「高井ー!どこに行ったー!高井ー!」

枝島トオルは草原の上で生徒の名を叫ぶ。
診療所から出ていった彼女を追って、現在は陣野優美に出会った湿地帯の近くにまで歩いて来た。

傷のせいで走ることもできず、痛みに耐えながらであったためこの場に到着するのに時間がかかってしまった。
それでも自分にできる限りの速度を出して移動したつもりだ。
しかし、ここにたどり着いた時に高井丈美の姿は見えなかった。
それどころか人の気配も一つも感じられなかった。

(あいつ…今はどうしているんだ)

2人の姿が見えないことの理由はいくつも考えられる。

1.高井がこの辺りに着いた頃には陣野は既に別の場所に移動しており、それを探すために高井も別の所を探し始めた。
2.高井が陣野と再会後、説得に成功して2人で行動を共にした。
3.高井と陣野はこの場で再会し、陣野が高井を殺害した。
4.高井が陣野を返り討ちにしてしまった。
5.全く別の第三者による介入が起きた。

何が起こるか分からない殺し合いの舞台である以上、他にも様々な可能性が挙げられる。

(俺が〇を付けたいのは2だか、この可能性は一番低い。もしこうなっていたとしたら2人は神社の方に向かうはず。それだったら俺がここに来る途中で出会っているはずだ。それにあの子が説得に応じるとは思えない。)

都合の良いことである程、その可能性は自身でも否定的な考えの方が頭に出る。

(まだ良い可能性で最も起こりそうなのは1だ。だが、悪い出来事が起きたことも否定できない)

誰に相談できる訳でもなく、2人の行方に関して考えを巡らしても、自分が納得いく答えが見つからない。

(ここはやはり、1を信じてみるしか…)

こうなった以上、取りあえず自分に出来ることからやってみるしか他はない。

(だが…俺はどこに向かうべきだ?)

高井が別の場所に行ったと仮定しても彼女がどこに向かったか分からなければ行動のしようがない。
見当違いの方向に行ってしまえば彼女との距離がさらに離れていく事態になってしまう。
そうなった場合、この足では追い着くことはもはや不可能と言っても過言ではない。

(俺はここからどうすればいいんだ…!?)

現状だと、彼にできることはほぼ何も無いに等しいことになってしまった。
このままでは無意味な時間が過ぎていき、高井を助けることもできなくなってしまう。
教師として、人間として、白井杏子として、それは何としても避けたいところであった。

(こうなったら…!)

枝島はとある手段をとることにした。
それは彼にとっても苦肉の策であった。


美空善子と田所アイナは、怪物に変じる少女から離れ、市街地の中にまでたどり着いていた。

そんな彼女たちは街中に入ってすぐの位置で足を止めた。
なぜなら彼女たちは後方からある音を聞いたからだ。

「今の音は…」

彼女たちが聞いたのは小さな爆発音であった。
街中に入ってひと息ついている間が無ければその音を聞き逃していたかもしれないくらい小さな音だった。
その爆発音を聞いた時、2人にはある男の顔が思い浮かんだ。

「ひかりちゃん、今のはもしかして」

「うん、あの音は焔花さんの…」

彼女たちは爆発音を聞いて、その音が焔花珠夜の爆弾の音であることを確信した。
誰かを傷つけるつもりはなく、ただその爆発を見てもらいたい。
そんな彼の不器用な想いを感じる音であった。
彼女たちは焔花の爆弾の音を聞き慣れているわけではない。
だが、先ほどの爆発音は絶対に彼が作ったものであると確信できる言葉では表現できない『何か』があった。

「でも、なんであっちから音が?あの辺りに誰かいるの?」

「一体誰が…それに、今の音は空から…」

爆発音はただ後方から聞こえたわけではなかった。
まるで花火のように、上の方へと打ち上げられる音も一緒に聞こえていた。

美空善子はかつて焔花が自分のライブ会場に爆弾を仕掛けた時のことを思い出した。
爆弾自体は彼女が彼を追い払ったので爆破は未遂に終わった。
後から爆弾を回収した警察に聞いた話によれば、その時の爆弾は打ち上げることで上空で爆発させる物だったらしい。
それと同じような物がこの殺し合いの場にあったということだろうか?

「ひょっとして、誰かが自分の居場所を知らせるために…?」

爆弾により空の上で光と音が出れば、意識はそちらの方へと向く。
威力は小さかったがようだが、自分達のように近い位置にいる者であればそれを知るには充分であった。

「もしかして…陣野優美が?」

可能性の1つとして先ほど出会った少女、陣野優美によって爆発が起こされたというものが思い浮かぶ。
(何故かは知らないが)彼女は自分の姉を恨んでおり、その行方を探している。
もしかしたらその姉に場所を知らせるために爆弾を使ったのかもしれない。

「でも、それはない…かな?」

しかしもしその目的で爆発物を使用するのならもっと前に使うはずとも考えられる。
それにあの音量では自分達のような位置の者じゃないと音は聞こえないだろう。
せいぜい地図で区分けされたエリア1マス分の距離までしか届かないだろう。
どこにいるのかも分からない人を探すためにあんな使い方をするとは考えにくい。
だとしたら、誰が一体どんな目的で今の爆発を起こしたのか、その理由は分からない。

「ひかりちゃん、さっきの音がした方へ行って確かめてみようよ」

「大丈夫?アイナちゃんはさっきので…」

「そのことは心配しないで。あれから時間が経っているから一応回復してるの」

美空善子が心配するのはアイナが陣野優美の心の声を聞いて気絶したことである。
テレパシー能力を持たない善子ではあるが、その時の様子からアイナが感じ取ったものは相当すさまじいものだったのだろう。
善子はこれによる精神疲労がまだ残っていると考えていた。

