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あたしが超力に目覚めたのは、3歳のときだったらしいです。

らしい、っていうのは、そんな昔のことまでいちいち覚えてないからです。
3歳ですよ、3歳。覚えてるわけないじゃないですか。
でも、たぶん、全部そこから始まったんでしょうね。

兄弟の中で、あたしだけ、なんとなく扱いが違ったんです。
別に、殴られたとか、閉じ込められたとか、そういう見るからにひどいことをされたわけじゃないんですよ。
ごはんは出るし、家にもいさせてもらえるし、服だって一応ある。
外から見たら、たぶん普通の家庭でした。

でも、怒られもしないし、褒められもしない。
何かを期待されることもない。

何かやらかしても、『ああ、まあ、この子だし』で終わるし、
逆に何かうまくやっても、『ふうん』で終わる。

まあ、楽っちゃ楽だったんですけどね。
干渉されないし、うるさくないし。

でも、子どもでもわかるんですよ。
あ、自分って『どうでもいい枠』なんだなって。

いてもいなくても変わらない。
失敗しても痛くないし、うまくいっても嬉しくない。
そういう存在。

親って、普通は子どもの将来に何かしら思うものじゃないですか。
この子はこうなってほしい、とか、せめてちゃんと育ってほしい、とか。
でも、あたしには願い(それ)がなかった。

口に出されたことは一度もありません。
けど、言われなくてもわかることってあるでしょう。

この子には、別に何も求めてない。
この子に、別に何も期待してない。

そういう空気です。

子どもって、そういうのに妙に敏感なんですよね。
たぶん、大人が思ってるよりずっと。

誰かの期待を受けて育つって、どんな感じなんでしょうね。
ヤミナにはわかりません。
だって、一度もそんなものを向けられた覚えがないから。

その辺は学校でも、だいたい同じでした。

先生って、けっこう露骨に贔屓する生き物なんですよ。
見込みのある子には熱心だし、問題児には問題児なりに手をかける。
面倒でも、そこに意味があると思った相手には、ちゃんと関わるんです。

でも、どうでもいい子には、びっくりするくらい何もしない。

あたしはそのどうでもいい子でした。

成績が飛び抜けて悪いわけでもない。
問題を起こすわけでもない。
かといって、わざわざ褒めるほど優れてもいない。

忘れ物をしても、『次は気をつけようね』で終わる。
提出が遅れても、軽く注意されるだけ。
まあそれはそれでラッキーってかんじだったんだけど、優しいっていうより、どうでもいい。
見捨てるほどでもないけど、向き合うほどの価値もない。そういう扱い。

だからあたしは、放っておいても勝手に隅のほうで生きてる子、みたいな存在になった。
何かを相談したところで、先生だって困った顔をして終わりだったと思います。

けど友達は、それなりに多かったと思います。
むしろ、そこそこ上手くやれていたほうなんじゃないですかね。
適度に茶化されて、適度にいじられて、適度に笑われて、大事なところは踏み込まない。

一緒にいると気楽なんだよね、と言うのが友人たちからのあたしの評価。
誰も本気で取り合わないし、誰も本心なんて明かさない。誰の特別にもならない。
重くない。責任がいらない。雑に扱ってもいい。後腐れがない。何処までも、軽い。

ぬるくて、浅くて、なあなあで、なんとなく続いている。
それが、あたしにとっての友人関係。

誰もヤミナと向き合いません。
誰もヤミナを大事にしません。

でも、まあ、そんなもんかって思ってたんです。
世界って、そういうものなんだろうって。
それが当たり前で育ったあたしは、その世界を受け入れるしかなかった。

だから、自然と思うようになりました。
自分を大事にできるのは、自分だけだって。

あたしを雑に扱う連中を、あたしがわざわざ大事にしてやる必要なんてない。
だったら最初から、自分を一番にして生きたほうがいい。

自分本位に。
好き勝手に。
欲しいものを欲しいって言って、
手に入るなら手に入れて、
せめて自分くらいは、自分をまともな人間扱いしてやろうって。

そう思って、まず最初にやったのが、自分を着飾ることでした。

可愛いものを持つ。
ちゃんとした服を着る。
流行りのものを身につける。

最初に手を出したのは、バーグラーの新作でした。
笑っちゃうくらい高かったです。
でも、すっごく可愛かった。

あれを持ってるだけで、自分が少しだけマシな人間になれる気がしたんですよね。
ちゃんと価値のある側に寄れる気がした。

そのときは、本気で払えると思ってました。

だって、みんな平然と買ってるみたいな顔してたし、
店員もにこにこしてたし、
あたしだけが無理してる感じなんて、全然しなかったから。

だから、ああ、これくらい普通なんだって思ったんです。

でも、全然普通じゃなかった。

リボ払いって、ほんと何なんですかね。
いや、あれ考えたやつ終わってるでしょう。
払いやすい顔して近づいてきて、気づいたら逃げられなくなってるんですよ。
意味わかんなくないですか。

