イブキは宗家の鬼として、魔化魍の大量発生現象「オロチ」を鎮める役を任命された。
ヒビキの指導のもと、イブキが太鼓の特訓に励み、トドロキがその様子を見守る。
ヒビキ「イブキ! もっと強くだ。全身から響きを放たなきゃ、大地は清められないぞ」
イブキ「はい!」
巨大魔化魍・オオアリが出現する。
ヒビキ「実戦だ」
イブキ「……はい」
イブキが音撃棒を手にし、威吹鬼に変身して、オオアリに立ち向かう。
だが威吹鬼は音撃棒の扱いに慣れず、オオアリの前に苦戦する。
トドロキ「イブキさん!?」
ヒビキ「実戦中だ」
助力しようとするトドロキを、ヒビキが制する。
しかし威吹鬼の攻撃は、一向に通用しない。
トドロキ「イブキさぁん!」
トドロキが我慢しきれずに飛び出し、轟鬼に変身する。
威吹鬼と轟鬼、2人がかりの攻撃で、オオアリが爆散する。
魔化魍を退治できたものの、ヒビキは複雑な表情を示す……
ヒビキ「調子良くないな。何か迷いでもあるのか?」
イブキ「いえ、僕は鬼です。いつでも命を賭ける覚悟はできてます」
ヒビキ「……戦った後、生きてなきゃ負けだぞ」
イブキ「必ずやり遂げてみせます! それが僕の使命ですから…… 必ず!」
一方の、明日夢とひとみ。
パネルシアター劇団員の出崎弘子の娘・直美が倒れ、入院先の病院を見舞いに訪れる。
ひとみ「え!? もう退院なの?」
直美「うん、おかげさまで」
明日夢「え…… 治ったってこと!?」
直美「治るわけないじゃない。私、重病なんだから」
明日夢たち「……」
直美「言っとくけど、変な同情しないでね。私、そういうの大嫌いだから」
弘子「直美……」
直美「それより、私の人生だし、やりたいことやんなきゃ!」
ひとみ「……ねぇ、直美ちゃんが今、一番したいことって何?」
直美「うーん…… そうだ、お兄ちゃんのパネルシアターが見てみたいな」
明日夢「俺の?」
直美「うん!」
呆気にとられる明日夢を、ひとみが小突く。
明日夢「……あぁ、わかった! 見せてあげるよ。俺のパネルシアター」
直美「本当!?」
ヒビキと京介の野営の場に、明日夢が駆けつける。
明日夢「すいません! 遅れました……」
ヒビキ「来るぞ」
魔化魍バケネコが現れる。
ヒビキが変身音叉を取り出し、京介に渡す。
京介「え……?」
ヒビキ「黙って見てろ」
京介「どういうことですか!? ヒビキさん!」
ヒビキが変身することなく、バケネコに立ち向かう。
生身でも十分屈強なヒビキとはいえ、魔化魍に生半可な攻撃は通用しない。
明日夢たち「ヒビキさん!?」
ヒビキは攻撃を浴び、傷つきながらもなお、戦い続ける。
京介「ヒビキさぁん!」
京介がディスクアニマルを起動させようとする。
ヒビキ「やめろぉ! 俺の姿を、黙って見てろ!」
喫茶店の立花香須実・日菜佳の姉妹、そして滝澤みどり。
日菜佳「最近、文字通り『仕事の鬼』って感じで。私、相手にされなくなってきちゃったんですよ!?」
みどり「トドロキくんも色々あって、大人になったってことじゃない?」
日菜佳「そりゃわかるんです。だけど、ちょっと寂しいかなぁ、って……」
みどり「気持ちはわかるけどさ、今はオロチを鎮めるっていう大切なときだから、猛士の一員として見守っていくしかないんじゃないかな……」
日菜佳「はい……」
香須実の脳裏を、イブキの言葉が過ぎる。
イブキは危険極まりない儀式を前に、彼女にだけ本心を漏らしていた。
(イブキ『死にたくない…… 僕はまだ死にたくない……』)
みどり「どうしたの、香須実?」
香須実「あ? あ…… うん、なんか…… 嫌な予感がして…… オロチが無事、終わってくれればいいんだけど……」
明日夢たち「ヒビキさん!」
京介「変身してください!」
京介が変身音叉を差し出すが、ヒビキはそれに構わず、傷だらけの身でなお立ち上がる。
京介「ヒビキさん!?」
ヒビキ「ハァッ!!」
ヒビキが気合いと共に、迫り来るバケネコを、炎の迸る音撃棒で叩き斬る。
バケネコが爆発四散する。
明日夢たち「ヒビキさん!」
明日夢「……怖かったです」
京介「俺も…… ヒビキさんの顔が、本当の鬼に見えました」
ヒビキ「すまなかったな、2人とも…… 俺の訓練に付き合わせちゃってさ」
京介「訓練? 変身もしないで魔化魍と戦うのが訓練だなんて……?」
ヒビキ「2人に見せたかった意味ってのはさ…… 鬼になるっていうのは、変身するっていうことじゃないんだよね」
