電脳亡霊のメッセンジャー◆z9JH9su20Q




「俺だ。現地に到着した」
「……それ、毎回しなくちゃいけないの?」
 助手席を降りて早々。どこにも繋がっていないケータイに話しかけた俺の奇行に対し、それが三度目の目撃となった暁美ほむら改めコマンダーは、呆れ調子のまま呟いた。
 女子中学生から浴びせられる冷たいリアクションにも負けず、俺は一人囁きを続ける。
「ああ、これから敵艦に向かう……問題ない。俺を誰だと思っている? コマンダーの面倒も任せておけ」
「…………」
 無言のままコマンダーが歩き出す気配を感じ、慌てて別れの合言葉を唱えた俺は、ともすれば闇の中に見失ってしまいそうな小さな背中を追いかけた。
「おい待てコマンダー。ああは言ったが、どうやってあそこまで行くつもりだ?」
 歩幅の差か、すぐに追いつけた――目と鼻の距離にいる少女よりも、よほど雄弁な存在感を放っている目的地を、俺は顎を使って指し示す。

 灯り一つない海の上。先程使ったケータイの色合いすらはっきりしない夜闇に包まれているにも関わらず、浮かび上がるその巨大なシルエットで圧迫感を伝えて来る、鋼鉄の塊。

 原子力空母『オズワルド』。G-3エリアの歪な港に停泊したその軍艦が、桂木弥子魔界探偵事務所の次に俺達の選んだ目的地だった。

 中央部や秋葉原と比べて、現在位置から格段に近い位置にあったこと。そして何より、魔界探偵事務所――“魔界”という、俺達と未だ見ぬ同志桂木弥子を繋ぐ単語は今後も忘れずに記しておきたい――で発見した、一つの資料がこの決定を選ばせた。

 それは、電人HALと自称するテロリストの起こした原子力空母『オズワルド』乗っ取り事件を、桂木弥子が解決したと報じる新聞だった。
 この一つの紙資料により、地図だけではその正体が掴めなかった巨大船オズワルドの分類がはっきりした。軍艦なら何らかの戦力の補充に繋がる物もあるのではと予想し、コマンダーが次の目的地にと主張したのだ。

 軍艦なら武器があるのでは、というコマンダーの考えは正直なところ、俺には疑問に思えた。おそらく彼女は警察署でG3ユニットを手に入れた経験を踏まえているのだろうが、あれはそもそもが彼女の支給品だったのだ。現地調達できる武器、それも軍艦などわかり易い場所から容易く銃火器類が手に入るようでは、支給品というシステムが有名無実化してしまう。軍艦があるからと言って強力な兵器が手に入るというコマンダーの発想は、過去の成功談を安直に、己に都合良く結びつけてしまっているだけにも感じられた。

 とはいえ、前述の通り直近にあるということ。また真木達が敢えて地図に載せた船に更なる新事実の発見を期待し、その提案に乗ることとした。

 しかし、地図から伺えたのと全く同様。オズワルドは繋留されてはおらず、埠頭から何百メートルと離れた位置で浮かんでいた。
 時折人間離れした動きを披露するコマンダーはともかく、運動不足な俺にはこの距離を泳ぎ、乗艦するのは無理だ。しかも冷たい夜の海。仮に決行すれば、俺は誰かに殺されるまでもなく、かなり間抜けな脱落を遂げてしまいかねない。

「残念だがこの鳳凰院凶真、水の上を歩ける加護の類は収めていないぞ」
「……だと思っていたわ」
 故にそのことを遠回しに伝えてみたが、返ってきたのはまたもつんけんとした反応だった。というか、気のせいでなければ鼻で笑ってないかこいつ!?
「私も泳ぐつもりはない。あれを借りましょう」とコマンダーが懐中電灯から放った光線で示したのは、沿岸に繋がれた一隻の小さな漁船だった。
「ああ、あれなら楽そうだが……あれも操縦できるのか?」
 この多芸ぶり、ハワイで親父にでも仕込まれたか、という俺の疑問は軽くスルーされた。

