《とある地方のローカルニュースより》

本日、中学生県女子バレーボール選手権大会が行われました。
全国大会常連であり、アイドルの清水 マルシアさんが主将を務めるなど多くの注目を集めているネプチューン国際女学園中学校。
関東大会出場を懸けた準々決勝に臨みましたが、二度目の県大会出場となる日天中学校にセットカウント2-1で敗れ、創部以来初めて県大会で姿を消すことになりました。
 各チームのキャプテンにお話を聞きました。



◆◆◆



「嬢ちゃんたち、ポイントなんぼよ?俺10pt」
「私も同じデース」
「わた、我は15ptだ」

ATMのような機械を囲む三人の男女。
その表情は険しかった。

彼らの囲む機械はGP交換所。
他参加者を殺害するなどの方法で得られるGPを使って、ステータスの上昇や情報収集、アイテムの獲得などを行うことができる。
このゲームに於いて有効活用できれば大きなアドバンテージを得られる重要な代物だ。
彼らもそれを承知しているからこそ近寄って検分しているわけである。

だがしかし。
「無え袖ぁ振れねえしな」

 彼らの持ちptは微々たるもので、今できることと言えばEランクのステータスをDランクに向上させる程度がせいぜいだった。

 現状、GPを増やす方法は現在判明している限りで三つ。

一つは他参加者の殺害。
これは論外だ。
殺し合いへの不服従、主催の打倒を掲げている以上、GPを稼ぐために他者を襲うなど許されることではない。

一つは砂漠エリアで行われるというイベントへの参加。
こちらも難しい。彼らの現在地はマップの南東端。
正反対方向にある砂漠エリアで行われるイベントに参加しようとしても、彼らの到着する頃には終わってしまっているだろう。

となれば選べる方法は一つ。

「……塔だな」

 塔を支配して定期メール着信時に得られる100ptをいただくことだ。

「『水の塔』デスか?デモ既に支配者がいますよ?」
「そこはまあ交渉だな。支配者を味方に引き込むなり譲ってもらうなり」

 大雑把な我道の案を聞いた良子の顔が曇る。

「そう上手くいくものか?GPは皆が欲するものであろう?それこそ…その…」

口ごもる良子の言葉を我道が引き継ぐ。

「『それこそやる気になってるやつも含めて』か?」


良子は元々、今回のバトルロワイアルゲームについてあまり深い考えを持って臨んではいない。
というか†黄昏の堕天使 アルマ=カルマ†としての自分をアバターで作り出し、振る舞うことができた時点で概ね彼女の目的は達成されたようなものである。
他人に危害を加えたり殺されてやるつもりは全くないし、そもそもゲーム開始から厨二病を弄られ、ライブで盛り上がっていただけの彼女には自分がそういう環境に置かれているという事実にもあまり実感がないのだ。

 しかしそれはこの空間にいるすべての人がそうであるということを意味しない。

気のせいかもしれないが、銃声や爆発音のような音がかすかに聞こえてきている気もする。
島を一つ隔てれば、否、エリアを一つ隔てれば、誰かが死に―――誰かが人を殺しているかもしれないのだ

実際にはそんなことが起こっていなかったとしても、『やる気』になっている人がいると口に出してしまえばそれが現実になってしまうような気がして、良子はそれがたまらなく怖かったのだ。

「まーいるだろーなー。そーゆー輩も」

そんな良子のセンチメンタルな思考を台無しにしながら、我道が無精ひげを撫でる。

「ニュースやら交番の前やらで見た犯罪者共の名前もちらほらあるしな」
「模倣犯(コピーキャット)デハないデスか?」
「それなら可愛いもんだが。ガードの固いお前さん方アイドルを、こんなにたくさん連れ込んでやがるんだ。マジモンの死刑囚の一人や二人、参加させててもおかしかねえと思うぜ。
 んで本題、『ヴィラス・ハーク』ってのはどんな奴だと思う? せめて男か女かくれーは割り出しときたいとこだが…ソーニャ、どう思う?外人だしわからねえか?」 
「нет!ワタシ日本人デース!外人違いマース!」

