ナイトウィザード!クロスSS超☆保管庫

第06話

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アメリカの深い森の奥にあるその研究施設が作られたのは今から数年前のことだった。
研究施設の入り口の物々しく武装した警備を少し離れたところから見つめる、3人の男たちがいる。
「辰太郎さん、ここから先は私1人で行きます」
その内の1人。眼鏡をかけたひょろひょろな男が言う。
もう1人の眼鏡をかけた男、辰太郎と呼ばれた男はそれにかぶりを振ってこたえる。
「いやいや。そうはいきませんや、銀一郎さん。ここまで来て帰れってのは逆に酷ってものです。
こうなったら最後までお付き合いしますよ」
「ですが、典代を、妻をさらわれたのはもとはと言えば私の油断があったからだ。それに、私たちの力を悪用する計画を野放しにはできません」
「そりゃあ私も一緒ですよ、銀一郎さん。私には、あいつらを止める義務がある」
「義務?」
辰太郎の言葉に眼鏡をかけたひょろひょろの男、銀一郎が聞き返す。
「ええ。この計画を進めてるのは、元はと言えばとある武器密売組織の生き残りでね…俺が、殺さなきゃいけなかった男だ」
6年前のことが辰太郎の脳裏に蘇る。
「あの日、ちゃんと死んだことを確認しておけば、こんなことにゃあならなかったんだ」
悔しそうに言葉を吐き出す。
「それだけではないぞ、どりぃ~む」
辰太郎に、3人目の男、眼帯をつけた奇抜な格好の男が言う。
「この『人狼兵士量産計画』、真に糸を引いているのは、魔王だ。それを止めるべく、俺は来た」
「魔王、ねえ…」
その言葉に銀一郎が苦笑する。
「マンガの題材にでも使いたいが、編集は許してくれないだろうなあ」
銀一郎は既に知っている。目の前の怪しげな男が、本物の魔法使いであることを。
「さ、そろそろ行きましょうや。さっさと終わらせて、帰らにゃなりません」
辰太郎が、ちょっとそこまで行くかのように宣言する。映画のように、大量の銃器を帯びて。
「ええ。そうですね。こんなことは、さっさと終わらせるに限る」
銀一郎の身体が膨らみ、全身が毛で覆われる。
「うむ。愛する妻と娘の元へ帰るために…どりぃ~む」
最後に、奇抜な格好の男が立ち上がる。そして、その言葉に3人は頷きあった。

男は元戦争屋。数々の修羅場を乗り越えた、歴戦の戦士。
男は、本物の狼男。その力が解放されれば、誰にも止めることなどできない。
そして男は、魔法使い。魔王のたくらみを阻止するべく、異世界までやってきた。

生まれも、考えも、戦い方も違う3人の男。ただ一つ、彼らに共通することは…
「銀之介の奴が本当に独り立ちして、いい人を見つけるまでは…」
「花が大きくなってお嫁に行くまでは…」
「花子とマユリを残して…」

「「「死ぬわけには、いかない!」」」

父親であること。
そして、3人の父親たちの熱い戦いが始まるのだが、今回はその話は割愛させていただく。

 *

飯波商店街にある、小さなうどん屋。
そこには今、飯波商店街で話題の、美形外人兄妹が女の子を連れてやってきていた。
「すみません。僕には山菜うどんを」
「あたしは天ぷらうどん大盛りで!」
「アタシはこのお子様うどんにしておくでしゅ」
「は~い」
外ハネとそばかすが可愛らしい少女が注文を書きとめながら、にこやかに言う。
時刻は午後8時。晩御飯どきの一番忙しい時間帯を外したおかげか、店には今、他の客の姿は見えない。
「それじゃ、おとうさんが持ってきてくれると思うんで、ちょっと待っててくださいね」
どうやら少女はこの店の娘のようだ。おとうさ~ん、あとよろしく~と声をかけながら厨房の方へ行ってしまう。
それを確認して静がいのりに問う。
「それで、いのり君、本当なのかい?人狼と出会ったって」
「うん。学校の近くの工事現場でね。敵と戦うのを手伝ってもらった…ってことになるのかな?
そんでその後、白衣の男の魔法を食らって、その男を追いかけて行っちゃった」
「その白衣の男は、ほぼ間違いなくアラキでしゅね」
いのりの言葉にサフィーが頷きながら言う。
「じゃあ、あれがサフィーちゃんが襲われた吸血鬼ってこと?」
「そうでしゅ。あれでも1000年以上生きてるやばい奴でしゅ。力もアタシよりずっと強いでしゅ」
「ガードしたファイアワークスの上から魔法を通してくるあたり、ただものじゃないとは思ってたけど。それに…」
いのりがちらりと2人の方を見る。
「ああ、僕らの方は人狼に襲われた。ちょっとしか戦ってないけど、恐らくLvは僕らより上だろう」
「その辺はよく分かんないでしゅけど、あのスピードは厄介でしゅね」
「となると、まずは…」
「へいお待ち!」
絶妙なタイミングで、店の親父がうどんを運んでくる。
「山菜に、天ぷら大盛りに、お子様!」
やたら元気の良い親父がどんどんと熱いうどんの入ったどんぶりを並べていく。
「ささ、熱いうちに、ずずいっと」
目をきらきらさせてじっと親父がじっとこっちを見る。このまま手を着けずに話を続けてなんて言ったらどうなるかわかったもんじゃない。
「じゃあ、頂こうか」
手元に置かれた箸を手にとり静が2人に声をかける。
「だね。色々あってお腹ペコペコだよ」
「賛成でしゅ」
そんなことを言い、食べ始めた3人を見てようやく親父は満足して頷きながら厨房へと戻って行った。

