◆
――。
――。
――渇く。
◆
与田さんと花子さんが二人で話すのを遠目で見ながら、僕は思い悩む。
花子さんに付くか乃木平さんに付くか。
一方通行の選択問題。
シミュレーションのように記録&再開なんてことはできない。
時間がないのは分かっているけれど、だからこそ安易に結論を出すのは憚られるんだよね。
僕の目的は生存だ。この目的は動かさない。
山折村が滅びようが、特殊部隊が全滅しようがどうだっていいし、なんならウイルスが収束するかもどうでもいい。
生きて明後日を迎えられるかどうかが一番の関心事だ。
花子さんに付いて切り捨てられるリスクを減らし、神楽さんをはじめとした村人の味方を増やすか。
それとも乃木平さんに付いて、特殊部隊という殺しのプロ三人との敵対を避け、かつ八柳藤次郎さんや確実に存在する人食いグマのような脅威から身を守るか。
やはりどっちに付くのも捨てがたいね。心が二つある。
第三として、どっちつかずの選択肢――たとえば特殊部隊に付くフリをして、田中さんたちに情報を流すスパイのような立ち位置も考えてみたけれど……。
真理ちゃんなら口先八丁で言い包めることは可能だ。
特殊部隊のくせに、死にたくないという理由で命乞いをする、俗っぽい女。
あの子の性質は僕らの延長線。十分に溜まった信頼貯金でどうにでもなる。
逆に乃木平さんは誤魔化せない。
ただし、あの人はかなり理性的だ。おそらく一度だけなら弁明を聞いてくれる余地はある。
僕がスヴィア先生と共に田中さんに接触した本当の意図――スヴィア先生が、日野だけでも特殊部隊から遠ざけようとしたその意図。
おそらく乃木平さんはそれらを見通したうえで、僕とスヴィア先生に裁量を与える柔軟性を持った人間だ。
気の利いた言い訳ができるのなら、生き残る目はある。
問題は黒木さんだ。彼女はダメだ。
乃木平さんが理性的に考えて生かすことを選ぶ人間なら、彼女は理性的に考えて殺すことを選ぶ人間だ。
それが、二人の青と赤の差だと考えてる。
彼女はおそらく言葉をかわす選択肢を持たない。疑わしきは殺せ、という過激フレーズを掲げていそうだ。
疑いを持った時点で彼女は銃を抜く。裏切りを疑われた時点で彼女は敵対しかねない。
真っ赤に燃え滾った村人以上に、限りなく透明に近い彼女こそが最も恐ろしい。
ダメだ、どっちつかずで立ち回ることは危険すぎる。そして、特殊部隊にスパイ行為を仕掛ける逆パターンはもっとダメだ。
特殊部隊に付くメリットが消え失せ、花子さんに付くデメリットだけが残る最悪の選択だ。
……腹を決めるしかない。
やはりどちらかを選ぶしかないね。
ちらりと通信室の外を見る。
不気味なほどに静かだ。
けれど、扉にはまった曇りガラスの向こうでは、次の作戦が始まっているのかな。
眼を閉じ、大きく息を吸い込む。
――決めた。
そのとき、轟音がフロアに響き渡った。
◆
――俺がすべきは何だ?
――正義を執行するのだ。
――そうあらねばならない。
◆
ドカン、と腹に響くような重低音が響き渡ります。
まるで砲弾が陣地に落ちたかのような凄まじい音量の嵐。
それを聞き取った時点で、私は全思考を対処に集中しました。
明らかに不測の事態ですが、戦場に絶対などない。
SSOG以前に自衛隊として訓練はおこなっています。
作戦行動直前、作戦そのものが看破され敵襲を受けた。そんなシチュエーションでの訓練を。
今の音の深刻さは、たとえば野営地に落ちてきた砲弾、雄たけびと共に突撃してくる敵の一個大隊、あるいは見張りによる『敵襲!』という報告に等しいでしょう。
側面から敵襲を受けたときに、いかに冷静さを保ったまま判断をくだすことができるか。
指揮官としての器が問われる事態だと、真田上官や伊庭さんより伺いました。
我々が今ここで優先すべきは何でしょうか。
女王感染者の殺害は大前提。
その前段階のステップとして、ハヤブサⅢの抹殺は必達です。
先の轟音、危険度は未知数、評価不能。
本来ならば、ただちに確認をおこなうところなのですが……。
危惧すべきは、そちらに気を取られ、特殊部隊である私の姿をハヤブサⅢに目撃されることでしょう。
ハヤブサⅢは私より遥かに経験豊富で老獪だ。
私との交戦でも、黒木さんとの交戦でも、先手を許した僅かな時間で、我々に最大限に有効な罠を用意していました。
ハヤブサⅢの視線に捕らえられることは、作戦失敗の片道切符。
危険度は成田さんの銃から放たれるレーザーポインタと同等とみなすべきでしょう。
小田巻さんの偵察を受けて、二階の見取り図と各部屋の状態は頭に叩き込み済みです。
通信室の位置はエレベータを出て右折、その正面突き当り。
通信室入り口からの直線上に我々は位置しており、ヘタをすれば部屋の内部からも我々の姿が捕捉されかねません。
そしてエレベータ周辺の部屋は施錠されていない。
この場をレーザー光の飛び交う戦場と見立て、行動は迅速に、しかし物音は最小限に。
戦場ならば塹壕の裏、ではこの場において身を隠す場所は?
――エレベータ斜め向かいの神経工学研究室。
私はドアレバーを掴み、転げ込むように室内に飛び込みました。
ただ、冷静たるように努めましたが、やはり実戦経験の絶対的な不足はあったと認めざるを得ません。
配属されたばかりの新人、小田巻さんはこのようなシミュレーションは一切おこなっていない。
「げぇっ!!? 大田原さぁんッ!!!???」
そちらへの気配りが遅れたのは弁明のしようもありませんでした。
気持ちは痛いほど分かりますが、SSOGの隊員が外聞もなく隊員の名前を大声で叫ぶ醜態に、私は頭を抱えるしかありませんでした。
◆
――正義とはなんだ?
――女王の殺害だ。
――特定外来種の駆除だ。
――正常感染者の処理だ。
――声が聞こえる。
――小田巻真理。
――やつも例外ではない。
――処理しなければならない。
◆
「わひいいぃぃッ!」
ズドォォン!!!! って何ですか!? ズドォォン!!!! って!??
キーチが暴れでもしないとあんな音出ませんって!!
わああ、こんなことなら無理やりにでも氷月さんと一緒に下に残ってればよかった……。
音も悲鳴もめちゃくちゃ近いですよね?