我道に話を振られたソーニャが怒りを露わにする。
 とはいえ、それほど怒ってはいないようで、その様はどこか愛らしい。

「がっはっは!悪い悪い!それで、どう思う?」
「そうデスね…」

ソーニャが顎に指を当て思案を始める。

「『ヴィラス』と言う名前が人名に使われているのはあまり見た記憶がありまセーン。『William』の短縮形で『Vill』が使われることがあるノデ、その変形かもしれまセーン」
「男であるということか?」
「正直何とも言えまセーン。今更言うのもなんデスが、名前も外見も性別も身体スペックも変更できるこの状況でソレを考察してもチョット無意味デース」
「本当に今更だな…」


思考が煮詰まり、三人の間に沈黙が訪れる。



「よし!行くか!」

数十秒が経ち、口火を切ったのはやはり我道だった。

「誰がどんなスタンスでこのゲームに臨んでるか知らんが、会わなきゃなんも始まんねえよ。
 会って話してそれから考える!それでいいだろ?な?」

 我道らしい大雑把な結論。
 しかしそれは空手を通じて多くの強敵(とも)と拳を交わし、酒を通じて多くの呑兵衛(とも)と盃を交わし、広い人間関係を築いてきた我道だからこその結論だった。

「そうデスねー。虎穴に入らずんバ虎児を得ずデース!」
「うぅむ…ソーニャがそう言うなら我も従おう」

 賛同するソーニャ。そして良子もそれに不承不承といった表情で追随する。

「ま、荒事になったら俺が矢面に立つがな。
 お前さんのスキル『幻惑の魔眼』、もしもの時にゃ頼りにしてるぜ!アルアル!」

 我道がニカっと笑って良子の頭を乱暴に撫でまわす。

「頭を撫でるなぁ!アルアルはやめてぇ」


我道の大きな手を振り払い、髪を直す良子。
 その表情は少し明るかった。



◆◆◆



――清水マルシアさん、お疲れ様でした。今のお気持ちをお聞かせください。
「ありがとうございます。
私たちの世代は不作って言われてたので、何とか見返そうとここまで来たんですが、力及ばず悔しいです。
ネプ中女バレ部の歴史に傷をつけてしまうことになってしまって申し訳ない気持ちです」

――清水さんは高校ではバレーを続けないと伺いましたが?
「はい。高校ではアイドル活動に専念したいと考えています」

 ――最後に日天中学校に一言。
「必ず優勝してください!」

 ――本日はありがとうございました。お疲れ様でした。
「ありがとうございました」



◆◆◆



 高井 丈美はため息を吐きながら水の塔の外周を歩く。



 この『New World』なる空間にいる知り合いは4人。

 一人は陣野 優美。敬愛する先輩。
 一人は陣野 愛美。優美の姉であり、悪。
 一人は郷田 薫。優美の元彼。
 最後に青山 征三郎。優美たちが行方不明となった『中高生同時失踪事件』の被害者たちの行方を追う私立探偵。

 行方不明となった優美がこの空間にいることを知った丈美だが、探しに行きたい衝動に駆られながらも、いまだに塔周辺でお散歩する羽目になっている。
その直接の原因が水の塔の支配者、ヴィラス・ハークだ。
本人曰く三歳児であるという彼女をこの殺し合いの場に放置していくのはさすがに気が咎めて、ダラダラと時間を浪費してしまっていた。


(本当はこんなことしてる場合じゃないんだけどなあ……。
ヴィラスちゃんの保護者の人、早く来てくれないかなあ……)

 こうしている間にも陣野優美が、陣野愛美がどんな行動を起こしているかわからない。
 そんな考えがいら立ちや焦燥となって丈美の中に募っていった。
 はあ、と もう何度目になるかもわからないため息を吐く。