明日夢たち「……」
ヒビキ「怖いと思う気持ちと戦う…… そういうことだと、俺は思う」
京介「ヒビキさんでも怖いと思うことって、あるんですか?」
ヒビキ「……いつも怖いよ。だから…… 一生懸命鍛えてる。また、生きるために」
明日夢「『また生きるために』……?」
背を向けたヒビキを、明日夢が呼び止める。
明日夢「ヒビキさん! お話ししたいことがあるんですけど……」
轟鬼は単身、イブキの負担を少しでも減らそうと、大量の魔化魍と戦い続ける。
轟鬼「1匹でも多く、イブキさんのために!」
その轟鬼の背後に、スーパー童子とスーパー姫の攻撃が炸裂する。
轟鬼「おわぁっ!?」
スーパー童子と姫を戒めるように、洋館の男女の攻撃が2人に炸裂する。
2人が慌てて逃げ出す。
逃げ切ったかと思ったのも束の間、目の前に洋館の男女が先回りしている。
男「言ったはずだ。『鬼を守れ』と」
姫「私には、自分の意思がある。お前たちの言いなりにはならない」
女「何?」
童子「教えてくれ。俺たちは一体何なのか? 何のために生きているのか?」
男「そんなことを考える必要はない」
姫「ならば答を見つけてやる。お前たちを倒すことでな!」
スーパー童子・姫が攻撃を放つが、男女がそれを跳ね返す。
童子と姫が逃げ出す。
追おうとする女を、男が制止する。
男「いいよ、放っておけ。どうせ奴らは死ぬ。僕が餌を与えなければね」
女「まさか彼らが、自我に目覚めるなんてね…… かわいそうに」
ヒビキ「鬼の修行を休みたい?」
明日夢「はい。どうしても、したいことがあって」
ヒビキ「……したいこと?」
明日夢「はい…… 魔化魍を倒して人を助けるっていうのは、凄いことだと思うんですけど…… ただ、世の中には悲しいことがもっとたくさんあって…… もし、力になれるんだったらって」
ヒビキ「……」
明日夢「ヒビキさん、言いましたよね? 『また生きることが大事だ』って。それってたぶん、死ぬとき後悔しないように、一生懸命生きることだって思うんです」
ヒビキ「……今より一生懸命になれる道が見つかったってことか?」
明日夢「そ、それは…… ヒビキさんが、鬼になるときはどうだったんですか?」
ヒビキ「……」
明日夢「僕、どうしたらいいんですかね?」
ヒビキ「明日夢…… 鬼の道っていうのは、迷いながら歩く道じゃない」
ヒビキが明日夢に背を向け、去ろうとする。
明日夢「ちょっと待ってください!? ヒビキさん!」
ヒビキ「自分の生きる道を決められない奴に、何の人助けができるんだ?」
喫茶店の、イブキと香須実。
香須実「そっか…… 明日に決まったんだ。清めの儀式」
イブキ「はい……」
香須実「大丈夫なの? もし、自信がないんだったら、ヒビキさんに代わってもらうとか」
イブキ「この間は、すみませんでした。もう大丈夫です。僕も鬼の端くれですから」
香須実「……『鬼の目にも涙』ってやつ?」
笑いかける香須実に、イブキも思わず笑みを漏らす。
イブキ「フフッ、うまいな……」
香須実「約束して、イブキくん…… 絶対、生きて帰って来るって」
イブキ「……はい!」
神社のベンチの、トドロキと日菜佳。
トドロキ「明日、俺とヒビキさんで、イブキさんのサポートへ行って来ます」
日菜佳「……」
トドロキ「で…… すべてが終わると思うんスよ」
日菜佳「終わるって? そんな……」
トドロキ「ち、違いますよ! そうじゃなくて、その、すべてうまくいく、ってことですよ」
日菜佳「あ、あぁ、アハハ……」
トドロキ「だ、だから、そうなったら前に約束した通り…… 一緒に、温泉に行ってください」
日菜佳「……はい! も、もちろんですよ! 嬉しいです……!」
涙を流す日菜佳に、トドロキがハンカチを差し出す。
日菜佳「あ、ありがとうございます……!」
甘味処たちばなの地下、猛士関東支部。
ヒビキが明日夢の事情を、みどりに話している。
みどり「そうなんだぁ…… 変わったのね、明日夢くんも」
ヒビキ「あぁ。明日夢が言ったんだ……『死ぬときに、後悔しないように、一生懸命生きることが大事だ』って」
みどり「……」
ヒビキ「俺には師匠がいなかったからさ、それでも自分1人で鬼になった。それがいつも、大きな自信だった…… でも、何かを伝えたい奴ができて、わかったことがあるんだ。自分を必要としてくれている人間がいるって……」
みどり「……うん」
