刑務作業開始から、数分が経過、場所は島南西の旧工業地帯。

かつて運用されていたその土地では、未だにオイルの匂いが抜けておらず、周りのスクラップを媒介にどんどん濃くなっている。

「いや~…どうしたものか…」
そのスクラップたちでも、一番大きく積み上がっている物の上に、少女は座っていた。
後ろに長く伸びた緑の髪は月明かりに照らされ、きらきらと輝いていた。

「殺し合い…刑務作業で人を殺せとは、なかなかいい趣味だね、あの看守長」
皮肉混じりにヴァイスマンのことを評すると、デジタルウォッチに手をやった。
「名簿…時計…方位磁針…メモ…それに交換リスト…食料もあるし…生きたきゃ殺せって?勘弁してほしいよ…」
彼女は大切な物のため、特に傷つけられたのならば、手段は厭わない人間ではある。
それが彼女につけられた、20年という業の理由、しかし。

「…あいにく自分から殺人をするほど、腐ってはないさ」
つまりそれは、彼女の本質は善良であることを示している。

「で、いつからいたの、アルファ」
「麻衣様が殺し合いにぼやき始めた辺りから」
いつの間にか、謎の存在が麻衣の後ろに立っていた。
それを評するなら「人型のバッタ」、黄緑の体色が、彼女と同じように照らされていた。

「…もしかして、私に"意見"を言いに?」
「…それは伏せます」
「それじゃあ、君は私にどう立ち回ってほしいんだい?君の意見は?」
アルファと呼ばれた存在は、麻衣の超力により呼び出された存在であった、麻衣の問答に対して、アルファは少し悩んだ後。

「…私としては、麻衣様の命が最優先、貴方様の為なら、このアルファ、命落としてでも尽くしましょう」
「…私の答えが、"乗らない"だったら?」
「…善良を持って、守ります、もちろん殺しはしません、ですが、どうしてもという時は…」
「わかってる、君にも、下手人をさせたからね」
アルファの答えを切り上げ、麻衣は立ち上がる。

「…さっさとここらへんから離脱して、草原でも見つけて食べられる草でも探す…と言いたいんだけど、そうはいかないみたいだね」
麻衣は後ろに声をやった。
「ありがとうマンティズ、で、あなたは?」


男に、名はなかった。
いや、正しく言えば、有った、だろう。

超力がスタンダードの時代において、彼が得た超力はメンタル強化。
決して、目に見えて役立つものでもなく、一般人からしたらハズレだった。

だが、彼にとってはそれが最高の授けものであった。
素の能力だけで戦いに明け暮れ、猛獣もマフィアも凄腕の殺し屋も、全部この手で屠ってきた。

恩赦に興味はなく、ただ闘争だけを求めていたい、名を忘れほどに。
首輪がなければ、看守の元へGOだったろう。
だが、これがあるなら仕方ない、強者にのみ絞り、気になる囚人たちと戦う、ただそれだけを考えていた。


ふと、反対側のスクラップの山を見ると、小娘がいた。
なんだか気になり、少し足を動かしたその直後であった。
彼を屠らんとした下手人が、首に鎌をかけていた。


「おっとてめぇ…お嬢様に手を出すってのなら…容赦はしないぜ?」
「…」
「…私を殺す気…ですか?」
麻衣は年上だと見たのか、敬語で話しかける。
彼の背後にいたのは、アルファと同型の、等身大のカマキリ。
刃はその男に突きつけられ、少し動かせば血飛沫が舞うだろう。

麻衣は冷静に分析を読む。
男の囚人服は自分のと比べて新品同然、最近の囚人だということが分かった。
「あなたは…何をする気でしたか?」
カウンセラーの様な質問を、男に投げかける。
「…俺は、強者との戦いを求めるているだけだ、ただ、それだけだ」
「なるほどバトルジャンキー系ね…もしかして、決闘罪か何かで?」
「…若いがよくやるな、頭もなかなかキレるようだ」
「そりゃあどうも」
互いの会話は、緊張感が迸っている。

