おまけ
北高。
元文芸部こと現SOS団の部室。今日も俺はそこにいる。
まあ、ある意味それも当然だ。俺は数少ないここのヒラ団員であり、溜まり場に足を運ぶという日常を繰り返すのも楽しいと言えば楽しい。
とはいえ、ハルヒの奴はこの間団内で行った『不思議写真コンテスト』で、一人あまりに不思議度の少ない写真を撮ってしまったことが納得いかなかったらしい。
一番インパクトある写真をとってきた古泉を連れ、
まあ、ある意味それも当然だ。俺は数少ないここのヒラ団員であり、溜まり場に足を運ぶという日常を繰り返すのも楽しいと言えば楽しい。
とはいえ、ハルヒの奴はこの間団内で行った『不思議写真コンテスト』で、一人あまりに不思議度の少ない写真を撮ってしまったことが納得いかなかったらしい。
一番インパクトある写真をとってきた古泉を連れ、
「見てなさいよキョン! アンタが驚きすぎてホントに心臓止まった上に飛び上がって天井ぶち抜いちゃう写真撮ってきてやるんだから!」
とのたまって外に行ってしまったので、俺は大人しく待機しているのだ。
もしもそんな写真で心臓が止まったら末代までの恥だが、何を起こすかわからない奴なので、万が一があったらちゃんと病院に連れて行ってくれることを祈る。
もしもそんな写真で心臓が止まったら末代までの恥だが、何を起こすかわからない奴なので、万が一があったらちゃんと病院に連れて行ってくれることを祈る。
今日は長門が執行部室に行ってしまっている。
そのため、部室には俺、群田さん、そして―――
そのため、部室には俺、群田さん、そして―――
「キョンくん、今日は凍頂烏龍ですっ」
いつにもましてご機嫌な様子の朝比奈さんがいるのだった。
手に入れるのが難しい上、おいしく淹れるのが難しい(らしい)発酵の独特な中国紅茶を手ずから出してくれる美少女を見て心和まないわけがない。
俺は朝比奈さんの出してくれたありがたくて涙が出そうな紅茶に幸せな気分になりながら、『こちら』に来てから指で数え切れるくらい珍しい平穏な気分で尋ねた。
手に入れるのが難しい上、おいしく淹れるのが難しい(らしい)発酵の独特な中国紅茶を手ずから出してくれる美少女を見て心和まないわけがない。
俺は朝比奈さんの出してくれたありがたくて涙が出そうな紅茶に幸せな気分になりながら、『こちら』に来てから指で数え切れるくらい珍しい平穏な気分で尋ねた。
「朝比奈さん、今日はやけにご機嫌ですね。なにかいいことでもありましたか」
たとえば四葉のクローバーを見つけたとか、と思わず言ってしまいそうなほど平穏な気分ではあったものの、そこまでいくと古泉とほとんど変わらない気がして飲み込む。
古泉2号になる趣味は俺にはないからな。
そんな俺の言葉に、はいっ、とまぶしい笑顔をこちらに向けてくれる朝比奈さん。
彼女は純白のヒラヒラしたエプロンドレスに申し訳程度についているポケットに手を入れ、定期入れのようなものを取り出して見せてくれる。
古泉2号になる趣味は俺にはないからな。
そんな俺の言葉に、はいっ、とまぶしい笑顔をこちらに向けてくれる朝比奈さん。
彼女は純白のヒラヒラしたエプロンドレスに申し訳程度についているポケットに手を入れ、定期入れのようなものを取り出して見せてくれる。
「いい定期入れですね。どこで手に入れたんです?」
「あ。この間バザールに行ったら、『元の材質が何かよくわからないものだから500円でいいよ』ってエルクレストの学生さんが売ってくださったんですー」
「あ。この間バザールに行ったら、『元の材質が何かよくわからないものだから500円でいいよ』ってエルクレストの学生さんが売ってくださったんですー」
何かあったらどうするんですか、そんな怪しいものに手を出さないでください。そんなことしてるといずれ通販番組にだまされたりしますよ。
いや、朝比奈さんならもうだまされてそうだけど。
普段ならばそこで会話が終わっているはずだが、今回は発言頻度が長門よりは少しマシ程度にあまり自分から喋ってくれない群田さんが、珍しくその会話に割り込んだ。
いつものようにアルカイックな笑顔を浮かべたまま、彼女は読んでいる分厚い本から少し目線を上げた。
いや、朝比奈さんならもうだまされてそうだけど。
普段ならばそこで会話が終わっているはずだが、今回は発言頻度が長門よりは少しマシ程度にあまり自分から喋ってくれない群田さんが、珍しくその会話に割り込んだ。
いつものようにアルカイックな笑顔を浮かべたまま、彼女は読んでいる分厚い本から少し目線を上げた。
「……別に、みくるは新しい定期入れを見せたかったわけではないと思いますよ?」
そうなんですか朝比奈さん?
