第三の放送が終わる。
多くの死が告げられ、闇に染まり始めた大地のような昏い影を生き残った者たちの心に落とす。
真綿で絞め続けた喉は、遂に呼吸が困難な領域にまで至った。
茨の絡みついた足は鉛のように重く、もはや一歩踏み出すのも困難だ。

だが、それでもと、唱え続ける者たちがいる。
血を滲ませ絡みついた茨を断ち切り、前だけを見て突き進むことを止めない者たちがいる。
全てを破壊し尽くしてでも突き進む、故にブレイカーズだ。

知った名が呼ばれようとも、絶望が迫ろうとも。
打倒ワールドオーダーを掲げる彼らに感傷に浸って立ち止まっている暇はない。

「それで、なんだって野郎は世界を滅亡させようなんて考えたんだ?」

放送を聞き終え開口一番、龍次郎は余程先が気になっていたのか率直に話の続きを促した。
亜理子が解いたという真相。
打倒の取っ掛かりすら見えないこの事件を解体する名探偵の手腕を期待する声だ。

それは確実にワールドオーダーを追い詰める助けとなるはずである。
逸る龍次郎とは対照的に亜理子は余裕の面持ちで、少しだけ意地の悪い笑みを浮かべながら応えた。

「滅亡? いえいえ、そんな事、私は一言も言っていませんよ?」

とぼけるような物言いに、龍次郎は怪訝そうな顔で野太い眉を寄せた。
抗議の意を示すように大きな手振りで両手を開く。

「ぁあん? 言ったろぉがよ、ワールドオーダーは世界を終わらす気だとかなんとかよぉ」
「ええ、それは確かに言いましたね。
 けれど世界を『滅亡』させるつもりだ、なんてことは一言も言ってはいませんよ?
 奴は世界を『滅亡』させようとしているのではありません、『終わらせよう』としているんです」

確かに、よくよく思い返せばそう言っていた気はするが龍次郎からすれば大差があるようには思えない。
ただの言い回し、揚げ足取りのレベルだろう。
細かいことを気にしない性質の龍次郎はこの手の指摘は大嫌いであり、通常であればブチ切れてもおかしくない案件である。

「…………どう違うってんだ?」

だが亜理子の有能さは散々証明済みである。
龍次郎は有能を許す。
議題の重要さからしても、ここは心を落ち着け素直に聞いておくことにした。

無理に落ち着こうとしている様子を見て、亜理子も少し遊びすぎたかと反省して態度を改める。
冷静に見えるが、謎解きという探偵としての檜舞台に彼女も高揚しているのかもしれない。
ましてやこれは探偵が解く他人の謎とは違う、誰でもない自分の事件だ。
己が宿敵を追い詰める推理である、気分も高まるというもの。
それを表に出さぬよう努めて冷静に声を出した。

「係ってくる意味合いが大きく異なります。
 今回の件の場合、そうですね……別の言い方をするならば――――『完結』させようとしている、と言った所でしょうか」
「完……けつ?」

首を捻り一瞬意味が分からないといった風にその単語を反復する。
いや、一瞬でなくよくよく考えても、やっぱりよくわからなかった。
どう考えても主語に対する目的語として正しくない。
『世界』というのなら『滅亡』の方がしっくりくるだろう。

「それでワールドオーダーの目的っていうのが、世界を、そのなんだ? 『完結』させるってことなのか?」
「いいえ、それは手段であって目的ではないですね。ワールドオーダーの目的は最初から明らかでした」

当然のことのように言われても龍次郎に思い当たる節はない。

「明らかだったって……なんだってんだ?」
「――――『革命』ですよ。
 『神様』の支配構造を破壊する事。それがアイツの目的です」

言われてみれば、なるほどその通りだ。
これに関してワールドオーダーはその真意を最初から隠してもいない。
問えば答えるし、端々に口にし態度からも『神様』への嫌悪は明らかだった。
ただ、それを誰も本気にせず、誰も理解できなかったというだけの話だ。

「ふぅむ。ってこたぁつまり世界を終わらせることが、神様への革命になるってことか……」

龍次郎は腕を組み頷いているが、何がそうなるのか具体的にはよくわかっていない。
この男、雰囲気でモノを言っている節がある。
ある意味それこそが支配者としての資質なのかもしれないが。

「……って革命になるのか、それ?」

数秒ばかり考えて、ようやくそう思い至った。
その手段と目的はどう考えても繋がらない。

革命とは支配構造の改革だ。
支配者を打ち倒し、世界の仕組みを根本的に変えることである。
手段と目的がすり替わって破壊行為が目的となるテロリストなんてのは珍しくもないが、まさかその類という訳でもないだろう。
世界を壊してなにが革命になるというのか。

「そうですね。それに関しては私も同意します。
 ”そうしたかった”というより、”そうするしかなかった”のでしょう。
 何せ相手は『神様』ですからねぇ。
 『神様』は文字通り次元の違う相手で、例えるなら本の登場人物が読者や作者を殺そうとしているようなモノだった」
「確かに無理だなそりゃ」