「出すわよ」
 二人して乗り込んで早々、コマンダーが宣言する。
 それを合図に、俺の隣に彼女が腰掛けたまま――何かに手を伸ばすこともないまま、突如として漁船のエンジンが吠えた。
「なぁ――っ!?」
 俺が驚愕に打たれ、間抜けな叫びを上げるその間にも、古臭い漁船はモーター音を鳴らしながら夜の海を漕ぎ出す。こちらが心構えする前に襲いかかった慣性に一度振り回された後、それが無茶苦茶な暴走ではなく、オズワルドを目指して正確に操舵されているのを確認した俺は、コマンダーを振り向いた。

「コマンダー……これもおまえか?」
「ええ、そうよ。言ったでしょう? 裏技があるって」
 コマンダーは俺の問いかけにも、冷淡な調子で頷いた。それを受けた俺は、ほんの少しだけ思案に沈む。
 これまでの同行で、彼女が真木の言う――俺やフェイリスのような妄想ではなく、本物の異能の力を持つ存在であることは把握している。
 ならば、直接触れずに船を操るという魔法のようなこの現象もまた、彼女が引き起こしたものであることは、何もおかしくはない。本人も出発すると宣言したのだし。
 ただ、俺にとってはほんの一度の経験でしかなかったために、すっかり意識する比重が軽くなってしまっていたが……この殺し合いにおいて重要な消耗品を、俺は思い出していた。

「成程――こんな芸当まで可能とは、我ながら良い拾い物をしたものだ。いやこれも、全ては“運命石の扉(シュタインズゲート)”の選択か……」
 ククク……フゥーハハハと、俺は実にわざとらしく高笑いする。
 いい加減慣れたのか、鬱陶しそうでしかないコマンダーの反応は正直少し寂しい。
 そんな彼女に向かって、俺は首輪からセルメダルを放出した。

「見事な働きだコマンダー。これまでの甲斐甲斐しい献身振りを評して、俺から褒美を遣わそう。我が欲望より結晶せしセルメダル、貴様に恵んでやる」
 船の底に散らばる、総計三十五枚のセルメダル。ちゃりんちゃりんと小さく跳ねるそれらは正確にはただの初期支給品なのだが、この言い回しの方が決まっているのだから仕方ない。ご了承下さい。

 おそらく俺は、メダルによる制限を意に留める必要性が薄い。
 少なくとも制限されるような能力は――リーディングシュタイナーがあると言えばあるが、因果律を遡り、物質と精神の乖離する現象に対してメダルによる制限がどこまで影響するのか以前に、そもそもこの殺し合いにおいてDメールを活用できるのかも疑問だ。
 とはいえ万が一の保険として手元には残しておくが、それ以前にこの先生き残らなければ取らぬ狸の何とやら、だ。

 ならば死蔵させるより、一方的にメダル消費を負担しているコマンダーに何割かを提供する方が、よほどチームとして益があると判断したのだ。

 幾度となくタイムリープを繰り返したことを除けば、所詮暇を持て余した学生に過ぎない俺があんなアクション映画のような立ち回りに素で混じれるわけがないとはいえ……ここまで全ての戦闘行為に加え、こんな移動まで殆ど彼女に任せ切りにして来てしまった。
 俺がラボメンの頂点に立つマッドサイエンティストである以上、雑事は全て僕であるコマンダーに任せて当然――などとふざけてばかり居られる状況ではないことも、一応は理解している。

「――どうした。受け取らないのか?」
 ただコマンダーは、突然のことにどう対応したものか迷っているような表情を見せていた。
 真意を探るように向けられたやや開き気味の目を見返し、俺はふふんと鼻を鳴らす。

「案ずるな。こんな首輪程度でこの俺が戒められると思っているのか?
 この鳳凰院凶真、忠実なる部下のためならこの身から無限に湧き上がる力をもっての助力に躊躇などしない……そう言っただろう?」
「……別に、心配なんてしていないわ」
 貴方にメダルは無用の長物でしょうと、生意気ながら真実を口にした後もう一秒だけ黙考して、コマンダーは小さく首肯した。
「そうね……ありがたく受け取らせて貰おうかしら」
 返答したコマンダーが、首輪にメダルを吸い込んだ頃には。
 目的地(オズワルド)は、俺達の前に絶壁のようにそびえ立っていた――



