話はちょこっとだけさかのぼる。
「…っけぷ」
サフィーが幸せそうに可愛らしいげっぷをする。
「ごちそうさま。やっぱりこれが一番ね」
久しぶりのご馳走に対して、満足げに言う。
「うう…酷いじゃないか、サフィーちゃん」
ご馳走こと静がちょっぴり青くなった顔で、抗議した。
若き天才魔術師と歴戦の吸血鬼。魔法の腕前も知恵も経験もほぼ互角。
だが、1つだけ。体力が違った。
普通の人間と大して変わらない魔術師では文字通りの意味で鬼のような体力を持つ吸血鬼にかなうわけも無い。
「あら。アタシは吸血鬼よ?血を吸うのは当然じゃない」
悪びれる様子も無くあっけらかんと言う。
「むしろご馳走を目の前にして1ヶ月も我慢してたのよ?感謝して欲しいぐらいだわ」
血を吸うと言う行為は吸血鬼に取っては本能に近いものだ。
いくら飢えてないとはいえ、目の前でちらつかされては我慢にも限界がある。
「だけど…」
納得いかない静がさらに言葉をつむごうとした、その時だった。
サフィーが幸せそうに可愛らしいげっぷをする。
「ごちそうさま。やっぱりこれが一番ね」
久しぶりのご馳走に対して、満足げに言う。
「うう…酷いじゃないか、サフィーちゃん」
ご馳走こと静がちょっぴり青くなった顔で、抗議した。
若き天才魔術師と歴戦の吸血鬼。魔法の腕前も知恵も経験もほぼ互角。
だが、1つだけ。体力が違った。
普通の人間と大して変わらない魔術師では文字通りの意味で鬼のような体力を持つ吸血鬼にかなうわけも無い。
「あら。アタシは吸血鬼よ?血を吸うのは当然じゃない」
悪びれる様子も無くあっけらかんと言う。
「むしろご馳走を目の前にして1ヶ月も我慢してたのよ?感謝して欲しいぐらいだわ」
血を吸うと言う行為は吸血鬼に取っては本能に近いものだ。
いくら飢えてないとはいえ、目の前でちらつかされては我慢にも限界がある。
「だけど…」
納得いかない静がさらに言葉をつむごうとした、その時だった。
ぴんぽ~んぱ~んぽ~ん
「本日、午後2時より体育館にて演劇部による創作劇『僕の血を吸わないで』を上演いたします。
皆様、是非見に来て下さいますようお願いいたします」
「本日、午後2時より体育館にて演劇部による創作劇『僕の血を吸わないで』を上演いたします。
皆様、是非見に来て下さいますようお願いいたします」
「…僕の血を吸わないで?」
サフィーが首をかしげる。
聞き覚えがあるそれは割と最近…そう、ここ10年位の間に。
「…ああ」
少し考えて思い出した。あの頃に妹から聞いたことがあった。
思い出したサフィーがちらりと静の方を見て、言った。
「ねえ、アンタ、暇ならちょっと付き合ってくれない?」
サフィーが首をかしげる。
聞き覚えがあるそれは割と最近…そう、ここ10年位の間に。
「…ああ」
少し考えて思い出した。あの頃に妹から聞いたことがあった。
思い出したサフィーがちらりと静の方を見て、言った。
「ねえ、アンタ、暇ならちょっと付き合ってくれない?」
*
「やったわ」
「ああ、やったな」
長い戦いが、終わった。恐るべき吸血鬼狩人は、ついに2人の前に敗れ去ったのだ。
「これで私たち一族を脅かすものはなくなった。闇の中に自由が生まれたんだわ」
「よかったな」
2人に安堵の笑顔が浮かぶ。
「ありがとう真太郎。私のために」
「いいってことよジル」
「真太郎」
ジルと呼ばれた少女が真太郎と呼ばれた少年にとびついた。
「真太郎、噛んでも…いい?」
見つめ合い、ゆっくりとジルが真太郎に聞いた。
「………ああ」
真太郎もまたゆっくりと頷いた。決意を込めて。
