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ナイトウィザード!クロスSS超☆保管庫
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ナイトウィザード!クロスSS超☆保管庫

幕間01

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幕間 <アキハバラ・ガーディアンズ・ライン>

<獣と雷>


路地裏。二人の少年が背中合わせに立っていた。
白ランの少年・黒須左京が笑う。

「……まったく、支部長も無茶を言ってくれる。『事件の解決まで持久戦、自重しつつ戦え』とのお達しだ」
「なんだよ。もうお疲れか、いつもあれだけ偉そうな口利いといてよ」

背中合わせの少年・加賀十也がそれを笑う。
二人は、この戦いが始まってすぐ飛び出し、一番長く戦っている。
傷こそほとんどなくとも、己の衝動が耐えがたくなってくる頃だ。左京でも珍しく弱音を吐くほどには。

だが、それでも。
二人は前を向き、大量の敵を睨む。
左京が十也に向けて言う。

「お前こそ。辛いならそこらへんで寝ていてもいいのだぞ?この程度なら俺一人でも十分だ」
「はっ。弱音吐かなきゃやってらんねぇほど弱ってる奴なんぞに言われて寝てられるかっての」

ここで倒れれば、その分だけ他の誰かが傷つくことを知っているから。
ここで自我を失えば、もう二度と大切なものが戻らないことを知っているから。
二人の少年は、ただただ前を向き、眼前の敵を潰すことだけを考える。

「さっさといけ、<探求の獣>。前衛のお前にここにいられると俺が困る」
「俺をその名で呼ぶな!ついでに命令もすんな、俺は支部長の命令に従ってんだ。お前の指図に付き合うつもりはねぇ」

けど、と最後に十也は呟いて、ジャームの群れへと走り出す。その異形の腕を振りかざして、その群れを吹き飛ばすために―――。

「付き合うつもりはない、が……ここを守るためだ。お前のその提案、ちょっとだけ受け入れてやるよ!」

ふん、とその言葉を鼻で笑い、左京がその異能を操る指先をジャームの群れの先頭へと突きつける。

「上等だ。当たるなよっ!」

指先より迸るのは雷の槍。彼の二つ名、グングニルと呼ぶに相応しい、神速の光槍は、数多のジャームを薙ぎ飛ばしていく―――。

獣と雷はいまだ健在、ただただこの街を襲うジャームを圧倒的な力で吹き飛ばし続ける。


<世界の鍵>


はぁ、と深くため息をついた少年がいた。

彼の周りには無数のジャームたち。
最近はこんな輩に狙われているために色々と放浪生活をしながらUGNのイリーガルとして食っていっている彼だが、どうやらこれは自分を狙ったものではないようだ。
あわてて思い人に連絡しようとしたら、通話ボタンを押す直前に着信が告げられる。
名前の表示を見れば、彼にとっては非常に苦手な人物の名前。
しばらく葛藤するが、出なければ出ないで非常にまずいことになる。
仕方なくとると、そこからはその人物―――頸城智世の声がした。
もしもし、と言う隙すら与えず智世が言う。

『貴方、本当に結希さんの思い人である自覚がおありになるのかしら?』

痛烈な言葉を棘だらけの口調で言われる。さすがラストソング、そのダメージで心がずきずきと痛む。
とりあえずは言葉を返した。

「君が結希の側についているんだろ、だったらまだ安心できる」
『あら、ナイト役をわたくしに譲る気になりまして?』
「そんなことは言ってない。僕は、結希を好きな気持ちだけは君に負けるつもりはないからね」

電話の向こうからはふん、と鼻で笑う声。

『ナメないでいただきたいですわね。
 よろしいですか?わたくしはあなたに結希さんを思う心が負けているから引いているのではありませんわ。
 結希さんがあなたを選んだから、引くのです。
 結希さんがあなたを捨てる日がくれば、すぐさま奪って差し上げますので覚悟しておきなさいな?』
「……うん、そうだね。ありがとう」
『礼を言われる筋合いはございませんわ。
 さっさと結希さんを守りにきなさい、この○○○』