考えるまでもないどころか考えること自体がバカらしい、そんな事くらい龍次郎でも即座にわかる。
そんなことを本気で考えているのなら、それは狂気の沙汰だ。

「奴もそれは理解してたはずです。だから早々に神様を殺すことは不可能だと見切りをつけた。
 けれどそれは諦めではなかったのです。奴は神様を打ち倒すことは不可能だと見るや否や方法を変えた。
 殺せないのなら、切り離すことにしたんです」
「切り離す?」
「そう。終わらせて、切り離すんです」

問い返す龍次郎に強調するように探偵は言う。
『世界』を終わらせて、『神様』を切り離す。

「なるほどな」

腕を組み低く唸り、龍次郎は理解した。
これは自分の頭では理解できない話だと理解した。
聞けば聞くほど分からなくなる。
その反応に苦笑をしつつも、亜理子は真剣な目をして続ける。

「できる限りわかりやすく、順を追ってご説明しますので、どうかお付き合いを。
 これは必要な行為ですので」

妙な言い回しである。
いや、これだけではない。
先ほどからずっと亜理子はそんな言い回しをしている気がする。
まるで目の前の龍次郎に話しかけているのではないような。

「『世界の完結』と『神様への革命』。
 繋がらないのも当然です。
 何故ならこれらを繋げるには、全ての謎を解き明かす必要があるんです」
「全てとは?」
「この世界の全てです、そしてこれこそがこの殺し合いの目的でもあります」

探偵はさらりと、だがはっきりと言った。
世界のすべての謎を明かす。これがこの殺し合いの目的だと。

「こんな小さな島で世界のすべてだぁ? そりゃあちと大袈裟すぎんだろ」

片眉を吊り上げ龍次郎は怪訝な声を上げた。
それにしたって聊か話が大袈裟すぎる。
探偵は抗議の声にも冷静さを崩さず、如才なく応える。

「それが大袈裟でもないのですよ。
 些事はともかく大抵のこの世界に纏わる厄介ごとは、あの男、ワールドオーダーに集約するんです」
「あー、つまりは世界全てってのはワールドオーダーに纏わる謎って事か?」
「そうですね。そう言いかえてもいいかもしれません。
 要するに奴がこれまでしてきた全てを明らかにする、と言うことですから」

確信めいた口ぶりで探偵は断言する。
そう言う物かと納得しても、まだ疑問は残る。

「んん? ワールドオーダーの目的がワールドオーダーがやってきた事の暴露って、そりゃおかしくねぇか?
 こりゃあ野郎の始めたことだ。明らかにしたいなら勝手にすりゃあいいだろ。それこそ書面でまとめてテメェのSNSにでも公開してろよ」

吐き捨てるように言う。
自分で造った謎なのだから、わざわざ謎解きを他人に託す必要がない。
意見としてはなかんかもっともな意見である。
だが、探偵はそうではないと首を振った。

「それじゃあダメなんですよ。だってそれじゃあ、話にならないじゃないですか」
「話にならねぇって何がだよ?」
「だから、そうではなくて、いきなり謎を明かしてしまっては『お話』にならないでしょう?」
「…………は?」

理解が追い付かず、思わず間の抜けた声を上げてしまった。
その反応も予測していたのか、呆気に取られる龍次郎を気にせず探偵は淡々と話を進める。

「だからお話ですよお話、ストーリーと言い換えてもいいですね。
 順を追って謎を解いて、徐々に強い敵を倒して最後に悪の親玉を倒す、ほら物語の王道でしょう?」
「……おい、そりゃあ」
「そう。ワールドオーダーは世界を一つの物語に見立てている。
 そう考えると奴の言動や不条理なゲームルールにもいろいろと筋が通ると思いませんか?」

何が筋が通るのかまでは分からないが、そこまで聞いてようやく一つ納得できた。
物語。だから完結。
滅亡ではなく終わらせる。

「この世界とワールドオーダーに纏わる伏線を全て解き明かすことこそこの殺し合いの命題であり。
 バトルロワイアルという既存のフォーマットを用いたのも、話として成り立たせるため。
 わざわざ参加者として一人送り込むようなルールを順守する姿勢は物語の破綻を嫌ったから。
 ゲームルールが段階的なのは単純にほら、盛り上がりはクライマックスに、というお話的な都合です。
 そう考えると首輪の中にあったチップの内容もある程度予想はつきます、恐らくはこの事件の真実が書かれているレポートか何か。
 私のような存在が全滅した時に武力で全ての情報を明かせるようにという保険でしょう。
 度の過ぎた客観的視点は仮想現実性症候群(シュミレーテッドリアリティ)に近しい価値観の持ち主である事を示している。
 壇上に立って自らの能力の見せつけたのも力を示すパフォーマンスなどではなく、敵だと明確に示すことで自らにヘイトを集めるため。
 挑発めいた言動を繰り返すのも、いずれ討たれると言う最終目的を果たすためだった」