払ってるのに減らないんですよ。
ちゃんと払ってるのに、全然終わらない。
あれ、だいぶ詐欺寄りでしょう。

借金って、もっと派手なものだと思ってました。
取り立てが来て、怒鳴られて、人生終わる、みたいな。

でも実際は静かなんです。
びっくりするくらい静かに、でも確実に首を絞めてくる。

昨日より今日、今日より明日、少しずつ息が苦しくなる。
財布の中身より先に、頭の中が削られていく感じでした。

でも、あたしには、真面目に働いてコツコツ返すみたいな根気もなかったし、
そんな生活を立て直すだけの学も余裕もありませんでした。
だから、もっと手っ取り早いやつに飛びつきました。

『ホワイト案件』って言われたんです。
難しくない、危なくない、すぐ稼げるって。

そりゃ信じますよ。
だって困ってたんだから。
びしっとスーツ着た人も大丈夫だって言ってるし。

そんなの、信じるでしょう。
っていうか、信じたいに決まってるじゃないですか。

でも、まあ、普通に騙されました。

都合よく使われて、
切るところで切られて、
最後に捕まるのは、末端のあたしだけ。

最悪ですよね。

それで懲りればよかったんですけど、懲りなかった。
というか、懲りたところで、もう普通の道に戻れる感じでもなかったんです。

一回転ぶと、次はもっと簡単になるんですよ。
いい話に引っかかるのも、
言い訳するのも、
人のせいにするのも。

そうやって、似たようなことを何度も繰り返してるうちに、借金は400万を超えてました。
400万ですよ。ここまでくると笑えるでしょう。ぜんぜん笑えませんけど。

普通に生きるって何だっけ、って感じでした。
朝起きて、働いて、食べて、寝て、たまに好きなもの買って、みたいな生活が、急に遠い世界の話になるんです。

でも、世の中ってそうじゃないですか。
知らなかったでは済まないことばっかりで、
知らなかった人間から先に沈んでいく。

そうしていつの間にか、犯罪教唆だの、強盗だの、国家転覆未遂だの、
字面だけはずいぶん立派なことになっていました。
中身はただ、転がる先を間違え続けただけなのに。

短い間に何度も捕まって、
しかも内容はどんどん悪くなっていって、
その末に、あたしはとうとう行き着いたんです。

最悪の、そのまた先。
掃き溜めの底より、さらに下。

ヤマオリ記念特別国際刑務所
あたしはそこへ、『悪人』として放り込まれました。


でも――――それって、本当にヤミナが悪いんですかね?


だって、誰も教えてくれなかったじゃないですか。

身の丈に合った買い物をしろ、とか。
リボ払いがどういう仕組みなのか、とか。
甘い話には裏がある、とか。
困ったときに頼っていい相手と、近づいちゃいけない相手の違い、とか。

誰も、ちゃんと教えてくれなかった。

まともに叱ってくれる大人もいなかった。
本気で止めてくれる大人もいなかった。
守ってくれる大人もいなかった。

あたしの人生には、最初からずっと、そういうのがいなかったじゃないですか。

だったら、悪いのはあたしじゃない。

あたしに、こんな超力が宿ったのが悪い。
こんな超力社会を作った連中が悪い。
こんな世界を放っておいたやつらが悪い。

じゃあ、それは誰なんでしょうね。

ヤマオリのやつらですか。
GPAのやつらですか。
それとも、神様ですか。

誰でもいいですけど。

少なくとも――あたしは、悪くない。


生存者の現在位置を示す光点が、デジタルウォッチの地図上で明滅していた。

AG-1のハッキングによって強引に解放された、本来ならジョーカーにのみ許されるはずの特権機能。
薄青い画面の上には、なおこの地の底を彷徨う者たちの名と座標が、無機質な記号として並んでいる。
だが、その光景が最初に突きつけてきたのは希望ではなく、あまりにも露骨な現実だった。

「……減ってやがるな」

走りながら、トビ・トンプソンが低く吐き捨てる。
視線が地図の上を滑り、ひとつ、またひとつと移り変わる反応を追っていく。
安理。ローマン。脱獄同盟(オーシャンズ)の生存反応もまた、確実に数を減らしていた。

