執行委員の交流 中編
麻帆良学園都市。
学生達は午後の授業中ということで、人通りはまばらな街の道の一つ。
昼時も終わって午後3時頃。品揃えが一時的に少なくなっている移動ホットドッグ屋の近く。柊蓮司は今、そこにいた。
つい先ほど麻帆良学園都市近くで起きた、魔法生徒とマッドサイエンティスト魔術士製の、牙の塔からやけに遠い距離を移動してきた謎メカとの争いに調停しに出動。
謎メカを完全破壊して、魔術士の身柄を魔法生徒と同じ教室出身だという魔術士に預けてきたところである。
メカを作るのが生きがいみたいになっている彼はたびたびそういう事件を起こすため、いつも回収にくる少年に後で事情を聞く、というのがいつもの流れだ。
学生達は午後の授業中ということで、人通りはまばらな街の道の一つ。
昼時も終わって午後3時頃。品揃えが一時的に少なくなっている移動ホットドッグ屋の近く。柊蓮司は今、そこにいた。
つい先ほど麻帆良学園都市近くで起きた、魔法生徒とマッドサイエンティスト魔術士製の、牙の塔からやけに遠い距離を移動してきた謎メカとの争いに調停しに出動。
謎メカを完全破壊して、魔術士の身柄を魔法生徒と同じ教室出身だという魔術士に預けてきたところである。
メカを作るのが生きがいみたいになっている彼はたびたびそういう事件を起こすため、いつも回収にくる少年に後で事情を聞く、というのがいつもの流れだ。
ともあれ。
そんな柊がなぜ執行部室に戻らずまだ麻帆良に滞在しているかと言えば、理由は簡単。
消費カロリーが蓄積カロリーを上回ったから、要はお腹が減ったからである。
余談だが、この移動ホットドッグ屋は『学園都市』に所属しており、いつもは第七学区に出没している。
店主が好奇心旺盛な人間で、週に2度ほど『学園都市』から出て、他の学園内や学校前に車をつけてホットドッグを販売しているのだという。
そんな柊がなぜ執行部室に戻らずまだ麻帆良に滞在しているかと言えば、理由は簡単。
消費カロリーが蓄積カロリーを上回ったから、要はお腹が減ったからである。
余談だが、この移動ホットドッグ屋は『学園都市』に所属しており、いつもは第七学区に出没している。
店主が好奇心旺盛な人間で、週に2度ほど『学園都市』から出て、他の学園内や学校前に車をつけてホットドッグを販売しているのだという。
そんなことを知っているわけでもない柊は、メニューを見て『ホットドッグ一つ2000円』という現実に打ちのめされ、すごすごと引き下がるところだった。
給料が入るようになって少し食生活が潤うようになったからといって、無駄遣いしていい道理はない。
実に小市民だ。
中身はお嬢様の美琴なんかはあれ平気で買うんだろうか信じられん、なんて思いながら、彼は昼食がとれそうなところを探す。
さすがは麻帆良、女性人口のかなり高い学園都市のためオシャレな店が多く、野郎1人で入れそうなところが見当たらない。
給料が入るようになって少し食生活が潤うようになったからといって、無駄遣いしていい道理はない。
実に小市民だ。
中身はお嬢様の美琴なんかはあれ平気で買うんだろうか信じられん、なんて思いながら、彼は昼食がとれそうなところを探す。
さすがは麻帆良、女性人口のかなり高い学園都市のためオシャレな店が多く、野郎1人で入れそうなところが見当たらない。
せめてコンビニでもないかと探していると―――横から唐突に膨れ上がった気を感じ、反射的に上体をそらす。
鼻先をかすめすり抜ける黒い影。
さらに、黒い影の飛びきた方向の足を軸足に半身になり、横から放たれた拳を受け止めた。
呟く。
鼻先をかすめすり抜ける黒い影。
さらに、黒い影の飛びきた方向の足を軸足に半身になり、横から放たれた拳を受け止めた。
呟く。
「いきなり物騒だな。俺、お前に何かしたか?」
「いーや、アイサツ代わりや。遠慮なく受け取っとき、兄ちゃん」
「そりゃケンカ売る口上だろうがっ!?」
「いーや、アイサツ代わりや。遠慮なく受け取っとき、兄ちゃん」
「そりゃケンカ売る口上だろうがっ!?」
ぺい、と相手の手を開放すると、相手―――10歳くらいの犬耳と尻尾の生えた黒髪の学ラン少年―――は、それ以上は殴りかかるようなことはせず気楽に笑う。
「相変わらずやなー、蓮司兄ちゃん。もうちょい真剣になってくれてもえぇと思うんやけど」
「なんでお前みたいな戦闘狂に付き合わなきゃならねぇんだよ断る」
「何言っとるんや。兄ちゃんも売られたケンカは買うタイプやろ?」
「買うには買うが、自分から押し売りはしてないぜ。
つか、お前に付き合ってるヒマがねーんだよ。ケンカ始めて横から茶々入れられるのってお前も嫌だろ?」
柊の言葉にぽん、と手を打ってそれもそーか、と笑う少年。
そんな彼を見て、柊は半眼で告げる。
「なんでお前みたいな戦闘狂に付き合わなきゃならねぇんだよ断る」
「何言っとるんや。兄ちゃんも売られたケンカは買うタイプやろ?」
「買うには買うが、自分から押し売りはしてないぜ。
つか、お前に付き合ってるヒマがねーんだよ。ケンカ始めて横から茶々入れられるのってお前も嫌だろ?」
柊の言葉にぽん、と手を打ってそれもそーか、と笑う少年。
そんな彼を見て、柊は半眼で告げる。
「わざわざ授業サボってまで俺にケンカ売りにきたのか、お前は」
「違う違う。単にサボってたら蓮司兄ちゃん見かけたから、これはアイサツせなと」
「普通に挨拶できねぇのかよっ!? ていうか、授業は出ろ! ちゃんと出とけ!」
「えー? 何言っとるん、兄ちゃんも出席日数と単位が足りんくって高校ギリギリ卒業やったって聞いとるけど」
「俺のは不可抗力だよっ!?」
「違う違う。単にサボってたら蓮司兄ちゃん見かけたから、これはアイサツせなと」
「普通に挨拶できねぇのかよっ!? ていうか、授業は出ろ! ちゃんと出とけ!」
「えー? 何言っとるん、兄ちゃんも出席日数と単位が足りんくって高校ギリギリ卒業やったって聞いとるけど」
「俺のは不可抗力だよっ!?」
もともと卒業はしたかったものの、任務続きでなかなか学校に来られなかった柊ならではの発言である。
少年は、そういえば、と腕を頭の後ろで組むと尋ねた。
少年は、そういえば、と腕を頭の後ろで組むと尋ねた。
「蓮司兄ちゃん、そういやなんでこんなところにおるんや? また仕事か?」
「仕事はもう終わってる。単に昼メシ調達しにきただけだよ」
「今3時やで? 大変やなぁ……」
「かわいそうなものを見る目で見んな。
……そういや小太郎、お前って麻帆良の学校通ってんだよな。この辺詳しいか?」
「ん? そりゃあ道案内くらいは出来るけど、なんか探しモンか?」
「財布に優しいところで、量食える店。もしくはコンビニ。軽いもんなら奢るぞ」
「よっしゃ、任せとき!」
「仕事はもう終わってる。単に昼メシ調達しにきただけだよ」
「今3時やで? 大変やなぁ……」
「かわいそうなものを見る目で見んな。
……そういや小太郎、お前って麻帆良の学校通ってんだよな。この辺詳しいか?」
「ん? そりゃあ道案内くらいは出来るけど、なんか探しモンか?」
「財布に優しいところで、量食える店。もしくはコンビニ。軽いもんなら奢るぞ」
「よっしゃ、任せとき!」
そう言って、少年―――犬上 小太郎(いぬがみ こたろう)は柊を伴って歩き出す。
……結果的に、柊は小太郎のサボりを助長することになるのだった。
……結果的に、柊は小太郎のサボりを助長することになるのだった。
犬上 小太郎。麻帆良学園都市内の学校に通う、影使いの少年。特徴:バカ。そして好戦的。大門高校の草薙 静馬(くさなぎ しずま)等と仲がよい。
それが柊が彼について知っている全てである。
何かと強い相手と戦うシチュエーションを求めているため、大規模なケンカの中心に行きたがる。執行委員で調停に向かった先にいたことも少なくはない。
