ナイトウィザード!クロスSS超☆保管庫

第01章

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 今日も不幸ですよっと、自然に口ずさんだ。
 クルクルとペンを回しながら、上条 当麻は授業を受けていた。
 本日午前中最後の授業は【開発術】だった。
 何人ものクラスメイトがそれぞれ薬を飲み、二枚のカードで挟まれたメモ用紙の中身を見ずにノートに書き写し、あるいはコインを机の上に手を触れずに立たせようとしていた。
 そのチャレンジする様子はそれぞれ違っていた。一人は血管が切れそうなほどに踏ん張りながらコインを震えさせて、あるものは欠伸をしながら何枚ものコインを立てたまま積み重ねている。
 もちろん当麻も同じように薬を飲み、目の前のカードに目を向けるが――何も見えない。
 何時もどおり何の能力も現れる気配はなし。ふぬーと言葉だけで気合を入れてみるが、何も見えない。

「ちっ、せめてカードなんかどうでもいいから、女子のスカートか下着でも透過出来ればいいのになぁ」

 小声で独り言を呟く当麻。

「なにカミやん。昼間っからいやらしい願望を唱えとんねン」

 と、当麻が適当に呟いた言葉に、隣に座っていた長身180センチを超える青髪ピアス(男、学級委員)が似非臭い関西弁で突っ込んできた。
 ボケたら響くようにツッコミが返ってくるところので、関西人としての魂を磨き上げようとしているのかもしれない。

「んー、まあどうせ見えるんだったらそれぐらいの役得が欲しいなぁと思ったんだよ」

 とはいえ、当麻はレベル0の身であり、“向こう側”の連中からは“右手”以外の異能の存在を否定された身である。
 もし異能が欲しければ魔王にでも魂を売るか、50年ばかし山で修行するか、忍者のスキルを持つサラリーマンにでも育てられるしか方法は無いだろう。
 まあ、万が一、億が一にでもいつかこの超能力開発で能力が覚醒する可能性は無きにもあらずなのだが――あまり期待はしていない。

「んーそれなら、ボクは念動力が欲しいなぁ、こう自然な風を演出出来る程度でええかラ」

「スカートでもめくる気か? 発想が小学生だろうが、せめてくいっと中を降ろすぐらいの勢いでいけよ」

 中とは何か。
 それは語る必要も無いし、真っ白い(場合によっては水色縞々)の宝具とでもいえば分かるだろう。

「おお! カミやん、魔王の発想やな!」

 青髪ピアスが興奮していた。
 まあそんなことしたら抹殺確定だけどなー、エロゲーじゃねえんだしと当麻は心の中で呟いて。

「上条ちゃん? あと隣のもお喋りは止めないですけど、セクシャルハラスメント談義には罰ゲームですよ?」

 ずいっと聞こえた言葉に上条は、隣の青髪ピアスも口を閉じた。
 ゆっくりと目を向ける。
 すると、そこには一年七組の担当教師にして、不可思議な生命体がいた。
 まず教卓には首しか映っていない。とはいえ、生首ではなく純粋にそれ以外が見えないだけだ。
 当麻のクラスの担任教師 月詠 小萌の身長は135センチ。安全性からジェットコースターの乗車を拒否されたという伝説を持つ童顔ロリっこ教師なのだ。
 おそらく名前からしてご両親はその未来を想像していたとしか思えない、まさしく萌えるための存在だろう。
 神が与えもうた奇跡だ。
 許されるなら全力で頭をなでなでしたいところだが、生憎俺の趣味は(外見)ロリではないし、彼女と当麻は教師と生徒。
 禁断の関係に陥るには甘ったるい味がするだろうが、そんな危険性を踏む趣味は当麻になかった。
 彼の信条は日々平穏である。

