チープ・トレード ◆QpsnHG41Mg


 褪せた金の甲冑を纏った怪人が、ガイへ向かって歩きだした。
 速度は遅い。さながら獲物を袋小路へ追い詰めた狩人のように悠々と。
 コイツが殺し合いに乗っていることは最早間違いないだろう。
 つまり、コイツは他者の命を奪うことに抵抗を感じない「悪」だ。
 さっき戦った綺麗事を抜かす二人組とはワケが違うのだ。
“ええい、どうするッ!? 悪ならば悪同士手を組むか!?”
 それも選択肢としては十分に有り得る。
 何の情報も得ないままに戦闘を行うことの危険性はさっき学んだ。
 全く未知の世界の怪人が相手なら、下手に戦うのは寧ろ下策ではないか。
 ここは同じ「悪」同士、停戦協定を結ぶのは決して悪い作戦ではない。
「待て、私に戦う気はないのだ。少し話をしようではないか!」
「話をする必要などありませんよ」
 取りつく島もないとはこのことか。
 理想郷の名を冠する怪人――ユートピアは、軽く手を翳した。
 次の瞬間、目に見える世界が赤い炎の膜に覆われたように感じた。
 続いて身体に感じた熱で、ガイは自分の状況を察する。
「ぬうッ!?」
 焼かれているのだ、自分の身体が。
 ガイもまた咄嗟に身体を怪人のそれへと変貌させる。
 ばさりと音を立ててマントを翻し、この身を覆う炎を振り払う。
 対応が早かったのが功を奏したか、熱によるダメージは微量だ。
 クウガの世界には超自然発火現象なるものを使う者がいると聞いたことがあるが、
 奴が今アポロガイストの身体に放った火は、それに近いものだろうか?
 ……いや、今はそんなことはどうでもいい。
「貴様、私は敵ではないというのがわからんのかッ!?」
「これは異なことを仰る……貴方はこのゲームのルールをご存じですか?
 無事元の世界に帰還出来る陣営はたった一つ。よって、貴方と私は敵になるのですよ」
「ええい、そんなことは分かっているッ! 今はそれでも手を組もうと申し出ているのだッ!」
「それは都合のいい弱者の考えです」
 そういって、ユートピアは一本のステッキを取り出した。
 アポロガイストにはもうこれ以上の油断は許されない。
 奴の動きよりも早く、アポロガイストはマグナム銃を突き付け銃弾を放った。
 仕留める気はない。こちらにも実力はあるのだということを示す為の、いわゆる威嚇射撃だ。
 しかしアポロガイストの思惑に反して、放たれた銃弾はユートピアを目前にしてぴたりと止まった。
「――何ィッ!?」
 構わず次の銃弾を放とうにも、引鉄にかけたアポロガイストの指が動かない。
 否、指だけではない。爪先から頭まで、身体すべてがぴくりとも動かなくなったのだ。
 それはまるで、見えない何かに身体をぐっと抑えつけられているかのようだった。
「貴様、何をしたのだ!?」
「これから死ぬ貴方に教える必要はありませんよ」
 酷薄極まりない嘲笑混じりの言葉。
 奴はここでこのアポロガイストを仕留める気なのだ。
「ええい、ふざけおって! いいのか、私を殺せば後悔する事になるぞ……!?
 私は仮面ライダーどもにとっては大迷惑な存在だが、悪の怪人にとってはこの上なく有益な存在だというのにッ」
「……、ほう? 仮面ライダーの……」
 そこで、ユートピアの動きが止まった。
 どうやら、仮面ライダーという言葉に反応したように見える。
 とするなら、奴もまた自分達と同じ「仮面ライダーの敵」ということか。
 であるならば、尚更手を組まないワケにはいかなくなるというものだ。
「どうだ、少しは話を聞く気になったか?」
「……いいでしょう。どの道貴方の殺生与奪は握ったも同然です。
 そこまで言うなら聞くだけは聞いて差し上げますよ、貴方の話」
「そうか、ならば――」
「――ただし」
 アポロガイストの言葉を遮って、ユートピアはキッパリと言い切った。
「貴方の拘束を解除する気はありません」
「なっ……」
「また、貴方が私にとって有益な存在でないと判断した場合……
 この話し合いは即刻決裂。すぐにでも命を奪わせて頂きますが」
「む、むう……ッ」
「よろしいですね?」
「し、仕方ない、その条件を呑んでやるのだ!」
 アポロガイストは渋々ユートピアの条件を呑んだ。
 癪ではあるが、殺生与奪を握られた今、下手な発言はそのまま死に繋がる。
 だが、これはこの場をやり過ごし、上手くゲームを生き延びる絶好のチャンスでもある。
 失言は許されない。必ずここでこの男を味方につけて、生き延びねばならない。
 ほんの小さなミスすらも許されない、二大組織の幹部同士の取引が始まった。

