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如月ジローの初恋

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如月ジローの初恋@MOTHER2


「いいかジロー。今はまだ早いかも知れん。だが、いつかは本当に守りたいものをもて。それさえあれば力などいくらでも湧いてくるぞ。どり~む」
少年…如月ジローにとって敬愛する師匠である“おじちゃん”はよく彼にそう言っていた。
その言葉が嘘でないことを、ジローは知っている。
おじちゃんはいつだってジローも大好きなおばちゃんとマユリちゃんを守るために戦っていること。
そして、それゆえに“ナイトメア”と呼ばれる最強の夢使いなのだということを。

だからこそ、少年は誓っていた。自分もいつかは何よりも大切な“本当に守りたいもの”を持つと…
そして、そのときは訪れた。この“学園世界”で…

―――輝明学園小等部 3年4組

「知ってるか?5年2組に“転校生”が来たらしいぜ」
放課後、級友から初めてその話を聞いたとき、ジローは思わず耳を疑った。
「転校生…?この“世界”で?」
思わず聞き返す。
「うん。なんか『ごかてーのじじょう』とかってやつで来たんだって。ものすごい可愛い女の子らしいぜ」
「転校生で、ご家庭の事情で、可愛い女の子か…」
ジローは思わず考え込む。この世界に危機が訪れている可能性について。
“学園まるごと転移”なら日常茶飯事だが、“1人で転校”してくるなんて事例はジローはこれまでにたった2例しか聞いたことが無かった。
そして、もしその“女の子”が他の“2例”と同様のケースだったならば…
(確か、有名な魔王の中にも5年生くらいの女の子がいたはずだ…)
文字通りの意味で世界の危機なのかも知れない。
高等部に魔王が2人も“転校”して来たのはつい最近の出来事。
なんだかそのうちの片方が絡んで大変なことになったとも聞いている。
だからこそ、ジローはその子のことが気になった。
「なあその子のこと…」
「ああ、いたいた如月くん。悪いんだけどちょっと職員室まで来てくれるかな?」
タイミング悪く教室に入ってきた教師に声をかけられ、ジローは顔をしかめる。
「おっとついてねえな。じゃあ俺帰るわ。今日はみんなで遊ぶ約束してんだ。じゃあな!」
長くなるなと思ったんだろう。級友はさっさと行ってしまう。
「…それで、なんの用だ?」
子供らしい不機嫌さを隠そうともせず、ジローは横柄な口調で教師に問いかける。
「アンタがわざわざ来たってことは、厄介事なんだろ?“まほうせんせい”」
中等部の英語教師にして、ナイトメアの友人の親戚、“ヴァンスタイン”一族の魔術師である教師に。
「う~ん。厄介かどうかはまだ分からないな。とにかく、会ってほしい人がいるんだ」
「…今日来たっていう5年の“転校生”のことか?」
「あれ?知ってるの?君は確か3年生だと思ったけど」
「…なぁ~に。この程度の情報、僕ならばたやすくつかめるさ。どりぃ~む」
つい先ほどたまたま聞いたと言うことは伏せて、ジローは“ドリームキッド”としての顔で言い放った。

ドリームマン一族と呼ばれる一族がいる。
“魔術師”の名門ヴァンスタインと並ぶ“夢使い”の名門。
覚醒を果たしたドリームマン一族はみな“天才”と呼ばれるだけ才能を持った夢使いとなる。

如月ジローは、大人びた少年である。
ある意味においてそれは仕方がないのかも知れない。
彼が“夢使い”として覚醒したのは、小学生に上がるかどうかの頃。
覚醒してからは最高クラスの夢使いである“おじちゃん”に鍛えられ、ウィザードとしての腕を磨き、敬愛するおじちゃんに似せた彼のセンスに
ぴったりの衣装に身を包んだ“ドリームキッド”として、幾多の修羅場を乗り越えてきた。
既に並みの大人のウィザードを遙かに凌駕する実力を持っており、魔王や冥魔との戦いの経験もある。
若干8歳にしてそこいらのウィザードなど足元にも及ばぬ、ベテラン。それがジローと言う少年であった。

