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ナイトウィザード!クロスSS超☆保管庫
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ナイトウィザード!クロスSS超☆保管庫

第10話

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だれでも歓迎! 編集
 天に聳える紅の月に照らされた影絵のような街を六人は走る。
 集団の先頭を行くのはカズキとブラボーの二人。次いでナイトメアと剛太が後に続き、一番最後に店を出た蓮司が殿を務める形だ。
 彼等が目指す銀成高校――おそらくはこの月匣の中心であるそこへは走ればそれほどの時間もかけずに到達できる……はずだった。
 だが、たとえ見た目が同じでも世界の常識が駆逐されたこの紅の世界の中では実際の距離など何の意味もない。
 カズキ達が今できるのは、近付くほどに遠ざかっていく蜃気楼のような場所を目指すだけだった。
 そして。
 無論、その行為を世界の創造主が赦すはずもなく。
「――!」
 乱立するビルの隙間、墓標のような電柱の影、カズキ達の向かう先に見えるあらゆる暗がりから零れ落ちるように、無数の異形が湧き上がった。
 立ち上がれば人間大ほどはあるだろう四足のケモノ。
 体毛の代わりに身に纏う闇が揺れ動き、隙間から硬質化した表皮が時折覗く。
 次々と生み出されていくそれらはそれぞれに低い唸り声を上げて身を沈める。
 立ち塞がるケモノ達と、その不協和音を切り裂くように。
「――退けぇぇ!!」
 少年の咆哮と輝きが闇を照らした。

 瞬時に構成されたランスが陽光色のエネルギーを吐き出し、展開される。
 それを合図にケモノ達が一斉に先頭のブラボーとカズキに向かって走り出す。
 走る速度を一切減じる事なく二人は更に踏み込んで、突出していた四体のケモノに拳とランスを叩き込む。
 光槍が闇を穿ち、剛拳ががケモノを粉砕する――が。
「!?」
 討ち損じた、というべきではなかった。
 始めからカズキとブラボーに向かっていたのはその四体だけだった。
 二人がそれらを破砕する間に、続いたケモノ達はまるで二人を避けるように地を壁を跳ねて素通りしたのだ。
 唸り声と共に魔獣たちが牙を向けるのは中衛を走る剛太とナイトメア。
「剛太っ!」
 カズキは足を止めて振り返ろうとする。が、更に殺到してきたケモノ達が襲い掛かった。
 振り下ろされる獣爪と迫る顎をランスで受け止めざるを得なかった。
(こいつら……っ!)
 舌打ちしながら剛太はモーターギアを両の拳に装着し、ナックルダスターでケモノ達に対応する。
 ケモノ達は個々の力ではさほどの脅威ではない。
 だが、厄介なのはその物量と統制された動き。
 牽制で前衛の動きを止めつつ、剛太やナイトメアに向かって攻撃を集中させてきている。
 外見を踏まえて言えば、さしずめ狼の狩りといった所か。
「くそ……っ!」
 数が多すぎる。対応しきれない。
 十ほどの黒狼を切り裂いた所で、わずかに剛太の身体が傾いだ。
 崩れた体制を敏感に見て取った獣達が牙を剥き爪を立てて殺到する――
「《フォース・シールド》!」
 横合いから声が響く。瞬間、剛太に迫った獣の牙は見えない障壁に弾かれ、そして割って入った蓮司の魔剣の一撃で粉砕された。
「邪魔だっ!」
 振り下ろした刃を翻し、蓮司は魔剣で一気に薙ぎ払う。
 三体のケモノが一文字に引き裂かれ、幾体かのケモノは俊敏に飛び退いて距離を取る。
 気付けば獣達は距離を測るようにして六人を取り囲んでいた。