かつての何処かの少年のようにプロファイルめいた推察で男を解体してゆく。
語られる真相を聞くにつれ龍次郎の握られた拳が震えていった。

「なんだそりゃあ! ざけてんのか! ガキの学芸会じゃあねぇんだぞ!
 ンな訳の分かんねぇ事のために、野郎はこんな事をしてんのか!?」

悪の大首領として信念を持ち大義を掲げるのであれば赦しはせずとも良しとするつもりだったが。
こんなバカらしい妄想につき合わされたのでは、弄ばれた死が浮かばれない。
もはやそれは外道ですらない。

「少なくとも奴にとっては冗談でもなんでもないのでしょう。ここで猛ったところでそれは覆りません」

ふつふつと感情を沸き立たせる大首領とは対照的に、穏やかさすら感じるほど平静さを保ったまま探偵は髪をかき上げた。
怒りの感情にそぐわぬ優雅な所作に悪の大首領は僅かに頭を冷やし落ち着きを取り戻す。
大きく舌を打ち、不満を吐き出すように息を吐く。

「……それで、完結だっつう理由は分かったよ、だがよ具体的にどうやって終わらせるってんだ」
「そうですねぇ、大首領はどうお考えですか? 世界を一つの物語とするならば、お話を終わらせるにはどうしたらいいでしょう」
「あぁん? どうするってそりゃあ…………」

教師のような物言いで問われ龍次郎は素直に考える。
幾らなんでも暴れればいいと言う物ではないという事はわかる。
それじゃ話は終わらない、むしろ始まりだ。
子供のころからアウトドア派で小説はおろか漫画やアニメもあまり見る方ではなかったが。
幼いころ見た絵本だの、何度かだけ見たアニメの数少ない知識から思い返して話の終わりを想像する。

「……悪い奴をやっつけたら終わるんじゃねえか」

悪の大首領がそんなことを口にする。
言って、あまりにもバカらしい事を口にしたと思ったのか、僅かに照れたように視線をそらす。
だが、意外にも探偵はそうですねと頷き、これを肯定した。

「その通りです。大概の物語は『ラスボス』を倒せば完結するんです」

ジャンルにもよりますがと申し訳程度に補足をしながら、続いて問いを投げかける。
この物語の根幹であり本質に切り込むその問いを。

「では――――この世界においてその悪い奴とは誰なんでしょう?」

投げかけられた問いの答えなど考えるまでもない。
いくらなんでも龍次郎でもすぐにわかった。
この場でそう問われれば、答えは一つである。

「――――ワールドオーダー、だな」
「そう。あの男こそ世界の終りです」

世界と言う物語を描き、誰もにとっての敵であり、世界その物の敵。
ワールドオーダーという世界の終り。

「出来過ぎだな」
「出来過ぎと言うより、そういう風になるようにあの男が長年をかけてそう仕向けたんです。
 あの男はあらゆる因果を自らに集約させ、排すればこの世界のすべてを解決できるような『終着点』に自らを仕立て上げた。
 それが奴が歪めて奴が創ったこの世界です」

自らを中心として、世界中に蜘蛛の巣のように細い糸を張り巡らせた。
中心を断てば世界が崩れるよう、気の遠くなる程の時間をかけて丁寧に丁寧に奇跡のようなバランスで世界を成り立たせている。
全ては世界を終わらせるために。

「――――だがそれだけでは足りない」

物語を終わらせるには『ラスボス』だけでは足りない。
決定的にかけているモノがある。
もう一つ、パーツが必要だ。

「ただ倒されるだけではダメなんです。
 倒される側がそれこそ世界の全てとも言える『特別』な人間ならば、倒す側もまた『特別』でなければならない。
 世界すべてに釣り合うだけの『特別』な存在が。そうでなければ話が終わらない。
 そのために必要な――――『主人公』の作成。これがこの殺し合いのもう一つの目的です」

物語を始めるのは『ラスボス』の役割であり、物語を終わらせるのは『主人公』の役割だ。
つまり物語を終わらせるには『主人公』が必要不可欠である。

「自らを『ラスボス』に仕立て上げ、『主人公』の生成に及んだワールドオーダーですが、ここで問題が生じた。
 その能力で自らを増やし、好き勝手人の設定を弄りまわしてきたあの男はそれだけにはなれなかった。
 何故なら、ここまで因果の糸が絡まった人間は『主人公』にはなれない。
 奴がなれるのは『黒幕』か『ラスボス』だけ。いくら自分を増やそうとも、奴は『主人公』には為れなかったんです。
 だから自分とは別に、創ることにしたんです『主人公』を」
「いやぁ…………作るって、どうやって?」

呆気に取られて思わず威厳も何もない素の口調で問い返していた。
その問いは率直ではあるが、もっともな疑問である。

それぞれがそれぞれの人生の主人公とはよく言ったものだが、実際問題として現実世界に主人公などいない。
主人公などという曖昧な存在をどう定義するのか。
そもそもそんな存在が創れるのだろうか?

