『はーい。あなたのシェリンです。』
炎の塔に背を向けた矢先、魔王の目の前に電子妖精が現れる。
「なんのようや?」
「コレクトコール?」
『はい、着信者様が一回10Gpの支払いを行って通話を行うサービスです。
今回は顔認証式・コレクトコールチケットを用いてお電話が届きました。』
「どこのどいつや?」
「知らん名やな…」
安条可憐から聞いた家族の一員ではない、大体顔を合わせていないので可能性は限りなく低い。
さらに先ほどであった盗賊にしては距離がやたら遠い。
そうなると元の世界の人間である可能性が高い、
業務中は城に引きこもっていたとはいえ、魔王として自画像を何十枚と描かれた覚えがある。
当代の魔王として人間界でも魔界でも顔が知れ渡っている自覚があった。
「ま、話さんとわからんな、
その糸電話だかなんだか、繋いでくれや。」
『了解です。10Gp徴収いたします。』
奇襲がありうる距離ではない。
敵か味方か、それがわかるだけでも10Gpの価値はあるだろう。
メニュー画面が開き、通話中の画面に切り替わった。
「魔王様!ご無事ですか!?
今、どこにいますか!?」
開幕、電話の向こうの少女はそう叫んだ。
「いきなりそう言われてもわからん、どういうことか説明しろ」
取り乱している少女からなんとか話を聞きだすに至った魔王であったが、
その内容はにわかに信じがたい内容であった
「未来人…?」
「はい、遠い昔に魔王様はあの悪魔のごとき勇者一行と戦い、敗れ去ったと聞いています。
あの伝説の勇者がこの場にいるため縋るか迷いましたが、あの勇者すらこの場で敗れたと聞いてもはや魔王様以外に縋るものが無いと思い電話いたしました…
どうかご慈悲を…」
少女の震えた声が聞こえる。
「考えてやらん事もないが、俄かに信じがたいな。
お前の知ってる未来とやらを教えろ」
「承知しました。
魔王様無き後のアミドラドについて語りましょう。」
アミドラド、確か陣野愛美登場後の世界の名前だったか。
「未来の魔界はどうなっている?」
「わかりません。ご存じでしょうがあなた様が最後の力でゲートを封印して以来、あちらの現状は全く伝わっておりません。」
「本当に、あれ以来開いてはいないんだな?」
「はい、キザスも撤退中に財宝を目にしたが槍一つ持って帰る他無かったと残しており、勇者たちも迅速に撤退したようです。」
「ふん、ざまあないな」
魔界と人間界を繋ぐ大門、小門の封鎖、
万一に備え、勇者登場直後から取り掛かった仕掛けだ。
閉じるまでに時間がかかる分、次の転生まで凌ぐに足る強力な封印である。
それでも逃げ帰れない人間界残存の多くの魔王軍や人間の事を思うと苦渋の決断ではあったが、功を期したようだ。
「陣野愛美と信者共はあれからどうした?」
「私は宗教には詳しくありませんが、長い闘争の末に世界や勇者に絶望した一派のせいで
あれから生贄など取り止められ、徐々に衰退しているようです。
それに呆れた陣野愛美も、長い間姿を見せていないと聞きます。」
「ふん、あの狂信者共もマトモになったものだな」
「やめてください!もし今の言葉を信者に聞かれたら、
ジンノ教信者に対する攻撃と受け止められますよ!!
そんなことになったら、どんな恐ろしい目に合うかご存じでしょう!」
「当然だ、そのつもりで言っている。
この私がいる限り奴らに幅を利かせるものか。」
「………わかりました、魔王様を信じます。」
陣野愛美の一派は弱体化しているらしい。
これが本当であれば、この場における陣野愛美の弱体化も期待できるかもしれない。
「金の相場はどうなってる?」
「1:2で安定しています。」
「やれやれ、あれから金の価値も戻ったようだな」
「金の価値?銀1に対して金が2ですが」
「相場逆転んんんん!?
