すぎの葉ショウマの決意
デスゲームの舞台として用意されたこの島は、不自然な環境を構築している。
島の南西部には雪に覆われたエリアがある一方で、南東部には荒野のエリアがある。
同居し得ない二つの環境の共存こそ、この島が仮想現実であるという証拠だ。
無論、それ以前に参加者は自ら作成したアバターの姿になっているのだから、仮想現実と現実を誤解する道理はない。
不自然な環境を目の当たりにするまでもなく、ここは仮想現実だと認識できるはずだ。
参加者のひとり、すぎの葉ショウマも、例外ではなかった。
島の南西部には雪に覆われたエリアがある一方で、南東部には荒野のエリアがある。
同居し得ない二つの環境の共存こそ、この島が仮想現実であるという証拠だ。
無論、それ以前に参加者は自ら作成したアバターの姿になっているのだから、仮想現実と現実を誤解する道理はない。
不自然な環境を目の当たりにするまでもなく、ここは仮想現実だと認識できるはずだ。
参加者のひとり、すぎの葉ショウマも、例外ではなかった。
(これが仮想現実?とてもリアルだ)
ショウマは島の北西に位置する森にいた。
土のにおい。木の葉が風にそよぐ音。ひんやりと冷たい岩。
それらを五感で感じ取りながら、悠然と森の中を歩いていた。
こうして外をぶらぶらと歩くことは、考え事をするときのショウマの癖だった。
そう、ショウマはゲーム開始直後から考え事をしていたのである。
土のにおい。木の葉が風にそよぐ音。ひんやりと冷たい岩。
それらを五感で感じ取りながら、悠然と森の中を歩いていた。
こうして外をぶらぶらと歩くことは、考え事をするときのショウマの癖だった。
そう、ショウマはゲーム開始直後から考え事をしていたのである。
(とてもリアルだけど、この肉体は現実じゃない)
そっと頭上に手をやると、耳と手の両方に触感を覚える。
全身スーツや特殊メイクなどではありえない質感に、ショウマは溜息をついた。
もし現状を現実だと仮定してしまうと、この柔らかい狐耳に説明がつかなくなる。
催眠術で自分を獣人だと思い込まされている可能性すら考えたが、それにしては思考が明瞭だ。
つまるところ、現状の肉体は間違いなくアバターと同一なのだと結論づけられる。
全身スーツや特殊メイクなどではありえない質感に、ショウマは溜息をついた。
もし現状を現実だと仮定してしまうと、この柔らかい狐耳に説明がつかなくなる。
催眠術で自分を獣人だと思い込まされている可能性すら考えたが、それにしては思考が明瞭だ。
つまるところ、現状の肉体は間違いなくアバターと同一なのだと結論づけられる。
(そう考えると、最初の説明の信憑性が高くなるのかな?)
このワールドへの接続後にされた、荒唐無稽な説明を思い出す。
曰く、このワールドではプレイヤーはフルダイブである。
曰く、このワールドではリスポーンの概念はなく、死ねば現実もろとも終わりである。
文字通り、生死を賭けたバトルロイヤルの開幕というわけだ。
曰く、このワールドではプレイヤーはフルダイブである。
曰く、このワールドではリスポーンの概念はなく、死ねば現実もろとも終わりである。
文字通り、生死を賭けたバトルロイヤルの開幕というわけだ。
(だけど、ボクはVR機器の類は使用していなかったはず。
いったいどうやって、フルダイブ技術を適用したんだろう?
それにリアル志向だとしても死体の映像を出して平気なのかな?
もし視聴者さんたちに不適切な配信として通報されたらどうしよう?)
いったいどうやって、フルダイブ技術を適用したんだろう?
それにリアル志向だとしても死体の映像を出して平気なのかな?
もし視聴者さんたちに不適切な配信として通報されたらどうしよう?)
疑問の種は尽きない。それでもショウマは思考を中断した。
考え事ばかりしていて、バトルロイヤルを疎かにしてはいけない。
すぎの葉ショウマは動画配信者である。バーチャルYouTuberである。
そして、ショウマにとっての現状は、可能性を示すための案件なのだ。
考え事ばかりしていて、バトルロイヤルを疎かにしてはいけない。
すぎの葉ショウマは動画配信者である。バーチャルYouTuberである。
そして、ショウマにとっての現状は、可能性を示すための案件なのだ。
(かなり過激だけど、最新技術を活かした大規模なイベントなのは確実。
つまり界隈の注目度もけた違い。ここで目立てば、再生数はうなぎのぼりだ!)
つまり界隈の注目度もけた違い。ここで目立てば、再生数はうなぎのぼりだ!)