刑務は、もう最終局面へと雪崩れ込みつつある。
ここから先は、一瞬の遅れも、一つの見落としも、そのまま致命傷になりかねない。

「ヤミナの反応は、相変わらず見えやしねぇな」

ジョニーが苦々しく呟いた。
本来そこにあるはずの光点が、地図のどこにも見当たらない。

ヤミナ・ハイド。
あまりにも弱く、あまりにも小さく、だからこそ誰も脅威として数えなかった女。

その歪みきった概念干渉は、ついに機械の認識すら狂わせ始めている。
人の目だけではない。探知機能さえも、あの女を『追う価値のないもの』として切り捨て始めているのだ。
こうなれば、ヤミナ自身を直接追跡することは、ほとんど不可能に近い。

「ヤツの狙いはメリリンだ。メリリンを目指せば、必然的にヤミナとも出くわす」

舌打ち混じりに、トビは断ずる。
ジョニーは何も言わず、ただ頷いた。
それが最短であり、そして唯一の正解だった。

只野仁成が、死の淵で血を吐きながら遺した情報。
あれがなければ、今ごろ二人は完全に闇の中でヤミナを見失っていたはずだ。

もっとも、状況を楽観できる余地などどこにもない。
かなりの先行を許している。
とはいえ、ヤミナ自身の身体能力は高くない。
純粋な走力勝負であれば、追いつけない相手ではないはずだった。

だが、いまのあの女は、もはや『弱いだけの女』ではない。
何を手札に持っているのかも分からない、得体の知れない存在へと変貌している。
強力な移動手段を持っていたとしても、何ひとつ不思議ではなかった。
『システムA』の本体により認識阻害の解かれた彼らは彼女を侮る事はない。

「ここから追いつけるか?」

問いというより、思わず漏れた愚痴に近かった。
だが、すぐ脇を並走する鋼鉄の騎士は、視線ひとつ寄越さずに答える。

「問題ねぇ。平原に達すりゃ、こっちのもんだ」

どういう意味だ、と問い返すより早く、岩山が途切れた。
ごつごつとした足場が終わり、視界の先がゆるやかに開けていく。

岩山から平原へ。
風の抜け方が変わる。
そこに広がるのは、遮るものの少ない草地だった。

足を取る障害物は消え、月光が地表を均一に照らしている。
ここから先は、もう山岳ではない。走るための地形だ。

そして、その平原へ足を踏み入れた次の瞬間。
鋼鉄の騎士の全身が、唸るような駆動音とともに変形を始めた。

肩が割れ、腕が折り畳まれ、胸部装甲が滑るように前方へ展開する。
脚部は重厚な骨組みを保ったまま再構築され、鋼鉄の塊が一台の異形へと組み変わっていく。

人の輪郭を残したまま、しかし明らかに人ではない。
前面のライト部分に顔面の意匠を残した、不気味で、それでいて圧倒的な質量感を持つ鋼鉄のバイクが、そこに現れた。

「――――オレに乗りな」

世紀末なデザインのバイクから低く響いたその声に、トビは一瞬だけ眉をひそめる。

「趣味の悪ィデザインだぜ」
「うるせえ、急ぐんだろ」
「へいへい」

軽口を叩きながらも、トビは即座にその車体へ跨がった。
次の瞬間、ジョニーバイクは音もなく地を滑り出す。

爆ぜるような加速だった。
エンジン音はない。排気もない。
あるのは鋼鉄の駆動音と、地面を削る勢いで回転する機構の唸りだけ。

要するに、推進力の正体はジョニー本人の馬力である。
端的に言えば実質手漕ぎだ。
だが、それでも車輪による駆動は、生身で走るのとは比較にならない速度を叩き出していた。

「ッ、は……!」

風圧が容赦なくトビの頬を打つ。
視界の両端で、地形が流線のように溶けていく。
草地を裂き、力任せに呑み込みながら、鋼鉄の巨体は凄まじい勢いで加速していった。

これなら追いつける。
いや、この速度なら先回りすら可能だろう。
もっとも、相手が通常の移動手段しか持たないのなら、だが。

トビは片手で車体を押さえ、もう片方の手でデジタルウォッチを開く。
地図上に残った光点が、淡く脈打っていた。

メリリンの現在地は、禁止エリアとなった灯台。
それは彼女が首輪解除を成し遂げたことの証でもある。
あとは、彼女が生き延び合流できればいい。

「目的は変わらねぇ。メリリンの保護だ」

風に声を裂かれながらも、トビははっきりと言った。
メリリンの保護。それだけは、何としても成し遂げなければならない。

「メリリンが脱獄に繋がる確かな情報を得ていれば、後はオレ様の超力でなんとかできる」

その言葉に、ジョニーの車体がわずかに揺れた。

「……どういう意味だ?」

風を裂きながら、バイクと化した鋼鉄の騎士が問う。
その声色には、隠しきれない怪訝さがあった。

無理もない。
ジョニーの知るトビの超力は『軟体』だ。
脱出、潜入、離脱に向いた、いかにも脱獄王らしい異能ではある。
だが、どんな状況でも最適解になり得るような万能の力には見えない。

