが、いつもの、変身する時に感じるぞわぞわは無い。
その理由は実に単純。
「真っ赤だ…」
赤くて丸いものでは狼人間は変身しないのだ。
「まだ月が昇るには早いはずなのに…あれ?そ~言えば漆野刑事さんが怪我したのって3日前だよな…?」
銀之介だって満月がいつか出るかは完全に覚えている。狼人間にとっては街にいられるかどうかの問題なのだ。
微妙な食い違い。ついでに言えば今日だって本当は満月のはずが無い。
その事で銀之介は思わずその場に立ち止まり、考え始めた。
「昨日は満月のせいで出かけられなかったのに…(第1話参照)」
思わず疑問点を口に出した、そのときだった。
帰り道、オレンジにそまった住宅街をとぼとぼと歩きながら、銀之介は1人呟く。
「まあ、私は詳しくは知らんのだがね」
そんな前置きと共に漆野から聞かされた、吸血鬼の話。何でも空が飛べたり、超能力が使えたりして、狼人間並みか、それ以上に強いらしい。
狼人間については詳しく知っている。自分がそうなのだから。映画と現実じゃ違うなんてところも含めて。
だが、問題は吸血鬼だ。映画や漫画のしか知らない。知り合いに実は吸血鬼なんですなんてな人もいない。
「え~~~~と、吸血鬼って言うと…」
とりあえず銀之介は、映画なんかに出てくる吸血鬼を思い浮かべる。
「まず、血を吸うんだろうな。吸血鬼ってくらいなんだから。そんで血を吸われると吸血鬼になっちゃう、と。
そんで確か…太陽に弱い。まあこれは漆野刑事もそう言ってた。間違いない。
けど十字架とニンニクは効かないって言ってたな。後は…吸血鬼って言うと…」
再び映画や漫画、ゲームに出てくる吸血鬼を思い浮かべる。
「確か…色々変身できるんだよな。霧とか、蝙蝠の群れとか。そんで心臓に杭を打たないと死なない…」
ぶつぶつと呟きながら、歩いている銀之介。よその人に見られたら通報とかされそうだが、夕方のこの時間、人通りは少ない。
「う~~~ん。ど~しよう?」
そもそも狼人間の方だって本当に叔父さんだったら銀之介1人では荷が重いのだ。それに加えて吸血鬼までいるとなると…
「僕1人じゃ無理だよなあ…ゴードンさんに言って狼人間の応援頼んだ方がいいかなあ…?」
そんなことを言って、溜息をついたときだった。
「…ん?なんだろ、空が赤くなったような…?」
辺りの色が夕方のオレンジ色から赤に変わる。それに気づいた銀之介は空を見上げた。
空にはいつの間にやらぽっかりと満月が浮かんでいる。だが、いつもの、変身する時に感じるぞわぞわは無い。
その理由は実に単純。
「真っ赤だ…」
赤くて丸いものでは狼人間は変身しないのだ。
「まだ月が昇るには早いはずなのに…あれ?そ~言えば漆野刑事さんが怪我したのって3日前だよな…?」
銀之介だって満月がいつか出るかは完全に覚えている。狼人間にとっては街にいられるかどうかの問題なのだ。
微妙な食い違い。ついでに言えば今日だって本当は満月のはずが無い。
その事で銀之介は思わずその場に立ち止まり、考え始めた。
「昨日は満月のせいで出かけられなかったのに…(第1話参照)」
思わず疑問点を口に出した、そのときだった。
たったったったったったったった…
目の前を1人の女の子が駆け抜けていく。ショートカットの活発そうな女の子だ。銀之介には彼女が来ていた服に見覚えがあった。
「あれって…飯波高校の制服だよな?あんなに急いでどうした…!?」
「あれって…飯波高校の制服だよな?あんなに急いでどうした…!?」
krkrkrkrkrkrkrkrkr……
独特の甲高い鳴き声を上げながら、少女が駆け抜けていったところを、無数の蝙蝠の群れが飛び去って行く。
「もしかしてあれに追いかけられてるのか!?」
そう叫ぶと同時に銀之介の頭にピコーンと電球がひらめく。