逃げますか、逃げましょう、逃げるべきだ。
「うひぃ、は、花子しゃぁん、早く、早く退散しましょうよ!
もう交渉は終わったじゃないですかぁ?!」
僕の撤退準備は万全です。抜かりありません。
別に荷物もないですし。
だから花子さんがプロの顔になるの見たくなかったなあ。
足音を消して、慎重に通信室の入り口に向かってる。
ヤバいんです? そんなに今の状況ヤバいんです?
「そうね、早く退散したいのはやまやまなのだけれど。
成果を出すために、しばらく研究所には残らないといけないのよね」
「あの、それじゃあ研究はスヴィア博士にお任せして、僕は退散しようかと……」
ほら、天才美少女研究員の足を引っ張ってもよくないですし、染木博士からも僕じゃ無理ってお墨付きをもらいましたし。
僕の方を振り返って、花子さんはにこりと笑う。
あっ、この流れ、見覚えあるなあ。
いやあ、これまで何度この満面の笑顔を見ただろう。
見なかったことにしたいこの笑顔。
絶対、残れって言われるやつですよ!
花子さんの笑顔は養殖率100%の産地偽装笑顔じゃないですかー!
不安で危険な外国産じゃないですかー!
もういい加減学習しました、しましたとも!
「あら、与田センセ? センセもスヴィア博士と一緒に残るのよ?」
ほらきた~! なんなんですかこの様式美はぁ!?
うぅ、VHが起こってからこんなのばっかり。
花子さんの傍が一番安全なのはそうなんですけど、だから何が起きても安心だーっとばかりにトラブルが舞い込まなくてもいいじゃないですか。
「染木博士はこっちの事情には明るくないでしょう?
むしろ、センセほど助手として相応しい人間はいないんじゃないかしら?」
えっ、それどっちの意味で? 異能? 異能ですよね?
また検体になれって意味じゃないよね?
そりゃ僕の異能なら多少はウイルスの解析にも使えるかもとは思ったりしましたけど……そういう意味ですよね!?
すごく問い詰めたい。問い詰めたいけど、花子さんは今壁を背にして慎重に扉を開こうとしてる。
ここで声をかける度胸は僕にはないなあ。
いや、責められる謂れはありませんよね?
机に向かって唸ってる人に声かけられなくて、周りをうろうろしちゃう経験、誰にでもありますよね!?
というか碓氷先生からもなんか言ってあげてくださいよー!
知ってるんですよ、碓氷先生の異能が信用を視る異能だってこと!
機材のセッティングのときに花子さんにこっそり伝えたのは僕なんですから!
ほら、碓氷先生、こっち見てください?
あなたの目からは僕はこんなに青々と光ってるでしょ!?
『げぇっ!!? 大田原さぁんッ!!!???』
「ひゃひいぃぃぃっ!!」
もういやだあ、女の人のかん高い絶叫とか背筋がシュピィンと吊っちゃいますよお!
絶対ロクでもないこと起こってます!
ホラーで化け物に殺される人の悲鳴ですって。
僕ホラーに詳しくないですけど。
いや、どちらかというとバラエティ女優みたいな絶叫だったかな……。
って、なんで碓氷先生は部屋の奥に隠れてるんです?
花子さん、なんで額に皺寄せて物々しい雰囲気出してるんです?
ロクでもないこと起こる前に早く脱出しましょうよ~!
◆
――処理。
――処理。
――処理。
――処理。
――処理。
――処理。
◆
見誤ったわね。
碓氷センセの同行者がおキレイな身分じゃないことは承知の上だったのだけれど、まさかSSOGだったとはね。
スヴィア・リーデンベルグが手を組んだという事実も目眩しに働いたけれど……。
いや、彼女も満身創痍だったからこそ、藁にも縋る思いで手を結んだというべきかしら。
ま、誰と組むにしろ、選択自体は責められるものではないわ。
ほかならぬ私自身がSSOGと手を組んだことはあるし、味方につけた時の心強さも身に染みて分かってる。
最後に出し抜く算段さえあれば、その手を取らない手はないでしょう。
ただねえ、今のこの状況で、SSOGが現れるのはいただけないのよねえ。
「素敵な言い訳は用意してくださっているのかしら? 碓氷センセ?」
「……小田巻さんが観光客というのは本当ですよ。
スタンプラリーも見せてもらいましたし、昨晩たらふくお酒を飲んでいたのは疑いありません」
そう釈明してはいるけど、碓氷先生は絶叫を聞いた時点で、大きな機材の後ろ――既に射線を切る位置に移動している。
なるほど、自分がどう思われるかはよく分かっているようね。
注目すべきは、大田原源一郎の名が出るより先に動き出していたことでしょう。
不測の事態に慣れているのか、こういう修羅場の経験があるのか。
――それとも、何かの作戦なのか。
すらすらと紡がれる言葉は、即興のアドリブ設定だとは思えない。
実際、九割がたは真実なのでしょう。
SSOGがこの村に人を派遣していた。それ自体は突拍子もない話じゃないわ。
テクノクラートの事後処理にはSSOGも参画したのだから、この村にたどり着くことには一切の不思議はない。
テロリストたちの黒幕を追っていた潜入捜査員が、ウイルス騒ぎに巻き込まれてターゲットになったというところかしら?
たとえば、お酒の席を設けてターゲットの情報を引き出すのは実にスタンダードで手堅い手口。
新米は気を張って怪しい観光客になりがちだけど、観光客としての実績づくりも余念がない。
小田巻さんとやらは、かなりのベテランじゃないかしら。
だからこそ、さっきの悲鳴には強い違和感がある。
今でも録音による罠だと言われたらそっちに飛びついてしまいそう。
ズブの素人ならばまだしも、仮にもSSOGが?
なんらかの異能か、ブラフすら考慮すべき状況ね。
碓氷先生の言葉を分析しながら、扉に手をかける。
こちらも油断はできないけれど、それでも素人の範疇。
まず優先すべきは外の状況よ。
碓氷先生は左目の視界から外さないまま、通信室の扉をわずかに開き、右目の視界で僅かに開けた扉の先、廊下の向こうを監視する。
壁側には大きな観葉植物。
そして研究員というよりは看護師といった姿のゾンビが一人うろついている。
扉をもう少しだけ開き、廊下の端から中央へと目を走らせる。
突き当たりには『あなたの顔色、青くなってはいませんか?』と書かれた健康促進ポスターが貼り付けられ、緊急コール先の内線が。
その傍の壁に埋め込まれているのは、顔色を確認しろと言わんばかりの大鏡。
そして廊下の真ん中で、アゴの外れたような大口開けて呆けている観光客風の女性。
まるで今、突然ここに連れてこられたような、状況が理解できないと顔に書いてあるぽかーんとした間の抜けた表情。
心ここにあらずといった感じで、エレベータのほうに向かってる。
――?
