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ナイトウィザード!クロスSS超☆保管庫
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ナイトウィザード!クロスSS超☆保管庫

第03話

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だれでも歓迎! 編集
「はぁ、はぁ、はぁ・・・・・・で、なんでまたこっちに来たわけ、プリギュラ?」

 裏界の居城に戻り、窓の外で巨大な歯車が回転する部屋でベッドに並んで腰掛けて、ベルはプリギュラと話していた。
 荒い息を吐きながら着衣の乱れを直しつつ問いかけるベルに、此方は息一つ乱さずに、やはり乱れた衣服を直しつつプ
リギュラが答える。

「んー。第一、第三、第五世界はぁとっくに陥落したのにぃ、一番戦力にぃ恵まれてる筈のぉ第八世界の侵略がぁ、全っ然、
進んでないからぁ様子を見に来たのぉ」
「余計なお世話よ。あと、その鬱陶しい喋り方をどーにかなさい」

 二人が服を乱しているのは、プリギュラの物言いにベルが憤慨して取っ組み合いになったからだ。
 帰って来るなり、ベルがプリギュラをベッドに押し倒すのを目撃したリオンが、そこまで餓えていたのか、と思わず書物を取
り落とした一幕もあったが―

「ベル! 気は確かですか?! 
 いくらアステート様を倒されて一人寝が寂しいからと言って、そんな子供を連れ込むなんて!
 しかも! 依りに寄ってエルヴィデンス様の寵童に手を出すなどとは!」
「変な誤解するんじゃないわよ!」
「リオンー、安心していいわよぉ。セルヴィに百合趣味は無いからぁそうゆう心配はいらないわぁ」
「そうですか・・・・・・分かりました。それならごゆっくり」
「誤解だって言ってるでしょーが!」

 その誤解も、たった今解けたところだった。

「世界結界ってのは、ホント厄介よねぇ。ぽんこつちゃんが手こずるのも無理ないと思うわぁ」
「だから、妙な綽名つけないでよ。まあ、あたしの苦労は分かったでしょ。さっさと帰りなさいよ」

 ベルが"苦労"と言った途端、部屋の隅でリオンが肩を震わせた。

(あとで覚えときなさいよ、リオン)

「わらわの用事はぁもう一個あるの。実はセルヴィが、あ、古女王エルヴィデンスって言った方が分かりやすい?」
「エルヴィデンスのババアの事ね。いいわ、セルヴィで分かるから。で、エルヴィデンスのババアがどーしたって?」

「セルヴィはアンタと同い年よぉ、ぽんこつちゃん。
 アンゼロットが第三世界への里帰りの準備をしてるのは知ってるわよね?
 だから、セルヴィはアンゼロットが帰って来ないように刺客を差し向けたの。
 さっき、ぽんこつちゃんをあっさりボコった冥魔王がそれよぉ。で、その結果も確認したいわけなの」

「さっ、さっきはちょっとびっくりしただけよ!
 それに、あんな冥魔一匹だけでアンゼロットをどうにかできると思ってるなんて、あの婆さん、いくらなんでもアンゼロットを甘
く見すぎなんじゃない?」
「んー。まあ、セルヴィはアンゼロットを倒した事があるからねぇ」
「そ、そうなの?」

 意外な話を聞いたベルは驚きに目を丸くし、そこにリオンが口を挟んだ。

「ベル。天界は、百体以上の魔王を纏めて裏界に封じましたが、あの御方については、第三世界に単独で封印しました。
 しかも、あの御方は私達とは異なり、写し身を作れない程に厳重な封印を施されたのです。
 つまり、天界は私達裏界の魔王全員を合わせたよりも、あの御方唯一柱の方が危険だと看做したのです。

 そして実際に、私達はアンゼロットを倒す事も、世界を奪う事も出来ませんが、エルヴィデンス様はそれらを実現しています。
 貴女とエルヴィデンス様とでは、幼児用プラレールと“俺、参上!”な時の列車以上の差があるのです。
 そして、プリギュラは、そのエルヴィデンス様の側近です。
 いつものノリでパールや他の誰かと同じように扱い、もしもエルヴィデンス様のお怒りに触れるような事になれば―」