「アンタの超力は軟体だろ。メリリンが持ってる情報次第じゃ、使い物にならねえ可能性だってある」

妥当な疑問だった。
この男が自信満々なのはいつものことだ。
だが、こと脱獄に関して、現実を無視した大言壮語を吐くような男でもない。
だからこそ、その断言には引っかかるものがあった。

しかしトビは、風の中で不敵に口端を吊り上げる。

「確かに、軟体(スラッガー)はオレ様の超力だ。そりゃ間違っちゃいねえ」

そこで一拍置き、トビは続けた。

「だが、正確にはありゃ前回の名残だ」
「名残?」
「ああ」

前方の闇を睨んだまま、トビは続ける。

「オレ様の本当の超力は、そんな単純なもんじゃねえ」

吹きつける風の中、その声音だけが妙に明瞭だった。

「オレ様の超力はな――脱獄に最適化した超力を得ることだ」

風の音が、一瞬だけ遠のいたように感じられた。
数秒、ジョニーは返答を失う。
その沈黙こそが、驚愕の証だった。

「……最適化?」
「そういうこった。状況ごとに、脱獄を成し遂げるのに一番都合のいい力へ辿り着く。軟体は前回、脱獄が成立した時の残滓に過ぎねえ」

夜の平原を、鋼鉄のバイクが駆け抜けていく。
その背で語るトビの声音は、熱を帯びるでもなく、ただ当然の事実を告げるように響いていた。

「もっとも、好きな時に好きなだけ使える便利な代物じゃねえ。ちと面倒な発動条件がいくつかあってな」
「条件……」
「その一つが、脱獄条件の確定だ」

そこでトビは、ぐっと目を細めた。

「つまり、メリリンが掴んだ情報が本当に『ここを出るための道』に繋がってるなら、その瞬間にオレ様の超力は次の段階へ進む。この刑務をぶち破るのに必要な形へ、な」

ジョニーは黙ったまま、さらに速度を上げた。
草原を切り裂く風圧が、二人のあいだを唸るように吹き抜ける。

脱獄条件の確定。
どこへ、どうやって、何を突破すれば外へ出られるのか。
その道筋が現実のものとして定まった時にのみ、脱獄王の異能は真価を現す。

「メリリンが掴んだもんが本物なら、ここから先は一気にひっくり返せる」

灯台に辿り着いたメリリンが、この刑務を覆すための『何か』を本当に手に入れていたなら。
その瞬間、トビ・トンプソンは、この世界に用意された牢獄そのものに対して、最適の答えを引きずり出す男になる。

「だから守る。何があってもな」

トビの声音は、驚くほど静かだった。
ジョニーは返答の代わりに、鋼鉄の車体をさらに低く沈ませる。

平原が続く。
遠く、夜の向こうに次の地形が見える。
まだ距離はある。だが、止まる理由はなかった。

只野仁成が命を賭して繋いだもの。
灯台で仲間たちが掴んだかもしれない希望。
それらが確かな『脱獄条件』として結びついた時、トビ・トンプソンという男は、真の意味で脱獄王となる。

「だが、いいのか? 切り札を口にしちまって。ヴァイスマンのタグは外れたにせよ、別口の監視がないとも限らねぇだろ」
「ここまで来りゃ構わしねぇよ。何せ――」

トビは口の端を歪めた。

「何が出るかは、オレ様にも分かんねぇんだからよ!」

ならば、なおさら遅れるわけにはいかない。
ヤミナが何を企もうと。
灯台側に待つものが救いであれ罠であれ、そこへ辿り着けなければすべてが終わる。

ヤミナが普通の徒歩で移動しているなら、追いついていてもおかしくない。
だが、いまだ影すら踏めていない。
やはり何らかの通常ではない手段で移動しているのだろう。

「どっかで足止め食ってることを願うしかねぇな」
「そんな都合のいい話なら助かるがな」

軽口としていってはみるものの。
ここまで生存者が減った状況では、そんな紛れが起きている可能性は高くはない。

「急げよ、ジョニー」
「言われるまでもねえ」

鋼鉄の怪物が、さらに加速する。
闇を切り裂くように。
死者の遺志を背負うように。
最後の希望が待つ場所へ向かって、鉄の騎士は草を踏み潰し、脱獄王を乗せたまま夜の平原を疾走する。

