とある山間部の集落で起こった惨劇。
集落に暮らす
木こりの男が突如として斧を手に住民達を惨殺。
そして周辺の森に潜んで旅人を襲い、更に多数の犠牲者を出した。
後に集落跡にて犯人である〇〇の様子が書かれた仕事仲間の日記が発見された。
〇日
『仕事から帰って来た〇〇がいつもの斧ではなく、白銀の斧を持ってきた。聞けば斧を泉に落としてしまったらしいが、泉の中から光と共に美しい女神が現れたと言う。
女神は泉に落とした斧と銀の斧を手に持ってどっちが欲しいかと問いかけ、〇〇が正直に銀の斧が欲しいと答えたら正直者だと言って手渡されたようだ』
〇日
『〇〇は先日手に入れた女神の銀の斧で仕事に励んでいるようだ。
だが異様な雰囲気で斧を振るっているように見えるのは気のせいだろうか?』
〇日
『〇〇が『もっと良い斧が欲しい。もっと切りたい』と言って森の奥に消えたらしい。
確実に何かがおかしい。近くの町の神殿に行って
神官様に相談するべきだろうか?』
〇日
『今日の夕方、数日ぶりに〇〇が戻ってきた。手には眩く輝く黄金の斧を持っていた』
〇日
『集落の中心で何やら騒ぎが起きたようだ。とりあえずこれだけ書いて様子を見に行く事にしよう』
日記の記述はここで途絶えており、〇〇による凶行はどうやらこの日に発生したようだ。
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事件の顛末 |
森で旅人を襲う賊の噂が近隣の町で囁かれ始めた頃、何も知らない冒険者 タムリンと フィリーヌが偶然にもこの森を通過しようとしていた。
そして森の中で見つけた泉の傍で休憩しようと足を止めた瞬間、突如二人の前に金色に輝く血濡れの斧を持った男が現われ、有無を言わずに襲い掛かって来たのである。
だがタムリンは即座に反応し、迷う事無く手にした剣を抜き一閃。
相手の素性は分からない。それでも一応の手加減として死なない程度の一撃を与えたつもりだった。
しかし賊はなぜか一切の防御や回避行動を取らず、タムリンの横凪の一撃をまともに食らって絶命する。
まるで素人だ…。
そう思いつつ、タムリン達は武器を構えたまま更なる襲撃に警戒。
だが周囲にはタムリン達以外の気配は無く、聞こえるのは風に揺れる枝葉の音のみ…。
どうやらこれ以上の襲撃は無いと判断したタムリン達は武器を降ろし、襲撃者だった者の検分をし始めた。
襲撃者は木こりのような様相の男であったが既に乾いた血や諸々でかなり汚れており、その表情は死してなお狂気に彩られていた。
唯一の違和感と言えば、その手から離れて地面に転がっている、この場に似つかわしくない黄金の斧ぐらいである。
フィリーヌは念の為、この斧を検分するべく手を伸ばした。
だがそれに触れた途端、彼女は頭を押さえ苦しみ始め、その身体を邪悪な気配が包み始めたのである。
「フィリーヌ!」
思わず叫ぶタムリン。
しかし次の瞬間、タムリンの胸元から眩い光が溢れ出したかと思うとフィリーヌを包み始めていた邪悪な気配が一瞬で霧散した。
タムリンはその場で倒れかけたフィリーヌを抱き支えながら、自身の胸元に手を入れて光を放ったであろう物を取り出す。
光は既に収まってはいたが、それは以前に訪れた 迷いの森に住まう『 賢者ムム』から託され、以降ネックレスとして彼の首元に装着されていた『 精神の真髄』であった。
数分後、タムリンの腕の中でフィリーヌは目を覚ます。
『斧を手にした瞬間、泉の底から発せられた昏い“何かの声”に精神を奪われそうになった』
彼女がそう言った刹那、傍の泉が大きく波打つと光と共に美しい女神が姿を現した。
だが次の瞬間には美しい女神の姿は歪み、不気味な唸り声と共に恐ろしい異形へと変貌する。
体は赤銅の鈍い光沢を放つ全身鎧の様であり、両腕の先は眩い輝きを放つ白銀と黄金の大斧。
頭には 山羊を思わせる湾曲した大きな角が生え、背には巨大な 蝙蝠の如き漆黒の翼。
女神の神々しさとは全くの真逆……不気味な甲冑姿の『悪魔』となり、タムリン達に襲い掛かって来たのだった。
激しい戦いの末、タムリンの振るう 陽光の剣を胸に突き立てられた悪魔はその姿を薄れさせながら泉の底へと消えていく。
そして追撃しようと泉に飛び込んだタムリンが見たのは水底に沈む大量の人骨と遺体、その中央にある古びた女神像であった。
タムリンはすぐさま近隣の町に向かうと今回の出来事をギルドに報告。
そこからその地域で最も大きな神殿へと通達が行き、神官達によって更に強固な 封印処置が施されたと言う。
町に滞在する事となったタムリンとフィリーヌが土地の歴史について調べた結果。
遥か昔に 蛇の門より現れた悪魔が人々に災いを成していたという記述を確認。
悪魔は神殿が派遣した神官戦士団との戦いの末に女神像に封印され、誰も近づかない様に泉の底に沈められていたと言う。
しかしタムリンが水底で見た女神像は既にボロボロな状態であり、更には頭部に大きなひび割れもあったとの事。
これらの事から女神像の封印が劣化していた所に木こりの落とした斧が女神像に接触した事で破損。
そうして封印に亀裂が生じ、女神に成りすました悪魔が木こりの精神を操り集落の人間達を生贄にして復活を企てたのではないか…と、フィリーヌは推測している。
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最終更新:2025年07月11日 10:33