数分後。
「さて、要件を聞こうか。どりぃ~む」
いつもの衣装に着替え、子供らしい高い声を精一杯低くしながら、ジローはまほうせんせいこと静=ヴァンスタインに問いかける。
「うん。さっきも言ったけど、会ってほしい人がいるんだ。職員室に来てくれないかな?ドリームキッド」
それに少しだけ苦笑いをしながら、静が職員室に向かって歩き出した。


―――輝明学園 職員室

軽くウェーブのかかった金髪を肩口で切り揃え、真っ赤なリボンをつけた、碧い眼の少女。
奇麗な子だなと言うのが、ジローの第一印象だった。
「やあ。待たせたかい?」
「いいえ」
静の問いに少女は笑って首を横に振る。
「そっか。じゃあいいや。紹介するよ。小等部のウィザードの…」
「ドリームキッド、如月ジローだ。よく、覚えておくがよい。どりぃ~む」
精一杯の大人らしい声を出して威厳を出そうとする。
大抵の人はジローの衣装を見て、首をかしげ、それを聞いた時点でそのギャップに吹き出す。だが。
「ええ。ドリームキッドのジローね」
少女は不思議に思う事も吹き出しもせず微笑を浮かべ、すっと右手を差し出す。
「私はイーグルランドのツーソンから来た、ポーラよ。よろしくね。ジロー」
「え?うん、よろしく…」
いつもと違う反応に内心混乱しつつもジローは手を握り返す。
「それで、なんだって僕が呼ばれた?」
それを誤魔化すように静に問いかける。
「うん。君には彼女と組んで貰いたい」
「そうか。だが護衛任務なら正直ダグラスにでもやらせて…組む、だと?」
静の言葉にジローは眉をひそめる。
まるで目の前の少女が“戦える”かのようないい草に。
「その通り。彼女にはご家庭の事情から転入してもらったんだ。…“ウィザード生徒扱い”でね。
 それで、輝明学園から1人、彼女に色々と教えるウィザードを出すことになってね。
 適正と、なにより年齢から、君に頼もうってことになったんだ。まあ僕でも良かったんだけど、僕はもうサフィーちゃんのお守りでいっぱいいっぱいだしね」
輝明学園がまだファー・ジ・アースにあった頃、勝手に侵入してきて大問題を起こし、すったもんだのあげくに静が保護することになった異世界人の“吸血鬼”少女の名をあげ静が苦笑する。
あの後、保護と監視をかねて、その少女は輝明学園の中等部、静の受け持つクラスに編入し、勉強することになった。
そのため、当然今回の異変にも巻き込まれていた。
「ポーラはこう見えても向こうじゃ“世界の危機”を救ったこともあるらしいんだ。実力もある。
 ざっと一通り試験をしてもらった感じじゃあ、ナイトメアに匹敵するってさ」
渡された資料に目を通し、静が簡潔に説明する。
「なん…だと?…いや、そうか。僕はサポートに徹せよと言うことか。それで、クラスは何だ?」
その説明に驚き、それじゃあ自分はいらないのではないかと考えたところで、ジローは思いなおした。
『実力は大事だが、すぐれた連携はそれよりも遙かに大事だ。1人で出来ることなどたかが知れている。
 例え駆けだしでも連携が取れたウィザードが4人いれば、ベテランをたやすく打ち破る魔王すら凌駕することを忘れるな』
そんな、ナイトメアの言葉を思い出したのだ。
「クラスか…まあ、元々が異世界人だから僕らみたいなウィザードに完全に当てはまるわけじゃあないんだけどね…」
そう言うと静はちらとポーラの方を見る。
「君から説明してくれないか?ポーラ」
静に促され、ポーラは頷く。
「私は回復系以外のPSI…超能力が扱えるの。それとテレパシーと未来予知が少しだけ。
 私はいわゆる超能力者…ウィザードの人たちは“異能者”って呼んでるみたいね」
自らの能力を簡潔に説明する。
「さて、自己紹介も終わったところで、君に1つ頼みたいことがある」
早速とばかりに静がジローに言う。
「頼みたいこと?何だ?」
「なに、最初だしそう難しいことじゃない。彼女を“家”まで送り届けて欲しいんだ」
「ふっ…無茶を言う」
それができれば苦労はしないと言うように、ジローは笑う。
学園世界で“家”に帰るのは、クエスターがアスガルドを見つけだすのに等しい高難易度任務であることは学園世界の人間なら誰でも知っている。
「いいや。無茶じゃないさ。少なくとも、ポーラに関して言えばね」
だが、それに静は笑って首を振り、答える。
「どういう事だ?」
「なあに行けば分かるさ。じゃあ頼んだよ」
ジローの質問にはまともに答えようとせず、静はジローとポーラを送り出した。


