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ナイトウィザード!クロスSS超☆保管庫
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ナイトウィザード!クロスSS超☆保管庫

第15話02

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『我が忠実なる神姫よ。よくぞ影姫を倒し、新たな冥界門の発生を阻んでくれた。心から礼を言う』
「何を仰いますか、星王神様! 数ある神姫の内よりワタクシめをお選び戴き、任務を授けて下さった栄誉に報いるのは当然の勤めに御座います!」

 感服する神姫にエルンシャは、ただ、一番近くにいたから声をかけただけだとは言えなかった。
 まあ、必要な時に必要な場所にいる、それこそが「運命に選ばれる」という事なのかもしれないが。

『闇下僕たちを倒すときに何名か、勢い余って冥界門に転げ落ちた下僕がいたようだが』
「皆、覚悟の上です」

 一点の曇りもない澄みきった瞳で、夜空に輝く皇王星を見上げた神姫は何の気負いも迷いもなく答え、下僕達もまた、それに追随し唱和した。

「我らは姫様の槍にして盾。騎馬にして糧」
「主を守りて戦場に倒れるも、総てのプラーナを主に捧げ尽くして消滅するも、望むところ」
「我ら一同、自爆魔法も標準取得」
「フォートレスでは、喜んで下僕探知を行いましょう」
『頼もしい言葉ではある。しかし、死に急ぐばかりが忠義でもないぞ』
「それは重々承知しておりますとも」

 エルンシャは、愛しい下僕達の信仰篤き姿に心を打たれつつ、無駄死にだけはしないように釘を刺した。
 とは言え、世界を救うべく、自ら(物理的に)身を粉にしている神が諭したところで、説得力の欠片も無いのだが。
 超女王も聖姫も、率先して自分の身を犠牲にしているのだ。下僕達が、それに倣うのは必定だった。

「さあ、星王神様! どうか、この身に次なる任務をお与え下さい!」
『いや、待つのだ、神姫よ。休む事もまた、勤めであると心得よ。今は其の身を休め、次の戦いに備えて力を蓄えるがよい』
「有り難きお言葉に御座いまする!!!」
『間もなく、アンゼロットが戻ってくる。彼女の采配を得て行動すれば、より効果的に戦えるだろう』
「畏まりました、星王神様!」
『アンゼロットが到着したら、彼女の好きな銘酒『美少年』『みなごろし』を届けてやってくれないか?」
「仰せのままにッ!」
『では、暫しの別れだ。よく休むのだぞ、プリンセス★マッドマンよ』
「ははぁぁッッ!!」

 平伏した神姫と下僕達との念話を打ち切り、エルンシャはこっそりと溜息を吐いた。
 神姫達は頑張ってくれているが、第三世界の奪還は遅々として進まず、現状維持が精一杯だ。

『神姫達に不満がある訳ではないが、アンゼロットが羨ましくないと言ったら嘘になるかな?』

 第三世界と第八世界の情勢にこうも差がついたのは、それぞれの世界の守護者の力量の差が原因だとエルンシャは思っている。
 第八世界を去るときには大きな事を言ったが、結局プリギュラを取り逃がしてしまい、闇海姫の行方は分からなくなってしまっている。
 しかし、それについては一先ず置くとして、だ。

『アンゼロットは良い友人に恵まれていたな……』

 脳裏に浮かぶは、一人の青年の姿。
 風のように爽やかで、火のように激しく。
 絶大な力を持つ闇姫を相手に、脆弱なる人の身で一歩も退かず、幾度打ち倒されたとて諦めることなく挑み続け、遂には勝利を?ぎ取った。