 陣野優美、陣野愛美は双子の姉妹だ。
 容姿端麗、成績優秀、スポーツ万能。そんな誰もが羨むハイスペック姉妹として評判だった。
 二人の周りには多くの友人がいたし、愛してくれる恋人もいた。
彼女たちの両親もまた二人を平等に愛していた。


しかしその姿がまやかしであることを、高井丈美と女子バレーボール部員たちは知っていた。

陣野姉妹の両親は愛美に誘導され、優美に対しておぞましい虐待を全くの無自覚に行っていた。

元々優美の友人・恋人であった者たちは皆、後から関係に介入してきた愛美に夢中になっていった。

優美が何かを得るたびに、何かを作る度に、それらは全て、姉である愛美に根こそぎ奪われていった。

優美自身もそんな状況に苦しみ、人格を歪ませていった。
何かを奪われれば過敏に反応し、苛烈に当たり散らした。

 それでも丈美たちは陣野優美だけの友人であり、仲間であり続けた。
 バレーボールを、勉強を、友達作りを、恋愛を、頑張る優美が好きだから。
 だからこそそれを嘲笑うように阻害する愛美を彼女たちは嫌い、排除し、女子バレーボール部を愛美と共用ではない、優美だけの場所として成立し続けた。

 バレーボールに熱中し、八つ当たり癖も落ち着いて来たころ、優美は愛美らと共に行方をくらました。
 丈美も意図的に距離を置くようにしていた陣野夫妻とも再び関わりを持つようになり、優美が一刻も早く見つかるよう尽力したが何の手がかりも得られないまま1年が過ぎた。

 そして今、高井丈美はよくわからない殺し合いのゲームに巻き込まれている。
 なぜ自分がそんなものの参加者に選ばれてしまったのかは見当もつかなかったけれど、長く探し続けた陣野優美が、この場にいると知ることができた。
 ようやくつかんだ手掛かり。逃すわけにはいかない。


「とはいえ優美先輩、ゲームに乗ってなきゃいいけどなあ」

 あの醜悪な自称友人たちと共に一年も行方不明になっていたのだ。取り返しのつかない何かを失った優美が自棄になってしまうことも十分に考えられる。
優美の精神状態を思うと、丈美は気が気じゃなかった。


(だからヴィラスちゃんの保護者~!早く来~い!ネグレクトで児相に通報すんぞ~!
 ってあれ?)

 苛立ちを募らせる丈美の目に一瞬、見覚えのある顔が映った。

「あれって……アイドルの?」



◆◆◆



天を衝くがごとく聳え立つ――――と形容するには少し高さが足りない水の塔。
 その麓の岩陰から三人の勇者が顔を出し、辺りを見回す。

「あれが水の塔か。歩いてみると結構近いもんだな」
「くっ!わが両脚よ…!鎮まれ……!」
「アルアルの嬢ちゃんは何言ってんだ?」
「疲れて脚が震えるそーデース。我道さんの歩きはチョット早かったデスから」
「アルアルはやめてぇ。解説しないでぇ」

 間の抜けた会話を繰り広げながらも、我道とソフィアは辺りの哨戒を行う。
周囲に人の姿はないが、身を隠すのに都合よさそうな岩や木が点在しており誰もいないと判断はできない。
 塔に目を遣ると造りは非常に単純で、頂上にたどり着くには一直線に階段を昇るしかないらしいことがわかる。


「一番怖ぇのは、階段を昇ってる最中に上か下で待ち伏せされて集中砲火を食らう、とかだな」
「塔を昇るとして、もしソーなったらドーします?」
「そんときゃああれだ。アルアルの…なんだっけ?『邪王炎殺…』」
「『漆黒の黒龍』だ!パクリみたいに言うでない!」

 頬を膨らます良子にがははと笑う我道。
 知り合ってからの時間は短いが、こうしたやり取りもだいぶ板についてきていた。

「というかそれでは人を傷つけてしまうではないか。無闇に他者を害するのは我の本意とするところではない」
「まあそうだよな。それじゃショックボールでひるませてその隙に俺が…」
「ガドーさん、アルアル。誰かがこちらに向かってマース」