―――学園世界B-369地区

学園世界特別居住区にほど近い場所に、その建物はあった。
「…なるほど。確かに学ぶところと言えば、そうなるのかな?」
制服のまま“子供たち”と遊ぶポーラを横目に、普通の服に着替えたジローはその建物を見上げる。
こじんまりとした、だが普通の家よりは大きな建物。庭には遊具が設けられ、幼い子供たちが無邪気に遊んでいる。
「―――ポーラスター幼稚園、か」
その新たに転移してきた“学園”であり、ポーラの“家”であると言う建物を。
「ねぇねぇ。お兄ちゃんお兄ちゃん遊ぼうよ!」
ポーラと同じく、外国人らしき子供たちが新しくやってきた“お兄ちゃん”に群がる。
「ああ、いいよ。じゃあ、何をして遊ぼうか?」
ジローとしてもこの少し年下の子供たちと遊ぶのはやぶさかではない。
そう考え、小学生、如月ジローの顔でにっかりと笑い、ジローは問いかける。
「う~んとね…じゃあ、世界の危機ごっこ!」
どうやら異世界でも子供たちの遊びは一緒らしい。
「今日は僕がネスをやるね!」「じゃああたしはポーラお姉ちゃん!」「ジェフ役はボクに任せてもらおう」「え…じゃあ俺プー?」
子供たちはあっという間に配役を決めて行く。
「さて、僕は何の役なんだい?」
一通り決まったところで、ジローはネス役の子供に聞く。
「えーとね…スターマンやって!」
「スターマン?」
異世界の世界の危機のことなんて知るわけも無いジローが不思議そうな顔で聞く。
「え~?スターマンを知らないのかよ。しょ~がね~な~。とくべつにおしえてやるよ」
子供たちが顔を見合せたあと、一斉に話し出す。
「スターマンはね、悪いうちゅ~じんなんだ」「ぎんがのころしやなの!」「ネスたちをじゃましたり、にんげんをさらったりするんだ」「グーギだかギーギっていうおやだまのちゅーじつなしもべなんだって」
口々に喋られて、混乱しながらも、とりあえず必要なことは理解する。
「そうか…つまりは悪い奴、悪役か。エミュレイターみたいな」
「えみゅれいたー?」
「いや、なんでもない。さ、やろうか」
普段はお姉ちゃんに押し付けている悪役を振られ、ジローは思った。
(次来る時はエミュレイターのお姉ちゃんも連れてこよう)
と。


