ナイトウィザード!クロスSS超☆保管庫

第16話

最終更新:

nwxss

- view
だれでも歓迎! 編集
ややあって。
銀之介たちはお土産を買い終えて、再び文化祭を見て回っていた。
「サフィーちゃん、重くない?」
銀之介がサフィーに尋ねる。買った荷物はサフィーが全部預かっている。
とは言っても
「いや、全然?」
そう答えるサフィーは手ぶらであったが。
「でも、ど~やったの?いつの間にか消えたみたいに見えたけど」
サフィーが荷物をしまう様子を見ていた唐子が首をかしげて尋ねる。
唐子の目には突然荷物が消えたように見えた。
「…まあ、ちょっとした手品みたいなもんでしゅ」
そう言えば銀之介と唐子には詳しい話をしてなかったと気づき、面倒くさいのでてきと~に答える。
サフィーは、ウィザードの持つもう一つの汎用特殊能力、月衣に荷物を全部しまっていた。
「へえ。すご~い。サフィーちゃん、手品もできるんだ!」
てきと~な説明だが、唐子的にはそれでいいらしい。素直に感心する。
見ると銀之介も同様らしい。うんうんと感心して頷いている。
「あんたら…も~少し疑り深くても罰は当たらないわよ?」
その能天気っぷりに思わずジト目になるサフィーだった。

 *

「あ、あれ、静さんじゃない?」
その姿に最初に気づいた唐子が静を指さす。
その先では静がいつものにこやかな笑顔を浮かべて、受付をしていた。結構盛況だ。
黒いスーツに黒マント、いわゆる吸血鬼の格好が大人っぽい静によく似合っている。
「あ、でもあそこって…」
「ん、あそこは…」
銀之介と唐子はほぼ同時に気づいた。静が受付をやっている場所。そこは…
「「…不思議研!?」」
2人が同時に驚いて声を上げる。
「やあ、銀之介君に唐子さん、それとサフィーちゃんじゃないか」
その声で静が3人に気づいて振り向く。
「いやあ、この手のお祭りに生徒として参加するのは初めてだったけど、結構楽しいね」
そう答える静の笑顔は本物だ。
幼いころから天才魔術師として英才教育を受け、日本に来てすぐ教職についた静には生徒としての経験は無い。
それだけに“ごく普通の学園生活”は、静には新鮮なものだったのだ。
…もっとも、ごく普通と思ってるのは当人だけだったりするのだが。
「あ、そうだ。銀之介君もどうだい?」
そう言って、静は後ろの怪しげな扉を指さす。
どうやら今年の不思議研の出し物らしい。
「えっと、何の出し物なの?」
中から聞こえてくるわ~だのきゃ~だのうぎゃ~だの言う悲鳴にちょっとだけ顔を引きつらせながら銀之介がたずねる。
その問いに笑顔のまま、静は答えた。
「お化け屋敷さ」
「お化け屋敷?」
不思議研らしいと言えばらしいが文化祭の定番。
えらく普通な出し物に銀之介は頭を傾げる。
「そ。ただのお化け屋敷じゃないよ。僕と小夏さん、春美君が頭を捻って作った本格派。結構評判いいんだよ?」
えらく自信満々で静が言う。
だが、静の言葉もあながち外れでは無いようだ。
こうして話している間に次々にお客が来て入って行く。主にカップルが。
「で、どうだい銀之介君に唐子さんも」
「いや~僕はやめとこ~かな~と」
こ~ゆ~のはあんまし得意じゃない銀之介は目をそらして乾いた笑いを上げる。
「え~?」
それに不満そうな声を上げたのは唐子だった。
「けっこう面白そうじゃん。それに2人なら、怖くないって…多分」
こうして話している間にもちらほらと入って行くカップルをちらちらと見ながら、唐子が言う。
よく見るとちょっぴり顔が赤くなっている。
それを見て、静がにこやかに言う。
「そうだね。2人で入ればそんなに怖くないんじゃないかな?」
「そ、そうかな?」
どうやら銀之介は気づいて無いらしい。どこかほっとしたように言う。
「うん。さっきから2人で入って行く人が多いのはそれもあるかもね」
「じゃ、じゃあ少しだけ」
静の言葉に背中を押されるように銀之介は入ることを決意する。