「ひぇ、しぇんしぇはいったいなんひぇいほーとひてたの?」
「…いのり君、口の中のものはちゃんと飲み込んでから喋りなさい」
口いっぱいにうどんをほおばり、うどんのつゆを飛ばしながら喋るいのりに、静が眼鏡についた茶色い汁を拭きながら落ち着いた口調で注意する。
「あ、うん…で、話戻すけど、さっきはせんせいなんて言おうとしてたの?」
「ああ、そうそう、これからのことなんだけどね、まずは“銀之介”を探そうと思うんだ」
「銀之介?」
「ああ、僕らが戦った人狼が、最後に言っていたんだ。“銀之介”ともどもハンバーグにしてやるってね。
人狼がわざわざ言うくらいだから、もしかしたらその“銀之介”がいのり君が一緒に戦ったっていう人狼かもしれない」
「う~ん。もしそうなら確かに力を借りられれば心強いかなって思うけど、どこにいるか分かんないよ?
あ、そうだ。サフィーちゃんはこの世界の人狼について何か知らないの?」
そう言いながらちらりと慣れない箸に悪戦苦闘しながらうどんを食べるサフィーの方を見る。
視線に気づいたサフィーはうどんを飲み込んで、言った。
「狼人間なら何回か見たこともあるでしゅ」
500年も生きているだけあって、知識が豊富なサフィーが言う。
「けど、あんまし詳しいことはアタシも知らないでしゅ。人間にまぎれて暮らしてる連中でしゅから、変身してなきゃ分かんないでしゅ」
「そっかあ…じゃあ、探すのは難しいかな?」
「そうでしゅね。一応こういうのに詳しそうなツテがあるでしゅから、そっちに聞いておくでしゅ」
「そう?じゃあ、頼んでもいいかな?僕らは明日から学校があるから」
「分かったでしゅ。じゃあ、“銀之介”についてはそっちに任せるでしゅ」
「うん。分かった。じゃ、サフィーちゃんも気をつけてね」
お互いがこれからやるべきことを決めて、頷き合う。
「それにしても、人狼ねえ…案外近くにいたりして」
うどんをすすりこみながら、いのりが何気なく上を見上げて言った。