「もしかしてあれに追いかけられてるのか!?」
そう叫ぶと同時に銀之介の頭にピコーンと電球がひらめく。
吸血鬼→蝙蝠に変身する→蝙蝠の群れが女の子を追いかけている→となると女の子を追いかけているのは
「あれが吸血鬼!?」
いきなりの遭遇に銀之介は驚くが、すぐに思いなおす。
「見捨てるわけにはいかないよな」
そう言いながらポケットからそれを取り出す。
「こんなこともあろうかと、唐子に頼んで作っておいてもらってよかった」
そんなことを言いながら殻をむいて一息にかみちぎる。
「うっ…唐子、こんなものまで古代アトランティス料理にできるなんて…」
口の中に広がるその味にわずかに顔をしかめる。その後、自らがかみちぎったそれの断面をじっと見る。
変化は、すぐに始まった。
いきなりの遭遇に銀之介は驚くが、すぐに思いなおす。
「見捨てるわけにはいかないよな」
そう言いながらポケットからそれを取り出す。
「こんなこともあろうかと、唐子に頼んで作っておいてもらってよかった」
そんなことを言いながら殻をむいて一息にかみちぎる。
「うっ…唐子、こんなものまで古代アトランティス料理にできるなんて…」
口の中に広がるその味にわずかに顔をしかめる。その後、自らがかみちぎったそれの断面をじっと見る。
変化は、すぐに始まった。
ポパイはほうれん草を食べるとパワーアップする。
スッパマンは梅干しを食べれば変身できる。
そして、駒犬銀之介の場合は…
「…アオオオオオオオオオオオオオオオオオオン!」
卵の黄色く丸い黄身を見れば即座に変身してしまうのだ!(本人の意思に関係なく)
「すぐに追わないと」
ふさふさ毛むくじゃらの、血統書付きの狼男になった銀之介は靴を脱ぎ棄て、屋根の上に飛び乗る。
「吸血鬼は若い女の子の血が好きだって言うし」
そう呟くと同時に、爆発的なスピードで屋根を伝い、少女の匂いをたどって追いかけ始めた。
スッパマンは梅干しを食べれば変身できる。
そして、駒犬銀之介の場合は…
「…アオオオオオオオオオオオオオオオオオオン!」
卵の黄色く丸い黄身を見れば即座に変身してしまうのだ!(本人の意思に関係なく)
「すぐに追わないと」
ふさふさ毛むくじゃらの、血統書付きの狼男になった銀之介は靴を脱ぎ棄て、屋根の上に飛び乗る。
「吸血鬼は若い女の子の血が好きだって言うし」
そう呟くと同時に、爆発的なスピードで屋根を伝い、少女の匂いをたどって追いかけ始めた。
*
「ふう…ここまで来れば、大丈夫だよね?」
人気のない工事現場まで走ったところで、少女、要いのりは1人呟き、向きなおる。
「ここなら、普通の人も巻き込まないし」
krkrkrkrkrkrkrkrkrkrkrkrkrkr…
追いついてきた蝙蝠の群れを見て、不敵に笑う。
「あたしも存分に戦える」
いのりの顔におびえの色は全く無い。
「今日は疲れてるから、一気に行くよ…」
そう、今日は大変だった。
昼休みから放課後になるまで春美の質問地獄に付き合わされ、さらには危うく新聞部に入部させられそうになったのだ。
都合よく襲撃があったお陰でごまかして逃げてこられただけでもラッキーだったと言うべきだろう。その代り戦いに巻き込まれたのはこの際置いといて。
「手加減とかは期待しないでね…いっけえ!ファイアーワー…!?」
そして、いのりが宣言と共に、自らの相棒を呼び出そうとした、その瞬間だった。
「どりゃああああああああああああああああああ!!!!!!!!!」
蝙蝠の群れに、何かが突っ込んでいく。そのスピードは、まさに電光石火。
「よっひゃ(よっしゃ)」
飛び降りてきた何かが口に蝙蝠をくわえながら、言う。
両手両足で2匹ずつ、口で1匹、とどめに尻尾でもう1匹。10匹の蝙蝠を一撃のもとに倒したそれに…
「…人狼!?」