「あ、はいそうです。
実はこっち、中の方を見てくださいっ」
実はこっち、中の方を見てくださいっ」
そう言って、怪しい革の定期に入った中身を渡してくる。その仕種に癒された俺は渡されたそれを見て、絶句。
『学従連発行 メイドⅡ種免許証』
俺の目が高性能なガラス球にでもなってない限りは、そこにはそう書いてあるように見えた。
口にするべき言葉が見当たらない状態の俺を放ったままで、群田さんは朝比奈さんに祝福の言葉を送る。
『学従連発行 メイドⅡ種免許証』
俺の目が高性能なガラス球にでもなってない限りは、そこにはそう書いてあるように見えた。
口にするべき言葉が見当たらない状態の俺を放ったままで、群田さんは朝比奈さんに祝福の言葉を送る。
「……おめでとう、みくる。学従連―――学園世界従者連盟が実施している従者技能検定資格試験、とうとう免許を得たのですね」
「はい、ありがとうございます群田さん! 前2回は落ちてしまいましたが、三度目の正直です!」
「はい、ありがとうございます群田さん! 前2回は落ちてしまいましたが、三度目の正直です!」
三回も挑戦してたんですか。
そんな俺の至極真っ当な問いかけに、朝日奈さんは笑顔で答えてくれた。
そんな俺の至極真っ当な問いかけに、朝日奈さんは笑顔で答えてくれた。
「そうなんです。あたしは学従連の講座を受けてて、第1回試験から受けさせてもらってたんですけど、なかなか難しくて」
「……目を丸くしているあなたのために、聞かれてはいませんが説明をしましょう。
『学園世界従者連盟』と呼ばれる組織は、学園世界中の主に仕えるべき『従者』たちのつながりのことです。
『学園都市』のメイド専門学校関係者、白皇学園の執事生徒、トリステインやヴィルアセム帝国帝立第13軍学校の貴族の子弟に用意された従者達が主に所属しています。
学従連はそんな彼らが自らの主人のために自分達の技術向上、またこの世界における状況の把握のために設立された組織ですが、
最近はそれ以外にも、他の学校の人間の中で従者の心得を学びたいというものたちのため、様々な講座を行い、また月に一度『従者試験』を行っているのです」
「『従者試験』には、『執事試験』・『メイドⅠ種試験』・『メイドⅡ種試験』があって、あたしは3回目でようやく『メイドⅡ種』をとったんですよー」
「……目を丸くしているあなたのために、聞かれてはいませんが説明をしましょう。
『学園世界従者連盟』と呼ばれる組織は、学園世界中の主に仕えるべき『従者』たちのつながりのことです。
『学園都市』のメイド専門学校関係者、白皇学園の執事生徒、トリステインやヴィルアセム帝国帝立第13軍学校の貴族の子弟に用意された従者達が主に所属しています。
学従連はそんな彼らが自らの主人のために自分達の技術向上、またこの世界における状況の把握のために設立された組織ですが、
最近はそれ以外にも、他の学校の人間の中で従者の心得を学びたいというものたちのため、様々な講座を行い、また月に一度『従者試験』を行っているのです」
「『従者試験』には、『執事試験』・『メイドⅠ種試験』・『メイドⅡ種試験』があって、あたしは3回目でようやく『メイドⅡ種』をとったんですよー」
頭が痛い。『こちら』―――『学園世界』なんて呼ばれてるふざけた場所に来てから、俺は自分の常識をことごとくぶち壊されている気がする。実際その通りなんだが。
もともと限定的超能力者に、意識しないとそう見えない未来人、無口な万能宇宙人、ミステリアスな異世界人と、よくわからん存在とごく普通の日常を過ごしていた俺。
だが、その日常そのものがひっくり返るという事態を目にしてしまってから、我らが団長に暴走エンジンがかかってしまった。
異常にもすぐ慣れてしまえば、ルーチンワーク=ハルヒのストレスという図式が成立してしまうのだが、なんというかこの場所は退屈からは実に無縁だ。
何が起こるかわからない爆弾がそこかしこに仕掛けられていると言い換えてもいいかもしれない。
毎日自分達と同じ年頃の少年少女たちがとんでもない騒ぎを起こして、いつそのとんでもない騒ぎに巻き込まれるかもわからない状態。
しかしそれでも自分の周りくらいは変化のない日常を送ってくれているかと思っていたのだが―――ちょっと想定が甘かったようだ。
もともと限定的超能力者に、意識しないとそう見えない未来人、無口な万能宇宙人、ミステリアスな異世界人と、よくわからん存在とごく普通の日常を過ごしていた俺。
だが、その日常そのものがひっくり返るという事態を目にしてしまってから、我らが団長に暴走エンジンがかかってしまった。
異常にもすぐ慣れてしまえば、ルーチンワーク=ハルヒのストレスという図式が成立してしまうのだが、なんというかこの場所は退屈からは実に無縁だ。
何が起こるかわからない爆弾がそこかしこに仕掛けられていると言い換えてもいいかもしれない。