「ああ、アタシは興味ないから待ってるでしゅ」
その様子を見て、サフィーが聞かれる前に応える。
「唐子と2人で行ってくるでしゅ」
ならば、と銀之介は唐子の方を向く。
「じゃ、じゃあ唐子…」
「な、なに?」
「い、一緒に行こうか」
「う、うん」
2人して、頷いておずおずと不思議研の扉に近づく。
開けると、真っ暗な入口が口を開いていた。
「あ、そうそう」
それを見て、静が今思い出したとでも言うようなざ~とらしい口調で言う。
「中は暗いから、手をつないで行った方がいいと思うよ?」
2人の顔は真っ赤になった。

 *

「…なんか、手慣れてたわね」
2人がいなくなったのを確認し、サフィーが素に戻る。
「ははは。前に、ちょっと奥手な男の子と臆病な女の子の恋を橋渡しする任務があってね」
あの2人を見ていて、静は思い出していた。6ヶ月前のこと。永遠に続く夏の世界のことを。
「あの時は失敗したら世界が壊れかねなかったから、必死だったよ」
「ふふっ、そんなことで壊れるなんて、難儀な世界」
静の言葉を冗談と受け取ったサフィーが吹き出す。
「冗談じゃあないんだけどね」
少しだけ心外そうに言う。
「それにサフィーちゃんだって、2人だけにしたり、手慣れてるじゃないか」
「…ちょっと、似たような2人のことを思い出しちゃってね」
サフィーもまた、思い出していた。6年前のこと。人生で一番楽しかった3ヶ月間のことを。
「あの2人、幸せになれるといいわね」
「ああ、心からそう思うよ」
そう呟く2人の目は、優しい大人の目。
2人とも、見た目よりからは想像もつかないほど大人なのだ。
「…それに。アタシはアタシの用事があるし」
話を終え、サフィーがぽつりとうつむいて呟く。
「あの2人が一緒じゃあ出来ないしね」
それと同時に空気が凍る。サフィーが月匣を展開したのだ。
「用事ってなんだい?サフィーちゃん」
無意識のうちに静は腰を浮かせていた。いつでも動けるように。
長年の経験と勘の賜物である。
「…別にね。人間の食べ物がまずいってわけじゃないわ。むしろおいしいと思う」
朗々と。サフィーが静に語りかける。うつむいたまま。
「ただね、やっぱりずっとだと、ど~しても欲しくなるの。ある意味アタシたちの本能ね」
「答えになって無いよサフィーちゃん」
そうは言いながら静は臨戦態勢をとり、じりじりと後ろへ下がる。
近距離では目の前の少女を相手にするにはあまりにも不利だ。少しでも距離を取らないと。
そんなことを考えながら。
「ま、そ~ゆ~わけだから」
サフィーが顔を上げると同時に体内の魔力を活性化させる。
トムソンガゼルを前にしたライオンのように。
「断る!」
ガゼルは逃げ出した。
「ちょっと、まだ最後まで言ってないでしょ~が!」
予想外の動きにサフィーが叫ぶが、静は無視して走った、魔法をも駆使して。
捕まったらどうなるか。そんなことは考えるまでも無い。
かくして、魔術師と吸血鬼の、ある意味食物連鎖の営みとも言える鬼ごっこが開始された。

 *

さて、2人が食うか食われるかの鬼ごっこに興じていた一方その頃。

「あ、あそこで終わりみたいだよ」
唐子が出口らしきものを指さした。ちょっぴり青い顔で。
銀之介とつないだままの手には白くなるほど力がこもっている。
「よ、ようやくか…」
銀之介の顔もちょっぴり青い。