「そこなんです。
 答えはこういうしかない”分からない”と。なにせ明確な定義がありませんから。
 物語によって条件は違うだろうし、そもそも現実世界に物語なんてありませんしね。
 そしてそれはワールドオーダーも同じだった。
 それで諦めて足を止めるのならよかったのですが、それでも奴は止まらなかった。
 分からないなら手当たりに試すしかない。世界中の其処彼処にあるやつの痕跡は、その産物だった」

ありとあらゆるを試した。
異界を産み出し勇者という特別な存在を作り上げた。
悲劇を産み出し底から這いあがる人間を作り上げた。
完璧な超人の失敗作が成り上がるなんてこともあるだろう。
物質に命を与えて特別な何かを産み出したりもした。
宇宙船を落として宇宙人を引き入れた。
サブカルの定番である学生を集めるべく学校を創り、特徴的な生徒を集めた。
主人公を産み出す土台を作り上げるためだけに世界中に異能の種をばらまいた。

多くの人間の人生を歪め、そして世界を歪めた。
たった一人、自分の対となる『主人公』を産み出すために。
自らを殺す存在を産み出すためだけに。

「そしてそれがこの殺し合いに選ばれた参加者の条件。
 ここに集められた人間はワールドオーダーに関わった人間ではなかった。
 単純に『主人公』たる素質を持った人間たちだった」

それが参加者の条件だった。
それは少年漫画であり、少女漫画であり、青春小説であり、恋愛漫画であり、冒険活劇であり、推理小説であり、刑事ドラマであり、サスペンスであり、ラブコメであり、ホラームービーであり、アクションムービーであり、格闘漫画であり、日常漫画であり、霊能漫画であり、アングラ漫画であり、RPGゲームであり、ハードボイルド小説であり、ルポ漫画であり、エッセイであり、更生記であり、都市伝説であり、ヒーロー特撮であり、時代劇であり、伝奇小説であり、復讐劇であり、愛憎劇であり、愛と希望の物語であり、セカイ系であり、空気系であり、スポーツ物であり、国取り物であり、世直し物であり、バトルロワイアルである。
それらあらゆるジャンルの『主人公』となる可能性を持った人間だった。

「この会場に集められた人間に奴と関わった人間が多かったのは、単純に奴がこれまで『主人公』を産み出そうとしてきたから。
 その結果生み出された副産物の多くが資質を秘めているのも道理です」

何しろ奴はそれを作り上げるために多くの時間と労力を割いてきたのだ。
たとえ失敗作とはいえ、その目的のために方向性を弄られた者である。
多くの資質が秘められていてもおかしくはないだろう。

「だとしてもよ、結局これまでうまくいってなかったんだろ?
 一塊に集めたところで、そんなもん、どうやって成否を判断すんだよ?」
「そう。条件に明確な定義がない以上、条件で選別はできない。
 だから発想を変えて因果関係を逆転させたんです。
 『主人公』としての資質を持つ者を集めて生き残った者を『主人公』とする。
 つまり『主人公』だから『生き残る』のではなく『生き残った』から『主人公』だとそう定義した。
 だから”殺し合い”なんです」

例え非力でも、どういう過程を辿ろうとも、主人公は生き残るものだ。
主人公だから死なないのではなく、死なないから主人公なのだ。
暴論に近い論法だが、一概に間違ってはいないので否定はしづらい。

「どうあってもそのカテゴリに当てはまらない『主人公』の資格を持たなかった最終的に打倒させる運命を持つもの。
 それが特別性の首輪を持つ連中の条件です。いうなれば『中ボス』ですね」

主人公としての資格を持ちえない者たち。
ワールドオーダーと同じく、敵対者としての運命を位置づけられたもの。
それが特別性の首輪を持つ者の条件。

「……そいつらに『主人公』が全員負けたらどうすんだよ」

ある種負け役を言い渡されていたのだと知らされ、龍次郎は若干不満そうに肩をいからせながら言った。
その問いには自分が居るのだから負けるに決まっているだろうと言う子供のような意地も含まれている。

「その時は、条件に見合う資格者なしとして次をやればいいんです。
 ここに集められた面子も、あくまで可能性を持った候補者にすぎませんから。
 奴に時間がないと言っても、普通の人間くらいの寿命分はリトライのチャンスが残ってますからね。
 逆に勝ち残ったとしても条件に見合わなければ失格となる可能性すらある」
「じゃあその『主人公』ってのが創りあがったら?」
「同然、最終対決という訳です。物語のクライマックスですね」

サラリと言って、不意に夜空を見上げ最後の場面に思いをはせる。
龍次郎はまだ話の展開に追いつけないのか、頭の中の整理をしながら質問をひねり出した。
頭痛でもするのか片手で頭を押さえながら、愕然とした声で問う。

「ぁんだそりゃ……つまりアレか? 俺らは奴の盛大な自殺につき合わされてるって訳か?」

ワールドオーダーの最終目標は『世界』という『物語』を『完結』させるため、自分の産み出した『主人公』に『ラスボス』として討たれることだ。
それは己が死を望む自殺願望に他ならない。
この問いに亜理子は僅かに眼を細め首を横に振る。

「いいえ、そうではありません。
 自殺ではなく、計画のために自分が死ぬ必要があるから死ぬ。本当にそれだけなんです、奴にとっては」

自分の死も他人の死も等しく計画に焚べる燃料でしかない。
究極的な平等で公平な計画の奴隷。
それはそこまで計画に殉じているのか、それとも自らという個の命に価値を感じていないのか。恐らくは両方だろう。
我の塊である龍次郎には理解できない思考であった。