 ソーニャが岩陰から出していた顔を引っ込め、策を練る二人を制する。
 朗らかだった二人の表情に緊張が走る。

「どんな奴だ?」
「女の子二人組デース。一人は黒髪で日本人ぽいノデ、もう一人の金髪の女性が『ヴィラス・ハーク』さんデショウ」
「なるほど。どう接触したもんかね」

 二人の女子はこちらに向かっているという。
 こちらに気づいた上での行動であれば先制攻撃の機会を与えてしまう怖れがあるし、彼女たちがこちらに気づいていなければ出会い頭の戦闘に発展してしまう怖れがある。
どちらにせよ接触するなら距離が詰まらないうちにするべきだ。
早急に結論を出す必要がある、と思った矢先のことだった。

「すみません!そこに誰かいますよね?」

 二人のどちらかが声をあげる。

「私達、戦う気はありません!そちらも同じなら出てきていただけませんか?」

 どうやらゲームには乗っていないらしく、接触を求めてきている。

「願ったり叶ったり、だな」
「待て!罠の可能性も…」
「あるだろうがどのみち接触する他ねえだろ」
「見たところ丸腰のヨーデスし、いきなり撃たれることはないデショウ」

 すでに日の出の時刻を過ぎ、周囲もだいぶ明るくなっている。故に彼女たちが武器らしきものを手にしていないことも、ソーニャは一目で判断できた。

ソーニャ、我道が岩陰から出て二人の元に歩み寄っていく。
 良子も後に続き、我道の後ろにぴたりとくっつく。

 2mほど離れた地点で両陣営共に足を止める。ソーニャの言う通り一人は黒髪で一人は金髪だ。
 黒髪の方は我道よりも背が高く体の凹凸もほとんどないが、まだあどけなさを残す顔つきからソーニャと大して変わらない少女であることがうかがえる。
 金髪の方はナイスバディな成熟した女性だ。しかし呆けたような表情と少女に手を引かれるままに歩く様は、この殺し合いの場に似つかわしくない危うさを感じさせた。

「突然お声がけしてすみません。日天中学校3年4組 女バレ部主将の高井 丈美と言います。
 隣にいるのがヴィラス・ハークちゃんです」

 礼儀正しく頭を下げる黒髪の少女。先ほど声をかけてきたのもこちらのようだ。
 体育会系らしいハキハキした自己紹介に我道も好感を覚える。


「おうよろしく。俺は無空流空手道場天道支部 師範代の天空慈 我道だ」
「ご丁寧にドーモデース。『HSF』の諸星 ソフィアデース。[メンバー]には本名で載ってマース」
「……我は……†黄昏の堕天使 アルマ=カルマ†……である。」

 自己紹介を終えると丈美が目を輝かせながらソーニャを見る。

「ちらっと見えたのでまさかとは思ったんですけど、本物の諸星ソフィアさんにこんなところで会えるなんて思わなかったです。
 後輩にもHSFのファンがいますから、帰ったら自慢しますね」

 丈美も年頃の女の子なので流行にはそれなりに聡い。
 特にアイドルファンというわけでもないが、目の前に芸能人がいる状況でテンションを上げずにいられるほど無関心でもなかった。

「ありがとデース。ワタシもあなたのことマルシアちゃんから聞いてマース。
『あのブロックが抜けなかった!“高井丈美”じゃなくて“高井壁美”に改名したらいいんだわ!』って言ってマシタ」
「それ喜んでいいんですかね……? そうだ、握手してもらっていいですか?」
「もちろんデース」
「うぉっほん!!」

 握手まで始めた二人を我道が強引に引き戻す

「それで、嬢ちゃんはどうしてあんな真似を?」

 塔の支配者となったヴィラスを連れている丈美。
 塔が支配されればマップで確認できるようになり、そのアドバンテージを横取りしようという参加者がこぞって集まりかねない。
 支配を上書きしに来た参加者を待ち伏せて狩るつもりだったというならともかく、こうしてゲームに乗っていないことを表明して対話を試みるというのはあまりに非合理だ。

