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  • YOU,YOU,I need YOU

オリロワVRC @ ウィキ

YOU,YOU,I need YOU

最終更新:2024年08月26日 04:10

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獣人アバター。

ケモナーと呼ばれる獣人に趣向を抱く人々が主に使用しており、VRC内でもそれなりの勢力となっている。
その獣度合いはアバターによって様々。
例えばほぼ人間と変わらない立ち姿に毛皮、耳と尾と生やし鼻をつけたような者。人間アバターの簡単な改変で作れるため、入門等にお手軽だ。

もう少し進めると脚の骨格が人間と異なり趾行性のようになっていたり(いわゆるケモ脚)、胴長短足な体格になったり、頭の形も獣寄りとなっていったりする。
殆ど動物の身体ながら二足歩行するようなアバターは、最も獣度合いが高い獣人アバターと言えるだろう。

しみうさのアバターは、獣人としては中間的なものだ。
全身ピンク色の毛皮、長く上に伸びた耳、動物の鼻に短い尾。ウサギなので手足に肉球は無い。
一方で脚の形はウサギのような短足ではないが、膝や足の形は動物寄りとなっている。

だからといって体格は人間と同じだし、スキルも関係していないから体力や腕力にそう差はない。
とはいえ、一方では明確な体格の違いによる差はあった。
脚のクッション性とバネの強さが、走ることを鍛えたことのないしみうさでも普通の人間以上の走力とエネルギー効率の良さを発揮していた。


暗い森を走って逃げ続けていく。
"脱兎のよう"にという形容はまさにこの状況にぴったりなのだろう。
なにも考える暇もないまま、全てから逃げるように無我夢中で走り続けた。
月明かりが僅かにある暗闇の中。
時には蔓草や木の根に足を取られそうになって。


(あっ)


勢いよく地面に、前から身体を打ち付ける。
服の裾が枝かなにかに引っかかって、足元を思い切り取られた。

息ができない。
苦しくて痛くて。
動けず痛みに震える。

服の方に視線をやると……幸いにも破けていなかった。
なんでこんな服装なんだと情けなくなるしみうさ。

しみうさのアバターは、風俗嬢が使うようなドレスを着ていた。
VRCはどんなアバターを選択しようと自由、そのはずなのに。
実際ななしなんかは、現実の姿と全く共通点を見出せないようなアバターを使っているのに。

しみうさはある意味で真面目で、そしてVRCで弾けきれていないのだった。
現実と異なる仮想世界でも、100パーセントの嘘でできた外観を纏って過ごしたいという気にはなれなかった。
人間の自分の身体には嫌悪感があったから獣人にはなった。
けれど、現実の自分が持つ見窄らしさや背徳性などにまで嘘をついてVRCで人と関わるのになぜか抵抗感があった。
それがアバターの服装やその他に反映されているのだ。


(温かい風……)


倒れている兎獣人を不意に温かい風が撫ぜて、毛並みを揺らしていく。
心地良いようでそして得体が知れない。
何とか頭を持ち上げて、風の来る方を見てみる。

不思議に思うしみうさ。
妙に明るさを感じるのだけれど、その光は揺らいでいる。
やがて――それは炎の明るさではないかと思い当たる。

先程までは走って急いでよく見ていなかったこと、炎が赤くなく白かったことにより建物か何かの明かりと思い気にしていなかったのだった。
白い炎……その原因は色々考えられるがしみうさにはそれを推理できるほどの知識がない。
そしてその痛んだ心を更に痛めつけるように、光が目に、燃える音が兎の音をよく集める耳に入ってくる。


(もういっそ……燃やし尽くして。この森ごと私も……)


そもそも彼女は。
ここ10年くらいは自分のことを考えて、そして。
大抵は死んでしまいたいという気持ちだけがぐるぐる巡る。
それでも最近はVRCの――そしてななしのおかげで、その気持ちはある程度忘れることはできていた。


――できていたのに。

ななしは理不尽に命を奪われ、しみうさの前から残酷に消えていった。
もう希望も何も無い、そんな気持ちが支配していく。
優勝者は願いを叶えられるとはいう。
けれど、なのにあのひなたというユーザーのように、人を襲う気持ちになんてなれない。

――それならいっそ。


(ここで死にたい。死なせてよ……。
 灰になって消えたい……)


目に光を失いたくて、顔を地面に押し付けてしまう。
死後の世界とかを信じたことはない。
あるのはこの現実での苦しみと、死によるそこからの逃避だけ。
でも死んでしまえばななしと同じになれるから、寄り添えるような気がしているのだった。

やがて木や葉の焼ける臭いがする。
畑や林が近くにある所で育ってきた彼女にとっては、この匂いは馴染み深い思い出でもあった。
――両親と一緒にキャンプをした、焚き火をした、焼き芋をした。
無力に死を前にするとなんとなく昔のことが思い浮かんでくる。
火に関した思い出。

大きな炎に一番近づいたのは、キャンプファイヤーなんかだった。
VRCでもななしに誘われてキャンプファイヤーのあるワールドに行ったりした。
ななしだけでなく、ある程度話のできる相手もそこそこいたから、火のリアル感も温度も感じないのに楽しい時間だった。

でも、子供の頃学校の宿泊行事では。
そんなに仲良くもない相手と歌ったり踊ったりするのがつまらなくて嫌で、ただただ炎の揺らめきを眺めて過ごしていたりした。

……良い思い出の炎だけじゃない。


……思い出というよりトラウマ。

火災で焼け出されたり火炎放射器だったりで、燃やされて悶え死んでいく人々の姿。
心が締め付けられる。
趣味の悪い客が人間の死に方の説明やら、ショッキング動画やら無理やり見せつけてきた。

映像がフラッシュバックして――炎に包まれて緩やかに死ぬのはどれだけ苦しむのだろう。
このまま火に飲まれても綺麗に灰になって消えることなんて出来ない。
この世界ではリアルな血だって表現されているのだから、生々しく痛々しい焼死体が一つ残るのだろう。
付けられた心の傷やトラウマは消えることがなくて、ここぞというときに炎の光を反射して。


フラッシュバック。
このままだと私も、あんなふうに死んでいくのだろうかとしみうさは想う。


(こんなにも死んでしまいたいのに……死にたくない。
 怖い、生きていたい。消えてしまいたいのに……)


人間の身体と心とはよくできていて、安易に死を選ばせてくれない。
努力してまでは死にたくない。苦しい思いもしたくはない。
そして、自分から死を選ぶような行動もできない。

報道やネットなんかで自死者のことを聞いたり仕事で噂を耳にしたりするたびに、そんな感覚も麻痺してしまうほど死を求める人々のことを考えていた。
どれだけ辛かったのだろう……そして死ねるなんて羨ましいな……と。

でも……いつか冷酷な客に何が楽しくて生きてるのとか聞かれて、そして答えが見つからなくて泣いていた。
そんなこともあった。それが私で。

そう、そこまで自棄に私はなれない、それは今でも――。


(ななしが死んでしまったのに……それでも私は自分の命や痛みのことばかり……)


自分の感情に対してとても情けなくなる。
それでも迫る脅威からは逃れたかった。
それでも脚、腕、胸、体の節々が痛く苦しい。転んだままの姿から起きられない。

勢いよく転んだ程度の痛みだ。
ある程度覚悟の決まった人間なら、精神が痛みを乗り越えていれば、すぐに動ける程度ではあった。
それでも、まだまだしみうさは痛みには弱かった。
炎の恐怖は迫っているが、今すぐ体を焼き尽くされるような距離感ではない。
だから心が先走って色々なことを悩んで、考え続けてしまう。
しみうさという人間の悪い点でもあった。


――それでも。

あの白く柔らかい綺麗な手が自分の手に触れたような気がした。
さし伸ばされる手が。

手の方をふと見やった。
ただ自分の毛に覆われた手があるだけだ。
なにもない。

VRCをしていると、幻覚のように体に触覚を感じることがある。
あれと同じような感覚を味わっていた。

いつの幻覚だろうかと思う。
フルトラでもないのにアバターが転ぶことなんてないはずなのに。

――そうなんだ、と納得する。
そこまでに彼のことを――。


(もう少しだけ生きたい……もう少しななしのことを思いたい。
 思い出に包まれていたい……)


デイパックから冷たい筒――缶を取り出す。
軽く持ち物の中身は確認していたが、どこかのワールドで見たことのあった缶入りのエナジードリンクだった。

なかなか栓を開けることができない。
手の形は人間と変わらないけれど――ウサギらしい細くて肉厚な爪や毛に覆われた指がなかなか開け口に引っかからない。
やっぱり情けなさに辛くなるけれど――思い立ってウサギらしい前歯を引っ掛ける。
そうして何とか封を開ける。

吹きこぼれる上に、立ち上がれないまま顔を上向きにできなくてうまく飲めない。
零しそうになって、そして咳き込んで嘔吐きそうになりながら、生きるために流し込んでいった。


痛みはだいぶ引いた。近くの低木に手を伸ばしてかけ、体を少しずつ起こす。
脚の表側は痛いけど、よく意識すると反対側の脚を動かす筋のある方はそこまで痛くはなかった。

歩くことはできる。走ることもできる。
足のバネが効いて、もっとウサギのように飛び跳ねるように移動できる。
それだけじゃなくて集中力が高まって、身体や服に引っかかりそうな蔓や枝をしっかりギリギリで避けられるようになっている。


時には大きくジャンプして木々の上へも飛び出しながら進む。
後ろを振り返ると――森の一部が白い炎に包まれているのがよくわかった。
ひなたのようなユーザーが戦闘行為を始めた結果なのだろうと想像し、近づかないことを誓う。
一方で進もうとする先に、何やら建物があるのもわかる。
中からの明かりはないから誰もいないのだろうと想像し、しみうさはそこを目指すことにした。



 ◇



闇を駆けながらななしのことを考えようとする。
私の前で命を散らしていった、あの姿もフラッシュバックする。
そして、あの投げかけられた言葉も。



『…………そんなだからななしちゃんも殺されたんだよ?』



――――なんで。

――そんなわけは、ない。

――私のせいでななしが死んだ、そんなはずはない。

ただただ偶然に、不幸に。
ふと見つけたゲームワールドに参加して、殺し合いに巻き込まれた。
そして正義感があって直情的なななしが、最初に反抗して最初の犠牲になった。

流れだけ追えば、それだけなのに。


――なのになんで。

なんで私に追い打ちの言葉をかけるようなことをするの。
躊躇なく人を襲うような女なんだ。
きっと、精神異常者なんだ。

それなのに、なんでそんな私を切り裂く言葉を選べるの。
言葉なんかかけないでよ。
いっそ苦しむ間も無く殺してくれたら、良かったのに。

貶すような言葉は、今までいくらでもかけられてきた。
時には親から。
同級生から、昔の彼氏から、同じ風俗嬢から、そして客から。

言葉の刃はたくさん私の心を傷つけ、罅を入れて削って砕いていく。
慣れて仮面のように笑って流したり無反応を貫いても、止めることはできない。
その刃が心へ届くのを。

それでも、VRCは優しい人ばかりで。
みんなが私の心の傷を抉らないように気をつけて、不意に触れてしまっても謝ったり時にはななしが慰めてくれたり。

そしてさっきの、ななしのことを出して私の心を抉る言葉が。
強い加速度で、勢いよく突き刺さるような気がする。
今までの何よりも。


この苦しさを慰める人ももういない。
私を明るく照らして、傷から守ろうとしてくれた人がもういない。
辛い世界から抜け出す気概も開き直る図太さも無く、一人苦しんでいた私に手を差し出してくれた人がもういない。

世界は残酷だ。
優しさが手を伸ばしてくれていても、それを蹴り飛ばす人間の醜さがあって。
どうして……こんな世界が私を包んでいるの。
こんなに辛いのなら……何も無ければよかったのに。
どうせなら、生まれてなければ――。



 ◇



渦潮のように、憂鬱な思考を巡らせる。
深々と昔のことに思いを馳せる。

――逃れられるから。

考えている間は、自分の命の危険という恐怖心から。



 ◇



しみうさの前に現れたのは、精神病院のような建物。
汚れていて明かりもなく、恐らく廃墟として設定されている。

しみうさは、自分のような鬱々とした人は生きやすくするため精神病院で薬をもらうべきなのではと思ったこともある。
しかし、入ってしまったら終わりだという気持ちもあった。
精神障害者のレッテルがつくのが嫌だったから。
風俗嬢の中にもいかにも知能や精神の障害を抱えてるとすぐわかるような子もいて、そういう子達と同レベルになるような気がして嫌だった。
現実的に考えても治療中やその後の費用を頼れるような相手もいない。
薄々と避けていた。嫌悪していた。

とはいっても廃墟だから、そういう感情は投げ捨てることができる。
しみうさは歩みを進めていった。


病院の廃墟といえば、いかにもホラーではある。
とはいえ、しみうさは幽霊は信じない。
そんなものがいるなら、風俗業を取り巻く世界にいる腐った人間どもにもっと超常的な力で罰のようなものが降ったりするだろう。
逆に苦しんでいる人を助けるような力も現れたりするだろう。
でもそんなことは実際には起きなんてしない。この世に存在するのは、やっぱり辛い現実だけ。

いかにもな廃墟で、動くものの気配もない。
小動物や虫もいないが、汚れの質感などはリアル。何かが出てきそうな雰囲気はある。
さすがに急に何かが動いたり飛び出したりしたら、幽霊は信じないけど恐いとは思うし驚いて足もすくむだろうから、そうはならないようにと願う。

壁に電灯のスイッチらしき物を見つけて、適当に入れる。
電源は一応来ている様で、明かりがちらちらとしながらも点いた。
いざ明るくしてみると荒れ方が目立って、壁は塗装が割れ、床も欠けて剥げたりしている。


ガラスをふと見ると、中からの反射で姿が映っている。
丸みを帯びた顔、毛におおわれた肌。人間と違う、鼻と口。長く伸びた耳。
VRCの姿そのまま――いや、毛並みなどはよりリアルにモフっとしていた。
しかしそれに驚く余裕もなく、歩んでいく。