その先に待つのが救いか、更なる地獄かは分からない。
だが少なくとも、灯台には答えがある。

そして、その答えの先にこそ、脱獄への道があると信じて。

【E-3/道路/一日目・夜中】
【トビ・トンプソン】
[状態]:健康、侮り解除、タグ解除
[道具]:H&K SFP9(12/20・永遠付与)、ナイフ、デジタルウォッチ、デイパック、只野仁成の首輪(未使用)
[恩赦P]:0pt
[方針]
基本.脱獄する。例えそれがヴァイスマンの思惑だとしても。
1.灯台へ向かった者達と合流し、成果を共有する。
2.システム攻略へと挑む。
※デイパックの中に北西ブロック3階中央の部屋等から持ち出したものが入っているかもしれません。

※システムAに触れ、受けた超力の影響を一時的にリセットされています。
 ヤミナの脅威も今は正しく認識していますが、時間経過によって再び侮りが発生する可能性があります。
※ヴァイスマンのタグ付が解除されました。
※会場を監視するアビスの眼であるAGと接触し、協力を取り付けています。
※AG-1の支援により、生存者の現在位置が把握可能です。ヤミナを除いて。

【ジョニー・ハイドアウト】
[状態]:疲労(小)、ヤマオリ、永遠、侮り解除、タグ解除、バイク
[道具]:デイパック、紗奈のシステムAの手錠
[恩赦P]:0pt
[方針]
基本.受けた依頼は必ず果たす
1.灯台へ向かった者達と合流し、成果を共有する。
2.怪盗(チェシャキャット)の依頼を果たす。
※ルメス・ヘインヴェラートが掴んだ情報を全て伝えられています
※ヤマオリの遺物を取り込みました、永遠が付与されています
※右腕には脇差、サバイバルナイフ、剣ナタ、スレッジハンマーが取り込まれています
※左腕の銃器の弾数はグレネード(0発)、ハンドガン(5発)、アサルトライフル(20発)、スナイパーライフル(0発)

※システムAに触れ、受けた超力の影響を一時的にリセットされています。
 ヤミナの脅威も今は正しく認識していますが、時間経過によって再び侮りが発生する可能性があります。
※ヴァイスマンのタグ付が解除されました。
※会場を監視するアビスの眼であるAGと接触し、協力を取り付けています。
※AG-1の支援により、生存者の現在位置が把握可能です。ヤミナを除いて。


全ての終わった戦場跡は、ひどく静かだった。

つい先ほどまで、この場では災厄そのものが荒れ狂っていたはずなのに、今はもう何ひとつ動いていない。
大地は幾重にも抉られ、かつて草原だった名残は、焼け焦げた黒土の底へと沈んでいる。
金属が引き裂かれた痕。炎が舐め尽くした痕。何か巨大なものが幾度も叩きつけられたような陥没。
それらが無秩序に折り重なり、この場所が単なる戦場ではなく、破壊そのものの通り過ぎた跡であることを物語っていた。

焦げ臭さ。鉄臭さ。
それから、ぬるく淀んだ血の匂い。
夜風に薄められてなお消えきらない死の残滓が、静まり返った焦土の上に、澱のように重く沈んでいる。

その中心には、三つの亡骸があった。

ひとつは、若きギャングスター。
ひとつは、清廉なる焔の聖女。
ひとつは、解き放たれた闇の帝王。

同じくこの地で朽ちたヤマオリの巫女は、すでに肉体すら残していない。
この場に残されているのは、戦いの果てに倒れ伏した三者と、その決着の凄惨さだけだった。

どれもが、この地獄の終着点を象徴するかのように、無惨な姿で沈黙している。
何も知らぬ者であっても理解できるだろう。
あれほどの怪物同士が、ここで殺し合ったのだと。
その事実は、周囲一帯に染みつくような傷痕となって刻まれていた。

本来なら、軽々しく踏み入っていい場所ではない。
覚悟もなく、敬意もなく、ましてや品性の欠片もない者が近づいていい場所では、決してなかった。

だからこそ、そこへひょこりと顔を出した女は、あまりにも場違いだった。

「…………」

ヤミナ・ハイドは、焼けた地面の向こうをそろそろと見渡した。
忍び足で、音を殺して、腰を引いたまま近づいていく。
怪物たちの死地に現れるには、あまりにも頼りない影だった。
およそ戦場というものに相応しくない、薄っぺらく、小賢しく、そして妙にしぶといだけの女である。