 一陣の攻勢をどうにか退けたが、完全に足が止まり包囲された。
 倒したケモノ達は二十か三十か。だがそれでもまだ数え切れない程の黒狼達が低い唸り声を上げて攻め入る隙を窺っている。
(……どういう事だ)
 油断なく魔剣を構えながら、蓮司は心中で呟いていた。
 状況から見てこの月匣を展開したのはおそらく河井 沙織に憑いているエミュレイターだ。
 だが、先日接触した時の彼女はここまでの数のクリーチャーを使役するほどではなかった。
 一日程度でここまで力をつけるような事などはあり得ない。
 赤羽 くれはや神条 皇子といった『特殊』な素養があるというのならまだしも、彼女にそういった類のモノがあるとは思えない。
 にも関わらずこんな事ができるというのは――
(まさか――)
「戦士・カズキ、戦士・柊」
 蓮司の思考を中断させたのはブラボーの声だった。
 彼は周囲の魔獣達を睨みすえたまま、言葉を続ける。
「二人は包囲を突破し、先行しろ」
「え……」
「俺達は速度を落とし、敵を引き付ける」
「……俺達は囮、って事すか」
 一人呼ばれなかった剛太が唸るように声を漏らした。
 武装の違いゆえか、それとも別の要因か、あの獣達に『倒し易い』と判断されているらしい剛太としては多少納得のいかない
提案ではあったが、文句を言える状況ではなかった。
 なぜなら剛太達のいるこの場所は月匣の中心点ではないのだ。
 斗貴子等三人――そして月匣の主であるエミュレイターが存在するだろう銀成高校ではおそらくこれと同等、あるいはそれ以上の敵が存在している。
 個人の感情を先立てる状況にない事は剛太にもわかっていたし――無論、カズキや蓮司もそれは理解できている。
「……わかった」
「任せたぜ」
 二人は頷いて返した。
 三人でこの場に残る事を心配するなど、侮辱でしかない。
 故に返事はそれだけで十分だった。
「――突破する! エネルギー全開!!」
 カズキはランスを掲げて吼える。同時に展開したエネルギーが更なる奔流と共に膨れ上がり、周囲を照らし出す。
「蓮司、オレに捕まれ!」
「は? 何――」
「いいから!」
 よくわからないまま蓮司がカズキの肩を掴むと、カズキは切っ先を獣達――その向かう先、紅月の下に佇む銀成高校へ続く道へ向けた。
 そして咆哮と共に、地を蹴る。
「サンライトスラッシャーッ!!」
「う!? ぉああああぁああーーー!?」
 爆音と共に閃光が疾走し、進行上に存在する獣達を動く暇さえも与えずに吹き飛ばす。
 突進に合わせて強烈な勢いで引き摺られる形になる蓮司の悲鳴と共に二人は取り囲む闇を穿ち駆け出した。


 ※ ※ ※


 闇色の獣達が蹂躙を果すために少女に殺到する。
 正面から二体、左右に一体ずつ、上方から二体、地を舐める様に下方から一体。
 だが、それを受けて立つ斗貴子にとってそれは恐れるべきものではない。
 なぜなら、彼女の纏う武装錬金は多数に対してこそ真価を発揮するモノであるが故に。
「臓物をブチ撒けろぉっ!!」
 咆哮と共に四刃が疾走る。
 それはまさに斬撃の結界。
 間合いに入った瞬間に獣達は斬り裂かれ、ことごとくが微塵に刻まれ消滅する。
 しかし、斗貴子の表情は決して晴れたものではなくむしろ僅かな焦燥さえも見て取れた。
 雑魚共をどれほど相手にしていても意味など全くないのだ。
 斃すべき――助けるべき相手は彼女の視線の先にある黒狼の群れ、それらに阻まれた向こうに居る少女なのだから。
 だが、斗貴子はその場から動く事ができなかった。
 黒狼の群れが斗貴子を避けるように左右に分かれて疾走する。
 同時に彼女は逡巡する事なく右方の敵に対してバルキリースカートを向けた。
 左方の敵は完全に無視。それらの動向も末路も気に留める必要がない。
 目を向ける先の黒狼達に刃を走らせると同時、背後で強烈な爆音が響いた。
 灯の放ったガンナーズブルームの砲撃と、くれはの放つ魔法の衝撃だ。
 もう何度目になるかわからないこの一連の行動を、斗貴子達は歯噛みしつつも繰り返すしかなかった。
 月匣の展開と同時に出現した黒狼達の動きは、完全に統制された狼のそれだった。
 力量において優位に立つ相手に対して真っ向から戦うのではなく、多数を以て相手の隙をつき、弱い部分を攻め、確実に戦力を削ぎ落としていく。
 群れで狩りを行い、個体としての能力を上回る熊なども獲物とする狼達のように、獣達は灯やくれはを執拗に狙った。
 現在斗貴子が陣取っている場所が、その防衛ラインである。
 これ以上に斗貴子が敵に向かって踏み込めば、攻撃が集中する二人に対してフォローに回れなくなる。
 魔法を主体とするくれはは当然として、長大であるが故に速射性に劣るガンナーズブルームを持つ灯ではこの物量に対して対応しきれない。
 故に彼女はその場から動く事ができず、無尽蔵に湧いて出てくる獣達に消耗戦を強いられていた。
(くそ……!)
 心中ではき捨てて、斗貴子は蠢く黒狼たちを睨み据える。
 その時、
「斗貴子、下がって」
 静かに灯が口を開いた。
 何故、と問う代わりに彼女は地を蹴って灯の傍まで後退する。
 彼女が退くに合わせて前進した黒狼達を、ガンナーズブルームの一撃が粉砕した。
 一瞬だけ空いた穴が新たな獣で埋まるのを見ながら、斗貴子は顔を灯へと向ける。
 彼女は砲口と視線を黒狼達に向けたまま、斗貴子に向かって言った。
「一掃する。敵を接近させないで」
「……何秒?」
「6秒(カウント)」
 灯の声と同時、黒狼達が唸り声を上げて疾走してきた。
 殺到する闇に四刃を向けながら、斗貴子は背後にぞくりとした感触を憶えた。
 それは目の前に迫る魔獣達に対してではない。己の後ろにいるくれはから、圧倒されるような強力な気配を感じ取ったからだ。