しみうさは自分の人間としての姿は嫌いだった。
汚れきってしまった、ギリギリ程度に繕った、みすぼらしい女の姿。

そして意識して自分の体を見るたびに、客に言われたことが沢山ぶり返していく。
胸や性器について綺麗だとか何ならエロいだとか、そんな言葉が呪いのようにへばりついてフラッシュバックする。
鼻には誰とも知れない体臭や体液の臭いがこびりつくかのようで、ふと幻覚のように思い浮かんで気分が悪くなったり。
それを防ぐかのように必要以上に香水なんかも使ったり――。
でもVRCで全く違う姿でいる間なら、そういう感情は忘れられる気がした。

顔の毛はくしゃくしゃだった。
……飲料の汚れだけではなくて、涙滴が毛を濡らしていた。



 ◇


 ――――――――


 ◇



――――泣き顔が可愛いと、皆言った。


人とあまり話さないし関わらないから感情を表に出すのが苦手な彼女が、心からの本心で作る泣き顔だ。


高校生の時、最初で最後の彼氏が何度も彼女を泣かせた。
可愛いからもっと泣いてみろといった。
彼女の期待をどんどん裏切って、周りのものを壊して、時には身体を叩いたり殴って。
それでも逃げられなかった。逃げるという気持ちもなかった。
よく痣になっていた場所は――今のアバターの毛皮の斑模様の場所に無意識にか一致している。

彼女の出身は、雪国のはずれにある観光地の一角。
バブル期に浮かれたカップルが楽しく自立したいと購入したペンション、そしてそこの娘が彼女だった。
両親は仕事に忙しく、また半分遊び人のようで彼女の面倒をあまり見てくれず、そのせいで仕事の手伝いや家事やらにいつも追われていた。
それでも両親は互いをとても愛し合っていて、いつも楽しそうだったし喧嘩もしなかった。
家の事はあまりやらなくても、閑散期は結構イベントや旅行とかには連れて行ってくれた。
旅先で2人だけでどっか行ってしばらく放置されるようなこともあったけれど。
下の町に住む祖父母が病気になった後の介護なんかも、彼女が大きく負担していた。
でも祖父母が病になる前は良く彼女の面倒を見ていてくれてたし、それにお返しをしなきゃいけない。
そんな風に家でしっかり自分の役目を持って生きるということに、何も違和感を持たず外での人間関係を殆ど作らず育っていった。
閉塞感のある境遇ではあったけれど、それなりに日々を生きてささやかな楽しさも幸せもなくはなかった。


そんな彼女も高校の途中頃には両親のペンション経営にも余裕ができ介護もなくなって、だいぶ自由な時間ができた。
そして、高校生活の中で最初の彼氏ができたのだった。
両親はお互い最初の彼氏と彼女でずっと純愛で生きてきたというから、最初の彼氏というものに彼女は誇大な幻想を抱いていた。
しかし、相手の方は全くそんな感情は抱いていなかった。

彼女の家庭環境はひどい、そんな自由のない生活から連れ出してあげたいという最初の言葉はどこへやら。
付き合いだすと男の方が彼女の自由を縛りだした。
こっちにとっても最初の彼女だという言葉は嘘で。
必死に考え出したプレゼントは粗末に扱われて。
それでも彼女は純愛という幻想を抱いて求め続けた。

歳が18になった頃、彼氏が風俗業で稼いで来いと言った時もそれに従えば彼が愛してくれると信じた。
そうして働き続けて。
彼氏が素行不良から学校を停学、退学になってもそれでも。
そして――やがてそいつは様々な悪行が明るみになり警察に逮捕された。

彼女も参考人として何回も呼ばれ、そして自分がしようもない幻想を追い求めていたことを完全に理解させられた。
しかし――彼女に帰る場所はなかった。
両親にも風俗業で働いていたことは伝わったが、純愛思考の強い両親は娘がそういう仕事をしていたことを完全に拒否した。

いつか幼いころ見た、両親の夜職の女性やその客を汚れた物として見るあの目。
ホテルや温泉宿なんかにやってくるコンパニオンの人々なんかを蔑んでいた、あの目。
その目線が、両親から今の彼女に向けられている。


汚れてしまった。身体も、心も。
そうして彼女は、10年以上も風俗業の世界で希望もなく生きていくこととなった。

――たくさんの男が、泣き顔が可愛いと言った。



 ◇


 ――――――――


 ◇



(泣いていたくない。なのに……)

自分の泣き顔は好きじゃない。
それなのに感情が留まることなく溢れてしまう。
下を向いて目を閉じる。
宝石の粒のように涙がポトリポトリと輝いて落ちる。



 ◇


 ――――――――


 ◇



ななしを最初に接客した時は、私は泣いていた。
生きるのが辛かった。

ちょっと努力すれば、もっと金を稼いで風俗業を抜け出すことは出来たのに。
ちょっと人に頼ろうとできる心が残っていれば、まともな生き方ができただろうに。

それなのに、子供のころから他人に敷かれたレールを行くしかできなかった自分はここまで努力も何もできず来てしまった。
仕事に嫌悪感はあるのに、それでも嫌悪感と共に慣れるように生きてきてしまった。

嫌悪感をバネにできるような心は持っていない。
できることといったら、削れた心の一部をSNSとかで吐き出すくらい。
だからもうすぐ30歳にもなるのに、技術も何も身に着けてこなかった。

客商売なのに、適当に相手の納得しそうな返答をする――そんなこともうまくできなくて。
そしてあらゆる会話に疲れて嫌気が差して。
化粧も同年代の友人がいなかったせいで苦手で、食生活や睡眠の質の悪さからくる不健康っぽさを隠しきれなくて。
そして、そろそろ若さで売ることもできなくなっていく。
年齢は鯖を読んで、ポートレートには加工した写真を使うとかはできるけど、例え客からでもその違和感を突いた侮蔑の言葉に傷ついてしまうのが怖い。

自分の未来が暗闇で何も見えないということの恐怖感が、毎日毎日押し寄せてくる。


そんな中で、ななしがやってきた。
都会から地元に帰ってきたところ、同級生との付き合いで仕方なく来たと。
君に何を求めたいとも思わないと、行為の準備なんか全くしなくて。
私が切り出そうとしても、上手く躱して。

そうして、辛そうな雰囲気がにじみ出た私を気遣う言葉をかけてくれて。
会話も得意じゃないし精神も荒んでいた私は、そのまま涙を流し泣いていた。


そんな私を彼はVRCに誘ってくれた。
現実が辛いなら、ちょっと違う世界も知っていいんじゃないかと。
あまり使っていないからと、単体でVRCの起動できるヘッドセットを譲ってくれた。

なんでそんなことをするのだろう。

私が哀れだったからだろうか。
それでも、一介の風俗嬢にそんなことをするのだろうか。
性欲もないのに風俗に来て、そして性産業従事者を汚い目で見ないなんて。
そんなの両立するわけがない。
自分の状態のひどさも汚れていることも、私が一番理解しているのに。

あるいは私のことを見下してるんじゃないの。
こんな女なら、適当に一緒にいれば自分のこと好きになるんだろとか思われてるんじゃないの。
そして私をいいように扱おうとするのか、昔の彼のように。

風俗嬢の生きていくための大事な技術に、安易に男のことを信じないというのがある。
そもそもが裏の世界の仕事なので、人間の悪意に接してしまうことが結構多い。
信頼できる友人とか家族とかがいるならまだ良いけれど、天涯孤独だと誰も助けてくれないからもっと重要。
本当の深淵の悪の目に留まらないように、私はいつも必要以上に人と関わらない。
ウサギは鳴かない、天敵に目をつけられないように。
でもそうしていると孤独さが増していく。悪循環だった。

同業者の中には、私に声をかけてくれる人がいないわけじゃなかったけど。
私がこういう仕事に嫌悪感があるからか自分だけじゃなく同業者にも嫌悪感を感じて、遠ざけてしまった。

自分自身を軽く扱って何でも受け入れるように風俗の仕事をする子は可哀想と思うけど、一緒にされたくないし見てて嫌。
仕事と割り切ってうまく認識して、実績や稼ぎをあげようと張り切り頑張ったりしてるやつも嫌。
客に出来るだけ金を使わせようと躊躇がない同僚たちを見て、ああはなりたくないと思った。
たとえ客が性格を拗らせた年上の男でも、相手に弱みがあっても、それでもそこにつけ込むような悪になる勇気がなくて。
だから、私には固定客なんかもいない。
演技したりして虚構の関係性を作り上げて金を稼ぐなんて、色々な嫌悪感のせいでできなかった。


そして……。
もしも同僚達と深くかかわってしまうと……私は他人へ優しさをそこまでかけることができない。
それも嫌だった。
人に優しくされなかった人間は、人に優しくするのが苦手なんだと聞いたことがある。
きっとその通りなんだろう。
本当に嫌だ。
何よりも、人のことを勝手に決めつけてレッテルを付けたり、粗を探して見下したりしてしまう私が嫌だ。
汚れている。


――――それでも私は。
その時ななしから差し伸べられた手を、掴もうと思った。
ここでなにか変えなきゃ、一生このまま終わりだと思ったから。
もちろん今以上の深い地獄が世界にはあることだって私は知っていたけれど、半分自暴自棄のような感覚もあった。
まっすぐ続く薄暗い道から分岐する、先が見えないけど明るく感じる道を無謀に信じて。



 ◇



VRCでななしは、ピンク色の女の子の姿になっている。

――――気持ち悪い。

そう思った。着いてきて間違いだったと思った。

というかVRC自体が女の子の姿をした男がいっぱいいる、ある意味気色の悪い世界そのものだった。
風俗の仕事とはまた別の、生理的な嫌悪感というものを心が感じ取った。

それに自由にヘッドセットは使ってくれていいと言われたけれど、VRCでの世界の歩き方はわからないしそれ以外のゲームもわからない。
必然的にVRに入るとななしと行動することになる。
なんで仕事でもないのに、仕事で会った相手と離れていても付き合わなければいけないのかとも思ったりもした。


それでもVRヘッドセットを譲ってくれたということもあるので、義務感のように度々インするようにはしていた。
そうしているうちに――色々なことを経験していつの間にか嫌悪感が薄まっていった。
ネットで上辺で見るだけと違って、実際に人々と話すことができるからなのかもしれなかった。
現実の自分と全く重ならないアバターを使う人も、個々の人々にはそれぞれの理由がある。
まずななしを通して無言勢の人や、獣人アバターや無性別な機械の人などそこまで嫌悪感を感じない人と少しずつ話すようになった。

現実ではなれないキャラを演じてみたいとか、現実の見た目に左右されない人間関係を築けるとか。
現実の自分が嫌だからVRで別の姿になった、別の人生を歩んでみたかった、本当の自分になりたかったとか。
そしてそうなるまでに至った理由も、軽い人もいれば何処までも重く悩んだ結果という人もいる。

それを理解して行くうちに、いつの間にかななしの見た目への嫌悪感も消えていた。
いつもの先入観で決めつけてしまう悪い癖も、後からこんな風に変わることがあるんだって自分で自分の感情に感心する。

実際に現実で会った時も結構快活で行動力がある人だと思ったけれど、VRでの彼は更にとても楽しそうに過ごしてることもわかった。
それに――そういう色々な人から聞いた今のアバターを選んだに至る悩みとか、私にも結構当てはまるから。

そうしてユーザーランクも上がったから、ななしと一緒にアバターを仕立てることにしたんだった。
2人で選んだウサギ獣人アバターの素体に、模様を書き換えたり服を選んだりして作ったのが今のアバター。


これでVRCの世界に完全に入れた。
そんなような気がした。



 ◇


 ――――――――


 ◇



廃病院の中をあてもなく歩く。
病院に本来あった白さが減った廊下、繋がっている何かの処置をするための部屋。きしんだ音のする扉。
壁の汚れや剥げ、倒れたりした家具、散らばった書類や医療用具などが廃墟感を出している。
実際には廃墟に向かって朽ちていくという、時間の概念なんてないのだ。VR用のモデルに過ぎないのだから。
そのはずなのに、フルダイブした世界では妙にリアリティが高く感じる。
汚らしさ。不気味さ。底知れなさ。

実際のVRCのホラーワールドだったら視覚、聴覚的なエフェクトが出たり、幽霊や怪物的なNPCを出させたりするのだろう。
あるいはワールドの雰囲気だけ借りて、ユーザーがそれっぽいアバターや道具で驚かす側になるとか。

――そんな感じのホラーワールドに行ったことも、いつかあった。



 ◇


 ――――――――


 ◇



ななしは本当に直情的で、感情がすぐ表に出る。
そして色々なことに、すぐに驚いたり怖がったり叫んだりする。
ホラーワールドに案内する側としては、最高に理想的なユーザーなんだろう。
その様子を見ていると、全く飽きないどころかすこし疲れてくる。
この時だけは私がななしの前に立ったりできる、ななしを宥めたりできる。
本当に不思議で可笑しくて。
楽しかった。

そう、私のVRCにはあった。
まるで一度諦めて幻想だと思ってしまった、人と関わることの良さを知っていくような感覚が。
楽しかったことは本当に本当にいろいろあって。

キャンプ場みたいなワールドでリアル感の低い焼き芋や焼きマシュマロに、リアルで経験のある私の方が苦戦したり。
VRだからこその無尽蔵な量の色々な種類の花火を、これまた大量に同時に点火して遊んだり。

雪山のワールドでは広い雪景色に、寒さも冷たさも幻覚のように感じてしまったり。
スキーやスノーボードの経験はあるからと、勇んでいろいろしたらジャンプや転倒のものすごい視点変化で二人でVR酔いしたり。
追いついたり待ったり並んで滑り降りたり。

現実では服を選ぶことなんかに楽しみはなくて、雰囲気に合いそうなものを無理やり考えて選ぶのに。
VRCだとアバターの着せ替えが楽しくて。
自分でアバターをカスタムする力はないから、衣装だけ選んでフィッティングはななしと楽しく話しながら進めたり。

いつも他人の幸せは空の上の出来事だったり、妬ましかったりするのに。
ななしは一緒に幸せを喜べる人だった。


それでもやっぱり私は情けなくて。
時にはいつもSNSで吐き出すような心の辛さを、手近にいるななしの方へ吐き出してしまうようなこともあった。

ななしはその気持ちを受け止めてくれた。
気にするなよとか、月並みなことを言わず。
君を陥れた人が悪いとか、無理に感情の方向を定めようとも言わず。
これから見返せるくらい幸せになれとか、無理も言わず。
そこにあったのは同情、共感、そしてその辛さの肯定だった。
何故そんなことができるんだろう。