 ――疲れた。
 艦内に潜入し、探索を始めてそろそろ一時間という頃だろうか。
 兵士という、この世で最も体が資本というべき人種による利用が前提の空間に、快適性は期待していなかった。いなかったが、狭い通路を歩き、急な階段を何回も昇り降りするというだけの行為に対し、俺の想定は甘く見積られ過ぎていた。
 また一つ、階段を上がりきったところで俺は膝に手を置いた。キツすぎる……。
 肌寒いぐらいの気温だというのに、額には汗が滲んでいた。白衣が重たい。

「早くしてくれるかしら?」
 そんな俺を冷ややかに見下ろすのは、次の階段を半分ほど上ったコマンダーだ。重篤な病人のように喘鳴を漏らす俺とは違い、息の一つも乱れていない。
 これほどの疲労の蓄積は、甲鈑を調査した際夜風に体力を奪われたというだけでなく、意地を張って彼女のペースに合わせていたというのも大きいだろう。一時間前に追認したばかりとはいえ、華奢な少女に体力で負けているというのは嫌な事実だ。
「ちょ……待っ……」
 我ながら情けない、と感じながらも俺は岡部倫太郎の限界という、素を曝け出してしまっていた。

「この場所を希望したのは貴方なのに……無限の力とやらも、大したことないのね」
 コマンダーの嘲りには、しかし。もっと明確に、別の感情が滲んでいるように思えた。
 それが何であるのかまでは、わからなかったが。
「ぬっ……お、おぉおおおおおっ!」
 ここで俺は、走らねばならない気がした。

 瞠目するコマンダーまで、一息。そこで止まらず、彼女の脇と手摺りの隙間を潜り抜け、その先の頂上へ。
 目指す扉の前に立った俺は、そこでコマンダーを振り返った。
「どぉうだコマンダーよ……この鳳凰院凶真の何が大し……っ」
 そこで咽せた。
「……馬鹿じゃないの」
 喘いでいる俺の下まで歩み寄ったコマンダーは心底から呆れた調子で呟いた。
 ただその声には、冷淡さは余り含まれていないような……そんな気がした。

 その後、コマンダーが開けた扉を潜り、夜風を避けられるようになった俺が動ける程度まで回復するのには暫く時間を要した。ご了承下さい。



 回復した俺達が改めて赴いたのは、オズワルドの艦橋だった。
 ここまでコマンダーの要望に沿い、甲鈑や格納庫を中心に何らかの武器を求め捜索していたが、結局兵器や弾丸どころか火薬の一つすら見当たらなかった。
 露骨に不機嫌になった彼女に対し、俺は自身の目的だった、オズワルドがわざわざ地図に明記されていた理由を探るためとして艦橋の調査を希望したのだ。

 外部から視覚的に遮蔽された格納庫とは異なり、窓のある艦橋で室内灯を点ける気にはなれない。元より消耗しつつあった懐中電灯のか細い光で照らしながら、俺とコマンダーは一室ずつ順繰りに検分して行く。
 とはいえ、何も見つからない。兵器としての機能は削ぎ落とされているのか、通信機やレーダーもコマンダーの異能でも利用不可だった。使えたところで対人戦である殺し合いでは無用の長物かもしれないが、それでも敵になる心配も薄いことは幸いか。
 そんな歯痒い結果だけを集めながら、残すは二部屋だけになっていた。
 無駄足だったか、という不安が膨れ上がる。戦力にせよ情報にせよ協力者にせよ、何一つ掴めずメダルと時間を消費しただけだとしたら……

 しかし開いた扉の奥には、そんな不安を俄かに払拭する景色が広がっていた。
「……スパコン?」
 複数の艦橋の内、他にはない物がそこにあったのだ。
 部屋の奥に備え付けられたのは、俺の背丈の倍もあるような巨大な筐体。 
「……まさかな」
 この船と縁のある存在が要求したという品物を前に、脳裏を過ぎった考えを俺は否定した。

「どうしたの?」
 先に踏み込んでいたコマンダーが、入口で立ち止まった俺を振り返った。
「いや……ここを選んだ経緯を思い出してな」
「……電人HAL事件ね。でも」
「ああ。オズワルドには元々スパコンが搭載されていたらしいからな。おそらくそれだろう」
 そう――大した意味はない、はずだ。
 ただ、他に比べれば何かしら意義のある情報が閲覧できるかもしれない。例えば、この船と関わった参加者である桂木弥子やその関係者について、事件当時の様子などが。