というか、それがきっかけで柊も会う度にケンカを売られる。
それが柊が彼について知っている全てである。
何かと強い相手と戦うシチュエーションを求めているため、大規模なケンカの中心に行きたがる。執行委員で調停に向かった先にいたことも少なくはない。
というか、それがきっかけで柊も会う度にケンカを売られる。
そんな彼と食事を共にする機会はこれで二度目だ。前の一度は柊が『休日』をもらった日で、どんちゃん騒ぎに参加しただけとも言う。
ともあれ。
小太郎の知る一番財布に優しい上美味い店というと超包子になるのだが、店員はただいま授業の真っ最中。
ゆえに彼らが入ったのは近くの牛丼屋に入ることになったのだった。
2人は近くの牛丼屋で食事を終えると、店を出る。
ともあれ。
小太郎の知る一番財布に優しい上美味い店というと超包子になるのだが、店員はただいま授業の真っ最中。
ゆえに彼らが入ったのは近くの牛丼屋に入ることになったのだった。
2人は近くの牛丼屋で食事を終えると、店を出る。
「いやー、食った食った。タダメシはやっぱ美味いわー」
「よかったな」
「ついでに腹ごなしもできると完璧なんやけどな」
「そいつはお断りだ」
「なんや、ノリ悪いなぁ。ちょっとくらいええやんか」
「あ、いた! コタローくんっ!」
「よかったな」
「ついでに腹ごなしもできると完璧なんやけどな」
「そいつはお断りだ」
「なんや、ノリ悪いなぁ。ちょっとくらいええやんか」
「あ、いた! コタローくんっ!」
そう唇を尖らす小太郎に向けて、横から声がかかった。
そちらを向けば、赤みの強い茶色ながらリクオと同じようにうなじ近くは黒い髪。遮魔眼鏡にスーツ姿の、小太郎と同じくらいの年頃の少年。
小太郎を探して走ってきたのか、少年は少し頬が紅潮している。
その少年を見て、小太郎が反応した。
そちらを向けば、赤みの強い茶色ながらリクオと同じようにうなじ近くは黒い髪。遮魔眼鏡にスーツ姿の、小太郎と同じくらいの年頃の少年。
小太郎を探して走ってきたのか、少年は少し頬が紅潮している。
その少年を見て、小太郎が反応した。
「おぉ? ネギやないか、なにかあったんか?」
「なにかあったのかじゃないよっ!?
もう……学校突然抜け出してどこか行っちゃったって校長先生から連絡があったから、探しに来たんだ」
「なんで俺がどっか行くとネギに連絡が入るねん」
「コタロー君が色んなところの争いに首を突っ込むからでしょ―――っ!?」
「なにかあったのかじゃないよっ!?
もう……学校突然抜け出してどこか行っちゃったって校長先生から連絡があったから、探しに来たんだ」
「なんで俺がどっか行くとネギに連絡が入るねん」
「コタロー君が色んなところの争いに首を突っ込むからでしょ―――っ!?」
少年の名前はネギ=スプリングフィールド。
小太郎の悪友にして麻帆良学園都市内麻帆良学園中等部3-Aの担任の、中学教師(10歳)である。
小太郎の悪友にして麻帆良学園都市内麻帆良学園中等部3-Aの担任の、中学教師(10歳)である。
……っていうか、子ども先生多すぎじゃね?ってツッコミは入れるだけ無駄である。なにせ学園世界だから。
小太郎がぶーぶー、と不満を口にする。
「別にえぇやん。強い奴と戦いたいっちゅーのは俺の性分で、誰にも迷惑かけとらん。
ネギ、お前かてできるんやったら強い奴とは戦って勝ちたいやろ?」
「う……そ、それとこれとは別問題っ! 授業休む理由にはならないよ!」
「相変わらず固いなぁ……安心せぇ。今日は別にケンカしに行ったわけやない、こっちの迷子案内しとっただけや」
ネギ、お前かてできるんやったら強い奴とは戦って勝ちたいやろ?」
「う……そ、それとこれとは別問題っ! 授業休む理由にはならないよ!」
「相変わらず固いなぁ……安心せぇ。今日は別にケンカしに行ったわけやない、こっちの迷子案内しとっただけや」
こっちの、と柊を指して説明する小太郎。
あまりの物言いに、柊も思わずツッコんだ。
あまりの物言いに、柊も思わずツッコんだ。
「誰が迷子だ誰がっ!? つーか俺のせいにすんなよ、もともとサボってたじゃねぇかお前っ!?」
「あっはっは、細かいことは気にすんなや。ホレ、ここに証人おるでネギ」
「あ―――柊さん、お疲れさまです」
「あっはっは、細かいことは気にすんなや。ホレ、ここに証人おるでネギ」
「あ―――柊さん、お疲れさまです」
丁寧にお辞儀をするネギに、柊もよう、と返す。
「お疲れさん。先生ってのも大変だな、気にすることがいっぱいで」
「お気遣いありがとうございます。それで、柊さんはお仕事でいらっしゃったんですか?」
「仕事で近くまで来て、麻帆良には昼メシ食いに来たらこいつに絡まれたんだよ」
「絡まれたってなんやねん。俺がおらんかったら迷子やったクセに」
「その前の物理的な『アイサツ』は、どう考えても絡んだって言えると思うぞ」
「こ、コタローく―――んっ!? ま、ままままさか執行委員の人にご迷惑をかけるようなことを……っ」
「あー、いや単にケンカ吹っかけられただけなんだけどな」
「へ? ……な、なーんだ。いつものコタロー君かぁ」
「……それはそれでムカつく物言いやな、おい」
「お気遣いありがとうございます。それで、柊さんはお仕事でいらっしゃったんですか?」
「仕事で近くまで来て、麻帆良には昼メシ食いに来たらこいつに絡まれたんだよ」
「絡まれたってなんやねん。俺がおらんかったら迷子やったクセに」
「その前の物理的な『アイサツ』は、どう考えても絡んだって言えると思うぞ」
「こ、コタローく―――んっ!? ま、ままままさか執行委員の人にご迷惑をかけるようなことを……っ」
「あー、いや単にケンカ吹っかけられただけなんだけどな」
「へ? ……な、なーんだ。いつものコタロー君かぁ」
「……それはそれでムカつく物言いやな、おい」
ほっとした様子のネギと、そんな彼を睨む小太郎。
柊はそんな少年達のじゃれ合いを遠目で見ている。
『もう、なんで授業から逃げ出したりするの!』『あんなカードゲームとかで遊んどるガキ共と一緒に勉強なんざできるかい!』『コタロー君だって子どもでしょー!』
なんて会話が聞こえてくる。
柊はそんな少年達のじゃれ合いを遠目で見ている。
『もう、なんで授業から逃げ出したりするの!』『あんなカードゲームとかで遊んどるガキ共と一緒に勉強なんざできるかい!』『コタロー君だって子どもでしょー!』
なんて会話が聞こえてくる。
平和だなぁ、なんて内心柊が思った瞬間。
―――背後から、肝どころか魂を冷やすほどの悪寒に襲われた。
―――背後から、肝どころか魂を冷やすほどの悪寒に襲われた。
くすり、と小さく笑い声が聞こえると同時、すぐさま魔剣を引き抜き、反転しながら自分のカンを信じて5度の斬撃。上から下へ、斜めから斜めへ、右から左へ。
巨大な刃が振り抜かれるのと時と数を同じくし、まるで剣に打ち落とされるために現れたように金属製の矢が出現。虚空から斬撃の軌道に割り込み地面に叩きつけられる。
がらんがらん、と金属製の矢計8本が道路に落ちた。
魂を縛るほどの悪寒の余韻で冷や汗が流れるが、柊は攻撃をしてきた相手を睨みつけ、しかし剣先は下げたまま、尋ねた。
巨大な刃が振り抜かれるのと時と数を同じくし、まるで剣に打ち落とされるために現れたように金属製の矢が出現。虚空から斬撃の軌道に割り込み地面に叩きつけられる。
がらんがらん、と金属製の矢計8本が道路に落ちた。
魂を縛るほどの悪寒の余韻で冷や汗が流れるが、柊は攻撃をしてきた相手を睨みつけ、しかし剣先は下げたまま、尋ねた。
「……さすがに、ちょっと冗談が過ぎねぇか? 『風紀委員(ジャッジメント)』さんよ」
「あら。あらあらまぁまぁ。
ごきげんよう、執行委員さん。わたくし、ちょっと手が滑ってしまいましたの。ご無事でなによりですわ」
