創世王、シャドームーン ◆LuuKRM2PEg
月影ノブヒコは憤っていた。
創世王たる自分自身を駒と扱ってこのような下らぬ催しに放り込んだ、真木清人という愚か者に対して。
そして、偉大なる大ショッカー大首領の名を背負った自分自身が、それを許してしまうような醜態を晒してしまった事に。
弱き人間どもが醜い本性を現して、互いに殺し合う自体は本来ならば至高の宴として見ていただろう。他者を蹴落とすこと自体も全く躊躇うことはない。
しかしだからと言って、真木という男やそれが率いるグリードなどという怪人に従う道理など微塵もなかった。
自らのやるべき事は、誇り高き大首領の名に懸けて真木とその犬どもを潰す。その過程に邪魔となるであろう者達も一人残らずだ。
「それにしても、グリードか……」
あの始まりの会場で真木と共にいた怪人の姿をノブヒコは思い出す。
メダルを元にして生み出された存在。それは大ショッカーの資料にも一切載っていなかった。
恐らく大ショッカーのまだ知らぬ世界に生きる者なのだろう。名簿にはあの仮面ライダーの名がいくつも載っていた事を考えるに、真木もまた数多の世界を行き来する力を持っているかもしれない。
それこそ、仮面ライダーのいない世界から超常的存在を連れてきた可能性だってある。何にせよ、現状では戦うにしてもデータが足りなさすぎた。
癪に障るが、この世界に放り込まれた参加者から情報を引き出す必要もあるかもしれない。負けるつもりはないが、それが原因で足を掬われては元も子もなかった。
「わざわざ当たりを置かせるとは、見くびられたものだな」
目の前に置かれている巨大なバイクを見て、ノブヒコは微かに溜息を吐く。先程交戦した
加頭順や
ノブナガと接触する前に、奪われないよう物陰に隠していた。
この会場にあちこちに配置されているスーパーマシン、ライドベンダーがノブヒコのスタート地点に配置されていた。
しかし彼自身はそれを微塵も喜んでいない。まるで主催者達から、自分に戦いの促進剤になれと言われているように思えたため。
だがノブヒコはその感情を捨てる。戦力を与えようというなら精々、奴らの欲望に答えてやればいい。元より邪魔者を排除して、その果てに真木を握り潰す算段だ。
そう思いながらノブヒコはライドベンダーに跨り、勢いよくハンドルを捻る。その走りは彼の信念を体現するかのように堂々としており、凄まじかった。
○○○
「……なるほど、仮面ライダーとは別の戦士か」
ライドベンダーに乗ったノブヒコは、目の前で繰り広げられている戦いを見て感嘆したように呟いた。
甲冑を纏った金髪の少女がライドベンダーを乗り回しながら、得物を振るう動作をしている。その手には何も握られていないが、一度腕を振る度に上空より飛来する弾丸を確実に弾いていた。
少女の両腕付近には、よく見ると大気が唸っているのが見える。どういう原理かは分からないが恐らく目には見えない武器で、相手を丸腰だと油断させるのに一役買っているのか。
そして、その弾丸が放たれる上空にいるのもまた少女だった。黒い眼帯を付けた銀髪の少女は、その華奢な身体に重厚な武装を纏って飛行している。
少女達のような強い戦闘力を持つ存在がいる世界をノブヒコは知らなかった。恐らくライダーのいない世界から真木が連れてきたのだろうが、実に興味をそそられた。
あれだけの戦闘力や技術力を知ることが出来れば、大ショッカーにとって大いなる力となる。
だがしかし、今ここで戦闘に介入する訳にもいかない。奴らのような相手なら充分太刀打ち出来る範囲だが、わざわざ飛び込んで力を消耗させるのも馬鹿馬鹿しかった。
真木を倒すための戦力にするのは、奴らが疲弊しきってからでも遅くはない。戦いはあの不可視の剣を握った少女に傾いていたので、決着も遠くないだろう。
少なくともノブヒコはそう思っていた。