 そんな俺の期待に頷き、コマンダーが壁際に設置されたコンピュータ端末を起動して――



 ――背後で、甲高い轟音が響いた。



 それを認識したのは、目の前からコマンダーの姿が忽然と消えているのに気づいてからだ。
 慌てて音源となった方向に首を回すと、そこに長髪を靡かせた魔法少女の姿があった。
 丸みを帯びた形状のサブマシンガンを片手にした彼女は艦橋の出口に立ち、金属製のはずの階段を蜂の巣に変えてしまっていたのだ。
 特に直撃を受け引き裂かれた通路部分の足場は大穴を空けて拉げ、とても本来の用途には耐えそうにない……って、

「何をしているのだコマンダー!?」

 今にも崩れ落ちそうな階段が破壊される音そのものは今聞いたが、銃声はまるで耳にしなかった。彼女の持つ時間停止能力を発動し、事に及んだということはわかる。
 だが何故、こんな行為に及んだのかがわからない。もしかしなくてもこんなに不安定な階段を降る能力は俺にはないというのに……

 俺の叫びに対し、コマンダーは答えないまま崩れ落ち、尻餅をついた。
 理解が追いつかない突拍子のなさが、銃を持つ相手に近づくという恐怖心を増幅させる。それを、コマンダーが意味もなくこんな行為に及ぶはずがないという理性で説き伏せて、俺は絡まりそうな足を進ませた。
 息が荒い彼女の横にまで歩み寄った時には、ふとコマンダー……ほむらはその人差し指で、ひしゃげた鉄板の隅を指差していた。
「……白い、毛皮?」
 真っ赤な血と共に飛び散った物をそのまま、俺は言葉にして漏らす。
 対してほむらは、己の成したことが信じられないと言った様子で、戸惑い気味に返答を寄越した。
「インキュベーター……よ」
 何者だそいつは、という俺の問いに対し、ほむらは後で話すと首を振った。

「……立ち上げた画面、先に読んでおいて貰えないかしら」
 どこか憎々しげに呟く彼女に、俺は押され気味になりながらも頷いた。
 まるで軽い発作のようにして震えたまま座り込んだ彼女の足を畳ませて、扉を閉じる。これで夜風に冷やされる心配はないだろう。
 それから俺はようやく踵を返し――先程まで沈黙していた筐体が、稼働していることに気づいた。
 ほむらが立ち上げた端末に連動していたのだろうか、などと何でもないように思いながら……徒事ではないのだろうと、俺は予想していた。

 多分、これから覗き込む画面はほむらの突然の行動と、現在の消耗した様子と無関係ではないのだろう。
 彼女の頼んで来た様子からしてその可能性が高いとは言えないが、何かしら危険が伴うかもしれない。覚悟を決める必要がある。
 だが、それでも俺は頼まれたのだ。ラボメンナンバー09である、コマンダー・暁美ほむらから。
 彼女に助力を躊躇しないと告げた手前、逃げるつもりは毛頭無い。

 そして俺は、待機状態から回復させた画面を覗き込んだ。



『警告:首輪には盗聴器が備えられている』



 文章化されたメッセージは、重要ながら極めて単純な内容だった。



『応答には、以下の入力欄への打ち込みを推奨する』
「……そういえば、某国の軍艦だったな」
 なのに映し出された言語は、親切にも日本語だ。
 この程度なら聞かれても構わないだろう。また、俺が英文に苦戦しているかのようにも聞こえることで、内容が差し変わっていることへのカモフラージュにも使えるのではという考えもあった。
 だが何より、この無音の会話が望外の代物であることを予感した俺は、思わず震え出す体を抑えるため、気を紛らわそうと呟きを漏らしていたようだ。
 それを自覚して、深呼吸。一度を目を閉じて思考を統一し、キーボードを操作する。

『目的はなんだ?
 それと、この画面を見てから暁美ほむらの様子がおかしい。何をした?』
 何者であるのかは、問わなかった。
 そこに表示されたシンボルを見れば、俺の知っている相手であることは明白だったからだ。

