壁、床、天井にびっしりと刻まれた魔術文字の放つ、仄かな光に照らされた広大な地下空間。
そこに作られた巨大魔法陣の中央に立つエルンシャは、両腕で抱きしめたアンゼロットの髪に頬を寄せ、何を
するでもなく静かに時を過ごしてした。
そこに作られた巨大魔法陣の中央に立つエルンシャは、両腕で抱きしめたアンゼロットの髪に頬を寄せ、何を
するでもなく静かに時を過ごしてした。
アンゼロットはエルンシャに身を預けたまま、想いを巡らせ続けていた。
この腕に抱かれる事を望んでいた筈だった。
この胸に縋ることを願っていた筈だった。
それなのに。
いざ、夢が叶ってみれば、罪悪感が胸を灼く。
この胸に縋ることを願っていた筈だった。
それなのに。
いざ、夢が叶ってみれば、罪悪感が胸を灼く。
こうしている間にも、ウィザード達は魔王と戦い続けているからか。
他の世界が冥魔に蹂躙されているからか。
他の世界が冥魔に蹂躙されているからか。
言い訳の余地はある。
自分は、身を呈して冥魔王の脅威から世界を守っているのだと、言えなくも無い。
冥界の瘴気に汚染された想い人を大人しくさせるには、これが最善なのだ。
下手に攻撃すれば、甚大な被害が出るだろう。
冥界の瘴気に汚染された想い人を大人しくさせるには、これが最善なのだ。
下手に攻撃すれば、甚大な被害が出るだろう。
世界の守護者が秘めた力は、宇宙開闢に匹敵する。
増してや、冥界の瘴気を吸収して理性と引換えに力を高めたのだ。
その能力は、冥魔七王や悪徳の七王“8”人分を超えるだろう。
増してや、冥界の瘴気を吸収して理性と引換えに力を高めたのだ。
その能力は、冥魔七王や悪徳の七王“8”人分を超えるだろう。
それとも、恋愛とは無関係な理由ではあっても、恋敵を手にかけたからか。
あるいは、己の愚かさ故に、想い人に多大な苦痛を与えたためか。
あるいは、己の愚かさ故に、想い人に多大な苦痛を与えたためか。
アンゼロットは、自分を抱きしめる瘴気で構成された腕を見下ろした。
初めて会ったとき、この手はとても綺麗だった。
一度も血に塗れた事のない手。
一度も武器を持った事のない手。
誰かを殺す為ではなく、人々を慈しむ為にある手。
一度も武器を持った事のない手。
誰かを殺す為ではなく、人々を慈しむ為にある手。
魔王達を殺す為だけに生み出された戦女神達は、その手を美しいと思ったのだ。
それが、今では冥界の瘴気で形成されていた。
(――――わたくしのせいで・・・・・・・・・・・)
元々、エルンシャはアンゼロットとイクスィムを手伝う為に遣って来た。
つまり、二人の戦女神に出来る事は出来なくて良かった。
戦女神に出来ない事が、出来れば良かったのだ。
それなのに、二人がファー・ジ・アースに行ってしまった為に、一人で世界を守らなければならなくなった。
これは例えるならば、後衛型のウィザードが一人でダンジョンに放り込まれたようなものだ。
後衛としてどんなに有能であっても、生き残れる筈が無い。
つまり、二人の戦女神に出来る事は出来なくて良かった。
戦女神に出来ない事が、出来れば良かったのだ。
それなのに、二人がファー・ジ・アースに行ってしまった為に、一人で世界を守らなければならなくなった。
これは例えるならば、後衛型のウィザードが一人でダンジョンに放り込まれたようなものだ。
後衛としてどんなに有能であっても、生き残れる筈が無い。
想い人が復活した事は随分前から知っていたが、自分から連絡を取りはしなかった。
こちらを訪れたエル=ネイシアの民から、もしや先代女王陛下の転生体なのではと問われても、曖昧に笑って
答えなかった。
会わせる顔がないと、思っていた。
いつかは会って、謝らなければならないとは思ってはいたが、忙しさを言い訳に先延ばしにしていた。
こちらを訪れたエル=ネイシアの民から、もしや先代女王陛下の転生体なのではと問われても、曖昧に笑って
答えなかった。
会わせる顔がないと、思っていた。
いつかは会って、謝らなければならないとは思ってはいたが、忙しさを言い訳に先延ばしにしていた。
その結果が、これだ。
(――――わたくしが傍にいれば、こんな事には・・・・・・・・・・・)
謝りたい。でも、それは出来ない。自分の罪を口に出せば、この方はきっと許してくれる。
謝罪は、ただ自分が許されるためのものでしかない。相手のためには、ならない。
謝罪は、ただ自分が許されるためのものでしかない。相手のためには、ならない。
(わたくしは、どうしたらよいのでしょう?)
