――なぜ私は生まれてきた。

遠い日の欧州のスラム街で自分はそう思った。

――どうせなら、ここで野垂れ死ねば――
そう思っていた、それでも、死ぬ覚悟が振り切れない。
意気地なし、その言葉が私にはお似合いだった。
こんな私を救う人は――いたのです。

――大丈夫ですか?この近くに施設があります、よろしければ、そこまで。
そう優しく語りかける彼女は、私にとっての救いのヒーロー、年齢なんて関係ない。
だから私はそれを目指した――なのに、なのになのになのになのになのになのに!

「みんななんで私を怪物扱いするの!」


広い砂浜に、夜のさざ波が響いていた。
そこには大きく育った一つの大木が有った。
そこには、一人の男が波を聞いていた。

「いいよね、夜風に浴びながら波を聞く、僕は好きだよ」
男は、年こそ積んでいるものの、好青年という印象を誰にも与えるであろう男であった。
まるで語りかけるように話す男は、今自分の正面に立つ少女と会話しているつもりであった。

「で君はどうなの?せっかくだし、一緒に」
「黙れ」
少女に、その男と会話する気などなかった、言葉を遮ったそれには、怒気が存分に含まれていた。

「酷いね、何もそこまで言わなくても」
「…お前の目は腐っている、しかも、とことんどす黒く」
「驚いた、神の目でも持ってる気かい?」
少女の断言に、男は煽るように返す。
いつの間にか、少女の周りには火が焚き付けられていた。
夜の海が彼女が生み出す火を照らす。

「さすがは、"悪魔"ジャンヌ・ストラスブールの狂信者と言うべきかな?フレゼア・フランベルジェ?」
「ッ…」
彼女に一番放ってはいけない言葉を、その男は言い放った。
好青年の顔はすでに消え、本性を現したそれは、無感情であった。
少女はあの"堕ちた英雄"のように、炎を燃えたぎらせる。
原動力は怒り、ただ、すべてを燃やし尽くす怒り。

そして、闇夜の空に怒りとともに、炎が燃え上がった。
「彼女を…愚弄するなぁ!」
フレゼア・フランベルジェという怪物はここに再熱した。
「正義の下、お前を焼き尽くす!」
「怖いね」
やはり男は無感情である。


氷月蓮にとって、殺人とは攻略本を持ってするようなゲームのようなものである。
幼い頃から倫理と人の道を理解できず、生まれついての破綻者(サイコパス)

恐怖で他者を支配し、常に冷徹な怪物。
だが、それと同時に欺瞞の仮面を常につけられるもの。
刑務所では模範囚として暮らし、アビスでの評価も高いほどであった。

そして今夜はこの男が、仮面の先の表情を見せる。
無感情、それしかない、彼をサイコパスと評せず何と評すか。

(とはいえ、こちらが完全に不利か)
氷月の超力『殺人の資格(マーダー・ライセンス)』は、敵対者の最善の殺し方を、どんなに低確率でも可能性さえあれば表示する超力。
しかし、低確率の可能性、それはつまり、下手をすれば相手を殺せず野垂れ死に。
少なくとも、氷月にその気はない。

(なら、やはりこれしかないな)
氷月は、衣服を抜き始めた、風化した囚人服を、フレゼアへ投げつける。

「邪魔だぁ!」
フレゼアの炎が簡単に囚人服を焼き払った、轟々と燃える服、しかし、それに視線と行動を許してしまった彼女には、すでに氷月の姿はなかった。

「なっ!?何処に?」
「ここだよ」
鉄仮面の様な表情を向けながら、氷月は海の方に浮かんていた、彼はフレゼアの攻略をする気など捨てていた。
あんな怪物、今相手取るのには厳しすぎる。

「おのれぇ!海に!」
火の能力では海に入ることもできず、今は彼をそのままぬけぬけと逃がす他になかった。
「次は頭を冷やしてくるといいね、英雄気取りの悪魔さん」
そして嘲笑の笑いを向けながら、氷月はクロールで泳いだ。

「ッ…おのれおのれおのれおのれおのれ!」
浜辺でフレゼアは怒りの炎をさらに滾らせ、怒りの慟哭を空へと叫ぶ。
先ほど氷月のいた大木は、炎により燃えて倒れていた。
「あの様な怪物を取り逃してしまうなど…!これでは…あの子に顔向けもできない!」
正義の怪物は歯車を回し続ける、海辺であるため、炎はそれ以上伸びなかった。

「この24時間以内に、あの子を除いた囚人だけではない…この狂った司法も世界も!丸ごと!燃やし尽くしてやる!」
英雄に照らされた華は、正義を目指し、化生と化した。
その憎悪は、世の中すべてに向けられていた。

【A-6/浜辺/1日目・深夜】
【フレゼア・フランベルジェ】
[状態]:健康、怒り(大)
[道具]:デジタルウォッチ
[恩赦P]:0pt
[方針]
基本."全てを燃やし尽くす
1.手始めに囚人を、その次に看守を、その次にこの世界を。


一方、氷月は泳ぎ続け、別の浜辺へ到着することができた。

「あれが狂信者の末路、実に怖いね」
顔はやはり笑っておらず、言葉に抑揚は無い。
「…このアビスには、まだ未成年にも満たない人間も収監されている」
デジタルウォッチのつけ、交換リストを確認する。

「…だが、ここで無闇矢鱈に殺して、全員の的になるわけにはいかない、まずは誰かに取り入ってチームを作って、その輪の中で殺す、それで行こう」
氷月にとって、他人の命は巨人から見た虫のようなもの。
ある意味平等に、殺しを遂行していくのだ。

そして、今宵も仮面を被り、模範囚を演じていく。

【B-5/浜辺/1日目・深夜】
【氷月 蓮】
[状態]:健康、上裸
[道具]:デジタルウォッチ
[恩赦P]:0pt
[方針]
基本."恩赦Pを獲得して、外に出る
1.まずはチームを作る、そしてその中で殺す

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PRISON WORK START フレゼア・フランベルジェ 裁かるるジャンヌ
PRISON WORK START 氷月 蓮 PSYCHO-PASS

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最終更新:2025年03月06日 21:21