          ○○○

 加頭は正直、アポロガイストの生死に関してはどうでもいいのだった。
 この男がユートピアの敵ではないと分かった今、泳がせておいても問題はない。
“いえ、むしろ――”
 むしろ、この男を泳がせておくことが自分と愛する冴子の利に繋がるなら……
 ミュージアムを幾度となく苦しめた仮面ライダーに仇成す事に繋がるなら……
 今すぐにここで殺してやるのは、やや惜しいことなのではないかとすら思えたのだ。

 簡単な自己紹介を終えた両者は、先の拘束状態を維持したまま会話を続ける。
「では、アポロガイストさん。貴方と手を組む事で得られるメリットを簡潔に教えて頂きたいのですが」
「うむ、心して聞くが良い」
 状況に似つかわしくない不遜な態度でもって、アポロガイストは饒舌に語り出した。
「では、まず簡単な確認から始めよう……なに、案ずることはない。本当に簡単な確認なのだ……」
「このゲームのルールは、味方以外の参加者を皆殺しにするバトルロワイアル方式……」
「簡単な話なのだ……ここまでは分かるな?」
「そこでだ……優勝するためにはどうすればいいと思う?」
「地道に全員殺して回るのか?」
「馬鹿正直にルールに従って、正攻法で青以外を皆殺しにするのか?」
「それもいい……力に自信があるならそれも立派な手段といえよう……」
「……しかしだッ!」
「この場には仮面ライダーどももいるのだッ奴らは必ずこのゲームを打破するため手を組むだろうッ!」
「そう、厄介な連中なのだ! 我々悪の怪人にとっては、この上なく厄介な連中なのだッ!!」
「そんな相手に……陣営に関係なく徒党を組む奴らに……我々悪の組織だけ、色の縛りに拘っていてよいのか!?」
「いいや……私はそうは思わないのだッ……奴らが手を組むなら、我ら悪の組織も手を結ぶべきではないのか!?」
「そう……簡単な話だ……本当に、簡単な話なのだ!」
「我々悪の組織も一致団結すればいい……何も永続的にとは言うまい……」
「我ら共通の敵を葬り去るその時まで、一時的にでいいのだ!」
「どうだ、魅力的な提案だとは思わんか?」
「仮面ライダーを葬ったあとのことは、我々だけで考えればよいではないか……?」
 アポロガイストは言いたい事を言い終えたのか、ふっと笑い、滔々と一息吐いた。
「……なるほど」
 その力説っぷりや見事。
 圧倒的に不利なこの状況を思わせぬ程の朗々さであった。
 そしてそんなアポロガイストの言い分には、確かに一理あると加頭も考える。
 おそらく、仮面ライダーWはあのワイルドタイガーとやらともきっと手を組むだろう。
 それが一人二人ならばまだしも、もしも大集団を組んで襲い掛かって来られたら……?
 ユートピアが負けるとも思えないが、それでも過信は禁物だ。
 来るべき大決戦に備えて、出来る限り味方を多くつけておくに越したことはない。
 陣営は違えど「仮面ライダーの敵」という共通の認識を持つこの男は、確かに有益であろう。
 そもそもユートピアの敵でもない以上、ここで殺す必要もないように思える。
 この男、このまま泳がせておくのも悪くはない。
「貴方の言い分はわかりました」
「では、私と手を組むか!?」
「ええ……構いませんよ」
 ユートピアはアポロガイストの拘束を解除し、手を差し伸べる。
 二大組織の大幹部は互いに手を掴み合い、ここに同盟締結の証を立てた。
“もっとも、あくまで「仮面ライダーどもが消えるまで」のあいだですが”
 この男もそれは分かっているのだろうから、改めてそれを言う程加頭は不粋ではない。
 一時的に仲間になった男と共に、加頭は園咲邸へと歩を進めた。