オカルト大好き三石ちゃん姉妹が監修しただけあって、お化け屋敷に仕掛けられた小道具はえらいリアルなものだっ

た。
ついでに怖がらせる役は演劇部から借りてきた部員を使い、演技指導にも力を入れた。
「まさか扉に仕掛けがあるなんて…」
「うん。次の部屋では扉に気をつけてたら床から出てくるし」
「その次で離れて開けたらいきなり後ろの壁から出てきたときには心臓が止まるかと思ったよ」
そして、長年の経験をいかした、静=ヴァンスタインの悪ノリの数々。
まさに、本格派だった。色んな意味で。
ゴールが近いせいか、この辺りは少しだけ、赤っぽい光で照らされている。
「でも、楽しかったね」
「え?」
唐子がぽつりと言った言葉に、銀之介は首をかしげる。
「そ~か?僕はやっぱりこういうのは…」
「そうじゃなくて」
相変わらず鈍感な銀之介に唐子は苦笑する。
「こうして、また2人でいられるようになったことが、だよ」
「2人で?」
「そ」
唐子が頷く。
「あたしたち、2年間、ずっと一緒だったよね」
「え?ああ、そういえばそうだな。引っ越しも無かったし」
「だからってんじゃないけどさ、半年前に銀之介君がいなくなったら、ものすごく寂しくてさ」
唐子が遠い目をする。
唐子にとって、銀之介が隣にいるのは、当たり前の日常だった。
高校の2年間、ずっとそうだったから。
「そうだな…僕もそうだった。転校して、知り合いがいなくなるのは慣れてたはずなのにな」
銀之介もまた、遠い目をする。
銀之介にとって、別れはごく普通のことだった。引っ越しばっかりしていたから。
だから、慣れている。だから、大丈夫…じゃあ無かった。
銀之介にとっても唐子が隣にいるのが、当たり前の日常だったから。
「まあ、いつかは帰ってくるって信じてたけどね。約束したし」
その銀之介が1ヶ月前、突然帰って来た時は本当に驚いた。
もっともその銀之介が来たのは厄介な事件を解決するためで、再会を喜ぶどころじゃなかったが。
だからこそ、唐子は嬉しかったのだ。こうしてまた、何気ない日常を2人で過ごせるようになったことが。
「ソバカスが消える前に帰ってきちゃったのはちょっとだけ残念だったけど」
も~っと奇麗になって、驚かしてあげる予定だったのに、と軽く冗談めかして笑う。
「でも、約束、守ってくれたね。ありがとう」
その、柔らかい表情に、銀之介の心臓が跳ね上がる。
「えと、あの…」
叔父さんのことが無かったら、きっと帰ってくる勇気は持てなかった。
そんな自分が情けない。しどろもどろになりながらも何か言わねば、そう決意して口を開こうとした。

その瞬間だった。

「カップルボクメツウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウ!!!!!!!!!!!!!!!!!」

ひび割れた声が辺りに響き渡り、2人の目の前に巨大な化け物が現れる。真っ赤なボディーと鳥の頭を持った憎いや

つ。
「のわああああああああああああああああああああ!!!!!!!!????????」
「きゃああああああああああああああああああああ!!!!!!!!????????」
突然の登場に2人は驚いた。無茶苦茶驚いた。
2人とも腰が抜けて思わずその場にへたりこむ。
「ひゃ~はっはっはっは!だいせ~こ~!カップルなんてみんな…ってえ!?」
笑いながら出てきて、一気に顔を青ざめさせたのは1人の少女。何故かメイド服を着た、ショートヘアの少女。
彼女に銀之介は見覚えがあった。そう、それは銀之介が初めて出会った魔法使い。
「ぎ、ぎぎぎぎ銀之介にととと唐子さん!なんでここに!?」
要いのりその人である。

タグ:

+ タグ編集
  • タグ:
ウィキ募集バナー