 迫ってくる黒狼達の存在も、自分を守ってくれる二人の少女の存在も、現在のくれはには知覚できない。
 何故なら、彼女が今向き合うのは己が外にある世界ではなく、己が裡にある世界。
 意識を集中させる。自らの裡に漂う漠然としたモノを、明確な形として創り上げるイメージ。
 左腕に装着した魔導具――破魔弓に右手を添える。
 扇状に敷かれた呪符が淡い輝きを放つ。
「――急々如律令」
 言霊を放つと同時、輝きと込められた力が更に強まる。
 本来であれば三倍はかかるであろうその魔法を行使するための儀式は、たったそれだけで完了した。

 赤羽 くれは。
 古きより続く名家に生まれた生粋の陰陽師。
 その威力こそ西洋に連なる魔術師達に劣るものの、陰陽師には彼等の追随を許さぬ術式構築技術を持つ。
 ――急急ニ律令ノ如クセヨ。
 その言葉は正しい。
 速やかに魔を退け邪を祓うために形作られた極みの符術。
 星の巫女の力を宿す彼女の術式速度はもはや神速に値する――

「ごめん、二人とも避けて!!」
 目を見開くと同時にくれはは叫び、破魔の弓を天へと向ける。
 闇の力を記した符が弾け飛び、彼女の身体を包む。
 そして彼女は膨れ上がった魔力を力ある言葉と共に天空へと解放した。
「――《スターフォールダウン》!!」

 ――空が堕ちる。
 まさに、そう形容すべき光景だった。
 灯も、斗貴子も、そして本来ならそのような動作など存在しないだろう黒狼達も、一様に空を仰いだ。
 天に広がる紅い空を覆うように、巨大な魔方陣が浮かんでいる。
 光で描かれた文様がひび割れ、砕け、散らばる。
 そうして生み出された無数の光芒が、流星のように大地に降り注いだ。

 残光と共に墜落してくる無数の流星光が大気を穿ち地面を砕き敵を滅ぼす。
 次々と撃ち砕かれていく黒狼達の動きを気にしている余裕などありはしなかった。
(これが魔法――)
 ――これが夜闇の魔法使い(ナイトウィザード)!
 斗貴子はそこかしこに落ちてくる流星をどうにかやり過ごしながら、心の内で愕然とした想いを抱く。
 殲滅力という点で言うなら火渡戦士長の持つ武装錬金の方が上かもしれない。
 発動までに多少なりの時間がかかるというのもある。
 だが、それらを考慮してもなお、彼女が目の当たりにするウィザードの力は驚愕に値した。
 およそそこに存在するモノ総てを白光で灼き尽くし粉砕せんとする魔力の豪雨がようやく収まる。
 後に残るのは衝突で砕けた校庭のグラウンドと、撃ち抜かれ破片になった無数の黒狼の残骸だけだった。
「灯、くれは。無事か?」
「……問題ない」
「あたしも、どうにか」
 巻き上がった噴煙で僅かに悪くなった視界に見える二人に斗貴子は声をかける。
 何しろ雨のように降り注いだ攻撃だ、直撃こそないもののいくらかは擦過してしまっており、三人は一様にあちこちが傷付いていた。
 だが、戦闘に差し障りがあるほどのものではない。
 くれはの魔法発動を阻止しようとかなりの数の黒狼が殺到してきていたので、おそらくはそのほとんどは打ち倒したはずだ。
 あとは残る敵とエミュレイターを――