お互いの辛さをぶちまけて、涙しあったことがあった。

ななしは人の気持ちを理解しようとせず、自分のことだけ考えて突き進んで生きていた時代が長かったらしい。
そんなのだから向き合ってくれる人はどんどん減って、孤独になっていく。
そんなの平気だと思ってたけど、結局徐々に辛さを実感していったらしい。

写真で見せてもらった昔のななしのリアルの姿はまるで垢抜けなくて清潔感もなくて、最初に会ったときの印象とまるで違った。
VRCで出来たフレンド達と話していく中で、リアルの見た目についても相談して助言を受けて徐々に整えていったんだという。

VRCのアバターは、基本的に最低限の見た目が保証されていて、見た目が悪いことによる先入観の悪さというのが少ない。
非自作の人でもネットで沢山公開されている中から好きなものを選んで購入できて、そこに個性を少しカスタムしたりする。

VRCは見た目のマイナスを取り払って、人と人が対話できる世界。
ななしも、そういうところに救われた一人だった。
せっかくだからと選んでみた女性アバターに、最初は可愛い可愛いと言われて恥ずかしいし戸惑ったけれど。
それでも、それがきっかけで色々なことを他の人と億面なく話せるようになっていった。


そういうことだった。

ななしも、現実の世界に悩みを抱えて痛がっていた一人だった。
私と原因や質は違っていても、同じような孤独感や疎外感を世界から味わってきていて。

そんな、人の気持ちを想像したりするのも苦手で難しい私達が。
VRCの世界だからこそ点と点で触れ合えた。
徐々に点を増やしていって、お互いの心の形を分かり合えた。

ななしは、いつか笑いながらの涙も見たいなとかそんな事を言ってた。
涙を流すくらいの感動なんて。
想像はできないけど、私もいつかそんな日が来たらいいなと思ったり。


喜びも辛さも分け合って、通じ合った。
一緒にこの先も、歩んでいけるかもしれないと思った。



 ◇


 ――――――――


 ◇



――それなのに。

どうして行ってしまうの。

――なんで。

私だけが残されるの。


私を見つけ出してくれたのに。
光を当てて暖かさををくれたのに。
何の色もない灰色の私は、それを充分に受け取れないし輝けもしないのに。
それでも貴方は見てくれていたのに。
どんなに貴方は優しいのって、そう思ったのに。


――甘く優しかった思い出を。

お願い、嘘にしないで…………。



 ◇



無為に歩き続けた。
考えを続けながら、廊下や部屋を越えていった。
そして、突き当る。
何かの部屋へたどり着いた。

明かりをつけてみる。
チェストや収納スペースが用意されている。
中には医療用とは違ったベッドがある。
おそらく、患者を収容するための病室。


ななしと最初に会ったのも、ベッドのあるところ――仕事場だった。

そのことを思い出しながら、疲れたわけではないけどベッドに腰掛ける。

ななしは、私より年下だというのを差し引いても性知識が浅い人だった。
彼は女性と恋愛したことがないと言っていた。
自分からの恋愛に興味がなかったんじゃないかなって、私は勝手に思う。
彼に魅力はきっとある。
都会で人も多いからか競争に負けて、たぶん強く告白されるような機会もなかったんだろう。
何なら童貞だ。VRCで男の友人とネタにしたり慰め合っていたりしたのを見たことがある。

それなら私が――。
私は。
私じゃあ、いけない。

私はダメだ。クズだ。
好きな人と一緒になるなら、あんな仕事辞めてきれいになるべきなのに。なりたかったのに。
今までまともな経歴がないから普通の仕事なんて無理だって自己否定して。
そして現状維持――違う、緩やかに右下がりで。

こんな私はななしにとって全く見合ってない存在だって、やっぱり思ってしまう。
働くとかそうやって普通の社会に出るのは現状維持よりもっと壁が高いと、勝手に思って怖がって。
じゃあ風俗嬢のままの私があんないい人と恋愛するなんて、傲慢じゃないのか。

……ななしなら、恋愛感情につけこめば助け出してくれるのかもしれない。
でもそこまで頼ってはいけないと思って、風俗から抜け出したいとは言いだせなかった。
ななしだってVRヘッドセットをくれたといっても、別にすごい裕福というわけではないと思う。
お金の話とかは生々しすぎるのでしたことはないけれど、想像はする。

普通に働くのが無理と思っている私は多分専業主婦……いやヒモみたいになってしまう。
頼り切ったらななしの生活はどうなるのだろう。
私を助けさせることで、ななしの生活の癒しになっているVRCの時間を奪っていいとは思わない。
悪人にはなりたくない。
どうしたらいいんだろうってずっと悩んでた。

そもそもおかしいんだ。
私はななしの本名を知らない。
ななしが知っているのも私の源氏名とユーザ名だけ。
仮初の関係でしかない。
そう信じるだけの薄さもある。

なのに諦めて身を引く気にはならなくて。
どっちの方向へも、自分から変えていく気なんてしなくて。
周りの環境が何か変えてくれるんじゃないかって受け身のままでいた。

そうして、こうやってバトルロワイヤルゲームのワールドに参加する機会が来て。
ゲームなんて全然強いわけじゃないけど、恐さもあったけど、それでも参加したい気持ちが勝った。
例えば、吊り橋効果的なものを期待していたのかもしれない。

ピンチになった私をななしが守ってくれるとかそんなこと妄想したり。
何なら、向こうから告白してくれることなんかもうっすら期待していた。


――なのに。

彼はもうどこにもいない。
私を置いて一人で行ってしまった。

何で行ってしまったの。



――違う。



――私は。



――なんで。



――行かないでって。



――そばにいてって。



――彼を。



――止められなかったの。



驚いていたから。
怖くて声も出なかったから。

そんなの理由にならない。



お互いの気持ちが。
通じてなかったから。



――――そう。



私なんてダメで。クズで。
彼を私のものにしてはいけないって思っていて。
私みたいな汚れた人間の物にすることで、彼を汚したくなくて。



でも。
好きと言っていれば。
ずっと一緒にいてと言っていれば。
私を一人にしないでって泣きすがっていれば。

主催者と戦おうとするよりも。
私を守るためにそばにいてくれたんじゃないの。

そして、きっと見せしめになることもなかったんじゃないの。



――そう。

ななしは、"VRCの"ななしだった。
VRCが人生の癒しになった、名のない一般人。
ちょっと勇気があって直情的で、適度な正義感のある一般人。

だからVRCのみんなを助けようとして、そして死んでいった。
そのVRCのみんなの中には、私だって当然含まれてはいるけれど。


それじゃだめなんだ。

みんなが戸惑って怯えていてもその中で、私に、最初に手を差し伸べて欲しかった。
暴力の渦巻くこの世界で、真っ先に私を守って欲しかった。

けれど彼は、"私の"ななしではなかった。

仕方がない。
私だって、彼のそういう優しく困った人をすぐに助けようとする明るいところが好きだった。


きっと、ああなる運命だった。
納得がいってしまう。


――――なのに。

――――どうして。

――――いまの止まらない辛い感情は一体。

――――どこから。

――――とめどなく。

――――溢れて出してくるのでしょう。


――――どうして。

――――失ってしまってから。

――――いまさら。

――――あんなにも。




――――愛していたことを、思い知ってしまうのでしょう。



 ◇



姿勢を揺らつかせ、ベッドにふらふら横に倒れ込む。

まるで嫌悪していた、精神病患者のように。


今、やっと。

自分の心に写り込んだ負の感情が。

ななしが死んだときの絶望が。

全部落とし込まれた、そんな気がした。


そして。

もう何も。

私に価値が感じられない。



――私のせいで。
――――ななしは。

――私が何もしなかったせいで。

――私がクズだったせいで。

――私が汚れきっていたせいで。

――私が思いを伝えられなかったせいで。

――私のせいで。
――――ななしは。
――――――ななしは。
――――――――死――





寝よう。

思考に鍵をかけてしまおう。


どうか。
眠っている間に誰か。
死なせてください。

無意識の世界で…………。
恐怖を忘れた状態で…………。
苦しみもないまま…………。

どうか、死なせてください。
可愛そうだなんて思わずに。
一思いに。
作業的に。


一つの特技かもしれない。
寝ることを選べるのは。
どれだけ不安にかられていても、どんな時でも。

辛い現実からただただ逃避するための、どうしようもない虚無のスキル。
あるいは起きたときはもっと悪化しているかもしれないのに、その場限りの逃避をしたがる悪い癖。

何度もある。
二度と目が覚めずに、このまま終わってしまえばいいのにと思ったことは。
今も。

あるんだろうか、あの世は。
天国?地獄?特別良いことも悪いこともしてない私の行き先はどっち?

ななしは――天国なのだろう。

会えるかな。
ななしが私に手を差し伸べて、天国へ連れて行ったりしないかな。



このまま死んだら――死後の世界では私はどんな姿?
現実の姿に?アバターの姿?

できれば――アバターがいい。
汚れきった自分の姿を、死後の世界でまで背負いたくない。

でも聖職者の話とかだと、死後の世界は人間のもので動物とかは行けないんだっけ?
じゃあ人間じゃないとだめなの?

やだな……。

今そんなこと考えてもしょうがない。
死後の世界なんて信じないのに、いざこういう時になるとなぜ考えてしまうのだろう。

とにかく。
この世界での自分を、このまま終わらせて。

消え去りたい。

死んでしまいたい。

消え去りたい――――。

死んでしまいたい――――。




 ◇

 ――――――――

 ――――――――

 ――――――――

 ◇




「こんこん小山の白狐
 小山の木陰でこんと舞う」


暗い森の中を進んでいく白い明り。
踊って舞うように動く2つの人魂。
互いにくるくると、ひらひらと。
不気味というよりは、幻想的で美しくもある。


「こんこん小山が寒いなら
 この山この火が暖める」


人魂の勢いが徐々に強くなっていく。
明かりに暖められるように照らされているのは、周りの雑木だけではない。
人魂が灯っているのは、一人の人間――いや人間の耳の代わりに獣耳が生えている白い妖狐の掌の上。
その身体も白い明りで照らされていく。


「こんこん小山にお火が差す
 虚構の夜でも寒くない」


3拍子のステップに合わせて歩みを進め、それに合わせて腕の動きを作ってくるくる動かしていく。
顔の周りで両手が踊って、明るく照らされる。
その歌う表情は柔らかく、そしてとても楽しげ。


「小杉の木陰で杉の葉に
 一息ついてこんと鳴く」


少し休みたくなったのか、大き目の木に寄りかかって休む、白い妖狐。
歌をハミングして歌い続けて。



 ◇



このバトルロワイヤルのワールドの会場は広くて、それでいて木々に阻まれてるし夜だから暗い。
つまり参加者がお互いを発見し合うのは、少なくとも今の場所では期待はしにくいということになる。
TPSのような三人称視点が使えるならまだましだったかもしれないが、生憎とここはフルダイブ型で一人称視点しかない。

ショウマは最初は視聴者を楽しませようと思って、火の玉を飛ばしてみたり尺八を奏でてみたりした。
もちろんそうしていれば、明かりや音で他の参加者が気付くんじゃないかということにもすぐ気が付いた。
でも、逆にそれがいいのだ。
せっかく貰った新規ゲームの案件なのに逃げ回ったりするタイプのプレイをするのは勿体ないし、そういうキャラでもない。
それならどんどん目立って他プレイヤーとの接触を目指すべきだ。


まず白い炎と尺八の音は暗い森の中では、不気味にしかならないことがなんとなく分かった。
最初は自分のテンションも高かったからよかったけれど、コメント欄が見れないからだんだん冷静になる。
これは人を呼び寄せるには逆効果じゃないか。
夜中の森って何か出てきそうで怖いですねとか呟いたけれど、これは自分は怖がられる側だ。

そう思って色々やってみた。
幸い森の中なので、スキルの特性上消費は少なくできる。
どこまで火は強くできるのだろう。

奥の手の獣化はどんな感じで動けるんだろう。
体力は消費するだろうけれど、短時間なら大丈夫だろう。
それよりいざ必要な場面で上手く使えないことの方が心配がある。

これがどれもこれも現実にはできないことなので、とても楽しい。
四足歩行も最初こそ勝手が良くわからなかったけど、慣れるとバランスのとり方なんかがとても楽しい。
とはいっても結構な疲労は感じたので1分も維持は出来なかったのだけれど。


しかし楽しくてどんどん調子に乗っているうちに。

火力が、予想以上に強くなっていた。

…………いつの間にか周りの木々に白い炎が燃え移っていた。
まるで山火事だ。


ごうごうと白い炎と明かりに周りが飲まれていく。
収めようとしたけれど、どうも収拾がつかない。
自分を離れた炎は流石に熱さを感じるし、多分火傷もしそうだ。
獣化していれば熱さは感じなかったのだけれど。
これじゃ人を呼び寄せるというよりは逃げて行ってしまう可能性の方が高そうだ。

やってしまった。
そもそも森の中で力を発揮するスキルなのに、森を燃やしてどうするというのだ。

けれどなったものは、もうどうしようもない。
それならそれを利用しようとして、燃えているあたりを遠くから見られるように少し離れてみた。


すると、人影が飛び跳ねるように燃え広がる隅から飛び出して行くのが見えたような気がした。
追いかけよう。
そう思って歩みを進めていく。

別に追う目的は第一ではなく他の参加者との接触が第一だし、ただただ歩くのも面白くない。
とはいってもトークで場を持たせるのもコメントが無いと大変で。
だから歌ったり、フルダイブでの感覚をより掴むために舞ったりして目立ちながら歩いていくのだった。



 ◇



しかしこの世界に活かされているのは、凄い新技術だ。
ゲーム以外にももっと活かせそうな場面もあるんじゃないか、すぐには思いつかないけれど。
まあゲームのバトルロワイヤル物ってのは、トレンドは過ぎたけどまだまだ人気があるジャンルだ。
そこへ実況者とかを招待できれば、新技術の大きな宣伝になるんだろう。
名簿を見てもっと有名なVTuberがいないのは……まあ企業の力関係とか色々あるんだろう。


そんなことを考えながら歩いているうちに、開けた場所と建物が目に入ってきた。
コンクリートでできた大きな建物――田舎の中規模くらいの病院って感じだ。
そして、その中の一部に明かりがついている。

「なるほど、さっき見えた人影はたぶんこの建物に入ったようですね。
 こういう場合は、たいてい待ち伏せ側が有利なんですが……。
 でも、ボクの武器はそう。かなり自由に動かせる狐火なんですよね」