ジョーカー特権の現在位置表示で、この近辺に生存反応がないことは確認している。
だが、それはそれとして普通にこわい。

こんなところ、好き好んで来る場所ではない。
ただ、誰もいないなら、何か残っているかもしれない。
その程度の打算が、この女の震える足を前に出させていた。

恐怖と打算を両手にぶら下げたような顔で、ヤミナは闇に慣れた目を細めた。
散乱する荷物。
倒れ伏す死体。
その首元に残された首輪。

数秒の沈黙。
それから、彼女の目がかっと見開かれる。

「うひょおおお、宝の山じゃあーっ!!」

場違いな歓声が、しんと冷えた夜に甲高く響いた。

この死地に似つかわしくない、あまりにも軽い声だった。
まるで荒れ果てたフリーマーケットにでも迷い込んだような調子で、ヤミナは小走りに駆け出す。
ほろよい気分もあって妙なテンションだった。

英雄の死も、巨悪の最期も、宿命の決着も、この女の前では中古品セールの陳列棚と大差がない。
つい先ほどまで怪物たちが殺し合っていた場所だというのに、彼女の関心は、その残骸にぶら下がった値札にしか向いていなかった。

そういう意味で、ヤミナは恐れを知らないのではない。
ただ、ものを知らないのである。
無知と浅薄さが合わさると、時に勇気に似た顔をするものだった。

「うわぁ。これ、全部この人たちの遺品ってことでしょ? うわー……重い。重すぎる。でも貰うね!」

貰うね、で済ませるなよ、と。
もし誰かがその場にいたなら、たぶん真っ先にそう思っただろう。
しかし、ヤミナは本当に貰っていく。
この女にとって、死人の遺品とは、重みのある遺志ではなく、持ち主のいなくなった拾得物にすぎないのだから。

死体のあいだを縫い、焼け焦げた地面をぴょんぴょんと避けながら、まずは一番近くに倒れていたジャンヌのもとへ向かう。
その場にしゃがみ込むと、血に濡れた地面の上で、さっそく荷物の仕分けを始めた。

いるもの。
いらないもの。
妙に生活感のある手際で、振り分けていく。

聖女と帝王が殺し合った決戦の跡地で、やることがそれなのか。
いや、この女にそれ以外を期待するほうが間違っているのだろう。
墓場荒らしに献花の作法を求めるようなものだ。

「いやー、助かるぅ……あたしのために置いといてくれるとか、聖女優しすぎない?」

もちろん、誰も置いてなどいない。
激戦の果て、回収する者もいなくなり、そのまま放置されただけだ。
だが、そんな当たり前の事実すら、この女の軽薄な言葉の前では妙に歪んで聞こえる。
医薬品などの、使えそうなものを片っ端からバッグへ詰め込んでいく。

「イヤホン? んもー、この状況で緊張感のない。けどイヤリングはかわいからつけちゃおっ」

欲しいものを取って、不要品をぽい、と放る。
デジタルウォッチは自分のものがあるから要らない。
何か複数手錠もあるがそれもいらない。

死者の想いも、因縁も、背負ってきた物語も、そんなものは一切知らない。
知ったところで、たぶんこの女は同じことをしただろう。

もともと、他人の大事なものを大事だと思えるような、まっとうな育ち方をしていない。
そして何より、この場に転がっているものは、いまや拾った者勝ちである。拾わない方がバカだろう。
少なくとも、ヤミナ・ハイドという女は、本気でそう思っている。

「え、なにこれ、マジで? 首輪まであるじゃん!? いいの? 本当に? 嘘でしょ?
 うっひょう! さっすが聖女様……! ありがと……!」

ありがと、という言葉が自然に出た。
誰に向けた感謝なのか、本人にもよく分かっていない。
目の前にあるのは死体だ。感謝を返すことなどない。
それでもヤミナは、宝くじの当選番号でも見たような顔で、両手に掲げたそれを小躍りしながら見つめていた。

荷物の中から出てきたのは、未使用の首輪だった。
獲得ポイントは、満額の100pt。
さらにジャンヌ本人の首輪も合わせれば、合計200pt。
とんでもないボーナスステージである。

ヤミナは躊躇なく死体の首元へ手を伸ばし、首輪からポイントを回収した。
首輪のまま運用しよう、などという発想は最初からない。
ヤミナの思考はもっと単純で、もっと刹那的だ。
使えるものは今すぐ使う。換えられるものは即座に換える。
それだけだった。