どんだけ金作ったんやゴウダ!?」
魔王の叫びが場にこだまする。
元々無茶苦茶やっていたがここまでとは、
そこまでやったらどこまで金増やしても利益にならないだろう。
アホなのか、アホだったわ。
「はあはあ…なんかもう聞とうなくなってきたが、
マコトの子孫はどれくらい増えた?」
「今や厳密な総数が測れないほど増えました。
人口の多数を占める彼らに対して攘勇党とミルティア家が各々対応していますが、私が生まれてから進展はありませんね。」
「人口爆発どころか遺伝的多様性の危機!?」
自分が生きていた時代は人口爆発の時代だったが、状況はさらに悪化しているらしい。
頭が痛くなってきた。
「最後はツキタの子孫ですが、付与魔術で他人の付与魔術の才能を引き出す方法で最も才能がある者が当主を継承し、
世界貨幣を付与魔術で劣化させなければ鋳造できないプラチナ硬貨に挿げ替えるなど、世界を己の能力ありきの形に変え続けています。」
「………今生きてるお前からしたらこれが一番憤りを感じるんだろうが、
他のインパクトが強すぎて割と普通に感じてしまうな。」
キザスの政治は良くも悪くも想像通り、悍ましいというより小賢しい。
血統に寄らず才能で、争いなく次代を決める方法がある、とか言っていたがそんなものか。
それが魔王の感想だった。
「さて、私が未来から来たという話は信じていただけましたか?」
この女が話している内容は、魔王にも思い当たる点がある。
恐らく事実だろう、そう判断した魔王は答えた。
「ああ、信じるぞ。愛美信者よ」
「愛美信者?何のことですか?」
「目立つヘマは2点ある」
「最初に“悪魔のごとき勇者達一行”と言ったのにゴウダとアミがいるこの場では“勇者”は単数形だったな、愛美はどうした?」
「それは言い方の誤りです」
「もう一点、他の勇者は全員何をやったかを答えたが、愛美だけ何をしなくなったか語ったな?
詳しくは無いといったがそちらの方が詳しくなければ語れんぞ?」
「………」
「そもそもこのタイミングで、合流したいですと言い出したのが怪しい。
しかも真っ先にこっちの居場所を聞きに来る始末だ。」
「あの探偵二人は愛美様と合流してから使おうとしていたようですが、
私が使うとなるとそうもいきませんからね」
独り言が聞こえてくる。
もはや自白しているようなものだが、もう一押し加える。
「もし違うというのなら愛美に勇者を付けて呼んで見せろ」
さてどうでる。魔王がそう思った時、
画面の向こうから笑い声が響く。
「クスクスクス…愛美様をあの勇者どもと同列に語れと?
面白いことをおっしゃりますね。」
「もう猫被りは終わりか?」
「ええ、私こそが真のジンノ教を伝えるイコン教団教祖、イコンです。
私の手前、発言には気をつけなさい、旧魔王。」
画面越しに空気が変わったことを感じる。
さっきまでの気弱な少女とは違う、愛美と同質のオーラがある。
残念ながら、百戦錬磨の魔王にとってはそよ風に近い。
「愛美の側近か。
この場でお前と愛美を倒せば、後はキザスの継承者を倒すだけと言う事だな。」
「愛美に伝えろ、コソコソしてないでさっさと決着を付けに来いとな」
「コソコソ?塔の支配権を奪われて逃げ迷っているあなたの事ですか?」
(伝えられることは否定しないんやな。)
こんな道具を持っている以上察してはいたが、間違いなくこの女は愛美と連絡を取っている。
自分の炎の塔の支配権が切れ、直ぐに足止めを掛けようとする辺り近づいてるのか?
「世界を統べる神に対して決着とは、
未だに己の敗北を認められないのですか?」
「ふん、言うに事欠いて世界を統べるとはな、
新たな魔王にでもなったつもりか?」
必要な情報は手に入った。通話を打ち切ろうとした所でイコンの声が響いた。
「ええ、そのつもりですよ。」
「笑えない冗談だな」
「冗談のつもりはありません。
こちらこそ、あなたが愛美様に逆らう理由がわかりませんね。
権威も血統もなく、ただ己が身と授かった技能のみで世界を蹂躙する勇者達こそが魔王の望みではありませんか。」
「私があいつらの登場を待ち望んだ、だと?」
「ええ、そうですね。あなたが発端であることには違いないでしょう。
引き抜いたものに分け隔てなく神の加護を与える聖剣無き地上に、
能力<スキル>を持つ者が全ての権威を与えられる、輝かしい魔王の位を持ち込んだのですから。」
「冗談も休み休み言え、私が魔王を持ち込んだ?
当時はまだ融和政策を取っていただけでそこまでは至ってない。
腹立たしいがミルティア王国の連中が勇者召喚に至ったのが証拠だ。
私が統治していればそんなヘマはしないからな。」
「異世界からの勇者召喚、それに至らせたのが魔王の統治の証だと思いません?」
「なに?」
「考えて見てください、万人に平等に権威と力を与えられるシステム亡き後に、愚かにも血統で権威だけを紡いできた王家。それが全く別世界の人間に勇者と言う権威を与えたのですよ?血筋に寄らず、能力に全ての権威を与える魔王の正しさに憧れたのではないですか?」
「私に敵対するためではなく、対等に立つためにあの勇者どもを呼んだ…か、面白い説だな。」
「そして勇者たちは王国とカルザカルマを呑み込み、世界の全てを手にしました。
強いものが世界の全てを手にする、これこそ魔王の理想ではないですか。
なぜあなたが敗れてなお、愛美様に反目するのか理解に苦しみますね。」
「…お前が言ってる魔王、私の事ではなく魔王制のことだな?
なぜお前が魔王制に拘る。よもや貴様も魔族か?」
「さあ、生憎と親の顔も見たことが無いので、どうでもいいことですね。
いまやこの身に流れる血の色も神と同じ完全な真紅です。」
「カルザカルマ、私たちとともに来ませんか?