           ○○○

「……ん、もう夕方か」
 まどろみから覚めた門矢士は、壁の時計を見て時間の経過を悟った。
 ここは秋葉原からやや西へ逸れた地点にある、何の変哲もない民家の一室だ。
 オーズらとの戦いが終わってすぐに移動を開始した士は、この民家で二時間程度の仮眠をとっていた。
 体力はまだ万全とは言い難いが、それでもかなり回復している。
「こんな生活にも随分と慣れちまったもんだな」
 多くの仮面ライダーとの連戦を勝ち抜き、破壊の限りを尽くし、追われる身になり、
 限られた時間の中で身体を癒して、また次のライダーを破壊して回る。
 そんな毎日を繰り返してきた士にとって、現状は窮地とすら呼べないものだった。
 元々人間離れした治癒能力を持っていることも手伝って、士はこれ以上の休息は必要ないと感じていた。
 これならもう戦える。
 また仮面ライダーを"破壊"出来る。
 純粋な使命感に突き動かされるように。
 士は民家を出て、ライドベンダーに跨った。
「さて、次は何処へ向かうか」
 行くアテなどはない。
 何処に誰が居るかもわからないのだから、それも当然だ。
 だが、どうせ行くならば人が沢山いそうな場所がいい。
 とするなら……そうだ、やはり中心部へ向かうのが一番手っ取り早い。
 次の目的地を決めた士は、勢いよくスロットルを捻りバイクを発進させた。