「けどよ、待ってくれ。まだだ、まだ繋がらねぇよ」

世界を完結させる方法は分かった。
だが、まだそれが『革命』へとは繋がらない。

「それに、何か引っかかんだ。何か、今の話だと何か足りないみてえな」

何というかしっくりとこない。
どうしようもない違和感がある。
上手く言語化できないが、前提となる大きな何か見落としているような気がする。
足りないという言葉に、亜理子は一つ頷く。

「その違和感の正体こそが、この事件のもっとも根幹であり最後にして最大の真実なのです」
「……俺の感じてる違和感がわかるってのか?」

大首領の問いに迷うことなく頷く。
確信に迫るその言葉に思わず龍次郎はゴクリと唾をのんだ。
最強の武を誇る龍次郎もこの場においては形無しである。
ここでは探偵の独壇場だ。
妙な緊張感を奔らせる龍次郎とは対照的に、余裕の笑みのまま丁寧に礼を一つ。

「では、僭越ながら大首領の感じている違和感をこの探偵めが代弁させていただきますと。
 『解き明かしたこの事件の全貌を、一体誰に対して明らかにするのか』でしょう?」

言葉にすればなんてことはない。
推理には須らく謎を暴くべき対象がある。
依頼なら依頼者に。
殺人犯なら警察に。
ではこの事件の謎は誰に明かす?

ここで亜理子が全ての謎を解き明かしたところで――それが仮に真実だったとしても――ただ真実を知る者が一人増えるだけだ。
自分の読んでいる推理小説の犯人を言い当てるようなものである、それでは何の解決にもならない。
謎を解き明かすことが目的だというのなら、それこそ意味がない。
ワールドオーダーは誰に向けて、何のために明かそうというのか。
探偵はスッと目を細め、どこか遠くを見つめる様にして美しく透き通るような声でその答えを告げる。

「―――――――『神様』ですよ」

一瞬時が止まったような沈黙が落ちる。
『神様』
思い返せば、それは推理のみならずワールドオーダーの口からも何度も話の中に出てきた単語である。

「結局よぉ。なんなんだ? その『神様』ってのは…………?」

その問いに、ここまで滑らかに推理を述べていた亜理子の口が初めて言い澱むように止まった。
分からないというよりは、表現に窮しているような困り顔である。

「……一言で表すには難しいんですが。
 創造主、超越者、運命の紡ぎ手、凡てを綴り凡てを覗く者、世界の傍観者、卓上の外にいる者。あるいは世界その物。
 この瞬間も全てを綴り、全てを俯瞰している何者か。今だってほら、こうして私たちを見ている」

ブルリと訳もなく龍次郎の背が凍り震えた。
亜理子は次々とソレを指し示す言葉を並べるが、どれも正鵠を得ない。

「それはワールドオーダーじゃねぇのか?」
「いいえ違います。奴は奴で監視はしているのでしょうが、それとまた違う。もっと別次元の方法で『観て』いるんです。
 なるほど確かにこれは『神様』としか形容できないモノなのかもしれませんね」

独り言のようにそう締めくくる。
遭遇したワールドオーダーも確かにそう言っていた。
言葉では形容しがたい何か。

「けどよ。そんなのが……本当にいるのか?」

とてもではないが、そんな存在がいるなど俄かには信じられない。
世界最強を自負する龍次郎をしてスケールが違いすぎる話だ。
ただ何となく、そういった存在である事だけは伝わったが、その存在に対して想像もつかず、殆ど理解できていない。

「……さて、それはどうなんでしょう。
 事の真偽は私にはわかりかねますが、それが事実であるかどうかは重要ではない。
 あの男が世界をそうであると捉え、神様をそういう存在であると定義している
 解き明かすべき真実はそれだけです」

実のところ亜理子だってそうだ。
本当の意味では半分も理解できていないだろう。
亜理子が理解しているのはワールドオーダーがそういう存在を信じて、それを元に行動しているという事だけである。

「ワールドオーダーの目的は神様に対してこの世界のすべてを明かして。
 もう続きなんて書けないくらいに伏線も何もかも全部回収して終わらせてしまう事。
 そうすれもう続きが描かれることはないし、見るものがなくなってしまえば見なくなる。
 それこそ読み終わった本を閉じるように、この世界は神様から切り離されて、見放される」

これこそが事件の全貌。
ワールドオーダーの掲げる神殺し。
神なき世界の創り方である。

「おい、ちょっと待てよ、だとしたらマズくねぇか?」

そこで何かに気付いたのか、龍次郎がハッとした顔で待ったをかける。
それは普段頭を使わない龍次郎にしては珍しく鋭い気付きだった。

「マズい、とは?」
「野郎の目的がそうだってんなら、今こうしていることは野郎の狙い通りなんじゃねえのか?」

全てを詳らかにすることがワールドオーダーの目的だったとするならば。
『神様』がそのような超越者なら、この謎は誰がどういう形で解いてもいい。
つまり謎を解けば解くほど奴の利になるという事だ。
それどころか対主催行為が全てが計画を推し進めることになる。
進めば勝利は遠ざかり、かといって進まざるは死を意味する。
これでは手詰まりだ。勝利への道が暗雲に呑みこまれてしまった。