完全なる能力を持つ愛美様と、全て等しく一体となる事こそが今世における最大の救済。
神の内なる故郷で永劫の怠惰に浸ればいいでしょう。」
「ふざけるな!
誰が貴様ら狂信者共の口車に――!?」
瞬間、魔王の体を稲妻が貫いた。
「アーハッハッハ!残念ですカルザカルマ!
望郷の念を抱く同志として差し伸べた手を跳ねるとは!
ああ、あなたの転生の末まで災いあらんことを!」
「待て……」
魔王の制止も虚しく、通話は途切れた。
ツーツーと鳴る画面を前に、魔王は今までの会話を回想していた。
(ふん、あの“狂信者共”もマトモになったものだな)
(やめてください!もし今の言葉を信者に聞かれたら、
“ジンノ教信者に対する攻撃と受け止められますよ!!”
そんなことになったらどんな恐ろしい目に合うか…)
(“当然だ”、そのつもりで言っている。)
(ええ、“私こそが真のジンノ教を伝えるイコン教団教祖”にして、
新しく魔王の意を受け継ぐもの、イコンです。
私の手前、発言に気をつけなさい、旧魔王。)
(ふざけるな!
誰が貴様ら“狂信者”共の口車に――!?)
「カウンターか…」
してやられた、自分が探りを入れている間、あちらは自分の言葉を攻撃として互いの承諾を得て反撃の準備を整えていた。
魔王を継ぐ云々はそれまでの引き延ばしか。
(魔王の名を継ぐつもりはあるか?)
(聖剣は破棄する)
どこかであったかもしれない光景。
先代の勇者と魔王がどのような結末になったのか、誰も知ることは無いが、
結果として魔王の位が残り勇者の証は失われた。
強者による統治、強者による慈悲、正しいと思っていた魔王のやり方の果てにあったのは、
より強きものにとって代えられ、強者によって生かされる世界だったのか?
「やめややめ、所詮こっちの攻撃を誘う引き延ばし、気にすることあらへんな」
そう言って雷を受けた身に鞭を打ち、魔王は歩き始めた。
引き返す道など、もはやないのだ。
[E-2/マグマの池近く/1日目・朝]
[魔王カルザ・カルマ]
[パラメータ]:STR:A VIT:B AGI:C DEX:C LUK:E
[ステータス]:魔力消費(小)ダメージ(小)状態異常耐性DOWN(天罰により付与)
[アイテム]:HSFのCD、機銃搭載ドローン(コントローラー無し)、不明支給品×2
[GP]:110pt→100pt
[プロセス]:
基本行動方針:同族は守護る、人間は相手による、勇者たちは許さん
1.陣野愛美との対決に備え、力を蓄えていく。
2.イコンとか言うのも会ったらしばく。
3.主催者を調べる
※HSFを魔族だと思ってます。「アイドルCDセット」を通じて彼女達の顔を覚えました。
※「炎の塔」の所有権を失いました。
[E-8/1日目・朝]
[イコン]
[パラメータ]:STR:E VIT:B AGI:C DEX:D LUK:D
[ステータス]:低体温症寸前(回復中)
[アイテム]:青山が来ていたコート(E)、受信機、七支刀、不明支給品×1、コレクトコールチケット×1→0
[GP]:0pt
[プロセス]
基本行動方針:神に尽くす
1. 愛美の道を阻むものを許さない
2.何人かの参加者を贄として神に捧げる
3.陣野優美を生かしたまま神のもとに導く
[備考]
魔王カルザ・カルマから自分・愛美への誹謗発言が攻撃判定となりました。
[D-6/工業地帯/1日目・午前]
[陣野 愛美]
[パラメータ]:STR:A VIT:A AGI:B DEX:B LUK:B
[ステータス]:健康
[アイテム]:防寒コート(E)、天命の御守(効果なし)(E)、ゴールデンハンマー(E)、掃除機(破損)(E)
発信機、
エル・メルティの鎧、万能スーツ、魔法の巻物×4、巻き戻しハンカチ、シャッフル・スイッチ
ウィンチェスターライフル改(5/14)、予備弾薬多数、『人間操りタブレット』のセンサー、涼感リング、コレクトコールチケット×1、不明支給品×6
[GP]:90pt
[プロセス]
基本行動方針:世界に在るは我一人
1.掃除機の中を確認。
[備考]
観察眼:C 人探し:C 変化(黄龍):- 畏怖:- 大地の力:C
※支給品の一つがコレクトコールチケットと判明しました
【コレクトコールチケット】
着信者が10Gp負担することにより通話が可能になる、コレクトコール機能を利用するためのチケット
名乗りづらい殺し合いの場にも優しく、対象の顔をイメージしてダイヤル可能を行う顔認証式通話サービス。
着信者には発信者の情報は開示され、通話の可否の決定が可能
最終更新:2021年03月11日 22:32