思えば、今迄一度でも彼の気持ちを汲んだ事があっただろうか。
世界の危機を引き起こしながら、その愛を求めたときも。
聖姫争奪戦に敗れ、身を引く事を決めたときも。
世界の危機を引き起こしながら、その愛を求めたときも。
聖姫争奪戦に敗れ、身を引く事を決めたときも。
(わたくしは、自分の事しか考えていませんでした)
彼の事は優柔不断だと、思っていた。でも、逆の立場になって見て分かる。
彼が、自分達の求愛に応じる事が出来なかった理由が。
世界の守護者は、世界全体を平等に愛さなければ務まらない。
恋に溺れては、いけないのだ。
彼が、自分達の求愛に応じる事が出来なかった理由が。
世界の守護者は、世界全体を平等に愛さなければ務まらない。
恋に溺れては、いけないのだ。
それに、彼が世界を救う為には、二人の女神双方と力を合わせる必要があったのに。
(わたくしも、イクスも・・・・振られたら、この方を殺すつもりでした・・・)
彼が女神達の求愛に応じる事が出来なかった理由は、もう一つある。
彼は、神代の戦さに散ったアンゼロットの6人の姉妹達の残滓より生み出された。
謂わば、彼女達の姉妹の転生体だ。応じられる訳がない。
謂わば、彼女達の姉妹の転生体だ。応じられる訳がない。
だが、それも、二人の戦女神が彼に惹かれた原因だったのかもしれない。
彼に、喪った姉妹達の面影を重ねていたのだろう。
彼に、喪った姉妹達の面影を重ねていたのだろう。
そんな事を考えながら、いつしかアンゼロットは眠りに落ち、七人の姉妹達と共に戦場を駆け抜けた日々を夢
に見ていた。
に見ていた。
「エミュ、ルクセクト、ネイ、シェイクリ、イクストラ、アーハルト、イクスィム・・・・・・」
その寝顔を見つめながら、エルンシャは煩悶した。
「何故、そんなに苦しそうな顔をする」
誰かが、囁いた。
『彼女の心は、既にお前の上には無いのだ。
第八世界が、お前から彼女を奪ったのだ。
さあ、罰せよ。お前を捨てたその女を。
さあ、滅ぼせ。お前に都合の良くない、この世界を』
第八世界が、お前から彼女を奪ったのだ。
さあ、罰せよ。お前を捨てたその女を。
さあ、滅ぼせ。お前に都合の良くない、この世界を』
「彼女は、私の腕の中にいる。それだけで・・・充分だ」
「エルヴィデンス様、ご依頼の品をお持ちしました」
「おお、エレナ。待ちかねたぞ」
「おお、エレナ。待ちかねたぞ」
古女王はエレナの持参した水晶の棺を、その中に納められた美しい幼女を見つめ、愛しげに棺を撫でた。
「こやつはな、とても不幸な一生を送ったのだよ。
物心付く前に攫われ、世界の敵として育てられ、生き別れの姉妹と戦わされ、自分の父親を愛した女を二人も
死に追いやり、最期には味方に裏切られて殺されるという悲劇だらけの、な」
「ですが、それ全部エルヴィデンス様の所為ですよね?」
「其の通りだが何か?」
「いえ、なんでもありません」
物心付く前に攫われ、世界の敵として育てられ、生き別れの姉妹と戦わされ、自分の父親を愛した女を二人も
死に追いやり、最期には味方に裏切られて殺されるという悲劇だらけの、な」
「ですが、それ全部エルヴィデンス様の所為ですよね?」
「其の通りだが何か?」
「いえ、なんでもありません」
時々、この面の皮の厚い老獪な古代神が、アンゼロットの母親"ではない"、という事を忘れそうになる。
いや、もしかするとそうなのか?