「……あれは?」
しかしその直後、遙か彼方の上空より勢いよく金髪の少女が迫っているのを見つける。
銀髪の少女とよく似た武装を装備していたその少女は、両腕に備わった二つの大砲より弾丸を金髪の少女に放った。しかし少女は不可視の剣でそれを弾き落とした後に、背後へ飛ぶ。
どうやら金髪の少女
シャルロット・デュノアは銀髪の少女ラウラ・ホーデヴィッヒの仲間のようだった。シャルロットは
セイバーと名乗った少女にコアメダルを渡すと、ラウラを連れて遠くに飛び去っていく。
そしてセイバーもバイクに跨って、勢いよくその場から走り去った。
「奴らは無闇に潰し合うだけの馬鹿者ではない……上出来だ」
三者の姿を見たノブヒコは、どちらを追うべきか思案を巡らせる。彼女達の戦闘が終わった頃に介入して共闘を持ちかけることも出来たが、この状況でそんな提案など受け入られるわけがない。
むしろ、自分が敵とみなされて新たなる戦いが起こる可能性があった。別に奴らを潰すことに躊躇いはないし、小娘達が束になって刃向かった所で負けるつもりはない。だが戦力となり得る者達をみすみす潰すのも惜しい。
二兎を追う者は一兔をも得ずという諺があるように、共闘を持ちかけるのは片方にするしかなかった。数で勝った少女達を選ぶか、質で勝ったセイバーを選ぶか。
「――小娘一人ではサーヴァントは倒せないか。やはり、もっと多くの兵力がいるな」
「ん?」
決断を下そうとしたノブヒコの耳に聞き覚えがある声が響く。振り向いた先には、緑色のジャケットを身に纏った男が歩いているのが見えた。
「奴はまさか……!」
その姿を見たノブヒコは思わず目を見開く。奴は開幕のホールで真木に近い位置に立っていた
ウヴァと呼ばれるグリードの一人だ。
ウヴァの首輪に付いたランプは緑色に光っているのを、ノブヒコは見つける。
「だとすると、あの男が緑陣営のリーダーだというのか」
真木が言うには、この世界には全部で五人のグリードがそれぞれの陣営のリーダーとなっているらしい。そしてルールブックにはグリード不在中に限り、同色コアメダルの最多保有者がリーダーとなると書かれていた。
そして、ウヴァは真木にもっとも近い位置にいる。これらの事柄を踏まえてウヴァが緑陣営のリーダーであり、真木の情報や大量のコアメダルを持っている可能性が高い。接触すれば勝利への道が開けるかもしれなかった。
奴はラウラとシャルロットが飛び去った方に向かっている。どうやらあの男は緑陣営を優勝させるために兵力を集めているらしい。だが、自分を駒と扱う連中の思い通りにさせる気は毛頭無かった。
「こんなにも早く出会えるとはな……!」
ノブヒコは再び笑みを浮かべながら、ライドベンダーを走らせた。
○○○
「ラウラの奴……遠くにまで行っていなければいいが」
数時間前、仲間に引き入れたラウラ・ホーデヴィッヒと合流するためにウヴァは歩いている。
奴はセイバーというサーヴァントとの交戦して窮地に陥った末、突然現れたシャルロット・デュノアの手によって撤退に成功した。しかし二人は余程遠くにまで飛んでしまったのか、なかなか姿を見つけられない。
彼女達とは急いで合流する必要がある。もしも単独行動を続けている隙に
剣崎一真や
バーサーカーのような奴と遭遇したら、一巻の終わりだ。
そしてもう一つ。これは有り得ないだろうが、ラウラとシャルロットが手を組んで自分に逆らう為に妙な事を企てる可能性だってある。そうでないにしても、セイバーとの戦いで消耗した所で違う陣営の奴に殺されてはたまったものではない。
今は体勢を立て直すために、一刻も早く合流する必要があった。
「くそっ、まさか歩くハメになるとは……!」
ウヴァは思わず舌打ちしてしまう。
