河童(かっぱ)

 河童とは、日本の妖怪である。

概要


 表題の名称は、元々関東の方言。似たような妖怪は、北海道のコマヒキから鹿児島のガラッパまで、ほぼ日本全国に伝えられる水の妖怪で、淡水域の他、海に出るという伝承も存在する。

呼称による分類

地方により異なる呼び名は、川の子供系のもの(カッパ)、馬を引くといった行動系のもの(コマヒキ)、猿系のもの(エンコウ)、水の霊を示す古い系統のもの(メドチ)、カメ系のもの(ガメ)、獺系のもの(カワソ)、特定の信仰に因んだもの(祇園坊主)、鳴き声とされるものに因んだもの(ヒョウズンボ)、身体的特徴に因んだもの(サンボン)などに分かれる。
分類について、古くは柳田國男の、
aカワ*1と子供を付けた者と、b神を表すもので、後者が先であるとするものから、
a水神系 b子供を強調する系 c動物系 dその他、1異なった信仰を指すもの(ヒョウスベ、祇園坊主等)、2体の特徴を指すもの(サンボン、テガワラなど)などとする村田健司*2説、
人身(子供が強調される)系、動物系、水神系、妖怪系とする石川純一郎説*3
川わっぱ系、川タロウ系、川坊主系、川の殿系、エンコウ系、その他系とする説*4
子供を強調するもの、神系、生物系、属性や鳴き声によるものとする瀬下いずみ説 *5などがある。

 ヒョースベ或いはヒョウズンボと呼ばれるものについて、石川純一郎は鳥とするが、柳田は、ひょんひょん鳴く冬鳥の声を「水の霊が自らの名を名乗った」如く聴いた人がいた可能性があると指摘*6し、村田健司によれば、このカッパは兵主部と呼ばれる中国由来の神と関連する可能性がある*7

 また、系統が違う水虎という中国の河童を日本で使う例もある。

歴史

 初出は「獺が年経て化けたもの」とする辞書『下学集』(文安元年・1444)であり、それより一世紀以上後のものであるが、『日葡辞書』の例が、それに次いで古いと思われる。
本草系の書では獺・亀に由来するという説が多いが、民間伝承では子供・猿の姿をしているとされる事が多く、どうも単に動物を擬人化した「だけ」のものではないらしい。

 古くは『日本霊異記』に、「小子(ちいさこ)」の姿をした雷神が大力の子供を授けてくれたという話があり、『今昔物語集』では満濃池の竜王が「小童」の姿で天狗に攫われていた僧侶を救出している。
 また記録の中にも、平経高(1180~1255)の日記『平戸記』に、寛元三年(1245)正月12日に落ちた雷が「小法師」となって大勢の人間の眼前で内裏の方角へ駆けていったという話がある。
 何かの「精」は小さな姿で出現する事が多いが、中でも水神・雷神は小人の姿で現れる事が多く、竜の矮小化された姿が河童だと言えなくも無い。一寸法師・瓜子姫や、江戸時代になって記録に現れた桃太郎なども、水神の申し子であろうという*8
 近世になると絵画にその姿を現す事も多くなるが、現在よく知られている「頭に皿、背中に甲羅」といった爬虫類的な容姿の定着は、この時代に始まったらしく、『利根川図志』に全身毛むくじゃらな「河童」が描かれているのは、ほとんど例外的なものとなっている。

 好きなものは胡瓜、茄子で、嫌いなものは鉄・水に沈まない瓢箪・鹿の角・仏前に奉げた飯を食べた人間など。命を救ってやったりすると、御礼に疵を治す妙薬の製法・食べると若返る卵・いくらでも酒の出て来る徳利等をくれる。
 害を為した話の中で、一番多いものが人馬を水中に引きずり込んで、肛門から尻子玉を抜くというもの。尤も、これを書いている人間aが聞いた限りでは、単に「ハラワタを抜く」という話であった。あと南方熊楠によれば、水辺で遊ぶもの或いは水に入ったものを強姦、厳密には肛門へ突っ込むと言われる。これは、水死体が、いかにもけつを掘られたように結腸の末たn、えぇい肛門の孔だ、がくぱぁっとしているので、そこからの連想だというのが定説である。なので南方熊楠によれば河童の1名「ゴンゴー」は男性同性愛者を指す「金剛」との関係が疑われるという。

時に変身したり、人に憑いて悩ます事もある。

 昭和30年代までは全国各地で語られていたが、川辺や海辺がコンクリートで固められ、川や海で泳ぎ、生活の場とする人々も減って、ほとんど聞かれなくなった。

主な河童


主な文献

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最終更新:2023年11月18日 15:55

*1 柳田はカワについて、「人々が住む村のそば、水を汲む場所を指す言葉」であり、いわゆる河川について「別に表現する地方がある」旨を『故郷七十年』で説いている

*2 『日本妖怪大事典』92頁

*3 『日本民俗辞典』上 370頁

*4 『日本伝奇伝説大事典』原田種夫執筆

*5日本神話伝説大辞典』 勉誠出版 218頁

*6妖怪談義』所収『河童の渡り』 昭和九年発表

*7 村田『日本妖怪大事典』93頁

*8 保立道久『物語の中世』東京大学出版会、1998年