          ○○○

 未だ太陽は高く昇っている。時間帯はまだ午後くらいだろう。
 加頭のスーツは現在、園崎邸の日当たりのいいテラスに干されている。
 代わりに加頭が着るのは「霧彦」という男が使っていたバスローブだ。
 締まりのない姿だが、着るものもなしに裸で過ごすよりは幾分かマシである。
 アポロガイストとの出会いから経過した時間は軽く小一時間程度だろうか。
 悪の組織の幹部二人による情報交換はここ園崎邸にて行われていた。
 内容は主に、両者の知人と、敵対関係にある者についての共通認識の確認。
 どうやら門矢士、海東大樹小野寺ユウスケの三人は敵で、月影ノブヒコが味方らしい。
“よもやあの男がアポロガイストさんの仲間だったとは。私、思いもよりませんでした”
 話に聞いた情報を、記憶の中の月影/シャドームーンの姿と照らし合わせる。
 奴がアポロガイストの仲間だったというなら、それは奴と交戦した加頭にとってやましい事実だ。
 やましい事実ということは、下手に言わない方が賢いということだ。
 加頭は内心を感じ取らせぬポーカーフェイスで告げた。
「――分かりました。では、もし私が先に月影さんと出会った場合は、私からも同盟の話を持ちかけておきましょう」
「うむ、それが良いのだ。何といっても我々は同じ悪の組織同士、もう味方なのだからな」
 アポロガイストの言葉に、加頭は不敵に口角を吊り上げ頷いて見せる。
 が、その内面は表向きの顔とはまったくの無関係である。
 一度月影と交戦した経験のある加頭にとって、月影は既に立派な警戒対象だ。
 大体、あの月影が素直に加頭を味方として受け入れてくれるとも思えない。
 結局のところ、月影ノブヒコは油断ならない強敵だ。
 ならば今はまず、情報集めに徹するべきだろう。
「……門矢士、海東大樹、小野寺ユウスケ、以上の三名の情報は概ね把握しました。
 あとは貴方のお仲間の月影ノブヒコさんの情報も詳しく知っておきたいのですが」
「ん? 月影の情報など聞いてどうするのだ?」
「情報を持つことは決して無駄にはなりませんよ」
 それに、と付け加えて、口元だけで不敵に笑う加頭。
「突然ですが……私、話していて分かったんです。貴方は実に優秀な方だと。
 貴方ほど聡明な大幹部は、私が所属する組織を探しまわっても二人といません。
 そんな貴方から見た客観的な判断を踏まえて、今後の作戦を練っていきたいのです」
「ほう……! 貴様、中々見る目があるではないか。いいだろう、私の知る情報を優秀な仲間である貴様に教えてやるのだ!」
 その言葉に続いて、両者、互いにシニカルな笑みを交わし合う。
 本当に加頭がそんなことを考えているのかなど、言うまでもない。
 相手を上手くおだてて情報を聞き出すのは、取引の常套手段である。
 気分を良くしたアポロガイストは、月影の情報を教えてくれた。
 奴の強力な力の源は、その腹部に埋め込まれたキングストーン、月の石。
 対になる太陽の石を持つ仮面ライダーとは宿敵の間柄にあるのだとか。
 しかし、大幹部の間で共通認識として公開されているデータはそこまで。
 それ以上の詳しいデータはアポロガイストにも分からないという。
 が、加頭にとってはそれだけでも十分過ぎるほどだった。
 力の源が分かったということは、即ち弱点を見出したことに他ならない。
 もしもまた戦う事になればそこを狙って潰しに掛かろうと頭の片隅で考えておくことにした。
「……貴重な情報感謝します。しかし、この場にそのブラックサンが居ないなら今の情報も聞く意味はあまりありませんでしたね」
「だから言ったではないか、月影の情報など聞いてどうするのだと」
 加頭が奴の弱点に目を付けたことに気付かれてはならない。
 話をキングストーンに持っていかないように注意しながら、加頭は月影の話を終わらせた。
「さて、情報交換はこんなところでしょうか。そろそろ私の服も乾きますし」
「うむ、私もそろそろ動き出したいと思っていたところなのだ」
「私はこのまま北上しようと考えています。貴方はどうしますか?」
 ハンガーに掛けられた白服を手に取りながら問う。
 加頭としてはこの男を適当に泳がせて、邪魔な仮面ライダーどもを間引かせた所だが。
「私はアテもなく彷徨うつもりなのだ。まずは月影と合流しない事には始まらんのでな」
「そうですか。ではお気を付けて」
「貴様もな。精々仮面ライダーどもに出し抜かれないように気を付けるのだ」
 その言葉を最後に、アポロガイストはデイバッグを持って屋敷をあとにした。
 誰も居なくなった部屋で着替えを済ませた加頭は、自分も出発しようとデイバッグに歩み寄る。
「ん?」
 そこで、加頭は足元できらりと光る何かを見付けた。
 場所は、ついさっきまでアポロガイストが座っていた椅子の下。
 彼が落として、そのまま気付かずに行ってしまったのだろうか。
「……貴重な支給品を、お気の毒に」
 薄い笑みすら浮かべながら、加頭はそれを拾った。
 それは黄色い外装に青い端子の、加頭も良く知るT2ガイアメモリ。
 刻まれた刻印は「N」。ナスカの記憶を内包したメモリだ。
「……これは冴子さんに渡しましょう」
 加頭はそれを見た時、即座にそう考えた。
 園咲冴子は今も旧世代のナスカメモリで戦っている筈だ。
 そんな彼女に、T2ナスカメモリをプレゼントしようと考えるのはごく自然な流れだろう。
 しかし加頭は、そこで一つの可能性に思い当たった。
「……まさか、私が"貴方"を冴子さんに渡そうと考えることまで察して?」
 そう、言葉を発する筈のないナスカメモリに尋ねる加頭。
 T2ガイアメモリは所有者と"運命"で惹かれあう性質を持っている。
 そうするとなると、まさかこのメモリが自ら冴子の下に行こうとして……
 わざとアポロガイストのデイバッグから抜け落ちて、加頭に拾わせたのだろうか?
 それも可能性としては大いにあり得るが、いや、今はそんなことを考えても仕方がない。
「……いいでしょう、少々チープな条件ですが、これは私と"貴方"の契約です。
 私が"貴方"を無事冴子さんの元まで送り届けると約束しましょう。
 運賃として、それまで"貴方"には私の手足として働いて頂きたい」
 ナスカメモリの返答を待たずに、加頭はそれをポケットにしまった。
 ユートピアメモリがある以上ナスカメモリに出番が訪れるかは些か疑問だが。
 それでもこの場には、あの"エターナル"と惹かれあった大道克己も居る。
 奴が相手ならば、従来のユートピアではまず勝ち目がないのだ。
 いざという時の保険としてT2を持っておくことも悪くはない。
 加頭は新たな取引相手を引き連れて屋敷をあとにした。