科学技術を結集させて、凄まじい機動力を持つISを持つ人間に徒歩で追いつけるわけがない。せめて乗り物さえあれば話は別だったが、不幸にもライドペンダーはこの付近に一つも見られなかった。
奴らからこちらの方に来ればいいが、そうでないなら合流するのに時間がかかる恐れがある。ウヴァの中に焦りが生まれていき、歩くスピードが次第に増していった。
その時だった。遠くよりバイクのエンジン音とコンクリートで舗装された道が削れる音が響いたのは。
「なんだ……?」
二つの荒々しい音に気付いて、思わずウヴァは振り向いてしまう。刹那、彼の目前に金と黒の二色に輝くライドベンダーが現れた。
そして、その上に乗っている銀色のスーツを纏った壮年の男を見て、ウヴァは目を見張ってしまった。
「お、お前は……!?」
そこに現れたのは、自分と同じ緑陣営に属する参加者。それも全参加者の中でも、十本の指に入る程の実力を誇る参加者だった。
奴は数多の世界に侵略の手を伸ばしてきた悪の巨大組織、大ショッカーを束ねる大首領と崇められた創世王の称号を持つ男。その存在を、ウヴァは知っていた。
「つ、月影ノブヒコ……!」
「やはり私の名前を知っていたか」
現れた月影ノブヒコの名前を呼ぶウヴァの声は大きく震えていて、額から脂汗が滲み出ていた。
対するノブヒコは柔和な声で答えたものの、それを耳にしたウヴァは穏やかになることなど出来ない。暗闇のように黒い双眸からはまるで隠そうともしない、絶対的な殺意が感じられたため。
例えるなら、自らの力量を弁えない愚か者を見下ろすかのような視線だった。それを向けたままノブヒコはゆっくりとバイクから降りるのを見て、思わずウヴァは一歩だけ後ずさる。
しかしウヴァは思い出す。いくら大ショッカー大首領とはいえ、今は自分達と同じ真木清人に命を握られた参加者に過ぎない。
恐らくノブヒコもまたラウラのように真木に反抗しようなどと、偉そうな肩書きに胡坐を掻いたような馬鹿な事を考えているのだろう。だが、自分はそんな馬鹿な事を考える連中のリーダーだ。リーダーたる者が格下の連中に舐められる様な行動を取るわけにはいかない。
「……月影ノブヒコ、俺はあんたを探していた」
「何、私を探していただと?」
だからウヴァは気持ちを落ち着かせて笑みを向ける。
「ああ、俺はこの戦いで優勝するために同じ陣営の参加者を集めようかと考えている……無論、そこにはあんただって含まれている」
「それがどうした」
「あんたには元の世界でやるべき事があるはずだ。全ての世界を支配するっていう、すげえ目的が」
ノブヒコは未だにこちらを警戒しているのか、視線が刃物のように鋭かった。それは予想の範囲内だったがやはり放たれる雰囲気が重苦しい。
しかしそれに潰されていては優勝することなど不可能だ。何よりも、ラウラの時の様に舐められたりするのは御免だった。
「もしも俺の陣営が優勝したら、俺の方からドクターにあんたの目的を協力するように頼んでやる……それに、緑陣営の連中で残った好きな奴らを怪人にしたって構わない」
「ほう……それは本当か?」
「当たり前だろう? 俺達にはな、それを可能にする技術だっていくらでもある。何だったら、あんた達大ショッカーがまだ知らない世界の情報だっていくらでも教えてやるよ」
「確かに、まだ知らぬ世界の情報が手に入るのは私にとっても有難い」
「そうだろう?」
ノブヒコが納得したかのような反応を見て、ウヴァは思わず内心で笑みを浮かべる。
ラウラの時のように力尽くで従わせようとしても従う男じゃないし、そんな手段で取り入ろうとしても無駄に消耗するだけ。だから上手く懐柔する必要があった。
この戦いが始まってからまだ数時間しか経っていないが、ラウラやシャルロット、そしてノブヒコのような強い参加者と巡り会えたのは実に運が良い。もしかしたら、この運が続いたまま殺し合いは続いて緑陣営は優勝するのではないか?
