会場内にぽつんと聳える、剣正一探偵事務所。そのとある一室。
雑多に積み重なる資料の適当なところに腰かけるのはフリルのついたゴシック調の衣装に身を包んだ女子高生探偵、音ノ宮亜理子である。

その視線は手元に握られた一枚のメモ帳へと落とされていた。
それはどこからともなく届けられたワールドオーダーについての考察が書かれた一枚の手紙である。
これが届いたのは放送が終わって程なくしての事だ。その時は放送内容について考えるべきことがあったため後回しにしていた。

考えることが亜理子の武器である。
こうして考えることがワールドオーダーへ反旗を翻すことに他ならない。
状況も落ち着いたので、続いてこれの考察に入ろう。

いきなり目の前に現れたこの手紙がどうやって届いたのか、という仕組みも気になると言えば気になるが、起きた超常的な現象に思考を巡らせても意味はない。
電話やインタネットと同じようなものだ。仕組みを完全に理解はできずとも、そう言うものが存在すると認識できていればいい。

それよりも、この手紙に付いて内容の考察を始める前に、まず考えるべき事が二点ある。
『この手紙を誰が送ったのか』と『この手紙を何故私に送ったのか』についてだ。

そもそも亜理子に送られてきたからと言って、亜理子を狙って手紙であるとは限らない。
この手紙は果たして本当に亜理子を狙って送られたものなのか、そうではないのか。
まず考えるべきはそこだろう。

今際の際に自らの得た情報を伝えようと、誰でもいいから送りつけたと言う可能性はある。
だが、この可能性は低いだろう。

何故なら、慌てて書いたにしては文面の字は乱れておらず、ずいぶんと丁寧にしたためられているからだ。
つまり、この手紙は余裕を持った状況で書かれたものであると見ていい。
これは明確な誰かに送ろうという意思を持って書かれたものだ。

単純に参加者全員に送ったと言う可能性はどうか。
これは他の参加者に確認する機会があればすぐにわかる事だが、現状ではわかりようがないので保留としておこう。

そして無差別に送ったという可能性。
手紙の内容からして、差出人は考察のできる知性と冷静さを持っていることが伺える。
字も随分と綺麗だ。それなりに良い教育を受けて育ったのだろう。
無差別的に送りつけると言う愉快犯的犯行は、これらの要素から浮かぶ人物像と一致しない。
己の能力をそう言った方向性にしか使わない犯罪者というのも確かにいる。
しかし手紙の内容は対主催者を掲げるような代物だ。そんな奴らはこんな内容を他者に広めるようなまねはしないはずだ。
そうなるとこれも少し考えづらい。

やはり一番高い可能性は、亜理子を狙って送りつけたと素直に考える事か。
こうなると差出人も亜理子を知る者となるため、幾分か絞り込みやすい。
まあ、個人的知り合いのみならず、探偵業などというそれなりに目立つ事をしている以上、一方的に知っている人間がいても不思議ではないのだが。

候補は名簿に多く見られる同じ学園に通っている後輩たち。
事件などで関わりを持った警察関係者、同じ探偵業を営んでいる人達。
届いたのが今しがたであるとはいえ、何時送られたかが不明である以上、放送で呼ばれた死者も候補から外すことはできない。

学生連中の線は薄い。
彼らがこの事態に冷静に対処して考えをまとめることができるとは考えづらい。
それが可能な人間は一ノ瀬空夜くらいのものだが、彼とはこの場で出会いスグに別れた。
手紙を出す暇などなかったはずだ。
次点で水芭ユキだが、先ほど出会った彼女にそんな様子はなかったし、あの別れで亜理子に情報を送るとは思えない。

となると、やはり警察や探偵連中が有力な候補となる。
彼らならこの程度の考察はできて当然と言えるだろう。
だが、ここに呼ばれた連中は全てが一癖も二癖もある連中ばかりだ。
素直に対主催を考え、他者に伝えようなどという人間はロバート・キャンベルと剣正一くらいの物か。
既に死亡している二人だが、彼らならその行動にも納得はできる。
そこから私に送った意図を推察するのなら、意欲的ではない亜理子にも働きを期待しての事と言ったところか。