 我道が問うと丈美は苦笑しながらヴィラスを右手で示した。

「実はこのヴィラスちゃん、外見と中身が全然違うみたいで……。年齢訊いたら3歳だって言うんですよ。
 だから保護者の方とかがこのゲームに巻き込まれてたら、迎えに来てくれるんじゃないかなーと思った次第です」
「ゲームに乗った連中がやって来るとは思わなかったのか?」
「正直最初は気付かなくて。
後になって思い至ったんですけど、アイテムで防御できるんで良いかなーと」

 そう言ってジャージの袖をまくり、手首に巻いたブレスレットを見せる。
 青みがかった銀色の、重たそうな代物だ。

「それがアイテムデスか?」
「はい。なんか一定以上の威力?の攻撃に対して自動でバリアを張ってくれるらしいです」
「良いモン引き当てたじゃねーか。俺のガラクタとはえらい違いだ」
 そう言ってカラカラと笑う我道。しかしすぐに表情を引き締め丈美に向けた。

「それで? 嬢ちゃんたちはこれからどうするつもりだい?」

問われた丈美もつられて表情を引き締める。

「ヴィラスちゃんについてはよくわからないんですけど……。
 私は優美先輩を探したいと思ってます。メンバーの…真ん中辺りに名前あるんですけど」
「……ああこれだな。
ん?日天中学校の陣野姉妹っていやあ……」
「去年の『中高生同時失踪事件』の被害者デース。 上の方に郷田薫の名前もありマース」

 なるほどな、と言って我道は名簿から目を離す。
「この三人と合流して、元の世界に帰る。 それがお前さんの目的かい?」

 尋ねられた丈美は「いやいや」と手を横に振る。
「私の目的は優美先輩と一緒に帰ることです。
見ず知らずの参加者の人たちはともかく、愛美先輩と郷田先輩の二人に関しては一緒に帰って来てほしくないっていうのが本音です」


 礼儀正しい、さわやかな体育会系。そんな印象の丈美からは想像しにくい陰湿な言葉が発せられ、我道もソーニャもきょとんとしてしまう。

「ドーしてデスかー? 行方不明になった6人は親友だったと聞いてマース」

 ニュースでは一緒に遊びに行ってそのまま行方不明になったと報じられていた。
 そのうちの一人である陣野優美を殺し合いという状況下で捜索したいと願う人間が、その親友である二人の生還を望まないというのはいささか不自然に思えた。

 ソーニャの呈した疑問に「そうですね」と丈美は乾いた笑いを浮かべる

「表向きにも、本人たちの認識でも彼らは親友同士のグループです。それは間違いありません。
 でも外から傍観してた私に言わせれば、あんなグロテスクな関係性を『親友』なんて呼んじゃあいけないってもんですよ。
 もっと言えば、優美先輩を取り巻くほとんどすべての人間関係は、愛美先輩の手で非常にグロテスクに歪められています」


「だからバレー部だけはその毒牙にかからないよう、私たちで必死に守ってきたんですけどね」と、そう言って丈美はヴィラスの手を離す。

「だから皆さんにはヴィラスちゃんの保護をお願いできないかなって思うんです。
 優美先輩を探しに行きたいですけど、こんな子どもを一人で殺し合いの場に置いていくっていうのも嫌なので」


 丈美の目には確固たる意志があり、それはいかなる言葉でも覆らないだろう。
 それはわかっていたものの、保護者として、大人として、単身で虎穴に入らんとする丈美に訊かないわけにはいかなかった。

「それは、お前さんも含めて俺たちと同行して探すってわけにはいかねえんだな?」
「はい。私は脚力を強化するスキルを取っているので。敏捷が……多分A以上はないと足手まといです」
「じゃあソーニャと握手とかしてる場合じゃねえじゃねえか……」