「嘘つけ、明確に殺意があっただろ今の攻撃は。
動きを止める目的がいくつかと急所狙いがいくつかって、どう考えても手が滑ったとかそういうレベルじゃ済まねぇだろっ、計画性バッチリじゃねーか!」
「まぁ。そんなことありませんわ。わたくし、意識して狙っておりませんもの」
「それは無意識なくらい日常的に俺への殺る気満々ってことかっ!? そんなに恨みでもあんのか白井っ!?」
「あら。あらあらまぁまぁ。
ごきげんよう、執行委員さん。わたくし、ちょっと手が滑ってしまいましたの。ご無事でなによりですわ」
「嘘つけ、明確に殺意があっただろ今の攻撃は。
動きを止める目的がいくつかと急所狙いがいくつかって、どう考えても手が滑ったとかそういうレベルじゃ済まねぇだろっ、計画性バッチリじゃねーか!」
「まぁ。そんなことありませんわ。わたくし、意識して狙っておりませんもの」
「それは無意識なくらい日常的に俺への殺る気満々ってことかっ!? そんなに恨みでもあんのか白井っ!?」
そこにいたのは、アーモンド色の艶のある髪を緋色のリボンでツインテールにした、『学園都市』内常盤台中学の制服と風紀委員の腕章をした少女。
疑いを差し挟む余地のない殺人未遂を起こした彼女の名は、白井 黒子(しらい くろこ)。
『学園都市』で風紀委員(ジャッジメント)をしている中学生で、初春 飾利のパートナーであり、また御坂 美琴と同部屋で彼女をおねーさまと仰ぐ変り種お嬢様である。
そんな変り種は恨み、ですって? と彼女はそれまでのお嬢様然とした様子をかなぐり捨て、まるで怨霊のような表情で言う。
疑いを差し挟む余地のない殺人未遂を起こした彼女の名は、白井 黒子(しらい くろこ)。
『学園都市』で風紀委員(ジャッジメント)をしている中学生で、初春 飾利のパートナーであり、また御坂 美琴と同部屋で彼女をおねーさまと仰ぐ変り種お嬢様である。
そんな変り種は恨み、ですって? と彼女はそれまでのお嬢様然とした様子をかなぐり捨て、まるで怨霊のような表情で言う。
「いいですこと? 初春のことはまぁどうでもいいですわ。あの子も望んだことですし、こちらの仕事も滞らせてはいないことですし。
問・題・は。
学園都市の至宝! 第三位の超電磁砲! そしてなによりわたくしのおねーさまであるところの御坂 美琴おねーさまを!
何度も何度も風紀委員になろうとわたくしが何度誘ってもまっっったくなびいてくださらなかったおねーさまを!
執行委員代表としてあごで! 使う! 立場の!
柊蓮司、あなたに! わたくしが何も思ってないと、そう寝ぼけたことを言いやがるわけですのねこの類人猿(♂)っ!?」
問・題・は。
学園都市の至宝! 第三位の超電磁砲! そしてなによりわたくしのおねーさまであるところの御坂 美琴おねーさまを!
何度も何度も風紀委員になろうとわたくしが何度誘ってもまっっったくなびいてくださらなかったおねーさまを!
執行委員代表としてあごで! 使う! 立場の!
柊蓮司、あなたに! わたくしが何も思ってないと、そう寝ぼけたことを言いやがるわけですのねこの類人猿(♂)っ!?」
背筋を凍らせる悪寒、第二波。
あまりのプレッシャーに何も言えない柊と、巻き込まれて気圧された10歳児2人。小太郎とネギは柊の後ろでがたがたぶるぶるしながら身を寄せ合っている。
だん! と足を踏み鳴らし、右手の指の間に彼女の能力であるところの『空間転移(テレポート)』で金属矢を取り出して挟み、柊に宣言する。
あまりのプレッシャーに何も言えない柊と、巻き込まれて気圧された10歳児2人。小太郎とネギは柊の後ろでがたがたぶるぶるしながら身を寄せ合っている。
だん! と足を踏み鳴らし、右手の指の間に彼女の能力であるところの『空間転移(テレポート)』で金属矢を取り出して挟み、柊に宣言する。
「先ほどは手心を加えて弾かれましたが、あなたの体に直接ぶち込むのがお好みでしたら、今すぐ穴あきチーズにしてあげましてよっ!?」
「お、落ち着こうぜ白井。暴力は何も生まないもんだっ」
「生みますわよ。具体的には死体とか」
「お、落ち着こうぜ白井。暴力は何も生まないもんだっ」
「生みますわよ。具体的には死体とか」
目が殺る気満々である。
あまりの威圧感に何も言うことができない柊。しかし、白井はそんな状況でありながら、唐突にふぅ、と溜め息をついて右手を下ろした。
あまりの威圧感に何も言うことができない柊。しかし、白井はそんな状況でありながら、唐突にふぅ、と溜め息をついて右手を下ろした。
「……まぁ。
わたくしとしてもおねーさまが決めたことに口を出すつもりはないのですわ。
おねーさまが新しいお友達を見つけたい、というのでしたらそれも認めましょう。おねーさまのなさりたいことをされるのが一番です。
ですから、そこは気にしておりません。
わたくしが懸念するのは、おねーさまが傷つくかもしれない事態について、ですの」
わたくしとしてもおねーさまが決めたことに口を出すつもりはないのですわ。
おねーさまが新しいお友達を見つけたい、というのでしたらそれも認めましょう。おねーさまのなさりたいことをされるのが一番です。
ですから、そこは気にしておりません。
わたくしが懸念するのは、おねーさまが傷つくかもしれない事態について、ですの」
よろしくて? と白井は柊を冷たい目で睨んだまま、告げる。
「おねーさまは、無理をしてしまう方です。自分の問題を周囲に何も言わないまま、1人で抱え込んでしまう方です。
そんな気高くて誇り高い御坂 美琴おねーさまを、わたくしは心から敬愛しておりますの。
そんなおねーさまが。わたくしの敬愛すべきおねーさまが。誰一人気づかないうちに傷ついてしまうことなど、このわたくしが絶対に認めません。
何があろうと。どんな天変地異に襲われようと。どのようなバケモノに襲来されようとも。
おねーさまがそれでいなくなってしまうことなど、ありえてはならないのです。
わたくしは『風紀委員』。『学園都市』内の見回りをおろそかにするわけには参りませんから、おねーさまのところに行くことはかないませんが。
よろしいですこと、へらへらした類人猿。
おねーさまが傷つくような事態になりましたらあなたの所へ『跳んで』いって、おねーさまが傷を負われた場所と同じ箇所に、わたくしが矢を突き立てると思いなさい」
そんな気高くて誇り高い御坂 美琴おねーさまを、わたくしは心から敬愛しておりますの。
そんなおねーさまが。わたくしの敬愛すべきおねーさまが。誰一人気づかないうちに傷ついてしまうことなど、このわたくしが絶対に認めません。
何があろうと。どんな天変地異に襲われようと。どのようなバケモノに襲来されようとも。
おねーさまがそれでいなくなってしまうことなど、ありえてはならないのです。
わたくしは『風紀委員』。『学園都市』内の見回りをおろそかにするわけには参りませんから、おねーさまのところに行くことはかないませんが。
よろしいですこと、へらへらした類人猿。
おねーさまが傷つくような事態になりましたらあなたの所へ『跳んで』いって、おねーさまが傷を負われた場所と同じ箇所に、わたくしが矢を突き立てると思いなさい」
そう告げて、彼女は柊の目を射抜く。
その目があまりに真剣で。柊はあっけにとられた後、ふっと苦笑した。
その目があまりに真剣で。柊はあっけにとられた後、ふっと苦笑した。
「……了解。肝に銘じとく」
「あら、なにかおかしいところがございまして? それともその減らず口を閉じてほしいというご要望ですの?」
「あら、なにかおかしいところがございまして? それともその減らず口を閉じてほしいというご要望ですの?」
すい、とまた目を細める白井に、柊は冷や汗をかきながら話をそらした。
「あー、ほら、白井。そういやお前なんでここにいるんだ? お前『学園都市』の『風紀委員』だろ?