そう言って、一方的にぶつんと切られる会話。
ため息は一つ。目の前にはジャームの群れ。そんな中でなお、少年はただ静かに告げた。

「こんなこと言われちゃったんじゃ仕方ないね。早く結希のところへ行かないといけない。
 それで―――誰から最初にこの世に別れを告げたい?
 僕はさっさと行かなくちゃいけないから、ちょっと今手加減なんかはする気が起きないんだ」

直後。ジャームが30匹ほど一気に蹴散らされる。
それが、ジャームたちには見えないほどの速度で移動した少年の、腕のなした結果だった。
薙ぎ払われたジャームたちの破片が雨と降り注ぐ中、加害者の少年だけが真剣な表情で酷薄な台詞を吐く。

「逃げてくれると、僕としてはとても助かるんだけどね。
 実力の差が分かるような顔には見えないし―――仕方ない。君達全員、ここで行き止まりだ」

その言葉と同時、少年は服の中から獣の腕を繰り出し―――そして、一方的な虐殺はほんの短い時間で終わることになる。


<紅き炎と戦場の歌>


バス停に、一人の気弱そうな少年がいた。
おかしいなぁ、と一人呟く。待ち合わせの相手が来ないというだけでなく、この街に不案内なことが彼の不安に拍車をかけていた。
その時だ。彼の背後に立っていたジャームが、彼に向かって腕を振り下ろした。
少年が驚く声すら響かずに巨大な腕が振り下ろされて、アスファルトが砕けた。もうもうと沸き起こる砂煙。
その砂煙の中で、ジャームは気づく。自分の腕が傷だらけになっていることに。
焼けつく痛みに気づいた瞬間、絶叫。
その砂煙の中から、おどおどしたままの少年が現れる。

「ご、ごめんなさいっ、僕はちょっと特別な体質なんで……あなたみたいなのが触ると、怪我しちゃいますよ?」

少年が思わずジャームに謝っているところに、強い声がかけられた。

「こぉら史朗っ!なにそんな雑魚ジャーム相手にダメージ受けてるのよ情けないっ!」
「うひゃっ!?……さ、桜。おどかさないでよ」

声と同時に少年に向かって駆けて来るのは富士見桜。桜が呼んだとおり、少年の名は史朗―――松永史朗(まつなが・しろう)といった。
もともとは桜と同じ支部の、切り札の一枚のような少年であり、そうそう支部を出ることはないのだが、このたび霧谷によって秋葉原まで呼びつけられた援軍の一人だ。
桜は史朗を睨んでから、告げる。

「まったく、もうちょっとしっかりしなさいよ。史朗は力はあるんだから」
「う、うん。だけど桜、待ち合わせの時間からだいぶ遅れて―――」
「街中でジャームが大量に出現してる中を、史朗はあたしにつっきれって言うのっ!?」
「ご、ごめんなさい……」

おもいきり怒られてへこむ、これが史朗と桜の関係である。

―――本当はもう一人、友だちがいて。
―――本当はもう一人、皆の姉がいた。
けれど、その光景は今はない。
だから彼らはその先を歩く。それでも彼らはその先をゆく。自分の選んだ道を、ただ信じて。未来を守り続けるために。

桜は、いまだ萎縮する史朗に、ぽつりと告げた。

「まったく……あたしを守る時くらいはしゃきっとできないの?」

その言葉に、思わずえ?と聞き返す史朗。ううん、と首を振って彼女は告げた。

「史朗があたしを守る。あたしが史朗を守る。いつものことよね、できないとは言わせないわよ?」
「できるよ。桜は、絶対に守ってみせる」

史朗は真剣な目でそう応える。実は支部長から『桜ちゃんを守ってあげてね』という指令を受けていたし、なにより。自分が守りたいから。
その言葉に満足そうに頷いて、彼らはジャームの街を駆け出した。
大切な人と生きるこの街を、守るために。