視聴者向けにひそひそ声で話しながら作戦を立てる。

「炎を人魂のようにボクの前を先行させながら行けば。
 相手は反応しないはずがないから、クリアリングはかなり楽になるはずなんですよ。
 銃撃が来るようなら、炎をガンガン曲射で送り込んで一方的に攻められる。
 接近戦で向かってくるようなら、こっちも舞っていた時のように手足に炎を纏って戦ってみます。
 まあ相手の方が接近戦が格上なら、獣化という奥の手もありますしね」

コメントの反応はわからないけど、言葉に出すと思考が整理させるような気もするから別にいいんだ。

「あとは相手が逃げていくようなら――。


 ――あっ。
 ちょっと面白いこと思いつきました」



 ◇

 ――――――――

 ――――――――

 ――――――――

 ◇



ベッドに目を伏せているのに。
妙な明るさを感じる。

ネガティブな思考が途切れていく。
少し窓の方に目をやった。

「え……」

窓の外に映るのは白い炎。
理解ができない。

すぐに逃げようとして――。
いや窓に触れるくらいの近さには木はないはずだから大丈夫なはず、と思っておく。

窓から逃げるのは難しいけれど、建物は大丈夫。
たぶん。頭は何とか回っている。

あの炎が燃え広がってここまで来たの。
でも、そんなに早くは広がらないと思うし、鎮火もするんじゃないかと思う。

それならもう一つの可能性は……。
白い炎を出せる者が、ここにやってきているということ。


そう。
部屋の明かりは消していなかったんだ。
誰か死なせてって。
そう思ってたから。
明かりに気付いて、ここまで来て私を寝ている間に殺してくれればって。


そうこう考えていると。
部屋の扉の向こうから何かの音が聞こえる。
おどろおどろしい不気味なよく通る音。


どうしたらいいの。

死にたくない。

死にたくない。

炎で苦しんで死ぬなんて。

やめて。嫌だ。


それならいっそ自分で自分を――。

怖い。できない。

殺されることも怖い。

でも自分を殺すのも恐ろしくて。

選べない。

逃げ道はない。

気が変わって……お願い。


近づいてくる。

どんどん。

歩く音も聞こえてきて。


この部屋にももうすぐ来る。



とっさに、支給品に手が伸びた。



 ◇

 ――――――――

 ◇



ホラーのように相手を追い詰めていく。
これがボクの思いついた作戦だ。

まず逃げられないと思わせる。
屋外にある白い炎を見せつける。
まあ周りを全部燃やす必要は無くて、明かりのある部屋の窓の近くだけ炎を目立たせればいい。

そして不気味だった人魂のような白い炎と、尺八の音を逆手にとってみる。
相手をできるだけ怖がらせて、そうして撃破する。
視聴者にもネタになるし、相手にもなかなか面白い体験を与えることができるんじゃないだろうか。

そう思って建物の中を進んでいった。
一応部屋の外に出ていることも想定して、クリアリングなんかも進めながら。


さて、多分ここが外から見えていた部屋だろう。
扉の隙間から明かりも漏れている。

ここまで出歩いていた気配もなかったけれど、待ち伏せてトラップでも仕掛けているかな?
それなら――扉の正前に立たずに、脇に身を隠しながら扉を開けよう。
尺八をしまい、ドアに手をかけない方の手には即座に攻撃できるように火の玉を先駆けて形成しておく。

ゆっくり扉を開けていく。

すぐに飛び出してはこない。銃撃とかもない。
何かが起きたり、動く気配もない。

……火の玉を火事にならない程度に調整して、曲射して投げ込んでみる。


「――来ないで」


女性の声が聞こえた。
真剣すぎる声だ。

まるで、待ち伏せなんてしてないかのよう。
どういうことだ?
それでも警戒しながら、少しずつ姿を見せてみる。


「わ、私を焼き殺す?
 なぶり殺すの?」


病室のようで、ちょっと違う部屋。
生活に必要な道具とかはあるけど、人を傷つけられる道具とかが徹底的にない。
そんな不思議な、泊まれるような部屋。
ベッドの上に座って一人のウサギ獣人的なアバターがいた。
でも、気にするべきは獣人ということではなくて。


自身の首に向かって銃を向けているということなんだ。

唯一の凶器が、彼女の手にあった。


「そ、そんなことさせない!
 それ以上近づくなら自殺するから!」


恐怖に震えた声。生まれたてのウサギのように震えた手。
感情を反映するかのように、折れ曲がっている長い耳。
怯えた表情がこちらを突き刺す。


「白い火で何でも燃やせるんでしょ?
 炎を飛ばしたらすぐに死ぬから!」


……さすがにこの状況は想像にしていなかった。
その悲壮な気迫を受けては、ボクも手を降ろすしかない。

警戒させないように、ゆっくりと、火を収めていく。
和服の白いショウマの柄も、白い炎の光の反射を失いしおれるように色褪せていった。
襲う気は最初に声を聴いた時から急に失せていたけれど、もう完全になくなってしまった。

それを確認したウサギの女性。
震えは少し弱くなったように見える。
でも銃を下ろしはしない。
強くこちらを見つめたままで。


「どっかいってよ!
 ほっといてよ!」


錯乱している相手。
ほっとくのが、自分にとっても相手にとっても良いのかもしれない。
でも、座った彼女とひりついた気まずい視線を交わし合いながらもちょっと考えてみる。


……思考が追いついてきた。
たぶん、彼女はこういう一人称視点PVPゲームの初心者だ。
攻撃的な相手との遭遇に対して、全く心の準備ができてない。
ゲーム内で死ぬことに対しての恐怖感が強すぎるってのも、とても典型的。
フルダイブVRという形で感覚も同期してるから、さらに過敏になりもするんだ。
そういうことだ。

じゃあ自分はどういう行動を取るべきなんだろう。
洗礼を浴びせる……というのはうちの社長とかのやることだな。
そこまでいかずとも。
運が悪かったな次は頑張れよって、とっとと始末できるのが普通のプレイヤーの動きなんだろうけど。
実際優勝したいなら倒して支給品を奪う、それをするべきだと理性は判断しているけれど。
というか普通のFPSゲームで見知らぬ初心者相手だったら、いままでほとんどそうしてきたけれど。


なんだかこうやって見つめ合っていると、そうするべきではないという感情がどんどん強くなる。
やっぱりフルダイブVRだから、こっちも感覚に響くものがあるのかもしれない。
せっかくの初遭遇者でもあるし、ここは少し話すべきだろう。

「申し訳ありません。怖かったですよね。
 あなたのような没入感の強すぎる方へ、配慮するべきでしたね。
 本当に申し訳ありません。攻撃するつもりはありません」

そうだ、ボクは初心者に対してここまで恐怖させてトラウマを負わせるようなことをしてしまった。
ただ偶発的にやられるだけとは違う、今後の開催があっても二度とこの手のゲームに戻ってこないかもしれない。
折角ゲームをするのだから、ゲーム内でその時その時の負の感情はあっても最終的には楽しめるようになって欲しい。

案件を受けたVTuberとしてもきっとこうするのは最善だ。そう思う。
自分は無害だと出来る限りアピールする。
難しいかもしれないけれど理解してもらえるように。
相手の獣人アバター……"しみうさ"は動かない。
しばらくして、口を開いていく。

「何なの?……急に可愛そうになったの?
 じゃあ最初からやらないでよ。
 というかどうでもいいからどっかいって……」

「そういうわけにはいきません。
 今のままだと、貴方はきっとこのまま何もできずに誰かにやられることになります。
 そんな終わり方でいいとは、ボクは思えないんです」

しみうさははっとした顔になるが――すぐに辛い表情になっていく。

「そう、でもそうならないはずだったの。
 でもいないから!
 私を助けてくれるあの人は!
 ななしさんはもういないから!
 もう何も意味なんて、ない……」


ななし――その名前は、最初の集合場所で見せしめのように処理されたあのアバターのもの。
彼女と関係の深い相手だったのだろうか。
というかただの演出じゃなくて、ちゃんと中身の居るプレイヤーだったのかあれ。
まともにプレイさせずに退場させるなんて、ちょっとひどいんじゃないかここの運営。
それで、一緒に動くはずだった仲の良い相手がいきなり消えてしまって、初心者なのでこうも錯乱してしまっているのか。

「事情はお察しいたします。
 でもそれなら、貴方の方がななしさんの分までこのワールドで生きてみるべきじゃありませんか?」

「なによ勝手なこと……。
 ななしさんがいないのに、もう何があるっていうの……」


悲痛な声の訴えは続く。
本当にボクは勝手だ。
相手の気持ちなんて考えられてないのかもしれない。

それでも、話さなければどうにもならない。

「恐らくですが、ななしさんと貴方はこのワールドを一緒に楽しみたくて来たわけですね?
 それなら自分がやられても貴方がその後すぐにやられるよりは、
 出来るだけ長く残ってくれた方が喜ばれるんじゃないでしょうか?」

「……本当に勝手なのね。
 もう彼と話も何もできないのによく言えるのね。
 完全にひとごとみたいに。なんなのよ……」

「いえ本当にこの運営のやり方は――強くは言えないですが。
 駄目な点が多いですよね」


案件ということもあって、プレイ中に強くは言えない。
でもイントロでいきなり脱落者出すとか。
残酷な描写を出すとか。
なのに自由にログアウトすることも出来ないときた。
本当に技術としては素晴らしいのにもったいない。
終わったら、オブラートに包みながらも沢山ネガティブな意見を出してやろう。

……会話が止まる。
ゲーム内容の批判についてはこれ以上、そんなに言える立場じゃない。
話題を変えよう。
話し続けて、どうにかここを収めたい。



 ◇



何故この狐耳男――"すぎの葉ショウマ"は私を襲う気が無いの?

……たぶん私のスキルが発動した。
それ以外に理由なんて考えても仕方ない。
目に見えない能力だからぜんぜん信頼はしてなかったけど、私の命を守ってくれた。
最悪な死に方からは回避させてくれた。


自殺しようとした。
でも自分から死ぬ勇気なんて……やっぱり私にはなくて。
それでも自分の命を盾にすれば、加虐したい相手だったら万が一にでも諦めてくれるんじゃないか。
逆に面倒がって一思いに殺してくれるんじゃないか。
そう思ってああした。

とはいってもこうなったらなったで、この自分勝手な男と会話しなければならない。
襲われる可能性はもうないにしても、気分は全然よくない。
こっちがどれだけ苦しんでるかなんて想像もつかないんだろう。
まるでゲーム感覚で捉えてるんじゃないかって、微妙に深刻さが薄い口調も嫌だ。
でも殺そうとしてきた相手を逆なでして怒らせるのも怖いし、逃げることも退かせることもできなくて。
もう嫌で嫌。


気付くと意識しないうちに銃はいつの間にか、手から下へ落としていた。
重くて疲れるからか、一応の危険は去ったからか。

「ところで、かわいらしくて良いアバターですね。
 VRCは初体験なんですが、本当に色々なアバターがいて。
 そういう獣と人間の可愛らしさが高度にマッチしてるキャラって珍しいし、いいと思うんですよ」

「だから?
 最低限当たり障りなく、悪い第一印象なく。人と話せるアバターではあるけど。
 ななしさんと選んだアバターに初対面でいろいろ言われても……」

いや、ここは風俗の営業的には素直に喜ぶべき。
少なくともアバターの作者を立てるべき。
……反射的に思ったことを答えてしまった。
もはやそんな事考える余裕もないのね……。

「ななしさんのことを本当に想っていらっしゃるんですね。
 本当に勇気があってすぐに動けて、すごい方なんでしょうね」


何なの?
そう言って死んでいったななしを逆に貶すつもり?
でも求められてる会話はそうじゃない。
でもだいぶ本音を話してしまう。

「貴方には何もわからないでしょ。
 VRC初心者なんだから。何も話したこともないくせに。
 急にあの人が目の前から消えた絶望もわからないんでしょ?
 一人になった苦しみも貴方にはわからないんでしょ?
 そうでしょ?」

言葉をまくしたてる。
悲しく沈んだ気持ちに割って入られて、感情がぐちゃぐちゃになっている。


「――そうですね。申し訳ありません。
 でも少しはわかりたい、立ち直ってほしい、癒したい。
 それがボクの気持ちですから」

「何様のつもりよ。
 何もわからない相手同士のくせに。
 初対面の。
 もうなんなの……」


なんなの。
いっそ、誰と遭ったとかもっと事務的な会話をしてよ。
心に踏み込まないでよ……。

「すみません。
 ボクは。ただの一VTuberに過ぎません。
 VRCも初心者で、雰囲気とかも全然わからなくて」


VTuber――顔の雰囲気とかを合わせて、納得していく。
そして、だいぶ嫌いな人種かもしれない。
利己的で、リスナーの事なんて餌みたいに思ってて。
そのくせスキャンダルとか起こして、皆の心をぐちゃぐちゃにしてくる迷惑な人種だって。

なんか、風俗嬢の同僚に男のVTuberに貢ぐために金を稼いでいるような子がいた。
そういう子も馬鹿に見えて嫌だし、それを餌にしているVTuberも嫌だ。
やってることは悪徳ホストとかとそう変わらない気がする。
甘い言葉で釣ってこようとしてくるわけだ。
笑いかけたり、おどけて笑わせて励まそうとしたりとかしてくるんだろう。
そんなんじゃ心は動かない。動かすもんか。

「でもいつも、向き合っていたいと思っていますから。見てくれている視聴者達の心に。
 そして、貴方もこうやってボクと話している時点でその関係者なわけですから」
「……勝手にしてれば。何だって」

真剣な顔で目線を合わせようとしてくる。
もちろん視線を逸らす。
好きにいろいろ言ってればいいじゃない。
絶対に乗せられなんてしない。
だいたい、さっきこっちを殺そうとしてきた相手を信用なんてできる?
ななしが消えた隙間に入り込もうとするなんて、絶対に許さない。
お前のことが好きになるくらいなら死んでやる。
――というかそう遠くないうちに死ぬから。
――死んじゃうから。死にたいから。

「ピンク色、お好きなんですか?
 ななしさんもピンクを主体としたアバターでしたよね」
「さあ。どっちでも……」

取り付く島もない答え。
でもこれでいい。
ななしのことをどうこう言うな。

まあ、どっちでもというのは本心でもある。
どっちでもある、っていうのが。
ななしの好きなピンク色を、私も好きになりたいと思った。
でも現実では働いてる店の装いの色や、衣装の色だったりする。
ピンクで女の子らしいとかそういう言葉は、ななしとか女の子らしくありたい相手に言うからいいんだ。
私なんてピンクに汚らしさも感じている。
でも、自分に染みついた色でもある――アバターの色でもある――。