ついでに常盤台ってまだ授業中のはずだろうが」
「残念ですわね。今日の朝に『学園都市』の人間が巻き込まれた事件の調査に来ていたのですわ。
常盤台は授業の休み時間中ですの。わたくしでしたら移動も速いですから、お話を聞くだけなら休み時間中で事足りるのですわ」
「ん? 今朝の事件っていうと……ありゃ、C区画の桃月学園近くで起きた事件だろ? 麻帆良とはなんの関係もないはずじゃねぇか?」
ついでに常盤台ってまだ授業中のはずだろうが」
「残念ですわね。今日の朝に『学園都市』の人間が巻き込まれた事件の調査に来ていたのですわ。
常盤台は授業の休み時間中ですの。わたくしでしたら移動も速いですから、お話を聞くだけなら休み時間中で事足りるのですわ」
「ん? 今朝の事件っていうと……ありゃ、C区画の桃月学園近くで起きた事件だろ? 麻帆良とはなんの関係もないはずじゃねぇか?」
柊の疑問の言葉に、白井が不機嫌そうに眉をしかめて吐き捨てるように言う。
「なんで貴方がそんなことを―――なるほど。あれ、貴方が調停したんですのね。
貴方にそんなことを答える義理はございませんが……まぁ、あえて言うのなら、魔術的な事象について知恵を借りに来たのですわ。
わたくし達『学園都市』は科学と能力開発・演算についてはどの学園にも負けない自信がございますが、さすがに魔術的な理論・言語については疎いもので」
「ふーん。で、なんかわかったのか?」
「残念ながら、収穫ナシですわ。
……まったく。いきなり嵐が発生して、それを攻撃されたと勘違いした能力者がいさかいを起こしたなんて、『学園都市』の名折れですのに」
貴方にそんなことを答える義理はございませんが……まぁ、あえて言うのなら、魔術的な事象について知恵を借りに来たのですわ。
わたくし達『学園都市』は科学と能力開発・演算についてはどの学園にも負けない自信がございますが、さすがに魔術的な理論・言語については疎いもので」
「ふーん。で、なんかわかったのか?」
「残念ながら、収穫ナシですわ。
……まったく。いきなり嵐が発生して、それを攻撃されたと勘違いした能力者がいさかいを起こしたなんて、『学園都市』の名折れですのに」
ぶつぶつ、と自分の世界に没頭して続ける彼女に、恐る恐るネギが声をかける。
「あ、あのう白井さん……」
「あら? そちらは麻帆良学園のスプリングフィールド先生ですのね。
ごきげんよう。どうかなさいましたの?」
「休み時間を利用して来られた、ということでしたが、そろそろ戻らないと危ないんじゃないですかね?」
「あら? そちらは麻帆良学園のスプリングフィールド先生ですのね。
ごきげんよう。どうかなさいましたの?」
「休み時間を利用して来られた、ということでしたが、そろそろ戻らないと危ないんじゃないですかね?」
硬直。
すぐに白井は携帯を取り出して時間を確認すると、可愛らしい悲鳴を上げた。
すぐに白井は携帯を取り出して時間を確認すると、可愛らしい悲鳴を上げた。
「きゃあぁぁぁっ! ち、遅刻ですのーっ!?
申し訳ございませんっ、わたくしこれで失礼するのですわっ!
それから柊蓮司! 月夜ばかりと油断してると、わたくしが背後から蜂の巣にして差し上げますからねっ!?」
「待てよっ!? なんで俺に対して捨て台詞吐いてくんだお前はっ!?」
申し訳ございませんっ、わたくしこれで失礼するのですわっ!
それから柊蓮司! 月夜ばかりと油断してると、わたくしが背後から蜂の巣にして差し上げますからねっ!?」
「待てよっ!? なんで俺に対して捨て台詞吐いてくんだお前はっ!?」
柊の質問に答えることはなく。
白井 黒子は空間転移で80mくらい次々転移しながら麻帆良の転送陣に向けて移動していった。
さすがに間に合わないと判断したのか、麻帆良内から『学園都市』へと転送陣を利用した後、空間転移で駆けるつもりのようだ。
柊の手がむなしく空を切る。
それを可哀想なものを見る目で見ていたネギに、小太郎が声をかけた。
白井 黒子は空間転移で80mくらい次々転移しながら麻帆良の転送陣に向けて移動していった。
さすがに間に合わないと判断したのか、麻帆良内から『学園都市』へと転送陣を利用した後、空間転移で駆けるつもりのようだ。
柊の手がむなしく空を切る。
それを可哀想なものを見る目で見ていたネギに、小太郎が声をかけた。
「そーいやネギ。お前もそろそろホームルームの準備とかせなかんのと違うか?」
「あ、あぁ!? そういえばそうだよっ! すみません柊さん、ボクも行きます!」
「お……おう。気をつけてな」
「先生も大変やなぁ」
「コタローくんも行くの! 最後のホームルームくらい受けて帰らないと!」
「あ、あぁ!? そういえばそうだよっ! すみません柊さん、ボクも行きます!」
「お……おう。気をつけてな」
「先生も大変やなぁ」
「コタローくんも行くの! 最後のホームルームくらい受けて帰らないと!」
言って、ネギが小太郎の襟首を掴んで引きずっていく。
うおぉ? と小太郎が慌てるが、観念したように柊に向けてぶんぶんと腕を振る。
うおぉ? と小太郎が慌てるが、観念したように柊に向けてぶんぶんと腕を振る。
「じゃーなー、蓮司兄ちゃん! 今度はケンカ付き合ってもらうからなー!」
なーぁーぁー……というドップラー効果を聞きながら、姿が見えなくなるまで見続ける。
見えなくなって、一つ溜め息。
見えなくなって、一つ溜め息。
「なんでこう、物騒な挨拶しかできねー学生ばっかなのかね……」
そろそろ授業も終わる時間だ、忙しくなるに決まっている。
彼は出したままのウィッチブレードに片足をかけると、そのままアクセルを開けた。
青い魔力の光が灯り、ふわりと鉄の塊が浮き上がる。
そのまま地を蹴り、柊は相棒と共に空へと駆け上がった。
彼は出したままのウィッチブレードに片足をかけると、そのままアクセルを開けた。
青い魔力の光が灯り、ふわりと鉄の塊が浮き上がる。
そのまま地を蹴り、柊は相棒と共に空へと駆け上がった。
***
東棟5階・執行部室。
夕方5時と、一番執行委員が活発に動いている時間帯の一つ。
今日来ている執行委員のうち2人が外に出ていて、執行部室にいるのは柊と初春だけ。そして。
夕方5時と、一番執行委員が活発に動いている時間帯の一つ。
今日来ている執行委員のうち2人が外に出ていて、執行部室にいるのは柊と初春だけ。そして。
「こんにちはッスー。お仕事しに来たッスよ」
「ベホイミさん。お疲れさまです」
「ベホイミさん。お疲れさまです」
もう一人、ベホイミがやってきた。
彼女はきょろきょろと部屋を見回すと、珍しく姿の見えない一人について初春にたずねた。
彼女はきょろきょろと部屋を見回すと、珍しく姿の見えない一人について初春にたずねた。
「あれ? ノーチェさんはお出かけッスか?」
「ノーチェなら今日はこっちに新しくできた居酒屋で友だちと飲み会やるからってもう帰ったぞ」
「ノーチェなら今日はこっちに新しくできた居酒屋で友だちと飲み会やるからってもう帰ったぞ」
答えたのは柊だ。
ノーチェから聞いた話では、なんとかいう聞きたくもない組織の名前によく似た居酒屋がもともと外の世界にはあり、そこの支店がD区画にできたのだとか。
常連を連れて飲み会の予約を入れているとかで、今日は早く帰るというのはもともと言われていたことだ。
あれー、そうなんすかー。と彼女は言って、ポットからお湯を注いで緑茶を啜りながら一言。
ノーチェから聞いた話では、なんとかいう聞きたくもない組織の名前によく似た居酒屋がもともと外の世界にはあり、そこの支店がD区画にできたのだとか。
常連を連れて飲み会の予約を入れているとかで、今日は早く帰るというのはもともと言われていたことだ。
あれー、そうなんすかー。と彼女は言って、ポットからお湯を注いで緑茶を啜りながら一言。