<白銀の剣とレネゲイドの意思>


人のいない街で、七村紫帆(ななむら・しほ)は途方にくれていた。
ミナリと一緒に他支部の援軍に行ってやってくれ、と彼女のいる鳴島市のUGN支部長、九条柳也(くじょう・りゅうや)から言われたのは三日前のこと。
委員長こと友人のミナリ―――八重垣ミナリ(やえがき・みなり)は、
『なんでそんなことをもっと早く言わないんですかまったくもう柳也さんは』とえんえんとお説教を開始するものの、柳也はそれを丸無視。
夏休みに入ってさらに過酷さを増すミナリのオーヴァード指導にちょっと『外に出たいな……』と思っていた紫帆にとってはそれは天の声のように聞こえたものだった。
そんなバケーション気分の紫帆が行く先で待ち受けていたのは、ジャームの群れ。
気づいた時にはワーディングの中に入ってしまっており、大量のジャームに囲まれていて、とりあえずはいったん逃亡。
向こうの支部に連絡をした後、この街が今ジャームに襲われていることが判明。ちょっと支部が危ないので、支部の方に向かってくれ、とのこと。
能力は低いとはいえ相手は大群だ。そんなものをいちいち相手にしてはいられない。
ミナリの後ろに隠れてちょこちょこと逃げ回りながら支部に向かっていたのだが、ちょっと失敗してミナリとはぐれてしまったのだ。

なんとか町内地図を見て支部にたどりつこうとするものの、普通の地図にUGNの支部の名前があるはずもない。
喫茶「ゆにばーさる」なんて店があったが、そんなまんまな名前をつけるネーミングセンスの支部長はいないだろう、と判断。
さらに5分ほどにらめっこした時だった。

ぱん、と軽い音。
その音につい最近お近づきになった紫帆は、音のもとである背後をおそるおそる振り向く。
あんまり日常生活では聞くことのないその音―――拳銃の破裂音―――を出したのは、銀色の髪の少女だった。その手には案の上黒い塊が握られている。
少女は、男性にも女性にも、男にも女にも、老人にも子どもにも見える表情で、紫帆を見た。

「こんなところで何をやってるのかは知らないが、キミも力を使えるのなら構えたほうがいいんじゃないかな?
 ハムレット曰く―――いや、やめておこう。キミに言ってもあまり意味を成さない」

いきなり現れて変なことを言う子どもを見た紫帆はちょっとヒき……賢者の石が彼女がオーヴァードであることを教えたため、納得した。
同時に倒れる紫帆の見ていた案内板の向こうに立っていたジャーム。
うひゃ、と呟いて、紫帆はあらためて少女を見る。

「えぇと、助けてくれんだよね?ありがとう。私の名前は七村紫帆。あなたはなんていうの?」
「ふぅん。選ばれしもの、か。それならボクも名乗っておかなければならないな。
 ボクはシザーリオ。レネゲイドの意思であり代行者。これだけ意思に背くものの集う街を放っておくわけにもいかないだろう?」

紫帆にとってはあまりに要領を得ない答えに、彼女ができたのは『……あぁ、そうなんだ』と微妙な顔で頷くことだけだった。
シザーリオ、と名乗った少女にも、そんな反応がくることはわかっていたのか、彼女は小さな微笑を浮かべたままさて、と呟く。

「キミがどう思うかは知らないが、一応は味方だとだけ言っておくよ紫帆。僕たちの選んだ選ばれし子の一人。
 ともかく、今はこの状況を切り抜ける方が先だろう?UGNのここの支部の場所はボクが知っている。案内するよ」
「え。ほ、本当に知ってるの?」
「疑い深いのは人間として正しいことだ。とはいえ―――こんな状況でFHはキミを狙うほど悠長なのかい?」

ボクの知る限り、彼らは撤退にせよ攻撃にせよ拙速を重んじていたはずだけどね、と続けるシザーリオ。
紫帆には難しいことは正直よくわからない。しかし、虎穴に入らずんば虎子を得ずとも言う。そんなことをミナリが言っていたような気がする。確か。
そううんうんと頷いて、紫帆は意を決して告げた。