――???
評価ができない。
彼女が小田巻さん?
仮にそうなら、秘密特殊部隊にしてはあり得ないリスク管理だけど。
それとも別人? 私の深読みしすぎ? あるいは、異能によって招き入れられた身代わり?
理解を超えた事態に、逡巡が生まれてしまったことは否定しないわ。
「作戦行動中止! 一等陸士、ただちに退避せよ! それは罠です!」
その温んだ思考を揺さぶるような檄。
横合いから飛び込んできた、聞き覚えのあるはっきりした号令に、向こうも私も正気を取り戻す。
「一等陸士、退避します!」
いち早く動いたのは推定小田巻さん。
私よりも一呼吸早く、身体が動いていた。
顎の外れた間が抜けた表情を晒した人物と同一とは思えない迅速さ。
あれは反射ね。身体に反応を徹底的に染み込ませている軍人の動きだわ。
私も遅ればせながら扉から離れ、彼女からの視線を切る位置に身を隠した。
理由?
即座に離脱しなかった場合、私のいた場所を銃弾が扉ごとぶち抜いて、なし崩しの混戦が始まっていたでしょう。
得体の知れない者と目が合う感覚、そして前触れもなく撃ち放ってくる血のように真っ赤な銃弾の軌跡。
私の目は確かにそれを視た。
そんな未来を受け入れるつもりはない。
推定小田巻さんは音もなく離脱し、気配すらかき消えた。
けれど廊下を横切ってはいない。
行き先は神経回路解析室、神経工学研究室、遺伝子操作室のいずれかでしょう。
号令をかけたのは昨晩最初に交戦した特殊部隊の男性。
慎重かつ用心深い、そして汚れ仕事を厭うあの隊員。
先の号令は、プロファイリングとも一致する。
全貌は見えないけれど、SSOG間で何かトラブルが起こっているのは確からしい。
巻き込まれるのは御免ね。
向こうが混乱している間に、さっさと退散してしまいましょう。
◆
――ショ理。
――ショリ。
◆
いやいや無理無理マジで無理! 無理無理無理無理カタツムリだってーの!
なんでこのタイミングでターミネーター大田原が派手に現れるのよお~~!?
ほら、私今SSOGの民間協力者やってますからぁ!
乃木平さん、なんかいってあげてください!
上官、ヘルプ! 部下を守れぇ~!!
って、いねええ~~ッ!!
「…………?」
反応がない。
あ~、もしもし大田原さん?
もしもし生きてますか?
あっ、扉が閉まって……外まで飛び出した腕に反応して、また開いた。
呼吸は止まってない。生きてる。
っていうか、マスク外れてる。
マスク外れてる!?
……はぁぁぁ!? マジで?
マジで大田原さんに勝った人いるの?
この人に勝てるなんてどんだけ化けモンなのよ!?
いや、このレベルの化けモンは確かに一人いたけど。
それでも信じられない!
えっ、その人ここに降りてきてないですよね?
エレベーターの上からこっち睨んでたりしないですよね!?
ふらふらとエレベータに引き寄せられる私に、号令が響く。
「作戦行動中止! 一等陸士、ただちに退避せよ! それは罠です!」
SSOGに限らず自衛隊でもそうだけど、号令への反応は絶対だ。
意識するより先に身体が動く。
……まして、大田原さんが目の前にいるとなれば、イヤでも身体は動く。
二十歳過ぎてから三つ子の魂を入魂してくるのが大田原さんだ。
「一等陸士、退避します!」
身体に染み込んだ動きをなぞるように、私は安全な場所に退避をおこなう。
ってか、うわー、これ乃木平さんも黒木さんもめちゃくちゃキレてそう。
奥のポスター、『あなたの顔色、青くなってはいませんか?』って書いてたけどさあ、
私の顔色、青くなってると思います!
誰か心を落ち着かせるハーブとかくれませんか?
あと、今ここで処分はマジで勘弁してください!
そうなったらそうなったで精一杯抵抗させてもらいますけれど!
ここは奥の手使うしかないかなぁ……。
◆
――食リ。
◆
(あのアホ……!!)
口に出して叫ばなかっただけでもあたし自身を褒めてやりたい。
小田巻は任務が終わったら地獄の特別合宿コースだ。
これ、決定事項な。あたしから直々に奥津さんに掛け合ってやるよ。
あん? アイツは今はただの休暇中の民間人? んなもん知ったことかっ!
分かったことは二つ。
小田巻のドアホが大声をあげてあたしらの存在を奴さんに知らせちまったこと。
それと、大田原さんが派手に施設に乗り込んできたってことだ。
大田原さんに文句を付けられるほどエラくはねえが、それでもタイミングを考えてほしかったぜ。
だが、ほかにも言外に得られた情報はある。
(大田原さんが敗けて、しかも異能に適応したってことか……?)
大田原さんはSSOG随一の巨漢だが、あの人に近い体系の男はごまんといる。
SSOGは屈強な男どもの寄せ集め。
乃木平や広川みてえな中肉中背の隊員のほうが少ないくらいだ。
なのに小田巻は断言した。
つまり、今の大田原さんはマスクを着けてない。
けどゾンビでもなさそうだ。
診療所で局地戦が勃発して、誰かが何らかの方法で大田原さんのマスクを外し、何らかの方法でエレベータに突き落とした。
……信じられねえがそう考えるしかない。
『不可能な物を除外して残った物が……たとえどんなに信じられなくても……それが真相なのだよ』
そんな、ドヤ顔でうんちくを語る三籐さんの顔が頭に浮かぶんだが……。
なあ、三籐さんよ?
大田原さんを倒すのも、ついでに人間がエレベーターのドアをこじ開けるのも普通は不可能なんだぞ?
☆彡 ☆彡 ☆彡 ☆彡 ☆彡 ☆彡 ☆彡 ☆彡
「ぶあっくしょい!