「そういえば柊さん、朝の事件ってどうなりました?」
「朝のって……あー、学園都市の能力者が襲われたと勘違いして大暴れして、たまたま近くをうろついてた武偵高の連中が応戦したあれな。
朝っぱらから派手にやってくれたもんだ」
「朝のって……あー、学園都市の能力者が襲われたと勘違いして大暴れして、たまたま近くをうろついてた武偵高の連中が応戦したあれな。
朝っぱらから派手にやってくれたもんだ」
武偵、というのは『武装探偵』のことであり、凶悪犯罪の歯止めがかからなくなった世の中で『犯人を捕まえる探偵』を育成するための学校が『東京武偵高校』であり。
そこの『強襲科(アサルト)』と『車両科(ロジ)』の人間が数人いたため闘争に応じてしまい、周囲は超能力で生まれる風とゴム弾の吹き荒れる修羅の巷と化した。
それを調停しに行ったのが柊と、その現場に実に近い学校、桃月学園にいたベホイミだったわけである。
ベホイミは呆れ顔で柊に言う。
そこの『強襲科(アサルト)』と『車両科(ロジ)』の人間が数人いたため闘争に応じてしまい、周囲は超能力で生まれる風とゴム弾の吹き荒れる修羅の巷と化した。
それを調停しに行ったのが柊と、その現場に実に近い学校、桃月学園にいたベホイミだったわけである。
ベホイミは呆れ顔で柊に言う。
「いやそうじゃなくて、事後処理とかそういうのの事なんスけど……」
「報告書ならノーチェが書いたぞ」
「そうなんスか……」
「報告書ならノーチェが書いたぞ」
「そうなんスか……」
何か口ごもるベホイミに、もらったスポーツドリンクの残りを口にしながら柊が尋ねた。
「―――なんか、気になることでもあんのか?」
「いえ……おかしいな、とは思ってたんスけどね。
事情聴取した分には、暴れてた『学園都市』の生徒も温厚そうな子で、なんで暴れてたのかわからないって言ってたスし」
「あぁ、そんなこと言ってたっけか。武偵高の連中もちょっと様子がおかしかったって言ってたんだって?」
「いえ……おかしいな、とは思ってたんスけどね。
事情聴取した分には、暴れてた『学園都市』の生徒も温厚そうな子で、なんで暴れてたのかわからないって言ってたスし」
「あぁ、そんなこと言ってたっけか。武偵高の連中もちょっと様子がおかしかったって言ってたんだって?」
えぇ、と言って考え込むベホイミ。
そんな彼女を見ながら、柊が声をかけた。
そんな彼女を見ながら、柊が声をかけた。
「ほら、そんな難しいこと考えてたところで答えが出るわけでもねぇだろうが。
俺もお前も頭働かすのは専門じゃねぇんだ、そういうことは頭脳労働の専門家に任せとけよ。な、初春?」
「はいっ!?
え。そんなこと言われましても、私今真剣に風紀委員の仕事しててですねー……あぁもう、なんで今日は白井さんこんなにやる気まんまんなんですかーっ!?」
俺もお前も頭働かすのは専門じゃねぇんだ、そういうことは頭脳労働の専門家に任せとけよ。な、初春?」
「はいっ!?
え。そんなこと言われましても、私今真剣に風紀委員の仕事しててですねー……あぁもう、なんで今日は白井さんこんなにやる気まんまんなんですかーっ!?」
執行委員と風紀委員の仕事を両立させているため、サポート作業が重なったりするとこんな初春が見られたりもする。
大変ッスねー、と他人事のように言うベホイミに、柊が紙皿に乗ったクッキーを勧める。
大変ッスねー、と他人事のように言うベホイミに、柊が紙皿に乗ったクッキーを勧める。
「食うか? もらいもんだけど」
「おぉ、クッキーッスか。おいしそうッスね、いただくッス」
「おぉ、クッキーッスか。おいしそうッスね、いただくッス」
抹茶色のクッキーを一つつまんで一口。
さくりと歯ざわりよく解け、口の中にバターと抹茶の風味と、程よい甘みが広がっていく。
んー、と幸せそうに笑って、彼女は尋ねる。
さくりと歯ざわりよく解け、口の中にバターと抹茶の風味と、程よい甘みが広がっていく。
んー、と幸せそうに笑って、彼女は尋ねる。
「おいしいッスー。柊さん、これどこからもらってきたんスか?」
「今朝、レベッカから。余りもんだから遠慮なく食えってさ」
「今朝、レベッカから。余りもんだから遠慮なく食えってさ」
その何気ない一言を聞いて、思い切りむせるベホイミ。
こっ……この朴念仁の唐変木~……っ!と思うベホイミであるものの、口に出せず。
……ベホイミ、苦労するな。
こっ……この朴念仁の唐変木~……っ!と思うベホイミであるものの、口に出せず。
……ベホイミ、苦労するな。
「おい、大丈夫か? お茶、お茶飲めお茶!」
「だ、だいじょーぶッスよ。えぇ。すごく大丈夫ッス。むしろ大丈夫か心配なのは柊さんの方かと……」
「なんで俺なんだよ?」
「気づいてないなら別にいいんスけどねー……で、今日来てるのは初春さんと柊さんと私と、あと誰なんです?」
「後ろに今日の予定書いてあるだろーが。
今日は相良とエリーだな。エリーは確か極悪な方の料理研究会が作ったモンスター退治に行ってる」
「相良さんは彩陵高校に設置されたっていう爆弾解除に向かってます。『偶然』の人をつけてますからなんとかなるでしょう」
「だ、だいじょーぶッスよ。えぇ。すごく大丈夫ッス。むしろ大丈夫か心配なのは柊さんの方かと……」
「なんで俺なんだよ?」
「気づいてないなら別にいいんスけどねー……で、今日来てるのは初春さんと柊さんと私と、あと誰なんです?」
「後ろに今日の予定書いてあるだろーが。
今日は相良とエリーだな。エリーは確か極悪な方の料理研究会が作ったモンスター退治に行ってる」
「相良さんは彩陵高校に設置されたっていう爆弾解除に向かってます。『偶然』の人をつけてますからなんとかなるでしょう」
初春は忙しそうにコンソールに指を滑らせ、一度たりとも画面から目線を逸らさぬままそう告げた。
ノーチェもいない状況では彼女は倍近く働かざるを得ない上、風紀委員のパートナーが今日はやけに張り切っているらしい。
忙しさは推して知るべしだ。
はぁ、と溜め息をついて、柊は頭をかきながら初春に言った。
ノーチェもいない状況では彼女は倍近く働かざるを得ない上、風紀委員のパートナーが今日はやけに張り切っているらしい。
忙しさは推して知るべしだ。
はぁ、と溜め息をついて、柊は頭をかきながら初春に言った。
「初春。今日は今やってる分終わったら『風紀委員』のとこ行っていいぞ」
「はいっ!? え、でもノーチェさんいませんし……」
「あいつは明日朝一でこっち来るって言ってたし、多少は明日回しにしても問題ないだろ。
俺から長門に明日の朝手伝ってもらえないか聞いとくし、明日が無理ならできるだけ早い内に来るように頼んどく。
お前は掛け持ちでやってんだから、こっちの手伝いが出来ない時にまで無理しなくていい。
アラームは直で0-Phone に届くようにしとくから気にすんな」
「はいっ!? え、でもノーチェさんいませんし……」
「あいつは明日朝一でこっち来るって言ってたし、多少は明日回しにしても問題ないだろ。
俺から長門に明日の朝手伝ってもらえないか聞いとくし、明日が無理ならできるだけ早い内に来るように頼んどく。
お前は掛け持ちでやってんだから、こっちの手伝いが出来ない時にまで無理しなくていい。
アラームは直で0-Phone に届くようにしとくから気にすんな」
その言葉に色々と反論しようとするものの、初春としてもその申し出は実にありがたい。
うーうー、としばらく呻いて、彼女はありがとうございます、と小さく礼の言葉を呟いた。
ベホイミがフォローするように初春に視線を向けた。
うーうー、としばらく呻いて、彼女はありがとうございます、と小さく礼の言葉を呟いた。
ベホイミがフォローするように初春に視線を向けた。
「そうそう。初春さんは掛け持ちなんスから、無理な時は無理って言った方がいいッスよ。