「うっさいわね! そんなにあのババアの方がいいなら、アイツの部下になればいいじゃないの!」
「いーわねぁ。歓迎するわぁ」「ではお言葉に甘えて」「待ってリオン! 行かないで!」

 ベルは慌ててベッドから飛び降り、リオンに縋りついた。

「愛されてるわねぇ、リオン」
「まさか。秘密をぶち撒けられたくないだけですよ」

 実際には、リオンには古女王に仕える気は全くなかった。
 何故なら、あの老婆の前で「だって、聞かれなかったし」と呟いた日には、良くて鰻風呂直行、最悪の場合には精神を破
壊され、聞かれた事に答えるだけの人形のような存在にされかねないからだ。

 その老獪さのみならず、部下の扱いの悪さも、性格の苛烈さも奇矯さも、仕草の婆臭さも、総てにおいてアンゼロットを凌
駕する。
 古女王エルヴィデンスとは、そんなお茶目な陰険ババアだ。
 あの老怪を、ベルやパールのように手玉に取る事は絶対不可能。

 どんなに有能な部下がどんなに手柄を立てようと、機嫌が悪ければ殴り倒す。
 そんな暴君に仕え、唯々慈悲を乞うだけの日々を送るのは真っ平だった。

 尤も、古女王は飴と鞭の使い方をよく心得ていたし、下僕を処刑する事も滅多にない。
 直属の部下だった闇姫達に呼びかけるときには「私の可愛い闇姫達よ」と言っていたそうだし、ときには部下達に豪華な食
事を振舞う事もある。
 裏界の魔王で、もっと部下を大事にしている者がいるかと聞かれれば返事に困る。
 パールの部下辺りからすれば、慈愛の女神にしか見えないだろう。



 エル=ネイシアの民は被虐癖が強く、身分の高い者に盲従する卑屈な者達だと言われている。
 だが、それは誤解だ。彼等は、自らの意志で仕えるに足る主を選ぶ。

 神の娘にして救世主である聖姫に気に入られ、面と向かって「あたしの下僕にしてやる」と言われて尚、「誰が貴様のよう
な我侭女に仕えるものか!」と叫んだ女王派の下僕もいるのだ。

 彼等は、女王や聖姫の唱える理想に共感し、彼女達の体現する信念に惚れ込んで主と仰ぐ。
 そして、ある者は遠きに在りて自らが生きる上での手本とし、ある者は理想実現の為の汚れ役を買って出る。

 エル=ネイシアの民にとって、女王や聖姫はただの支配階級ではない。
 実現されるべき理想の、貫くべき信念の、守るべき大切な何かの象徴であり、自分に出来ない事を代わりにやってくれる
存在でもあるのだ。

 この世で最も大切な事は何か?
 希望か? 情熱か? やすらぎか? 知性か? 弾けることか?  或いは他の何かだろうか?
 様々な答えがあり、女王も聖姫も、それぞれが別々の事を言っている。
 そしてエル=ネイシアの民は、その中から自分なりの答えを選んでいるのだ。

 エル=ネイシアの民が生きる上での究極の目標。
 それは、自らの総てのプラーナを主に捧げ尽くして消滅し、主と“一つになる”事だ。
 そして共に、その理想の実現を目指すのだ。
 彼等は、それほどの情熱を込めて主を選び、仕えている。

 それほどの忠誠を、古女王エルヴィデンスに捧げる下僕達がいる。
 それだけの魅力が、古女王エルヴィデンスにはあると信じる者達がいる。
 古女王エルヴィデンスとは、そういう存在だ。



 聖姫戦争のある局面において。

 古女王エルヴィデンスは、聖姫のリーダーである聖金姫の率いる軍勢を、たった一人で迎え撃とうとした事があった。
 そして、聖金姫軍の前に単身立ちはだかったエルヴィデンスがいざ戦おうとしたとき、置いていかれた直属の下僕達の軍
勢が大慌てでその場に駆けつけ、敵軍を敗走させた事があった。