 *

「いたた…」
その、すぐ上、飯波商店街にある小さなうどん屋、七味うどん亭。その2階で、噂の人狼こと駒犬銀之介が顔をしかめて言う。
「あ、ごめん?強く巻きすぎた?」
その傍らで銀之介のことをかいがいしく世話をしている外ハネでそばかすの少女の名は、七味唐子。
七味うどん亭の1人娘である。
「いんや、ちょっと薬がしみただけ。ごめんな。お店手伝えなくて」
吸血鬼の男を追い、結局見失った後ずっと、銀之介は傷を癒すために狼の姿を取っていた。
今人間に戻ったら、本気で死にかねない。
「もう、そんな場合じゃないでしょ!今は傷を治すのが先!」
銀之介の言葉に唐子は怒ったように言う。
「うん…それにしても、この傷、全然治らないな。まるで、狩谷先生に銀の弾で撃たれたときみたいだ」
アラキの魔法で受けた傷は、銀之介の、変身した狼人間の基準ならばとっくに治っている程度のものだった。
だが、魔法に込められた癒しを防ぐ呪いが、銀之介の回復を阻害していた。
「あの女の子といい、変なことばっかりだ」
「女の子?銀之介くんが言ってた鳥頭の怪物連れた女の子のこと?」
「うん。ショートカットで、元気そうな感じの子。飯波高校の制服を着てたから飯波高校の生徒だと思う。
僕がウィザなんとかかって聞いて来たんだけど、何者だったんだろう?僕を見ても驚いて無かったし」
まさかすぐ下でうどん食ってる本人がいるとは思わず、銀之介が首をかしげて考え始める。
「う~~~ん。そう言う子には覚えが無いなあ。新しく入った1年生かな?」
「そうかも。まあ、これ以上は考えてもしょうがないけどね」
「そだね」
「とりあえず今は吸血鬼と狼人間をどうにかしないとなあ…」
銀之介が困ったような顔で言う。吸血鬼の方も自分1人で何とかするのは難しいことを思い知らされた。
「吸血鬼かあ…吸血鬼って本当にいるんだね。あたしも知らなかったよ」
まさかすぐ下でうどん食ってる吸血鬼がいるとは思わず、唐子が感嘆して言う。
「三石ちゃん辺りが聞いたら喜びそうだけど」
「そうだね…」
出来ればこの街で会いたくない人の1人に含まれる、ぐるぐるメガネの少女を思い浮かべながら銀之介がげんなりと言った。
ぐるぐるメガネがトレードマークの三石ちゃんは、確か今年で高校3年生だ。きっと今日もまた飯波高校で不思議研究部の怪しげな活動にいそしんでいるんだろう。
「ああ、そういえば三石ちゃんで思い出した。これ、漆野さんから預かったんだ。吸血鬼の写真」
三石ちゃんの話題になってあることを思い出した銀之介がGパンのポケットから1枚の写真を取り出す。
その写真に写っているのは、教会だった。中心に写っているタキシード着た男の人と純白のドレスを着た美少女の2人を取り囲んでたくさんの人が写っている。
空が満点の星空と満月なことをのぞけばその写真は…
「これって…結婚式?」
「うん。真ん中の2人が吸血鬼なんだってさ」
「へえー、あ、漆野刑事も写ってる…あれ?」
写真を見ていた唐子は微妙な違和感を感じた。
「どっかで見たような…」
漆野以外にもここに写っている誰かを見たことがある気がする。それもものすご~く最近。
「ああ、これのこと?」
そう言いながら銀之介は男のすぐそばを指さす。
腕を組んで少し不機嫌そうな顔をしている、超美人の女と、それを取りなす、おかっぱ頭の少女。
「倉地先生に、三石ちゃん!?」
驚いて思わず唐子が大きな声をだす。
「三石ちゃんの方は、三石ちゃんのお姉さんらしいんだけどね」
銀之介が漆野から聞いた話を唐子に教える。
「この写真の男の方…森写歩朗さんって言うんだけど、この人と倉地先生は同級生なんだってさ。
そんで三石ちゃんのお姉さんがその後輩だって。僕も漆野さんに聞いて驚いたよ」
「へえ。世間って意外とせまいね」
先ほど感じた違和感を忘れ、唐子は関心したように言う。
「うん。僕も思った」
銀之介が頷いて答えた。そして2人して結婚式の写真をしげしげと眺める。
「結婚かあ…」
唐子がちょっぴり夢見る乙女風味の色を混ぜて言う。
もやもやと色んな妄想が広がる。

青い空、白い教会で、白いドレスを着てほほ笑む唐子。と~ぜんソバカスだって消えてる。大人の女なのだ。
周りには家族と友達。みんなが笑顔で二人を祝福してくれる。
そしてその隣には白いタキシードを着た、ちょっぴり頼りなさげな…

唐子はブンブンと頭を振りだした。思い浮かんだ光景を、慌てて消し去るために。色々恥ずかしいもんが見えてしまったのだ。
「ん?どうした唐子、顔、真っ赤だぞ?」
そんなことは露とも気付かず、銀之介が唐子に尋ねる。
「へ!?いやそんなことないよ!?」
うわずった声で唐子は答えた。

…その、恥ずかしいもんのせいか、唐子は気づかなかった。自分が見た気がする少女のこと。
純白のドレスを着た少女のすぐ傍らに立つ、美しく着飾った小さな赤毛の少女。
彼女が、すぐ下でうどん食ってる吸血鬼の少女と同一人物である、と。

世間は意外にせまいのだ。

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