           ○○○

 幾つかの街を巡り歩いたガイは、この殺し合いの規模について思考する。
 まず、この広大な土地。地図に記された一マスあたりの直径はおそらく五キロ程か。
 もう二時間近くも歩き続けているが、それでもまだ地図のほんの一部しか歩いていない。
 これだけの会場の用意には、少なくとも大ショッカークラスの大組織の力が必要不可欠だ。
 しかし、それだけの規模を誇る大組織が大ショッカー以外にあるなど、ガイは知らない。
 仮にあるとするなら、そんなものは真っ先に大ショッカーに統合されるか潰されるかの運命を辿る筈だ。
 それを、あの真木清人は我ら大ショッカーに何も悟らせぬまま、
 あろうことか大ショッカーの大幹部を二人も誘拐してのけたのだ。
 ハッキリ言って、これは異常だ。
 考えれば考える程に、有り得ない話だ。
 そこまで考えたガイが次に意識を向けるのは、
“この会場のスマートブレインにBOARD、それにATASHIジャーナル……
 そのどれもが九つの仮面ライダーどもの世界の土地に間違いはないのだ”
 二時間もかけてガイは「555」と「剣」の世界を模倣した土地を巡り、「龍騎」の世界にまで辿り着いていた。
 その間、ただ無駄に歩き続けるような無能では大幹部の名がすたるというもの。
 ガイはそれぞれの街を通りすがりながら、地図に示されたランドマークを一つ一つ確認して回ったのだ。
 そして大ショッカー大幹部ともあろう男は、この目で見た真実を違えはしない。
 今なら断言出来る。
 この場にある九つの仮面ライダーの土地は、どれも限りなく本物に近い。
 もっとも、一つ一つの世界に土地勘を感じるほど見知っているとはいえないが、
 それでもスマートブレインハイスクールやBOARD社ビルを見間違えはしない。
 以上の見解を踏まえて考えるに……
“この殺し合いには偉大なる我らが"大首領"の意思が介在しているのではないか?”
 そう考えれば、解せぬ点が多いとはいえ、辻褄があう点もまた多い。
 この規模の大会場を用意し、六十人以上の大誘拐を一度にこなすだけの組織力。
 そして、ディケイドを含む仮面ライダーどもをこれだけ多く拉致する、その人選。
 それら全てが大首領様のお考えであると考えれば、
 仮面ライダーどもですら手を焼く"大幹部"を二人も拉致出来た事にも納得がいく。
“するとなると、私と月影には殺し合いを促進させるという役割が任されているのではないか?”
 ディケイドやクウガらが参戦しているのは、この機に奴らを一気に殲滅するためではないだろうか。
 さっき戦ったゾンビどもも、大ショッカーの仇となる可能性があるから始末しろと、そう言いたいのではないか。
 その可能性は、決してないとは言い切れない。
 むしろ、そう考えた方がガイの中の謎は、すっと腑に落ちてくれる。
 新たな可能性に行き当たったガイは、一度脚を止めひとり思考の海に潜っていた。

「――む?」
 そんなガイの耳朶を打つ、遠くから聴こえるバイクの走行音。
 数秒と経たず、ガイを視認出来る距離まで迫ったバイクは、そこで急停止をした。
 運転手は、その長い脚でカウルを跨ぎ、悠々とバイクから降り立った。
 その男の姿を、ガイが見間違えるワケが無かった。
 そいつは、何度も辛酸をなめさせられてきた宿敵――
「貴様ッ、ディケイドッ!!!」
 ヘルメットを脱いで素顔を晒す男の名は門矢士。
 殺気に満ちた双眸できっとガイを睨みながら、士は呆れ半分に言った。
「アポロガイストか……本当に蘇っていたとは、相変わらず迷惑な奴だな」
「何の話をしているのかは知らんが、私は貴様にとって最も迷惑な存在!
 ここで会ったからには、今日こそ貴様を葬り去ってくれるのだッ!!」
「ハァ……迷惑だって自覚してるなら出てくるな」
 嘆息と共にそう告げたディケイドは、懐からバックルを取り出した。
 ガイももう何度も見慣れた光景――ディケイドライバーによる変身。
 しかし、士はそれをする直前で何かに気付いたように手を止めた。
「そうだ、お前なんか丁度いいな」
「何ィッ!?」
「お前知ってるか? "再生怪人は弱い"って法則を」
「……再生怪人、だとッ!?」
 確かに、数ある悪の組織の中でも再生怪人がいい結果を残した記録はない。
 どの世界の再生怪人も、たいていは再生前以上にあっさりやられるのが常だ。
 だが、今この状況でその話題を出される理由が、ガイにはまるでわからなかった。
「鈍い奴だな。一度倒されたお前なんか、今の俺の敵じゃないんだよ」
「貴様、何の話をしている!? 私が一体、いつ貴様らに倒されたというのだッ!」
 ガイの問いに対し、返ってきた返事は言葉ではなく、モノだった。
 士が敵意を込めてブンと投げ付けてきたソレを、ガイは危なげなく平然とキャッチ。
 ガイに投げ渡されたのは――金の紋章が刻まれた漆黒の箱。
 それが何であるか、それくらいはガイも知っている。
 ――龍騎のカードデッキだ。
「ソイツをお前にくれてやる」
「貴様ァ! 一体何のつもりなのだ!?」
「ハンデだ、俺はそれを使ったお前をブッ潰す」
 嘲笑う士の、その傲岸不遜な言葉に、怒りがふつふつと込み上げる。
 この大ショッカー大幹部を前にして、ハンデだと? 再生怪人だと?
 ワケのわからない嘲りに、プライドの高いガイはこの上ない屈辱を覚えた。
「おのれディケイドォォッ! ナメたことをほざきおってェェッ!!」
「御託はいいからかかってこい、アポロガイスト!」
 士の挑発に乗せられるままに、ガイは右隣のビルの硝子窓にデッキを翳す。
 現れたVバックルにまるで怒りをぶつけるように。
 ガイはデッキを荒々しくバックルに叩き込んだ。