「うん? なんで、上条ちゃんは私を凝視してるんですか?」

 じーと睨み付けるような上条の視線に気付いた小萌が、ぽっと恥ずかしそうに頬を染めるが、上条は素直に今の心境を告げた。

「いえ、なんで小萌先生はそんな身長とロリ声でまるで狙ったような外見なのか統計学的に推測していただけっす。小萌という名前の時点で呪いでもかけられました?」

「し、知らないですよー! 私だって好きでこの体型なわけじゃないんですから!」

 むきーと怒る姿も可愛らしいまま、小萌が叫んだ時だった

「うん? なんで、上条ちゃんは私を凝視してるんですか?」

 じーと睨み付けるような上条の視線に気付いた小萌が、ぽっと恥ずかしそうに頬を染めるが、上条は素直に今の心境を告げた。

「いえ、なんで小萌先生はそんな身長とロリ声でまるで狙ったような外見なのか統計学的に推測していただけっす。小萌という名前の時点で呪いでもかけられました?」

「し、知らないですよー! 私だって好きでこの体型なわけじゃないんですから!」

 むきーと怒る姿も可愛らしいまま、小萌が叫んだ時だった。
 チャイムが鳴った。
 授業の終了である。

「よっしゃ、授業終了! 夏休みだぁああ!」

 当麻はすさかずカバンを手に取ると、隣の青髪ピアスにさよならを告げて、さらば諸君と敬礼した。

「あ、上条ちゃん! まだ先生は言い残したことが――」

「では、先生。次の学期で会いましょう~!」

 じゃあな、とっつぁーんという勢いで、当麻は廊下に飛び出すと全力競歩で飛び出していった。
 競歩だから走っていないというのが当麻の言い訳だった。

「カミやんは相変わらずやなァ」

 青髪ピアスはニヤニヤと楽しげに呟くが、小萌は困ったように言った。

「上条ちゃん、明日から補修なんだけどなー」

「大変やな」

「君もですよ?」

「マジですか!?」



 とある偽善使いと魔剣使い
 一章 忍び寄る異分子



 自由だ、ひゃっほーいと当麻はコンクリートの牢獄から開放された白鳥のような気分だった。
 うすっぺらいカバンを肩に掛けて、先日降ろしたばっかりの札の入った財布を叩き、新作ゲームでも買って一週間ぐらい引きこもりになるかー。
 と、どこかの下がる男ならば涙を流して羨ましがるような平和な生活計画を立てていた。
 幸せそうな笑みを浮かべてにやにやしていたのが原因なのかもしれない。
 夕焼けにギラギラと光輝く風力発電の三枚プロペラにサムズアップし、脳味噌まで煮るつもりっぽい灼熱のアスファルトな商店街で棒アイスを買って口に含んで、のんびりとバスにも乗らず、ゲーム屋にでも買いにいくかーと計画を立てていた時だった。
 不意にカバンの中で振動音がした。

「ん?」

 カバンの隙間に手を突っ込むと、プルプルと振動音を上げる物体を掴み出す。
 青いカラーリングのそれは普通の携帯によく似ていたが、見る人が見れば違うものだと知るだろう。
 0-PHONEと呼ばれる特殊な携帯電話。先日ビリビリこと御坂から受けた多数の電磁波に触れてもなお動作に支障のない電磁防御まで施され、耐弾、耐電、完全防水という優れもの。
 一応は機械であり、魔法の類が使われているわけではないので“右手”で触れても大丈夫なそれを掴み取ると、通知相手の名称を確認。

 ――アウレオルスと表示されている。

「ん? なんかあったのか?」

 まさか魔王が追ってきたんじゃないだろな、と“一ヶ月ほど前に起きた事件”を思い出しながら当麻は通話ボタンを押した。

「もしもし」

『少年か?』

「はいはい、上条ですよ」

 0-PHONEの向こう側から聞こえたアウレオルスの声に当麻は僅かに緊張しながら応える。
 先日あったばかりだというのに、携帯に電話する。
 それには確実に理由が存在するはずだ。アウレオルスの性格から考えて伝え忘れていたことがあったなんて考えられない。
 そんなうっかりさんではないし。

「なにかありました?」

『当然。そうでなければ連絡などすまい、伝えることがある』

 そう告げるアウレオルスの声には僅かな緊張感があった。
 いつでも余裕を持っていた彼の声に緊張感が混じるのは敵が近づいている時だけだ。

『魔術師が侵入した』

「え?」

『学園都市に二名侵入した形跡が見られた。私のネットワークの一部が分断されている、詳細は不明だが数は二名。何らかの目的で動いているようだ』

 魔術師。
 通常の学園都市の生徒ならば突拍子もない、信じるはずもない単語に当麻は至極冷静だった。
 この世界には超能力は存在しても、魔術などない。
 この世に奇跡の全ては科学で解明出来る。
 それが当たり前、それが常識。
 “この世の裏側を知らぬものはそう認識している。”

『憮然。如何に留守にしていたとはいえ、失態だ。笑ってくれても構わん』

「そんなのはどうでもいいですよ」

 人の失敗をせせら笑うような趣味は結構あるが、洒落の使い時ぐらいは分かっている。

「それで魔術師って“こっちのですか? それともあっちのですか?”」

「“こっち”だ。ウィザードの反応ではない、月匣の展開も確認はされていない」

「なるほど」

 緩やかに当麻は考える。
 学園都市に侵入した二人の魔術師。
 昔アウレオルスに聞いた話だと魔術と超能力は互いに不可侵だと決めていると聞いている。
 それを破り、超能力開発の最先端である学園都市に侵入したということはそれだけの大事だということだ。
 身を竦み過ぎ去る嵐ならば放置してもいい。
 見知らぬ陰謀だろうが、当麻の目の届かぬ範囲でのことならば当麻は放置するだろう。首を突っ込むことなどない。
 だけど。
 もしそれが当麻の大切な誰かを巻き込むようなものならば――

