シェルの故郷の村。
ゲーテが買い物途中で、ため息をついている。
店主「どうした? 元気ねェなあ ゲーテ… もうすぐ祭りだってのに… もっと景気よくしねーと」
ゲーテ「うるさいねー しかしまぁ… 妖精神祭から もう1年か… シェル坊が村を出てから そんなに経つんだな… 追うようにハーモニーも出て行ったし… 何かわけがありそうだったけど… どうしてるのかねェ… あの子ら…」
グローリア帝国。
グローリアス15世の前に、妖精兵器の大群が勢ぞろいしている。
グローリアス「親愛なるグローリアの同志諸君!! 雌伏の時は過ぎたッッ!! 20年前の敗戦以来… 困難を極めた我が国の再建 近隣国からの侮蔑… スフォルツェンドの横暴… 度重なる屈辱に耐える日々は終わるのだ!! かつての大戦で魔族共に臆することなく果敢に戦った国はどこだ!? グローリアだッ この世界に君臨すべき偉大な国はどこだ!? グローリアだッ!! 世界で最も叡智なる民族はどこの民だ!? グローリアだッ!! 今こそ帝国のあるべき地位を取り戻す聖戦が始まるのだッ──! 勇気の行軍を見せよ──ッ グローリアに栄光を──ッ!!」
兵たち「ウオオオッ グローリィ オブ グローリア!! グローリィ オブ グローリア!! グローリィ オブ グローリア!! グローリィ オブ グローリア!!」
幹部のバロックとノクターンが、その演説の模様をテレビで見ている。
バロック「感動的な閣下のスピーチだったねェ… 僕らも参加したかったけど 間に合わなかったねェ…」
ノクターン「ああ… 今はこいつの綿密なデータを取る必要があるからな… 脳解剖するゾ…」
妖精兵器に改造されたシェルの幼馴染みのハーモニーが、首だけの姿となって2人の前にある。
ノクターン「この娘が何故… あの…シェル・クン・チクとかいうガキの記憶を残していたのか…」
そばの研究員2人が、薬瓶を取り落とす。
ノクターン「なんだっ!! 何してるっ!!」
バロック「あーあ 貴重な薬品がこぼれちゃったじゃないかァァ──!」
研究員「すっ すみません」
バロック「ええい バカ者がぁ──っ!」
研究員「ああっ」
バロック「妖精学者だから生かしておいてやったのに… 能ナシがぁ… 今度失敗したら兵器にしてやるからな──」
研究員「すみません すみませんでしたぁ──」
バロック「フン 愚民が」
研究員「あなたっ 大丈夫ですか──っ!!」
研究員2人が、互いをかばい合う。
「それより聞いたか…!?」「はっ はい… まさか」
「シェルが…」「あの子が 生きていたなんて!」
「オレ達は奴らに捕まり 研究員にされたけど」「あの子は… ああ よかったぁ」
「シェル 無事でいてくれッッ 父さん… 母さんも」「がんばるからねっ──っ!!」
バロック「おい! さっさとかたづけろ!!」
研究員「はっ はい」
バロック「しかし脳解剖って 細胞単位で分析するのかい? 記憶障害をおこして使いものにならなくなったりしない?」
ノクターン「そうなったら別の戦闘用データを組み込めばいい いらない過去は抹消するだけだ」
ハーモニー (シェル… 何があっても 私… あなたを 忘れない…)
そして、ハーモニーの黒い妖精が、そばで鳥籠に閉じ込められている。
「まさか…ね ピロロ姉ちゃんの妖精兵器と 戦う事になるとはね」
一方、グローリア帝国へと旅立ったシェル一行。
ティナー「だいぶ都市から離れたよな」
グレート「そろそろ国境も近い…」
ティナー「発明家じいさんの家も近いんじゃねーの?」
グレート「なあ シェル… どこら辺なんだよ? じいさん家」
シェルからの返事はない。
ティナー「どうしたんだよ」
グレート「おまえ まさか…」
グレート「なにィ──っ 知らなィィ~! なんじゃそりゃああ──っっ!!」
ティナー「どういうう事なんだぁ~っ!!」
シェル「いや あの いろいろあったから 聞き忘れちゃってェ~」
グレートたち「あ──っ!!」
シェル「いや…っ だって いきおいで出てきたから みんなに言いづらくって…」
グレート「どうすんだよ! ここまで来たのにィィ!! ぜんぜん違うトコ来てるかもしれねーじゃねーかッ」
シェル「みんなの前向きな気持ちを盛り下げたくなくて」
ティナー「ふざけんな!」
グレート「だからって後回しにすんじゃねェ──」
助力のために一行を追って来たケストとサイが、陰で様子を窺っている。
ケスト「どうしようか… 出てって… 教えてやろーか?」
サイ「でも… 助けるの… すごく早くない?」
クラーリィ校長はスフォルツェンド公国から、水晶玉で一同の様子を見ている。
クラーリィ「うん… ちと早い…」
ティナー「よくよく考えたらシェル… こういうとこあるよなー」
シェル「えっ!?」
ティナー「熱血漢だから こうと決めたら突き進んで… それまずいんじゃねーのって思っても… なんとかやってやるぅーって いきおいでやって…」
シェル「うっ」
ティナー「案の定 失敗してなー」
シェル「うっ」
グレート「思えば入学式からムチャやってたよナー オレのおかげで なんとかなったけど… どうする気だったんだ?」
シェル「うっ」
ティナー「試験の時だってガムシャラなだけで けっきょく何もできなかったしな ピロロが手を貸してやったから 何とかなったんだよなー ピロロのケンカだってシェルが意地張ったから こじれたんだよナー」