           ○○○

「……これはこれは」
 呆れすら混じった、嘲笑混じりの加頭の声。
 園崎邸から北上を開始した加頭が最初に出会った参加者は――月影ノブヒコだった。
 されど、月影ノブヒコの姿は既に、生きた人間としての形を保ってはいない。
 真っ赤な血で出来た水溜りに転がる月影の顔面は蒼白。
 頭部から少し離れたところに、鮮血で汚れたスーツの身体が横たわっている。
 それは――何者かに斬首され殺された月影ノブヒコの遺体だった。
「私、貴方の事を過大評価しすぎていたようです」
 物言わぬ躯に言葉をかける加頭。
 ガイから話を聞いた時は警戒したものだが、正直こうも早く脱落されたのでは拍子抜けだ。
 次に戦うことがあれば、一切の慢心を捨て心して掛かろうと思っていたのに……その矢先にコレでは。
 間抜けな死に顔を晒して横たわるこの男のことを思えば、どうやらそんな心配もそれも杞憂だったらしい。
 ふっ、と小さく口角を歪めて、そのまま加頭は方向転換をし――
「……いえ」
 ――立ち去ろうかと思いきや、そこでふと思いとどまった。
 加頭は、ガイから聞いたこの男の力の源のことを思い出したのだ。
 確か、腹部に埋め込まれたキングストーンとやらが云々と言っていたが……
「……折角ですから」
 デイバッグから取り出したガイアドライバーを自らの腹部に装着。
 次にポケットから金のメモリを取り出した加頭は、その名を高らかに響かせる。
 ――UTOPIA――
 加頭の手から滑り落ちたメモリが、ひとりでにベルトに吸い込まれていった。
 加頭の身体が青い炎に包まれたその刹那、加頭の身体はユートピアドーパントへと変身。
 理想郷の杖を構え、月影の遺体を一瞥するや、遺体がふわりと宙に浮かび上がった。
「ふむ……」
 顎に手を添え、品定めするようにじっくりと遺体を眺め、
 そして次の瞬間、ユートピアは自らの腕を、遺体の腹部にズブリと叩き込んだ。
 飛び散る鮮血。強化された黄金の腕が、容易く肉を貫通して、そのまま腹部の肉を撹拌する。
 ぐちゅりぐちゅりと音を立てて遺体を破壊し、間もなくユートピアはその手に硬質な何かを掴んだ。
 骨ではない。それは、人間の身体にはある筈のない異物である。
「ああ、コレですね」
 遺体から腕を引き抜くと同時に、糸の切れた人形のように、その身体はぼとりと地面に落ちた。
 落ちた月影の身体が地べたに出来た血だまりに跳ねて、真っ赤な血がユートピアの身体にもかかる。
 が、所詮これは変身態だ。変身さえ解けば消え去る汚れを気にすることもない。
 血の汚れなど意にも介さずに、ユートピアは抜き取った物体を眇めた。
 緑色の丸い宝石……これこそが話に聞いたキングストーン、月の石か。
 使い道はないが、持っていて損をするものでもあるまい。
 ユートピアは地に濡れたそれをかるく手で払い、月影に背を向けた。
 背後の月影の遺体には、真っ赤な炎が灯っていた。
 腹部を破壊された胴体も、転がった頭部も、撒き散らした鮮血も。
 それら全てを跡形もなく焼き払わんと、加頭が放った炎が拡がってゆく。
 このまま燃え続ければ、そう時間を掛けずに月影はただの消し炭になるだろう。
 大ショッカー大幹部ともあろう男の遺体をいつまでも放置しておくわけにはいかない。
 これ以上こんな場所で無様な死に様を晒させ続けるのは、あまりにも酷ではないか。
 これは、同盟を組んだ組織の大幹部である彼への敬意を込めた火葬だ。
“……いえ、すいません。そんな殊勝な性格、してません……私”
 内心で浮かべた考えを自ら否定して、加頭は口元だけでクスリと笑った。
 ここは殺し合いの場だ。不用意に遺体を残しておいて、何が命取りになるかも知れない。
 自分が少しでも関わった遺体など、証拠隠滅の意味も込めて消しておいた方がいいに決まっている。
 自分にとってマイナスにしかならない男を相手に、敬意を込めた火葬だなどと誰が考えるものか。
 他者には絶対に伝わらない自分の中限定のギャグに気を良くした加頭は、自らメモリを排出。
 金のメモリと緑の宝石をスーツのポケットにしまった加頭は、何処へともなく歩き出した。