『少し優しすぎるきらいがあるが、平時においてはそれで良いのだろうな』

 エルンシャが古代神の拠り代に憑依して動きを封じ、諸共に断ち切れと迫ったとき。
 柊蓮司はエルンシャの犠牲を拒み、それ故にエルヴィデンスを取り逃がした。

『我が娘、聖地姫(セント★ガイア)であれば、迷いつつも剣を振るい、あの場で決着をつけただろう』

 エルンシャは呟き、十姫騒乱の時代、邪神の復活を防ぐべく姉妹たる闇風姫(シャドウ★エア)の身体を砕いた娘の顔を思い浮かべた。
 他の世界の守護者達、褐色の肌の防人や時の女神もまた、世界を救うべく家族の犠牲を乗り越え、自ら親友を手にかけたと聞く。
 世界を守るには、神と言えど多大な犠牲を支払う必要があり、そして、それを支払えるからこそ、神足り得るのだ。

『だが、柊君は仲間を救うために戦っているのだ。世界のために仲間を犠牲にしてしまっては、本末転倒になってしまう』

 人の子は、あれで良いのだ。
 世界は、「世界の守護者」が守ればいい。

『我ら神々は、人の子の安息を守るために在るのだからな』

 それにしても、かの青年は、共に在って実に心地良い、実に好感の持てる漢だった。

『恋人がいると聞いたが、そうでなければ、是非とも娘の婿に―』


「男はやっぱ、高学歴でなきゃーな。高卒? おととい来やがれ」
「頭の悪い男は好みじゃないなぁ」
「ここぞ、ってときにファンブルしそうな人は、ちょっと頼りないですね」
「品のない方は趣味ではありませんわ」
(落ち着きのない男は嫌いだ、と無言で主張している)
「いや、アタシ百合だし」
「きゃはっ★ 見て見てぇ! カエルのお尻にストロー突っ込んでぇ、息吹き込むと、お腹がプクッて膨らんで面白いんだよっ!」
「目つきが怖そうで……乱暴そうな……人、ですね。少し、距離を置きたいと思います」
「騒がしい者には死を」
「吸収したら色々下がりそうだな。お断りだ」


『……いや、我が娘達とは、あまりウマが合いそうにないな』

 娘達の反応をシミュレートしたエルンシャは、やれやれ、と頭を振った。
 激しく育て方を間違えた気がする。エルンシャは育てていないが。

『エルヴィデンスに攫われ、かの者の殺戮人形として育てられた闇姫達は仕方が無い。
 だが、アンゼロットとイクスィムと言う素晴らしい女性たちと身近に触れ合った筈の聖姫たちが、"ああ"なったのは何故なんだろうね?』

 やはり、男親が傍にいなかった所為か。
 どうも娘達は、男性に対してあまりにも多くを望みすぎていると感じられて仕方がなかった。

『客観的に見て、態度の荒々しい柊君は、女性から特別に慕われる方ではないだろう。
 だが、柊君の恋人は、彼の内に秘めた情熱と優しさを見抜いたのだな。
 きっと聡明で、包容力に満ちた優しい女性なのだろう。
 彼等の婚儀の折りには、私とアンゼロットが仲人を― む?』

 世界全体に拡散した守護者の欠片が、またしても新たな冥界門の発生を感知した。
 神姫を送り込み、影姫を倒し、門を封じる。それ自体は、決して難しい事ではない。
 だが、その都度『どの神姫がエルンシャの声を聞けるのか』を敵に知られてしまうのが気になる。
 寧ろ、それこそが古代神側の狙いではないのか、とさえ思う。
 しかし、だからと言って見過ごす事など出来はしない。

『全く、自分の愚かさに辟易してしまうな』

 エルンシャは誰にも聞かれぬように呟くと、冥界門に最も近い場所にいる神姫を選び、その心へと語りかけた。

『我が愛しき神姫よ。この不甲斐ない守護者の頼みを聞いてはくれまいか』



 灯はアンゼロットから受け取ったヒルコを、震える手で、眠り続ける命の胸の上に置いた。
 息を飲み、様子を見守る。

 一分がたち。
 二分がたち。
 十分がたった頃、灯は肩の力を抜いた。

 失望したように。安堵したように。

 何も、変化は起こらなかった。

「灯さん」

 突然声をかけられ、ハッとして振り返ると沈痛な表情をした銀髪の少女が立っていた。

「シャノン……」
「命さん、目を覚まさなかったんですね?」
「いい……期待は・・・して、なかったから……それに……ヒルコの……力で……目覚めては……欲しく、ない……」
「そう、ですか」