「ピンクもそうですけど、そのアバターウサギですよね。
 お好きなんですか。可愛いですよねウサギ」

「別に、どっちでも。
 一応言うと、ケモナーとかでもないから」

何でウサギなのかって人間の姿が嫌なのはそうとして、たぶん自分の姿のイメージがウサギだったから。
見た目は可愛いけど、なつきにくくてコミュニケーションが薄かったり性欲旺盛だったりして汚らしい面もあるでしょ。
コミュ障で性産業従事者の私が動物になるなら多分これだって直感が、アバターを選ぶときにあった気がする。
可愛いとか、それが好きだとかそういう感情はなかった。

でも、ななしが可愛いしいいじゃんというから好きになってきた。
ななしが好きというからこそ、他の誰かに可愛いといわれても気分が良かった。
でもななしがいない今、もう何だというんだとも思ってしまう。
人から口八丁で金を絞るような奴に褒められて、何だっていうんだ。
だいたいそっちだって、耳と尾で動物風アバターなんじゃないの。
しかもどうせそこに深い理由なんてないくせに、私にはそれを聞く?
事務所のマッチングとかそういう事情で適当にキャラ作ってるんでしょ。
今は言わないけど、怒らせても面倒だし。

「あっ、ボクはキツネですけど流石にウサギの獣人は食べたりしませんからね。
 申し遅れましたが、ボクはすぎの葉ショウマと言います。
 プレイヤー名でご確認されてるとは思いますが、改めて。
 すぎの葉神社の神使という体で、この狐耳と尾はまあ力や身分の証といったところです」

「そういうキャラなの?」

「いえ、まあ話すと色々な経緯とかもあるんですけれど――。
 まあそういう理解と前提で話していただいても構いません」

こちらの反応が薄いので、色々相手の方から話し出してきた。
どうでもいい。
というかVTuberなら名前も、その作った顔も知れてるんでしょ?
こいつみたいな奴こそ、最初に死んでみんなにショック与えるべきだったんだ。
そんなことも思い浮かぶ。

「そういえばボク、ウサギには結構な思い出があって。
 昔ですね、雪ウサギの型を作って数十秒で雪ウサギを作れるようにして遊んだことがあるんですよ。
 それで皆を驚かせたくて、学校の周りに一晩掛けて数百匹の雪ウサギをこしらえて並べたんですよね。
 もちろん朝登校が始まったら学校で騒ぎになるわけで、微笑ましかったですね」

雪ウサギは――作ったことはある。
雪国の生まれなら、作った経験は多くの人があるんじゃないか。
昔は私も、ペンションの前に宿泊客を喜ばせようと毎年作っていた記憶がある。
というかこいつ雪国の出身か。
同郷だったら最悪だ。

「でもですね、何でそんなもの作ったかというとお恥ずかしいんですが。
 皆を驚かせたり喜ばせたりしたかったというのもありましたが、ボクはですね。
 当時あまりにも友人とかがいなかったので、目立つことで学校に居場所が作りたかったんですよね。
 そりゃ狐が人間に化けて学校に行ってるんだから馴染めないのはそれはそうなんですが」

無理なキャラ付けというか、これは作り話なの?
虚構なのか全然つかめやしない。
嫌いだ。
VTuberもやっぱり。ホストもそう。
虚構の人間関係を作り上げようとして。

「暫くするうちにオカルトとかと絡めようとする学生が出てきて。
 その声がどんどん強くなって。
 オカルトを信じてなくても、面白いからって話題に乗っていく人もいて。
 いざ自分がやったと名乗り出ようにも、そうできるタイミングを逸してしまったんですよ。
 当時はスマホとかも一般的ではなくて、カメラで自分がやった証拠を残すとかそういうこともしてませんでしたしね。
 まあ霊的なことを信じる人が多いというのは、ボクら神使への信仰の力にも繋がるので結果オーライですね。
 本当に感情は複雑でしたけれど」

やっぱり狐のキャラで行こうとするんだ。
こんな虚構を現実がひっくり返したような世界で、今更そこを繕って何になるというの。
そこまでして人を騙したいの。ずる賢い昔話の狐みたいに。
嫌だ。やっぱり。

「そういえば」

ショウマがデイパックを漁る。
アイテムとか見て、薄っぺらいリアクション芸とかするんだろうか。

「支給品にこんなのがあるんですよ。
 リンゴですが、何か体力の回復効果もあるとか。
 当時はいい感じの赤い実が見つから無かったので、家にたくさんあったリンゴの皮を小さく切って雪ウサギの赤い目にしたんですよね」

支給品から赤いリンゴをとりだすショウマ。
さび状の模様もなくて現実感のあまりないCGっぽいリンゴ。
ななしとかならVR味覚とかも鍛えられてて、美味しそうに食べたんだろうか。

「どんな品種のリンゴ?
 真っ赤な秋映とか?」

「秋映……?
 あまり聞かない品種ですね。
 でもきっと、地域の名産品種で美味しいんでしょうね。
 どういう品種ですか?」

「さあ……色は濃いけどリンゴはリンゴでしょ。
 冬にいつも食べるし日々の食べ物にそんなに気にしないでしょ」

ふと思い当たって質問した。
秋映を知らないなら、まず同郷はないはず。
私とななしの出身県では多く作られているけど、それ以外ではほぼ作られてない品種らしいから。
そんなことも昔ななしが教えてくれたんだった。

「ボクが当時使ったリンゴは多分ふじだと思います。リンゴの世界も広いですよね。
 すぎの葉神社もリンゴの生産量の多い地域にありますが、リスナーの方からも結構知識を教わることが多いです。
 冬に取り残しの凍ったリンゴを溶かすと、簡単に手で絞れてジュースみたいで美味しいとか。
 神社に供えられたリンゴは凍る前に戴くか奥に仕舞ってしまうんですけれど、一度試してみたら結構美味しかったですよ。
 体重の軽い子供は雪が少し固まってると乗っても沈まないから、かんじきとか無くても神社にふらっと来れるんですけど。
 そういう時には優しく教えてあげるんですよ」

こいつは青森県とかの出身なんだろうか。
どこまで信用できるかもわからないけれど。
でも同時に多数視聴しているリスナーを一貫してだまし続けるのも難しそうだし、意外と結構真実は話してるのだろうか。

「即席で焼きリンゴとか作れますけど、食べませんか?
 落ち着いて今後どう動けばいいかとか、相談できればいいんですが」

手から炎を出すショウマ。

「いらないわ。
 貴方に借りとか作りたくないし。
 回復とかよくわからないけれど、本当に必要な時に食べればいいじゃない」
「そうですか。わかりました」

ショウマは火を消すが、諦めてはないようで近くの台の上にリンゴを置いた。

「そういえば貴方の方の支給品はご確認しましたか?
 恐らくその銃は支給品なのでしょうが、それ以外にはありましたか?」
「……何で教えなきゃいけないのよ」

情報を渡すのには抵抗がある。
相手がこっちをどうしたいのかの真意なんて分からないんだから。

「そうですね。
 今後どう動くかを考えるのに必要な情報を考えなければなりませんから。
 例えば武器とか戦闘時に使えるアイテムだったら、最低限は扱えるようになりたいですよね」

「そんなのこっちの勝手でしょ。
 貴方に教えて何になるのよ」

「ボクはまあFPSゲームとかある程度はやってきてるから、動き方を考える材料がありますけれど。
 貴方には多分そういう経験が大きく欠けていらっしゃいますよね。
 基礎とかそういうことを教えさせていただきたいんですよ」

全く茶化さずに優しくそして真剣に言うショウマ。
その表情はどこまでが真意なのか。

「おかしいでしょ。
 貴方に何のメリットがあるっていうのよ」

「それはまあ……隠さずに言ってしまえばいろいろあります。
 貴方がまともに動けるようになれば、2人組で一時協力とかもできますし。
 一人で動くよりは話し相手もいた方が嬉しいですし。
 でもボクはもっと単純に、貴方に今即座にゲームを終わってほしくないんです。
 少なくともその情報を利用して貴方に危害を加えたりはしません。
 保証します」

なんなのよそれ。偽善とか?
最初に襲ってきたってことは優勝狙いのはず。
なのにこっちが弱い女子だからって助けるの?
優勝できるのは1人なのに?

――でも、私のスキルがある限り彼は私に危害を加えられない。
言葉が嘘かどうかには関わらず。
完全に信じてはいないけど、そのはず。
無視しても埒が明かなそうなので、こちらも一つの支給品を取り出す。

「そうね、銃以外にこんな支給品があったわ。
 貴方ならこれ、どうする?
 特に戦えるような機能もないけど」

適度な重量感。ボディをつかみ、アコースティックギターを取り出す。

ギター。
VRCでもギターのモデルを作ってる人はいるし、音が鳴ったり演奏する持ち方ができるようなギミックを付けてたりするのもあるらしい。
とはいっても、ちゃんと自分の手で弾いて曲を演奏するというのは、VRCではさすがに手の動きのトレース技術が未発達だからできないはずで。
あらかじめ設定した曲を流して、アバターを設定した動きに追従させるくらいが関の山だと思う。
弾き語りとかしてる人は現実のギターの音をマイクで拾ったりしてるっぽい。
PCがあれば、オーディオインターフェースにエレアコとマイクを繋いで音をVRCへ流したりとかしてるんだろうか。

でもこのギターは、現実のギター同様にしっかりと弦を抑えて弾いて音を鳴らせるギターだ。
ここが異様な世界だということを意識させてくれる。

「ギターですか……。
 確かにこのバトルロワイヤル型の世界にはいまいち合っていない支給品ですね」

「そうでしょ?
 戦えない私をバカにしているみたいじゃない?」

「いえ、偶然かもしれませんから。
 どんな支給品が来るかは一応ランダムのようですし。
 でも……もし宜しければ触れさせていただいても宜しいでしょうか」

私は――。
ギターはできる。違う、昔は弾けてた。今もできるかはわからない。
手を動かす神経も劣化するし、弦を抑える指だって柔らかくなってるだろう。
そもそも今の毛のあるウサギアバターの手で演奏できるかも謎。
ピックがあっても、弦を抑えるのも上手くいくか分からない。

子供のころ、父がよく客前でアコースティックギターで演奏を披露したりしていた。
母や私に向けた曲を歌ったりもしていた。
私も結構父のギターを触らせてもらっていたし、真似をしたり古い参考書を読んだりしていると数年である程度できるようになった。
それも家を出ざるを得なくなってからは、一度も触ってはいない。
むしろ嫌な思い出になってるような気すらする。
楽器屋とかリサイクルショップの楽器コーナーとかも、何となく意識して避けてしまう。
自分が演奏できるのを知っているのは、家を出てからではななしくらいだけだろう。
ななしにだって……できるけどしたくないという話をしただけで、目の前で弾き語りなんてずっとできないと思ってた。

支給品として何かの役に立つかもと思って持ってはいたけど、手放したい感情もあった。
すぐに放り捨てる選択肢は無いくらいには冷静だったのか、心が他の事でいっぱいだったのか入れっぱなしにしてはいた。

さて今。
気に入らない相手に渡すのもどうかとも思ったけど、こんなものいらないという感情が強かった。

「好きにして」
「ありがとうございます」

恐る恐るのように近づいて来るショウマに、ギターを渡す。
再び離れ、失礼しますと言って椅子に掛けるショウマ。

「ギターは……配信上で弾いたことは確か無かったですね。
 ボクと言えば尺八と三味線のイメージでリスナーの方々はお思いでしょうし、普段はそれを触ってますけど。
 事務所での隠し芸とか、将来洋風の楽器を使う方々とのセッションのために演奏は出来るようにしてあるんですよ」

そう言って、試し弾きのように弦を低いほうから一つずつ、そしていくつかのコードも鳴らしていくショウマ。
音程の確認のためか、尺八を吹いてから交互に弦を鳴らしたりもして。
チューニング用の機器はないし絶対音感とかも無いけれど、聞く限り音に違和感は感じない。
VRだからそういうことも必要ないよう、設定されているのかもしれない。
そうして色々試してそこに気が付いたのか、自分にも使えそうだと判断したのか、納得した表情になっている。
こいつ適当な配信者なのに楽器とかできるのか。
というか、さっきの不気味な音もこの尺八の音か。
……私だってそれくらいできるし、わかるし。やりたくないだけ。

「せっかくなので、一曲歌ってもよろしいでしょうか?
 今後他の参加者の方と遭遇して忙しくなるかもしれませんし、時間のあるうちに。
 なにしろまさかVR上でこんな風にギターに触れられると思っていなかったもので。
 リスナーの方々にもせっかくなので聴かせてあげたいですし」
「勝手にして。どうぞお構いなく」

迷惑とか言ってもいいけれど、やっぱり相手を不快にさせる気概もない。
とはいっても真面目に聞くつもりもない。
これで満足したら適当にあしらって去ってもらおう。

こんな状況でもリスナーとか言って気取りやがって。
おどけた歌で笑わせて、無理に心を明るくさせようとするのか。
応援歌とか、君は一人じゃないとか苦しみも報われるとかそんな歌詞の曲で励まそうとするのか。
恋愛ソングで私の気を惹こうとして来たりしたら、最悪だな。
ああ、死ぬ前に最後に聞く曲がこんなVTuberの歌だなんてちょっと嫌だな。
やっぱりやめとけば良かったかも。



 ◇



さて、尺八の時からうすうす感じてはいたけど、より細かく複雑な楽器のギターで確信した。
VR上で楽器を演奏することができるって、すごいことだ。
そんなに大がかりな機器とか実際の楽器っぽいデバイスとかが無くてもできるとなると。
案件として、ボクが楽器を演奏できれば取引先企業側はかなりの技術的アピールとして助かるんじゃないだろうか。
ギターの反応をリアルタイムで聴けないのはちょっともったいないけど、どうせボクはそんな器用じゃないから何か文章読みながら演奏なんて出来ない。
ゲーム世界から帰ったら色々反応を探したり聴いたりしてみたいよな。