「みんなと遊んでくれてありがとう。助かったわ」
数時間後、遊び疲れて眠ってしまったこどもたちをベッドに入れ、ポーラがジローをねぎらう。
「いいや、僕も楽しかったし、いいよ」
「そう?そう言ってくれると、うれしいかな」
そう言って微笑むポーラに、ジローの胸はどきんと高鳴る。
「そ、それにしても…みんなよく寝てるね…」
それを誤魔化すようにジローは子供たちの方を見る。
子供たちはすやすやと安らかな寝息を立てて眠っている。
「ええ。みんな…疲れてるのよ。それに…寂しいの」
「寂しい?」
ポーラの言う事に首をかしげたときだった。
「…ママ」
子供たちの1人が、ポツリと呟く。
「ママ…パパ…僕はここだよ。ここにいるよ…はやく…迎えにきて」
ぽろぽろと涙をこぼしだす。
「…ああ、そっか」
それを見て、ジローはポーラの言ったことを何となく理解した。
この学園世界に輝明学園ができた当初、幼稚舎や小等部の生徒たちも中等部や高等部の生徒と一緒に寮で暮らすこととなった。
既に一人前のウィザードとして行動し、高等部に顔見知りもいるジローにとってはどうと言うことは無かったが、突然家に帰れなくなったクラスメイトが随分と寂しがっていたことを覚えている。
小学校3年生でもそうなのだから、小学校に上がる前だったら、余計にそうなんだろうなとジローは思う。
「…ポーラ?」
立ち上がったポーラを、ジローは不思議そうに見る。
「…だいじょうぶ。泣かないで」
ポーラは泣いた子供の手をとり、静かに歌い出す。
「…Take a melody…Simple as can be…」
透き通るような、きれいな歌声。
聞いているだけでジローの頭の中に父親と母親のことが思い浮かんで、きゅうと胸が締め付けられる。
「…ママ」
その歌声を聞いて、子供は泣き止み、またすやすやと安らかな寝息を上げる。
「…Sing a melody of love Oh love....」
歌い終え、ポーラは静かに子供のそばを離れる。
「…その歌は?」
子供たちを起こさないよう、小さな声で、ジローはポーラに問いかける。
「…ギーグの歌」
それに少しだけ複雑な表情で、ポーラは答える。
「ギーグ?」
「そう。ギーグ…全てを壊すだけの怖いものになってしまったギーグが、忘れないように心の中でずっと歌い続けていた歌。
 優しくて、温かくて…とっても切ない歌。ギーグが他の全てを失っても忘れなかった、たった1つのものだから、私だけでも覚えていてあげたいと思ったの」
そう言って憂いを帯びた表情をしたポーラを見て。
ジローの胸はさっきとは違う感じできゅうと締め付けられた。


―――学園世界居住区

学園世界にも侵魔の脅威は訪れる。
侵魔。それはジローたち“ウィザード”にとって倒すべき相手。
そして今日もジローは戦う。少女と共に。
「PKファイヤー…Ω」
少女が呟くようにその言葉を口にした瞬間、辺りの侵魔が一斉に劫火に包まれる。
「ディストーションハウル!」
とどめとばかりにいつもの衣装を着たジローが虚属性の最高レベル魔装を起動し、辛うじて生き残った侵魔にとどめをさす。
月匣が、晴れる。発生から1ラウンド持たずに。
「…やっぱりすごいなポーラは」
月匣が晴れ、元の喧騒が戻ってきた学園内で、ジローが感嘆し、呟く。
ポーラのPSIの強さは今までの戦いで何度か見て、理解している。
そこいらの雑魚魔王の魔法を遙かに上回る極めて強力な力だと。
ジロー自身高レベルの魔装を好んで使うからこそ嫌ってほど理解できる。
ナイトメアに匹敵する実力。それは嘘でも何でもなく、真実だと。
「こうも力の差があると、嫌になるね。僕が役立たずじゃないかって気分になるから」
やれやれと言うように、ジローが自嘲する。
「ううん。そんなこと無いわ。ジローがいたから、全部倒せたのよ」
そんなジローの言葉にポーラは笑顔で首を横に振った。
「私は丈夫な方じゃないから、攻撃されると辛いの。それに私、回復系のPSIは全然使えないから、怪我をしても治せない。
 だから、ね。ジローが一緒にいてくれて本当に感謝しているの」
にっこりと無邪気な笑みを向けられ、ジローは顔を赤らめる。
「べ、別に…組んでるんだから仲間のフォローをするのは当然だ。どりぃ~む」
赤くなった顔を見られないように、仮面を目深に被る。
「大丈夫ジロー?顔が赤いわ。熱でもあるの?」
だが、それが却って目立たせることになったのか、ポーラが心配して、言う。
「な、なんでもない!」
なんだかそれがくすぐったくて、ジローは後ろを向いてしまう。
「そう?なら良いけど…困ったことがあったらすぐに言ってね。私とジローはもう“お友達”なんだから」
またいつもの、天使のような微笑みを浮かべ、ポーラが優しく、言う。
「お友達…か」
それを聞き、ジローは複雑な表情を浮かべた。
(なんだろう?嬉しいのに、残念な気もする…)
嬉しさと寂しさが入り混じったような不思議な感情。それはジローが8年生きてきて初めて感じる感情だった。
「どうしたの?」
「…何でも無い。行こう、ポーラ。もうすぐ授業が始まる。どりぃ~む」
ポーラにそんな風に感じていることがなんだか酷く恥ずかしいことに思えて、ジローはわざとぶっきらぼうに言ってジローはさっさと歩きだす。
「…?変なジロー?あ、待って」
その様子に首をかしげついていくポーラ。