 そんなに急ぐならようと、二回り近くも年下の少女に足手まとい呼ばわりされた我道はげんなりし、ため息を吐く。

「だったらせめて、連絡手段を決めとこうぜ。のろしとかよ」
「それならメールを送ればいいデスよ」

 しばらく黙っていたソーニャが口をはさむ。

「1通出すのに10ptかかりますケド、連絡先を知ってる相手には送れマース」

 初めて聞く情報の数々に我道と丈美が目を剥く。

「ソーニャおめえ何でそんなこと知ってんだ!?」
「アルアルに会う前にシェリンちゃんに質問しマシタ。
 他にもイロイロ聞いてますヨー」
「連絡先の交換ってどうやるんですか!?」
「5秒以上の単純接触『Connect』すればOKだそうデース」


 そんな具合で、互いの知っていることについて情報交換を行った。



「それじゃあ、何かあったらメールで連絡ってことで」
「おう。お前さんも気をつけてな」
「また会いマショー」

簡単に挨拶を済ませ、丈美が走り出す。向かう先は中央エリアだ。
『健脚』スキルの名の通り、その速度は乗用車にも匹敵するだろう。
長身の丈美の姿は小さくなり、やがて見えなくなった。


「それじゃ、俺らはしばらくここで待機だな」

情報交換と作戦会議の末、彼らはヴィラスが塔の支配者に与えられる100ptを受け取ってから出発することに決まった。必然的に第一回の定期メールの受信を待つことになる。

「今からだと…30分くらいデスね。そしたら来た道を逆戻りデース」
また、彼らは丈美とは異なるアプローチで中央を目指すこととなった。
 現在地から諸島エリアを時計回りに巡り、神社をゲームに抗する集団の根拠地とし、その後で仲間集めに奔走する。

 丈美にはそうした情報の伝達も依頼した。
 優美を探して駆けずり回れば他者との接触も増える。
 当然リスクもあるがそれ以上に多くの仲間を集め、弱者を保護することができるだろう。


「ところで、だ」
と、我道は背中にぴたりとくっつく少女を見遣る。

「アルアルは何だってそんなに怯えてんだい?」

 有馬良子は接近してくるのが高井丈美であると知って以降、我道の後ろに隠れてしまい、会話にもほとんど参加していなかったのだ。
 道着を掴む良子の手から震えが伝わってきたので我道も何も言わなかったわけであるが。

「か、か、彼の者は現世での我を知る光の天使故!
 何故光に身を堕としたのかは我の知る定めにないのだが!」
「ソーニャ!通訳頼まぁ!」
「リアル知り合いだカラ、身バレしたくない。しかも嫌われてるのに理由もわからないから怖いそーデース」
「がッはッは!なるほどなあ!」

 我道は高らかに笑い、良子の頭を撫でる。
 「この年頃の女子は色々あらぁな」と、面倒を見ている姦しい弟子たちを思い出しながら。



[F-8/水の塔/1日目・早朝]

【共通行動方針】:第一回定期メールを待つ。受信後南下し神社を抑える。

[ソフィア・ステパネン・モロボシ]
[パラメータ]:STR:C VIT:E AGI:C DEX:A LUK:B
[ステータス]:健康
[アイテム]:不明支給品×3
[GP]:10pt
[プロセス]:
基本行動方針:殺し合いには乗らない
1.HSFのメンバーと利江を探す

[有馬 良子(†黄昏の堕天使 アルマ=カルマ†)]
[パラメータ]:STR:D VIT:C AGI:B DEX:C LUK:C
[ステータス]:健康
[アイテム]:バトン型スタンガン、ショックボール×10、不明支給品×1
[GP]:5pt→15pt (キャンペーンで+10pt)
[プロセス]:
基本行動方針:†黄昏の堕天使 アルマ=カルマ†として相応しい行動をする
1.ソフィアと我道に着いていく
2.殺し合いにはとりあえず参加しない

