オバケのQ太郎の最終回

Qちゃんさようなら


正太の家。
Q太郎が深刻そうな様子で考え込んでいる。

Q太郎「やるか…… やめるか……。うーん、まようなあ。このさい思い切って……。しかし つらいなあ」
正太「なにを考えてるの?」
Q太郎「えっ!? あ、いや なんでもないんだ。ぼく一人で考えなくちゃならない問題なんだ。ほっといてよ。ああ……、どうしたらいいかなあ」
正太「ばかに深こくだね」

正太はパパや、兄の伸一にそのことを話す。

正太「Qちゃんがめずらしく考えこんでるよ」
パパ「そういえばこの二、三日おかしいね」
伸一「Qちゃんの考えることなら どうせ食べもののことだろう」
正太「まあそうだろうな」

Q太郎「たとえどんなにつらくても、これはぼくにとって必要なことだ。よし決めた!! 明日実行にうつそう」

ママが廊下を拭き掃除しているところへ、考えごとに夢中のQ太郎が歩いてくる。

Q太郎「そうと決まれば、後のことをキチンとしとかなくちゃ」
ママ「あぶない!!」

バケツをひっくり返して水をかぶっても、Q太郎は気づかない様子で歩き去る。

ママ「気をつけて歩いてよ…… なんだかむちゅうらしいわ」


町へ出たQ太郎は、ゴジラのところへやって来る。

Q太郎「ゴジラくん。たしかきみに三十円貸してたね」
ゴジラ「ああ。あれな、もうちょっと待ってくれよ。今度こづかいをもらったら返すよ」
Q太郎「こまるんだ、いますぐでなきゃ」
ゴジラ「返さないとはいってないだろ」
Q太郎「いまほしいんだよー」
ゴジラ「しつっこいな」

Q太郎「返してよー」「返せー」
ゴジラ「うるさい」

たまりかねたゴジラが、Q太郎を殴る。

Q太郎「よ、よくもぶったなーっ。……いや、おこるのよそう。三十円さえ返してもらえばいいんだ」
ゴジラ「ないんだからしようがないよ、ホラ」

ゴジラが服を脱ぎ捨て、金を持っていないことを示すと、Q太郎が消える。

ゴジラ「やっと消えてくれた。へへ……、とっときの五十円があるんだけど」

ゴジラは屋台の焼き芋を買いに行く。

ゴジラ「これをわたしたら、ヤキイモが買えなくなるからな」
焼き芋屋「いらっしゃい」

姿を消していたQ太郎が現れる。

Q太郎「そのうち三十円 ぼくのだぞ」
ゴジラ「おそれいったよ」

さらにQ太郎は、別の少年たちのもとへも向かう。

Q太郎「きみらにも十円ずつ貸してたっけな」
少年A「もうしばらく待ってよ」
ゴジラ「おい、素直に返した方がいいぜ」
少年B「そんなにしつこいのかい?」
ゴジラ「取るまではなれないんだから」
少年A「へー、あのQちゃんがねえ」

金を取り戻したQ太郎は、今度はハカセのもとへ。

Q太郎「これでハカセくんに借りてた五十円が返せる」
ハカセ「いつでもよかったのに」

さらにQ太郎は漫画の本を抱え、木佐のもとを訪ねる。

Q太郎「木佐くんに借りてたまんがです」
木佐の父「こらっ、またかくれてまんがを読んでいたなっ」
木佐「まずい!!」

木佐「なにもパパがいるとき返しにこなくてもいいのに。おかげでしかられたぞ」
Q太郎「悪かったと思うけど……。今日返しておかないとまずいんだ」


昼時、Q太郎が正太の家に帰ってくる。

ママ「Qちゃん ごはんよ」

Q太郎「ごちそうさま」
正太「あれっ まだ十ぱいしか食べてないのに」
Q太郎「残りはおにぎりにしといて。ぼくはいそがしいからこれで」
正太「おかしいなあ」

正太が漫画を読んでいる一方で、Q太郎は荷造りをしている。

正太「荷づくりなんかして どうしたの?」
Q太郎「正ちゃん、まんがばかり読んでるのはどうかと思うよ。宿題まだなんだろ。少しは勉強しなくちゃいけないなあ」
正太「なんだい、ママみたいなこといって おもしろくないぞ。あっちへ行けっ」

Q太郎が姿を消し、漫画本を取り上げる。

正太「おい、よせよっ。いいよ、テレビを見るから」

正太がテレビをつけると、画面にQ太郎が現れる。

Q太郎「宿題をすませてからにしよう」
正太「なんだ!! 今日にかぎってどうなってんだろ」


正太は外にでかけ、ゴジラや木佐たちと草野球を楽しむ。

木佐「おい、なにか飛んできたよ」

姿を消したQ太郎が、勉強机を運んで来る。

Q太郎「勉強しなさい」
正太「おいっ、いいかげんにしないと おこるぞ」
Q太郎「だって ぼくは心配なんだよ。いまのままでは、正ちゃんのしょうらいが気になって ぼくは……」