「もう光の世界には出てこれない。成長も止まる。おいしいものも食べれない。人間でなくなる。それでもいいの?」
「ああ、ジルと一緒だから。闇の世界でもかまわない。ジルと共に永遠を生きるよ。孤独を感じることなくね」
真太郎の瞳には、もう迷いは無かった。一番大切なものが何か、分かったから。
「真太郎」
ジルの唇がそっと真太郎の唇に触れる。そしてそのまま首筋へ。
永遠の愛のテーマが流れる中、ゆっくりと幕が下り、体育館中に拍手の音が鳴り響いた。
「ああ、やったな」
長い戦いが、終わった。恐るべき吸血鬼狩人は、ついに2人の前に敗れ去ったのだ。
「これで私たち一族を脅かすものはなくなった。闇の中に自由が生まれたんだわ」
「よかったな」
2人に安堵の笑顔が浮かぶ。
「ありがとう真太郎。私のために」
「いいってことよジル」
「真太郎」
ジルと呼ばれた少女が真太郎と呼ばれた少年にとびついた。
「真太郎、噛んでも…いい?」
見つめ合い、ゆっくりとジルが真太郎に聞いた。
「………ああ」
真太郎もまたゆっくりと頷いた。決意を込めて。
「もう光の世界には出てこれない。成長も止まる。おいしいものも食べれない。人間でなくなる。それでもいいの?」
「ああ、ジルと一緒だから。闇の世界でもかまわない。ジルと共に永遠を生きるよ。孤独を感じることなくね」
真太郎の瞳には、もう迷いは無かった。一番大切なものが何か、分かったから。
「真太郎」
ジルの唇がそっと真太郎の唇に触れる。そしてそのまま首筋へ。
永遠の愛のテーマが流れる中、ゆっくりと幕が下り、体育館中に拍手の音が鳴り響いた。
「あ、あはは…すごかったね」
まさか高校生の演劇でキスシーンまでやるとは思っていなかった唐子が誤魔化すように言う。
何しろすぐ隣にはまだ1回しか唐子とキスをしたことのない(他はノーカン)男の子と一緒に見たのだ。
照れてしまうのも無理は無い。
「いや~まさかキスまでするなんて…あの2人って恋人かなんかなのかなそうだとしたら納得だけどそ~じゃなかったら演劇にかける魂っていうか…聞いてる?銀之介君」
隣を見て気づく。
「え?ああ、ごめん。何?」
「も~だからキスするなんてすごかったねって!」
「あ、うん。そうだね」
銀之介が気のない返事を返す。唐子がその返事にむくれるが、銀之介は気づいていなかった。
まさか高校生の演劇でキスシーンまでやるとは思っていなかった唐子が誤魔化すように言う。
何しろすぐ隣にはまだ1回しか唐子とキスをしたことのない(他はノーカン)男の子と一緒に見たのだ。
照れてしまうのも無理は無い。
「いや~まさかキスまでするなんて…あの2人って恋人かなんかなのかなそうだとしたら納得だけどそ~じゃなかったら演劇にかける魂っていうか…聞いてる?銀之介君」
隣を見て気づく。
「え?ああ、ごめん。何?」
「も~だからキスするなんてすごかったねって!」
「あ、うん。そうだね」
銀之介が気のない返事を返す。唐子がその返事にむくれるが、銀之介は気づいていなかった。
『もう光の世界には出てこれない。成長も止まる。おいしいものも食べれない。人間でなくなる。それでもいいの?』
ギクリとした。自分でも気づいていなかった本心をつかれたような気がして。
ギクリとした。自分でも気づいていなかった本心をつかれたような気がして。
半年前、叔父さんと戦った時に、自分の中で一番大切な人が誰だかは分かった。
だが、同時にこうも思った。それを伝えてはいけない、と。
何故かはずっと分からなかった。
けれども気づいてしまったのだ。なぜ伝えてはいけないか。