いのりは驚きの声をあげた。
「え~~~~とね…」
その人狼こと駒犬銀之介はペッと蝙蝠を吐きだし、困ったようにいのりに言う。
「驚くのは分かるし、警察とか保健所に電話とかになるのも分かる。でもね…」
襲いかかる蝙蝠をあしらいながら、銀之介は続ける。
「僕は、君を助けに来た。君を襲ったりはしない。それだけは信じて!」
そして、再び蝙蝠と戦い始める。
「この世界って、ウィザードはいないんじゃなかったの!?」
銀之介の言葉を無視して、いのりは思わず反射的にその背中に問いかける。銀之介はそれにピクッと反応して向きなおり
「…ウィザ、なに?」
不思議そうな顔で聞き返した。
「…え?ウィザードを知らない?ってことはウィザードじゃない?」
そんなことを言いながら要いのりは思い出す。昨日、静が拾ってきた、吸血鬼の少女のことを。
「そ~~いえばウィザードかど~かは置いといて、吸血鬼はいるんだっけ…」
となれば、人狼が居てもおかしくは無いのかも知れない。いのりはそう、思いなおした。
そんなことを考えていた時だった。
「まずい!逃げて!」
銀之介があせって叫ぶ。見れば分かれて襲う算段なのだろう。半分が銀之介を足止めし、もう半分がいのりの方へ向かってくる。
「だいじょ~ぶ!こっちはあたしに任せて!」
それを見て、いのりはきっぱりと言う。
「へ!?」
そんなことを言われるとは思っていなかったのだろう。銀之介が驚いた声を上げる。
krkrkrkrkrkr…
甲高い鳴き声を上げながら、蝙蝠がいのりに殺到する。
「大変だ!すぐに助けないと!」
めちゃくちゃに腕を振り回して追い払いながら、銀之介がいのりの方へ向かおうとした、その時だった。
「いっけえ、ファイアーワークス。すべてを…焼き滅ぼしちゃえ!」
ゴオオオオオオオオオオオ…
いのりの言葉と共に爆炎が立ち上り、蝙蝠の一部を消しズミへと変える。そして、その炎が消えた後には…
「な、なんだあれ…」
鳥の頭を持った、赤き魔神がいのりを守るように立っていた。
「一気に行くよ!ごー!」
いのりの意思をくみ取り、彼女の相棒、ファイアーワークスが炎で出来た腕をふるう。
ボワッ!
その腕はわずかにかすっただけでも蝙蝠に引火して、次々と蝙蝠を焼きつくしていく。
あっという間に蝙蝠は全滅した。
「っしゃ!どんなもんよ!」
思わずガッツポーズをとり、いのりは銀之助の方を見る。
「えっと、それなに…?」
一足早く蝙蝠を全滅させていた銀之介が、目をまんまるにして、ファイアーワークスを指さして、いのりに尋ねる。
「ああ、これはファイアーワークス。あたしの相棒だよ」
その問いに、いのりは明るく答える。
「ファイアー…相棒?君は一体…」
何者なんだ、と銀之介が言おうとした、その瞬間だった。
人気のない工事現場まで走ったところで、少女、要いのりは1人呟き、向きなおる。
「ここなら、普通の人も巻き込まないし」
krkrkrkrkrkrkrkrkrkrkrkrkrkr…
追いついてきた蝙蝠の群れを見て、不敵に笑う。
「あたしも存分に戦える」
いのりの顔におびえの色は全く無い。
「今日は疲れてるから、一気に行くよ…」
そう、今日は大変だった。
昼休みから放課後になるまで春美の質問地獄に付き合わされ、さらには危うく新聞部に入部させられそうになったのだ。
都合よく襲撃があったお陰でごまかして逃げてこられただけでもラッキーだったと言うべきだろう。その代り戦いに巻き込まれたのはこの際置いといて。
「手加減とかは期待しないでね…いっけえ!ファイアーワー…!?」
そして、いのりが宣言と共に、自らの相棒を呼び出そうとした、その瞬間だった。
「どりゃああああああああああああああああああ!!!!!!!!!」
蝙蝠の群れに、何かが突っ込んでいく。そのスピードは、まさに電光石火。