……ふむ。誰かがウワサでもしているのかな?」
「体調管理が甘いのでは? Mr.gerbera?」
☆彡 ☆彡 ☆彡 ☆彡 ☆彡 ☆彡 ☆彡 ☆彡
まあ三籐さんへの八つ当たりはどうだっていい。
大田原さんは戦闘では非の打ち所がない強者だが、あの人には致命的な欠点が二つある。
ひとつはあまり融通の利かないところ。
乃木平と違って、小田巻や村の教師どもも容赦なく始末するだろう。
乃木平なら説得は可能だろうが、それ自体が十分すぎるタイムロスにつながる。
そしてもうひとつは、そのあまりの強さに名が知られ過ぎていることだ。
ハヤブサⅢは確実にSSOG(あたしたち)の存在に気付いた。
敵が乃木平ならば返り討ちにする選択も浮かぶだろうが、大田原さんとなれば取るべき選択肢は逃げ一択だ。
あたしがハヤブサⅢの立場ならそう考える。遭遇戦であの人には絶対に勝てない。
あたしがあの人に挑むとしてだ、ハヤブサⅢやブルーバードと組んでスリーマンセルでようやく勝ち筋が見えるかどうかだ。
素人の研究員ではどうにもならねえよ。
碓氷も、こりゃ裏切るんじゃねえかな。
元々期待なんてしてなかった野郎だが、今回ばかりは同情するぜ。
大田原さんの名と評判を知っていれば難しいことじゃない。
ハヤブサⅢの口からこう伝えれば終わりだ。
大田原源一郎は話が一切通じない、決して融通が効かない鬼神のような強さの大男だってな。
脱獄囚が牢屋のカギを開けられるだけ開けて逃げるのと同じ。
圧倒的な戦力を相手にするなら、肉の盾は一つでも欲しいところだろう。
その圧倒的敵戦力が一個体ならば、狙いを分散できる肉盾には相応の価値がある。
その意味で、碓氷を引き込むのは意味がある。
どうする?
致命的なハプニングが起こったとはいえ、作戦は継続中だ。
だが、ハヤブサⅢは間違いなく最警戒態勢に入っただろう。
これが作戦実施前ならば乃木平の判断を仰ぐのが筋だが、いざ作戦が始まれば、現場の判断は個々に委ねられる。
時間としちゃ、小田巻の絶叫から数秒程度だったか。
認知神経科学研究室と通信室の境目に突き出した柱の影。
そこで考えをまとめている間に、さらに事態が動いた。
「作戦行動中止! 一等陸士、ただちに退避せよ! それは罠です!」
「一等陸士、退避します!」
小田巻に続いて、乃木平までもが声を張り上げた。
その声にはいくぶんの焦燥が含まれているように思える。
ここで退避だあ?
大田原さんに何が起こってるのかは知らねえが、いくらなんでもチキンがすぎねえか?
乃木平と一切会わずに今を迎えればそのように考えていただろう。
一日前の乃木平ならそういう判断を取る。断言できる。
だが、今のアイツはそうじゃない。これはハヤブサⅢへの揺さぶりだ。
壁を背に張り付き、西側の部屋を確認すれば、神経工学研究室の扉が僅かに開いている。
そこから見えるのは乃木平のハンドサイン。
(作戦続行、ね)
乃木平はハヤブサⅢと交戦し、撤退したと聞いてる。
なら、アイツの性格はハヤブサⅢにプロファイリングされてるよな。
昨日までのアイツはこの局面で撤退を選びうる。
できるだけ殺さないようにしようとする優等生。
ムダに命を散らすことは嫌うタチだ。
一度戦ったことがある、アイツのことを知っている。
そんな先入観は、場合によっちゃ無知よりも致命的だ。
たとえばあたしが朝、ハヤブサⅢの立場を見誤ったように。
小田巻の失態はなかったことにできない。
SSOGはいなかったことにできない。
それならばと、乃木平本人と大田原さんのネームとで派手に存在を喧伝した。
木を隠すなら森の中。
戦場で派手に暴れて敵の注意を引き、砲撃部隊の発射までの時間を稼ぐエース部隊の役割のように。
乃木平はあたしの存在を覆い隠したわけだ。
もし碓氷が裏切っていればあたしの存在もバレるんだが、小田巻の絶叫から乃木平の号令までは十秒もない。
その短時間で裏切らせるのは時間の面で不可能だ。
SSOG間で起きたトラブルは、ハヤブサⅢにとっては脱出の千載一遇のチャンスだろう。
あたしに与えられたのは、通信室から釣り出されたハヤブサⅢへの狙撃任務だ。
撃ち抜いたのがハヤブサⅢならミッション達成。
研究員の男でも、ハヤブサⅢとほぼほぼ一対一の状況に持ち込める。
混乱を極めたこの状況ではベターな弥縫策と言えるだろう。
どうもエレベータのほうからは不気味な音が聞こえるが……。
あたしは静かに銃を取り出し、釣り出されるであろうターゲットを待つ。
◆
――食リセヨ。
◆
「うあ……?」
おと。おおきなおと。ひとの悲鳴。
かくりよのゆめにまどろむわたしを、うつしよにいざなうよびごえ。
わたしは看護師。きずついたひとをたすけるのが使命。
「ううぅぅ……」
きずにうめくこえがきこえる。
たすけて、たすけて、と、うったえる患者さんがいる。
たすけないと。すくわないと。
しろいはこのなか、あかいちまみれ。
あたたかいちがながれている、まだいきている軍人さん。
軍人さん。軍人さん。きずついた軍人さん。
◆
――感染者、食リセヨ。
――小田巻、食リセヨ。
――正義ヲ、執行セヨ。
◆
「あの、僕は今の流れが読めないんですけど……」
それは当然よね。
大田原源一郎は裏の世界では有名だけれど、表に出るような名前じゃないもの。
「碓氷先生の同行者はね、SSOGだったの。この研究所にはすでに特殊部隊が展開しているわ」
「はあ~、そうなんですか……。えっ? えっ?」
話に付いていけずにぽかんとしている与田センセを手招きすれば、センセは慌てて駆け寄ってきた。
「碓氷先生? あなた切り捨てられたようだけれど、一応聞いておくわ。
こっちに乗り換える気はあるかしら?」
「それは……」
「いやいや、放っておきましょうよ!? 特殊部隊のスパイなんですよね!?」
一瞬で土下座して赦しを請うでもない。手揉みしながら媚び諂ってくるでもない。
まあ、後者ならば頭に風穴が空いていたかもしれないけれど。
彼の異能は信用が見える異能だと与田センセから聞いてる。
数値かゲージかは知らないけれど、与田センセも私も、彼への信用はゼロに近いでしょう。
それが視えるとなれば、乗り換える以前の問題かもしれないわね。
彼が特殊部隊の人間とも平気で行動できるのは、所属意識が一切ないからだろうけど、彼の言動を見るに、損得計算には相当聡いようだから。
彼は未だ、射線の通らない部屋の奥から出てこない。
そのとき、階下から鈍い音が連続して響いてきた。
何か重いものを叩きつけるような異音。
破城槌を城門に叩きつけるような、エレベーターの音とはまた違う異音。
どうやら、私たちやSSOGとは別に、第三者が侵入してきているみたい。
それも、どちらかというと乱暴そうな第三者。
やはり、海衣ちゃんや珠ちゃんが心配だわ。
「悪いけれど、タイムオーバーよ。
そっちはそっちでがんばって生き残りなさいな」
SSOG側の状況が落ち着いたなら、不利になるのはこちらのほう。
それは私たちの側のタイムリミットとイコールでもある。
進行形で銃を向けてくる相手ならともかく、切り捨てられたのなら、邪魔されない限りは相手にする必要はない。
彼の異能は人間を殺せるような異能じゃない。
彼は銃を持っているけれども、素人の銃なんてそうそう当たらない。
悪いけれど、彼と心中する気なんてない。
「待ってください! 一言だけ、返事は要らないので聞いてください」
その必死な声に、歩幅を少しだけ緩める。
足を止めることはないけれど、聞くだけなら構わない。
「スヴィア先生の想いだけは本物です!