では望み通り働くとしよう。
彼らのためではなく、あくまで己のためだが。

手紙の送り主にある程度の辺りをつけれたところで、いよいよ本丸である手紙の内容について考えを進めるとしよう。
送られてきた手紙に纏められていた内容は主に三つ。

  • ワールドオーダーの意味。
  • 能力を隠し持っている可能性。
  • 能力をコピーできなかったという発言について。

能力を隠し持っている可能性についてだが。
隠し持つというより、設定を書き換える能力が本当だとするのなら、事実上どんな能力でも際限なく使用可能という事になる。
そうなるとワールドオーダーの能力について考えるだけ無駄という事になるのだが、そういう事にはならないだろう。
現に、登場人物Aへの書き換えを行った際に能力をコピーできなかったという結果は示されている。
何らかの制限、もしくは限界があるはずだ。
その条件がなんなのか、調査すべきはそこだろう。

もっとも、その判断材料となった発言について疑っているのが次の項目だ。
コピーできなかったというあの発言は確かに疑わしい。頭から信じるのも馬鹿げている。
だが同時に頭から信じないのも同じくらい馬鹿げているだろう。

このメモによるとワールドオーダーはあの能力でコピーを繰り返して永遠を生き永らえているかもしれないという事らしい。
だが、コピーを生み出しているという推論と、コピーを生み出す能力はコピーできないという発言は矛盾する。
それ故にこのメモの考察者は片方の条件を偽と仮定しているのだろう。

確かに片方の条件を排他するのは、矛盾を解決するもっとも簡単な方法だ。
だが、両方を真と仮定したうえで、見えてくる結論もあるはずである、
条件を減らすのではなく、付け加えることで、この矛盾をクリアする。そんな仮説は存在するのだろうか?
その条件とは、導き出される結論は――――。

そこまで考えた所で、下階から響いてきたガタンという大きな音に思考を遮られた。

それは思考に没頭しすぎて警戒がおろそかになった時のために仕掛けておいた、侵入者を知らせるトラップが発動した音だった。
侵入口を判別できるように、それぞれ違う仕掛けを施してある。
今の音からして、侵入者は正面入り口から堂々と潜入してきたようだ。

これほど露骨に大きな音を立てれば、当然侵入者側にもトラップを仕掛けた者がいるという事を知らせる事になるが、それこそがこちらの狙いである。
それで引いてくれる相手ならそれはそれでよし。

どう出るかと、首輪探知機に目を向け相手の出方を伺う。
だが、出ていったような動きはなく、侵入者はそのまま事務所の探索を強行しているようだ。
人がいると知った上で引かないというのならば、それは参加者との接触を求めている相手という事である。
果たしてその目的が、交友的なモノなのか、悪意的なモノなのかは分からないが。

こうなってしまった以上、事前に想定していた通りに、逃走経路として開いておいた窓際へと移動する。
そのいつでも逃げ出せる状態で、1分だけそこで動きを止め、侵入者を待ち構えた。
それから程なくして、首輪探知機の信号が亜理子の潜む部屋の前へと到達する。

「そこまで、動かないで。下手な動きを見せたらすぐさま貴方を攻撃する用意がこちらにはあるわ」

扉が開かれる前に、先手を取り相手の動きを制する。
魔法のステッキを突きつけても脅しにはならない(というか見た目逆効果なので)言葉だけの牽制に済ませた。
とは言え、それで相手が素直に従うかどうかというのは微妙な所だったので、いつでも大跳躍で窓から逃げ出せるよう準備だけはしておく。

「ゆっくりと扉を開けてこちらに姿を見せないさい」

その声に従い、重厚な木の扉がキィと音を立てゆっくりと開かれる。
扉の影から現れたのは、やけに薄汚れたスーツを着た金髪の伊達男だった。
男は敵意がないことを示すように両手を上げながら慎重な動作で部屋へと入る。
どれほどの修羅場を超えてきたのか、そのボロボロな外見には見合わず、表情にはどこか自信ありげな余裕のようなモノが感じられる。

「いくつか質問をさせてもらうわ。まず迷わずこの部屋に来たのは何故かしら?」

亜理子が男に向けて質問を投げかけた。
この探偵事務所には1F、2Fとフロアが分れており、多くはないとは言えそれぞれのフロアに複数の部屋存在してる。
当然ここだけ電気がついていた、などというへまをする亜理子ではない。
だと言うのにこの男は迷いなくこの部屋を訪れた。それには何か明確な理由があるはずだ。
説明を求められた男は、そんな事かを言った風に肩を竦めた。

「入口に侵入者を警戒するような掛けをしているのなら、直接侵入される危険性のある1階にはいないと考えるのが当然だろう?
 その上で、逃走時間と逃走経路の確保できるように、階段からある程度の距離があり、人が抜けだせるような窓のある部屋となると候補は自然と絞られる」
「そう。けれど警戒なく誰かが待ち構えている部屋に近づいて、問答無用で攻撃されるとは思わなかったのかしら?」
「最も陥れやすい入口に仕掛けたのが攻撃性の罠ではなく警戒用の罠だった事から、ここに居る人物には積極的に争うつもりがないという事はわかったていたからね」