「よっひゃ(よっしゃ)」
飛び降りてきた何かが口に蝙蝠をくわえながら、言う。
両手両足で2匹ずつ、口で1匹、とどめに尻尾でもう1匹。10匹の蝙蝠を一撃のもとに倒したそれに…
「…人狼!?」
いのりは驚きの声をあげた。
「え~~~~とね…」
その人狼こと駒犬銀之介はペッと蝙蝠を吐きだし、困ったようにいのりに言う。
「驚くのは分かるし、警察とか保健所に電話とかになるのも分かる。でもね…」
襲いかかる蝙蝠をあしらいながら、銀之介は続ける。
「僕は、君を助けに来た。君を襲ったりはしない。それだけは信じて!」
そして、再び蝙蝠と戦い始める。
「この世界って、ウィザードはいないんじゃなかったの!?」
銀之介の言葉を無視して、いのりは思わず反射的にその背中に問いかける。銀之介はそれにピクッと反応して向きなおり
「…ウィザ、なに?」
不思議そうな顔で聞き返した。
「…え?ウィザードを知らない?ってことはウィザードじゃない?」
そんなことを言いながら要いのりは思い出す。昨日、静が拾ってきた、吸血鬼の少女のことを。
「そ~~いえばウィザードかど~かは置いといて、吸血鬼はいるんだっけ…」
となれば、人狼が居てもおかしくは無いのかも知れない。いのりはそう、思いなおした。
そんなことを考えていた時だった。
「まずい!逃げて!」
銀之介があせって叫ぶ。見れば分かれて襲う算段なのだろう。半分が銀之介を足止めし、もう半分がいのりの方へ向かってくる。
「だいじょ~ぶ!こっちはあたしに任せて!」
それを見て、いのりはきっぱりと言う。
「へ!?」
そんなことを言われるとは思っていなかったのだろう。銀之介が驚いた声を上げる。
krkrkrkrkrkr…
甲高い鳴き声を上げながら、蝙蝠がいのりに殺到する。
「大変だ!すぐに助けないと!」
めちゃくちゃに腕を振り回して追い払いながら、銀之介がいのりの方へ向かおうとした、その時だった。
「いっけえ、ファイアーワークス。すべてを…焼き滅ぼしちゃえ!」
ゴオオオオオオオオオオオ…
いのりの言葉と共に爆炎が立ち上り、蝙蝠の一部を消しズミへと変える。そして、その炎が消えた後には…
「な、なんだあれ…」
鳥の頭を持った、赤き魔神がいのりを守るように立っていた。
「一気に行くよ!ごー!」
いのりの意思をくみ取り、彼女の相棒、ファイアーワークスが炎で出来た腕をふるう。
ボワッ!
その腕はわずかにかすっただけでも蝙蝠に引火して、次々と蝙蝠を焼きつくしていく。
あっという間に蝙蝠は全滅した。
「っしゃ!どんなもんよ!」
思わずガッツポーズをとり、いのりは銀之助の方を見る。
「えっと、それなに…?」
一足早く蝙蝠を全滅させていた銀之介が、目をまんまるにして、ファイアーワークスを指さして、いのりに尋ねる。
「ああ、これはファイアーワークス。あたしの相棒だよ」
その問いに、いのりは明るく答える。
「ファイアー…相棒?君は一体…」
何者なんだ、と銀之介が言おうとした、その瞬間だった。
「なるほどな。この程度では小手調べにもならんか」
男の声が辺りに響き渡り、2人は揃って振り返る。
そこには1人の白衣を着た、オールバックの男がいた。髪が角のようにツンツン尖っている。
そして、その白衣の男は空中に固定されたように浮かびあがっていた。
「そう構えるな。今日は挨拶だけにしておけと我が主に言われている。
もっとも、あの忌々しい吸血鬼が一緒だったらもろともに葬るつもりだったがな」
手を振りながら、その白衣の男が宣言する。
そこには1人の白衣を着た、オールバックの男がいた。髪が角のようにツンツン尖っている。
そして、その白衣の男は空中に固定されたように浮かびあがっていた。
「そう構えるな。今日は挨拶だけにしておけと我が主に言われている。