 ――斗貴子の背後、噴煙の中から、闇を纏った顎が飛び出した。
「――ッ!」
 振り向くよりも早くバルキリースカートが反応して刃を跳ね上げる。
 彼女が敵を視認した時には、その黒狼は既に切り裂かれていた。
「こいつら、まだ……!」
 噴煙の中に気配を感じ斗貴子は四刃を振るう。その瞬間、背後で鈍い音が響いた。
 飛び出した黒狼に対してガンナーズブルームを構えた灯が、その脇から迫った別の黒狼に飛びかかられ砲を取り落としていた。
 魔法によって怒った噴煙が仇になった。
 斗貴子達と同じように流星光を回避しきった黒狼達が、致命的な距離にまで接近していたのだ。
「灯っ!」
 思わず叫んで斗貴子はバルキリースカートを伸ばす――が、刃が届かない。
 踏み込むことができなかった。先ほどまで相手をしていた黒狼が、鋭い牙で刃を噛み咥え動きを阻害していた。
「この――っ!」
 纏めて切り刻もうと斗貴子が力を込めたその刹那。
 伸ばしていたバルキリースカートの刃を、灯が握った。
「――!」
 反射的にその刃を自分から分離させる。
 同時に灯への意識も分離して、残った三刃を咥え込む黒狼達に意識を集中した。
 灯が手にした一つの刃と、斗貴子の纏う三つの刃が跳ね上がる。
 その武装の名に等しい二人の戦乙女は、まるで剣舞でも踊るかのように至近に迫った獣達を一掃した。
「……近接戦闘もできたのか」
「できないと言った覚えはない」
「できるなら早く言えと言っているんだ」
「……私は接近戦もできる」
「今更言うなっ!」
「はわ、二人とも、っていうか斗貴子さん落ち着いて……!」
 斗貴子はさらりと流す灯に憤慨して詰め寄ったが、割って入ったくれはを見ると小さく舌打ちした。
 一応収めてはみたものの斗貴子としては大いに納得がいっていない。
 なぜなら、最初からそれがわかっていればいくらでもやりようはあったのだ。
 彼女は息を吐いて敵を見据える。既に噴煙は晴れて視界は元に戻っていた。
 見据える先には幾分薄くなった黒狼達の壁と、その先に垣間見える河井 沙織。
「私が行く。ここは任せた……くれはは援護を」
「了解」
「うん、任せて」
 返事を聞くや否や斗貴子は弾丸のように跳ねて沙織に向かって疾駆した。