「わかった。連れてってシザーリオちゃん。たぶん、委員長もそこにいると思うんだ」
「……ボクにちゃんをつけて呼んだのはキミが初めてだよ、紫帆。ともあれ、では行こうか?」

シザーリオは周囲をぐるりと見渡してから、告げた。

「この包囲を抜けてから、ね」


<盾の刃と衝撃の超人共>


ミナリは、目の前の光景にため息をついていた。
目の前にあるのは、二人の男性の醜い争いだった。しかもあんまり見た目綺麗じゃない高校生(A)と、見た目だけ綺麗な高校生(B)。
ミナリが紫帆を探していると、いきなり声をかけてきた少年(A)こと、国見以蔵(くにみ・いぞう)。
そしてそれを一瞬で押しのけてミナリにナンパをしかけてきた少年(B)こと久坂勇(くさか・いさみ)。
直後に以蔵が勇を押し倒し、醜いケンカをはじめたのである。
それだけならまだいい。ミナリとしても許容範囲であるし、二人をしかりつければいいだけの話だ。
問題はそれ以降、次々とミナリの想像を絶する事態が起きていることが原因である。

まず、以蔵が新しく現れたジャームに襲われそうになると同時、(以蔵を巻き込みながら)宇宙から少女アンドロイドが降ってきた。
次に、パラシュートで降下後、いきなり手にした棒を槍に変化させた女性がミニバンを串刺し。同時にミニバンをぶん投げて(以蔵ごと)ジャームを吹き飛ばす。
……最後には、ドラゴンが現れてあんぎゃー、とブレスを吐き出して大半を(以蔵ごと)薙ぎ払った後、しゅるしゅるとミニサイズの少女に変化。

常識派のミナリにはちと厳しい現実。
その、もはや異世界に来てしまったかのような錯覚を起こさせるような異様な状況をおさめたのは、カチューシャの少女だった。

「以蔵!勇くん、なにやってんの!
 マーヤちゃんも降ってくる時は連絡の一つも入れなさいって言っておいたでしょ?
 シャルさんも!あなたはもう少し常識派かと思ってたのに、ソフィアちゃんの一人くらい抑えられなくてどうしますっ!
 モルガンちゃんも!こんなビルが集まったところでブレスとか吐いたら迷惑じゃない!」

少女は勝気そうな表情のまま、正直この世界のものだと思いたくはないくらいにごちゃごちゃな連中を一喝。
その後、呆然としていたミナリを振り向いて言った。

「UGNの人よね?わたしは三室戸もみじ。こいつらの……まぁ、大家みたいなモンかな」
「はぁ、大家、ですか」
「違うだろもみじ!お前は俺のもんだ!マイラバーマイラバーラマンラマーン!」
「ラマンは愛人でしょうが!」

ミナリともみじの会話に割り込んできた以蔵にボディブロー。以蔵、ごあふぁっ!?と叫んで撃沈。
まったくもう、と呟いて恐ろしい実力行使をした後、彼女は的確に告げる。

「モルガンちゃんは勇くんと一緒に向こうの道のジャームたちをお願い」
「ふっふっふ、任せておくのじゃー!このカオスガーデンの主にして竜の女王、真祖ブラストハンドになっ!」
「はっはっは、当たり前のように任せてくださってかまいませんよもみじさん。この本家ブラストハンドがあの程度の敵一掃してみせますよ」
「シャルさんはマーヤさんとあっちの公園内の駆除をお願いします」
「まぁそれが妥当なところだろう。エルキュールの奴もどこかに落ちているだろうから回収しておけば安心だしな」
「了解しました」
「えーと、あなたは……」
「ミナリです。八重垣ミナリ」