この案件は総大将、もとい社長からじきじきに依頼された。
当初は斜陽配信者の自身に声をかける意図がわからず困惑した。
しかし、今ならば理解できる。このイベントの過激さは、諸刃の剣なのだ。
リアリティを追求した殺し合いという業界でも初の試みは、炎上の危険性を孕んでいる。
そんな企画に人気のバーチャルYouTuberを起用するのは、事務所としてはリスキーだ。
それゆえに、中堅でくすぶっているショウマを起用した、ということで理解した。
当初は斜陽配信者の自身に声をかける意図がわからず困惑した。
しかし、今ならば理解できる。このイベントの過激さは、諸刃の剣なのだ。
リアリティを追求した殺し合いという業界でも初の試みは、炎上の危険性を孕んでいる。
そんな企画に人気のバーチャルYouTuberを起用するのは、事務所としてはリスキーだ。
それゆえに、中堅でくすぶっているショウマを起用した、ということで理解した。
(ありがとう総大将……いや、社長。ボク、爪痕を残してみせます。
あれ?爪痕を残すって良くない意味だっけ。まあいいか。狐だから爪痕で)
あれ?爪痕を残すって良くない意味だっけ。まあいいか。狐だから爪痕で)
虎のごとき事務所の社長を思い浮かべると、自然と勇気も湧いてくる。
自身の動画が急上昇ランキングに表示されている未来を夢見て、ショウマは口元を緩めた。
そして、どこかに設置されているはずのカメラを意識して、朗々と宣言した。
自身の動画が急上昇ランキングに表示されている未来を夢見て、ショウマは口元を緩めた。
そして、どこかに設置されているはずのカメラを意識して、朗々と宣言した。
「さあさあ、ボクはすぎの葉神社の御使い、ショウマだ!
血沸き肉躍るバトルロイヤルを、いざ尋常にしようじゃないか!」
血沸き肉躍るバトルロイヤルを、いざ尋常にしようじゃないか!」
その宣言に続けて、ショウマはアクションを起こした。
スキル『すぎの葉神社の狐火』により、火の玉を背後に数個出して、円を描くようにゆっくりと回転させる。
くるくると回る炎の陣。
明かりのない深夜の森で、それは一種の神秘的な様相を生み出していた。
スキル『すぎの葉神社の狐火』により、火の玉を背後に数個出して、円を描くようにゆっくりと回転させる。
くるくると回る炎の陣。
明かりのない深夜の森で、それは一種の神秘的な様相を生み出していた。
「……」
とはいえ、リアクションはゼロ。
誰一人として近づいてくる気配のないことに、ショウマはいささか落胆しながら狐火を消した。
配信のコメント欄を見たい、という欲求を抑え込んで、支給品を確認することにした。
誰一人として近づいてくる気配のないことに、ショウマはいささか落胆しながら狐火を消した。
配信のコメント欄を見たい、という欲求を抑え込んで、支給品を確認することにした。
「あ、尺八がある。これを吹こう」
そうして最初に手にしたのは、なじみ深い和楽器だった。
問題なく使用できるそれを、自然な動作で口もとに運んで息を流す。
配信で披露するために何度となく練習した曲を、目を閉じて奏でた。
問題なく使用できるそれを、自然な動作で口もとに運んで息を流す。
配信で披露するために何度となく練習した曲を、目を閉じて奏でた。
「……よし」
ダイナミックな演奏は、ショウマの精神をより昂揚させた。
この会場で目立つことで、YouTuberとして名を挙げるという決意を固めたのだ。
この会場で目立つことで、YouTuberとして名を挙げるという決意を固めたのだ。
もしこの世界が現実なら、ショウマは殺し合いを肯定しなかっただろう。
ここが仮想現実であり、リアリティ番組だと認識したからこそ、ショウマは他者への攻撃も厭わない。
狐は人を化かすもの。自身の内にある疑念すら化かした決意は、この殺し合いに何をもたらすのだろうか。
ここが仮想現実であり、リアリティ番組だと認識したからこそ、ショウマは他者への攻撃も厭わない。
狐は人を化かすもの。自身の内にある疑念すら化かした決意は、この殺し合いに何をもたらすのだろうか。
【C-2・森/一日目/深夜】
【すぎの葉ショウマ】
[状態]:健康
[装備]:尺八
[道具]:基本支給品、ランダム支給品0~2(未確認)
[思考・状況]基本方針:バトルロイヤルで目立つことで名を挙げる。
1:まずは参加者と出会うことからだ!森の中を探そう。
[備考]
※バトルロイヤルは企業のイベントであり、現実での死者は出ないと考えています。
【すぎの葉ショウマ】
[状態]:健康
[装備]:尺八
[道具]:基本支給品、ランダム支給品0~2(未確認)
[思考・状況]基本方針:バトルロイヤルで目立つことで名を挙げる。
1:まずは参加者と出会うことからだ!森の中を探そう。
[備考]
※バトルロイヤルは企業のイベントであり、現実での死者は出ないと考えています。
『支給品紹介』
【尺八】
日本の木管楽器。一般にイメージされる尺八。普通に使用できる。
【尺八】
日本の木管楽器。一般にイメージされる尺八。普通に使用できる。
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