少なくとも、ウヴァはそう思っていた。
「……そう言って、私が納得するとでも思ったのか?」
「は……?」
一体何を言っているのか? そう思う暇もなく、ノブヒコの腹部が眩い光を放つ。
刹那、ノブヒコの身体に歪みが生じるのをウヴァは見た。
「――ッ!?」
それを見たウヴァの全身は総毛立ち、反射的に力を解放する。肉体を維持する元となっている大量のセルメダルが擦れ合い、一瞬でグリードの姿に変身した。
迫り来る火の粉を払おうと、ウヴァは立ち向かおうとする。
「ぎゃあっ!?」
しかし、彼は悲鳴と共に一瞬で吹き飛ばされてしまった。胸部に焼け付くような激痛が走った瞬間、血潮の代わりに銀色のメダルが胸部より勢いよく零れ落ちる。
地面に叩きつけられた彼はノブヒコを睨み返すが、既にそこにノブヒコはいない。代わりにいるのは、鉛色の装甲を輝かせた戦士だった。
無機質は瞳は緑色に煌めき、その手には血の様に赤い刃が光る剣が握られている。それこそが、月影ノブヒコが隠していた本当の姿。
「シャ、シャドームーン……!」
創世王、シャドームーンは圧倒的な威圧感を放ちながら、ウヴァの前に悠然と立っていた。
○○○
シャドームーンに変身した月影ノブヒコはその仮面の下から、倒れたウヴァを冷然と見下ろしている。昆虫の鍬形とよく似た怪人は慌てふためいているようだった。
たった一回、サタンサーベルで斬っただけでこんな無様な姿を晒してしまう。それを見たシャドームーンの中に憤怒の感情が湧き上がった。
こんな小物が自分の上に立っており、あまつさえこんな連中に自分は捕らえられてしまう。これでは大ショッカーの下に数多の世界から集った怪人達に、顔向けが出来ない。
しかしシャドームーンにそれを悔いる暇など無かった。サタンサーベルの先端をウヴァに突き付けながら、前に進む。
「な、何の真似だ!?」
ウヴァの言葉にシャドームーンは答えない。
代わりに返すのは、金属音のように周囲に響かせる足音だけだった。
「何の真似だと聞いてるだろ!?」
「お前のような下等な怪人が、私と対等でいようとはおこがましい……」
「何ッ!」
シャドームーンは呆れた様子で溜息を吐く。
こちらの素性を知っているであろう主催者に通じる怪人だから、加頭やノブナガが相手のように下手に出ても意味がない。そう判断して接触したが、奴は事もあろうに大首領たる自分を餌で釣ろうとした。
すなわち、奴は自分を犬と見なしている。それがシャドームーンの逆鱗に触れたのだ。
「お前達グリードが本当に望みを叶えられる力を持つとしよう……だが、私がそれに食い付くとでも思ったのか?」
「な、何を言ってるんだ! 俺は本当にあんたの……」
「このような茶番を仕組んだ者達に従うような愚か者と見られていたとは、実に腹立たしいな」
「そうかよっ!」
シャドームーンは足を進めるたびにカチャリ、カチャリと足音が響く。
一方でウヴァがふらつきながらも立ち上がった瞬間、頭部に生えた二本の触覚より勢いよく光が発せられた。凄まじい勢いで稲妻が生じ、シャドームーンに襲いかかる。
しかしシャドームーンはそれに構うことなどせずに歩みを進めた。どれだけ稲妻が放たれようとも、サタンサーベルで振り払えば良いだけ。
だが雷光の輝きは流石に無視出来るものではなく、マイティアイを通じた視界を遮られてしまう。煩わしいとは思うが、そればかりは流石にどうしようもない。
「くそっ!」
「無駄だ。お前如きが私を止められるとでも思ったか」
「何だと……!」
淡々と、それでいて冷酷にシャドームーンが言い放つとウヴァの声は一気に震える。どうやら今の一言で怒りが頂点に達したようだが別にどうでもいい。
ウヴァの角から迸る雷撃は勢いを増してシャドームーンの鎧に衝突するが、轟音が響くだけでやはりダメージを感じない。これならまだ先程戦った男達の方が、実力が圧倒的に上だった。
こんな怪人を相手にシャドーキックやシャドーセイバーを使うことなどない。ゴルゴム結社に所属する剣聖と呼ばれた大怪人からかつて奪ったサタンサーベルだけで充分だった。
一振り、また一振りとサタンサーベルでウヴァが生み出す稲妻を弾き続ける。そのエネルギーは形を崩し、シャドームーンの周りに飛び散って爆発した。
「チッ!」
やがて角から発せられる光は収まり、雷撃の襲来は終わる。ウヴァはこれまでの攻撃が無意味と悟ったのか、右腕の鋭いかぎ爪を掲げて飛びかかった。