 シャイマールが復活した時。
 ルー=サイファーが双月を掲げた時。
 アスモデートが六柱を起動させようとした時。
 ベール=ゼファーとディングレイが地球とラース=フェリアをぶつけようとした時。

 彼ら彼女らの身を案じ、呼ばれずとも駆けつけた部下がいただろうか。



 秘密侯爵リオン=グンタは、古女王エルヴィデンスに仕えたいとは思わない。

 だが、古女王には、多くの者が忠誠を捧げるに足る“何か”がある事は、否定できない。

 古女王エルヴィデンスとは、そういう存在だ。



「ねえ、ぽんこつちゃん。あの冥魔王が、アンゼロットをどうにかできちゃったらどーするぅ?
 裏界は全戦力を集めても、たった一体の冥魔王に劣るって証明されちゃうわぁ。
 きっと、冥界でウダツの上がらない三下連中が、領地を奪いに押し寄せて来るわよぅ」
「ふん。無理よ。ありえないわ。今頃、柊蓮司に叩っ斬られてるに決まってるわよ」

 プリギュラの揶揄を鼻先で笑い飛ばし、ベルは懐から遠見のコンパクトを取り出して開いた。
 鏡にロンギヌス・コイズミの姿が映り、仮面の上からでもそれと分かる程に鎮痛な表情を浮かべて、搾り出すように言葉を発
した。

「アンゼロット様は・・・・攫われてしまいました」

 ベルの手からコンパクトが滑り落ち、床に当たって乾いた音をたてた。



 柊が目を開くと、視界の総てを、くれはの泣き顔が占めた。

「このばかひーらぎ!」「ぐぼっ!」

 いきなり、鳩尾に肘を落とされた。

「冥魔の心配をするなんて何考えてんのよ! いつもいつもその場のノリだけで動いて心配かけて!
 もうちょっとでプラーナを吸い尽くされて消えちゃうトコだったんだよ!」

 言われて柊も叫び返す。

「目の前に苦しんでる奴がいんだぞ! 放っとけるかよ!!
 それに俺だって何も考えてねーわけじゃねー。
 アイツはアンゼロットの元カレみたいだったし、それに、アイツはプラーナが足りなくて、あのまんまじゃ周りのプラーナを手
当たり次第に吸い尽くしかねなかったんだよ!
 だから、俺のプラーナを分けてやろうとしたんだ!」

 ま、根こそぎ持ってかれたのは予想外だったけどな、と小声で付け加え・・・・・気付く。
 唇に、柔らかい感触が残っていた。

 どうやら、口移しでプラーナを貰ったらしい。

 だが、あの場にいたのは冥魔と大年増とコイズミだ。誰がやったのか、柊は考えない事にした。

(治療行為だ! 気にするな、気にするな、俺!)
「どーしたの、ひーらぎ?」
「・・・・・・・・なんでもねーよ。で、あの後どーなったんだ?」

 周りを見渡せば、そこはさっきのテラスだった。自分が倒れていた場所の傍にプラーナを吸い尽くされて出来たと思しき直
径約1m深さ10cm程度のクレーターを見つけてゾッとして。
 くれはの顔が赤くて、呼吸が少し荒い事には気付かなかった。

「それが・・・・・・・あの冥魔は柊様のプラーナを吸収した結果、理性が下がったようでして・・・・・急に、飛び出して行きました。
 その後、すぐにくれは様が駆けつけられ、柊様の治療を行ったところです」

 ロンギヌス・コイズミが額を押さえ、ふらつく足取りで歩み寄りながら説明した。

「は、はわ! ひ、ひーらぎが関わると世界が滅ぶってこーゆーことなのかなー?」
「・・・・・・・・・・俺っていったい・・・・・」

 何かを誤魔化すようにくれはが口にした言葉に傷付き、落ち込み掛けた柊は、いつもならここで茶化してくる筈の性悪な外
見だけ小娘の姿がないのに漸く気が付いた。

「おい、コイズミ。アンゼロットはどうしたんだ?」
「アンゼロット様は・・・・攫われてしまいました。追跡部隊も送りしましたが、全員撃退され、見失ってしまいました」
「はわわわ! どーすんのよ、ひーらぎ!」
「ほっとけよ」