そんな2人はまだ、気づいていなかった。
「…見ツケタ」
2人を見つめる、金色の影に。

―――学園世界特別居住区 通学路

放課後、ジローとポーラは連れ立って幼稚園へと向かっていた。
「どう?こっちの生活にはもう慣れた?」
帰る道すがら、ジローはポーラに問いかける。
「ええ。割とすぐになじめたわ」
ポーラが頷く。ポーラがこちらに来てからはや1週間。
「ジローが色々と手伝ってくれたおかげね。ありがとう、ジロー」
いつもの優しいまなざしで、ポーラはジローを見る。
この1週間、連れ立ってモンスターの類と戦ったり、忙しくなったポーラの代わりに子供たちの世話をしてくれる人を探したり
(輝明学園や光綾学園の生徒が手伝ってくれることになった)
子供たちと一緒に夜まで遊んだり、ジローは献身的と言ってもよいほどポーラのために行動していた。
「な、なぁ~に。仲間のために行動するのは当然のことだ。どりぃ~む」
なんだかその視線がくすぐったくてジローは目をそらし、仕事用の口調になってポーラに返事をする。
「…ふふ。そんなに硬くならなくてもいいのに。変なジロー」
それがおかしかったのか、ポーラが鈴のなるような声で笑う。
それを見て、ジローがまた不覚にもどきっとしてしまった。
「と、とにかく急ぐぞ。菖子だけに園児を任せておくのは、危険だ」
ジローが見つけてきた、先に幼稚園に向かったお世話役の少女…真面目だけどかなり運が悪く、肝心なところで大ポカをやらかす少女の名をあげ、ジローは幼稚園へと急ぐ。
「あ、待って」
それを慌ててポーラが追いかけた。

―――ポーラスター幼稚園

「ポーラお姉ちゃん!ジロー!たいへんだ!」「ジョニーがいないの!」「おきたらベッドが空だったんだ!」「お姉ちゃんたちは心配しなくていいからここにいてって!」
帰って早々、ポーラとジローに子供たちがかけより、口々にピンチを訴える。
「おひるねのとき、何故か園長先生もポーラのママもねむっちゃったんだ。それで起きたら、ジョニーがいなくなってた。
 今はポーラのパパとママ、サイカお姉ちゃんとエミュレイターのお姉ちゃんが友達と一緒に手分けして探してる」
園児の中でも頭がいい子が状況をまとめて2人に説明する。
「…ただいなくなったんなら分かるが、ポーラのパパとママが仲良く2人とも居眠りとはな…」
その説明に、ジローは嫌な気配を感じる。何か、悪意のようなものを。
「…とにかく、私達も手分けして探しましょう。みんなはここにいてちょうだい」
さっきからずっと考え込んでいたポーラが顔をあげ、園児たちとジローに言う。
「…待て。何か嫌な予感がする。1人では…」
「駄目よ!いい?すぐに見つける必要があるの。一緒では、時間がかかるわ」
ポーラが珍しく声を荒げ、ジローの提案を一蹴する。
「…ね。お願い。ジローは向こうを探して。私は、こっちを探すわ」
まるっきり正反対の方向をさし、ポーラがジローに言う。
「…分かった。はやまるなよ?ポーラ」
仕方ないと言った感じでジローは頷き、子供たちに見えないところでウィザードの衣装に着替え、走り出す。
「…それじゃあ。私も行ってくるわ。良い子にして待っててね」
園児たちに精一杯の笑顔で笑いかけ、ポーラは走り出す。
「…私がなんとかしないと。お願い。勇気をちょうだい…ネス」
目的の場所へ一直線に駆けながら呟いた言葉は、誰にも届かず、消えて行った。