[天空慈 我道]
[パラメータ]:STR:B VIT:C AGI:B DEX:A LUK:C
[ステータス]:健康
[アイテム]:カランビットナイフ、魔術石、耐火のアンクレット
[GP]:10pt
[プロセス]:
基本行動方針:主催者を念入りに叩き潰す。
1.なるべく殺人はしない。でも面白そうなやつとは喧嘩してみたい。
2.中央エリアに向かう。
3.門下生と合流する。
4.覚悟のない者を保護する。
5.丈美からの人物評は話半分に聞いておく。

[VRシャーク(ヴィラス・ハーク)]
[パラメータ]:STR:E→D VIT:E AGI:E→D DEX:E LUK:E
[ステータス]:健康、鼻が少し赤くなっている
[アイテム]:不明支給品×3
[GP]:150pt
[プロセス]
基本行動方針:???
1.食べたい
※水の塔の支配権を得たことにより水属性を得て本来の力を僅かに取り戻しました

[備考]
丈美から以下の情報がもたらされました。
  • ヴィラス・ハークは3歳児であるらしい。
  • 青山征三郎は正義感が強く信頼できる相手。
  • 陣野優美はゲームに乗っている怖れがあるので要注意。丈美にとって大事な人なので傷つけないでほしい。
  • 陣野愛美はゲームに乗っていないと思われるが生来の極悪人なので関わらないのが吉。
  • 郷田薫は腕っぷしは強いがゲームに乗る度胸はない。味方につけても役には立たないと思う。



◆◆◆



――高井丈美さん、お疲れ様でした。今のお気持ちをお聞かせください。
「ありがとうございます。
去年は主将不在で負けてしまったので雪辱を果たせて嬉しいです。」

――去年の主将と言うと『中高生同時失踪事件』の被害者の陣野優美さん?
「はい。そうです」

 ――陣野さんにどんな思いを伝えたいですか。
「一刻も早く帰って来てほしいです。
帰ってきたら優美先輩の引退試合してあげたいです。まだできてないので」

 ――最後に一言お願いします。
「勝ち進んで、今日の勝利がまぐれじゃないことを証明します」

 ――本日はありがとうございました。お疲れ様でした。
「ありがとうございました」



[E-6/橋/1日目・早朝]
[高井 丈美]
[パラメータ]:STR:B VIT:B AGI:B DEX:C LUK:C
[ステータス]:健康
[アイテム]:バリアブレスレット(E)、不明支給品×2
[GP]:10pt
[プロセス]
基本行動方針:陣野優美の捜索及び保護
1.優美先輩を探すべく中央エリアへ行く
2.ゲーム打倒を目論む参加者を神社に向かわせる。
3.出来れば青山さんとも合流したい。
4.陣野愛美を強く警戒。極力関わらない。
※ヴィラス・ハークの正体を3歳の子供だと考えています

【バリアブレスレット】
一定以上の威力の攻撃に反応し、着用者の周辺に球状のバリアを張る。
但し、どの程度の威力の攻撃に反応するのか、どの程度の威力まで防げるのかについて記載がなく不明。

[備考]
我道陣営から以下の情報がもたらされました。
  • ソフィアがシェリンに質問して得た情報
  • 大和正義は信用できる相手。人相?知らん。
  • 美空善子は我道の弟子。信頼できないわけがない。
  • 酉糸排汰は危険人物。接触は慎重に。
  • HSFの皆がゲームに乗るわけありまセーン。月乃ちゃんも同様デース。
  • 滝川利江の人相。ただし長いこと会ってないので変わってるかもデース。
  • 桐本、笠子、焔花ら犯罪者の人相。ゲームに乗ってるものと思え。


045.酔生夢死 投下順で読む 047.役に立ってから死んでくれ
時系列順で読む
偶像魔宴 ソフィア・ステパネン・モロボシ 虎尾春氷――破章
有馬 良子
天空慈 我道
水を得た魚 VRシャーク
高井 丈美 命短し走れよ乙女

タグ:

+ タグ編集
  • タグ:
最終更新:2020年12月28日 23:21