その速度は並の仮面ライダーですらも見切れるものではなく、どんな物でも一瞬で切り裂いてしまうだろう。しかしシャドームーンからすればスローモーションに等しく、まるで脅威にならない。
サタンサーベルを横に振るってあっさりとかぎ爪を弾き、そのまま勢いよくウヴァの胴体を突き刺した。高い強度を誇る装甲をサタンサーベルは易々と貫き、参加者の力の源となっているセルメダルをばらまける。
そこから流れるように、縦横無尽とサタンサーベルを振るった。上下左右、変幻自在にその軌道を変えながらウヴァの胸部を切り裂き続ける。その度にウヴァは悲鳴と共に後退するが、シャドームーンは構うことなくサタンサーベルで一閃。
時折ウヴァは距離が空いた隙を付いてかぎ爪で薙ぐも、シャドームーンは身体を微かにずらすだけでそれを避ける。そこから反撃で赤い魔剣をウヴァに叩き付けた。
その勢いによって奴の身体は宙を舞って、遠く離れた地面に転がる。だがシャドームーンはこれで終わりなどせず、左腕から放ったシャドービームでウヴァを縛って勢いよく持ち上げた。
拘束されたウヴァは足掻くも、キングストーンのエネルギーはその程度で破れる物では無い。
「フンッ!」
「うおおおおおぉぉぉぉぉぉぉっ!」
重力に引かれて落下する怪人をサタンサーベルで骨格を両断すると、ついに砕け散る。圧倒的強度を誇るグリードの外骨格も、シャドームーンの猛攻には耐えられなかった。
すると破壊された骨格はセルメダルへと変貌して、シャドームーンの首輪に吸い込まれていく。一方で、昆虫の模様が描かれた三枚のコアメダルは吸い込まれず、軽い音を立てながら足元を転がった。
シャドームーンはそれを一瞥するが、すぐに倒れたウヴァの方へ振り向く。見ると、破壊された骨格に守られていたであろう肉体が露わとなっていた。
「俺の……俺のメダル……!」
ウヴァは息も絶え絶えとなりながら這いつくばっていて、シャドームーンにはその姿が本当の虫に見えてしまう。同情する気は欠片も無いが、ここまで来ると怒りを通り越して哀れみすら感じた。
そしてその様子を見て、ウヴァはこのコアメダルが無ければ肉体を維持することが出来ないとシャドームーンは推測する。コアの名前が示すように、グリードにとって身体を支える核の役割も果たしているのだ。
すなわち、これが砕かれたら連中は生きることが出来ない。そう思ったシャドームーンはコアメダルを右手に収め、ウヴァの前に歩み寄った。
「これが欲しいのか?」
「返せ……俺のコアメダルを返せ……っ!」
「これから貴様を尋問する。もしも答えないのならば……」
震える腕を伸ばすウヴァのことなど構いもせず、シャドームーンは首輪から一枚のセルメダルを左手で取り出す。
そのまま握り潰し、あえて見せ付けるかのようにメダルの破片をウヴァの目前に落とした。
「な、何の真似だ……?」
「わからないのか? お前がこうなるだけだ」
「なん……だと!?」
そう言い放っただけで、ウヴァは絶句したような声を出す。
「お前、自分が何を言ってるのかわかってるのか!?」
「お前を潰す……それがどうした?」
「何を言ってるんだ、この殺し合いはチーム戦で一人でも減ってしまっては陣営の戦力が減る! お前も、元の世界に戻れる確率が減るんだぞ!」
「仮に優勝とやらをしたところで、参加者を帰す保障が何処にある?」
「す、少なくとも俺はそうするつもりだ! これだけは嘘じゃない! だからコアを返せ!」
「どうだかな」
相当なまでに狼狽えていた。表情を窺うことは出来ないが、ウヴァがパニックに陥ってることは容易に想像できる。
今はこちらが絶対的有利に立っているが、ウヴァをこれ以上脅したところで話は進まない。そろそろ本題に入る必要があった。
「ならばお前の言葉が真実であると証明して見せろ」
「しょ、証明だと……!?」
「お前達は一体何を企んでいる? そして、あの真木という男のバックには何者がいるのか教えてもらうぞ」
サタンサーベルをウヴァの眉間に突きつけて、シャドームーンは冷徹に告げる。
大ショッカー大首領たる自身を拉致しただけでなく、力を制限する首輪を作り出せる技術を持つ輩がいる。もしも真木と戦うことになるのなら、その背後にいる強大な技術を持つ連中とも相手にすることになるので、情報は必要だった。
そもそもウヴァに接触した理由は、その目的があってこそ。そしてグリードの力量がどれほどの物かも、確かめる必要があった。
「……何も、聞いてない」