だが、同時にこうも思った。それを伝えてはいけない、と。
何故かはずっと分からなかった。
けれども気づいてしまったのだ。なぜ伝えてはいけないか。
…伝えてしまったら、そして彼女がそれを受け入れてしまったら、駒犬の人生に巻き込んでしまうから。
正体がばれるたびに迫害されて逃げ出すか、誰も来ないような山奥でひっそりと暮らすか。
2つに1つ。それが銀之介の知る限りの狼人間の生き方だった。
銀之介の父親、銀一郎は前者の暮らしを選んだ。幼く、いまだに変身を制御できない自分を抱えて。
そのせいで引っ越しを25回もして来た。
2つに1つ。それが銀之介の知る限りの狼人間の生き方だった。
銀之介の父親、銀一郎は前者の暮らしを選んだ。幼く、いまだに変身を制御できない自分を抱えて。
そのせいで引っ越しを25回もして来た。
唐子は、ありのままの自分、狼人間の銀之介を受け入れてくれた大切な人だ。
だから、余計な苦労はかけたくない。
狼人間と暮らすと言う事は、とても大変なことだから。
唐子には幸せになって欲しい。だけど、自分が幸せにできるかって言われたら…分からない。
けれど、狼人間と暮らすよりは普通の人間同士で結ばれた方が幸せになれる。そう、思ったのだ。
だから、余計な苦労はかけたくない。
狼人間と暮らすと言う事は、とても大変なことだから。
唐子には幸せになって欲しい。だけど、自分が幸せにできるかって言われたら…分からない。
けれど、狼人間と暮らすよりは普通の人間同士で結ばれた方が幸せになれる。そう、思ったのだ。
「銀之介君?本当にどうしたの?」
ずっとうわの空な銀之介を見て、今度は心配になったのだろう。唐子が不安げに銀之介に話しかける。
「い、いや!ただちょっと劇に感動しててさ!その、面白かったから!」
ハッとして銀之介が返した、その時だった。
「まさか貴様のような狼男にかつて我らが女神が主演を務められたこの劇の素晴らしさが分かろうとはな…」
ずっとうわの空な銀之介を見て、今度は心配になったのだろう。唐子が不安げに銀之介に話しかける。
「い、いや!ただちょっと劇に感動しててさ!その、面白かったから!」
ハッとして銀之介が返した、その時だった。
「まさか貴様のような狼男にかつて我らが女神が主演を務められたこの劇の素晴らしさが分かろうとはな…」
ガタッ
前の席の客が一斉に立ち上がる。
ぞわぞわと、銀之介の背中にいも虫が走る。
全員、飯波高校の男子だ。だが、異様な雰囲気を発している。
「ま、まさか…」
銀之介は知っている。こいつらの正体を。
「だが、貴様は我らの宿敵。ここで会った以上、貴様には…死ンでモらウ…」
ゆっくりと振り向いた彼らの額には、そろいの鉢巻きが巻かれている。間違いなかった。
「「く、倉地先生のファンクラブ~!?」」
銀之介と唐子が同時に叫ぶ。
いつの間にやらファンクラブの面々は手に手にすりこぎなどヤバい武器を手にしている。
血走った目。説得や話し合いでどうこうできる相手では無い。
変身していない銀之介には、万に一つも勝ち目は無かった。
「こ、こんな時に…」
銀之介は歯がみする。助けを呼ぼうにも既に囲まれて、ファンクラブ員以外の人間は見えない。
「ぎ、銀之介君…」
「行クぞ!死…」
武器を手にし、銀之介に襲いかかろうとして…突然、横薙ぎに吹っ飛んだ。
純粋な力の奔流による吹き飛ばし。これができるのは…
ぞわぞわと、銀之介の背中にいも虫が走る。
全員、飯波高校の男子だ。だが、異様な雰囲気を発している。
「ま、まさか…」
銀之介は知っている。こいつらの正体を。
