蛇のカムイ
アイヌにとって蛇は非常に霊威の強い
カムイとされ、畏敬と嫌悪の対象であった。総称はタンネカムイ「Tanne(長い)kamui(カムイ」)といい、地方によっては青大将を指す語である。またチホマプ「Chi(われら)homa(恐れる)p(物)」と呼ぶ地方もある。また名を出すのを憚り、地名の中では「イ(それ)」だけで蛇をあらわす場合がある。たとえば「余市(よいち)」はイオチ「I(それ)o(多い)chi(場所)」が語源とされている。
アオダイショウは
キナストゥンカムイ「Kina(草)sut(根元)un(いる)kamui(カムイ)」
ヤヤンカムイ「Yayan(普通の)kamui(カムイ)」マムシに対しての語。
ムンノシケウンカムイ「Mun(草むら)noske(中に)un(いる)kamui(カムイ)」
ムントゥモインカラカムイ「Mun(草むら)tum(中)o(で)inkar(見る)kamui(カムイ)」
などと呼ばれる。
日高地方などでは
木幣の削りかけを蛇の形につくり、女性のお守りとする地方があった。また飢饉の際に
鹿主のカムイや魚主のカムイを脅して地上を救ったという伝説、地上に下ろされる際に天のカムイに「穀物を荒らすスズメやネズミを退治し、人間に悪戯してはならない」と言い付かったので今でもそれを守っているという伝説などからも決して人間に敵対するカムイではないのだが、一方で
国造りのカムイに代わって
火のカムイが地上に降りるとき、火のカムイに懸想していた蛇のカムイが一緒に降りたいと願い、そのときに地上に開いた地獄まで続く穴の中に住むようになり、そのため蛇が地上に現れるのは人間に危害を与えようとするときだ、という伝説もある。
そのためか穴に入る蛇を見かけたら、必ず引きずり出して殺し、ヨモギの枝を六ヶ所に刺しておかないと生き返って悪さをするものとされていた。
また
木幣を安置する幣棚の主も蛇である。
ヌサコロカムイ「Nusa(幣棚)kor(領有する)kamui(カムイ)」
ヌサコロフチ「Nusa(幣棚)kor(領有する)huchi(媼)」
などと呼ばれる。幣棚には穀物の殻を捨てるため、それを狙ってネズミやスズメが集まるので、蛇が居つくことから幣棚のカムイとされたようである。そのため幌別地方では幣棚の近くで蛇を見かけても、「人間に変事を伝えるため幣場の媼が外出しているのであろう」と危害を与えなかったが、メカジキ漁に行くときに幣棚で蛇を見たら、それを殺し刈り取った草の上に安置すると必ず漁に恵まれるものともされていた。
これらの蛇体のカムイは、
国造りのカムイが人間に火を与えるべく火熾しをしたときに、最初ドロノキの火きり臼と火きり杵で熾したがうまくいかず、次いでハルニレの火きり臼と火きり杵で起こすと
火のカムイが生まれたが、そのときの火きり臼と火きり杵がそれらのカムイに変じたものという伝説がある。
またマムシも恐れられたカムイであった。
アイヌ語では
トッコニ「Tokkonni」この語は人をののしる悪口にも使われる
カミヤシ「Kamiyasi(悪魔、化け物といった普通名詞)」
シアンカムイ「Sian(真の)kamui(カムイ)」アオダイショウに対しての語
シアンクル「Sian(真の)kur(カムイ)」
などと呼ばれ、恐ろしいカムイであるが霊威もまた強いカムイであるとされた。網走地方ではシトッコニ「Si(真の)tokkoni(マムシ)」という大マムシが信じられ、これは悪臭を放つなど
竜蛇のカムイに似た特徴を持っている。またラプシトッコニ「Rap(羽)us(生えた)tokkoni(マムシ)という怪物もまた
竜蛇のカムイに類似した性質を持っている。
参考資料
最終更新:2006年06月22日 21:44