『ほう……暁美ほむらが、か』
 返答は、最初の印象よりは人間的だった。

『外部情報の受容機能は人体に依存したままとはいえ、電子ドラッグによる命令が魔法少女に通じるのかは確証がなかったが……どうやら影響は出たらしいな。効きの強いVer.2だからなのか、インキュベーターの排除が彼女自身の欲望に沿っていたからなのか、そういった要素は関係ないのか……こんな時でなければじっくり研究したいところだが』

 画面は俗に言うSNSのそれに近い。しかし俺がメッセージを入力してからレスポンスまでは、どんなタイピング速度でも間に合わない空隙しか存在しなかった。
 もっとも、それも予想の範囲内だが。

『ああ、失礼した。今の私の能力は大幅に劣化している。このメッセージも半ば思考を垂れ流している状態に近くてね、やや相互コミュニケーションとしては不適切な形になってしまうこともあるかもしれない』
 恐怖と、ほむらを実験動物のように検分するような物言いにそれ以上の怒りを覚えた俺が次のメッセージを打ち込むよりも早く、相手の独白に近い文章が表示される。

『ふむ。緊張を解す意味も兼ねて、まずは敵ではないということの表明と、後者の返答から行っておこうか。一応集音マイクは生きているのでね、状況はある程度把握できているよ。
 先程述べた通り、彼女には電子ドラッグを介して一つお願いをさせて貰った。
 監視役のインキュベーターの排除及び、完了後に私との情報交換だが……そちらについては自分ではなく君に任せたか。支配力が切れたのか、ドラッグの影響で正常な意志状態でない自分よりも、同行者に任せた方が適切だと思ったのか。魔法少女であるために生じた変化なのかどうかは興味深いところだ』
「ふざけ……っ!」
 そこで、漏らしかけた声を飲み込む。しかし既に零れてしまった声を窘めるように、無音のまま表示される文章が切り替わる。

『誤魔化したまえ。私の耳よりは、距離が近い分首輪の方が聞き漏らしたということはないだろう』
「……コマンダー! 英語はわかるかっ!?」
 咄嗟のフォローに、ほむらはいいえ、と首を振っていた。直前の声と感情の具合が違うと気づかれていれば危ういが、その場凌ぎには難解な英文に不平を漏らしたように演出するのが限界だ。

『思ったよりも彼女と親しくなっているようだね、岡部倫太郎』
 おそらくは声紋を照合する程度の機能はあったのだろう。俺の名前を既に知っていたらしい。
『電子ドラッグの治療薬(ワクチン)は、今の私の家……スパコンの裏側に隠してある携帯端末にインストール済みだ。影響は薄いだろうが、心配なら早く渡してあげたまえ』
 こちらの怒りが伝わったのか、表示されたメッセージは真剣な物になっていた。それを信じて俺はスパコンの背後を探る。
 やがて、固めの手触りを見つける。大きさは掌に収まるかどうかといったところ。引っ掛けていただけだったのか、掴んでみると簡単に取れた。

 出てきたのはありきたりな、プラスチック製のケース。蓋を開けてみると、スマートフォンが手前にあった。
 他にも妙に機械的なデザインのカードが数枚入っていたが、今は無視して取り出す。二又の水色のストラップが付いているのは持ち主の物なのだろうか。
 ホーム画面を確認し、ワクチンプログラムがアイコン化されているのを発見。音声をカットした後、起動したそれをコマンダーに握り込ませる。
「ちょっとそれ、見ててくれ」
 これくらいなら、盗聴されても問題ないだろう。
「岡部……」
「ちゃんと頼むぞ」
 酷く疲れた様子のほむらの呼びかけをそこで遮り、俺は先程チャットしていたモニターの前まで戻った。

『ちゃんと治療できるのだろうな? 事態の収集に三日を要したと聞くぞ』
『それは重度の中毒者での話だ。元より速効性と引換に長期的な支配率を下げたVer.2なら、指令を達成した後は放っておいてもさしたる害にはならないだろう。
 とはいえ、勘付かれる前に奴を排除する必要があったとしても、いきなり洗脳したのは私とて悪かったと思っているよ。だからこそ、お詫びの品としてのワクチンを用意しておいた』
 戻って早々の俺の詰問にも、取り乱すことなくチャットは続けられる。