 慌てるくれはに、柊は静かに、諭すように告げた。

「あの物好きな莫迦は・・・身体を砕かれて、冥界に突き落とされて、それでも、アンゼロットなんかに会いたい一心で冥魔に
なってまでして、ここに来たんだ。あまり長くないみたいだし、せめて短い間だけでも、好きな女と二人きりで居させてやれよ」

 そして、優しい瞳で、しみじみと言った。

「誰かを好きになるって、凄い事なんだな」
「あの・・・柊様。実は、アンゼロット様からご指示がありまして」

 そんな柊に、コイズミがおずおずと声をかける。

「あの者は、瘴気で体を構成した為に魂を侵食され理性を蝕まれています。
 しかし、プラーナを与えれば瘴気を浄化する事ができ、いずれは―」
「はわ。正気に戻るんだね」

 その言葉に男達は一瞬動きを止め・・・・・・聞かなかった事にした。

「ですが、そのためには膨大なプラーナが必要になります。
 そこでアンゼロット様は、御自分の無限のレべルを活かして暫くプラーナの供給に専念するおつもりなのです。
 留守中の執務については帰省中の対応と合わせ、くれは様にお任せするとの事です」
「はっ、はわっ! あ、あたしに!」
「はい。どうか、よろしくお願いいたします、世界魔術協会代表代行 赤羽くれは様」
「は、はわわわわ。そそそそんな事聞いてないよー!」
「いーじゃねーか、一ヶ月くらい。アンゼロットの里帰りって一ヶ月の予定だよな?」

 突然の事に動揺するくれはを、柊は穏やかに宥めた。

「はい。"里帰りは"一ヶ月の予定です。その前にあの冥魔をどうにかしないといけないのですが。
 今、先程の観測結果から瘴気の浄化に掛かる時間を計算させています」

 それから少しして。鳴り出した0‐Phoneを手に取り、何か話していたコイズミの顔が見る間に蒼くなった。

「おい、どうした、コイズミ?」
「今、計算結果が出たのですが・・・」
「おう。1日か? 3日か? それとも1週間はかかるのか?」
「いいえ、千年です」

 柊とくれはは過去1年間に起きた世界の危機と、それらの事件でアンゼロットが果たした役割に思いを馳せ・・・蒼白になった。

「はわわわわわわ、どーしよーひーらぎ。あああああああたし、千年もアンゼロットの代わりなんて出来ないよ!」
「せせせっ千年も隠れて二人きりでいるこたあねーじゃねーか! 居場所ぐらいはっきりさせやがれ!」
「どどどーすんのよ、どうやって居場所を探して連れ戻すのよ!」

「ふん、落ち着きなさいよ、二人とも」「「「ベル!!」」」

 意外な声を聞き、驚いて振り向いた3人の視線の先には、最早見慣れてしまったポンチョ姿の魔王が浮いていた。

「このベール=ゼファーが、冥魔なんかに攫われた、情けない守護者の所まで連れてってあげるわ」
「お前ら・・・・・・ホント仲いいんだな」
「誰がよ! か、勘違いしないでよね! あの冥魔が気に入らないから、ぶちのめしたいだけなんだから!」
「ここまでテンプレどおりだとわざとらしいな」
「はわわわわ、そっそれより、どーやって居場所を探るの?」

 柊を無視したくれはの問いに、ベルは薄い胸を張って偉そうに答えた。

「そんなの、リオンに聞けば分かるでしょ。ねー、リオン? あら?」
「リオン・・・いないけど」

 懐から0‐Phoneを取り出し、リオンにかける。

「ちょっと、リオン、何処行ったのよ! え、『だって呼ばれなかったし』ですって? 
 とにかく、アンゼロットの居場所を調べなさい! ・・・・・・・・・どう、リオン、分かった? あら?
 リオン、リオン! 返事をしなさいよ! あ、プリギュラ? リオンはどーしちゃのよ? え? そう。
 分かったわ。じゃ、落とし子を呼んで、リオンの手当てをさせて。また後でね」
「お、おい、何があったんだよ」