―――学園世界G地区

学園世界に点在するダンジョンの1つの前でポーラは足を止める。
「…ここね」
その奥から漂ってくる気配に、ポーラは身を固くする。
「…勝てるのかしら。私、1人で…」
弱音が口をついて出てくる。1人だけで何とか出来る相手なのか…
ポーラがそんなことを考えていた、そのときだった。
「…勝てるさ。2人ならな。どりぃ~む」
すぐ後ろから聞こえた、聞きなれた声にポーラは思わず振り返り、驚いて言う。
「ジロー!?どうしてここに!?」
「…仲間の…友達のつきたくもないウソくらい、簡単に見破れる。これでも僕はウィザードなのだからな。どりぃ~む」
澄ました顔でジローはうそぶく。
「だ、駄目!ジローは帰って!テレパシーの気配で分かったの!相手は危険なPSIの使い手よ!多分ジローじゃ…」
「…実力は大事だが、すぐれた連携はそれよりも遙かに大事だ。1人で出来ることなどたかが知れている。
 例え駆けだしでも連携が取れたウィザードが4人いれば、ベテランをたやすく打ち破る魔王すら凌駕することを忘れるな」
必死になってジローを帰らせようとするポーラを諭すようにジローがその言葉を口にする。
「僕の、尊敬する師匠の言葉だ。そりゃあ僕はポーラほど強くない。だけど、足手まといにはならない。そう、約束する」
言いたいことを言い終え、ジローはまっすぐにポーラを見つめる。
「…分かったわ。よく聞いて。多分この奥にいるのは…」
ジローの目に宿る、強い意志の光を見て、ポーラがため息とともに説明を始めた。

―――ダンジョン内部

「キタカ…何ヤラ余計ナモノモ一緒ノヨウダガ」
その金色の男は2人を睥睨し、言う。
「…まさか、こちらに来ているとは思わなかったわ」
奥で眠っているジョニーが無事なのを確認しつつ、ポーラが目の前の男を睨みつける。
「アノブタニ頼ンダノダ。オマエタチヲ倒スタメト言ッタラ、快ク応ジテクレタゾ」
「そう…やはり彼は…」
その言葉に1人の少年を思い出し、ポーラが悲しげな顔をする。
「とにかく、そこをどくのだ。でなければ、お前は“悪夢”を見ることになるぞ。どりぃ~む」
目の前の男を挑発するようにジローが言う。
「悪夢カ…ソレナラモウ、見タゾ」
そんなジローの言葉に耳を傾け、男は一笑に伏す。
「私ノ一族ハ人間ニ2度破レ、ホロンダ。イマヤ“スターマン”一族ハ私1人。ナレバコソ、ヤレネバナラナイ」
辺りの空気が一変する。
「一族ノ無念ヲハラス。マズハオマエカラダ…4人ノ子供ノ1人ヨ!」
そして2人の前に…“さいごのスターマン”が立ちはだかった!