 かける言葉に困った様子のシャノンから目を逸らし、灯は踵を返し、病室の出口に向かう。
 今回の事件の副産物として神殺しの魔剣から抜き取られた、魔王アスモデートの妖剣。ヒルコ。
 真行寺命のプラーナの結晶とも言える存在。それが手元に戻って尚、彼は目覚めはしなかった。

「そろそろ……アンゼロットの……ところに、行く。命の治療、お願い……」
「はい。任せてください」

 廊下を歩み去っていく灯を見送って。
 シャノンは一人、小声で呟いた。

「ごめんなさい、灯さん。わたし、一生懸命がんばります」

 届かぬ謝罪の言葉を紡ぎながら、シャノンは命の点滴を取り替えた。慎重に調合した、特製のそれに。

「―!」

 急に何かの気配を感じたシャノンは慌てて命の容態を確認した。
 だが、何の変化も認められはせず、彼女は気の所為だったのかと首を傾げつつ病室を後にした。

 この日から半年後。
 真行寺命の目を覚ます。だが、それはまた別の物語。



 澄み渡る空に浮かぶ蒼き星を背に、どこまでも続く蒼い水面に聳え立つ白亜の城。アンゼロット城。
 その一角にある、地球の見えるテラスに集まった柊達は、ティーカップを並べたテーブルを囲んでいた。
 それは、皆で宝玉を集めていた頃によくあった光景に似ていた。
 尤も、今日は灯の姿はなく、柊の隣にはコイズミが座り、エリスはアンゼロットの後ろに立っていた。

「みなさん、お疲れ様でした。今はその身を休める事だけを考えてください。紅茶はいかがですか?」
「マドレーヌ、いっぱいありますよ! さあ、どうぞ!」
「はわー、おいしそう!」
「コイズミ、お前も食え。エリスのマドレーヌは絶品だぜ!」
「はっ、ありがたく頂戴します」
「……ひーらぎ。あんたね」
「いえ、いいんですよ、くれはさん」

 エリスに差し出された皿から取り上げたマドレーヌをコイズミに渡す柊にくれはがジト目を向けたが、エリスは気にしたそぶりも見せず、改めて柊の前に皿を突き出した。

「柊先輩。マドレーヌ、もう一ついかがですか? たくさんありますから、どんどん食べてくださいね」
「おう、エリスのだったらいくらでも食えるぜ。あ、紅茶はいらねぇや。アイツにでもやるとすっかな」

 柊はティーカップを手に席を立つと、テラスの一角に穿たれたクレーターに歩みを進めた。
 それは、エルヴィデンスによって冥魔王とされたエルンシャが、アンゼロット城を訪れた際に抉ったものだった。
 柊は窪みの縁で足を止め、ティーカップを掲げて静かに黙祷を捧げると、ゆっくりと紅茶を零した。

「エルンシャさんよ。『不幸』って言葉は、俺なんかよりアンタの方がよっぽど似合ってるぜ」
「ちょ、ひーらぎ!? エルンシャさんて、先に帰っただけで別に死んだ訳じゃないんでしょ?!」
「そうですよ! そーゆーの、不謹慎です!」
「ん? そうかぁ? まぁ、人生の墓場に片足突っ込んでんだし、似たようなモンじゃねーか?」

 戸惑うくれはとエリスに不思議そうに呟き、柊はおもむろに天を仰いだ。
 視線を彷徨わせ、空の一角に、最初にエルンシャの姿が確認された辺りに目を向けて感慨に耽る。

「アイツ、いい漢だったけどよ、イマイチよくわかんねぇ奴だったなぁ。アンゼロットなんかのドコがいーんだか」
「エルンシャ様は、生まれて初めて出会った女性がアンゼロット様で、次があの邪神だったそうですよ」
「なん……だと……?」