「そういうお前は、なんでここに?」
「…どうもうちの人が傷つけられたからね、それをやった連中を拷問して」
「…なるほどな」
男は少し期待外れのような顔をすると。
「…今ここで明言してやる、お前と戦う気は俺にはない」
「ん?さっきまで少し期待してそうな顔だったのに?」
麻衣は疑問をまた投げる、少なくとも、会敵したときには、顔に少し悦が出ていた。

「お前、はっきり言って、本当にブチギレた時にしか手段を選ばないタイプだろ?」
「あら御名答」
「それに、わざわざ戦いを拒むような相手とは、基本しない主義なんでな」
そういうと、その男の顔は、真面目な顔になっていた。
「そう、ならマンティズ、離してやってもいいよ」
「しかし、お嬢様」
「いいから」
マンティズは不満そうにしながらも、男の元から麻衣の方に移動する。

「…一様聞きますけど、一緒に動きますか?」
「…そしたらお前、俺の争いに巻き込まれることになるぞ?それに、お前には優秀な奴らがついてるみたいだしな」
アルファとマンティズに男は指を指す。
「褒められてるよ?」
「…」
「まぁ、一様受け取ってやるよ」
アルファは無言で何も言わないが、マンティズは受け入れた様子である。

「それじゃあ私はここから出ますから、また会えたら」
「あぁ、会えたらな」
こうして、麻衣と男は、スクラップの山から降りて、互いの道を歩き始めた。

背後のスクラップ達が、彼女達の姿を遮り、道筋が別であることを示しているようであった。


「あれは凄い人だ…正直言うと、興味深かったね」
「…強者として、認めざるおえませんでしたな」
「んぁ?以外だな、てめぇが相手を認めるなんてよ」
一人と二匹は歩きながら会話していた、マップを頼りに、工業地帯を抜ける道を歩きながら。

「…もしあの場で戦闘してたら…いえ、ここでマイナスな事は辞めておきましょう」
「へっ、それもそうだな、んじゃ、俺たちは休んでるんで、お嬢様、何かあったら」
「ありがと、二人共、少し休んでてね」
アルファとマンティズが姿を消す、超力で呼ばれてる彼らを、彼女は自らのの指示で出現と消滅を自由に選択できる。

「それじゃあ…生き残れる道…探しますかぁ」
彼女は体を伸ばしながら、そう言った。

【F-3/旧工業地帯・廃工場群/1日目・深夜】
【宮本麻衣】
[状態]:健康
[道具]:デジタルウォッチ
[恩赦P]:0pt
[方針]
基本.殺し合いにはならない
1.生き残れる道を探す
2.あの男(無銘)は気になるが、深追いすると大変なことになるので今は避ける


一方…男、今の仮名は無銘。

(しかし…あの二人…おそらくは超力で呼ばれた眷族…しかも未だ2,3人ほどが呼ばれてないやつがいるな…)
無銘は、先ほどの二人…マンティズとアルファに関心を持っていた。

(俺に鎌を向けてたやつ…少なくとも、あの鎌は何人もの相手を切り裂いてる…向かいの小娘の方にいたやつも、歴戦の猛者の香りがしたな…)
無銘は、若干の笑みを浮かべながら、心のなかでこうつぶやく。
(本音を言えば…戦いたかったがな)
ほとんど超力の影響を受けずに戦う決闘士、無銘。
この男の興奮の、満ちたる奴は、この会場に存在するのか。

【F-3/旧工業地帯・廃工場群/1日目・深夜】
【無銘】
[状態]:健康、興奮(小)
[道具]:デジタルウォッチ
[恩赦P]:0pt
[方針]
基本."強くて戦いを望んでやつ"と戦う
1.とりあえず強いやつを探す
2.ほんとは小娘(麻衣)とその眷族ら共と戦いたいが、本人が戦いを望まないなら仕方ない…口惜しい…

000.OP.ドブ底の金貨 投下順で読む 002.少女の祈り
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PRISON WORK START 宮本 麻衣 Lunatic Dominion
PRISON WORK START 無銘 名無し(ノーネーム)vs多重名(マルチアカウント)

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最終更新:2025年03月10日 20:37