彼女は本気で皆を救おうとしている!
僕のことを信用できないのは構いませんが、彼女の想いだけはムダにしないでほしい!」
……ま、言われずとも彼女には協力してもらうわ。
スヴィア・リーデンベルグの保護はいずれにしろ最優先課題。
彼女がいなければ、解決するも何もないものね。
まだかまだかと扉に手をかけている与田センセのもとに向かい、そこで視えたのは。
与田センセが凶弾に倒れる光景だった。
◆
「ううぅぅ~~! うあああ~~!」
だいじょうぶですか。だいじょうぶですか。
あなたはきっとたすかりますからね。
病院に、はこびこまれた患者さんには、そうやってこえをかけていたきがする。
こえがでない。元気づけられない。いきる希望をもたせられない。
「う、うう……」
たすけないと。なにをすればいいのかわからない。
たすけないと。なにもできない。
たすけないと。たすけないと。みすてる。いやだ。たすけて。
たすけて。たすけて。これじゃすくえない。
「ああぁ……」
せめて。患者さんによりそう。
これまでみとってきた患者さんたちにそうしていたように、やさしくよりそう。
なにもできないわたしをゆるしてね。
やさしくだきしめるように、軍人さんによりそう。
やさしくなでて、いたわって、最期をおみとりする。
できない。できない。
なでられない。いたわれない。うでをのばせない。
そうするためのうではどこ?
軍人さんの、くちのなか。
つのがはえた軍人さんの、くちのなか。
くちのなかから、たすけて、たすけて、とうったえるように、わたしのてくびがのぞいてる。
「処理スル……」
あしをつかまれる。くちのなかにひきずりこまれる。
かくりよのゆめはうらがえる。
うつしよから幽世に私は引きずりこまれる。
私、五日市六華の肉体は巨大な餓鬼に摂り込まれ、私が生きたすべての痕跡はウイルスごと現世から消え失せた。
◆
――渇ク。
――渇ク。
――渇ク渇ク渇ク渇ク渇ク渇ク渇ク渇ク。
――渇ク。
◆
通信室から出て行こうとする与田さん。
それを花子さんが慌てたように引き戻し、与田さんは派手な音を立ててその場に倒れた。
「あいてて……。花子さん、もう何するんですか~!?」
「与田センセ! 今すぐ物陰に隠れて!」
「ええ~……?」
その直後、外から何かが投げ込まれる。
このタイミングで投げ込まれる定番といえば、やはり爆弾とか閃光弾の類だろう。
花子さんもそれを警戒したのだと思う。
「ぐひゃひぃぃぃっ!」
「くぅッ!」
実態は懐中電灯。LEDタイプの強い光を放つ懐中電灯。
円柱型の懐中電灯はごろりと転がり、まばゆい光が部屋をぐるりと照らす。
そしてこれは、僕が乃木平さんに検められた荷物の一つだ。
おや? 何故、物陰に身を隠してるのに二人の動きが見えるのかって?
そりゃ、二種類の輝度を持った赤い光が、ゆらゆらと壁や天井に反射してるからだね。
僕の異能は相手方からの信用を光で目視できる異能だ。
けれど、言い換えれば僕だけに見える光を得られる異能でもある。
どう考えても裏技だけれど、人のおおまかな位置を特定するような使い方だってできる。
こういう副作用的な使い方は、仮に異能を知られていても、いざ保有者になってみないと思いつかないだろう。
光が視えるのは、特殊部隊に対しても同じ。
通信室の扉に付けられた採光用の曇りガラスに、うっすらと赤い光が映り続けていた。
小田巻さんの叫び声が聞こえたあとも、乃木平さんの撤退号令が出た時ですら、光が残っていた。
薄い赤の光は黒木さんだ。
彼女が外にいることは分かっていたのだから、裏切りとも取れるような行動は一切取れない。
花子さんの手腕は魅力的だが、辣腕を振るってもらう前に僕が死んでしまっては意味がない。
加えて、向こうには真理ちゃんの存在がある。
幽霊のように気配を遮断する異能。
たとえ薄壁一つ隔てた先で聞き耳を立てられていたとしても、誰も気付かない。
扉の隙間からこちらの動きを監視していたとしても誰も気付かない。
それどころか、僕の真後ろにいても気付けないだろう。
さながら動く盗聴器で、さまよう監視カメラだ。
音も気配もたてない霞のような彼女から、残り34時間逃げ回る? あり得ない。あまりに非現実的だ。
そこに思い至った瞬間に、花子さん側に付くという選択肢は消え失せた。
万一、本当に切り捨てられていた場合に備えて、スヴィア先生の無実を主張したけれども、その必要もなかったかもしれない。
花子さんが銃を抜き、侵入者を迎撃するが……。
光に目を眩まされたのか、侵入者が銃弾の軌道を読んでいたのか。
銃弾が突入部隊の身体を撃ち抜くことはない。
突入部隊の黒木さんは、身をかがめてダッキングのようなポーズを取り、
表面積を最小限にしたうえで手足の鉄甲で銃弾を弾き、易々と室内に侵入してきた。
別に見えてないけれど、音からするにたぶん間違ってない。
「ったく、せっかく歓迎の祝砲を準備してたってのによ、こういうのは謹んでお受け取りするもんだぜ?
結局、強行突入するハメになったじゃねえかよ」
「……あら、お早い復帰ね? マジュ?
祝砲を人間に向けて撃つ流儀はうちの機関にはないの。
野蛮な組織文化を持ち込まないでくださるかしら」
突入してきた特殊部隊は一人。黒木さんだけだ。
他の二人は外で出入り口を抑えているのか、それとも別の動きをしているのか。
と、外でまたもや轟音が鳴り響く。今度はかなり近い。
気にはなるが、僕は僕が生き残るために動く。
「ひぃぃ~!! は、花子しゃあん! たぁすけて~~っ!!」
「……ッ!」
黒木さんが無事に突入すると同時に、僕は猟銃を与田さんに突きつける。
別にこの距離で当たるかどうかは微妙なんだけど、与田さんは両手をあげて見事な降参ポーズを取っている。
……与田さん、銃持ってなかったかい?