いや、もしかするとそうなのか?
「・・・エルヴィデンス様。極めて不躾な事をお聞きしてもよろしいでしょうか?」
「何だ、改まって?」
「エルヴィデンス様は、アンゼロットの父神と好敵手の間柄であったと聞いていますが・・・アンゼロットは天界に
属する者でありながら冥界の魔力を操る力を持ち、古代の暗黒神に近い性質を持っています。
ですから、もしかして・・・」
「つまり、アンゼロットは、私の娘で地神に攫われたのではないか、と言いたいのか? さて、どうだろうな?」
「何だ、改まって?」
「エルヴィデンス様は、アンゼロットの父神と好敵手の間柄であったと聞いていますが・・・アンゼロットは天界に
属する者でありながら冥界の魔力を操る力を持ち、古代の暗黒神に近い性質を持っています。
ですから、もしかして・・・」
「つまり、アンゼロットは、私の娘で地神に攫われたのではないか、と言いたいのか? さて、どうだろうな?」
韜晦するエルヴィデンスに、エレナは疑念を訴えた。
「アンゼロットは性格面でも、天界の神々よりも寧ろ・・・・古代神に近い。
天界の住人にしては、極めて例外的な性格をしています」
「確かにな」
天界の住人にしては、極めて例外的な性格をしています」
「確かにな」
エレナの意見に、エルヴィデンスは首肯した。
「例えば、羊の群れの中に、病気の羊を見つけたとしよう。
アンゼロットは他の羊に病気がうつる前に、その1頭の羊を処分しようするだろう。
これは、天界の者の行いとしては、極めて珍しい」
「はい。八大神ならば、群れごと焼却処分して新しい群れを用意する事でしょう。
ゲイザーがやろうとしたように。
アンゼロットの性格は、魔王になる前の、本来の古代神のそれに近いのです」
「あやつは優しすぎる。あれでよく世界の守護者が務まるものだと、不思議で仕方がないわ」
アンゼロットは他の羊に病気がうつる前に、その1頭の羊を処分しようするだろう。
これは、天界の者の行いとしては、極めて珍しい」
「はい。八大神ならば、群れごと焼却処分して新しい群れを用意する事でしょう。
ゲイザーがやろうとしたように。
アンゼロットの性格は、魔王になる前の、本来の古代神のそれに近いのです」
「あやつは優しすぎる。あれでよく世界の守護者が務まるものだと、不思議で仕方がないわ」
アンゼロットについて語るときのエルヴィデンスの表情を見て、エレナは。
「それでは、アンゼロットはやはり・・・」
「それが、自分でもよく分からぬのだよ。地神に封印される前の事は記憶が曖昧でな。
エルオースが封印を解けばはっきりするのだろうが。エルオースの復活はまだなのか?」
「申し訳ありません、エルヴィデンス様。復活に必要な生贄を屠る条件がまだ整っていないのです。
エルオース様の復活は、来年の夏頃になるものと思われます」
「ふっ、エレナよ。お前の言う生贄とは、冥魔七王の事ではないだろうな?」
「まさか。そのような事が在る訳が御座いません」
「どうだかな」
「それが、自分でもよく分からぬのだよ。地神に封印される前の事は記憶が曖昧でな。
エルオースが封印を解けばはっきりするのだろうが。エルオースの復活はまだなのか?」
「申し訳ありません、エルヴィデンス様。復活に必要な生贄を屠る条件がまだ整っていないのです。
エルオース様の復活は、来年の夏頃になるものと思われます」
「ふっ、エレナよ。お前の言う生贄とは、冥魔七王の事ではないだろうな?」
「まさか。そのような事が在る訳が御座いません」
「どうだかな」
エレナは棺に目を落とし、誤魔化すように話題を変えた。
「しかし、よろしいのですか? 黄泉返らせた他の姉妹達は皆、冥界を裏切りましたが」
「闇海姫はな、私が育てた5人の闇姫の中で唯一、私を裏切らなかったのだよ」
「しかし、それはエルヴィデンス様の方が先に裏切ったからでは?」
「そう警戒するな。別に重用する訳ではない。アンゼロットの封印の番人にするだけだ」
「そうですか。では、そろそろ失礼させて戴きます。冥魔七王の皆様がお待ちですので」