「……俺が壊す」

 右手を握り締め、当麻は静かに決意を告げた。
 その声から当麻の心境を読み取ったのか、アウレオルスが電話口の向こうから言った。

『未然。少年、まだ魔術師が侵入した事実があるだけだ、目的は不明。迂闊に動くな』

「ああ、分かってる……」

『心配はない。こちらの領域の問題だ、少年は巻き込まずに終わらせるだろう。しかし、万が一の場合もある。夜は出歩くな』

 忠告を告げて、アウレオルスからの通話が切れる。
 当麻はもはや答えない0-PHONEを切ると、再びカバンに放り込んだ。
 先ほどまでの能天気気分は半ば消し飛んでいた。
 自分のよく知っている日常、その中に異分子が紛れ込んだことを知ったから。

「まったく、明日から楽しい夏休みだってのに」

 右手の指を鳴らす。
 熱いアスファルトの熱を当麻は感じていなかった。
 背筋に走る寒気が、右手に篭る熱が、脳裏を占める不吉な予感が熱を感じる器官を麻痺させていた。

「俺の幻想/日常を壊すなよ」

 平穏など脆い夢だと当麻は知っていた。
 幻想を護るために戦う魔法使い達を知っていた。
 だから、当麻は平和を愛する。
 一秒先まで保たれ続ける日常を噛み締める。
 一秒先では壊れるかもしれない世界を理解しながら生きている。
 当麻が知らない裏側で誰かが世界を狙っているのかもしれないのだから。
 だから。
 だから。
 この右手が届く範囲で、誰かが日常を壊そうとするのならば。

「俺がその幻想/野望をぶち殺す」

 何の変哲もない右手。
 ただの少年が告げた言葉。

 それは虚空に溶けて、確かな宣言となった。

 その遂行が約束された。


 時は少し進む。
 それは夜の闇。
 高い高いビルの上、走る影が二つ。
 一人は白。
 小柄な人影、一生懸命に走る姿、どこか必死で愛らしい――少女。
 教会の修道女を思わせるシスター服を纏った銀髪の少女。
 けれど、それは確かな凄惨な光景だった。汗を流し、息を荒く吐き出しながら、走る少女。

「止まりなさい!」

 それを追う影が告げる。
 黒い髪を靡かせた人影。
 着古したジーンズ、白いTシャツを上半身に身につけ、確かな乳房の膨らみを見せるそれは女性。
 長身の女性の腰まで届くポニーテールの横に並ぶような日本刀の鞘が見えた。

「嫌だよ!」

 それに拒絶した声を上げる少女。
 ビルの屋上の端で少女がべーと舌を突き出し、挑発するように告げる。

「貴方達に私は渡さない、“禁書目録”を渡すわけにはいかないんだから!」

 少女が声を張り上げて、告げる。
 轟々と吹き荒れるビル風にも負けず声が響く。

「いえ、それは違います! 私は、私たちは貴方を保護したいだけなのです!」

 その声を受けた女性は、その美貌を悲しく歪めた。
 何故そんなにも悲しい顔を浮かべるのか、少女は違和感を覚えるべきそんな光景。
 だけど、少女は構わない。

「うるさい、うるさい、うるさい! 渡さない、絶対に渡さない、禁書目録は決して誰にも渡さないんだから!」

 そう告げて、少女はビルの柵を乗り越えた。
 向こうのビルまでたった数メートル、彼女の脚力ならば超えられると理解していた。

「っ! 仕方ありません」

 女性が唇を噛み締め、日本刀の柄に手を置いた。

「“七閃”」

 瞬間、その手が掻き消えた。
 変わりに風が止んだ。まるで大気が切り裂かれたかのように風が一瞬止んだ。
 そして、同時に少女の身体が吹き飛んだ。不自然に、自分で跳んだわけでもなく、弾き飛ばされて――虚空で停止する。
 まるで蜘蛛の糸に捕らえられたかのように、不自然に停止し――

「あっ!」

「捕らえましたよ」

 女性の顔が歓喜に歪む。
 僅かな悲しみを、苦痛を押し殺して、喜びに満ちる。

 本当にその瞬間だった。


「え?」

 女性の手がかくりと落ちた。
 その瞳が見開かれていた。
 視線の向こう側には――誰もいない。
 “少女はいなかった。”

「そんな!」

 女性の顔が苦痛に歪む、悲しみに彩られる。

「また消えて……」

 手の届く場所にいた大切なものが消え去ってしまったかのように、叫んだ。

「“インデックス”!」

 少女の名を叫んだ。
 いつまでも、いつまでも。




 そして、それをせせら笑うなにかが一体。

「馬鹿馬鹿しい」

 クスクスと嗤う者が一人。

「愚かしい」

 ケラケラと嗤う者が一人。

「哀れなり」

 ゲラゲラと嗤う者が一人。

 終わらぬ悲劇の繰り返しを、それは嗤い続けていた。




 ――上条 当麻が不幸に見舞われるまで あと8時間??分

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