ナイトウィザード!クロスSS超☆保管庫

第17話

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1年2組の出し物はメイド喫茶である。

と言ってもただのメイド喫茶では無い。
何しろ、このクラスの担任は、家にマジでメイドがいるとゆ~大金持ちのお嬢様、倉地香なのだ。
ついでに言えば美術教師を務めるだけあって美的センスも抜群なのだ。
1年2組の内装とメイド服のクオリティの高さはその辺から来ている。
そんなわけで。1年2組のメイド喫茶は、大盛況であった。

「ごめんね~。まさか銀之介と唐子さんが来るって思ってなくてさ」
テーブルの上にケーキとお茶を並べながら申し訳なさそうなメイド服姿のいのりが謝る。
いのりは1年2組のメイド喫茶と不思議研のお化け屋敷で掛けもちで働いていた。
意外と美少女な上に家事全般を得意とするいのりは、1年2組においても貴重な戦力として重宝されていた。
「いや、いいよ」
唐子の前で恥ずかしいところを見せてしまった銀之介がちょっとだけ不機嫌そうに言う。
男のメンツとか色々気になる年頃なのだ。
「いいって、いいって。気にしてないよ」
からからと笑うのは唐子。動物で例えると能天気なウサギって言われるくらい能天気なだけあって、あんまし気にしてない。
「むしろ銀之介君が言ってたあれを間近で見られてラッキー、みたいな?」
唐子があれと言った、燃え盛る鳥頭の大男、読者の皆様にはもうすでにおわかりだろう。
いのりの魔物、ファイアーワークスである。
「本当にすごいね。あれ。いきなりあれが出てきたら気絶する人とかいたんじゃない?」
「…いやね、違うんですよ?最初はちょ~っと驚かす程度だったんですよ?」
唐子の指摘にいのりが慌てて言う。
いくら世界結界が無いからと言ってあんな登場の仕方をしたらちょ~っと驚かす程度じゃあすまない。
んなこたあいのりにだってわかっていた。だが、それがあそこまで暴走したのは…
「ただね、こう何組も何組もカップルば~っかり来るとあたしに喧嘩売ってんのかな~って…」
カッとなってやった。カップルなら誰でも良かった。今は反省している。いのりの心情を例えるとこんな感じである。
実際にあれで保健室送りにしたカップルは1組や2組じゃなかったりする。
「そりゃあね?あたしだって分かってるのよ?選んだのは京介なんだし幸せになって欲しいのはあたしも一緒だし」
徐々にいのりがヒートアップしていく。うっかり蘇った、忌まわしい記憶のために。
2週間前の夜。珍しく電話をよこしたと思ったら、その話だったのが、すべての不幸のはじまり。
「でもさ…こっちが悪魔とセメントしたり毎日毎日地味~なパトロールしたり魔王敵に回したりしてるってえのに、
向こうは楽しくオフ会ってどゆこと!?しかもそれに京介同伴ってデートかっての!?」
珍しくハイテンションだった少女は喋り続けた。延々と、延々と…すっかり夜が明けるまで。妹がすっかりげんなりするまで。
夜型な彼女に、朝型の気持ちなんて分からないから。
「ええと…いのり…さん?」
不穏な空気と異様な熱気を感じて、背中に走るいも虫を感じた銀之介が、おずおずと止めようとする。
だが、残念ながら銀之介の言葉は届かなかった。
「京介も京介よ!メンバーが幼女に年下のゴスロリ少女にえっちなおねーさんってそれなんてエ…こほんギャルゲかっての!?
あんたは柊蓮司か!ゆくゆくはnice boatかっ!?」
「うわっちゃあ!?」
いつの間にか銀之介のカップの紅茶が煮えたぎっていた。
ついでにちょっぴり焦げくさい。…主にいのりの周りが。いのりから漏れ出した紅い炎で。
「あたしだって年頃の女子高生だってのになんだって任務!?しかも男はせんせいと彼女持ちでおまけにせんせいはせんせいでなんかロリっ子とフラグ立ててるし!
なにこれ、嫌がらせ!?GMの陰謀!?扱い悪すぎじゃない!?」
いのりの暴走はその後、しばらく続いた…

 *

「つ、疲れた~」
唐子がテーブルに突っ伏す。
同じく突っ伏す銀之介、ちょっぴり前髪が焦げているのは、努力の証。
あの後、暴走するいのりを止めるなんてその辺のクラスメイトにできるはずも無く。
結局2人で必死にいのりをなだめ、何とか落ち着かせた。
「ごめん…あたし、たま~に暴走すると止まらなくって…」
いのりがしょんぼりとして謝る。
「いいのいいの。たまにはこうして色々吐き出さないと辛いこともあるよね」
唐子がいのりを慰める。
唐子にはいのりの気持ちが痛いほど分かったから。
「うう…唐子さ~ん」
周囲の優しさが身に染みる。いのりが唐子に抱きついた。
そんなときだった。