――でも。
そんなことばかり考えていたらボクらしくないな。
事務所所属VTuberとして仕事のことを考えたり成果を出したりするのは楽しいという思いもあるけど、ちょっと違う。
計算高くとか、根っからの明るい性格とかで沢山の人惹き付けるなんて、ボクには出来ない。
出来なかったからこそ、今のそこそこ続けてきてもそう大人気でも有名でもないって立ち位置がある。

ボクが裏で一番大事にしてるのは、手の届く範囲の人と出来る限り向き合うことだった。
VTtuberなんて概念が存在しなくて、黎明期の生放送ストリーミングサービスで配信者をしていた頃。
15年くらい前はネットの生放送を発信したり視聴したりして、楽しむということをする人口自体も少なくて。
そんな中でもボクの放送を選んで、下手なとこからの楽器練習に向き合って話したり意見くれたりしてた人達のおかげで今がある。

もう今ではそのサイトもなくなってしまったし、当時の放送の仲間だって全然繋がりもない。
それでもその距離が近くて暖かい雰囲気は、学生時代のボクでは考えられなかったかけがえのない世界。
そして今でも、とても大事な思い出。


だからボクはずっと有名になって売れたい思いと、関わった人達にしっかり向き合いたい思いと両方がある。
――そんなこと両立するのはとても難しいから、無理も来始めているのかもしれないけど。
それでもさ。

だから今しっかり向き合えるのが、たまたま出会った一人だけだったとしても。
ただのゲームの対戦相手ではもうなくなった以上、しっかり向き合いたいとそういう思いがある。
自分勝手っていうのは、本当にそうなのだけど。
ななしというプレイヤーが彼女へ果たすはずだった役割なんて分からないし、代わりになんて絶対になれないだろうけど。

こんなに辛そうでボクを撥ねつけようとしている相手の前で歌うなんて言うのも、本当に自分勝手だ。
景気よく励ましたり、元気づけたりできる自信はない。
配信者をやって、VTtuberになってそれなりに経験を積んでも、今でも対人関係で失敗することはある。
でも想いを共有できる人が誰も近くにいなくなって、孤独に苦しんでいた頃はボクにもあって。
そんな時の思いを振り返りながら、書いておいた曲がある。

ちゃんと聴いてくれるかなんて、言葉が届くかなんてわからないけど。
でも、ボクに今すぐにできることはこれくらいだ。


 ――――――――

 桜舞い散る小川沿いの路
 僕は何処にもいなくて
 心目を閉じ歩み踏み外し
 濡れて倒れ伏せる

 水辺の小さな黄色の花が
 桃色陽気の陰で咲いていたんだ
 日陰で別の色でも誰も気にしない
 傷ついた僕だってこの花だってさあ

 I don't cry so 強がる気持ち
 周り明るくて涙は出ない
 もう嫌だよ孤独な気持ち
 心辛すぎて何も見えない
 皆は喜び悲しみ笑って泣いてて
 馬鹿みたいだでも僕もそうだ泣きたいんだ

 ――――――――


妙に手先がよく動く気がする。
実はぶっつけで怖かったけれど、全くミスもなく最後まで行けそうだ。
これがフルダイブVRの効果だというなら、すごいことだとやっぱり思う。
いや、それだけリアルの普段の自分はコンディションが調整できてないし、なんなら自覚できない怪我とか病気もしているのかもしれない。
腱鞘炎の後遺症でちょっと無理して指を曲げると痛みがあったりするのも、VRではたぶん今まで感じてないぞ。

そういうことを差し引いてもボクの演奏はまあ、本業のバンドマンとかに比べれば全然低レベルだ。
VTtuberとしての武器の一つとしては役に立つ、そういうレベル。
最近はVTtuberの層も厚くなって、普通にプロ並みの実力がある人もいるし比べれば全然勝負にならないだろう。
人に聴かせるレベルじゃないって陰口言ってくる人もたまにいる。
でもこんなんでも、楽器には20年近く触れてきている。
そう、最初に自分からやりたいと願って持った楽器はギターだった。



 ◇



高校受験のころ。
高校の見学で保護者会のバスが出て、文化祭の見学に行ったんだ。
そして、軽音楽部の学生バンドの演奏を見たんだった。
多くの学生が1つのグループの演奏に、喜んで感動している風景。
すごいいいなって思ったんだ。

ずっと人気者になりたかった。目立ちたかった。
それでも失敗してばかりな、そんな中学生時代だった。
たぶんそれは、自分に何の技能もないからじゃないかってその時そう思った。
例えば運動できる奴は偉かった。でも僕は運動なんて全然得意でもなかった。
それならギターを持てるようになりたい。
そして皆の前に立ちたいって、そう願ったんだ。


軽音楽部ではまあバンドを組んで技術を学んで楽しく音楽をやっていく、そういうことは何となく想像だけはしていた。
まあ適当に1年生同士の中で気が合う相手がいれば組めるんじゃないかと、そう思ってた。
でも僕は楽器はまるで未経験だったし、技術力の似たグループで組むのは無理だった。
じゃあ好きな音楽とか話して似た音楽性の奴と組むとか――それも無理だった。
音楽を演奏することが未経験なのは仕方ないが、そもそも音楽を聴くことにもそこまで自分は興味が無かった。
単純に皆の前で目立って人気者になりたいってそれだけの精神で入ってきた、浮いてる部類の奴だったから。

まあそうやってくと、能動的に誰かと組めない余りもの同士で組むことになる。
楽器の実力もやる気もまちまちで、好きな音楽の方向性もあっちこっちに行っていてそんなよくわからないバンドの一員に僕はなった。
そこからが、なかなかひどかった。
やる気のない奴は、練習もあまりしないし遂には数週間で部活に何も言わず姿を見せなくなった。
そうすると逆にやる気も技能もある奴は皆に呆れて、学外の人と組むようになって部活のバンドの方にはまともに取り組まないようになった。

僕は何とかしたいと思ったけれど――空回りするばかりだった。
ちゃんと努力してやってるし練習時間だって多いはずなのに、やる気のない奴と同じかそれ以上に下手なのが僕だったからだ。
何を僕が言っても説得力が無い。
そうしているうちに、ダラダラと続けていた人も辞めたいと言い出すようになって。
バンドは崩壊して自然消滅を迎えた。


僕は――部活をやめることはしなかった。
ならどこかのバンドに新たに混ぜてもらうのが普通だけど、そうはならなかった。
完全に浮いた存在にいつの間にかなっていた僕は、部活内に友人的に話せる相手もいなかった。
無理に入っても、浮いた存在になるし迷惑も掛かるとも思ってしまっていた。
でも、クラスにも友人が作れなかった僕は、居場所が無いのが怖かった。
せっかく手に入れたギターと、他人の音楽に囲まれながら向き合う場所が欲しかった。
家でも孤独に練習して、部活でも孤独に練習して、誰にも聴いてもらったりしないで。
本当に馬鹿みたいだった。

ギターが未経験な奴って、初めはいっぱいいたけれどさ。
でも音楽の趣味の合う仲間とやってて、楽しそうでさ。
羨ましくてさ。ああなりたかったのにって辛くてさ。
それでもなんとかなりたいって、一人で孤独に向き合ってた。

スタートは同じだったはずなのに、どんどん周りは上手くなっていく。
自分はそれに比べて。上達が明確に遅いように感じてはいた。
それでもいつかはって、思っていた。
ちょっとでも楽器が上手くなれば、自信がつくって。
そうすれば他の人と組んだり、色々積極的になれるんはずだって。
そう思って。

でも、ポジティブに考えるのも限界がある。
いつの間にか、自分の苦しみをわからないやつなんてみんな敵か空気に見えてた。
刺が自分に向けられているように感じて、辛かった。
好きでもないだろ、仲間との楽しみもないだろ、上達していく楽しみとかもないだろ、なんで続けてるんだって声が聞こえるようで。
見てるだけで不快だとか、部室に場所取ってるだけで邪魔だとかってそんな陰口も聞こえるようで。
こっちはいつか楽しくみんなの前に立てる日が来ると信じて頑張ってるのに、それなのになんで上から目線で言えるんだって、そう言いたかった。

でもそんな奴らが楽しそうにライブして青春してる姿も近くで見て、やっぱり憧れや羨みも酷くあって。
辛さで心ぐしゃぐしゃになるし呪いの言葉をたくさん吐きそうになるけど、何もない自分が何か言ってもなんの意味もない。
それならそっち側へいつか行けるようになるまで、自分が一人で頑張るしかないって強がって。

それでも。それでも僕は。
結局何もできなくて。


2年生になる時に、新入生の余り物バンドに混ぜて入れてもらった。
年上なのに、眩しい雰囲気の新入生に混ざるのは惨めだった。
でもまだみんなと楽しく努力して上手くなるチャンスはあるんじゃないかって、期待もわずかにあったんだ。

結局、去年と同じことだった。
バンドに最初から自分より上手い1年生がいて、冷たい目線が辛かった。
じゃあ人柄で、優しく指導するような立場になれればなんて一瞬考えたけど、なれるはずもなくて。
結局去年と同じで上手い人は他のとこへ移って、やる気がないやつはやめて。
下手でやる気だけはある自分が、また一人になっていた。
あまりにも惨めすぎた。

それでも。それでも僕は。
どうしてなのか続けていた。

決定的な追い出しとか、いじめとかもなかったからだろうか。
棘に囲まれた中でその痛みに耐えながらも、その居場所が捨てられなかった。
本当に、他の居場所も何もなかったから。
空虚な僕が何かになろうと、1年間努力してきたことを打ち切りたくなかった。


3年生になる時に、顧問の先生が変わった。
今までの放任気味だった先生と違って、結構個々のメンバーにも向き合ってくれる先生だった。
その雰囲気を嫌がる部員もいたけど、徐々に信頼されてみんなから好かれる、そんな先生だった。

僕は先生とはどう付き合ったかって?
下手だけど好きで一人でやってるって、そういう仮面を被ったんだ。
2年繰り返して、バンドで失敗した経験があるから。
無理やりバンドとか組まれても、周りに迷惑をかけるだけだって思いがあったからそうはなりたくなかった。
あまりにも下手すぎる強がりだ。

でも今年来たばかりの先生は、それに騙されてくれた。
自分を下に見てるような他の部員たちには、まったく通用なんてしない強がりではあったけど。
それでも部内での自分の扱いも、もう空気かたまに陰口の話題になる程度の存在だったからそれで過ごすことができた。

この頃の自分はもう、正直あきらめぎみだった。
練習の時間も毎日やってはいたけど減ってきて。
惰性で基礎練習と、簡単な練習曲をやって。
そしてまた間違えたなって弾き直す。
ここ間違えるのって何度目だって、そんな思考すらも麻痺していて。
昨日できてなかったことが、今日も何も変わらずできなくて。
練習用の本の内容や曲の譜面だけは全部頭の中に入っていてその内容を追っているのに、自分はできるようにならない。
自分が上手くなったとかできなかったことをできるようになったとか、そんな実感もなくて。
最後にそういう上達を感じたのは、遠い記憶の彼方で。

それでも、その何も進歩がないルーチンを日課とできるだけの継続力だけは僕にはあった。
いつか天啓のように何かを掴めるんじゃないかってのももう諦め気味だったけど、継続していたことを捨てたくはなかった。
それだけだった。


でも文化祭の後には、3年生の引退演奏会があって。
今までの引退演奏会は定期演奏会や文化祭の延長で、やる気のあるバンドや上手いバンドが立候補してやるようなものだったのだけれど。
先生は全員に出番を用意したいし、下級生にもできるだけ先輩の演奏を聞いてほしいからと考えていて。
学外の活動や勉強で忙しい部員にも、積極的に頼み込んで声をかけていたらしい。
一方で幽霊部員や転部した部員なんかにも、最後だし何かやりたくないかなんて声をかけていて。
だからもちろん自分にも、演奏しないかって声がかかった。
それも年度のかなり早い時期にさ。

ほとんどバンド組んだこともない自分にも、先生はずっとギターやってるなら弾き語りとかならできるんじゃないかって言った。
やりたくなかった。
僕は一人だけ出て恥をかく自信なんてなかった。
演奏会の枠を僕なんかに割いてもらう自信もない、もっと他のバンドにやらせればいいじゃないかって。
ああ、バンドなら下手でも同レベルのメンバーで組んでるなら下手さの責任は等分だけどさ。
一人なら責任は一人で背負うんだ。
冷たい目と野次だけがやってくることが想像できて。
それがずっと一緒にいる部活のメンバーからまっすぐ来るのが怖すぎて。

でも先生は好意からそれを言ってくれてるってわかるから、遠慮しても断りきれなくて。
それにここで一曲ちゃんとできれば、自分の殻を破って楽しく演奏できる側の人間になれるんじゃないかってそんな淡い期待もあったから。
恥をかきたくないし、1曲くらいはまともに絶対にやりたい。
また数ヶ月全力で向き合おうって、そう決めた。

弾き語りにより向いた、エレアコを使ってみることにした。
そしてもう練習曲とかよりも、自分で曲を作ろうって思った。
それなら何かが掴めるんじゃないかって。
頭の中での苦しい思いが、いつの間にか言葉として綴られていった。
コードを色々、それっぽさなんてわからないから適当に当てはめてみた。
そうしたらいくらかのフレーズだけは、曲っぽくなった。
それを頑張ったら、フレーズだけは弾き語りができるようになった。
もしかしたら、僕でも。そう一度は思った。

みんなは受験勉強とか始めてるなかでも、僕は今まで以上に練習して。
学校の成績を落として。
人生の優先順位とか考えられなくて、馬鹿みたいだと思ったけど。
必死にそれを家族なんかに隠して、それも辛かったけれど。


それでも。それでも僕は。
それなのに。
そこから先は、何もできなくて。
できたバラバラのフレーズだけを楽しく練習してても、その繋ぎは何も書けなかった。
しかも偶然数フレーズつなげられた部分ができても。
そこを通して弾いてみるとやっぱり間違えてしまうし、そこに声まで乗ると自分のダメさが際立ってしまう。
辛い。意味がない。

じゃあやっぱり練習曲の中から何かを選ぶしかないとギリギリで思ってさ。
でもまともに1曲できるようにすらやっぱりならなくて。
日時だけがどんどん経っていって、発表が迫ってきて。
それでも、先生の好意には応えないとって。
そうやって重い足を引きずって、会場へ向かった。
嫌で嫌で仕方がない感情のまま、みんなの前に立った。
――立つしかなかった。