滑らかに語られた推察は多少の穴はあるが十分に合格点をあげられる。
入口の仕掛けや部屋取りは安全を確保するためのモノであったのだが、それだけではなく侵入者を図るためのテストであった。
これほどの事態を解決するならば、さすがに協力者は必要だ。
必要だとは思うが、亜理子はバカと組む気はない。

無論、侵入者が害意を持った知能犯と言う可能性も多分にあった。
だからこそ到達を待つのは正面玄関以外からの侵入者のみという縛りを儲けたのだ。
そうでなければ亜理子は即刻逃げ出している。

「それで。この回答でいいのかな、お嬢さん?」

男はニヤリと自信ありげに口の端を吊り上げる。
こちらの意図まで汲み取ったうえでの回答だったようだ。
小物臭い外見とは裏腹に中々切れる男の様である。
亜理子が協力者に求める最低条件はクリアしてる。

「そうね。お互い分かっているようだし、面倒な前置きはなしにしましょうか」
「そうだな。だが、その前にこちらからもいくつか確認させてもらおうか」

話を進めようとするが、男は簡単にこちらに会話の主導権を渡すまいとイニシアティブを取ってくる。

「まずは名前だ。俺はイヴァン・デ・ベルナルディだ、お嬢さんは?」
「音ノ宮亜理子よ。好きに読んでくれて構わないわ」
「OKだ。アリス。俺もイヴァンで構わねえよ」

ここに来てイヴァンと名乗った男の口調が砕ける。
距離が近づいた、という演出だろうか。訪問販売の手口に近い。

「一応聞いておくが、アリスは殺し屋じゃあないよな?」
「当然でしょう。私は探偵よ。そういうあなたはどうなのかしら?」
「まさか。あんな奴らと一緒にしないでくれ、俺はそれを管理する側の人間さ」
「……そう。似た者同士という事ね」

殺人者を誘導し殺人事件を起こす亜理子と、殺し屋を管理するというイヴァン。
行っている行為の本質は似通っているのかもしれない。

「いいわ。聞きましょう。イヴァン・デ・ベルナルディ、貴方の目的は何?」
「目的と呼ぶほど大それた事じゃないさ。生きて家に帰って慣れたベッドで眠りたいと言うだけだよ。ごくごく普通の願いだろ?
 後はオマケで、ここにいる少しばかり気に喰わない連中を見捨てて、ここに置き去りにできれば最高だね」
「なるほど。わりやすいわ」

不都合な人間には死んでもらって、自分だけが生き残りたい。
分かりやすすぎて涙が出そうだ。
亜理子は打算的な人間は嫌いではない。
利害が一致している間は裏切らないし、何より行動も誘導しやすく、動きを読みやすいのが利点である。
そういう意味でもイヴァンは協力者としてうってつけだ。

「そちらはどうなんだ? 何か特別な目的でもあるのか?」
「そうね。私もそれほど特別でもないわ。探偵として事件を解決したいと言うだけ。
 貴方の目的ともそうずれていないわ。貴方と違って特定の誰かをどうこうしたいというのはないけれど、誰かを救おうというつもりもないもの」
「なるほど。それなら俺たちは協力できる、という事かな?」

利用し合えるの間違いじゃないのか。と言いかけて止めた。お互い分かり切った事だ。

「そうね。そういう事になるのかしら」

この事件を解決すれば自然と我々は解放されるのだ。
生き残りを目指すという方針と、この事態を解決するという方針は相容れる。
互いに他者に興味はなく、余計な手間も煩わない。
それ故に二人は協力できると言えるだろう。

注意するとしたら、調査が進み亜理子に事態の解決が不可能であると判明した場合。
恐らくイヴァンは最後の生き残りを目指す方向にシフトするだろう。
そうなれば、最初に狙われるのは亜理子だ。
仮にそうなることが避けられなかったとしても、そのタイミングを見誤らない事だ。

後は、どううまく相手を利用して行動を誘導するか。
この手の輩は操作しやすいとはいえ、向こうも似たような考えはめぐらせているのだろうから、その辺は互いの知恵比べになるだろう。
負ける気はしないが、一応警戒しておいた方がいいか。