『よく聞いて。恐らくPSIと魔法は通じないわ…私が合図するまで、待機して』
プラーナを開放してスピードを上げつつ、ジローはじっとポーラの行動を待つ。
すぅっと息を吸い込んだポーラが一気にその力を開放する!
「お願い当たって…PKサンダー…γ!」
ポーラの掛け声と共に空から雷が降り注ぐ。
落ちてくる雷は3発。1発目と2発目は見当違いの場所に落ちる。そして3発目。
「グッ…サイコシールドガ!?」
轟音と共に直撃した雷がスターマンのサイコシールドごと貫き、シールドを破壊してダメージを与える。
「今よ!ジロー!」
「任せろ!…ディストーションハウル!」
その隙を見逃さず、ジローがありったけの特殊能力とプラーナを詰め込んだ自らの最大の攻撃魔装を起動する。
「グォォォォ…コノ音ハァ!?」
魂すらも削り取ると言う魔の音にスターマンが悶え、がっくりと膝をつく。
『もしジローが攻撃して、それでも倒せなかったら…逃げて。あとは私が、なんとかするから』
「やったか!?」
ありったけの力を出し切り、肩で息をしながら、ジローは攻撃をやめる。だが。
「ちっ!ダメか!」
倒れずに怒りの目を向けてくるスターマンに舌打ちをする。
「ジロー、逃げて!ここは私が引き受けるわ!」
「断る!」
ポーラの先ほどの忠告を一刀で切り捨て、スターマンを凝視する。
(僕にはまだ、できることがある!)
決意と共に。
「ヨクモ…ヤッテクレタナァー!」
怒りで逆上したスターマンが立ち上がってPSIを発動する。
「マトメテ…キエロ…PKスターストームΩァァァァァァ!」
ダンジョン内の空間が歪む。漆黒の空間が広がり、そこから“星”が無数に落ちてくる。
小型隕石の大雨。その威力は…
(恐らく、僕もポーラも耐えきれない…だったら!)
一瞬で判断しジローは彼がやれるであろうことをする。
ジローは両手を広げポーラを堂々と仁王立ちをする。
「ジロー!?ダメ!やめて!」
ポーラはジローから立ち上るプラーナを察し、何をしようとしているのかを悟ったポーラが必死の叫びをあげる。
「…大丈夫。一発だけなら…君には届かない…いや、届かせない!」
悲壮な決意を込めて言葉を絞り出す。
「あとは頼んだよ…ポーラ」
そして、ジローは残ったプラーナ全てを開放して、防御魔法を使用した。
我が身を犠牲にして…ポーラを守るために。

「馬鹿!馬鹿ジロー!なんで…こんなこと…」
ポーラのPSIにより絶対零度の氷柱に閉じ込められ、凍りついたスターマンの前で、ポーラは倒れたジローを抱き、呼びかける。
「ふっ…大丈夫だ。これくらいあの冥魔の攻撃に比べれば…どうということは…ない」
ジローの本来の体力を軽く数倍上回る、“致命的なダメージ”を受けてなお、ジローは不敵に笑う。
(もっとも今回は、冴絵はいないがな…)
薄々は感じ取っていた。自分はまず間違いなく、ここで死ぬ。
「どうして…本当なら、私が守らなきゃならないのに…」
ぽろぽろと泣きじゃくるポーラを見て、ジローの心に生まれるのは、悲しみと…“満足感”。
「泣くな…ウィザードには…これは…ありえる…結末…なんだ…」
ナイトメアは言っていた。本当に守りたいものを持て、と。
そして自分は見つけることができた。そして、守れた。だから。
「…悪くない…結…ま…つ…さ」
声もとぎれとぎれとなり、息も弱くなっていく。
「おやすみ…ぽー…ら…」
そしてジローは動かなくなった。
「お願い。死んじゃいやよ!ジロー!!!!」
ジローを抱きかかえたポーラの青い瞳から、涙がぽろぽろと零れる。
ポーラの心が、荒れ狂う。悲しみと寂しさ。そして…後悔。
「なんで私には…回復のPSIが使えないの!?」
はがゆい。回復のPSIが使えれば…目の前の少年を助けることができるのに。
「どうして…どうして…」
徐々に体温を失っていくジローを少しでも冷やすまいと、ポーラはぎゅっとジローの身体を抱きしめる。
涙が止まらない。大切な人がいなくなる悲しみに、押しつぶされそうだ。
そんな心境だったからこそ、ポーラはそのときまで気づかなかった。
「…泣かないで。ポーラ」
ポーラの傍らに立つ、1人の少年に。