先生は緊張で演奏がボロボロになったんじゃないかと一方的に察して、それでもやりきったことを褒めてくれた。
実際緊張はあったけれど、それだけが下手な演奏の原因じゃないことは明瞭だって、自分の中ではもちろんわかっていた。
もちろん1年の時から自分を見ている、周りの部員の目線はものすごく冷たかった。

――耐えられなかった。
そのまますぐにトイレに行くと言って会場を抜けた。

家にまっすぐ帰って。
真っ先に、ギターを放り込んだ。
家の脇にある古い土蔵の中に。投げ捨てるように。

勉強もせずに、無駄なことばかりやっていたって自分を振り返って。
自己嫌悪の感情を布団に籠もって延々ループしていた。



――想っていたことは。

――――なんにも手に入らなかった。



 ◇



 ――――――――

 雨の中での小川沿いの路
 桜花びら流れて
 花の黄色を塗りつぶすように
 水面覆い塞ぐ

 しぶきが涙の滴のようで
 なのに桃色がぺたり吸いついていく
 塗りつぶすなよ気持ちを僕は僕なのに
 張り付いた色なんて消し去りたいのに

 I can't cry so 塞いだ気持ち
 想い叫ぶのもできなんてしない
 何があっても埋もれた気持ち
 心泣いてても涙が出ない
 黄色のハートが僕にも誰にも見えなくて
 いっそひどく踏みつけて僕は泣けるかも

 ――――――――



 ◇



ギターの練習で、学校の成績は簡単には取り戻せないくらい落ちていた。
それでも一応進学率は高い部類の高校だったので、僕も今後はITの時代だとか適当な理由で情報技術系の専門学校へ進学した。

そうしてその中で、ネットを使ったライブ配信とかの世界に触れたんだった。
プロでもない人たちが自分のできることをやって、視聴者を楽しまそうと一人ひとり頑張っている。
僕だって――やっぱり誰かの前に立って主役として目立ちたいってそんな思いは捨てきれなくて。
そして配信者になることを決めたんだった。
でも自分に何かできることはないかと思っても、やっぱり何もなくて。
もう日常の配信とかを何でもするしかないんじゃないかって思ったりもした。
そうしたら、自分の日常にギターの練習があったころを思い出して。
一度投げ捨てたギターを取り出してきて練習の配信でもしてみようって、ふと思ったんだ。


ライブ配信だと部活と空気が全然違う。
楽器を弾くのは、その場では自分だけだから。
俺のほうがうまいとか威張ったり貶したりするやつもいるけど、見てられないという感じで指摘してくれる人も多くてさ。
本当に助かった。暖かかった。

だめな練習法を本当にやってたよな。
目標設定がなかったり曖昧過ぎたり、逆に短絡的すぎたり。
自分の演奏を自分の耳で聴き直して、どこが悪いか見るということをしてなかったり。
ギターのメンテナンスもできてなくて、音の歪みとかは自分が下手だからと思い込んだり。
速度を落としてフレーズを練習すれば良いところを、逆に集中力が高まって速度を早くしていて一生できるようにならないとかさ。
できないフレーズをとことん何時間も何日も練習しても結局できなくてもさ、
似たようなフレーズを色々練習してなんとかなりそうなものをできるようにしてそこから広げてけばよかったのにさ。

そもそも前提がおかしかったよな。
ギターの持ち方の時点で、手の力の入れ方がおかしくてさ。
演奏に向いてない風になっちゃってたよな。
間違ったペンの持ち方をしてそれで字が上手くなっても、正しい持ち方をしてる上手くなってる人の域には永遠に行けないのと同じことだ。

でも僕はそういうことにも全然気が付けなかった。
能動的に自分で自分を改善する能力が低くてさ。
それでいて積極的に他人を頼る能力も低くてさ。
孤独を抜けて辛くなくなりたいのに、その手段がギターでそれが孤独が原因で上手くならないから辛い。
完全な負の連鎖に陥っていたよな。

中学の時は目立ちたくて色々ふざけたりして、失敗したりして、それでも話せる友人はいなくはなかったからまあ良かった。
でも高校ではそんな相手すらもいなくて、ギターでどうにかするしかないって思ってそれが出来ないのは本当に地獄だった。
そういうことを思い出しながら一つの曲を作った。


あの最初に曲を作ろうとした時に、思いついたけど完成しなかった断片はさ。
辛い思い出でも、とても大事な自分から出てきたフレーズでさ。
色々な自作曲に今でも組み込まれて生きているんだ。



 ◇



もう今の時代はさ、無名で楽器練習の配信とか始めても誰も来てくれなかったりするだろう。
ちょっと来ても、上達が遅すぎて見限られたりするだろう。
本当にいい時代の巡りあわせに、ぴったりとはまれたものだと思う。
本当に運が良かったものだって、そう思う。

でも一方では、そうならなかった場合の運命のことを想わずにはいられない。
一生辛さを抱えて孤独なままで生きていた未来になっていた可能性は、きっと結構ある。
もしもライブ配信を始めてなかったら。
もしもボクに楽器の才能がマイナスレベルで完全に存在していなかったら。

この獣人アバターの彼女だって、こうも今孤独にふさぎ込んでいるなら。
そういう辛さには少し昔のボクの思いを取り出して、言葉にすれば、音楽にすれば。
何か届いてくれればって。
そう思っている。


 ――――――――

 やっぱりもう疲れた誰もいない
 僕の苦しみをわかる誰かはいない
 優しさで泣かせてくれる誰かはいない
 それでもそれでも僕は

 I am the C🌸rysosplenium
 ずっと雪の下にいればよかった
 もう嫌だよ消えたい気持ち
 雪と共に溶けてしまいたかった

 もうだめなんだ僕はさ心も朽ち果て
 それでも僕は I want

 I want to cry

 ――――――――



 ◇


 ーーーーーーーー


 ◇



ベッドのシーツで顔を隠していた。
こんな顔見せたくない。見られるわけにはいかない。

私は――ななしと出会う前。
世界に苦しんでいて、それで孤独で。
男たちから泣き顔がかわいいと言われて、そう言われるのが嫌で。
泣くのが嫌になって。

そうしてるうちに、一人でいるときも。
苦しいのに辛いのに、泣くことがなくなっていた。
強がりなのか、慣れなのか、涙枯れてしまっていた。

あのときの孤独。辛さ。
それ自体にも慣れてしまった時の気持ち。
心に湧き上がって蘇ってくる。
そして、今の孤独とも。
重なるようで。


ずるい。
君は一人じゃないとか、言葉面だけ並べたような歌詞じゃなくて。
僕も一人だったって言ってきて。
苦しみを抱えてても一人だったって言ってきて。
自分の苦しい思いだけを孤独に勝手に歌っていて。
そして自分の気持ちは、自分のものだって。
そんなのもう……もう……。

ひどいよ。共感させないでよ。
強がりで見栄張りな私の辛さや悲しみを受け止めてくれるのは彼だけだったし、それだけでいいってずっと思ってたのに。
私だってずっと一人で、ななしだって孤独な時期があって。
それなら耐えきれない孤独を味わった人なんて世界中で見ればいっぱいいるなんて、それくらいは想像できるけど。

こんなところで何やってるのよ。
貴方も私も。
私とななしは、心近づけてくのにもっと時間がかかったのに。
いきなり共感させて近づいてこないでよ。
嫌だ。嫌いだ。自分も。こいつも。
ぐしゃぐしゃになった心を、もっとぐしゃぐしゃにしないでよ……。



「ありがとうございました」

ショウマはギターを降ろして、私に返すように近くに置いたようだ。
そう、別にギターそのものは苦手でもギターを使った曲自体は嫌いじゃなかった。


でも私は無反応を貫く。
相手は自分の技能を活かして歌を歌った、それだけだ。
人柄なんて、まだまだ全然わからない。

辛さに共感していることに触れられたくない。
だから、今度はこっちから言葉を投げた。

「狐なのに人間っぽいのね。
 そんなに感情の強い歌を歌うなんて」

「ええ。今まで人間のこと、ずっと考えてましたから。
 人間として生きて、人間のリスナーの方々と向き合って」

「そう、それが出来るような人生だったのね。
 良かったじゃない」

私なんて――と続けようとしたけど、言葉にはならない。
でも相手は察したのか言葉を返してくる。

「貴方だって完全なウサギじゃなくて人間に少し寄ってるアバターでしょう。
 人間でいたさがあるんじゃないでしょうか。
 まだまだ、これからかもしれないじゃないですか。
 この曲に載せた感情だって、ボクの過去の感情の一部ですから。
 それなら貴方だっていつかは……そう思います。
 だから、この歌が少しでも心に届いたならこちらとしても幸いだと思います」

私の辛さを読んでいるんだろうか。
私からの感想について喜びや嬉しさを感じているのに、上手く押し殺しているよう。
勝手にしてればいいのに。

「そんなに歌で相手の気持ちを沸かせたいなら、もっとすごい喜んでくれる明るい人でも探せばいいでしょ。
 明るい気分になったことなんて全然ない。
 きっと生きてる価値なんかもない。
 そんな私なんかほっとけばいいのに」

「そう言ってしまえばそうですが、それだけではないってボクは思ってますよ。
 ボクのリスナーにも、生きる価値が無い、生きてて良いことが無いって悩んでる人もいます。
 そんな人が死んでいいとも、ただ放っておいて良いともボクは思ってません」

励まして何になるの?
言葉だけなら、何でも言えるくせに。
貴方は、みんなを助けたいって本気で思えるの?
どうせそうじゃないんでしょ。
少なくとも金銭欲とか自己顕示欲が入ってるんでしょ。
ななしとは違うんでしょ。
それなら何で、私を優しくするべき対象だって決めつけてんの。
やめてよ、助けようとしないでよ……。

「私に助ける価値があるって、勝手に決めてるのも貴方じゃない……。
 別にそうじゃないかもしれないのに、なんでよ。
 ほら例えば――弱い初心者の振りして庇護欲を誘って。
 そうして、貴方のやられそうな瞬間に手をつないでスキルを掠め取りたいだけかもしれないのに」

「わざわざそういう話をしてくれるなんて、優しいんですね。
 それでも、ほっとけないってどうしても思ってしまいましたから」

優しいなんて言わないでよ。
こんなの、卑屈なだけじゃない。
他人からの優しいって言葉を信じたことなんて、一つもない。

「俗っぽい感情とかではなく、それなりにこちらで考えた理由もちゃんとありますしね。
 ――それに貴方が、そういう存在だったとしても、それはそれで良いともボクは思ってるんですよ。
 騙されたって感情移入して怒るリスナーの方もいるかもしれませんが、ボクがやられても能力が残るって面白いですよ。
 その先で能力が活躍してくれれば、配信者冥利じゃないですか。」


――――えっ?
どういうこと?

自分の命すらも捨てることになってもエンタメに生きようとしてるっての?

おかしい。

そんなわけない。

そんなに命を軽く思ってるわけない。
思えるわけない。
そんな風になれるのは、ひなたって奴みたいな危険人物と同類になっちゃうでしょ。
急に、彼に不気味さを感じてくる。

配信者って利己的な奴なんだって思っていた。
もちろん今でも思う。
でももしかしたら、そうじゃない面があるかもしれないって思いかけた。

私が彼を嫌いなのは、職業からの第一印象の嫌悪なのか、まぶしさから感じる自己嫌悪なのか、どっちなのか分からなくなってた。
でも急にもう一つの感情が挟まってくる。

空気が変わったのを察したのか、一度話が途切れたけどショウマが再び口を開く。

「そんなに不思議でしょうか?
 勝ちに行くことは最も大事だとは思いますが、それ以外にも大事なことがいっぱいあるって。
 ボクが神社に縛り付いた神使のキツネから、配信者になっていくうえで学んで知ったことです。
 もちろん、何をしようといつも本気で取り組んでいますけどね」


この場で大事なことは、願いがあるなら優勝狙い。
それ以外ないはずなんじゃないの。
一筋に向かうべきでしょ。
私を助けようとする時点で、それが破綻してる。
おかしい。
恐る恐る、質問する。


「本気で思うの?
 目立って活躍することが、そんなに大事っていうの?
 優勝に向けて一筋で進むより?
 そんなに命は、願いは、軽いの?」

「いえ、そっちを軽視する意味ではないんです。
 でも、ボクみたいなスタイルの奴がいてもいいじゃないですか。
 まだ出来たばかりのゲームですし、行動指針とかもかっちりしてませんし。
 せっかくの体験型なんだから、出来ることを試したくなってしまうんです。
 ――それが貴方みたいな不幸な経過を生むという点は残念とは思っていますが」


ちょっと待って。
人格的に不気味というより。
何かがずれていない?
優しい雰囲気を崩さないショウマ。


「貴方は――優勝したら。一体何を望むの?」
「願いは、まだ考えてないんですよ。
 ゲームを進めていくうちに、ゆっくり考えていければいいと思ってます。
 優勝の見込みがあるか、狙える位置にいるかというのもまだわからない段階ですし。
 そして、どこまで運営に無理が言えるのかも分からないですしね。
 それよりも大事なことは、生き抜いて勝ち抜いて実績を残すことだと思っています」


願いはまだ考えていないって。
何でも願いが叶うならって、人生を努力して生きてるような人間は思うものじゃないの。
あるいは、私みたいに何かを失ってしまった人間も。
それが無いのに優勝を目指すなんて、おかしい。
彼は嘘を言うような人間なんだろうか。
それならもっと私を安心させて納得させるような、優しい嘘を言うと思う。


「私は――願いは。大枠では思いついてる。
 貴方みたいな配信者には、簡単に伝えることは出来ないけれど。
 でも、私みたいなのは、優勝なんて出来ない」

「いえ、まだ生き残っているんだから、可能性はゼロじゃないんです。
 そう思ってしまう気持ちも、とても理解できます。
 確かに、このゲームの参加者は本当に多種多様なんだと最初に感じました。
 きっと初心者も、ボクが想像もつかないもっと凄い上級者もまぜこぜで。
 それでもボクだって、こういうバトロワゲームの配信初期で最後の数人まで残ったことはある。
 あとちょっとだけプレイヤーとしての強さがあって、初心者を抜け出せてれば勝ててたのにって思ったこともある」