 それまで踏み越えられなかったラインを躊躇なく踏み越えて漆黒の軍勢に突入する。
 斗貴子の行動の変化に気付いたのだろう、黒狼達は灯達に向かうよりも目の前の脅威に対して牙を剥き飛びかかる。
 だが、それでも足りない。
 灯とくれはに向かう意識がなくなったのは彼女も同様だった。
 であれば、その戦力差が覆ることなど、ありはしなかった。
「邪魔だ!!」
 縦横無尽にブレードを奔らせて周囲の敵を切り刻む。
 領域を侵した者を瞬斬する刃の結界を纏い、斗貴子は闇を文字通り切り裂いて更に押し進む。
 背後に複数の敵の気配。
 四つのブレードの内の一本を灯に手渡した、その死角。目ざとくそれを見出した獣達が刃を掻い潜って斗貴子に迫る。
 だがそれでも、彼女は振り返らない。失った彼女の刃の代わりに、
「《ヴォーテックス・トライデント》!!」
 飛来した三本の冥色の槍が敵を撃ち砕いた。
 そうして闇を抜けた抜けた先で斗貴子が見たのは、紅の月に照らされた世界。
 そこに佇む、一人の少女。
 彼女は貼り付けたような笑顔を浮かべながら、斗貴子に向かって手を翳していた。
「――《ヴォーティカル・カノン》」
 音もなく吐き出される虚空の弾丸。だがそれは虚しく地面を穿つだけだった。
 今の今まで目の前にいた斗貴子の姿が、消えていた。
「……キミはこんなトコロにいるべき子じゃない」
「――!」
 不意に響く背後からの声。
 沙織は目を見開いて地を蹴り、振り向きざまに手から闇の剣を生み出して一閃する。
 だが――遅い。あまりにも遅すぎる。
 斬撃を放とうとした沙織の腕は、既に斗貴子に捕まえられていた。
 斗貴子と沙織は正面から相対する。
 普段の彼女からは想像もできないような――実際に別のモノであろう、河井 沙織の驚愕と怒りに満ちた表情。
 そんな彼女の顔を前に――斗貴子は普段彼女に対するように、小さく微笑んで見せた。
 場としては、敵に対してはそれは明らかに吊り合わない態度だった。
 だが、それでも斗貴子は、その表情を浮かべる事しかできなかった。
「――帰るぞ、さーちゃん。キミがいるべき場所に」
「………………………ときこ、さん」
 掠れるような声が聞こえた。
 それを耳に入れながら、心には届かせないようにして。
 斗貴子は躊躇なく、刃を振るった。



 肉を裂かれる感触がした。一瞬遅れて、燃え上がるような灼熱感。溢れ出した血の匂い。服を濡らしていく液体。
 自分が受けたものではないその痛みを感じながら、斗貴子は沙織の身体を斬り付けた。
 食いしばった唇から血が流れる。それでも彼女は自らが傷つけた少女から目を離さない。
 鮮血に染まった沙織の身体から、黒い闇が零れ落ちる。
 溢れ出した闇は更に黒く凝り固まり、一つの異形を形作る。
 幾種もの生物を混ぜ合わせたような、それでいてそのいずれとも判別できない、正に『魔』と呼ぶべき存在。
 この世界を侵す魔性、エミュレイター。
「ギ――!!」
 憑くべき寄り代を失ったソレは奇怪な声を上げて、宙に飛び上がる。
 逃げるつもりか、距離を取って攻めるつもりか。
 しかし斗貴子にはそれはどうでもいい事だった。
 一度だけそのエミュレイターを視認しただけで、彼女はソレから眼を切って沙織に視線を戻した。
 エミュレイターが抜け出て力を失った沙織を、抱きかかえる。
「オ、ノレ……ッ!」
 エミュレイターが声らしきモノを上げて、殺気を放った。
 だが、それもどうでもいい。反応してやる義務も、その必要も意味もない。
 何故なら――


 白刃が閃き、黒狼の頭を跳ね飛ばす。
 数が減り散発的になった敵の攻勢を凌ぎながら、灯は河井 沙織からエミュレイターが乖離するのを視認した。
 目も向けずにブレードを振るい最後の黒狼を両断する。同時に彼女は地面に落ちていたガンナーズブルームを蹴り上げた。
 ブレードを放り投げて、中空に浮いたガンナーズブルームを掴む。
 それを振り回すようにして彼女は砲口をエミュレイターへと向けた。
 弾は既に装填済み。射程圏内。
 先程の黒狼の攻勢と、自身の蹴りで多少砲身に歪みがある。命中率は若干低下。
 だが、全く問題はない。
 何故ならこのガンナーズブルームは彼女の手足も同然――と、魔剣使いである柊 蓮司ならそう表現するだろう。
 だが緋室 灯にとってその表現は正しくない。
 彼女は絶滅社によって製造された兵器なのだ。
 故に、その手に持つガンナーズブルームは彼女の手足ではなく、彼女こそがガンナーズブルームのパーツに過ぎない。
 兵器に与えられた機能はただ一つ。
 それは彼女が見つめる先、ガンナーズブルームを向ける先に存在するエミュレイターを殲滅する事。
「目標捕捉」
 彼女は抑揚なく呟き、トリガーを引く。
 顕れた方陣と共に放たれた火線は過たず敵を撃ち貫き。
 唯一の機能を完全に、完璧に遂行した。


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