しかし帰ってきたのは、そんなウヴァの弱弱しい返事だけ。
「何?」
「俺達はドクターから何も聞かされていない……何故この殺し合いを開いたのかも、そしてどんな奴らがドクターに協力しているかもだ!」
「……そうか」
シャドームーンは冷静に頷く。
何を戯けたことを言っているのか。一瞬だけそう思ったものの、ウヴァ達グリードが真相を知らなくても別におかしな話ではない。
もしもグリード達がこのような状況に陥り、真木を裏切るようなことがあっては殺し合いは根本から破壊される。その可能性を見通した上で、真木はこの会場にグリードを放り込んだということだ。
仮にグリード達が全ての真実を知っていたとしても、口を滑らせるようなことがあったら速攻に首輪を爆破して情報源を絶てばいいだけ。すなわち、奴らはこの戦いを潰す鍵にはならない。
むしろ真木にとってグリード達とは、ただの捨て駒でしかない可能性もあった。
(後は、こいつの処遇をどうするかだ……)
この場にいるウヴァから何かを聞き出そうとしても、何も搾り取れない。ならばもう用はないし、このまま殺せば大量のメダルが手に入る。
しかし、このまま奴を殺してもいいのか? ふと、シャドームーンの中にそんな思考が芽生える。
こんな小物に情など抱くわけが無いが、このまま潰すのも惜しい。圧倒的戦力差を見せ付けた今となっては、ウヴァは自分に反旗を翻さないだろう。無論、絶対とは言い切れないがその時は一瞬で屠ればいい。
自分が今やるべきことは真木を潰すための戦力を集めることだが、その途中で歯向かう輩が出てくるはずだ。そんな連中をいちいち潰すのも流石に面倒極まりない。だが、愚か者を始末する役を引き受ける奴はここにいる。
ならばこの場でやるべきことは、一つしかない。
○○○
もう駄目だ。
俺はここでリタイアなのだ。優勝することなど出来なかったのだ。
だから少しでもその可能性を避けるために全てを話したが、考えてみればシャドームーンはその瞬間に俺を殺すかもしれなかった。
所詮、自分の欲望など叶わないただの夢でしかない。散々俺を馬鹿にしたあの忌々しい
アンクや
カザリを見返せないまま、ここで終わる。
少なくともウヴァは、そう考えていた。
「なっ……?」
だからこそ、ウヴァは信じられなかった。自分を殺すつもりだったはずのシャドームーンが行った行動が。
奴は事もあろうに、サタンサーベルによって刻まれた傷口にコアメダルを投げつけていた。それにより、砕かれた骨格が一部再生する。
力が戻るのを喜ぶ以前に、シャドームーンに対する疑念をウヴァは抱くしかなかった。
「何の真似だ……!?」
「死にたくなければ黙っていろ」
そしてまた一枚、ウヴァの身体から零れ落ちてしまったコアメダルが戻り、力が溢れてくるのを感じる。
何故、シャドームーンはコアメダルを破壊しないのか。何故、シャドームーンはわざわざコアメダルを投げ込んでくるのか。その行動に何の意味があるのか?
疑問が次々と溢れ出てくるが、ウヴァにそれを問い詰める権利は無い。もしもここで口を挟めば、今度こそ本当に消滅しかねなかった。
三枚目のコアメダルも戻ってくるかと微かに期待したが、それは叶わない。代わりに与えられたのは、シャドームーンの首輪から出された十枚のセルメダルだった。
「さて、お前に問う。私の下に来るか?」
「何!?」
「聞いているのか? 私の下に来るのか来ないのか……質問はそれだけだ」
何一つの謎が明かされないまま、次に与えられたのはそんな冷たい言葉だけ。無論ウヴァは反抗しようとするが、目前には赤い刃が突きつけられている。それは「逆らうならば殺す」という意思表示だと、一瞬で察することが出来た。
この光景にウヴァはデジャブを感じる。スタート地点の県立空美中学校で最初に出会った参加者、ラウラ・ホーデヴィッヒを力尽くで従わせたのと同じだった。唯一違うのは、今度はこちらの命を握られている。
そして奴はラウラの時と違って、こちらに譲歩するという発想がまるで皆無だった。もしも少しでもそんな話を持ち出そうとしたら、その瞬間に全てを失う。
それだけの殺気が銀色の仮面から感じられた。
「……どうやら、交渉の余地は無いようだな。仕方が無い――」
「待て、待ってくれ!」
だからウヴァは事に及ぶ前に、シャドームーンを静止する。
「何だ?」
「わかった! お前……いやあんたに従う! 俺自身も戦力を集めようと思ってたところだ! それであんたに付いていけば、俺にとっても大きな力になる! だから頼むっ!」