「いいえ、そうではありません」

闇を切り裂く刃のように、鋭く涼やかな声で否定する。
ここまで奴の意図を解き明かした以上、亜理子の知と龍次郎の暴があれば全てを台無しにするのも不可能ではない。
例えばあの死神のように、話の筋を無視して脱出する。
例えば謎を何一つ解き明かすことなく伏線を回収せずに終わらせる。
例えばワールドオーダーを倒さない。
方法だけならいくらでもある。
けれど、成すべきことはそうではない。

「確かに奴の狙いを挫くことは不可能ではありません。
 けれど逆です。奴の敷いたレールを破壊するのではなく、奴のレールに乗っかって成功させてやるんです」
「おいおい、何言ってんだ…………!? それじゃあ……!」

これまでの方針を全てかなぐり捨てるような発言に血迷ったのかと慌てる悪の大首領。
それに対し、腹の立つほど落ち着いた態度で探偵はあっけらかんと言ってのけた。

「だって、こんな事で世界が終わる訳がないじゃないですか」

その言葉に、龍次郎は目を丸くして動きを止めた。
ゆっくりと口元に手をやり、唸りを上げ熟考するように首を捻る。

「そりゃぁ…………………………」

その通りだ。
目の前でちゃぶ台をひっくり返された気分である。
当たり前のことを当たり前に言われてしまった。
話の展開に呑まれてそんな気になっていたが、そもそもワールドオーダーを倒したからと言って世界が終わるはずもない。

「半端に奴の意図を邪魔して計画を頓挫させたところで、それは私たちの邪魔による失敗であり計画の失敗にはならない。
 そうなったら次の計画が始まるだけ、奴は成功するまで計画を繰り返すでしょう」

言葉を切った少女の顔に、敵対者に対する酷薄な笑みが浮かぶ。
機械のように冷静に推理を述べてきた探偵の顔が、私怨に燃える少女の顔に変わった。

「――――――そんなことはさせない。
 失敗なんてさせるものか。奴の計画を完膚なきまでに成功させる。
 『神様』? 『世界の終わり』? ハッ! バッカじゃないの!? そんなのある訳ないじゃない!
 お前の存在全てを費やしてきた計画は、最初から見当はずれでてんで成功の見込みなんてない無価値で無意味なモノだったんだと奴に突きつけてやるんだ…………!
 次なんてない。これで終わりだバカめ。お前が世界を終わらせるのなら私はお前を終わらせてやる…………!」

ここにいない誰かに向けて独白のように言葉を吐き出す。
ワールドオーダーの計画を成功させたうえで挫く。
それがワールドオーダーを完全敗北させるための勝利条件。
己が失敗を認められない妄執の亡霊ならば、言い訳できないほどに成功させてやればいい。
少女は己の敵に勝利する、その道筋を得た。

「だったら殺し合いも最後までやり切るって事か?」
「あくまでこの殺し合いは先ほど述べた二つの目的を達成する為の物ですから。
 その二つの条件が満たされればそもそも殺し合いを続ける必要はないんです」

殺し合いはあくまで結末に至るための手段に過ぎない。
結果が齎されたならば、奴からしてもこちらからしてもそれ以上続ける理由はなくなる。
世界の謎解きに関しては殆ど完了したようなものだ。
後はもう一つ、『主人公』の完成に至れば計画は次の段階へと移行する。

だが、話を聞き終えた龍次郎はうーんを唸り不満を漏らした。
計画の全容は明らかになったが、龍次郎にとってはあまりいい展開だとは言えない。
何故なら。

「しかしなぁ……その話だと俺ぁ野郎をぶん殴れねぇんじゃねぇのか?」

倒される側の首輪を与えられた龍次郎には『主人公』となる資格がない。
ワールドオーダーの計画を順守するというのなら、龍次郎はワールドオーダーに手が出せなくなる。

「えっと……それはそうなりますね」

この問いはさすがに予想外だったのか、亜理子は言葉に詰まった。
この段階で龍次郎の機嫌を損ねるのは亜理子としても望むところではない。

「その、この会場にいるワールドオーダーであれば、誰が倒しても問題ないかと思われますので、その……」
「まあいいさ。それで我慢しておいてやる」

理解を超える話に振り回され醜態を晒して今更威厳もないだろうが、堂々とした態度ですっぱりと気持ちを切り替えた。
何せ殴って捨てて終わりという話にはならなそうである。
そもそも殴りあって楽しそうな相手でもない。
龍次郎は喧嘩も好きだが勝利も大好きだ。
ブレイカーズの勝利を得られるのならば、それもアリである。

そうして推理を終え、次の行動をどうするかという段になったところで。
唐突に甲高い機械音が響いた。

「何の音だ?」

亜理子が自らのポケットをあさる。
音を発していたのは1番の悪党商会メンバーバッチだった。
見れば、何物かが通信機能を求めているようである。

どうするか、大首領に視線で問うと無言のまま頷きが返った。
それを確認した亜理子は通信をオンにして龍次郎にも聞こえるようスピーカー部を差し出す。
僅かなノイズの後、バッチから若い男の声が聞こえた。