【一日目 午後】
【E-4/市街地】

加頭順@仮面ライダーW】
【所属】青
【状態】健康
【首輪】80枚:0枚
【装備】ユートピアメモリ+ガイアドライバー@仮面ライダーW
【道具】基本支給品、T2ナスカメモリ@仮面ライダーW、月の石@仮面ライダーディケイド、ランダム支給品1~3
【思考・状況】
基本:園崎冴子への愛を証明するため、彼女を優勝させる。
1.参加者達から“希望”を奪い、力を溜める。
2.T2ナスカメモリは冴子に渡すが、それまでは自分が使う。
【備考】
※参戦時期は園咲冴子への告白後です。
※回復には酵素の代わりにメダルを消費します。
※アポロガイストからディケイド関連の情報を聞きました。

【全体備考】
※E-4南部で月影ノブヒコの遺体が燃えています。
 そう時間を掛けずに完全に燃え尽き、消し炭になることでしょう。


           ○○○

 ディケイドは今、市街地のど真ん中で何処から来るかもしれない攻撃に備えていた。
 アポロガイストに龍騎のデッキを渡し、互いに変身し、幾度か攻撃を交わし合い、
 そしてディケイドの幾度目かの攻撃で奴が鏡の世界へと飛び込んだのだ。
「チッ……何処から来る」
 見渡すが、周囲には数えきれない程の窓ガラスがある。
 これは過去に一度、自分もアポロガイスト相手に使ったことのある戦法だ。
 自由に鏡の中へ逃げ込み、予想外の場所からの奇襲で一気に畳み掛ける……
 ディケイド龍騎が用いる戦法を、奴はそのまんま真似たのである。
“まあいい、次出てきたら一瞬で決めてやる”
 だがしかし、数々のライダーを葬ってきたディケイドにとっては、
 今更その程度の戦術は力量の差を埋めるハンデには成り得ない。
 ディケイドには、まだ幾らでも手札が残っているのだ。
 次に奴が飛び出して来れば、その瞬間にクロックアップを発動すればいい。
 停止した時間の中で、ファイナルアタックライドでも決めればそれで終わりだ。
 何人ものライダーを屠ってきた凶悪な戦法を頭の中で組み立てるディケイド。
 ……されど、どれだけ待っても龍騎がミラーワールドから出てくる事はなかった。
 そして、流石に痺れを切らしたところで、ディケイドはシンプルな答えに気付く。
「――あいつッ」
 苛立ちを込めて叫ぶ。
「逃げやがったッ!!」
 いつまで待っても奇襲はこない。
 ということは、つまり奴は龍騎の力を逃げに使ったのだ。

 バックルを外し、ディケイドの変身を解除しながら、士は黙考する。
 奴は仮にも悪の大幹部だ。正々堂々と勝負を仕掛けてくる仮面ライダーとは違う。
 不利だと思えば逃げるだろうし、デッキを得た上で逃げられるなら奴にとってはプラスで終われる。
 長い仮面ライダー同士の戦いと、一方的な自分の凶悪戦法の連続で、士は奴ら「悪」のやり方を忘れていたのだった。
“チッ……まあいい。龍騎のデッキは俺が持ってても仕方ないからな”
 士の考え方は、一つの目的を定めたその時からいつだって前向きだ。
 これで龍騎が相手ならば、一切の遠慮もなく破壊する理由と気兼ねが出来た。
 次にアポロガイストが変身した龍騎を見掛けたら、ミラーワールドに逃げ込むスキなど与えはしない。
 見付けるや否や持てる限りの凶悪戦法を駆使して、一瞬で勝負をキメてやる。
 アクセルやオーズを相手にした時のような生温いやり方をしてやるつもりもない。
 そう、士はもう、勝負をする気すらないのだ。
 奴との戦いは一瞬だ。全て一瞬で終わらせてやる。
 そう心に決めながら、破壊者は再びバイクに跨った。