確かに、アイナの精神はまだ完全には回復しきっていない。
けれども、爆発音についても気になるし、何よりアイナには善子を心配させたくないという想いがあった。

「それにもし焔花さんの爆弾があるのなら、それが悪いことに使われてほしくない」

「……うん、確かに。あの人の気持ちを汚されちゃうと思ったら、嫌だよね」

焔花珠夜は文字通り命をかけて自分たちを守ってくれた。
爆発が陣野優美の仕業じゃないとしても、他の危険人物によるものとも考えられる。
もしそうなら、彼の爆弾を悪用することも考えられる。

爆弾がまだ残っているかどうかは分からない。
それでも、彼の爆弾が何かよくないことに使われると思うと嫌な気持ちが出てくる。
誰が使っているか知らないがそれは避けたいところだ。

「分かった。それじゃあ行こうか」

2人は市街地から出て、今まで来た道を戻るという選択をとることにした。

[D-4/市街地近くの草原/1日目・午前]
[美空 善子]
[パラメータ]:STR:B VIT:C AGI:C DEX:B LUK:B
[ステータス]:健康、疲労(小)
[アイテム]:不明支給品×3
[GP]:10pt
[プロセス]
基本行動方針:殺し合いには乗らず帰還する
1.爆発音が聞こえてきた方向に行く
2.危険人物がいたら撃退する
3.知り合いと合流
※『アイドルフィクサー』所持者を攻撃したことにより、アイドルの資格と『アイドル』スキルを失いました。
GPなどで取り戻せるかは不明です。

[田所 アイナ]
[パラメータ]:STR:E VIT:E AGI:C DEX:C LUK:B
[ステータス]:健康、精神疲労(中)
[アイテム]:ロングウィップ(E)、不明支給品×4
[GP]:10pt
[プロセス]
基本行動方針:お家に帰る
1.爆発音が聞こえてきた方向に行く
2.優美さん…
3.ひかりちゃんには負けない


市街地近くでアイドルとテレパシー少女が聞いた爆発を起こしたのは枝島トオルであった。
彼は自分の居場所を高井丈美に知らせる目的でこの爆発を起こした。

もちろん、この爆発が彼女に届いてない可能性も考えている。
もしかしたら爆発が危険人物を呼び寄せてしまうかもしれない。
だが、それでも何もやらないより、何らかの行動をとるべきだと判断した。
爆弾はまだ残っている。
ここに危険人物が来てしまった場合はこれで撃退するしかない。
全く関係のない人物が引き寄せられた場合は協力を要請しよう。

焔花珠夜という男の名はニュースで聞いたことがある。
だからこの男がしでかした事件についてもある程度の情報は得ている。
何でもこの男にとっては爆発は芸術でありそれを見てもらうために事件を何度も起こしたらしい。
美術教師として、そんなことをのたまう狂人が作った物を使用するのには抵抗があった。
けれども、状況が状況だ。
使える物は何でも使うしかない。
本人(本人じゃない可能性もあるが)は既に死んでいるらしいから、このアイテムも遠慮なく使わせてもらう。

愛しの白井杏子がこんなものを使うとは思いたくない。
彼女の姿でこれを使うことは心の中で謝っておく。

とにかく、生徒を救うためだ。
頭のおかしい犯罪者の道具でも使ってやる。
とりあえず今は爆発で高井が引き寄せられ、来てくれるのを待とう。

「高井…頼むから来てくれ…!」


だが、その祈りはもう届くことはない。

[D-4/湿地帯近くの草原/1日目・午前]
[枝島 トオル(枝島杏子)]
[パラメータ]:STR:E VIT:D AGI:C DEX:B LUK:A
[ステータス]:両肩、両ひざに刺し傷(処置済)
[アイテム]:変声チョーカー、焔花珠夜の爆弾砲台(残り…中弾・大弾)
[GP]:15pt
[プロセス]
基本行動方針:白井杏子のエミュをしながら生徒の保護。
1.この場で高井が来るまで待つ。
2.危険人物が来た場合は撃退する。
3.その他の人間が来た場合は協力を求める。
4.誰も来なかった場合は別の場所を探す。
5.高井丈美を連れて神社で結成されるらしい対主催集団と合流する。
6.他に生徒がいれば教師として保護する。
7.陣野優美、陣野愛美もできれば救ってやりたい
8.耳が幸せ。
※果物ナイフは診療所の中に置いてきてしまいました。そのことにはまだ気づいていません。
※爆発音はC-4,5とD-4,5で聞こえた可能性があります。

【焔花珠夜の爆弾砲台】
焔花珠夜が作った爆弾を発射する砲台。
地面に設置して使用する。
威力を小・中・大で調整することが可能。
手持ち式の起爆装置についた赤いボタンを押すことで発射される。
赤いボタンは威力ごとに3つある。
使用可能なのは小・中・大それぞれ1回まで、合計3回まで。
砲台の発射角度は上下左右360度自由に調整可能。
また、製作者の強い想いによりこれによる爆発で発生した光を見たり音を聞くといったことがあると「爆弾を作ったのは焔花珠夜だ」と思わせる効果がある。

064.幽世の湯 投下順で読む 066.神に至る病
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壊れた心 美空 善子 双子座に昼花火の導きを
田所 アイナ
命短し走れよ乙女 枝島 トオル

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最終更新:2021年06月03日 00:02