「だが、貴様は我らの宿敵。ここで会った以上、貴様には…死ンでモらウ…」
ゆっくりと振り向いた彼らの額には、そろいの鉢巻きが巻かれている。間違いなかった。
「「く、倉地先生のファンクラブ~!?」」
銀之介と唐子が同時に叫ぶ。
いつの間にやらファンクラブの面々は手に手にすりこぎなどヤバい武器を手にしている。
血走った目。説得や話し合いでどうこうできる相手では無い。
変身していない銀之介には、万に一つも勝ち目は無かった。
「こ、こんな時に…」
銀之介は歯がみする。助けを呼ぼうにも既に囲まれて、ファンクラブ員以外の人間は見えない。
「ぎ、銀之介君…」
「行クぞ!死…」
武器を手にし、銀之介に襲いかかろうとして…突然、横薙ぎに吹っ飛んだ。
純粋な力の奔流による吹き飛ばし。これができるのは…
「サフィーちゃん!」
「…ったく、劇くらいゆっくり見せなさいよね」
空気が、凍る。サフィーが月匣を展開したのだ。
ぽふっと音を立てて静を抱えたサフィーが降り立つ。
「2人とも、怪我は…無さそうだね。よかった」
抱えられたまま、静が2人の状態を見極め、ほっと息をつく。
唐子は月匣の力にあてられて気絶してるが命に別状はなさそうだ。
「銀之介君、唐子さんを連れて今のうちにここを…うわ!?」
そして、静が銀之介に逃げるよう言おうとした、その瞬間、サフィーに突き飛ばされる。
「痛っつう…」
サフィーの顔が苦痛に歪む。ナイフで切られたのだ。ファンクラブの連中に。
「邪魔ヲスル奴ハ…ゼンブ、シネ」
「さ、サフィーちゃん大丈夫!?」
「な、何でこいつ等動けんのよ!?」
腕を抑えながら、サフィーが目を白黒させる。今、確かにここはサフィーの月匣が展開されている。
予想外の出来事に3人はそちらに向きなおる。そして気づいた。様子がおかしいことに。
「な、なんなんだ…?一体…」
銀之介が困惑する。全員の目が血走り、筋肉が異様に隆起している。
その姿はまるで人間と言うよりも…
「彼らは…」
いち早く正体に気づいた静が冷汗を垂らす。
「…銀之介君、今すぐ変身して」
「え?あの…」
「僕ら2人だけじゃあ、多分そんなに長く持たない。君がある程度攻撃を引きつけてくれないと、ね。
それとサフィーちゃん…殺さない程度に、攻撃してくれ」
「ちょっと…いいの?相手は…」
「…エミュレイターさ。今の“彼ら”は、ね」
静が敵を見る目で、彼らを見る。どこから集まってきたのか、その数は優に100人は超えている。
見た目こそただのファンクラブのメンバーだが…間違いなく、凶悪な瘴気を放っていた。
「憑かれしものと戦ったことはあるけど…あれだけの数を相手にするのは…僕も始めてだ」
その言葉と同時に。
一斉に彼らが襲いかかってきた。
「…ったく、劇くらいゆっくり見せなさいよね」
空気が、凍る。サフィーが月匣を展開したのだ。
ぽふっと音を立てて静を抱えたサフィーが降り立つ。
「2人とも、怪我は…無さそうだね。よかった」
抱えられたまま、静が2人の状態を見極め、ほっと息をつく。
唐子は月匣の力にあてられて気絶してるが命に別状はなさそうだ。
「銀之介君、唐子さんを連れて今のうちにここを…うわ!?」
そして、静が銀之介に逃げるよう言おうとした、その瞬間、サフィーに突き飛ばされる。
「痛っつう…」
サフィーの顔が苦痛に歪む。ナイフで切られたのだ。ファンクラブの連中に。
「邪魔ヲスル奴ハ…ゼンブ、シネ」
「さ、サフィーちゃん大丈夫!?」
「な、何でこいつ等動けんのよ!?」
腕を抑えながら、サフィーが目を白黒させる。今、確かにここはサフィーの月匣が展開されている。