『ジ……ジジ――もしもし、聞こえるか。応答してくれ――――俺は、氷山リク。聞こえていたら応答してくれ』

【E-9 草原/夜】
剣神龍次郎
[状態]:ダメージ(小)
[装備]:ナハト・リッターの木刀
[道具]:基本支給品一式、謎の鍵
[思考・行動]
基本方針:己の“最強”を証明する。その為に、このゲームを潰す。
1:通信に応答する
2:協力者を探す。
3:役立ちそうな者はブレイカーズの軍門に下るなら生かす。敵対する者、役立たない者は殺す。
※この会場はワールドオーダーの拠点の一つだと考えています。
※怪人形態時の防御力が低下しています。
※首輪にワールドオーダーの能力が使われている可能性について考えています。
※妖刀無銘、サバイバルナイフ・魔剣天翔の説明書を読みました

音ノ宮・亜理子
[状態]:左脇腹、右肩にダメージ、疲労(中)
[装備]:魔法少女変身ステッキ、オデットの杖、悪党商会メンバーバッチ(1番)、悪党商会メンバーバッチ(3番)
[道具]:基本支給品一式×2、M24SWS(3/5)、7.62x51mmNATO弾×3、アイスピック
    双眼鏡、鴉の手紙、電気信号変換装置、地下通路マップ、首輪探知機
    データチップ[01]、データチップ[05]、データチップ[07]、セスペェリアの首輪
[思考]
基本行動方針:ワールドオーダーの計画を完膚なきまでに成功させる。
1:通信に応答する
2:データチップの中身を確認するため市街地へ
※魔力封印魔法を習得しました

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山の頂上は爆撃でも受けた戦場跡のような有様だった。
太陽の化身が放った熱線の余波だけで周囲の木々は黒く焼け落ちていた。
グラビティーダムの分厚いコンクリート壁はチョコレートのように溶け、ぽっかりとくり抜かれたような巨大な空洞が月のようだ。
ダムの水は高熱により干上がり、蒸発した大量の水分は薄い雲となって夜空に瞬く光を遮っていた。

この世界で最も高いこの場所から見上げる空に光はない。
星ひとつ見えない夜の下、敗れ去ったヒーローは悔しげに弱々しく地面を掻いた。
立ち上がろうにもうまく力が入らず、もがくように地面を這いずる手は重い。

もがくその最中、倒れこんだ視線の先に盛り上がった土塊が見えた。
敗れ去り死した者の墓標。
墓標代わりの枝木は焼き消えて黒い炭と化している。

彼女たちの命に責任を負いながら己は今無残にもこうして生き恥を晒している。
宿命の対決に敗北し、制御装置であるベルトも奪われた。
這い蹲り地面を舐める事しかできない己はこの世で最も弱い生物だろう。

だがそれでも、こうして生きている。
まだ終わった訳ではない。
何一つ終わってなどいない。

なら立たなくては。
終わってしまった多くの死に報いるためにも。
終わっていないのならば己自身を続けなくてはならない。
だって、死んでしまっては生き恥を晒すこともできないのだから。

「っぁあああ…………!」

気合とともに腕に力を籠める。
歯を食いしばり、息を切らしながらもなんとか膝を伸ばす。
託された意思を足を支える礎にして、這いずる様にして立ち上がった。
何とか起立し天を見上げる。
雲に覆われた空は暗く、一片の星もない。

立ち上がったところで、バランスを崩してふらついた。
踏みとどまるも、腹あたりがどうにも収まりが悪い。
それがベルトが失われたからなのだと理解した。

あのベルトは望んで手に入れたものではないけれど。
拉致され改造され無理矢理につけられたものだけれど。
あれはもう己の体の一部になっていたのだと、失われてから今更ながらに実感する。

だが何時までも嘆いていもいられない。
重要なのはこれからどうするかだ。

リクは考える。
ゴールデン・ジョイを追うか。
それとも別の方策を講じるか。
いや、策を練るのは得意ではないのだが。
それは白兎の役割だった。

(……そういや、調査しに来たんだったか)

この場に来た目的を思い返す。
厳密に言えばリクではなく白兎の目的だったが。
会場の中央に何かあるかもしれないという推察だったはずだ。

倒れながらも放送は聞いていた。
禁止エリアにより外周はさらに狭まり、ここ中央は避けられている。
まだ偶然の範疇に収まるだろうが、確かに、ここまで来るとリクでも中央に何かあるのではないかと思うほどに露骨もある。
何かあるという彼女の推察は的を射ている可能性は高い。

とは言え、白兎も理恵子もここに来て何かを見つけた様子はなかった。
白兎や理恵子が見落としたようなものを自分が見つけられるとも思えない。

「……ま、だからと言って、何もしない理由にはならないよな」

来てほどなくしてゴタゴタに巻き込まれ彼女たちも本格的な調査は出来なかった。
確率は少ないだろうが見落としがある可能性はあるはずだ。
それに自分があの二人を上回れるとしたら、奇を衒う発想力。
あの二人が思いもつかないようなところを探してみれば何か見つかるかもしれない。