Q太郎が寂しそうに立ち去る。

正太「おどろいたなあ」
ゴジラ「おれがなぐっても おこらなかったもんな」
木佐「人が変わったみたいだ」

そこへやって来たドロンパが、事情を知る。

ドロンパ「へー、Qちゃんが? 信じられないね。あのボーッとしたQちゃんが、そんな深こくになるなんて。よろしい、ぼくがカーッとさせてみせる。おーい バカQ」

ドロンパがQ太郎を追いかけ、頭の毛を引っぱる。

Q太郎「イテテ よせよ」

さらにドロンパがQ太郎を蹴飛ばす。

ドロンパ「そら どうだ。べー」

しかしドロンパに散々意地悪をされても、Q太郎は平然としている。

ドロンパ「あれっ…… おい、おこらないのかい!?」
Q太郎「きみとはしょっちゅうケンカしてきたけど、今日だけはいやなんだ」
ドロンパ「……」


Q太郎が大きな箱を抱え、妹のP子のところへやって来る。

Q太郎「おーい P子。おまえにはさっぱり にいさんらしいことをしてやれなかったな」
P子「急になにをいい出すの?」
Q太郎「これは長いことかかってためたおかしだ。P子にあげよう」
P子「あら、どうしてにいちゃんが食べないの?」
Q太郎「いいから取っといてくれ」
P子「急に気前がよくなったわ」


その夜。

Q太郎「正ちゃん、月がとってもきれいだよ」
正太「月なんかどうでもいいよ。寒いからもう寝るよ」
Q太郎「いいじゃないか、今夜くらい少し夜ふかししようよ」

渋々、正太がQ太郎と一緒に月を見上げる。

Q太郎「ねえ、ぼくが正ちゃんとこへ来てからどれくらいたつかな?」
正太「さあ、まる三年くらいだろ」
Q太郎「いろんなことがあったなあ……。ほんとにいろんなことが」
正太「アーア」

正太はあくびをしており、Q太郎の話をろくに聞いていない。

Q太郎「でも正ちゃんはいつもぼくのいい友だちだったよ。あれっ いない」

正太はすでに布団に潜り込んでいる。

Q太郎「正ちゃん 起きてよ、正ちゃんたら!!」
正太「ウ~ン、ムニャムニャ。ねむいよ、なにか用かい」
Q太郎「いや……。ちょっと顔をよく見ておきたかったんだ」
正太「それくらいのことでぼくを起こしたの。Qちゃんのバカバカバカーッ」

正太に怒鳴りつけられても、Q太郎は寂しそうに黙っている。

Q太郎「もういい、お休み」
正太「チェッ、変なやつ」


翌朝。
朝食の席に、Q太郎がいない。

パパ「めずらしいな。朝ごはんの時間にQちゃんが起きてこないなんて」
ママ「病気なのかしら?」
正太「ぼく見てくる」

Q太郎の様子を見に行った正太が、大慌てで戻って来る。

正太「大変だあー」
パパ「どうしたんだ 落ち着きなさい」
正太「Q、Q、Q、Qちゃんが」

パパ「なにっ、Qちゃんが家出」
正太「この置き手紙があったんだよ。ウワーン」
前から考えていたのですが、
ぼくはなんにも世の中のことを知りません。
近ごろはずかしいと思うようになりました。

正ちゃんもにいさんもパパもママも、
みんないい人ばかりです。
でも、いつまでも
あまえているわけにはいきません。
ぼくは広い世間へ飛び出して、
もっともっと勉強したいのです。

長い間、お世話になりました。
どうかお元気で。さようなら
正太「ど、どうして一言相談してくれなかったんだ」
パパ「きっと反対されると思ったんだろう」
伸一「よくよくかたい決心だったんだね」
正太「そんなのないよ。ひどいやひどいや」

正太が大泣きしながら、家を飛び出す。
友人たち一同も事情を知る。

ゴジラ「そうだったのか!!」
木佐「そういえば なんだかさみしそうだったぜ」
ハカセ「別れがつらいから なんにもいわなかったんだよ」
正太「そ、それにしたってさ、こんな別れ方ってないよ。Qちゃんらしくないや。ひどいや。わかってりゃ ゆうべQちゃんのバカなんていわなかったんだ。それなのに……。正ちゃんのバカってどなり返してほしいよう」
ドロンパ「ぼくだって、知ってれば けとばしたりなんかしなかったんだい。だまって行っちゃうなんてひどいぞ。ウオ── ウオ──

ドロンパが大声を張り上げて泣き出す。

一同「ドロンパが泣いてるよ」「わかるなあ」

正太「おーい、Qちゃん Qちゃん


おわり


──物語は終わりと思いきや、Q太郎の名を呼ぶ正太たちのもとへ、Q太郎が現れる。

ゴジラたち「あっ、Qちゃん!!」「家出はやめたのかい?」
Q太郎「そうじゃない。出発してから昨日のことを思い出したら、急にはらが立ってきたんだ!! 正ちゃんのバカッ」

さらにQ太郎がゴジラやドロンパを蹴飛ばす。

Q太郎「これであいこだい。P子、昨日のおかし やっぱりおしいから半分返せ」

Q太郎が菓子を取戻し、笑顔となる。

Q太郎「ああ、これでサッパリした。じゃあね、そのうちまた遊びに来るからね。それまでバイバイ」

Q太郎が空へ飛び上がり、正太たちは大きく手を振って見送る。

一同「おーい、ほんとに遊びに来いよー」「待ってるよー」
Q太郎「さよならー」


ほんとにおしまい

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最終更新:2021年03月24日 23:54