予想外の出来事に3人はそちらに向きなおる。そして気づいた。様子がおかしいことに。
「な、なんなんだ…?一体…」
銀之介が困惑する。全員の目が血走り、筋肉が異様に隆起している。
その姿はまるで人間と言うよりも…
「彼らは…」
いち早く正体に気づいた静が冷汗を垂らす。
「…銀之介君、今すぐ変身して」
「え?あの…」
「僕ら2人だけじゃあ、多分そんなに長く持たない。君がある程度攻撃を引きつけてくれないと、ね。
それとサフィーちゃん…殺さない程度に、攻撃してくれ」
「ちょっと…いいの?相手は…」
「…エミュレイターさ。今の“彼ら”は、ね」
静が敵を見る目で、彼らを見る。どこから集まってきたのか、その数は優に100人は超えている。
見た目こそただのファンクラブのメンバーだが…間違いなく、凶悪な瘴気を放っていた。
「憑かれしものと戦ったことはあるけど…あれだけの数を相手にするのは…僕も始めてだ」
その言葉と同時に。
一斉に彼らが襲いかかってきた。
*
一方その頃。
要いのりは、走っていた。
つい先ほど、静から連絡があった。大量の憑かれしものが現れて、苦戦していると。
何でも倉地ファンクラブの連中がエミュレイターとり憑かれたらしい。
「確か…あそこには春美ちゃんもいるはず!」
先ほど春美が言っていた。演劇部の手伝いがどうとか。きっと春美も、体育館にいる。
「でもせんせい、なんで…」
静がいのりに0-phoneで頼んできたこと。それは助太刀ではなく…
「あ、いた!」
ある人物を連れてくること。
彼女は、強力なプラーナを持ち、ウィザードの資質を秘めた人物。
「い、いのりちゃん?どうしたの?そんなに慌てて」
月匣の中でも行動可能な数少ない人物。
「倉地先生!何も聞かずにあたしについて来て下さい!みんなが、ピンチなんです!」
要いのりは、走っていた。
つい先ほど、静から連絡があった。大量の憑かれしものが現れて、苦戦していると。
何でも倉地ファンクラブの連中がエミュレイターとり憑かれたらしい。
「確か…あそこには春美ちゃんもいるはず!」
先ほど春美が言っていた。演劇部の手伝いがどうとか。きっと春美も、体育館にいる。
「でもせんせい、なんで…」
静がいのりに0-phoneで頼んできたこと。それは助太刀ではなく…
「あ、いた!」
ある人物を連れてくること。
彼女は、強力なプラーナを持ち、ウィザードの資質を秘めた人物。
「い、いのりちゃん?どうしたの?そんなに慌てて」
月匣の中でも行動可能な数少ない人物。
「倉地先生!何も聞かずにあたしについて来て下さい!みんなが、ピンチなんです!」
「次から次へと!コイツらしつこすぎ!」
サフィーが不可視の力で次々と襲いかかってくる連中を吹き飛ばしながら悪態をつく。
エミュレイターに人間の限界ぎりぎりまで力を絞り出されているためか、倒れない。
吹き飛ばす端から立ち上がり、再び襲ってくる。
殺してはいけない。それが足かせになっている。
「うわ!?おわ!?っとと…うりゃあ!」
銀之介が攻撃を巧みにかわしながら攻撃する。
元々、殺さない程度に攻撃は慣れてるだけに巧みに気絶させていく。
だが、いかんせん数が違いすぎる。すでに何度か攻撃を受けて、ところどころから血が流れている。
「駄目だ…数が多すぎる!」
「もう少しだ!いのり君が来るまで、何とか持ちこたえてくれ!」
0-Phoneでいのりと連絡を取った静が2人に言う。
サフィーが不可視の力で次々と襲いかかってくる連中を吹き飛ばしながら悪態をつく。
エミュレイターに人間の限界ぎりぎりまで力を絞り出されているためか、倒れない。