「つってもなぁ。アイツのせいで地形も変わちゃって……」

周りを見渡す。
木々は焼け焦げ、ダムに至っては見る影もない。
こんな調子では何かあったとしても元の形で残っているか。

「………………元の形?」

そこで何かに気付いたのか、リクはピタリと動きを止めた。
周囲を巻き込むゴールデン・ジョイの戦いにより辺りの景色は一変していた。
それにより失われたモノもあるが、それにより現れたモノもある。

あの二人がいるときにそこになかったもの。
完全なる会場の中心。
それは熱線によって貯水が完全に蒸発したダムの底だ。

リクはボロボロの体を引きずるようにして、崩れたダム壁から内部へと侵入する。
段差を超えるだけでも一苦労だったが、時間をかけつつ何度もトライし踏み越えることができた。
そしてダムの内部。不思議な感触の地面を踏みしめ、砂利と藻にまみれた荒涼とした大地に立つ。

貯水を失ったダムの内部は広く、それこそリクの通っている大学くらいならすっぽり入ってしまいそうなほど広い。
只ですら動くのもつらい状態で、ここを一人で調査するのは骨だ。
だが、それでもやるしかない。

踏み出すと、水分を失いカラカラになった藻を踏み粉となって砕けた。
その足がズブリと僅かに沈む。
どうやら乾いているのは表面だけらしく内側は長年水分を蓄えグズグズとなっているようだ。

「うおっ」

泥に足を取られ受け身も取れず転ぶ。
幸いと言っては何だが、地面は柔らかく泥まみれになるだけで済んだ。
まともに歩くことすらできないのかと情けなさに泣きそうになる。

「……まあいいや」

どうせ地面を調べるのだ。
立ち上がるのもしんどいし億劫だ。
四つん這いのまま、泥にまみれで赤子のように進んでゆく。
派手さはなく歩みは亀のように遅い、ヒーローの有様としては余りにも無様なことこの上ない。
だが、今更格好をつけても仕方がない。

地面を凝視しながら進んでゆく。
ゆっくりと、だが確実に今の自分に出来る精一杯をこなす。
どれほどの時間がたったのか。
ダムの中央に差し掛かったところで、動きが止まる。

風が吹いた。
太陽の産み出した雲は切れ、空に月が顔を出した。

「見つけた――――」

それは見落としてしまいそうな小さな穴だった。
リクは四つん這いのまま、両手で穴の周囲の泥と苔を払いのける。
現れたのは地面に敷かれた一面の鉄だった。
その中央に空いた不自然な穴、それは。

「――――鍵穴だ」

隠し扉。
通常の手段じゃ見つけられないようなこんな所に。
無駄ではない。
リクの頑張りも、白兎の推理も。
何一つ無駄ではなかった。

なんにせよ、できるのはここまでだ。
今のリクでは力づくで開けるもの難しいし、当然鍵なんて持っていない。
ここから先は誰かの助けが必要だ。
この発見を誰かに伝えなくてはならない。

当てはあると言えばある。
ポケットの中にある一つのバッチ。
それは悪党商会の幹部、要人のみに与えられるメンバーバッチである。
過去に戦場で悪党商会の連中と相見えた時に幾度がこれを使って通信をしていたのを見たことがある。

ナンバーは2番。ダイヤルは5まで。
恐らくは他にも支給品として配布されているだろう。
そこに1番から順に手当たり次第に通信して、協力者を募る。
もちろんバッチの持ち主が協力的な人物だとは限らない。
危険人物に中る可能性も高いだろう。
だが、一人では打倒できない、一か八かになるが状況が状況だ。

「ま、博打はそこまで嫌いじゃねぇしな」

ボンバー・ガールほど好きでもないが、ナハト・リッターほど嫌いでもない。
のるかそるか。通信機能をONにして、固唾を飲んで応答を待つ。
程なくして、通信が許可される。
それを確認して、リクはバッチ向かて話しかけた。

「もしもし、聞こえるか。応答してくれ。俺は、氷山リク。聞こえていたら応答してくれ」

【F-6 山中(ダム底中央)/夜】
【氷山リク】
状態:疲労(極大)、全身ダメージ(極大)、両腕ダメージ(大)、右腿に傷(大)
装備:なし
道具:悪党商会メンバーバッチ(2番) 、工作道具(プロ用)、リッターゲベーア、データチップ『02』、首輪の中身、基本支給品一式、ランダムアイテム1~3(確認済み)
[思考・状況]
基本思考:人々を守り、バトルロワイアルを止め、ワールドオーダーを倒す。
1:通信先と交渉。協力者を募る
2:火輪珠美と合流したい
3:ブレイカーズ、悪党商会を警戒
※大よその参加者の知識を得ました

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探偵物語 剣神龍次郎 最強の証明
音ノ宮・亜理子
Lunar Eclipse 氷山リク

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最終更新:2019年10月19日 23:59