名前を告げると、彼女は頼もしそうに笑った。

「そう、ミナリさんもこの二人の方についてってくれる?あなたはどっちかっていうとそういう能力みたいだし」

そう言われて、はぁ、とミナリは答えるしかない。正直もうこの状況に頭がついていっていないのであった。
そして、と最後にもみじはまだ悶絶している以蔵を振り向く。

「以蔵、アンタはあたしと一緒に向こうに行くわよ。いい?」
「一緒?そう、そうだねもみじ。生まれる前から僕らは常に一緒さアーハーン?そう、お前がその気なら今すぐにでも俺とトゥギャザーしないか?」
「その気ってどの気よこの馬鹿」

ハリセン一閃。その慣れた動き一つ見るだけで、ミナリは彼女を只者ではないと感じ取った。
そんなことはさておき、ハリセンを肩に担ぐようにして、しゃがみこんで頭を押えてくぉぉぉぉ、とうなる以蔵を見下ろして一つため息。

「……ほら、コレが終わったらいくらでもあたしのメイド姿が見られるでしょうが。少しはやる気だしなさいよ、ブラストハンド」
「い、いくらでもっ!?おはようからおやすみまで俺を見守り続けるメイドもみじ!?うぉぉやる気出てきたぁぁぁぁっ!」

しゃきーん、と効果音を口で言いながら立ち上がる以蔵。
そんな彼をもう一度ため息まじりで苦笑しながら見て、もみじはほんの少し微笑んだ。
そして―――それまでうっひょぉぉぉおおおっ!と奇声を上げていた以蔵が、ぱちん、と指を弾いて何事か呟くと、近くまで迫ってきていたジャームの頭が爆散する。

「―――ブラストハンド、それが俺の名だ。地獄に行っても忘れるな」
「じゃからわらわが真祖ブラストハンドじゃ。名前の使用料よこせ以蔵」
「いえいえ、そこの使用料関連はこの本家ブラストハンドを通してにしましょうモルガンちゃん」
「……そろそろわたしも新正ブラストハンドあたりを名乗るべきでしょうか、シャル」
「やめておいてくれマーヤ。お前にまでそちら側にいかれると正直本気で困る」

かっこよくよくわからないポーズを決めながら以蔵。半眼のモルガン。笑顔の勇。茫洋とした瞳でマーヤ。頭を押えつつのシャル。
そんな光景を見て、ミナリはため息をつきつつ呟いた。

「……なんか、ここにいると私もイロモノ扱いされそうな気がする……」

心の中で自分の不運を嘆きつつ、八重垣ミナリは駆け出した。


<永遠の少年と道化の仮面>


薄い色素の髪、白い肌、ジャケットを上から引っ掛けた、サスペンダーの半ズボン。
可愛らしいだろう面持ちの少年が、大量のジャームの群れの前に立っている。
だろう、と表現したのは単純で、今はその顔がどう考えてもへそを曲げているようにしか見えないから。
少年は隣に立つ男に対して告げる。

「まったく……キミといる時はいつもこうだよジョージ」
「はっはっは。それはこっちの台詞だよ応理君、君といる時はいつもこうなんだから困る。僕は紫帆君のメイド姿を目に焼き付けておこうと思っただけなんだけどねぇ」
「ジョージ、いつからメイド趣味になったんだい?キミん家には結構いるだろ、あのオーストリアの古城に」
「おやおや。ここ一年ほどの騒動のことを知らないのかな?
 さすがはピーターパン。ネバーランドにでも引きこもってたのかい?某資本主義の国にあるやつ」
「穢れきったところは夢の国(ネバーランド)とは言わない。万魔殿(パンデモニウム)って言うんだ。あんなものと一緒にするなよ」

閑話休題。
薄い笑いを貼り付けたままに少年、群墨応理(むらずみ・おうり)と話しているのは、亜麻色の髪の青年だ。ジョージ、とは呼ばれているもののどう見ても日本人である。
彼の名前は千城寺薫(せんじょうじ・かおる)。UGNの中枢評議員、テレーズ・ブルム直属の部下で、研究員をやっている。
基本的に好奇心のまま動く彼の現在の主な目的は紫帆の観察であり、紫帆が霧谷の下した命令によって秋葉原支部に行くということを知った彼はすぐさま直行。
その先でばったりと何度か会ったことのある応理と出会ってしまったのだった。
なお。
応理が薫をジョージと呼ぶのは、一番最初に薫と出会った場所が例の城だったせいである。

