――青い薔薇に愛されし少女よ…
(これは…夢?)
それが夢であると心のどこかで理解しながら志宝エリスはゆっくりと目を開いた。
何も見えない。ただ眼に映るのは、ひたすらに、黒。
なにも無い、漆黒の空間その真ん中にエリスは立っていた。
――少女よ…
普通ではありえぬ、不思議な夢。普通の人間だったならわけも分からず困惑するだけだったかもしれない。
だが、エリスは落ち着いていた。かつての経験…宝玉をあつめていた頃の経験がエリスに次に取るべき行動を教える。
(とにかく、こういうときは…)
「誰、なんですか?」
エリスは闇に向かって声をかける。自らを呼ぶ声に対して。
――私か?私は…
闇が、澱む。
それが夢であると心のどこかで理解しながら志宝エリスはゆっくりと目を開いた。
何も見えない。ただ眼に映るのは、ひたすらに、黒。
なにも無い、漆黒の空間その真ん中にエリスは立っていた。
――少女よ…
普通ではありえぬ、不思議な夢。普通の人間だったならわけも分からず困惑するだけだったかもしれない。
だが、エリスは落ち着いていた。かつての経験…宝玉をあつめていた頃の経験がエリスに次に取るべき行動を教える。
(とにかく、こういうときは…)
「誰、なんですか?」
エリスは闇に向かって声をかける。自らを呼ぶ声に対して。
――私か?私は…
闇が、澱む。
闇の澱みが人の形をとる。
それは、小柄な老人だった。古めかしい外套を羽織り、シルクハットをかぶった老人。
老人はその不機嫌そうな顔のまま、エリスに語り出す。
「私は…この闇の管理者。この永遠に続く絶望の闇と同化した、2つの意思の1つ」
「闇の管理者さん、ですか?」
「そうだ。かつて、この闇と同化する前の名は忘れてしまった。
今は、ただ闇にただよう…思念の残滓とでも言ったところだな」
そう言って老人は自嘲する。そしてまた、不機嫌そうな無表情へと戻り、エリスを見据え、その言葉を口にする。
「…少女よ。頼みがある」
ぽつりと漏らした、その一言には、強い力が込められていた。そう、まるで彼女の知る、世界の守護者のように。
「頼み…」
「そうだ、少女よ。止めて欲しいのだ。この闇のもう1人の管理者を」
もう1人の管理者。その言葉を老人は苦虫を噛み潰すように言う。
「あの男は、この闇がただそこにあるものであることを捨てようとしている。闇を広げ、全てを闇に変えようとしているのだ」
闇に変える。その言葉の意味を飲み込んだエリスがハッと息を飲む。
「それって、まさか…」
「そう、少女よ。お前の住む世界はこのままいけば闇に包まれ、闇そのものであるこの世界と同じものとなるだろう。
それは、かつて世界と共に生きる道を選んだお前にとっても本意では無いはず」
老人の言葉にエリスは顔を曇らせる。老人の言ったことに関しては、その通りだ。
今の世界が無くなってしまうのは嫌だ。それを止めるためならば例え戦うことになってもいい。
けれど…
「私には…もうその力が…」
エリスが悲しげにつぶやく。
シャイマールの消失とともに、エリスの力は失われた。存在の消滅こそ免れたものの、今のエリスにはイノセント並みの力しか無い。
世界を救うだけの力は、残っていなかった。
それは、小柄な老人だった。古めかしい外套を羽織り、シルクハットをかぶった老人。
老人はその不機嫌そうな顔のまま、エリスに語り出す。
「私は…この闇の管理者。この永遠に続く絶望の闇と同化した、2つの意思の1つ」
「闇の管理者さん、ですか?」
「そうだ。かつて、この闇と同化する前の名は忘れてしまった。
今は、ただ闇にただよう…思念の残滓とでも言ったところだな」
そう言って老人は自嘲する。そしてまた、不機嫌そうな無表情へと戻り、エリスを見据え、その言葉を口にする。
「…少女よ。頼みがある」
ぽつりと漏らした、その一言には、強い力が込められていた。そう、まるで彼女の知る、世界の守護者のように。
「頼み…」
「そうだ、少女よ。止めて欲しいのだ。この闇のもう1人の管理者を」
もう1人の管理者。その言葉を老人は苦虫を噛み潰すように言う。
「あの男は、この闇がただそこにあるものであることを捨てようとしている。闇を広げ、全てを闇に変えようとしているのだ」