わたしもバイトで外す時はありますし、気にする必要はないッス」
「ありがとうございます、お二人とも……」
「困った時はお互いさまだろ。この間俺が休みもらった時は皆に頑張ってもらったしな」
「あー、あの時はやけに事件多くて大変だったんスよねー。なんだか知らないけど」
わたしもバイトで外す時はありますし、気にする必要はないッス」
「ありがとうございます、お二人とも……」
「困った時はお互いさまだろ。この間俺が休みもらった時は皆に頑張ってもらったしな」
「あー、あの時はやけに事件多くて大変だったんスよねー。なんだか知らないけど」
その裏には学園世界の敵の暗躍があったりなかったりしたのだが、あいにくとここにいる者にはその話を知る者はいない。
そうと決まれば初春も全開だ。
さらにタッチ速度が上がる。もはやピアノの演奏すら聞こえかねない。
初春の姿を微笑ましく見ながら、柊は自身の0-Phone を取り出して、2ヶ所にメールを送る。
―――内心、初春に頼らずに済むことを助かった、と思いながら。
そうと決まれば初春も全開だ。
さらにタッチ速度が上がる。もはやピアノの演奏すら聞こえかねない。
初春の姿を微笑ましく見ながら、柊は自身の0-Phone を取り出して、2ヶ所にメールを送る。
―――内心、初春に頼らずに済むことを助かった、と思いながら。
「柊さん、そのクッキーは自分で全部食べないとダメッスよー」
「ん? 食っちまっていいのか? せっかくもらったんだからみんなで食えばいいと思ってたんだが……」
「それ、執行委員の人たち宛に渡されたわけじゃないんでしょう? だったら、私も柊さんが食べないと駄目だと思います」
「そーゆーもんなのか?」
「そういうもんッス」
「えぇ、そういうものです」
「ん? 食っちまっていいのか? せっかくもらったんだからみんなで食えばいいと思ってたんだが……」
「それ、執行委員の人たち宛に渡されたわけじゃないんでしょう? だったら、私も柊さんが食べないと駄目だと思います」
「そーゆーもんなのか?」
「そういうもんッス」
「えぇ、そういうものです」
このお馬鹿、鈍感につき。
***
午後7時過ぎ。
学園世界内に存在する、『錘馗』というお好み焼き屋。
テーブル席の一番奥に座るのは、この店の常連にして『はいいろのぐんし』というあだ名がつきそうな感じの『恋愛探偵』氷室 鐘。
そしてその隣の席にいるのは、ショートカットの無表情な少女。隙の無さから『レディ・パーフェクト』とか言われてる長門 有希。
その向かいに鉄板のはめ込まれたテーブルを挟んだ柊が座るという、なんとも不思議な空間があった。
二人をメールで呼び出した柊は、揃ったのを確認すると適当に何か頼んでくれ、と二人に言う。
長門と氷室がそれぞれ頷き、めいめい自分のお好み焼きを頼んだ後、氷室が話を切り出した。
学園世界内に存在する、『錘馗』というお好み焼き屋。
テーブル席の一番奥に座るのは、この店の常連にして『はいいろのぐんし』というあだ名がつきそうな感じの『恋愛探偵』氷室 鐘。
そしてその隣の席にいるのは、ショートカットの無表情な少女。隙の無さから『レディ・パーフェクト』とか言われてる長門 有希。
その向かいに鉄板のはめ込まれたテーブルを挟んだ柊が座るという、なんとも不思議な空間があった。
二人をメールで呼び出した柊は、揃ったのを確認すると適当に何か頼んでくれ、と二人に言う。
長門と氷室がそれぞれ頷き、めいめい自分のお好み焼きを頼んだ後、氷室が話を切り出した。
「さて、頼んだものが来るまでに話をしようか。
有希嬢は手土産を持ってきているようだからな、先に話をしたほうがよいのではないか?」
有希嬢は手土産を持ってきているようだからな、先に話をしたほうがよいのではないか?」
そう勧めると、長門はこくりと頷いて鞄からごそごそと書類用封筒を取り出す。
「依頼された調査の報告書」
「ありがとうな……って、長門。これ、何枚くらいあるんだ?」
「詳細説明に5枚、各種グラフによる解析書が2枚、報告が12枚、計19枚」
「ありがとうな……って、長門。これ、何枚くらいあるんだ?」
「詳細説明に5枚、各種グラフによる解析書が2枚、報告が12枚、計19枚」
淡々と答える長門に、苦い表情をする柊。
もともと頭のいい方ではないのだ。これを読めと言われると少しためらう。
そんな表情に気がついているのかいないのか、長門が新たに鞄から取り出した紙を1枚ずつ氷室と柊に渡すと、言った。
もともと頭のいい方ではないのだ。これを読めと言われると少しためらう。
そんな表情に気がついているのかいないのか、長門が新たに鞄から取り出した紙を1枚ずつ氷室と柊に渡すと、言った。
「その報告書は上層部への提出用。あなたが中を見るものではない」
「……もしかして、提出用の書類もう作ってくれてたのか?」
「その封筒内の書類内容は事件の概要説明部分のみ。
これからあなたが対処する、その対応内容報告部分は未作成。それ以降の部分のみならばどの人間が書くことも可能」
「おぉぉ、サンキュー長門。すげーな本当に」
「……もしかして、提出用の書類もう作ってくれてたのか?」
「その封筒内の書類内容は事件の概要説明部分のみ。
これからあなたが対処する、その対応内容報告部分は未作成。それ以降の部分のみならばどの人間が書くことも可能」
「おぉぉ、サンキュー長門。すげーな本当に」
そう言われても、長門は無表情のまま。
その代わり、キッチンの中をちらりちらりと横目で見る。意外とお好み焼きに興味津々なのかも知れない。
氷室が言葉を次いだ。
その代わり、キッチンの中をちらりちらりと横目で見る。意外とお好み焼きに興味津々なのかも知れない。
氷室が言葉を次いだ。
「それで。これが今回の実態ということなわけか」
「そう。彼が昨夜集めたという情報と、今日磯野第八中学前で拾ったという物品を調査して判明した事実。
収集された欠片と、最近この世界内で起きている事象から分析・類推を重ねて確認をとった結果。
「そう。彼が昨夜集めたという情報と、今日磯野第八中学前で拾ったという物品を調査して判明した事実。
収集された欠片と、最近この世界内で起きている事象から分析・類推を重ねて確認をとった結果。
―――本件を、『世界の危機』規模の事態と判断する」
長門の言葉に、3人に沈黙が降りる。
近くのテーブルから聞こえる鉄板の音が、うるさいくらいの沈黙。
沈黙を破ったのは、淡々と状況を報告する長門だ。
近くのテーブルから聞こえる鉄板の音が、うるさいくらいの沈黙。
沈黙を破ったのは、淡々と状況を報告する長門だ。
「収集した物品に含まれている機能は二つ。
一つが『世界』に偏在する存在力―――ウィザードの言葉で言うところの『プラーナ』と呼ばれる力の接触供給作用。
ただし、その機能はごく微弱。例え特殊な能力を持たない存在が日常的に1000回を超える接触行動を行っても、存在に影響は無い程度。
そしてもう一つが『命令語句(コマンドワード)』の機能」
一つが『世界』に偏在する存在力―――ウィザードの言葉で言うところの『プラーナ』と呼ばれる力の接触供給作用。
ただし、その機能はごく微弱。例え特殊な能力を持たない存在が日常的に1000回を超える接触行動を行っても、存在に影響は無い程度。
そしてもう一つが『命令語句(コマンドワード)』の機能」
柊と氷室は配られた紙に目を落としている。事態の厄介さをかみ締めるように。
長門は、やはり変わらぬテンポで続けた。
長門は、やはり変わらぬテンポで続けた。
「物品一つ一つに、意思を込めて一つの『命令語句』を仕込んである。
恐らくは、一種類に付き一つ。数多くの『命令語句』を作っておくことによって、組み合わせを容易にしたものと思われる」
「……つまりは、一種類に一つ言葉が仕込まれていると思えばいいわけだな?