『その他の支給品も、最初にここへ辿り着き、無事に条件をクリアしてくれた君達への相応の報酬として用意したつもりだ』
『条件とは何だ?』
『難しい話ではない。電子ドラッグの知識を有している方が、洗脳を介すとはいえ奴らに勘付かれず穏便に話ができると想定し、この場で私の名を口にした者が起動してくれた場合のみ、私も反応できるように調整しておいて貰ったというだけだ。後は先程述べたように、この船に居着いていたインキュベーターの排除が該当する』
 成程、現に俺もワクチンの存在を知れていた。それがプログラムであることも含めて、だ。
 もし仮にそのような事前知識がなければ、言われている通りこうして情報交換することなどできやしなかっただろう。

『では改めて聞くが、貴様の目的は何だ?』
『簡単に言えばプレゼントの譲渡、となるかな』
『プレゼント?』
『そうだ。このバトルロワイアルを打倒するために動き、そして私の名を知った上でここまでたどり着くような有望な者達への、な』
 何故俺達が殺し合いに反対していると知っているのか。一瞬疑問に思ったが、おそらく参加者の情報を把握済みで、以後は推測したのだろうと一先ずは納得する。

『報酬はいくつかある。君達に馴染みの深いのタイムマシンの類は確保できなかったがね』
 その言い回しに違和感を覚えながらも、正体までは掴みきれなかった。そしてそのまま、相手の提示する情報力に引っ掛かりは流されて行った。

『例えば戦力として、既存兵器を凌駕する新型の機動兵装。例えば脱出の可能性を秘めた、他者の《夢》に立ち入ることのできる装置』
 そこで――アルファベット三文字を組み合わせたディスプレイアイコン越しに語りかけてきていたそれは、ようやく名乗りを上げた。

『そして何よりこの私――“電人”HALという、メッセンジャーの存在』

 画面を占領する、電人のアイコン。
 桂木弥子の居た日本を震撼させたという大犯罪者と、俺は今、一人で対面していた。

『さて。一先ずは放送までとなるが……話をしようか。岡部倫太郎』



【一日目 真夜中】
【G-3/原子力空母オズワルド 艦橋】


【岡部倫太郎@Steins;Gate】
【所属】無
【状態】健康
【首輪】50枚:0枚
【装備】岡部倫太郎の携帯電話@Steins;Gate、シナプスカード×?(旧式:「ダイブ・ゲーム」含む。他一枚以上)@そらのおとしもの
【道具】無し
【思考・状況】
基本:殺し合いを破綻させ、今度こそまゆりを救う。
 0. “電人”HALとの情報交換を行う。
 1.ラボメンNo.009となった暁美ほむらと共に行動する。
 2.協力してくれそうな人物を探す。主催者に関係しそうな情報も得たい。
 3.ケータロスを取り返す。その後もう一度モモタロスと連絡を取り、今度こそフェイリスの事を訊く。
 4.青い装甲の男(海東大樹)と金髪の女(セシリア)を警戒する。
 5.ほむらはどうやって鹿目まどかを救うつもりなのだろうか。
 6.俺は岡部倫太郎ではない! 鳳凰院凶真だ!
【備考】
※参戦時期は原作終了後です。
※携帯電話による通話が可能な範囲は、半径2エリア前後です。
※メダルルールによる制限にリーディング・シュタイナーは含まれないか、大した影響が出ないものであると考えています。