闇に変える。その言葉の意味を飲み込んだエリスがハッと息を飲む。
「それって、まさか…」
「そう、少女よ。お前の住む世界はこのままいけば闇に包まれ、闇そのものであるこの世界と同じものとなるだろう。
それは、かつて世界と共に生きる道を選んだお前にとっても本意では無いはず」
老人の言葉にエリスは顔を曇らせる。老人の言ったことに関しては、その通りだ。
今の世界が無くなってしまうのは嫌だ。それを止めるためならば例え戦うことになってもいい。
けれど…
「私には…もうその力が…」
エリスが悲しげにつぶやく。
シャイマールの消失とともに、エリスの力は失われた。存在の消滅こそ免れたものの、今のエリスにはイノセント並みの力しか無い。
世界を救うだけの力は、残っていなかった。
だが、老人はエリスの呟きに、無表情のまま、答える。
「案ずることは無い」
その老人の言葉と共に闇が、再び澱む。
「きゃっ!?」
闇はエリスの周り…左の手首へと集まり、形あるものへと変わる。
7つの板を繋げたような特徴的な形の…漆黒のブレスレット。
「これって…」
エリスが驚きに目を見開いた。
「それは、お前の知る“力”の姿を模した、この闇の一部。それはお前の忠実なる僕。お前が望めば、望んだとおりの力を与えるだろう。
少女よ。その力を持って、世界へと漏れ出した闇を払い去ってくれ。あの男を倒し、たゆたう闇を再びあるべき姿へ」
老人の言葉と共に、エリスに急激に眠気が襲ってくる。
「頼むぞ。少女よ…青い薔薇に愛された、力の器よ…」
もう、目を開けていられない。エリスはゆっくりと目を閉じた…
「案ずることは無い」
その老人の言葉と共に闇が、再び澱む。
「きゃっ!?」
闇はエリスの周り…左の手首へと集まり、形あるものへと変わる。
7つの板を繋げたような特徴的な形の…漆黒のブレスレット。
「これって…」
エリスが驚きに目を見開いた。
「それは、お前の知る“力”の姿を模した、この闇の一部。それはお前の忠実なる僕。お前が望めば、望んだとおりの力を与えるだろう。
少女よ。その力を持って、世界へと漏れ出した闇を払い去ってくれ。あの男を倒し、たゆたう闇を再びあるべき姿へ」
老人の言葉と共に、エリスに急激に眠気が襲ってくる。
「頼むぞ。少女よ…青い薔薇に愛された、力の器よ…」
もう、目を開けていられない。エリスはゆっくりと目を閉じた…
*
ふかふかの布団と青い畳。落ち着いた内装の和風の部屋。
エリスが再び目を開けたとき、エリスの目に映ったのは見慣れた赤羽神社の一室、エリスのために用意された部屋だった。
エリスはゆっくりと身を起こし、自らの左手を確認する。
「やっぱり…」
予想通り、そこには漆黒のブレスレット…あの戦いで失ったはずのアインオフソウルが巻かれていた。
「夢じゃ、なかったんだ…」
エリスは思わず身震いする。
あれが夢じゃなかったと言うことは、あそこで起こった出来事も事実であると言うこと。
すなわちエリスは再び力を手にし…戦わなければならなくなったと言うことなのだ。
「どうしよう…」
戦うのが怖くないと言えば、嘘になる。だけど、このまま黙って見過ごすわけには絶対にいかない。
「くれはさんと灯ちゃんに相談してみようかな…」
何とはなしに思いついたことを言いながら、これからのことを考えていたその時だった。
エリスが再び目を開けたとき、エリスの目に映ったのは見慣れた赤羽神社の一室、エリスのために用意された部屋だった。
エリスはゆっくりと身を起こし、自らの左手を確認する。
「やっぱり…」
予想通り、そこには漆黒のブレスレット…あの戦いで失ったはずのアインオフソウルが巻かれていた。
「夢じゃ、なかったんだ…」
エリスは思わず身震いする。
あれが夢じゃなかったと言うことは、あそこで起こった出来事も事実であると言うこと。
すなわちエリスは再び力を手にし…戦わなければならなくなったと言うことなのだ。
「どうしよう…」
戦うのが怖くないと言えば、嘘になる。だけど、このまま黙って見過ごすわけには絶対にいかない。
「くれはさんと灯ちゃんに相談してみようかな…」
何とはなしに思いついたことを言いながら、これからのことを考えていたその時だった。
ジリリリリリッ!