核心に近づいてきたような。
頭の良くない私でも、気付けるような。


「本当に――私を助けたいの?
 そういう意味で?」

「ええ。このゲームは、チュートリアルやCPU戦なんかもまだない。
 なのに初心者が楽しめるようになるには、どうしても習熟が必要なタイプのゲームです。
 その壁を努力で乗り越えられるか、乗り越えても自分に合っていると感じるか。
 その保証はボクにはできませんけれど。
 それでも、試しにやってみませんか?
 一度、あとちょっとで惜しいと思えるところまで行ければ、きっと世界は変わります。
 もしも優勝なんてできたら、楽しく遊べる未来は絶対に来てくれます」



そうだ。


彼、確実に。


この世界をただのそういう技術と設定のゲームだと、思っているんだ。

私だってVRCを現実みたいに感じる感覚は、たまにあったけれど。
でも彼は本来のVRCをほとんどど経由せずに、ここに来たんだろうから。

だから、この世界が明かに現実寄りなところがあるってことを。
私みたいに本当の殺し合いだと信じる証拠として結び付ける発想が、ないんだ。

違和感はずっとあったけど。
そう考えると全てがぴったりはまる。


なんで。
そんなことに気が付かないんだ。
馬鹿みたい。
私も、彼も。



 ◇


 ーーーーーーーー

 ーーーーーーーー

 ーーーーーーーー


 ◇



なのに、出来なかった。



私はショウマに。

この世界がただのゲームじゃないって。

それだけの説明が、出来なかった。


すごい、力も気も抜けてしまった。
悲しさも辛さも一時的に薄れてしまうくらい。
心を押しつぶし凍てつかすようだった絶望が、今は心の隅っこに押し込められるようだった。

でも、そうなっている自分は嫌だ。嫌いだ。
そういう風に、感情と想いが直結してしまう自分が嫌いだ。
感状的じゃなく、表面的にななしのことを考えてしまってるようで。
死にたいってことを考えてしまってるようで。
自分のせいでななしは死んでしまったのに。
許されない。自分を許したくない……。

考えた。
ゲームだと思ってる彼なら。
私のことを死なせてって言えば。
やっぱりこのゲームに馴染めないみたいだって言えば。
本気で深刻に頼めば、きっと聞き入れてもくれる。
恐怖を感じない方法で死なせてくれる。

でもそんなことできない、できるわけないじゃない。
もしその後で、彼がこれはただのゲームじゃないって気が付いたら。
すごい深い傷を負わせてしまうのだろう。
自分がその原因になるのが嫌だ。記憶に残るのが嫌だ。

でも、今後相手の事情を無視してでも、そうしたくなるかもしれないから。
そんなちっぽけな理由が、それを先延ばしにした。
ななしとの思い出に浸ってるうちに、我慢できないくらいもっと辛くならない保証はない。


解放された名簿を確認して、ショウマが知り合いについて教えてくれた。
名簿の中でつばきという子が、同じ事務所のVTtuberということらしい。
なんというか、すごい狸狸した性格らしい。
ショウマと同じで楽器が使えて、小鼓を演奏できるらしい。合奏したこともあるらしい。
昔は腹太鼓を良く披露していた……けれど一度お腹の調子を悪くしてからはあまりやらなくなったという。

無駄にハイテンションで、リアクション芸とかガンガンするタイプの奴なんだろうか。
疲れそうだし、浅ましく感じてしまいそうだし、会いたくはないと思った。


ショウマはFPSの初心者は、まず何よりもゲームのシステムに慣れて慌てず動けるようになること。
あとはエイムの感覚を掴むことが大事だという。
余裕があれば野戦や市街戦、屋内戦の動きについても触りくらいは教えてくれるらしい。

ショウマも病院に来るまで歩きながら、スキルを色々試しに使っていたらしい。
あの白い炎の火事もショウマがやりすぎたことが原因らしくて、私が焼け出されたことを話すと謝ってきた。
言葉なんてどうにでもなるけれど、彼が少なくとも表面上はいい人でいようとしているということは伝わる。
私のスキルが要因とか、どうとかは別にして。


私は病院の地下に来て、目標にペンで印を作って持っていた銃で射撃の練習を始めだした。
外に音が漏れる心配は少ない。
武器やスキルの練習が、ある程度は出来る。
最も、私のスキルは攻撃に使えるものではないのだけれど。

もしも誰かが病院に来たら、ショウマが対応するという。
たぶん次こそは戦ったりするつもりなんだろう。
無理に出てこなくても監視室のカメラ映像からその様子は眺めてていいし、勉強に使ってほしいと言われた。

人を傷つける勇気や覚悟なんてないし、いらないって思ってた。
いくら自分が傷つけられたからって、手を汚す加害者にはなりたくないって思ってた。
でもさっきみたいな脅しのつもりなのに、慌てて反射的に撃って傷つけてしまうことがあるかもしれない。
それを防ぐためにも、練習はきっと必要なんだ。
必要な時にすぐ撃てるように、ある程度は狙いをつけられるように。

慣れてきて、無心で少しずつ銃の向きや持ち方を調整していく。
思考に余裕ができて。

いつかの二人が思い出されていく。
さっきのショウマとの会話で指摘されたこととも被る、あの時の。


 ――――――――

『なんで?
 こんなにも人間は苦手、嫌い、そのはずなのに。
 人間は醜いし、私も汚れて、他人と関わりたくないと思ったのに。
 そして、離れていかれたり裏切られたりするのが怖いのに。
 それでも繋がりを欲しくなって。
 どうして……なんでなの?』


『本質的にさ、人間って繋がりを求めてると思ったことがあるんだ。
 ウサギは寂しいと死んでしまうという話があるけど、本当はそうでもないらしい。
 ……実際に一人で寂しさに耐えられなくなる生き物は、人間だよ。
 ウサギといういかにもか弱そうで、群れが好きそうな動物に自分たちを重ねているんだ』

『だから、君が人とのつながりを求めたがるのも、まだまだ君が人間らしいからなんじゃないかなと俺は思うよ。
 現実世界で人間との付き合いが嫌になっちゃっても、それでも人間性を捨てては生きられない。
 ――誰かと繋がって生きていたい、そんな人たちもVRCには結構やってくる。
 俺だってそういう一面はないわけじゃなかったしさ』


『でも……やっぱり騙されるのも嫌。
 裏切られるのも怖い』


『VRCは――そうだな、平和とは言いきれない。
 現実の悪事に巻き込もうとする悪い奴がいないわけじゃない。
 だからそういう奴からは俺が守る。誘った責任もあるしな』

『けどさ、やっぱりこの世界は自由だから。
 もっと自分の足で歩いて色々探したり、自分の手で色々触れたりして楽しんだり。
 色々な人と話したりするのも本当に楽しいよ。
 そうして得た面白い経験をお互い話したりさ、そういうふうにできたらいいよな』


『まだ……わからない、知らないことや人に触れるのって。
 楽しいって少し思えてるかも。でも、そう思うのと同じくらい怖い。
 楽しんでる人たちの中に、こんな私が入っていくべきじゃないかも、そういうふうにも思う。
 でもいつか……少しずつ……そうなれたらいいな』

 ――――――――


そうだ。
私とななしは違うけれど、そういう弱気な気持ちが解れたらって。
人と少しずつでも自分から関われるようになれたらって。
少しでも解りたい――いつかきっとって。

でも彼は、ショウマは、少なくとも友人としてすら私と手を取り合える存在ではないって。
そうも思っている。
不特定の多人数と向き合って話すべき配信者は、どれだけ優しくても。
どれだけ嘘を取り払うことができても。
私を助けることなんてできないって、そう感じてしまう。
キャラも作っている。視聴者を惹きつけることを磨いてきている。
それに私が惹かれるって事があるなら、私が私でなくなる。
それは嫌だと、思う。

完全に素の感情で話してきたななしとは、もう全然違っている。
私が必要とすれば、VRCの友人も巻き込んだりして全力で向き合ってくれた彼とは違う。
ななしの代わりになる存在なんていない。いてはいけない。

そう思っていると、彼とどう関わればいいかも全然わからない。
どう話せばいいかなんて、言葉が何も出てこない。
だから相手の言うように、とりあえず一緒に病院で留まらせてもらって。
受け身で相手の提案を受け入れているようで、優しさを利用するだけして。


私は――。

そうだ。
ショウマへの、VTuberへの嫌悪は、そのまま私への自己嫌悪でもあって。
現実では、風俗嬢として虚構の恋愛関係を演じて。
それでいてVRCという虚構の世界でも、本心を中途半端に出したり隠したりして。
馬鹿みたい、いや馬鹿なんだ。
そうして、こんなことになってしまって。


私は――。

どうしたらいいのかまだ何もわからない。
こんなにも辛いだけなのに。
どうすれば何かつかめるの。
どうすれば助かれるの。

辛さを言葉で話したいのに。
もうできる人はこの世にはいない。

自分で答えを出すしかない。
でもそんなことできるはずがない。
結局ショウマという相手の優しさに甘えているしかなくて。


教えてよ。誰か。
そう、ショウマ、貴方は。
私のスキルが無ければ、どういう風に他人と関わるの。
これがただのゲームじゃなくて殺し合いだって、気が付いたら。誰かに教えられたら。
それでも私を助けようとしてくれる?

誰かを殺してしまったら。
後悔して。
このゲームの犠牲になった皆を生き返らたいって。
そういう願いを抱いて優勝を目指したりしてくれる?
ななしを、生き返らせようとしてくれる?

なのに、彼には傷ついてほしくないとも思ってしまってる。
自分の関わった相手って死んでほしくないって、そう思ってはいる。
違う、自分が傷つける原因になりたくないだけ。
自分が能動的に殺したくないだけ。
覚悟も何も出来やしない。
どうしたら決意が抱けるの。

いっそ彼みたいに勘違いしていられたらよかったのに。
全部が架空の出来事だったら。
でもずっとVRCをやってきた私たちだからこその、現実感があって。
キツネなんだから私を幻術で化かしてくれたりしたらいいのに。
恐怖感もないまま、死ねたらいいのに。

銃の練習してるのだって――色々な理由は建前で。
恐怖感はあるのにやめられない。
まだ残っているんだ。
最後に自分が生き残って願いを叶えるには、少なくとも1人は誰かを殺さなければならないから。
そのときにどうにかできるようになりたいって、そんな醜い感情も。


本当にひどい人間なんだ私は。
それでも。
そうするしかない。
何で私は、こんなに弱いの……。



 ◇



しみうさのスキルは。
人と関わらず離れていくことのできるスキルに一見見えている。
しかしその実際は、攻撃されないことに主眼を置いた内容になっている。
その結果が他人との対話を生み出す。

そう。
人間なんて醜くて嫌いで。
それでも。
本質的には優しい他人との関わりを求め続けていた。

人間関係の良い部分だけを求めている精神が、色濃く反映されていた。
そうして二人はウサギを狩るキツネとしてではなく、人間として言葉を交わしていく。



【B-2・廃精神病院/一日目/黎明】
【しみうさ】
[状態]:精神的疲労(大)、絶望感・強い後悔・自己嫌悪・希死願望(落ち着いている)
[装備]:リボルバー銃
[道具]:基本支給品、エナジードリンク(残り4本)、アコースティックギター
[思考・状況]
1:私はどうしたらいいの……。どうすれば助かれるの……。
2:とりあえず、ショウマのいうことを聞いておく。自分で考えなくていいから。
3:自分のせいだった……ななしが死んでいったのは。
4:ショウマの勘違いに気が付いたけれど、どうしても指摘ができない。
5:加虐性の強い相手には絶対に会いたくない。死ぬなら一思いに殺されたい。

【すぎの葉ショウマ】
[状態]:健康
[装備]:なし
[道具]:基本支給品、尺八、リンゴ、ランダム支給品0~1
[思考・状況]基本方針:バトルロイヤルで目立つことで名を挙げる。
1:しみうさが最低限このゲームで動けるようになるまで、共に行動しよう。
2:しみうさが武器の動きに慣れるまでは、とりあえず病院で待機。
3:目指すは一応優勝。優勝できた時の願いも少しずつ考えておこうかな。
4:リスナーの人たちを意識した行動をしながらも、他のプレイヤーにも敬意をもって接しよう。それがボクだ。
5:初心者っぽい人が他にもいたら、しみうさと同じように声をかけてもいいかも。
[備考]
※バトルロイヤルは企業のイベントであり、現実での死者は出ないと考えています。
※しみうさのスキルの影響を受けています。今のところしみうさに対する害意を抱くことは不可能です。


施設紹介
  • 廃精神病院
洋服の中規模病院が廃墟化した雰囲気の建物。
診察室、手術室、病室、事務室、応接室、講堂、広間、地下、監視室など20室ほどある。
不安定だが電気は通っており、基本的にはどの部屋も鍵はかけられておらず入ることができる。

所持品紹介
  • エナジードリンク
銘柄はB〇RK。5本セット。
青(オリジナル)、水色(ZERO)、ピンク(マンゴスチンフレーバー)、黒(カフェイン高配合)、緑(マンゴーフレーバー)。
飲むと通常のエナジードリンクの効能に加え、暫くハイジャンプができるようになる。2本飲むと二段ジャンプもできる。
ショッピングカートなどの乗り物に与えるとスピードアップする。

  • リボルバー銃
某人狼系ワールドで見かけたような銃。弾数に制限はないが、そこまで連射も効かない。
バトロワ用に調整されているので、撃たれても即死するようなことはない。
胴体、下半身に命中するとダメージが大きく、それ以外は小さい。
(よくあるアバターの当たり判定の疑似的再現)

  • アコースティックギター
VR世界用のアコギ。音量調整バーが付いてるので、実質エレアコのようなもの。
運指のミスなんかをある程度フォローしてくれる機能が付いている。
なので手袋着用時や獣人アバターの毛や肉球のある手でも、やってみれば意外と演奏は可能。
VR用なので自然に音程が変化することはなく、チューニングの必要も無い。
スイッチによる隠し機能で、エレキギター風の音を出すことも可能。
立ち弾き用のベルトは付いていないが、自然とポジションが身体に吸いつくように安定するようになっている。
ピックはボディに付いたホルダーに収められている。

  • リンゴ
リアリティが低い、のっぺりとしたモデリングと色合いの大き目なリンゴ。
味もリンゴだが、味は癖が無く深みもない。
食料として空腹が回復する他に、体力も2割ほど回復できる。
適切に調理すると回復効果も増す。
信頼できる相手と切り分けて食べても良し。




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042:その恋は、麻薬 投下順
042:その恋は、麻薬 時系列順

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深愛の四重奏 しみうさ
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