シェル「くっ… それは…」
ビィオーネ「あー じゃあ そんな事言ったらサー ハーモニーの事も『大魔法使いになるッ』とかいって魔法学校に入んなくても~ クラーリィ校長にわけを話せばなんとかなったんじゃないのー?」
シェルがその言葉に、衝撃を受ける。
ビィオーネ「そうしたらもっと早く解決して~」
ピロロ「なななな何言ってんのよ そんな事したら… シェルは… 自分が捕まって検体されると思ったからよー! 自分でやろーと思ったのよ──っ!!」
ビィオーネ「わからないよー 意外にいい人だったじゃん… なんとかしてくれたかも──」
ピロロ「だだだだだからー 子供の頃から憧れのクラーリィに大魔法使いになるのを見せたかったのよー!!」
グレート「でも その間にハーモニーは改造されちまったしな──」
ピロロ「1年あると思ったの!!」
グレート「1年でなんとかなると思ったのかな?」
ティナー「確かに考えが甘いな あいつ賢そうな顔立ちしてるがバカだな…」
ビィオーネ「考えなしで突き進むタイプね…」
グレート「『運命を変える』って頭悪いのごまかしてるみたいだな」
ピロロ「シェルのせいでハーモニーがぁ~」
ブラーチェ「ちょっとやめてよッ みんなッッ ピロロちゃんまで!! 大丈夫よ シェルくん……!! 元気出して…!! いつものように… 運命を… 変えるんでしょ!?」
ブラーチェの励ましはもはやシェルには届かず、シェルはうつろな目で、薄ら笑いを浮かべている。
シェル「へへへっっ へへっ」
ブラーチェ「あっ あんなに前向きだったシェルくんが… やる気を失ってる」
ティナー「おっ また考えなしで落ち込んでるゾ…」
ブラーチェ「やかまし!! とにかく… 行こう──っ!! 運命を変える冒険の旅へ──!」
ティナー「行く先わからんのにか?」
ブラーチェ「行かないと奇跡も起きないでしょ──!!」
ケストたち「…」「やっぱり教えてやるか?」
クラーリィ「…」
ハーメルンのバイオリン弾き ~シェルクンチク~ おわり |
■ 単行本最終巻収録 おまけマンガ
シェルの必殺の魔法が、グローリア帝国に炸裂する。
シェル「くらえっ!! シェルクザールスフィナーレェッ!!」
ハープシコード「ぐああ… そ… そんな… 馬鹿なあぁ──!!」
仲間たち「ああっ やったわっ!!」「ついにグローリアを──ッ!」
グローリアは滅び、元通りの姿となったハーモニーが現れる。
ハーモニー「やったわね シェル… おめでとう」
シェル「ハ… ハーモニィィ ああっ ハーモニー… 元に戻ったんだね!!」
ハーモニー「シェルッ! あなたの勇気と優しさ 強さのおかげよっ!!」
──という夢を見ながら、シェルは眠っている。
シェル「うーん… ハーモニィィ よかったぁ よかったよぉぉ~」
グレート「シェルッ! おい シェル 起きろッ!!」
シェル「んっ… あれ…? 夢…?」
グレート「ったく 幸せそうな顔して… 寝やがって どーせグローリアでも倒して… ハーモニー救った夢見てたんだろ? 都合よくヨー あいかわらず考えなしだぜ… なぁッ!! 道もどーしていーかもわかんねーのに まったく考えが甘いヨなー」
シェル「うっ」
グレート「頭がお気楽でいいなー さすが考えナシ」
シェル「うっ」
グレート「ハーモニーをあんな目にあわせるだけあるぜー よっ 能ナシー!!」
シェル「はぅっ」
グレートの言葉が次々に、シェルに突き刺さる。
シェル「うっ… うぅっ ちきしょう… なんだよぉ そー言った自分だって ソ○ンじゃないか──っ!!」
グレートがその言葉に、衝撃を受ける。
グレート「(ソチ○… ○チン… 最終回…でも… おまけマンガでもソ○ン…) うぐうぅ… くそぉっ こーなったら……!! 多大な情熱と才能を持ちながら貧困と不運… そして病に苦しんだ… フランツ・シューベルトの── 31歳の短い生涯の最後の年に死と戦いながら創作した… 交響曲第9番ピアノソナタ白鳥 弾いてやるぅ──っ!!」
シェル「そんな偉大で立派な曲を こんなくだらない事で… ああっ シューベルトが泣いている…」
グレート「なんだとぉ── てめーちょっと自信があるからってなー」
シェル「なんだよー グレートだってよー!」
ティナー「おいっ いーかげんにしろヨ ソチンとノーナシ… したくしろヨ…」
グレート「うるせーな この…」
シェル「ハナクソボール母ちゃんの子がぁぁっ」
今度はティナーが衝撃を受ける。
ティナー「ハ… ハナ… ハナ…クソ ボ… うわぁぁん ハナクソボールなんかじゃないゾー それに母ちゃんは関係ないだろー!! シーザースラッシュ!!」
グレート「おれを魔王と呼ぶなぁ──っ!!」
ティナー「我が一族の誇りにかけてェェ──!」
シェル「こーなったらボクも… シェルクザールス──ッ!」
ピロロ「シェルッ!! やめてェェー! 今… あなたが撃ったら その体がバラバラに吹き飛ぶわぁぁー!!」
シェルたちが、およそ低次元の激闘を繰り広げる。
ビィオーネは呆れ果て、ブラーチェは一同を尻目に食事を作っている。
ビィオーネ「……大丈夫かねぇー こんな連中といっしょで……」
ブラーチェ「あっ… おいし♥ 味つけ うまくいった♥」
最終更新:2014年08月06日 04:22