「きゃ!?」
目覚まし時計の大きな音が部屋中に響き渡る。時刻は6時。いつもの起きる時間だ。
慌てて目覚まし時計を止めエリスは立ち上がった。
「そうだ。とりあえず、お掃除しなきゃ」
着替えて朝の日課である境内の掃除をするために。
目覚まし時計の大きな音が部屋中に響き渡る。時刻は6時。いつもの起きる時間だ。
慌てて目覚まし時計を止めエリスは立ち上がった。
「そうだ。とりあえず、お掃除しなきゃ」
着替えて朝の日課である境内の掃除をするために。
「はわー。エリスちゃんどうしたの?なんか元気ないけど」
くれはが箒を動かしながら、エリスに不思議そうに尋ねる。
「え、あ、いや…その…なんでもありません」
そう言いながらもエリスの顔は相変らず晴れない。
いざこうして面をあわせると、なかなか言い出すタイミングがつかめない。
「んー、ならいいけど、悩みがあるんだったらじゃんじゃん聞いてね?エリスちゃんのためだったら、なんだってしてあげちゃうから」
そう言ってくれはは満面の笑みで笑う。
「あ、はい。それじゃあ…お掃除が終わったら…」
「ん。わかった」
エリスの答えに満足げに笑みを深め、くれはは頷く。
「じゃ、あたしは向こうの方パパッと終わらせてくるから、エリスちゃんはこっちをお願いね」
「はい!」
ようやく言いだせたことに安心して、エリスにようやく笑顔が戻る。そして手早く掃除を終わらせるために2人はお互い別の方向へ歩き出した。
「よーし、頑張らなきゃ」
そう言って張り切って本殿のすぐそばの掃除を開始する。
「あれ?」
エリスが掃き集めた落ち葉の中にそれが混じっているのに気づいたのは、それからすぐのことだった。
一枚拾い上げる。シルクのような手触りの青い花びら。
「これって…」
見覚えがある。それも、かなり慣れ親しんだもの。間違いない。
「青い薔薇の…花びら?」
かつて“おじさま”から何度も受け取ったものと同じものだ。
「…なんで?」
あの戦いが終わり“おじさま”がいなくなってから久しく見ていなかったものを見て、エリスは首をかしげ、その青い花びらの飛んできた方向を見る。
「え!?」
その薔薇の花びらの先に、ピンク色の何かが倒れているのを見て、エリスは驚きに目を見開く。
「あれって…」
慌てて駆け寄って抱き上げる。
「ミ…ミル…」
エリスが抱き上げるとそれはうめき声をあげた。
手に伝わるのは生き物特有の温かい感触。
間違いない。これは、ぬいぐるみとかじゃない。
「た、大変!」
その、ピンク色の生き物…うさぎ?は酷い怪我をしていた。瀕死の重傷を負った後生死判定に成功して辛うじて生きている、そんな感じだ。
すぐに治療しなければ、危ない。
「く、くれはさーん!くれはさーん!」
エリスはうさぎを抱きかかえ、優秀なヒーラー兼陰陽師であるくれはの名を呼びながら、走った。
くれはが箒を動かしながら、エリスに不思議そうに尋ねる。
「え、あ、いや…その…なんでもありません」
そう言いながらもエリスの顔は相変らず晴れない。
いざこうして面をあわせると、なかなか言い出すタイミングがつかめない。
「んー、ならいいけど、悩みがあるんだったらじゃんじゃん聞いてね?エリスちゃんのためだったら、なんだってしてあげちゃうから」
そう言ってくれはは満面の笑みで笑う。
「あ、はい。それじゃあ…お掃除が終わったら…」
「ん。わかった」
エリスの答えに満足げに笑みを深め、くれはは頷く。
「じゃ、あたしは向こうの方パパッと終わらせてくるから、エリスちゃんはこっちをお願いね」
「はい!」
ようやく言いだせたことに安心して、エリスにようやく笑顔が戻る。そして手早く掃除を終わらせるために2人はお互い別の方向へ歩き出した。
「よーし、頑張らなきゃ」
そう言って張り切って本殿のすぐそばの掃除を開始する。
「あれ?」
エリスが掃き集めた落ち葉の中にそれが混じっているのに気づいたのは、それからすぐのことだった。
一枚拾い上げる。シルクのような手触りの青い花びら。
「これって…」
見覚えがある。それも、かなり慣れ親しんだもの。間違いない。
「青い薔薇の…花びら?」
かつて“おじさま”から何度も受け取ったものと同じものだ。
「…なんで?」
あの戦いが終わり“おじさま”がいなくなってから久しく見ていなかったものを見て、エリスは首をかしげ、その青い花びらの飛んできた方向を見る。
「え!?」
その薔薇の花びらの先に、ピンク色の何かが倒れているのを見て、エリスは驚きに目を見開く。
「あれって…」
慌てて駆け寄って抱き上げる。
「ミ…ミル…」
エリスが抱き上げるとそれはうめき声をあげた。
手に伝わるのは生き物特有の温かい感触。
間違いない。これは、ぬいぐるみとかじゃない。
「た、大変!」
その、ピンク色の生き物…うさぎ?は酷い怪我をしていた。瀕死の重傷を負った後生死判定に成功して辛うじて生きている、そんな感じだ。
すぐに治療しなければ、危ない。
「く、くれはさーん!くれはさーん!」
エリスはうさぎを抱きかかえ、優秀なヒーラー兼陰陽師であるくれはの名を呼びながら、走った。