まあ使わないなら実に好都合だ。彼を人質に、この部屋から無事に脱出するとしよう。
「それで、これはどこまでが作戦だったのかしら?」
作戦どころか、あなたについていったところからほぼすべてアドリブですよ。
元々スヴィア先生のほうに行く予定でしたから。
花子さんはギリリと僕を睨みつける。
おお、怖い怖い。
けれど、黒木さんを無視して僕に銃を向けることはない。そんなことはできない。
黒木さんから一瞬でも注意を外せば、懐に潜り込まれてKOだろう。
彼女にはそんな風格がある。
「さてね。あたしもそいつの動きの仔細までは把握してない。
どこまでが意図なのかは、うちの指揮官に聞くんだな。
あたしはそいつの性格柄、絶対にてめぇの側に付くと思ってたがね」
「あら、思ったより信用がないのね。
彼女のお望み通り、その銃でマジュを撃ってくれても構わないのよ?」
「皆さんが僕をどう分析しているのかは知りませんが、僕は分の悪いギャンブルは好みません。
他人をせせら笑うような趣味だってありません。むしろあなたの手腕は尊敬に値する。
けれど、真理ちゃんたちとまで敵対してまで欲しい立場じゃない」
花子さんの言うとおり、女王感染者が死んでも僕らが口封じされるのなら、特殊部隊につく意味はないように思える。
ただし、それは研究所との交渉が不発に終わった場合の話だよね?
研究所の副所長は、特殊部隊が村内に派遣されていることを知っていて泳がせていた。
つまり、特殊部隊が村内に展開しているのは研究所の意志に限りなく近い。
彼が僕らを被験者として扱いたいという意志を示した以上、それは無碍にはできないはずだ。
「花子さんが研究所の副所長と交渉し、女王感染者が死ねば、生き残りは全員保護すると契約をかわしました。
間もなく、特殊部隊の上役からもそのような命令がくだってくるかと。
僕らにとっては待ちに待った福音ですよ」
「そうかい。上から正式に指令が来ねえ限り、研究所が何と言おうが方針は変わらねえんだが。
つーことは女王が死ぬ前にこいつを始末しねえと、あたしは任務失敗の大目玉を食らう可能性があるわけだ。
あたしとしちゃ、ハヤブサⅢが女王感染者だって可能性を望むね。
ダブルで任務達成したとなれば、上からの覚えもいいし、特別報酬もたんまり出るだろうよ」
「う~ん、あなたの無駄遣いのために死ぬのはちょっとごめんよねえ。
ついでに私も助けてくれるようにちょっと交渉していただければ嬉しいのだけれど?」
「ダアホ。答えの分かってる寝言ほざいてんじゃねえよ。
こちとら何回テメェに煮え湯を飲まされたと思ってんだ。
豪華客船の件と保育園の件でたんまり負債が溜まってんだよ」
二人の物言いはともかくとしてだ。
乃木平さんなら本件は上に確認を取るだろう。
正常感染者の保護が真実だと分かった時点で、口封じのための皆殺しが、保護のための全員確保に変わるわけだ。
全員を確保する役割は、それもやはり特殊部隊に一任されるだろう。
そういう意味でも、特殊部隊を一時でも裏切るのは今後に著しく差し支える。
保護の名目で別車両に乗せられ、そのままガス室に直行ということになりかねないんじゃないかな。
「使うべき機材。起動パスワード。記憶していますので、疑うのなら再度研究所に連絡してみれば分かりますよ。
これは小田巻さんたちには報告します」
「ああ、そいつを連れてさっさと行け」
「ぼ、僕はちゃんと生きて帰れるんでしょうかあ~!?」
「ちゃんと持ってる情報全部吐けば、大丈夫かもな。
そこの女みたいに持ち逃げするようなら、即BAN、だ」
「ということですので、大人しく歩きましょう」
「う、うぅぅぅ~~……」
「では、足手まといの二人はお先に失礼します。あとはお二人でごゆっくり。
与田さん、先に歩いてくださいますか」
「な、なんでこんなことにぃ……」
◆
――ずしゃ。
――ずしゃ。
――ずしゃ。
――ずしゃ。
◆
(乃木平さん、すみませんんん~~ッ!!)
日本人全員が生まれたときから持つ究極の伝家の宝刀。
無言の乃木平さんに向けて、私は必殺ジャンピング土下座をかました。
ちゃんと無言で。また大声出したら今度こそ雷が落ちるので。
いやあ、けれどね、あれはいきなりエレベーター突き破って現れた大田原さんが悪いでしょ。
だよね、私悪くないよね……。わるくな~いわるくな~い……。
ごめんなさい、さすがにそこまで神経図太くなれないです。
乃木平さんは部屋の扉を閉めると、なんかマスク越しなのに目視できちゃいそうな大きなため息を付く。
あっ、乃木平さんも何かやらかしてたんですね?
お叱りは後程のパターンですね?
「終わってしまったことは仕方がありません。
黒木さんには次の指示を出していますので、仕切り直しとしましょう。
彼女の銃声が響いたら、タイミングを合わせて二人で急襲します」
「もし銃声がなかった場合は?」
「部屋の時計の秒針が12を指したところで急襲をかけるとしましょうか。
僥倖にもエレベータは大田原さんがいますので、そのルートから逃げられることはないでしょう。
それで、大田原さんはどのような状態でしたか?」
「マスクが外れていて、血塗れになっていて。
あっ、でもまだ生きてはいましたよ」
「それはゾンビということで?」
「いや、ゾンビになっていた様子はありませんでしたね」
「ということは、まさか異能に適合したということですか。
大田原さんが撃ち破られたことは気になりますが、考えようによっては大変心強いですね。
彼は私が説得することにしましょう。
小田巻さんは大田原さんのことは心配せず、作戦に集中してください」
さっすが~、乃木平上官殿は話がわかるッ!
「ただし、救護はハヤブサⅢを仕留めた後です。
それまで彼には悪いですが、エレベータ内で安静にしてもらいましょう」
大田原さんの場合、ターゲットより自分の治療を優先したら折檻してきそうですもんね。かわいがりは断固反対です!
それに大田原さんあれだけ鍛えてますし、あのまま半日放置していてもたぶん死にはしませんよ。
「それと、本当に大田原さんのまわりに罠のようなものはなかったのですね?