「おお、誰がフレイスを攻めるかで揉めているのだったな。では公平に決める方法を教えてやろう」
「闇海姫はな、私が育てた5人の闇姫の中で唯一、私を裏切らなかったのだよ」
「しかし、それはエルヴィデンス様の方が先に裏切ったからでは?」
「そう警戒するな。別に重用する訳ではない。アンゼロットの封印の番人にするだけだ」
「そうですか。では、そろそろ失礼させて戴きます。冥魔七王の皆様がお待ちですので」
「おお、誰がフレイスを攻めるかで揉めているのだったな。では公平に決める方法を教えてやろう」
言って懐から紙とペンを取り出し、何かを書き付け、エレナに渡す。
「これはなんなのですか?」
「これはな、“あみだくじ”というものだ」
「これはな、“あみだくじ”というものだ」
視界の総てを埋め尽くす、冥魔と精霊獣の大軍勢。
空が三分に敵が七分?
そんな甘いものじゃない。
空も海も、まるで見えはしない。
空が三分に敵が七分?
そんな甘いものじゃない。
空も海も、まるで見えはしない。
横を見れば、7人の姉妹達が不敵な笑みを浮かべ。
後ろでは、彼女達の父神が、古代神と一騎打ちを演じていた。
八大神と上位の古代神の戦いは、絶大なプラーナと天界の浄化の光と闇界の虚無と冥界の混沌と瘴気が渦巻き、
時間を空間を次元構造を因果律を歪め、操り、崩壊させながら行われ、並の魔王や天使なら、近づいただけで存
在ごと抹消されかねない有様だ。
後ろでは、彼女達の父神が、古代神と一騎打ちを演じていた。
八大神と上位の古代神の戦いは、絶大なプラーナと天界の浄化の光と闇界の虚無と冥界の混沌と瘴気が渦巻き、
時間を空間を次元構造を因果律を歪め、操り、崩壊させながら行われ、並の魔王や天使なら、近づいただけで存
在ごと抹消されかねない有様だ。
「一兵たりとて、ここを通してはなりません。決して、お父様の邪魔をさせてはならないのです」
「ふん、そう気負う事もないだろう。父上の邪魔が出来る程の奴はそうはいない。
あの中では・・・シャイマール、ディングレイ、エンディヴィエ、ハーティ=マナガルム、ルー=サイファー。
そのぐらいか。残りの連中は只の羽虫に過ぎん。わざわざ攻撃せずとも、流れ玉で消し飛ぶさ。
無視していいだろう」
「ふん、そう気負う事もないだろう。父上の邪魔が出来る程の奴はそうはいない。
あの中では・・・シャイマール、ディングレイ、エンディヴィエ、ハーティ=マナガルム、ルー=サイファー。
そのぐらいか。残りの連中は只の羽虫に過ぎん。わざわざ攻撃せずとも、流れ玉で消し飛ぶさ。
無視していいだろう」
一拍置いて、姉妹達が噴き出し、笑い出す。困惑して問いかける。
「突然どうしたのだ?」
「ぷっ、くはははは。虫は無視って。あははは。大真面目な顔して変な事言うんだもん」
「わ、わらっちゃダメよ・・・くすくすくす」
「・・・・・いや、そんなにウケなくても」
「ふふふ。貴女が言うから可笑しいのですよ」
「くくくくく。アンタでも、そんな冗談言うんだ、アンゼロット」
「・・・・・心外だな。洒落を言ったつもりはなかったのだが」
「まあまあ、みなさん。アンゼロットのお陰で肩の力も抜けたことですし・・・そろそろ、始めましょうか」
「ぷっ、くはははは。虫は無視って。あははは。大真面目な顔して変な事言うんだもん」
「わ、わらっちゃダメよ・・・くすくすくす」
「・・・・・いや、そんなにウケなくても」
「ふふふ。貴女が言うから可笑しいのですよ」
「くくくくく。アンタでも、そんな冗談言うんだ、アンゼロット」
「・・・・・心外だな。洒落を言ったつもりはなかったのだが」
「まあまあ、みなさん。アンゼロットのお陰で肩の力も抜けたことですし・・・そろそろ、始めましょうか」
イクスィムが取り成し、姉妹達が表情を引き締めた。
ああ、始めよう。殺戮を。蹂躙を。陵辱を。
我等は八柱の戦女神。
殺して殺して殺して殺して殺される。
その為に、ただそれだけの為に生まれ落ち生きて死ぬる者なれば。
我等は八柱の戦女神。