無様だと知りつつも、ウヴァはそう懇願するしかなかった。
ここで歯向かおうとしたって返り討ちにされるだけで、何一つのメリットが無い。しかし今ここでシャドームーンに従うと言えば、形はどうであれ強い戦力が手に入る。そして幸運にもシャドームーンは緑陣営に所属しているので、優勝するための壁になることも無い。
加えて他陣営の参加者にシャドームーンの圧倒的戦闘力を見せ付ければ、嫌でも従うだろう。そうすれば緑陣営にいるシャドームーンに配下が増えて、結果的にこの陣営の戦力になるかもしれなかった。
例え真木に歯向かおうとしても、どんな参加者でも一瞬で殺せる首輪がある。これさえあれば、何の問題も無かった。
「懸命な判断だな」
そんなウヴァの願いが叶ったのか、シャドームーンはサタンサーベルの切っ先を目前から離す。
ようやく解放されたと思ったウヴァはゆっくりと立ち上がりながら、人間の姿へと変わった。今はもう反抗の意思が無いと、少しでもシャドームーンに思わせる必要があるため。
「ああ、すまない……さっきはあんたを見くびるようなことを言って」
「忘れるな」
「なっ!?」
しかし一息つく暇など無く、シャドームーンはサタンサーベルを再び突きつけてくる。それにウヴァは目を見開くも、尻餅をついたりはしなかった。
ここでそんな無様な姿を晒してはシャドームーンに切り捨てられるし、何よりもリーダーの名を背負ったというウヴァ自身のプライドが許さない。
これ以上の醜態を重ねては、リーダーとして君臨するどころか殺し合いに生き残ることも出来ないだろう。
「私に反旗を翻そうというなら、お前自身がどうなるかを……覚えておけ」
「あ、ああ……そんなことわかってるよ」
「フン……」
そうしてシャドームーンはサタンサーベルを下ろし、スーツを纏った男の姿に戻った。その男、月影ノブヒコからは未だに殺気が感じられるが、ウヴァはそれに潰されたりはしない。
ほんの少しだけ恐怖を抱いているものの、それと同時に彼の欲望は満たされている。当初の予定とは違ったものの、結果として創世王シャドームーンというラウラやシャルロット以上の戦力が手に入ったのだから。
○○○
ライドベンダーの座席に腰掛ける月影ノブヒコは、思案に耽っていた。
彼はウヴァを従えた理由はただ一つ、真木清人を打ち破る上で障害となる者達を始末させるため。いくら邪魔者を始末すると言っても、能力を制限されているこの状況で無駄に戦っても自滅するだけ。
認めるのは癪だが、徒党を組まれてはその可能性も考えられる。だからウヴァの力をある程度取り戻させた上で従わせた。
それにウヴァはサタンサーベルの刃を耐えるほどの肉体を持つので、ここでわざわざ切り捨てるより邪魔者と潰し合わせた方がずっと有益かもしれない。もしも奴が他の参加者と徒党を組んで反旗を翻すなら、引導を渡すだけ。
一応、バッタのコアメダルを一つだけ確保したので裏切る可能性は低いかもしれないが。
(なるほど……ここに私達全員の情報が書かれているのか)
そしてノブヒコの手には今、真木清人からグリード全員に渡されたという紙束が握られている。ウヴァの持っていたそれに書かれているのは、ノブヒコを含めた参加者全員に関するデータとスタート地点。
加えて大ショッカーの知らない仮面ライダー達や、セイバーやラウラとシャルロットに関する情報まで存在している。
仮面ライダーW、仮面ライダーアクセル、仮面ライダーエターナル、仮面ライダーオーズ、仮面ライダーバース、NEVER、ドーパント、ガイアメモリ、エンジェロイド、サーヴァント、宝具、IS、魔法少女、ソウルジェム、魔人、ヒーロー……ノブヒコにとって未知の単語が数え切れないほど書かれていた。
(不意打ちを仕掛けた鎧武者の正体はノブナガだったとは……やってくれるな、あの男)
無論、膨大なデータの中には交戦した加頭順やノブナガについても記されている。それによるとノブナガの正体は真木の技術によって復活した戦国武将、織田信長のホムンクルスかつグリードの紛い物らしい。
その身体の維持にはセルメダルが必要で、核となっているコアメダルを奪うと消耗が早まるようだ。それなら勝手に消耗するのを待てばいいし、再び戦うことがあるなら借りを返せばいい。
NEVERである順もそうだが、死ぬのが時間の問題となる奴をあいてにした所で時間の無駄でしかなかった。