吹き飛ばす端から立ち上がり、再び襲ってくる。
殺してはいけない。それが足かせになっている。
「うわ!?おわ!?っとと…うりゃあ!」
銀之介が攻撃を巧みにかわしながら攻撃する。
元々、殺さない程度に攻撃は慣れてるだけに巧みに気絶させていく。
だが、いかんせん数が違いすぎる。すでに何度か攻撃を受けて、ところどころから血が流れている。
「駄目だ…数が多すぎる!」
「もう少しだ!いのり君が来るまで、何とか持ちこたえてくれ!」
0-Phoneでいのりと連絡を取った静が2人に言う。
「持ちこたえろって…いのりが来てもど~にかできるとも思えないんだけど」
要いのりのファイアーワークスではサフィー以上に手加減がきかない。
「それとも、本気でやっちゃうつもり?」
「いや、違う」
サフィーの物騒な提案にかぶりを振る。
「いのり君に僕が頼んだのは…」
「いっけえ、ファイアーワークス…扉をぶち破っちゃえ!」
轟音と共に体育館の重い扉が吹き飛ぶ。憑かれしものの何人かが巻き込まれてぐえっとつぶれた。
「おまたせ!連れてきたよ、せんせい!」
吹き飛んだ扉の向こう側に立っていたのはいのりと…
要いのりのファイアーワークスではサフィー以上に手加減がきかない。
「それとも、本気でやっちゃうつもり?」
「いや、違う」
サフィーの物騒な提案にかぶりを振る。
「いのり君に僕が頼んだのは…」
「いっけえ、ファイアーワークス…扉をぶち破っちゃえ!」
轟音と共に体育館の重い扉が吹き飛ぶ。憑かれしものの何人かが巻き込まれてぐえっとつぶれた。
「おまたせ!連れてきたよ、せんせい!」
吹き飛んだ扉の向こう側に立っていたのはいのりと…
「あんたたち…」
飯波高校の女帝。倉地香。
彼女は怒っていた。大事な生徒に手を出されて怒らないのでは、教師じゃあ無い。
それに彼女に宿るチョモランマより高いプライドは、一方的なリンチなど認めないのだ。
彼女は怒っていた。大事な生徒に手を出されて怒らないのでは、教師じゃあ無い。
それに彼女に宿るチョモランマより高いプライドは、一方的なリンチなど認めないのだ。
「今すぐ、やめなさい!」
ファンクラブの面々がびくりと身体を震わせる。
普通ならばありえない。エミュレイターに取りつかれた人間が、その程度で止まるなど。
だが、それでも、倉地香の命令は、確かにその場にいるファンクラブを止めて見せた。
その場にいた百を超える人間が一斉にひざまずき、エミュレイターの支配をのがれたのは、圧巻ですらあった。
普通ならばありえない。エミュレイターに取りつかれた人間が、その程度で止まるなど。
だが、それでも、倉地香の命令は、確かにその場にいるファンクラブを止めて見せた。
その場にいた百を超える人間が一斉にひざまずき、エミュレイターの支配をのがれたのは、圧巻ですらあった。
(どうなってんのよ)
その光景を見たサフィーが、静に聞く。それに静は小声で答えた。
(…倉地先生を見たとき、気づいてたんだ。倉地先生も、ウィザードになれるほどのプラーナの持ち主だってこと)
一説にはこの学校の男子生徒と教師数百人を抱えると言うファンクラブの女神。圧倒的なカリスマと絶対的な命令。
(この世界には僕らウィザードの常識すら越える人たちがごろごろいるからね)
それに、静は覚えがあった。中等部に、かつて似たような力を持つウィザードがいたから。
それは、圧倒的なカリスマで持って幾多の配下、否“下僕”を指揮して戦う、ファー・ジ・アースにはいないクラス。
その力を、倉地香は身につけていた。6年前、一度人外になったことによって、無意識のうちに。