殺して殺して殺して殺して殺される。
その為に、ただそれだけの為に生まれ落ち生きて死ぬる者なれば。
我等の腕は何が為に在る? 赤子を抱き上げんが為か?
否! 刀金を振るいて、敵を裂くが為に在る。
我等の身は何が為に在る? 孕みて仔を生すが為か?
否! 切り裂かれ打ち砕かればら撒かれ、この地の礎と成る為に在る。
我等の生は何が為に在る? 己が幸福を追い求めんが為か?
否! 人の世の安らぎを守らんが為、世界を守らんが為に在る。
否! 刀金を振るいて、敵を裂くが為に在る。
我等の身は何が為に在る? 孕みて仔を生すが為か?
否! 切り裂かれ打ち砕かればら撒かれ、この地の礎と成る為に在る。
我等の生は何が為に在る? 己が幸福を追い求めんが為か?
否! 人の世の安らぎを守らんが為、世界を守らんが為に在る。
我等は八柱の戦女神。魔王達を殺す者。
敵を打ち据え味方を切り捨て弱者を見捨てて魔王を殺す。
敵を打ち据え味方を切り捨て弱者を見捨てて魔王を殺す。
さあ、往こう、戦場へ。さあ、逝こう、地獄の底へ。
殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺される為に。
その為に、ただそれだけの為に産まれ堕ち生きて死ぬる者なれば。
殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺される為に。
その為に、ただそれだけの為に産まれ堕ち生きて死ぬる者なれば。
総てが終ったとき、立っていたのは二人だけだった。
周囲を埋め尽くす夥しい遺体の向こうに、撤退して行く敵軍を見送る。
そこに近づく、一つの影があった。
周囲を埋め尽くす夥しい遺体の向こうに、撤退して行く敵軍を見送る。
そこに近づく、一つの影があった。
「・・・・・・アンゼロット、イクスィム、お前達は無事じゃったか」
「父上!」「お父様!」
「父上!」「お父様!」
傷付き、疲れ果てた老人が、よろめきながら歩み寄って来た。
慌てて駆け寄り、その身を支える。
慌てて駆け寄り、その身を支える。
「古代神は・・・?」
「・・・・・・封印してきた。・・・・・・他の姉妹達はどうしたのじゃ?」
「・・・・・・そこに転がっているのが―の腕で、あっちにあるのが―の脚です。
それから―の首が落ちているのを向こうの方で見ました」
「おおぉぅ・・・・・・・」
「・・・・・・封印してきた。・・・・・・他の姉妹達はどうしたのじゃ?」
「・・・・・・そこに転がっているのが―の腕で、あっちにあるのが―の脚です。
それから―の首が落ちているのを向こうの方で見ました」
「おおぉぅ・・・・・・・」
老人は打ちのめされ、大地に膝を突いた。
「――――すまぬ。出来る事なら、お前達にも人の子らと同じ安らぎを与えてやりたかった・・・・・・・・」
「嘆く事はありません。人の子らは安らぎ、正の感情に満ちたプラーナを精製するが勤め。
それを守るが我等の務め。我等はもとより、この為に生まれて来たのです。・・・決して、悲しくなどは・・・・・・・」
それを守るが我等の務め。我等はもとより、この為に生まれて来たのです。・・・決して、悲しくなどは・・・・・・・」
視界がぼやける。熱いものが頬を伝う。
「すまぬ、すまぬ、すまぬ」
そこに、偉大なる八大神と戦女神の姿は無く、家族を失った父と娘は、泣きながら形見をかき集めた。
いつの間にか、一人で、砕けたロンギヌスの仮面を集めていた。
「え・・・」
顔を挙げ、周囲を見回す。地平線まで大地を埋め尽くす遺体はロンギヌスのもの。
その中に、自分が殺させてきた魔王の転生体の子供達が混ざっていた。
皆、恨めしそうに、彼女を見つめていた。
その中に、自分が殺させてきた魔王の転生体の子供達が混ざっていた。
皆、恨めしそうに、彼女を見つめていた。
何故、自分達が犠牲にならなければならなかったのか。
死者達は、一様にそう訴えていた。
「だって、仕方ないじゃないですか! そうしなければ、世界を―」
嘘だ! 犠牲なんか必要なかった!