「なら手を組もう、アリス。互いの目的のために」

そうイヴァンが口角を吊り上げながら、亜理子へと踏み込んできた。
外国人らしく握手でもするのだろうか、などと亜理子が僅かに気を緩めたところで。

銃声が亜理子の耳を打った。

何が起きたのかすぐには理解できなかった。
イヴァンが腰元から拳銃を早抜きし、こちらを撃ったのだと認識できたのは、亜理子の後方にかけられていた時計が地面に落ちる音を聞いた後の事だった。

イヴァンの早打ち。
それは速度だけならヴァイザーをも超え、組織でもサイパスに継ぐ速度を誇っている。
にも拘らず、イヴァンの腕が組織内であまり評価されていないのは、それが殺すための技術ではないからだ。

早く打つことのみに主題を置き、命中精度は二の次。
当たればラッキー、当たらずとも脅しになればそれでよしという威嚇用の技術である。
カジノ支配人としてやんちゃをするお客様に対してならばそれで十分な技術なのだが、少なくとも一流の戦闘者に通じる技術ではない。
現にアサシンにあっさりと破られているし、今回も外れた。

だが、素人である亜理子からすれば、十分すぎるほどの脅威である。
外したのか外れたのかすらわからない。腕の動きすら追えなかった。
わかるのは、少なくとも自分には対応できないという事だけだ。

「…………ぅそ」

撃たれた。
しかし何故?
疑問が亜理子の脳裏を奔る。

何故このタイミングで攻撃を仕掛けてきたのか。
短い間だが目の前の男から受けた印象は計算高く打算的。
そんな男がこのタイミングで裏切るのは余りにも不合理に過ぎる。
最初からだまし討つつもりで、こちらの戦力を警戒して、その機会を伺っていたのか?
それでもこのタイミングではないだろう。
比較的交友的な関係は気付けていたのだから、殺すにしてももっと情報を引き出した後でいいはずだ。
ならば何故、このタイミングでなければならい意図とは?

様々な考えが亜理子の頭を巡った。考えることは亜理子の武器である。
だが、この場面は考えるよりも先に、迷わず逃げるべき場面だった。
一瞬の判断が生死を分ける闘争の場で、敵は待ってなどくれないのだから。

銃を構え直したイヴァンが、今度はしっかりと亜理子の胴の中心に狙いをつけて引き金を引いた。
弾丸が脇腹に直撃し、その衝撃にわずかながら喉元から血がせりあがる。

「ぁッ! ……シールド!」

亜理子は非常に高い分析力と判断力を持っているが、それは一瞬の戦闘判断にまで適用される訳ではない。
シールドを張るという判断は決して間違いではないが、ここでは魔法弾を放ち相手の動きを牽制するべきだった。
そうでなければ追撃の手が止まない。

イヴァンが連射した次の弾丸が亜理子へと襲い掛かり、弾丸が直撃したシールドが砕ける。
イメージが足りないのか、亜理子の生み出したシールドの強度は弾丸に耐えきれるほどのモノではなかった。

ここで再度シールドを張ったところで、繰り返しになるだけだ。
そう判断した亜理子はこの場からの離脱を試みる。
無論その間、相手が何もせずに待っていてくれるはずもない。
シールドを失った亜理子に向けて、イヴァンが容赦なく追撃を行う。

「ジャンプ!」

開きっぱなしになっていた窓に向けて大跳躍を発動させる。
跳躍を行う前に二発。窓外へと飛び去って行った亜理子を追いかけながら二発。
その弾丸の雨に身を晒しながらも、亜理子はなんとか探偵事務所からの離脱に成功した。

砲弾のような勢いで空中に亜理子の体が打ち出される。
それはイヴァンの腕か、それとも亜理子の運のせいか。
追撃に放たれた四発の弾丸のうち、一発が亜理子の右肩に当たっていた。
そのダメージに空中で亜理子の体勢が崩れる、このままでは着地もままならない。

崩れた体制のまま地面へと叩きつけられる亜理子の体。
しかしその身に感じる衝撃は柔らかいベッドに飛び込んだような奇妙な感覚だった。

大跳躍の魔法の真価は着地にある。
数メートル近い上空へと跳躍した衝撃を完全に殺しきってこそ大跳躍足り得るのだ。
見事に効力を完遂した大跳躍の魔法の恩恵を感じながら、亜理子が立ち上がる。

ここで寝ていたい気持ちはやまやまだが、イヴァンが追ってこないとも限らない。
深追いをするタイプだとは思えないが、その性格分析を裏切って攻撃されている以上、そうも言ってはいられない。