【一日目 夕方】
【D-6/市街地】

【門矢士@仮面ライダーディケイド】
【所属】無
【状態】健康、苛立ち、ダメージ(小)
【首輪】60枚:0枚
【コア】サイ、ゾウ
【装備】ライドベンダー@仮面ライダーOOO、ディケイドライバー&カード一式@仮面ライダーディケイド
【道具】基本支給品一式×2、キバーラ@仮面ライダーディケイド、ランダム支給品1~4(士+ユウスケ)、ユウスケのデイバック
【思考・状況】
基本:「世界の破壊者」としての使命を果たす。
 1.「仮面ライダー」と殺し合いに乗った者を探して破壊する。
 2.邪魔するのなら誰であろうが容赦しない。仲間が相手でも躊躇わない。
 3.セルメダルが欲しい。
 4.アポロガイストは次に見付けた時には容赦しない。
 5.最終的にはこの殺し合いそのものを破壊する。
【備考】
※MOVIE大戦2010途中(スーパー1&カブト撃破後)からの参戦です。
※ディケイド変身時の姿は激情態です。
※所持しているカードはクウガ~キバまでの世界で手に入れたカード、 ディケイド関連のカードだけです。
※アクセルを仮面ライダーだと思っています。
※ファイヤーエンブレムとルナティックは仮面ライダーではない、シンケンジャーのようなライダーのいない世界を守る戦士と思っています。
※一度倒したアポロガイストがここにいるのは、再生怪人として蘇ったからだと思っています。


           ○○○

 鏡の世界から飛び出した龍騎は、何度か周囲を見渡して、追手が来ないことを確かめる。
 ミラーワールドの中を、ライドシューターで駆け抜けて一気に移動してきたのだ。
 如何なディケイドであろうと、今から追い付くことは出来まい。
 ガイは、ふうと一息ついてVバックルからデッキを引き抜いた。
「クク、ディケイドめ、馬鹿な奴なのだ」
 上手く逃げ延びたガイは、宿敵を嘲笑う。
 ガイには端からディケイドを倒すつもりなどなかった。
 というよりも、今はまだ、その時ではないと判断していた。
 そもそも、今の奴はガイが良く知るディケイドではない。
 戦闘能力も、その殺気も、以前の比ではないのだ。
 それを幾度かの激突で見抜いたガイは即座に戦法を切り替えた。
 能力の知れぬうちは無理に戦う必要はないし、デッキを手に入れただけでも今はプラスだ。
 ましてやこれは殺し合い。ガイが放っておいても、奴は勝手に他の参加者によって消耗させられるだろう。
 叩くなら、その時だ。憔悴し切ったその時、ミラーワールドからの奇襲で一気に潰すのだ。
 その為に今は屈辱に耐えて、戦略的撤退を計ったのである。
「覚えておれよ、ディケイド……私にこのデッキを渡したこと、必ず後悔させてやるのだ」
 そう、自分は宇宙で最も迷惑な男アポロガイスト。
 デッキを奪われただけでも既に奴にとっては大迷惑だろうが、そんな程度では終わらない。
 もっともっと奴にとって大迷惑の限りを尽くし、最後にはこの手でその首級を取ってやろう。
 野心を新たに、ガイは龍騎のデッキをポケットにしまい歩き出した。


【一日目 夕方】
【D-5/市街地】

【アポロガイスト@仮面ライダーディケイド】
【所属】赤
【状態】疲労(小)
【首輪】70枚:0枚
【装備】龍騎のカードデッキ@仮面ライダーディケイド
【道具】基本支給品、ランダム支給品1~2
【思考・状況】
基本:参加者の命の炎を吸いながら生き残る。
1.龍騎のデッキを上手く活用して生き残る。
2.この殺し合いはゾンビが多いのだ……
3.ディケイドはいずれ必ず倒してやるのだ。
4.真木のバックには大ショッカーがいるのではないか?
【備考】
※参戦時期は少なくともスーパーアポロガイストになるよりも前です。
※アポロガイストの各武装は変身すれば現れます。
※加頭から仮面ライダーWの世界の情報を得ました。
※この殺し合いには大ショッカーが関わっているのではと考えています。


065:愛憎!! 投下順 067:ドミナンス
065:愛憎!! 時系列順 067:ドミナンス
042:Uの目指す場所/ボーダー・オブ・ライフ(前編) アポロガイスト 078:ナイトメア・ビフォア(前編)
加頭順 071:仲【あらわれたきけんなおとこ】
059:迷いと決意と抱いた祈り(前編) 門矢士 078:ナイトメア・ビフォア(前編)


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最終更新:2012年11月23日 11:49