(
アポロガイストのスタート地点はGー5か……まずいな、奴と同じエリアに仮面ライダーと魔法少女とやらがいる)
元は『Xライダーの世界』に存在する悪の組織GOD機関の怪人であり、大ショッカー大幹部の一人であるアポロガイスト。奴は今、ここより少し離れた風都という街にいるようだった。
徒歩で向かうなら時間が必要だろうが、真木達が生み出したであろうこのマシンさえあれば向かうのに時間はそこまで必要ない。その気になれば数分で辿り着くことも、可能かもしれなかった。
しかしそれよりも一つの懸念がある。あのエリアには仮面ライダーエターナルの
大道克己と魔法少女の
美樹さやかの二人がいるのだ。アポロガイストの戦力ならば簡単には負けないだろうが、問題がある。
克己とさやかはそれぞれNEVERと魔法少女という、死人の肉体を持つ存在だった。Xライダーとの戦いで敗れたアポロガイストは再生手術を施した際、パーフェクターで人間の生命エネルギーを吸わなければ生きていけなくなる。
だが、この二人はゾンビに等しい連中だから生命エネルギーなんてあるとは思えない。アポロガイストの性格上、奴らに戦いを仕掛けるだろうが相性が非常に悪かった。
もしも長期戦になるような事になれば、アポロガイストが非常に不利になる。それで奴が負けてしまっては、大ショッカーにとって大きく痛手となるに違いない。
こんな下らない殺し合いで奴を失うのは何としてでも避けるべきだが、最悪の想定をしても仕方がない。
(まあいい……不安など抱いたところで何も成せない。さて、何処に向かうべきか……)
そう思いながらノブヒコはパーソナルデータをデイバッグに収める。
「行くぞ、ついてこい」
「あ、ああ……」
ノブヒコはもう一台のライドベンダーを発見したウヴァに移動を促す。情けない返事に苛立ちを感じるも、気にしたところで仕方がない。
ライドベンダーのハンドルを握り締め、勢いよく回すとエンジンが轟音を鳴らして疾走を開始した。その後をついていくように、ウヴァが乗るライドベンダーも走り出す。
全ては偉大なる大ショッカーのため。あらゆる世界を手中に収めようという欲望がある限り、月影ノブヒコは止まることがなかった。
【一日目-午後】
【F-3/道路】
【月影ノブヒコ@仮面ライダーディケイド】
【所属】緑
【状態】ダメージ(小)、ライドベンダーを運転中
【首輪】105枚:0枚
【コア】ショッカー、バッタ×1
【装備】サタンサーベル@仮面ライダーディケイド
【道具】基本支給品×2、参加者全員のパーソナルデータ、ライドベンダー@仮面ライダーOOO、ゴルフクラブ@仮面ライダーOOO、ノブヒコのランダム支給品0~1、ウヴァのランダム支給品0~2(確認済み)
【思考・状況】
基本:真木清人や、大ショッカーに刃向う者を抹殺する。
0. 何処に向かうか……?
1.大ショッカーに従う者を探す。従わない場合は殺す。
2.仮面ライダーは殺す。利用できそうなら利用する。
3.ユートピア・ドーパントと、鎧武者怪人を警戒するが深追いはしない。
4. ウヴァが反抗したり醜態を晒すよう事をするなら、容赦しない。
【備考】
※ショッカーのコアメダルではショッカーグリードは復活しません。
※ショッカーメダルでコンボを成立させると、変身解除後ショッカーメダルは消滅します。
※参加者全員のパーソナルデータを見ました。
※シャドーキックやシャドーセイバーといったオリジナルのシャドームーンが使用していた技が使用出来ます。
【ウヴァ@仮面ライダーOOO】
【所属】緑・リーダー
【状態】疲労(中)、ダメージ(中)、ライドベンダーを運転中、ノブヒコへの恐怖と彼がいることによる充実
【首輪】75枚:0枚(増幅中)
【コア】クワガタ×1、カマキリ×2、バッタ×1
【装備】なし
【道具】ライドベンダー@仮面ライダーOOO
【思考・状況】
基本:緑陣営の勝利。そのために言いなりになる兵力の調達。
1.今はノブヒコに従って、移動する。
2.もっと多くの兵力を集める。
【備考】
※参戦時期は本編終盤です。
※ウヴァが真木に口利きできるかは不明です。
※ウヴァの言う解決策が一体なんなのかは後続の書き手さんにお任せします。
※ノブヒコと行動を共にしたことで当初の欲望である戦力増強に成功したので、セルメダルが増幅しています。
※現状ではノブヒコについて行く予定です。
最終更新:2024年09月24日 11:24