ヒビキ「人を助けるために一生懸命になれるから、俺は鬼になったんだ。人助けをして、また一生懸命生きて…… 人助けをして、そしてまた一生懸命生きて…… 俺はこれからもずっと、そうやって生きていきたいと思う」
明日夢がパネルシアターを練習中。
ひとみと天美あきらもいる。
明日夢「欲張りな木こりは『今か今か』と、湖の表面を覗いて見ていました。すると湖の水が波立ち、女神様が現れました。木こりは、わざと困った顔をしています。『木こりや木こり……』」
京介が飛び込んで来る。
京介「安達!」
明日夢「桐谷くん……?」
京介「お前…… こんなことがお前のやりたいことなのか? こんなことのために、鬼をあきらめるっていうのか? ふざけるな!」
京介がパネルシアターの小道具を荒らし始める。
明日夢「お、おい!? やめろよ! お前に何がわかるんだよ!?」
京介「俺はなぁ、お前とちゃんと勝負して勝ちたかったんだよ! それを…… 裏切りやがって!」
明日夢「お前には関係ないだろぉ!!」
あきら「安達くん!?」
ひとみ「ちょっと、2人とも、やめてって!」
京介「俺はお前を許さない…… 絶対に許さないからな」
京介がひとみとあきらに制止され、立ち去る。
明日夢が追おうとするが、ひとみが止める。
ひとみ「安達くん!」
そして、清めの儀式への出陣の日。
立花勢地郎、香須実、日菜佳、みどりが、ヒビキ、イブキ、トドロキを見送る。
トドロキ「行って来ます!」
イブキ「行って来ます」
ヒビキ「行って来ます……」
3人が出発した後、勢地郎が部屋の仏壇に手を合わせる。
勢地郎 (頼むぞ…… みんな!)
ヒビキのバイクを先頭に、イブキのバイク、トドロキの車が続く。
突然ヒビキが路肩にバイクを停め、イブキとトドロキも倣う。
イブキ「ヒビキさん?」
ヒビキ「いや。今さ、魔化魍を見た気がしたんだけど、ちょっと見に行ってくれないか?」
イブキたち「はい!」
イブキとトドロキが降車して周辺を散策するが、それらしき姿はない。
元の場所に戻ると、ヒビキの姿がない。
トドロキ「あれ?」
イブキが自分のバイクのバッグを開けると、中は空っぽ。
イブキ「ない…… 音撃棒が!」
トドロキ「ちょっと…… どういうことっスか!?」
イブキ「まさか…… ヒビキさん、僕の代わりに!?」
ヒビキは2人を残し、単身バイクを飛ばす。
京介が歩道に駆けつけ、それを見送る。
スーパー童子と姫が、洋館の男女から必死に逃げる。
ついに姫が、力尽きて倒れる。
童子「どうした…… おい、しっかりしろ」
姫「答……」
童子「……?」
姫「答を……」
言葉を失いつつある姫を、童子を抱きしめる。
だが姫は、童子の腕の中で、土くれとなって風化する。
姫を抱いていた童子の腕までもが、崩れ始める。
童子「あ……? あ……!? あぁ──っ、あぁ──っっ!!」
童子もまた風化し、消滅する……
ヒビキが儀式の地に到着し、響鬼に変身。音撃棒を手にして、鬼石の前に立つ。
響鬼「よし…… はぁぁ──ッ! どりゃあっ!」
音撃棒で鬼石を叩き始める。
たちまち儀式を阻止しようと、大量の魔化魍が現れる。
明日夢たちもいよいよ、パネルシアターの本番。
明日夢「木こりがびっくりしていると、湖の中から、きれいな女神様が現れました。『木こりや木こり、何を悲しんでいるのです?』『はい、湖の中に大切な斧を落としてしまいました』」
直美が目を輝かせ、明日夢のシアターに見入っている。
響鬼は、魔化魍たちを音撃棒で払いつつ、儀式を続ける。
イブキとトドロキも駆けつける。
イブキたち「ヒビキさぁん!」
響鬼が装甲響鬼に変身する。
イブキとトドロキも変身し、威吹鬼と轟鬼となる。
明日夢「『それから、銀の斧も落としてしまいました。もう一度捜してください』欲張りな木こりがそう言うと、女神様は『お前はなんて欲張りで嘘つきなんでしょう……』」
威吹鬼と轟鬼が、次々に襲い来る魔化魍たちを倒してゆく。
魔化魍の攻撃で、響鬼の音撃棒が宙に舞い、地面に転がる。
京介が駆けつけ、音撃棒を手にする。
京介「ヒビキさぁん!」
響鬼が装甲声刃で魔化魍たちを斬り捨てつつ、京介の投げた音撃棒を受け止める。
右手の声刃で魔化魍を斬り払い、左手の音撃棒で鬼石を叩き、儀式を続ける。
明日夢「それからというもの、正直者の木こりは、女神様に言われた通り一生懸命働いて、たいへん幸せになりました……」
響鬼たちの戦いは、永遠とも思えるほどに続く──
最終更新:2018年08月30日 03:09