(異世界専用クラスに近い力の持ち主と言うのもありってこと、だね)
(…ま、吸血鬼になった時に妙に強いとは思ったけど…つくづく変な世界だわ、ここ)
静の分かったような分からないような説明を聞いて、サフィーが嘆息した。
その光景を見たサフィーが、静に聞く。それに静は小声で答えた。
(…倉地先生を見たとき、気づいてたんだ。倉地先生も、ウィザードになれるほどのプラーナの持ち主だってこと)
一説にはこの学校の男子生徒と教師数百人を抱えると言うファンクラブの女神。圧倒的なカリスマと絶対的な命令。
(この世界には僕らウィザードの常識すら越える人たちがごろごろいるからね)
それに、静は覚えがあった。中等部に、かつて似たような力を持つウィザードがいたから。
それは、圧倒的なカリスマで持って幾多の配下、否“下僕”を指揮して戦う、ファー・ジ・アースにはいないクラス。
その力を、倉地香は身につけていた。6年前、一度人外になったことによって、無意識のうちに。
(異世界専用クラスに近い力の持ち主と言うのもありってこと、だね)
(…ま、吸血鬼になった時に妙に強いとは思ったけど…つくづく変な世界だわ、ここ)
静の分かったような分からないような説明を聞いて、サフィーが嘆息した。
「クックック…まさか、こんな幕引きになろうとはな…」
ファンクラブ全員が倒れ伏した体育館で、上からその声は聞こえた。
「「「「「…っえ!?」」」」」
その場にいる5人全員がその声の正体に驚く。全員が知る人物であり、同時に敵である人物だったから。
「数の力でなら、押し切れるかと思ったが…つくづく異世界のウィザードは手ごわいな」
オールバックと白衣の吸血鬼、ドクターアラキが下を見ながら呟く。
「出来れば邪魔が入らぬように先に片づけておきたかったが、仕方あるまい」
マントのように白衣を翻し、その場にいる全員に宣言する。
「今宵。満月の下でこの場所から我が主の支配がはじまる。邪魔をするなと言っても無駄だろうから、言っておいてやろう。
来るのならば、私とあの男、そして我が主が、全力で貴様らを排除する。こころして、来るがいい」
殺意を込めて言うと、掻き消えるように去っていく。
「…あれ?え?ど~なってんの?銀之介君」
月匣が消え去ったお陰で唐子が目を覚まし、状況がつかめずに混乱する。
「えっと…」
それは、銀之介も同じだった。困ったように静を見る。
「とりあえず、説明してちょうだい。あたしにも、分かるように。ね、静君?」
今回初めて巻き込まれた倉地が、静に迫る。
「…分りました。あまり時間は無いようなので手短ながらお教えしましょう」
嘆息して静が説明を始めようとする。だが、それはいのりの叫び声によって中断された。
「せ、せんせい、外、外!」
口をパクパクさせながら、いのりが外を指さす。そして、全員がその異常に気づいた。
体育館のぶち破られた扉から見える空。
それが赤かったのだ。
ファンクラブ全員が倒れ伏した体育館で、上からその声は聞こえた。
「「「「「…っえ!?」」」」」
その場にいる5人全員がその声の正体に驚く。全員が知る人物であり、同時に敵である人物だったから。
「数の力でなら、押し切れるかと思ったが…つくづく異世界のウィザードは手ごわいな」
オールバックと白衣の吸血鬼、ドクターアラキが下を見ながら呟く。
「出来れば邪魔が入らぬように先に片づけておきたかったが、仕方あるまい」
マントのように白衣を翻し、その場にいる全員に宣言する。