『りんご』という語を作るために、『り』と『ん』と『ご』という言葉が存在すればそう見えるように」
「そう。
そして、問題は仕込まれている『命令語句』が解析の結果魔法的な情報波形を示したということ」
「つまり。『りんご』って文字を意図的に完成させただけで、本当に何もないとこからリンゴが出ちまう可能性があるってことか」
恐らくは、一種類に付き一つ。数多くの『命令語句』を作っておくことによって、組み合わせを容易にしたものと思われる」
「……つまりは、一種類に一つ言葉が仕込まれていると思えばいいわけだな?
『りんご』という語を作るために、『り』と『ん』と『ご』という言葉が存在すればそう見えるように」
「そう。
そして、問題は仕込まれている『命令語句』が解析の結果魔法的な情報波形を示したということ」
「つまり。『りんご』って文字を意図的に完成させただけで、本当に何もないとこからリンゴが出ちまう可能性があるってことか」
柊の問いに、長門がこくりと頷く。
「それほど単純な現象が現出するかは不明。
けれど、魔法的な意味のある『言語』を完成させた場合、世界中に撒かれた物品の同時励起による増幅力は、『世界の敵』と言っても過言ではない」
「けど、さっき聞いた話じゃ『例のもの』一個に対して力はごく弱いもんなんだろ?
魔法使いがこれだけいる世界の中で、そいつらに気づかれないほどごく弱い力なんだ。
たぶん相手もそれ狙いなんだろうが……そんな小さな力しか持たないもんが影響しあって力を発揮したところで、それほどの危険なもんなのか?」
けれど、魔法的な意味のある『言語』を完成させた場合、世界中に撒かれた物品の同時励起による増幅力は、『世界の敵』と言っても過言ではない」
「けど、さっき聞いた話じゃ『例のもの』一個に対して力はごく弱いもんなんだろ?
魔法使いがこれだけいる世界の中で、そいつらに気づかれないほどごく弱い力なんだ。
たぶん相手もそれ狙いなんだろうが……そんな小さな力しか持たないもんが影響しあって力を発揮したところで、それほどの危険なもんなのか?」
さらなるその問いに、肩をすくめたのは氷室だ。
「やれやれ。柊、汝は興味のないことには本当に疎いな。だから頭が悪いだのなんだのと言われるのだ」
「お前に言われるようなことをした覚えはねぇよっ!?」
「現在進行形でしているが。
というか、汝の場合は一般的な意味で『頭が悪い』というよりは『自然に入るはずの情報に対して無関心』と言った方が正しいのかもしれんな」
「なんでお前は俺の人格分析してんだよっ!?」
「クセだ。気にするな」
「お前に言われるようなことをした覚えはねぇよっ!?」
「現在進行形でしているが。
というか、汝の場合は一般的な意味で『頭が悪い』というよりは『自然に入るはずの情報に対して無関心』と言った方が正しいのかもしれんな」
「なんでお前は俺の人格分析してんだよっ!?」
「クセだ。気にするな」
氷室、いつの間にか羽扇『宝具・支配の王扇』を口元に当ててご満悦。
人間観察大好きっ娘、全開中である。
彼女はともあれ、と言うと長門に同意を求めるように視線を流しながら言う。
人間観察大好きっ娘、全開中である。
彼女はともあれ、と言うと長門に同意を求めるように視線を流しながら言う。
「この世界での『例のもの』の広まり方を知らんらしい。なぁ、有希嬢?」
「―――現時点で、約9371万5600。それが、世界に撒かれた『物品』のおおよその数」
「9000万っ!? なんだそりゃ、なんでそんなに広まってるんだっ!?」
「学生というのは新しいものに敏感だからな。また、一度友人が持っているのを見れば欲しくなる心理もあって広まるのは早かろう。
……さすがにもうすぐ1億、というのは私も意外だったが、『例のもの』は1つだけ持っていてもなんの意味もない代物だしな」
「数は日毎に増加する。対処に時間がかかれば、その分だけ不利になるのは明白」
「―――現時点で、約9371万5600。それが、世界に撒かれた『物品』のおおよその数」
「9000万っ!? なんだそりゃ、なんでそんなに広まってるんだっ!?」
「学生というのは新しいものに敏感だからな。また、一度友人が持っているのを見れば欲しくなる心理もあって広まるのは早かろう。
……さすがにもうすぐ1億、というのは私も意外だったが、『例のもの』は1つだけ持っていてもなんの意味もない代物だしな」
「数は日毎に増加する。対処に時間がかかれば、その分だけ不利になるのは明白」
長門の淡々としているがゆえに虚飾の入らない重い言葉に、柊はあぁ、と頷いて氷室を向いた。
「お前の方はどうだ、氷室」
「頼まれたものか。
『目標』だが―――もともと大人しかったが、周囲と会話はあったらしいんだがな。
最近は授業が終わるとまっすぐ帰宅するらしい。友人付き合いもご無沙汰だということだ。
『学園世界』に来たことで、多少ストレスがかかっているのではないかと友人達は語っていたがな」
「『憑かれた』ってことか。紅い月が昇ってる以上、こっちの世界のエミュレイターが関わってんのは想像ついたが……厄介だな、おい」
「頼まれたものか。
『目標』だが―――もともと大人しかったが、周囲と会話はあったらしいんだがな。
最近は授業が終わるとまっすぐ帰宅するらしい。友人付き合いもご無沙汰だということだ。
『学園世界』に来たことで、多少ストレスがかかっているのではないかと友人達は語っていたがな」
「『憑かれた』ってことか。紅い月が昇ってる以上、こっちの世界のエミュレイターが関わってんのは想像ついたが……厄介だな、おい」
『憑かれし者』と呼ばれる状態がある。
侵魔はもともと人の心に取り憑く精神生命体。それらが人間に取り憑いた状態のことを指す言葉が『憑かれし者』だ。
そうやって憑かれた人間は死なない程度に痛めつけて侵魔を追い出すか、憑かれた人間自身の意思で侵魔を追い出すかしなければ侵魔のみを倒すことができないのだ。
柊も一般人に刃を振るう真似はしたくない。
が、今回の『目標』と知人でもない以上は相手を鼓舞して侵魔を追い出させるのは難しいだろう。
どうするかな、と覚悟を決めかけた彼に、呆れたように氷室が声をかけた。
侵魔はもともと人の心に取り憑く精神生命体。それらが人間に取り憑いた状態のことを指す言葉が『憑かれし者』だ。
そうやって憑かれた人間は死なない程度に痛めつけて侵魔を追い出すか、憑かれた人間自身の意思で侵魔を追い出すかしなければ侵魔のみを倒すことができないのだ。
柊も一般人に刃を振るう真似はしたくない。
が、今回の『目標』と知人でもない以上は相手を鼓舞して侵魔を追い出させるのは難しいだろう。
どうするかな、と覚悟を決めかけた彼に、呆れたように氷室が声をかけた。
「……汝は、覚悟完了が早すぎやしないかね。人の話はもう少しよく聞くものだ」
「あん? なんだよ、なんかいい方法でもあるってのか?」
「だから、人の話は聞くものだと言っている。
私なりに調査の際『目標』の近くまで行っていてな、有希嬢の話で確信が持てた。これが何か知っているかね?」
「あん? なんだよ、なんかいい方法でもあるってのか?」
「だから、人の話は聞くものだと言っている。
私なりに調査の際『目標』の近くまで行っていてな、有希嬢の話で確信が持てた。これが何か知っているかね?」
そう言って彼女が取り出すのは、いくつかの数字が表示される計器。
なんだこりゃ、という表情の柊に対し、長門はじーっとその計器を見て、答えた。
なんだこりゃ、という表情の柊に対し、長門はじーっとその計器を見て、答えた。
「―――『開発部』製『可能性力検知器』」
「その通り。『意思によって選択することができるものは、すべからく可能性を変動させられる』という思想のもと設計されたものだ。
可能性を変動させる力―――柊の世界の言葉に直すのなら、『プラーナ』の計測装置といったところか。