【暁美ほむら@魔法少女まどか☆マギカ】
【所属】無
【状態】ダメージ(中)、電子ドラッグVer.2視聴済み
【首輪】50枚:0枚
【装備】ソウルジェム(ほむら)@魔法少女まどか☆マギカ、G3-Xの武装一式@仮面ライダーディケイド、電子ドラッグのワクチンプログラム入りスマートフォン@魔人探偵脳噛ネウロ(?)&ミステリアス・レイディ@インフィニット・ストラトス
【道具】基本支給品、ダイバージェンスメーター【*.83 6 7%】@Steins;Gate、阿万音鈴羽の自転車@Steins;Gate、Gトレーラーの鍵@仮面ライダーディケイド、
【思考・状況】
基本:殺し合いを破綻させ、鹿目まどかを救う。
 1.仲間と戦力及びメダルを補充する。主催者に関係しそうな情報も得たい。
 2.バーサーカー、青い装甲の男(海東大樹)、金髪の女(セシリア)を警戒する。次に見つけたら躊躇なく殺す。
 3.岡部倫太郎と行動するのは構わないのだが……。
 4.虎徹の掲げる「正義」への苛立ち。
 5.まどかのことについて誰かに詳しく話す気は無い。
【備考】
※参戦時期は後続の書き手さんにお任せします。
※未来の結果を変える為には世界線を越えなければならないのだと判断しました。
※所持している武装は、GM-01スコーピオン、GG-02サラマンダー、GS-03デストロイヤー、GX-05ケルベロス、GK-06ユニコーン、GXランチャー、GX-05の弾倉×2です。武装一式はほむらの左腕の盾の中に収納されています。
※ダイバージェンスメーターの数値が、いつ、どのような条件で、どのように変化するかは、後続の書き手さんにお任せします。
※GA-04アンタレスをバーサーカーのために消費しました。
※ミステリアス・レイディの待機形態はスマートフォンに取り付けられています。
※電子ドラッグの後遺症については後続の書き手さんにお任せします。



【全体備考】
※【G-3 埠頭】にGトレーラーが鍵をかけた状態で停車しています。
※オズワルドに“電人”HALを名乗る何者かが存在します。下記に抜粋した本文中で描かれた以外の詳細、及びその他HALの真意と発言の真偽、正体等は後続の書き手さんにお任せします。但し、隠し持っていた支給品について現時点では真実のみを述べているようです。
※オズワルドの監視用に設置されていたインキュベーターが少なくとも一匹、暁美ほむらによって殺害されました。またその際艦橋の階段が一部破壊され、利用不可能となっています。
※オズワルドの艦橋にいくつかの支給品が隠されていました。電子ドラッグのワクチンプログラム入りスマートフォン、待機形態のミステリアス・レイディ以外はシナプスカード(枚数は不明)に収納されていますが、シナプスカード(旧式:「ダイブ・ゲーム」)以外はその中身がどの作品出典の何であるのかは後続の書き手さんにお任せします。但し、過去への干渉を可能とする類のアイテムは含まれていません。



【支給品紹介】


  • 電子ドラッグのワクチンプログラム入りスマートフォン@魔人探偵脳噛ネウロ(?)
 原子力空母オズワルドの艦橋に設置されていた支給品の一つ。
 名前の通り電子ドラッグのワクチンプログラムがインストールされ、非ネット環境でも視聴可能となっている。


  • ミステリアス・レイディ@インフィニット・ストラトス
 原子力空母オズワルドの艦橋に設置されていた支給品の一つ。
 更識楯無専用機。第三世代の水色のIS。他のISに比べ装甲が少なく、それをカバーするように左右一対で浮いている『アクア・クリスタル』というパーツからナノマシンで構成された水のヴェールが展開されており、ドレスやマントのような形で装着者を包み防御力を発揮している。兵装である四連装のガトリングガンを内蔵したランス『蒼流旋』、高圧水流を発することができる蛇腹剣『ラスティー・ネイル』の他に、前述のナノマシンを潜ませた水を操り、水蒸気爆発を発生させるなどの攻撃も可能。
 待機形態は更識楯無の扇子に付いていた、水色のストラップ。上記のスマートフォンに取り付けられている。


  • シナプスカード(旧式:「ダイブ・ゲーム」)@そらのおとしもの
 原子力空母オズワルドの艦橋に設置されていた支給品の一つ。
 過去にシナプスで流行した、文字通り地上人の夢に潜入(ダイブ)するゲームのために用いられる機器。操作は難しくなく、地上人でも操作が可能。
 桜井智樹の夢はシナプスと繋がっていたので、彼の夢に潜入するとシナプスへ行くことができる。元が夢なだけに、潜入した先で入手したものは持ち帰れないが、シナプス等の現実と繋がっている場合は例外となる。


131:悩【にんげん】 投下順 133:遭遇!!
時系列順
109:暗【わからない】 暁美ほむら
岡部倫太郎


タグ:

+ タグ編集
  • タグ:
最終更新:2015年01月23日 20:11