不審物が仕掛けられていたり、誰かが潜んでいるようなことは?」
「エレベータの上までは覗いていないんですけど、まわりに不審物は何もありませんでした」
「となると考えすぎか、それとも異能か……。
少なくとも、我々とハヤブサⅢのほかに何者かがいるのは疑いありません。
難しいかもしれませんが、作戦中も十分に注意してください」
「了解しました! ……銃声、鳴りませんね」
「不確定要素ですが、彼女の異能は未来視ではないかと本部より情報を得ています。
やはり一筋縄ではいかないということでしょうね」
黒木さんがヘマをするのも考えにくいですからね。
「ではもう一つのプラン通り、そちらの時計。秒針が12を差したら突入しますよ」
「了解しました!」
「5。4。3。2……」
っと、ここでパン、パンと銃声が鳴り響く。
作戦再開始の合図だ。
「合図のようですね。
それでは我々も作戦を開し……がッ!」
乃木平さんが掛け声を出そうかというまさにそのとき、扉のほうからこっちに吹っ飛んできた。
えっ、ナニコレ?
あ~、トラックでも突っ込んできたら、こんな感じで扉吹っ飛ぶんですかね~。
見事に平行移動してるし。
棚とか巻き込んで倒れまくってますね。
乃木平さん、扉に巻き込まれて倒れた棚や机の下敷きになってるんですけど……。
は? え? 何が起こってるんです?
開いた扉の向こうに見えるのは、人? これ人か?
ポーズからして、扉を吹っ飛ばしたのは、たぶんその人のアッパーカット。
うん、きちんとドア開けて入ってこいよと思いますけど。
そもそもアッパーカットで扉吹き飛ばすってなんだよって思いますけれど。
このボロ布、なんか見覚えがあるような……。
防護服だわこれ。
ということは、この巨人は……。
「オダマキ……」
(げえええええッッ!!!)
「正義ヲ……執行スル……!」
(うおおおおおおおッッ!!!)
大田原さん、鬼みたいにおっかない人だとは思ってましたけど。
あんた本当に鬼になってんじゃねえよおおおぉぉっっ!!
◆
「はひぃ、はひぃ……」
「まあ、そんなに怯えなくてもいいですよ。
これでも、僕はゾンビ含めて一人も殺していませんから」
いや、そんなこと言いながら思いっきり猟銃を突き付けてるじゃないですか!
俺の犠牲者第一号はお前だとか言い出しませんよね!?
「じゃ、じゃあせめて銃を降ろしてくださいよ。
僕、別に一人で逃げたりしませんから」
いや、ほんとに逃げませんって!
どうせ逃げてもすぐに追いつかれますから!
僕体力ないんだからぁ~!
銃降ろしてください、お願いします銃降ろしてください。
そんな願いも虚しく、銃を突きつけたまま碓氷さんはつぶやきます。
「さて、向こうに合流すべきなんですが……。
なんか、荒れてそうですね……。どうするかな……」
僕は今すぐ逃げたほうがいいと思います。
神経工学研究室は、なんか扉自体が凹んで外れてるし、ドカドカと騒いでるし。
エレベーターはイヤだなあ、だって神経工学研究室の前通らないといけないんでしょ?
中からなんか出てきそうじゃないですか!
「に、二階の階段を確保するのがいいと思います」
「けど、階段まで行くと与田さん逃げそうですしね。
小田巻さんか乃木平さん、どちらかを探しましょうか」
じゃ、神経工学研究室の中に入るんですか?
絶対イヤ、絶対イヤです。
けれど、その願いが通じたのでしょうか。
探すまでもなく、その探し人が部屋の中から現れました。
「碓氷さんッ!?」
「小田巻さん? 乃木平さんは……」
「碓氷さん、ごめんねええええぇぇぇッッッッ!!!」
……?
小田巻さんは、僕らを置き去りに、廊下の奥へと走って行きました。
僕も碓氷さんも、何が何だか分からずにぽかーんと口を開けてしまいます。
なんです? なんなんです? 何が起こっているんです?
そんな疑問を抱いてすぐのことでした。
――ずうううん!!
そんな豪快な崩落音と共に、神経工学研究室の壁が崩れます。
あの、あの、部屋から出るのにドア使わないんです?
――ずしゃ。
――ずしゃ。
特徴的な重い足音が廊下に響きました。
そこに立っていたのは、巨人ですねえ、これ。
ところどころ裂けた、特殊部隊の防護服のようなぼろきれを身体に巻きつけ、靴底からは鋭いツメが露出し、巨大な角を生やした3メートルほどの怪物。
容姿だけを例えるなら、近いのは鬼、なんでしょうけれど。
「……タイラント?」
僕からか碓氷さんからか。
自然と、その形容が言葉として漏れ出しました。
僕の目に、その異能が映ります。
WARNING―WARNING―WARNING―WARNING―WARNING―WARNING―WARNING―WARNING―WARNING
『餓鬼(ハンガー・オウガ―)』
筋力が五倍に増強する代わりに、食人衝動が起こる異能。
食人衝動が極限まで高まると頭に2本のツノが生え、体躯は縦横厚みが2倍にスケールアップ。食人以外の思考を喪失した、文字通りの餓鬼と化す。
ゾンビや死んでから時間が経過した死体では腹は膨れず、生きながらに齧り殺すか、体温が残った死体でなければならない。
WARNING―WARNING―WARNING―WARNING―WARNING―WARNING―WARNING―WARNING―WARNING
「正常感染者。処理スル」
――ずしゃ。
――ずしゃ。
――ずしゃ。
――ずしゃ。
明らかに僕らを見て言葉を発し。
僕らのほうへとゆっくり迫ってきます。
「ひええええっっ!!」
何ですかあれ~~~!!??
その異能を見た途端に、僕は一切の命乞いを放棄して、お尻まくって逃げ出しました。
あんなの勝てるわけないじゃないですか~!!
イヤだイヤだイヤだイヤだ追いかけてこないで~!!
――ずしゃ。
――ずしゃ。
――ずしゃ。
――ずしゃ。
「えっ、ちょッ……与田さん!?」
碓氷さんが慌てている声も聞こえましたけれど、銃なんかよりずっと怖いんだから仕方ないじゃないですかああ~~!
もうやだ、僕は逃げます! 研究もウイルスも全部お任せしましたから!
だから追いかけてこないでください~~!!
◆
――ずしゃ。
――ずしゃ。
――ずしゃ。
――ずしゃ。
「なんだよありゃ……」
碓氷たちが出て行ってすぐ、小田巻の再度の絶叫。
あいついい加減にしろよと横目で見やると、僅かに開いた扉の隙間からとんでもねえ怪物が見えた。
「ねえ、マジュ? SSOGは生物兵器でも投入したのかしら?」
んなわけねえだろ! と言いたいが、ハヤブサⅢに情報を与える必要はない。
研究所の生物兵器か、それともまさかあれが大田原さんなのか?