首輪をポイントへ変換し、表示された数字を見た瞬間、その頬が引きつるほどに吊り上がる。

「うわ、やばい、やばい、落ち着いて、落ち着こうあたし……。いや、落ち着けるわけなくない? 無理でしょこれ……!」

まったく落ち着いていなかった。
弾んだ呼吸のまま、今度は次の死体へ飛びつく。

そこに転がっているのは、首輪をすでに奪われた死体だった。
凄まじい力で打ちのめされ、無惨に転がされた若きギャングスター。

顔には見覚えがある。
ブラックペンタゴンで空気も読まずいちゃついていた、あのバカップルの片割れだ。

いかにもコンビニ前にたむろしてそうな、典型的なヤンキー。
ヤミナの嫌いなタイプである。
いや、別に好きなタイプの人間なんて、ほとんどいないのだけれど。

「取り残されちゃって、すっごい、かわいそ」

そう言いながらも、その声音に痛みはなかった。
適当に読んでいた漫画の脇役が死んだときに漏れる、紙みたいに薄っぺらい感想だった。

残された片割れは、今からヤミナが狙う標的である。
だからといって、そんなことはヤミナには一切関係がない。
因縁も、悲劇も、復讐も、誰かにとって大事な何かも、この女の前では何の価値もない。
誰も彼女に価値を感じないように。

荷物もない。首輪もない。
ヤミナにとっては、何の価値もない死体でしかなかった。
しかも微妙にグロい。
彼女はさっさと視線を逸らし、次の獲物へと向き直る。
哀悼が薄いのではない。最初から存在していないのだ。

そこに転がるのは、見覚えのある悪人面だった。

ルーサー・キング。
この刑務作業で二度も遭遇し、ヤミナの中にしっかりと恐怖を刻みつけた、かの闇の帝王。
かつて欧州に君臨した巨悪の亡骸を前にしているというのに、ヤミナは飄々としていた。

生きているときのこいつは、本当に怖かった。
目の前にいるだけで失禁しそうなほどの威圧と威厳を放っていた怪物だった。

だが、その怪物も今は物言わぬ死体だ。
そうなってしまえば、ヤミナ程度の人間にも無碍に扱われる。
そういう割り切りだけは、彼女は妙に早かった。

「うは、しょっぱ!」

キングの首輪から獲得したポイントは10pt。
ヤミナよりショボい刑期である。

闇の帝王だの何だの大層な肩書を背負っていたくせに、この期待外れな数字はどうだ。
彼女はふうとため息をつき、まあ貰っておいてやるか、とでも言いたげに妙なニヒルさを気取る。
そのままキングの荷物を漁っていき、次の瞬間、ぱっと顔を輝かせた。

「こっちにもある! ラッキーぃ!」

キングの荷物の中にも、首輪がひとつ紛れていた。
それを見つけた瞬間、ヤミナは両手で高々と掲げる。
まるで玩具売り場で掘り出し物を見つけた子どもみたいなはしゃぎようだった。
もっとも、子どもならまだ無邪気で済む。
この女の場合は、浅ましいだけである。

「ポイントは~~、ジャン! 15ポイントぉ! やっぱショボぉ!」

ぶつぶつと文句を垂れながらも、その声は明るい。
少ないなら少ないで、ないよりマシ。
どうせ誰も助けてくれない世界なら、落ちているものを拾ったやつが得をする。
それだけのことだと、本気で思っていた。
あまりにも本気で、疑いすらしないあたりが、いっそ安っぽく清々しい。

キングの遺品を漁り、使えそうなものを次々と回収していく。
けれど、ときおり、ふと視線が亡骸の顔に触れる。
そのたびに、ほんの一瞬だけヤミナの表情が引きつった。

さすがに、死体が並ぶさまは怖い。

惨たらしい戦いの余熱は、まだこの場に残っている。
何が起きたのか詳細を知らずとも、本能が悟ってしまう。
ここは、ただならぬものが潰えた跡なのだと。
自分みたいな軽い人間が、うっかり足を踏み入れていい場所ではないのだと。

それは正しい理解だった。
少なくとも、この場においてヤミナは明らかに格下であり、闖入者であり、場違いな拾い屋にすぎない。
怪物たちの残した墓場に、たまたま生き延びた小悪党が潜り込んでいる。
客観的に言えば、それだけの話である。

けれど、その恐怖さえも、彼女は甲高い笑い声で塗り潰した。

「えへ、えへへ……すごいなぁ、みんなすごいなぁ。
 けど、生き残ってるのはあたしだもんねぇ……」

にたにたと笑う。
嬉しそうに。
心の底から幸運を喜ぶみたいに。

その姿は、戦場に迷い込んだ小動物にも見えたし、
死体を漁る墓荒らしの亡霊にも見えた。
ただし、どちらにしても、ここで倒れた怪物たちと同じ舞台に立てるような器ではない。
彼女はただ、舞台袖に落ちていた小銭を拾っているにすぎない。