柊蓮司は、そんな犠牲を払わなくても世界を救った!
世界を救うのに、犠牲なんかいらないんだ!
柊蓮司は、そんな犠牲を払わなくても世界を救った!
世界を救うのに、犠牲なんかいらないんだ!
耳を塞ぎ、顔を背ける。行くあてもなく走り出す。走って走って逃げて逃げて。
気がつけば、目の前には緑なす大地が広がっていた。
「―――なんて・・・・・・綺麗・・・・・・・」
豊かな自然の中で、素朴な人々が、穏やかに幸せそうに暮らしていた。
そうだ。ここはエル=ネイシアだ。
もう戦争は終ったのだ。もう敵を殺さなくてよいのだ。もう味方を死なせなくてよいのだ。
もう自分は戦女神ではないのだ。
これからは、イクスィムと二人で、慈愛の女神として、この世界を見守っていくのだ。
もう戦争は終ったのだ。もう敵を殺さなくてよいのだ。もう味方を死なせなくてよいのだ。
もう自分は戦女神ではないのだ。
これからは、イクスィムと二人で、慈愛の女神として、この世界を見守っていくのだ。
イクスィムが遣って来て、横に並んだ。
「魔王達を殺す、ただそれだけのために生みだされたわたくし達が、人々を守り導き慈しむ役目を任されるなん
て、まるで夢のようですわね」
「ああ、まったくだ。だが、この美しい世界を見ていると、あの血塗られた日々の方がむしろ夢のようにさえ思
えてくるな・・・・・・」
て、まるで夢のようですわね」
「ああ、まったくだ。だが、この美しい世界を見ていると、あの血塗られた日々の方がむしろ夢のようにさえ思
えてくるな・・・・・・」
イクスィムの感慨に、心から同意する。
「――――アンゼロット。貴女に聞きたい事があるのですけれど・・・・」
「なんだ、イクス? らしくもなく改まって」
「なんだ、イクス? らしくもなく改まって」
姉妹の方を見て、凍りつく。
自分と、同じ顔の少女がそこにいた。
寸分違わず同じ姿。ただ、髪だけが黒かった。
自分と同じデザインのドレスを着ていた。
ただ、色だけが、紅かった。全身の傷口から流れる、血に染まって。
自分と、同じ顔の少女がそこにいた。
寸分違わず同じ姿。ただ、髪だけが黒かった。
自分と同じデザインのドレスを着ていた。
ただ、色だけが、紅かった。全身の傷口から流れる、血に染まって。
「イクス・・・・・・」
「何故、貴女がエルンシャ様に抱かれているのですか? わたくしに譲ってくれたのではなかったのですか?
ねえ、アンゼロット。何故、わたくしを―」
「何故、貴女がエルンシャ様に抱かれているのですか? わたくしに譲ってくれたのではなかったのですか?
ねえ、アンゼロット。何故、わたくしを―」
よせ! 言うな! 止めろ!