もっとも、あの忌々しい吸血鬼が一緒だったらもろともに葬るつもりだったがな」
手を振りながら、その白衣の男が宣言する。
「お前が、漆野刑事さんの言ってた、吸血鬼か!」
一足先に漆野から話を聞いていた銀之介が叫んで、飛びかかる。
どのみち、他に誰もいない場所に現れて空を飛んでる男が無関係ですなんてなわけが無い。
「ほう。狼人間か…昔はそれなりに見かけたが、まだいたのだな」
捕獲しようと飛びかかった銀之介をあっさりと空中で受け止めて、白衣の男が言う。
「嘘だろ!?」
銀之介は驚いた。まさか狼人間でもない男にたやすく受け止められると思っていなかったのだ。
「何を驚く?月の下の吸血鬼なら、この程度、受け止めるのはたやすい…さて、今度はこちらの番だ」
その言葉と共に白衣の男の目の前に漆黒の球体が現れる。
「…《ヴォーテックストライデント》」
白衣の男の言葉と共に球体が2つに分裂して、銀之助といのりに向かう。
「がふっ!?」
その球体を近づいていた銀之介はよけられない。暗黒の魔力が身体に染み込んで銀之介の体内を破壊する。
「くっ…ファイアワークス!」
とっさにいのりはファイアワークスに命じて自分を守らせる。
そのほとんどはファイアワークスに阻まれるが、力の一部がそれを通り抜け、いのりにわずかにダメージを与えた。
「なるほど、人狼が魔法に弱いと言うのは本当のようだな…」
その結果を見て、白衣の男は頷く。
「それが分かっただけで十分だ。今日は、ここまでにしておいてやろう。さらばだ」
そう、宣言すると、白衣の男は空を駆けて何処かへと飛び去って行く。
「待てっ!」
酷い怪我にも関わらず、自らの驚異的な生命力で持って立ち上がり、銀之介は白衣の男を追う。
2人はあっという間に見えなくなった。
「吸血鬼の次は、人狼…」
この場にただ1人取り残されたいのりがぼ~ぜんと呟く。
「いったいこの世界は、ど~なってんのよ!?」
いのりの疑問に、答えるものはいなかった。
一足先に漆野から話を聞いていた銀之介が叫んで、飛びかかる。
どのみち、他に誰もいない場所に現れて空を飛んでる男が無関係ですなんてなわけが無い。
「ほう。狼人間か…昔はそれなりに見かけたが、まだいたのだな」
捕獲しようと飛びかかった銀之介をあっさりと空中で受け止めて、白衣の男が言う。
「嘘だろ!?」
銀之介は驚いた。まさか狼人間でもない男にたやすく受け止められると思っていなかったのだ。
「何を驚く?月の下の吸血鬼なら、この程度、受け止めるのはたやすい…さて、今度はこちらの番だ」
その言葉と共に白衣の男の目の前に漆黒の球体が現れる。
「…《ヴォーテックストライデント》」
白衣の男の言葉と共に球体が2つに分裂して、銀之助といのりに向かう。
「がふっ!?」
その球体を近づいていた銀之介はよけられない。暗黒の魔力が身体に染み込んで銀之介の体内を破壊する。
「くっ…ファイアワークス!」
とっさにいのりはファイアワークスに命じて自分を守らせる。
そのほとんどはファイアワークスに阻まれるが、力の一部がそれを通り抜け、いのりにわずかにダメージを与えた。
「なるほど、人狼が魔法に弱いと言うのは本当のようだな…」
その結果を見て、白衣の男は頷く。
「それが分かっただけで十分だ。今日は、ここまでにしておいてやろう。さらばだ」
そう、宣言すると、白衣の男は空を駆けて何処かへと飛び去って行く。
「待てっ!」
酷い怪我にも関わらず、自らの驚異的な生命力で持って立ち上がり、銀之介は白衣の男を追う。
2人はあっという間に見えなくなった。
「吸血鬼の次は、人狼…」
この場にただ1人取り残されたいのりがぼ~ぜんと呟く。
「いったいこの世界は、ど~なってんのよ!?」
いのりの疑問に、答えるものはいなかった。