ぴんぽ~んぱんぽ~ん

微妙に気の抜ける、ずれた音程で教室に響き渡るお知らせのチャイム。

「本日、午後2時より体育館にて演劇部による創作劇『僕の血を吸わないで』を上演いたします。
皆様、是非見に来て下さいますようお願いいたします」

「へえ~今年は演劇部創作劇なんだ」
唐子が関心して言う。毎年毎年よく頑張るな~と言った感じで。
「ああ、そう言えば春美ちゃんが言ってました。なんか昔演劇部を救った劇でその台本で不思議研のお化け屋敷を手伝わせたとかどうとか」
一通り落ち着いたいのりが春美から聞いた話を2人に言う。
「演劇部を救った?どゆこと?」
「え~っと確か」

「そこからは私からご説明しましょう!!!!!!!!!!!!!!!!」

「うわ!?」
突然銀之介の後ろから大きな声と共に1人の少女がひょこっと顔をだす。
その姿を見て、唐子と銀之介はさらにびっくりした。
着ているのはいのりと同じメイド服。髪の色は茶色だしリボンだって青い。だが、このおかっぱ頭とぐるぐるメガネは…
「「三石ちゃん!?」」
「どうも~はじめまして~小夏お姉ちゃんの妹の春美です。どぞ、よろしく~」
手慣れた様子でゲーセンで作った名刺を取り出して2人に渡す。
「三石ちゃん、妹いたんだ…」
「びっくりするほどそっくりだね」
それを受け取りながら2人がそれぞれの感想を言う。
「ええ、よく言われます。さて、こっからが本題です」
こほんと1つ咳払いをして、春美が喋り出した。
「僕の血を吸わないでと言うのは6年前、廃部の危機にあった演劇部においての救世主とも言える劇なんです!」
「廃部の危機?」
廃部と言う言葉に銀之介は首をかしげた。
「だって、あの演劇部だろ?あんましつぶれそうな感じじゃなかったけど」
飯波高校演劇部は、文化系の中では割と大きい部活だ。部員だって結構な数いる。
「あ、でも聞いたことがあるよ」
生粋の飯波高校卒業生であるだけに、唐子は飯波高校にまつわる色々な話も知っていた。
「何か演劇部の部員が増えたのはあたしが入学する前までいたものすごく可愛い外人の女の子の部員目当てで入った人が多かったからだって。
それで、その人はずっと帰りを待ち続けてた人がいて、最後は帰ってきたその人と駆け落ちしちゃったんだって。ロマンチックだよね~」
唐子の話を聞いて、春美は大きく頷いて話を続ける。
「その通りです。そして、その女の子が入る直前の6年前、演劇部は一度潰れかけてるんです。
しかし、演劇部はその年の演劇コンクールでいい成績を残してたおかげで存続が決まり、その後は唐子さんの言ったとおりです。
6年前、演劇部は部員はわずか3人、しかもそのうち2人は3年生と言う本当に酷い状況でした。
このままじゃ下手したら春すら迎えられない。そんなとき、3年生の部員の1人が一念発起して3人でもできる劇として台本を書いたのが『僕の血を吸わないで』なんです!

ちなみに一晩でやってくれたそうです!そしてその後、新しい部長の方針でこの劇は封印され、そのまま幻の劇となったのです!」
春美の熱演。そのはた迷惑っぷりは姉に勝るとも劣らない。
既にいのりと唐子、銀之介以外の人間は客も店員もみんな退避している。
「そ、そうなんだ…」
本当は逃げ出したかったが、絶対回り込まれそうな気配を感じて銀之介がちょっぴりひきつった愛想笑いを浮かべる。
三石ちゃんと同じなら、そうそう離してくれないだろうななどと考えながら。
「それで、その幻の劇の台本を見つけたのが…」
「はい!私です!当時の部員しか持ってないだろうってことで苦労すると思ってました!」
春美が貧相な胸を張って堂々と答える。
「でも、良く見つけたね。3人の部員ってことは3冊しかないってことでしょ?しかも6年前のなんて」
よくもまあそんなのを見つけ出したもんだといのりがすなおに感心する。
「ええ。姉さんは読み終わった本でも大事に本を取っとくタイプだったのが勝因です」
いのりのもっともな疑問に春美は不思議な返しをした。
「え?姉さんって、三石…じゃあ分かんないよね。小夏ちゃん?それになんの関係が?」
唐子が首をかしげる。
「あれ?知らないんですか?」
その様子に春美がちょっとだけ考えて笑顔で言う。
「私には小夏お姉ちゃんの上にもう1人姉さんがいるんですよ」
「「ええ~!?」」
2年間小夏と一緒の学校に通っていたが初耳だった2人が驚く。
「それで、その姉さんが当時の唯一の1年生の部員だったんです。ちなみに例の劇ではヒロインやったって自慢してました!」
と、言うわけでこっちも演劇部のお手伝い行くんで失礼します~と去っていく春美を見送りながら、銀之介と唐子がお互い顔を見合わせる。
「なんて言うか…」
「世間ってせまいね」
そして、2人して乾いた笑いを浮かべた。

ちなみに。
その台本を書いたのが漆野刑事の言ってた知り合いの吸血鬼だったりするのだが、それはまた、別の話。

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