物理的な力や魔法の力もそうだが、最も大きな可能性変動を起こすのは意思の力というやつか。人間の持つ最弱にして最強の力だ。
それらを含めて、『可能性』―――世界に変動を起こすための力を計測するものだ」
「その通り。『意思によって選択することができるものは、すべからく可能性を変動させられる』という思想のもと設計されたものだ。
可能性を変動させる力―――柊の世界の言葉に直すのなら、『プラーナ』の計測装置といったところか。
物理的な力や魔法の力もそうだが、最も大きな可能性変動を起こすのは意思の力というやつか。人間の持つ最弱にして最強の力だ。
それらを含めて、『可能性』―――世界に変動を起こすための力を計測するものだ」
満足げに言った氷室に、柊はいぶかしげにたずねる。
「それがなんだってんだよ?」
「……汝、空腹で頭が回っていないのか? よーしわかった。そんな汝のために『世紀末覇者焼き』一丁―――!」
「頼んでねぇっ!? つーかなんだそのやけに相手すると死にそうな感じのメニューっ!?」
「一食即解(食えばわかる)。
まぁ、世紀末覇者焼きのことは置いておいて、頭の回っていない汝にもわかるように説明するとだな。
世界中から9000万もの端末を用いてプラーナを集めている相手に対し、プラーナの計測装置が大きな反応を示さないなんてことがあると思うのかね?」
「……汝、空腹で頭が回っていないのか? よーしわかった。そんな汝のために『世紀末覇者焼き』一丁―――!」
「頼んでねぇっ!? つーかなんだそのやけに相手すると死にそうな感じのメニューっ!?」
「一食即解(食えばわかる)。
まぁ、世紀末覇者焼きのことは置いておいて、頭の回っていない汝にもわかるように説明するとだな。
世界中から9000万もの端末を用いてプラーナを集めている相手に対し、プラーナの計測装置が大きな反応を示さないなんてことがあると思うのかね?」
あ。と今気づいたような柊。
一つ一つはごく微量と言っても、その数が9000万ともなれば今相手の元に集うプラーナの量は『世界の敵』になるに相応しい量のはずだ。
となれば、その相手にプラーナの反応がないはずがないのである。
長門がそれを受けて答える。
一つ一つはごく微量と言っても、その数が9000万ともなれば今相手の元に集うプラーナの量は『世界の敵』になるに相応しい量のはずだ。
となれば、その相手にプラーナの反応がないはずがないのである。
長門がそれを受けて答える。
「以上を鑑みると『目標』は端末である可能性が高いと判断する。
『本体』は『目標』に常時触れることが可能であり、また『物品』の命令語句を組み替えることが可能とするため『物品』に触れることが可能であるもの」
「要は、魔法使ったりプラーナ使ったりして能力を使用してる時に、『そいつ』が触ってるものが『本体』ってわけだ。
直接取り憑いてるわけじゃない以上、『本体』を潰せばそれで終了、と。
そりゃいいな―――わかりやすくていい」
『本体』は『目標』に常時触れることが可能であり、また『物品』の命令語句を組み替えることが可能とするため『物品』に触れることが可能であるもの」
「要は、魔法使ったりプラーナ使ったりして能力を使用してる時に、『そいつ』が触ってるものが『本体』ってわけだ。
直接取り憑いてるわけじゃない以上、『本体』を潰せばそれで終了、と。
そりゃいいな―――わかりやすくていい」
ようやく不敵に笑った柊を見て、やれやれと氷室が肩を竦めて長門は変わらず無表情のまま。
そんな彼女たちに、柊が助かったぜ、と言いながらようやくきたお好み焼きを勧める。
そんな彼女たちに、柊が助かったぜ、と言いながらようやくきたお好み焼きを勧める。
「ほら、食え食え。情報量みてーなもんだ」
「……いただきます」
「ここには口止め料も混じっているような気がするが……まぁいいだろう。
今回の仕事量と口止め料に関しては食事代では少なすぎる気がするのでね。一つだけ私の聞きたいことに答えてはもらえないか」
「別に構わねぇけど。なんだよ、俺のこと物知らずだっつったのお前だろ」
「……いただきます」
「ここには口止め料も混じっているような気がするが……まぁいいだろう。
今回の仕事量と口止め料に関しては食事代では少なすぎる気がするのでね。一つだけ私の聞きたいことに答えてはもらえないか」
「別に構わねぇけど。なんだよ、俺のこと物知らずだっつったのお前だろ」
少し眉を寄せて言う柊。彼にも『この女には気をつけろ』という内心の警鐘があるようだ。
当然と言えば当然だろう。彼も彼女のような女性相手に何度も煮え湯を飲まされた経験があるのだ。
そんな彼の視線にも、氷室はハハハハと笑いながら口元を羽扇で隠す。
当然と言えば当然だろう。彼も彼女のような女性相手に何度も煮え湯を飲まされた経験があるのだ。
そんな彼の視線にも、氷室はハハハハと笑いながら口元を羽扇で隠す。
「いやいや、意外とかわいいところがあるのだな、汝も。
聞きたいことは簡単だ。執行委員がいるのに、なぜわざわざ私と有希嬢に協力を求めたのか、と思ってな。
有希嬢は準執行委員のような立場だからともかく、私の方は執行委員とは何の関係もない。
それでも私に話を振ったのは、何故かね? 執行委員に話を持ちかけた方が楽だろうに」
聞きたいことは簡単だ。執行委員がいるのに、なぜわざわざ私と有希嬢に協力を求めたのか、と思ってな。
有希嬢は準執行委員のような立場だからともかく、私の方は執行委員とは何の関係もない。
それでも私に話を振ったのは、何故かね? 執行委員に話を持ちかけた方が楽だろうに」
じゅうじゅう、と小麦粉で溶いた生地が熱された油に焼かれる音とにおいが、沈黙の隙間を埋める。
構わないと言った以上、柊にはその追求から逃れる術はない。困ったように頭をかいた。
構わないと言った以上、柊にはその追求から逃れる術はない。困ったように頭をかいた。
「……最初に、長門に渡したもん拾った時に、すっげーイヤな予感したんだよ。
まるでこれまで魔王連中相手にする事件に関わることになった時みてーな、なんとも言いようがないようなイヤな感じ。
警告もされてたが、放っとくわけにもいかねぇし。初春あたりに言うとすげー心配するし。それに―――」
「それに?」
「―――約束してたからな。『世界の危機』が近くで起きてる時は、勝手に対処するって」
まるでこれまで魔王連中相手にする事件に関わることになった時みてーな、なんとも言いようがないようなイヤな感じ。
警告もされてたが、放っとくわけにもいかねぇし。初春あたりに言うとすげー心配するし。それに―――」
「それに?」
「―――約束してたからな。『世界の危機』が近くで起きてる時は、勝手に対処するって」
その言葉に、ふ、と笑って。
氷室は告げた。
氷室は告げた。
「いいだろう、納得しよう。
柊。しかし汝は本当に馬鹿者だな。とびきりだ。衛宮といい勝負かもしれん」
「うっせぇ―――ほら、焦げるぞ。さっさと食え!」
「はっはっは。では有希嬢、おいしくいただくとするか」
「遠慮なく」
柊。しかし汝は本当に馬鹿者だな。とびきりだ。衛宮といい勝負かもしれん」
「うっせぇ―――ほら、焦げるぞ。さっさと食え!」
「はっはっは。では有希嬢、おいしくいただくとするか」
「遠慮なく」
その後。
『世紀末覇者焼き』こと別名『聖帝十字量』!! ふざけた時代を提供する熱と量の名物料理!
そのボリュームは明日を見失うほど! 思わず微笑み忘れた顔になるというヒャッハー!水だー!的料理!
……とまぁ、そんな感じの名物料理が出てきて柊が果敢に挑んだりするのだが―――そこは、割愛させていただく。
『世紀末覇者焼き』こと別名『聖帝十字量』!! ふざけた時代を提供する熱と量の名物料理!
そのボリュームは明日を見失うほど! 思わず微笑み忘れた顔になるというヒャッハー!水だー!的料理!
……とまぁ、そんな感じの名物料理が出てきて柊が果敢に挑んだりするのだが―――そこは、割愛させていただく。