 心配そうに尋ねる柊に、ベルは悔しそうな表情を浮かべて告げた。

「プリギュラの話だと、書物を読み始めてすぐに、顔から火を噴いて倒れたそうよ」
「ナニをやってんのよ、アンゼロット!」

 その回答に、くれはは思わず叫んだが。

「どうやら、アンゼロット様は、リオンの能力になんらかの対策を採っていらしたようですね」
「当然だな。機密情報が駄々漏れなんて、たまったもんじゃねーぜ」
「だけど、今回ばっかりは、それが裏目に出たわね」
「あ、あれ? 変なこと考えたの、あたしだけ?」

 大真面目な顔でコメントする3人を見て恥じ入った。

「おい、くれは。誰か、探知の得意なウィザードに心当たりねーか?」
「い、一応、あるにはあるけど・・・・・・危険じゃない?」

 いきなり柊に話を振られて戸惑いながら、くれはは答えた。
 アンゼロットの準備した対探知魔法用対抗魔法が、リオンですら倒れる程に強力なものならば、並のウィザードならどうな
ってしまうのか。

「危険だって説明して、受けるかどうかは本人に任せるさ」
「いえ、それではいけません。それでは世界を守れないのです。なんとしてでもやらせなければ」
「けどよ、危険なのはやらせた奴じゃなくてやる奴なんだぜ?」

 反論する柊を、コイズミは真摯な瞳で真っ直ぐに見つめた。

「柊様。もし、誰もが、そんな危険な事はしたくないと言って断ったら、どうするのですか?」
「そ、それは・・・・俺が探知魔法を覚えて―」
「それでは間に合いません。世界を救う為には、時として誰かに危険な事をさせなければならない時もあるのです」
「でもよ・・・・俺は嫌なんだ。何かの為に、誰かを犠牲にするのは・・・」
「は、はわわわわわわ、ふっ、二人とも落ち着いて。し、死ぬって決まったもんでもないでしょーが」

 対立し始めた下がる男達の間に、くれはは慌てて割って入ったが。

「ふん。アンタも頭が悪いわね、赤羽くれは。リオンですら倒れるほどの対抗魔法よ?
 人間だったら、脳が沸騰して鼻からこぼれ落ちるに決まってるわ」
「はわー!!!」

 ベルの冷酷な発言に悲鳴を上げた。

「現在、ロンギヌスの指揮権は赤羽代表代行に委譲されています。どうか、ご指示を」
「じゃ、じゃあ・・・・・・・・・あ、そうだ! アンゼロットじゃなくって、冥魔の方に探知魔法をかければ―」
「おお! 一瞥すらしていない冥魔の居場所を調べられるのですか! 赤羽家の探知魔法は実に素晴らしいですな!」

 コイズミの発言は心の底から言葉どおりの意味だったが、くれはは頭を殴られたようによろめいた。

「・・・・・ごめん。やっぱ無理」

 やはり、誰かに危険な事をさせなければならないのか。
 アンゼロットは、いつもこんな気持ちだったのか。
 こんな事を、自分達は、ずっと、あの幼女に遣らせて来たのか・・・・

 くれはは、その眼差しに決意を込めて顔を上げた。

「わ、わかったわ。じゃ、出来る限り治癒魔法と防御魔法の使い手を集めて。
 探知魔法を強化するアイテムとか魔法陣はある?
 探知を行うウィザードには、あたしから説明して、納得してもらう。
 納得するまで説得する」
「それでは間に合わないときもあるのです。
 だからこそ、アンゼロット様は仕事を依頼するときはいつも、とても強引なのですよ」



 数刻後、下がる男達は儀式の間の前で、期待と不安を胸に結果が出るのを待っていた。

「・・・・・・・・・なんだか、子供が産まれるのを待ってるみたいですね」
「・・・・・・・・・だな。俺が産まれる時、姉貴もこんな気分だったんだろうな」

 くれはは探知を行うウィザードとバックアップ・スタッフを女性で統一し、儀式魔法を行うときにも男性陣とベルを部屋から排
除した。
 理由を問われると、その方が都合がいい、詳しく説明する時間はない、と早速強引さを発揮した。