「今宵。満月の下でこの場所から我が主の支配がはじまる。邪魔をするなと言っても無駄だろうから、言っておいてやろう。
来るのならば、私とあの男、そして我が主が、全力で貴様らを排除する。こころして、来るがいい」
殺意を込めて言うと、掻き消えるように去っていく。
「…あれ?え?ど~なってんの?銀之介君」
月匣が消え去ったお陰で唐子が目を覚まし、状況がつかめずに混乱する。
「えっと…」
それは、銀之介も同じだった。困ったように静を見る。
「とりあえず、説明してちょうだい。あたしにも、分かるように。ね、静君?」
今回初めて巻き込まれた倉地が、静に迫る。
「…分りました。あまり時間は無いようなので手短ながらお教えしましょう」
嘆息して静が説明を始めようとする。だが、それはいのりの叫び声によって中断された。
「せ、せんせい、外、外!」
口をパクパクさせながら、いのりが外を指さす。そして、全員がその異常に気づいた。
体育館のぶち破られた扉から見える空。
それが赤かったのだ。
…天に昇った紅い月のせいで。
*
一方その頃。
「…さて、そろそろやな」
紅き月に照らされた飯波高校の屋上で、狼男と吸血鬼を従えて、その少女は笑う。
「あいつら始末できんかったんは痛かったけど、ま、それも一興や」
イレギュラーな事態に邪魔されたが、それも少女にとっては嬉しい誤算と言ったところだ。
何しろ、また新しいことが分かった。
「まさか使いこなせるとは思わんかったわ。つくづくおもろいなあ。この世界は」
少女は新しいことを知ることが好きだった。同じくらい新しいことを伝えるのが好きだった。
「おもろいもんが多くて、プラーナも豊富」
新たな驚きに満ちたこの世界は、自分の新しい領土にふさわしい。だからこそ、狙った。
「カミーユはんももうおらへんしな」
2週間前、目下最大のライバルだった奴の写し身は滅ぼされた。ウィザードと、この世界の住人の手によって。
しばらくは裏界にこもりっきりだろう。他の連中はまだここに目をつけてない。この世界を狙うなら、今が絶好のチャンス。
「ちゅうわけで、何百年ぶりか忘れたけど、久方ぶりに全力でいかせてもらうとするわ」
誰に言うともなく、少女は宣言する。そう、彼女こそすべての黒幕。
「告発者ファルファルロウの世界征服。ま、ファー・ジ・アースやないのが残念やけど、な」
飯波市に現れた、魔王なのだ。
紅き月に照らされた飯波高校の屋上で、狼男と吸血鬼を従えて、その少女は笑う。
「あいつら始末できんかったんは痛かったけど、ま、それも一興や」
イレギュラーな事態に邪魔されたが、それも少女にとっては嬉しい誤算と言ったところだ。
何しろ、また新しいことが分かった。
「まさか使いこなせるとは思わんかったわ。つくづくおもろいなあ。この世界は」
少女は新しいことを知ることが好きだった。同じくらい新しいことを伝えるのが好きだった。
「おもろいもんが多くて、プラーナも豊富」
新たな驚きに満ちたこの世界は、自分の新しい領土にふさわしい。だからこそ、狙った。
「カミーユはんももうおらへんしな」
2週間前、目下最大のライバルだった奴の写し身は滅ぼされた。ウィザードと、この世界の住人の手によって。
しばらくは裏界にこもりっきりだろう。他の連中はまだここに目をつけてない。この世界を狙うなら、今が絶好のチャンス。
「ちゅうわけで、何百年ぶりか忘れたけど、久方ぶりに全力でいかせてもらうとするわ」
誰に言うともなく、少女は宣言する。そう、彼女こそすべての黒幕。
「告発者ファルファルロウの世界征服。ま、ファー・ジ・アースやないのが残念やけど、な」
飯波市に現れた、魔王なのだ。