「何故、わたくしを殺したのですか?」
―――――――――――――ッッッッッッッッッッ!!!!!!!!
自分の悲鳴で、目が覚めた。
「怖い夢を見たのだな」
優しく、落ち着いた、包容力のある力強い男の声が耳を打つ。胸の奥が暖かくなる。その温もりに縋りつく。
「エ、エルンシャ様・・・・わたくしは・・・わたくしは・・・イクスを・・・・」
「彼女の事は聞いた。悲しい事だが、君が背負う事はない。我等とて万能ではないのだからな」
「それに! それに、みんな、みんないなくなるんです! 姉妹達も、聖姫達も。ロンギヌスも。
みんな、わたくしを残して逝ってしまうんです!」
「彼女の事は聞いた。悲しい事だが、君が背負う事はない。我等とて万能ではないのだからな」
「それに! それに、みんな、みんないなくなるんです! 姉妹達も、聖姫達も。ロンギヌスも。
みんな、わたくしを残して逝ってしまうんです!」
感情が高ぶる。涙が溢れ出す。内心をさらけ出す。
「わたくしは、わたくしは誰も救えないんです! どんなに頑張っても、頑張っても、誰も助けられないんです!
どんなに、どんなに・・・・・・」
「もう止すのだ、アンゼロット」
「みんな、みんないなくなる・・・・わたくしを残して逝ってしまう・・・・」
「私が傍にいる。私が、傍にいる」
どんなに、どんなに・・・・・・」
「もう止すのだ、アンゼロット」
「みんな、みんないなくなる・・・・わたくしを残して逝ってしまう・・・・」
「私が傍にいる。私が、傍にいる」
瘴気で構成された腕が、優しく、少女を抱きしめる。身体は瘴気で出来きていたが、その奥にある星の欠片か
ら届けられる、慈愛の念に満ちたプラーナが少女の苦痛を癒していく。
ら届けられる、慈愛の念に満ちたプラーナが少女の苦痛を癒していく。
「どうして、どうしてそんなに優しいんですか・・・?
わたくしは、わたくしは、あんなにもひどいことをしたのに・・・」
わたくしは、わたくしは、あんなにもひどいことをしたのに・・・」
勝手に好きになって、振られたら殺すつもりで迫って。
世界の危機を招いて、全責任を押し付けて八つ裂きにさせて。
一度は復活させようとしたものの、欠片の一つが失われ、もう復活しないと聞くや闇姫との戦いを聖姫に丸投
げして勝手に後追い自殺をして。
ゲイザーに拾われた後、相手が生きていると知っても連絡を取らず。
裏界に寝返った恋敵を手にかけ。
その上で、自分だけは、のうのうと新しい恋を見つけた、と受け取られたらしい態度を取ったのに。
世界の危機を招いて、全責任を押し付けて八つ裂きにさせて。
一度は復活させようとしたものの、欠片の一つが失われ、もう復活しないと聞くや闇姫との戦いを聖姫に丸投
げして勝手に後追い自殺をして。
ゲイザーに拾われた後、相手が生きていると知っても連絡を取らず。
裏界に寝返った恋敵を手にかけ。
その上で、自分だけは、のうのうと新しい恋を見つけた、と受け取られたらしい態度を取ったのに。
八つ裂きにされて冥界にばら撒かれても、仕方がないだろうことをしたのに。
「なんで・・・・なんで、そんなに優しいんですか・・・・・? わたくしが・・・憎くはないんですか・・・・・・?」
「アンゼロット。私の心にある思いは、一つだけだ」
「アンゼロット。私の心にある思いは、一つだけだ」
瘴気で出来た手が優しく少女の髪を撫で、銀の双眸が少女の瞳を覗き込み、そっと告げた。
「また、君に逢えて嬉しい」
「エ・・・ルン・・シャ・・様・・・・エルンシャ様ァッ!」
「エ・・・ルン・・シャ・・様・・・・エルンシャ様ァッ!」
少女は初恋の相手の胸に顔を押し当て、何時までも、何時までも泣き続けた。