狩猟に関わるカムイ
狩猟・採集民族であった
アイヌにとって、狩猟に関わる
カムイたちは非常に重要な
カムイであった。
狩猟を司る
カムイは女性であり、顕現体はカケスやフクロウに似た鳥の姿をしていると考えられている。アイヌ名を
ハシナウコロカムイ「Hasinau(枝幣)kor(領有する)kamui(カムイ)、
ハシナウウッカムイ「Hasinau(枝幣)uk(受け取る)kamui(カムイ)」
イソサンケマッ「Iso(獲物)sanke(下す)mat(淑女)」という。
ハシナウとは「Has(枝)inau(木幣)」の意であり、鳥である狩猟の
カムイのために横枝をつけたまま削られた
木幣である。
狩猟の
カムイは、人間に獲物を授けるのみならず、人間と鹿主の
カムイや魚主の
カムイとの仲介役でもあった。
ほとんどの生物に神性を見出した
アイヌであるが、エゾシカとサケ(及び川魚類)は、あまりに多く獲れるためか一匹一匹を
カムイと考えることはほとんどしなかった。その代わり、それらを増やしたり地上に遣わしたりする存在があると考えられた。それが鹿主の
カムイと魚主の
カムイである。
鹿主の
カムイは
ユッコロカムイ「Yuk(鹿)kor(つかさどる)kamui(カムイ)」
ユカッテカムイ「Yuk(鹿)atte(増やす)kamui(カムイ)」といい、魚主のカムイは
チェプコロカムイ「Chep(魚)kor(司る)kamui(カムイ)」
チェパッテカムイ「Chep(魚)atte(増やす)kamui(カムイ)」という。
これらの
カムイはシカや魚を蔵や袋の中で増やし、
アイヌに食料として遣わすのである。だが、たくさん取れるからといってシカや魚を粗末に扱ったりすると、怒って地上に送るのをやめてしまったりする。怒ってしまったこれらのカムイを、狩猟のカムイや
水のカムイ、
オコジョのカムイなどが酒宴でなだめたりする話は多く伝えられる。
顕現体は基本的に無いが、川漁の
カムイであるカワセミのことを釧路地方の一部ではチェパッテカムイと呼んだと伝えられる。サハリンの
アイヌは、魚を司るのはカッコウの男神とツツドリの女神の夫婦神であり、カッコウが先に人間界に下るとツツドリはきちんと戸締りをしてしまうが、ツツドリが先に下るとカッコウは慌てて追いかけるので魚の蔵の戸を開けっ放しで来てしまうため、ツツドリがカッコウより先に鳴き始める年は豊漁になるといわれた。マスの漁期と渡りの時期が重なるため、北海道アイヌもツツドリやカッコウを川漁に関わるカムイと見ている。
また、
アイヌがトリカブトの毒を塗った矢で狩猟を行ったことは古くから知られていたが、このトリカブトもまたカムイである。
アイヌはトリカブトの根茎と毒虫・毒草・毒魚・胆嚢などを秘伝の組み合わせで混ぜたものを鏃に松脂で固定した。これを熊などに打ち込み仕留めるわけであるが、一人称で語られる
アイヌの昔話などでは、熊からすると
「美しい女神たち、ウンコトゥッカムイ『Un(われら)ko(向かって)tuk(くっつく)kamui(カムイ)、松脂のカムイ』が手をとって
アイヌ村へ招待し、スルクカムイ『Surku(トリカブト)kamui(カムイ)』がいい香りを放つので、酔ってしまって後はわからなくなってしまった」
という風に描写される。毒といえども、殺戮の道具ではなく、大事な
カムイの招待役なのである。
参考資料
山北篤監修『東洋神名事典』180頁
最終更新:2021年07月04日 16:02