毎日自分達と同じ年頃の少年少女たちがとんでもない騒ぎを起こして、いつそのとんでもない騒ぎに巻き込まれるかもわからない状態。
しかしそれでも自分の周りくらいは変化のない日常を送ってくれているかと思っていたのだが―――ちょっと想定が甘かったようだ。
しかし、頭が痛いのはあくまで俺の都合であって、朝比奈さんには何の関係もない。
話を聞く限り、その試験を通るのにもの凄い努力をしたのだろう。それは素直に祝福してしかるべきだ。うん、俺も強くなったもんだ。毎日団長にしごかれてるからな。
「頑張ったんですね、朝日奈さん」
「がんばっちゃいました。これでみなさんにもっとおいしい紅茶を飲んでもらえます」
話を聞く限り、その試験を通るのにもの凄い努力をしたのだろう。それは素直に祝福してしかるべきだ。うん、俺も強くなったもんだ。毎日団長にしごかれてるからな。
「頑張ったんですね、朝日奈さん」
「がんばっちゃいました。これでみなさんにもっとおいしい紅茶を飲んでもらえます」
紅茶淹れるだけなら紅茶職人のところにでも行った方がいいんじゃないだろうか。
そんな野暮なことはもちろん朝比奈さんには言わず、素直に疑問に思ったことを伝える。
そんな野暮なことはもちろん朝比奈さんには言わず、素直に疑問に思ったことを伝える。
「そういえば、執事試験は一種類なのにメイド試験にはⅠ種とⅡ種があるのはなんでなんですか?」
「執事さんはもともとご主人様の影となって執務をこなし、剣となり盾となることもいとわない方しかなれないんです。
その点、メイドさんはご主人様のお世話と執務のお手伝いをこなせる人と、執事さんと同じようにご主人様を守ることまで出来る人の2種類がいるんですよ」
「執事さんはもともとご主人様の影となって執務をこなし、剣となり盾となることもいとわない方しかなれないんです。
その点、メイドさんはご主人様のお世話と執務のお手伝いをこなせる人と、執事さんと同じようにご主人様を守ることまで出来る人の2種類がいるんですよ」
つまり、武装メイドにはⅠ種試験を合格しないとなれないということだろうか。
朝日奈さんがⅠ種試験にまで手を出そうと思わないことを祈るばかりである。これ以上俺の日常を侵害されるのは心外だ。
偶発的にビームが出たことはあっても、自分からベレッタが使えるようになったり毒の調合のできるようになったりした朝比奈さんは見たくない。
そんな殺人メイド朝比奈さん未来予想図を想像し、思わずため息をつきたくなる俺の心情も理解していただきたい。
朝日奈さんがⅠ種試験にまで手を出そうと思わないことを祈るばかりである。これ以上俺の日常を侵害されるのは心外だ。
偶発的にビームが出たことはあっても、自分からベレッタが使えるようになったり毒の調合のできるようになったりした朝比奈さんは見たくない。
そんな殺人メイド朝比奈さん未来予想図を想像し、思わずため息をつきたくなる俺の心情も理解していただきたい。
この場所にいる限り俺の心労は雪だるま式に増えていくような気がする。
けど、この場所にいることで見られるものも結構あったりするのだ。
それは、もとの学校じゃ見られないくらいの超新星が爆発したみたいなハルヒの生き生きした笑い顔とか。
こんな感じでハルヒが関わっていないことに関して自分から挑戦していこうとする朝比奈さんの一生懸命な姿とか。
他の組織からの襲撃がなくなったことで余裕ができたのか、ハルヒを護衛しながら自分の行きたいところに誘導するようになった古泉とか。
執行部室に向かうことをなぜか毎回俺に宣言してから行く長門の背中に、冗談で行ってらっしゃい、と言った時に聞こえた『行ってきます』って言葉とか。
そんなアウトドア派になっていく奴らをよそに、いつもと変わらず本を読みながらここで待っててくれる群田さんとか。
何よりも、そんな仲間たちを見ていて素直に嬉しいと思える俺もいたりすることとか。
けど、この場所にいることで見られるものも結構あったりするのだ。
それは、もとの学校じゃ見られないくらいの超新星が爆発したみたいなハルヒの生き生きした笑い顔とか。
こんな感じでハルヒが関わっていないことに関して自分から挑戦していこうとする朝比奈さんの一生懸命な姿とか。
他の組織からの襲撃がなくなったことで余裕ができたのか、ハルヒを護衛しながら自分の行きたいところに誘導するようになった古泉とか。
執行部室に向かうことをなぜか毎回俺に宣言してから行く長門の背中に、冗談で行ってらっしゃい、と言った時に聞こえた『行ってきます』って言葉とか。
そんなアウトドア派になっていく奴らをよそに、いつもと変わらず本を読みながらここで待っててくれる群田さんとか。
何よりも、そんな仲間たちを見ていて素直に嬉しいと思える俺もいたりすることとか。
百害ばかりが顔を出すこんな場所にいながら、そんなことがちょっと悪くないと思えたりすることが何よりも。
―――やれやれ、ってやつだ。
―――やれやれ、ってやつだ。
fin.