 コイズミが何気なく口を挟むと、柊は目を剥いて驚き、油の切れたゼンマイ仕掛けのような仕草でコイズミに振り向いた。
 ギギッと音がしそうだった。
 その、驚愕に固まった顔はすぐに通夜のような鎮痛な面持ちに変わり、柊は目を伏せてエルンシャへの心からの同情を表した。

「そいつぁ……ひでぇや……。アイツ、間違いなく主八界で一番女運悪りぃ男だな」
「それはどーゆー意味ですか、柊さん」

 柊の独白を聞きとがめたアンゼロットが、にこやかな笑みを湛えて、小首を傾げて問いただす。
 顔は笑っているものの、額にはしっかりと青筋が浮いているのを認め、コイズミとくれはとエリスがビクッと身体を奮わせた。
 しかし、柊はコイズミ達が怯えているのにも構わず、鼻で笑って揶揄を返した。

「比較対象があんなんしかいねぇんじゃ、おめぇでも可愛く見えるってこった。
 つか、あの黒羽根女ぐれぇじゃねぇのか? おめぇより性格悪りぃ女なんてよ」
「何て事を言うのですか! あんな邪神と比べられる事自体が屈辱ですわ!」
「そっかぁ? あんまし変わんねぇと思うけどなぁ? 人を家畜呼ばわりするトコとかよ」
「わたくしは誰かを家畜扱いした事などありませんわ!」
「嘘つけ! いつもいつも、人を馬車馬みてぇにコキ使いやがってるクセしてよぉ!」

 憤然として声を荒げた柊と、憤怒に燃えたアンゼロットの視線が火花を散らす。
 一触即発の雰囲気に、はらはらしながら様子を見ていたエリスが慌てふためいて二人の間に割って入った。

「け、喧嘩は止してください、柊先輩! アンゼロットさん!」
「そ、そうだよ! 折角、異世界に出発する前にお茶会の時間をとったって言うのに!」
「お、すまねぇな、エリス、くれは。ああ、そうだ。聞いとかなきゃならねぇ事があったんだった」
「はい?」

 しぶしぶ矛を収めた柊は、スッと表情を引き締め、真面目な顔で銀髪の少女に鋭い視線を向けた。

「おい、アンゼロット。あの黒羽根女の奴、百八の古代神の一人とか名乗ってたけどよ。
 あんなのが他に百七人もいるのか? だとしたら、たまったもんじゃねぇぜ」
「その質問には、ハイともノーとも答えられますわね」

 柊の問いを受け、アンゼロットもまたティーカップをテーブルに置き、真剣な「世界の守護者」の顔になる。

「裏界の魔王のうち、公爵以上の者たちと温泉女王クロウ=セイルも古代神です。無論、ベルやシャイマールも」
「温泉女王?」
「あ、あたし、知ってる。安藤さん相手に殆ど何にも出来ずに切り刻まれてたって、マユリんが言ってた」
「古代神もピンきりってことか。あの黒羽根女は特別に強かったんだな」
「その認識は甘すぎますよ、柊さん」

 安堵の溜息を吐いた柊に、アンゼロットから厳しい叱責が飛んだ。

「確かにエルヴィデンスは百八柱の中でも上位の存在でしょう。
 ですが、今回顕現したのは、その極一部。あの程度の戦闘力を持った冥魔や精霊獣は珍しくもありません。
 むしろ、世界結界の外では、魔王の力は『あれが標準』くらいのつもりでいた方がよいでしょうね」
「マジかよ!? 俺、異世界で魔王と戦ったコト何べんかあるけどよ、今回は色々とケタが違ってたぞ!」
「ディングレイや山羊魔王のときは、あーゆー展開になると"運命"や"因果律"で決まっていましたから」