――リングγ
声が、聞こえた。
(…だれの、こえ?)
死を迎える直前の悪夢にまどろんでいたジローはその声に疑問を覚えた。
優しげで、強い…少年の声。その声の主を、ジローは知らない。
だが、その声がもたらしたものは、強力だった。
「う、うわあああああああああああああああ!?」
膨大なプラーナ…文字通りの意味で“死人だって生き返る”位の力が流れ込んできたことにジローは半ば恐怖すら覚える。
意識が急激に覚醒する。まどろんでいた悪夢が壊れ、現実に、引き戻される。
「ここは!?」
がばっと立ち上がり、辺りを見渡す。
「…あれ?」
てっきりどっかの病室にでもいるのかと思ったが、それは違った。
ここは、あのダンジョンの中だ。
「気がついたのね!良かった…」
今度は安心して、ポーラは涙を流す。
「僕は一体…」
状況が理解できず、ポーラに尋ねようとした、その時だった。
「…ウォノレェェェェェ!!!!!!!!!!!!」
凍りついた氷柱が割れ、スターマンが飛び出す。
「クソ!あいつまだ…!」
それを見て死の淵から生還したことを悟ったジローが憤り、攻撃態勢を取ろうとする。だが。
「ううん。大丈夫よ」
それは、ポーラに止められた。
「どうして!?あいつまだ…」
「大丈夫なの…見て」
抗議しようとするジローに対して首を振り、ポーラはスターマンの方を指さす。
「ネスが、来てくれたもの」
頬を赤らめて、ちょっぴり誇らしげに、ポーラはその名前を口にした。

「…ネス?」
どこかで聞いたような名に首をかしげつつも、ジローはポーラの指さす方向を見て…理解した。
「…ああ、そうか」
真っ赤なベースボールキャップにバッド、青と黄のストライプシャツと半ズボン。
それは、一見すればどこにでもいる普通の少年。だけど。
「あいつ…すごい力の持ち主だ」
膨大なプラーナを持っていることをジローはすぐに見抜く。
ナイトメア並み…いやナイトメアすら上回る、とんでもない力。まさに“勇者”と呼ぶに相応しい力だった。
「グゥ!?オマエハ!?」
スターマンが目に見えて狼狽する。過去の戦いを思い出して。
8つのパワースポットを巡り、自らの悪魔に打ち勝った、4人の子供のリーダー。
スターマンたちが束になっても敵わなかった…最強の少年。
「…こっちに来てすぐ、ポーラの声が聞こえた…だから、来たんだ」
普段は温厚な少年は、怒っていた。誰よりも大切な“友達”を泣かせた目の前の敵に。
「よくもポーラを泣かせたな…許さない」
だからこそ、ネスは力をこめる。一発で、終わらせるために。
「…PKキアイΩァァァァ!」
そして、そのPSIは、ネスの思惑どおり、スターマンを一撃でかき消した。

―――ポーラスター幼稚園

「やあ、遊びに来たよ」
あれから、ポーラは再び転校していった。
少年…ネスの通っている“オネット小学校”が、こちらへと来たから。
「まあ、ジロー!いらっしゃい!」
遊びに来たジローをポーラは笑いながら“2人で”出迎える。
「やあ、いらっしゃい」
ちょっぴり無口な少年…ネスは照れながら、それでも笑顔でジローを出迎える。
「あ、ジローだ!」「わーい!遊んで遊んで!」「きょうはショーコもサイカもいそがしくてこれないみたいなのですよ」
「ジローとネスとポーラお姉ちゃんがいれば、じゅ~ぶんさ!」
口々にはしゃぎ、駆けよる子供たちに笑顔を向けながら、ジローはちらっと2人の方を見る。
「心配してたんだ。ツーソンでポーラと一緒にポーラスター幼稚園が消えたって聞いて。ジェフとプーも気にしてた」
「うん…ごめんね。ネスも帰れなくなったのにこんなこと言うのはあれだけど…ちょっとだけ、嬉しいかな。
 ネスと一緒に、勉強できるから」
柔らかな雰囲気で話す2人。ごく自然に、その手はつながれている。
「…どうしたんだ、ジロー?」
それを見るたび、ジローの胸はちょっぴり痛む。原因は分からないけど。
「…いや、何でも無い!何して遊ぶ?」
「んーと、じゃあね、世界の危機ごっこ!僕がひ~らぎやるから、お兄ちゃんはナイトメアの役ね!」
「分かった!任せとけ!」

いつか、少年は気づくのだろう。その感情の正体に。いつか、どこか、誰か別の人と出会ったときに。
何年かして、懐かしく思い出すのかもしれない。これが彼のはじめての“恋”であり、“失恋”だったってことに。


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