ともあれ、応理は不機嫌そうな表情を隠そうともせずに言った。

「まったく……雄吾に言われてヘルプとして来てみればこの状況だ。ともかく、支部に行ってみないと状況がわからない」
「それについては同感だね。じゃあ―――結局共同戦線と行こうかな?」
「ちょっと納得いかないけどそうも言ってられないだろう。何より、キミの実力だけはボクは買ってるんだよ?」
「僕は支部がどこかわからないからね。ちょうどいい所で会った、と思っておくべきかな」
「子どもに道を聞くのかい?」
「最近の子どもは困ってる人を助けないくらい発達が不健全なんだね、嘆かわしい」
「……金持ってるからっていい気になるなよ」
「おや?何か言ったかい応理君」
「いいや何も。それより、キミを怪物たちが待ってるよ?」

応理の言葉に、薫が白衣の袖からしゅるしゅると茨を伸ばす。

「おやおや本当だ。そういえば応理君、ここも最近は夢の国と呼ばれているらしいじゃないか」
「他にも聖地、なんて呼んでる人間もいるね。それがどうかしたかい?」
「夢の国には怪物は必要ないと思わない?」

薫のウィンクしながらの言葉に、ははっ、と声を上げておかしそうに笑う応理。

「そうだね、夢の国はみんなの夢でできている。そこに―――悪い夢は必要ない」

応理が言い終えると同時。
ジャームの群れを多い尽くすほどの茨の群れと、茨の隙間を縫うように放たれる黒い釘が、その一角を一瞬にして消滅させた。


<白糸使いの蜘蛛・真円の狼・断罪の女神>


白い糸が空間を走り、ジャームの群れを拘束。切り刻む。
黒い獣が地面を蹴ってジャームの群れへと回し蹴りを叩き込む。
その隙間を縫い、少女の弾丸が次々とジャームの眉間を正確にうちぬく。

いずれもゆにばーさるを代表する名物メイド。しかし一度戦闘となれば、彼女たちはそうそう止められはしない。
あまりの光景に、もはや理性の欠片も残ってはいないだろうジャームたちの一部が逃げ出そうとしたほどだ。
分断されては勝てないと悟ったか。ジャームたちは彼女達を完全に包囲するように頭数を揃えつつある。
次々と増えていくジャーム、そんな光景を前にして、それでも彼女達の表情は変わらない。

綾が告げる。

「……この街にはお友達がたくさんいるの。あなた達がそこに入るというなら、その罪は今すぐわたしが裁く」

狛江が吼える。

「いいねいいね、これ百人組み手以上だよねっ!?オーヴァード空手の修行の一環として取り入れられるねっ!」

椿が語りかける。

「あなた達がいるところは、ここじゃない。ここは私たちの場所、絶対に好き勝手に奪わせたりなんかさせないっ!」

彼女達には、結希から先ほど元凶をたたきにいったチームがいることは知らされている。
彼らが帰ってくるまでこのジャームたちをえんえんと相手をしなければならないとわかっている。
だからこそ。
あのゆにばーさるの日常が帰ってくることを信じて、彼女達は戦い続ける。

 ***

さまざまな人間が、この街を守るために戦っていた。
傷つくことも恐れず、侵食されていく己をも省みず、ただ守りたいものを守るために。
誰かの明日を守るために。
誰かの日常を守るために。
そしてなにより―――自分の日常を回していくために。

その輝きたちが、この街を守っている。この街の日々を回している。だからこそ―――この夢のような街がある。
誰かの見ている夢のように、お祭り騒ぎの続く街を。
けれどその夢はけして悪いものではない。だからこそ守ろうとするものがいる。あらゆる人々との絆がこの街を守ろうとさせる。

人々のつむぐその幻想(きずな)が今、この街を侵食から防いでいるのだ。
その輝きは止まらない。

きっと―――全てが終わるその時まで。



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