 慌てる魔剣使いに、しれっと言葉を返して紅茶を一口飲んだ世界の守護者は、改めて柔らかい笑みを向けた。

「怖じ気つきましたか、柊さん?
 これから柊さんが挑む戦いには、世界結界の助けも"運命"や"因果律"の加護もありません。実力が総てです。
 フレイス行きを取りやめるなら今の内ですわよ?」
「馬鹿言え。俺は"運命"を当てにしたこたぁ一度もねぇよ」

 柊は、からかうようなアンゼロットの問いを一言で切って捨てて言葉を継いだ。

「例え、今まで歩いてきた道にレールが敷かれていたとしたって、自分の脚で歩いてきたのにゃかわりねぇ。
 レールがなくなったって、今までどおりに歩いていくぜ」

 何の気負いもなく宣言する柊を眩しそうに見つめ、アンゼロットは呟いた。

「聖火姫(セント★フレイム)が、エルンシャ様の娘の一人が、生前、こう言っていましたわ。
 人間の力は弱く、その心はたやすく正にも邪にも傾く。
 でも、だからこそ、無限の可能性を秘めているとも言えるのだ、と」
「アイツの娘たちって、みんな何かしら一家言持ってんのか? まだ、ちいせぇだろうにっ― って『生前』?!」
「ええ……」

 ふっ、と寂しげな表情を浮かべ、アンゼロットはティーカップの中に視線を落とした。
 水面に映る顔を見つめ、静かに囁く。

「柊さんがシャノンの護衛をしていた頃ですわ。他の姉妹二人のと同時に、訃報が届いたのは。
 皆、暗殺者の刃にかかったと聞いています。おそらくはエルヴィデンスが放ったものでしょう」
「そうか……そういや、そんな話もしてたな……」
「あの子は超★高飛車で……わたくしにも、イクスィムにも全然懐かなくて……
 それから……それから、とても人間が好きでしたわ」

 それきり、沈黙が場に満ちて。
 ただ、時だけが静かに流れていった。

「え、えーと。きょ、今日はとっておきのケーキがあるんですよ!」

 ややあって、エリスが努めて明るい声を出し、重苦しい空気を打ち破った。

「はいっ、これ! じゃーん! 特製のシフォンケーキです!」

 自分で効果音を口にしながら、テーブルの上に大皿を置いた。
 綺麗に焼かれ、ホイップクリームの乗せたケーキは見るからに食欲をそそり、甘い香りが鼻腔をくすぐった。

「お? おお! 美味そうなケーキじゃねぇか」
「さささ。早く食べてみてきださい。きっと驚きますよ?」
「そ、そうか?」
「はわっ! おいしそうー。いっただきっまーす」

 まぐっ、はぐはぐ、まぐっ。

「んーおいしー。エリスちゃん、また料理上手くなったんじゃない?」
「えへへ。そのケーキ、私が作ったんじゃないんですよ? 誰が作ったかわかりますか?」
「はわ? じゃ、コイズミさんが作ったとか?」
「いえ。違います」
「じゃ、00さん? エヴィ君? それとも、天竜君?」
「なんで男の人ばっかりなんですか」
「あ。女の人なんだ。じゃ、シャノンちゃん? それとも、コジマメさん?」
「残念。どれもハズレでーす」
「うーん。あかりんのはずはないしなー」
「くれはさん? 誰か忘れていませんか」

 腕組みをして頭を悩ませるくれはの前で、アンゼロットが怒気を放ち始め、男達は不安に満ちた表情で顔を見合わせた。

「柊様。このケーキは、もしや……」
「ああ……俺も同じ意見だ」
「はわ? ひーらぎは誰が作ったか分かったの?」

 柊とコイズミの遣り取りに気付き、くれはは二人の視線を追った。
 その先で、アンゼロットが頬をヒクつかせながら微笑んでいた。

「今日はひさしぶりに、わたくしもケーキをつくりましたの」
「はわっ?! アンゼロット、ケーキつくれたの?」
「それはどーゆー意味ですか、くれはさん?」
「その言い方は失礼ですよ、くれはさん!」
「はわわっ! べべべつに深い意味はないよ! ただ、珍しかったから驚いただけ!」
「普段は仕事が忙しくて作る暇がないだけです。それに、辛い思い出もあったものですから」
「はわ? なんでケーキに辛い思い出があるの?」
「それは……」