 コイズミはロンギヌスを指揮して宮殿内に緘口令を敷き、世界の守護者が冥魔に攫われた事が外部に漏れないよう隠蔽工
作を行い、一通り、遣るべき事を終えて戻って来たところだった。
 既に、宿敵たる蝿の女王に知られているのに何を今更、という気もするが、ベルにはこの件を宣伝する気はないらしかった。
 ベルに出来なかった事を冥魔がやったのだ。この件が外に漏れれば、ベルの評判は世界魔術協会のそれ以上に傷付く事になるのだろう。
 そのベルは待ちくたびれ、腕を組んで壁に背を預けたまま船を漕いでいた。

「・・・・・・柊様。先程は失礼を致しました」
「いや。俺の方こそ悪かった。いくら危険でも、誰かがやらなきゃいけない事だもんな」

 コイズミは柊をじっと見つめた。
 この男は、ウィザードが世界を守る為に、どれ程の犠牲を支払っているか知っているのだろうか。

 強化人間達は、戦闘力を高める為に薬漬けの生活を送り、寿命を削りながら戦っている。緋室灯の余命は、コイズミの見
立てでは、長く見積もって15年、短く見積もれば半年だ。
 赤羽家やドリームマン一族は、小学生の頃から戦場に立っている。
 世界を救う為に、魔王の転生体である子供を殺し、己が所業に耐え切れず自ら槍を折ったロンギヌスは珍しくない。

 だが、そんな事を教えて何になる?
 この曇りなき無垢なる刃を、悪戯に傷付けるだけではないか。
 彼は何も知らなくてよいのだ。
 この・・・・・・聖なる愚者は。

 世界を救う為に手を汚すのは、自分達だけでいい。

 絶望という言葉すら生ぬるい、圧倒的に不利な、終わりの見えない戦いをこれからもずっと続けていくには、彼のような綺麗
な英雄が必要なのだ。

「おい、あんまじっと見んなよ」
「は、申し訳ありません」

 コイズミに見つめられた柊は照れくさそうに笑い、コイズミは慌てて謝罪した。
 会話はそこで途切れ・・・・・・・・・・ややあって扉が開き、顔を真っ赤にしたくれはが俯きながら出てきた。
 そして、躊躇い勝ちに柊を見ると、すぐに顔を逸らし、小さく呟いた。

「ひーらぎ・・・ごめん」
「くれは・・・まさ―」

「アンゼロット様の居場所が分かったであります!」

 くれはの後ろからひょこっと、鼻にティッシュペーパーを詰めた吸血鬼の少女が顔を出し、巨大な水晶玉を抱えて得意げ
に薄い胸を反らした。

「おいおい、だいじょーぶかよ?」
「ちょっと毛細血管が破裂しただけであります。命に別状はないであります」

 少女はそれだけ言うと、やり遂げた漢の顔で崩れ落ち、ロンギヌス達によって担架で医務室に運ばれていった。

「な・・・何があったんだ?」
「実は・・・捕まってるアンゼロットの姿を男の人に見せるのは忍びなくって、女だけで儀式をやったんだけど・・・アンゼロットが
用意した色々な対抗魔法のなかに対リオン用に特化してあったものがあって・・・それは、探知魔法を利用して術者に余分
な情報を与えて精神的ブラクラを仕掛けるものだったんだけど・・・」
「いったい、何を見たんだ?」「ひーらぎの恥かしい写真」「は?」

 コイズミがポンと手を叩いた。

「ああ、この間、柊様が重症を負って緊急治療室に運ばれたとき、手術が終ってから麻酔が切れるまでの間に、色々写真を
撮っていたのはこのためでしたか。いやはや、さぞやリオンには堪えた事でしょうな」

 以前、リオンに吹き飛ばされた事があるコイズミは、大いに溜飲を下げたが。

「くれは・・・・」「・・・・ごめん」

 儀式の間から、ぞろぞろと出てきた女性陣が、ちらちらと横目で柊を見て行き。

「ええい、いくぞ、ベル! コイズミ! 出発だ!」

 柊は声を張り上げた。



目指すは、狭界の一角に浮かぶ忘却世界。

ラグシア城跡 百階ダンジョン 最深部。



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