これだけの破壊をもたらした怪物たちも、みんな死んだ。
ヤミナは生きている。

それが誇らしいわけではない。
ただ、そういうものだと思っているだけだ。

強いやつも死ぬ。
立派なやつも死ぬ。
すごいやつも死ぬ。
だったら、べつに、自分が生き残っていたっていいだろう。
むしろ、生き残った人間が回収するのは当然じゃないか。

そんなふうに考えられるのは、ある意味では才能かもしれない。
惨劇の重みを理解できない鈍さ。
他人の最期に敬意を払えない薄さ。
そして、自分だけはうまく立ち回ったつもりでいられる安っぽい図太さ。
ヤミナ・ハイドという女は、そのへんの質がひどく悪かった。

静まり返った焦土の上で、死者たちは何も言わない。
ここへ来るまでの道すがら、森でも首輪をひとつ拾っていた。
実はめちゃくちゃ寄り道していたのである。

合わせて300ptを超える戦果だった。
まさしく、ポイント取り放題の春のポイントフェアである。
英雄譚の結末を、ここまで安い販促文句に落とせるのは、もはや才能ですらあった。

「これ、ひょっとして、働かなくても全然恩赦いけちゃうんじゃないのぉ?」

そう言って、彼女は笑った。

ヤミナの懐は潤い、ほくほくだ。
ここで獲得できたポイントで、余裕で恩赦に届く。

もうジョーカーの仕事なんて無視してもいいんじゃないか、という考えすら頭をよぎる。
けれど、まあ命令を無視したあとが怖いので、やりますけども。
主体性のない忠実さだけは、こういうとき妙にしぶとい。

ヤミナは立ち上がり、動き出す。
ジョニーたちは、おそらく追ってきているだろう。
だいぶ寄り道が過ぎたが、獣の足で駆けたアドバンテージがある。
相手が人の足ならまだ余裕はあるはずだ。
たぶん。きっと。知らないけど。

夜の戦場跡には、もう風の音しかしない。
だからこそ、その女の弾んだ声だけが、いつまでも不気味に残り続けた。

怪物たちの断末魔が消えたあとに残ったものが、よりにもよってこんな女の笑い声だというのは、
あまりにも安っぽい、けれど歪んだこの世界らしい結末だった。

【C-4/草原/一日目・夜中】
【ヤミナ・ハイド】
[状態]:健康(気分悪かったけど行動に支障はない)、ワールドハッキング、ほろよい
[道具]:ハンドガン、警備員制服、デジタルウォッチ(システムC)、デイパック(食料1食分、エンダの囚人服、資料・書籍類)、只野仁成の左腕
 流れ星のアクセサリー(破損)、治療キット、応急処置キット(幾らか残量あり)
[恩赦P]:332pt(+100pt:恵波 流都の首輪、+100pt:ジャンヌ・ストラスブールの首輪、+100pt:葉月りんかの首輪、+15pt:ネイ・ローマンの首輪、+10pt:ルーサー・キングの首輪)、特権50pt
[方針]
基本.強い者(アビス)に従って、おこぼれをもらう
1.刑務官の指示に従い、刑務に反抗する者の殺害に協力する。

※ヤミナはアビスの用意していた最初のジョーカーでした。今後デジタルウォッチに指令が届きます。
 以下、課せられたノルマ。

 ・刑務に反抗する者に12時間同行し、記録を刑務官に転送する(達成済み)。
 ・第三回定時放送の発令まで生き残る(達成済み)。
 ・刑務参加者を3名以上殺害する(1/3)。

※ヤミナのデジタルウォッチには超力構築機構<システムC> 子機が内蔵されています。
 ブラックペンタゴン(システムC親機)に登録された超力(死亡済み参加者のもの)をインストールし、一時的に使用可能です。
 能力の発生源はあくまで子機であり、ヤミナが直接使用しているわけではないようです。

※システムCの恩恵を受け、超力の強度に補正が掛かっています。
※超力によるジャミングが発生しており、現在位置表示に引っかかりません。他にも何かしらのハックを起こしているかもしれません。

163.結び目 投下順で読む 165.番外戦
時系列順で読む 167.魂の冒涜者
パッション トビ・トンプソン 俺たちに明日はない
ジョニー・ハイドアウト
ヤミナ・ハイド

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最終更新:2026年05月20日 09:54