銃で撃たれた左脇腹と右肩を確認する。
そこには鈍い痛みこそあれど、致命傷と呼べるようなダメージは残っていなかった。

このゴシックロリータの衣装。
普段の亜理子の趣味丸出しの衣服と類似しているため非常に解かりづらいのだが(亜理子から言わせればまるで違うデザインなのだが)。
亜理子の普段着ではなく、魔法少女として変身した衣装なのである。

どうやら魔法少女の衣装自体に防御力があるようだ。
弾丸自体は衣服を貫くことなく服の上で弾かれたようである。

だが、防弾チョッキなどと同じく、貫通による致命傷は避けられたが弾丸による衝撃自体がなくなる訳ではない。
肉体的にただの高校生である亜理子にとっては結構なダメージだ。

「……何だったのかしら、あの男」

退避しながら改めてイヴァン・デ・ベルナルディについて思う。
世の中には理屈の通じない手合いがいるというのは亜理子も理解している。
だが、イヴァンの場合は違う、話の通じる相手だったはずだ。
二重人格で豹変した、という訳でもない。
あくまで冷静にこちらを殺しにかかっていた。
ただ、そう。行動原理が変わったと言うのが一番しっくりくる。
誰かに操られていた?
分からない。
分からないが、一つ分かった事としては協力者を求めるのはやはり少し考え物かもしれない。
信用できる他人など、そうはいないのだから。
そう、かつて一度だけできた探偵助手の様に。

「……一ノ瀬くん」

生きているのか死んでいるのかもわからない彼への名を呼ぶ。
どこに届くべきかもわからない呟きは風に消えた。

【C-5・草原/午前】
音ノ宮・亜理子
[状態]:左脇腹、右肩にダメージ、疲労(中)
[装備]:魔法少女変身ステッキ
[道具]:基本支給品一式×2、双眼鏡、首輪探知機、M24 SWS(3/5)、レミントンM870(3/6)、7.62x51mmNATO弾×3、
12ゲージ×4、ガソリン7L、火炎瓶×3、鴉の手紙
[思考]
基本行動方針:この事件を解決する為に、ワールドオーダーに負けを認めさせる。
1:この会場にいる『ワールドオーダー』を探して、話を聞く。
2:ワールドオーダーの『革命』を推理する。



「ちっ。殺りそこねたか」

探偵事務所の窓の外から小さくなってゆく少女の姿を見つめ、イヴァン・デ・ベルナルディが舌を打った。
連射により熱を持った銃身にふうと息を吹きかけ、腰元にしまう。

同盟成立直前に攻撃をしたことに対して申し開きがあるかと問われれば、そんなものはないと答えるだろう。
得られる協力者を蹴った事に対してイヴァンは微塵も後悔もしていない。
あるべき行動をとっただけだ。
何を後悔する必要があるというのか。

ではイヴァンが亜理子を撃った理由とは何か。
相手が余り役に立ちそうにないと思ったか。
相手がこちらを殺そうとしていると思ったか。
相手がなんとなく気に喰わなかったか。
などと、そんな確証のない理由ではない。

イヴァンは知的で理性的で冷静な男だ、衝動的な行動などおこなさい。
少なくとも自分ではそう思っている。

だから理由はもっと明確。
そう、ただ殺せそうだから、殺そうとしたというだけの話だ。
至極まっとうで、疑問を挟む余地すらない。

少なくともその理論展開にイヴァン自身は疑いの余地を持っていない。
これが自身の自然な思考から生まれた衝動であると、信じる信じない以前に当然の物として享受している。

これがマーダー病だ。
長年ピーリィ・ポールを蝕み苦しめ人生を狂わせた不治の病。

ただ人を見ると殺したくなる。
イヴァンが人殺しに抵抗のない人間だった、と言うのも大きいだろうが、基本的に自覚症状すらない。
最初からイヴァン・デ・ベルナルディはそういう人間だったのだと、設定が塗り替えられる。
そんな病がイヴァンの中で発病した。

【C-4・剣正一探偵事務所2F/午前】
【イヴァン・デ・ベルナルディ】
[状態]:精神的疲労、全身に落下ダメージ、マーダー病発症
[装備]:サバイバルナイフ・魔剣天翔
[道具]基本支給品一式、トカレフTT-33、現象解消薬残り9錠
[思考]
基本行動方針:生き残る
1:何をしてでも生き残る。
2:仲間は切り捨てる方針で行く。
3:天は俺の味方をしている…!
※マーダー病が発症しました

102.彼にとっての恋は、 投下順で読む 104.acquired designer child project
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補記 音ノ宮・亜理子 音ノ宮少女の事件簿
彼にとっての罰 イヴァン・デ・ベルナルディ 生と死と

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最終更新:2016年03月02日 17:54