 困惑したくれはが尋ねると、アンゼロットは口ごもり、悲しげに目を伏せた。
 エリスが無言で紅茶のお代わりを注ぐと、礼を言って口をつけ、ややあってからおもむろに重たい口を開く。

「昔、わたくしと姉のイクスは……丁度、今のくれはさんとエリスさんのように、とても仲が良かったんですよ?
 それが、二人同時にエルンシャ様を好きになってしまって……
 仲違いをしてしまったんです」
「はわー」
「わたくしたちは競い合ってケーキやクッキーを作って、一生懸命エルンシャ様にアプローチしましたわ。
 お優しいエルンシャ様は、わたくしたちのつくったお菓子を、それはそれはおいしそうに食べてくださって」
「うんうん、とってもおいしーよ、アンゼロット。これ持って迫って落ちない男とか信じらんないねー」
「イクスのクッキーも、これと同じくらい美味しかったのですから仕方ありませんわ」

 銀髪の少女は懐かしさに目を細めて思い出を語る。

「わたくしたちはエルンシャ様の心を射止めようと、夢中になってお菓子をつくって」
「はわはわ」
「で、仕事すっぽかしてケーキつくってたら、その隙に古代神が復活して、お父様におもいっきり怒られたんです」
「それはマズすぎるでしょ! いくらなんでも!」
「まあまあ、くれはさん。そんなに大声を出さなくても……子供のころの話ですし、それに、魔王が復活するなんていつもの事じゃないですか」
「それもそっか。別に大した事じゃないよねー」
「い、いえ……あの邪神は裏界のショウジョウバエなんかとか全く……」

 引き攣った顔をしたアンゼロットの台詞は、花が咲くようなくれはの笑顔に遮られた。

「ねえ、アンゼロット。このケーキの作り方、あたしにも教えてよ」
「ええ? ええ、いいですよ。このケーキは水に代わりに紅茶を使っているんです」
「はわー! 紅茶をー!」
「アンゼロットさんらしい工夫ですよね」

 少女たちがかしましくする横でコイズミがそっと席を立ち、微笑ましく彼女らを見つめる柊に並んだ。
 少女達に温かい眼差しを送りながら、柊にだけ聞こえるように、小さく囁く。

「柊様。私は思うのですよ。この光景こそが、私達の守っているものなのだと」
「ああ、そうさ。俺たちは、この笑顔を守るために闘ってんだ。いくら世界を救うためでも、誰かを生贄にしちまったら、コイツは守れねぇんだよ」

 そうだろ、マサト。

 最後の一声を口に出す事なく、柊が見上げた空には、眼鏡をかけた童顔の少年の顔が浮かんでいた。



 こうして、アンゼロットは過去の待つ故郷、エル=ネイシアに向かい―
 柊はウィッチブレードに跨り、未来を勝ち取るべくラース=フェリアを目指した。



――おい、宮殿! なんかヤバそうなのがソッチに向かったっ!! 多分、ファンブック4のラスボスだ!――
「アンゼロット様! 柊様が、メタなこと言っておられます!」
「ほっておきなさい! 今はそれどころではありません!」
「前方に高エネルギー反応発生! 来ます!」

「うわぁぁぁぁぁっぁぁぁぁぁぁぁぁ!! だめだぁぁぁぁっぁあぁぁぁぁぁぁっぁぁ!!」

 そして、ロンギヌス・コイズミは、ラース=フェリアに程近い精霊界で冥刻王メイオルティスの攻撃を受け、主八界から退場した。


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