とても理性があるようには見えない。ターゲットでもない限り、近寄りたくはない相手だ。
だが、考えようによっては好機だ。
あんなのがうろついている以上、ヘタに騒げば蜂の巣を突っついたような騒ぎが起こる。
あたしの武器は鉄甲鉄足。銃と違って最小限の音しか出すことはない。
雪辱戦。
あたしは豪華客船、保育園に続き、ハヤブサⅢとの三度目の対峙を果たした。
◆
――ずしゃ。
――ずしゃ。
――ずしゃ。
――ずしゃ。
ふざけるなふざけるなふざけるな!
なんだこのゾンビのボスみたいなデカい化け物は!?
どこから湧いてきたんだ、こんなのがいるなんて聞いてないぞ!
デカい的なら僕の腕でも銃は当たるんじゃ?
そんな甘い考えは一蹴された。
怪物は片手で部屋のドアを外し、機動隊の盾のように構えて迫ってくる。
――ずしゃ。
――ずしゃ。
――ずしゃ。
――ずしゃ。
ダメだ、こんなの勝てるわけがない!
幸い、怪我をしているのか。
力は圧倒的だが動き自体はそこまで早くはない。
脱兎のごとく先に逃げ出した与田さんの後を追うように、僕も廊下を駆けだす。
――ずしゃ。
――ずしゃ。
――ずしゃ。
――ずしゃ。
後ろから迫りくる足音が鮮明に聞こえる。
明らかに僕を追いかけてきている!
「ひええぇぇぇっ!!!」
与田さんは扉を開けて、階段部屋に飛び込むと、そのまま扉を閉めやがった!
おいふざけるな、ただでさえヤバいのに追われてるんだぞ!?
せめて開けたまま逃げろよ!
――ずしゃ。
――ずしゃ。
――ずしゃ。
――ずしゃ。
「くっ、こんなときに……!」
服のポケットの中に入れているカードキー。
ポケットの隅にひっかかって取り出せない。
急いでるってのに!
――ずしゃ。
――ずしゃ。
――ずしゃ。
――ずしゃ。
取り出せた。
与田さんは研究員だ。研究所の構造に詳しい彼についていけば、撒くことはできるはずだ。
まだ距離はある、焦るな僕。
そう心を落ち着かせて、カードキーを扉にかざす。
――ピーッ ピーッ ピーッ
――権限レベルが足りません
「はっ……?」
――ずしゃ。
――ずしゃ。
――ピーッ ピーッ ピーッ
――権限レベルが足りません
「ウソでしょ……?」
――ずしゃ。
――ずしゃ。
――ピーッ ピーッ ピーッ
――権限レベルが足りません
「なあ、誰か! 誰か開けてくれ!!」
――ずしゃ。
――ずしゃ。
――ピーッ ピーッ ピーッ
――権限レベルが足りません
「与田さん、小田巻さん! 誰でもいい、開けてくれ!!」
――ずしゃ。
――ずしゃ。
――ピーッ ピーッ ピーッ
――ピーッ ピーッ ピーッ
――ピーッ ピーッ ピーッ
――権限レベルが足りません
――権限レベルが足りません
――権限レベルが足りません
――ずしゃ。
後ろから足音が迫ってくる。
――ずしゃ。
ずん、ずんと確かな質量を伴った足音が追ってくる。
――ずしゃ。
ドンドンと扉を叩いても何の反応もない。
――ずしゃ。
――ずしゃ。
「冗談じゃない! こんなところで、こんなところで!」
――ずしゃ。
ここまで来て、死にたくない。
死んでたまるか。
そのときだった。
不思議な感覚に襲われた。
脳が二つあるかのように、感覚が冴えわたっていく。
自分をどこか遠くから俯瞰しているような気分になる。
これは、昨晩と同じだ。
自分の中に新しい器官が生えてきた感覚。
異能があると理解したからこそ、その異能が進化していったのだと分かる。
見えるのは信用度だけじゃない。相手の危険度までもが光として視えるようになった。
――ずしゃ。
だから。
――ずしゃ。
透明だった怪物から、眩いばかりの赤が迫ってくる。
赤。
赤。
赤。
赤。
赤。
赤。
「う、うわあああああああああっっっ!!!!!!」
赤。赤。赤。赤。赤。赤。赤。赤。赤。赤。赤。赤。赤。赤。赤。赤。赤。赤。赤。赤。赤。赤。赤。赤。赤。赤。赤。赤。赤。赤。赤。赤。赤。
赤。赤。赤。赤。赤。赤。赤。赤。赤。赤。赤。赤。赤。赤。赤。赤。赤。赤。赤。赤。赤。赤。赤。赤。赤。赤。赤。赤。赤。赤。赤。赤。赤。
赤。赤。赤。赤。赤。赤。赤。赤。赤。赤。赤。赤。赤。赤。赤。赤。赤。赤。赤。赤。赤。赤。赤。赤。赤。赤。赤。赤。赤。赤。赤。赤。赤。
赤。赤。赤。赤。赤。赤。赤。赤。赤。赤。赤。赤。赤。赤。赤。赤。赤。赤。赤。赤。赤。赤。赤。赤。赤。赤。赤。赤。赤。赤。赤。赤。赤。
赤。赤。赤。赤。赤。赤。赤。赤。赤。赤。赤。赤。赤。赤。赤。赤。赤。赤。赤。赤。赤。赤。赤。赤。赤。赤。赤。赤。赤。赤。赤。赤。赤。
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赤。赤。赤。赤。赤。赤。赤。赤。赤。赤。赤。赤。赤。赤。赤。赤。赤。赤。赤。赤。赤。赤。赤。赤。赤。赤。赤。赤。赤。赤。赤。赤。赤。
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言葉の通用しない怪物に、交渉も立ち回りもあるはずがない。
頭をわしづかみにしようと迫る手の形をした赤。
僕の視界にはもう赤しか見えない。
その赤が、一瞬、血のように濃い赤に染まったかと思うと。
世界の色は反転。僕の視界には、漆黒しか映らなくなった。
【碓氷 誠吾 死亡】
※災害時非常持ち出し袋(食料[乾パン・氷砂糖・水]二日分、軍手、簡易トイレ、オールラウンドマルチツール)、ザック(古地図)
スーツ、暗視スコープ、ライフル銃(残弾2/5)、研究所IDパス(L1)、治療道具
以上はB2F階段部屋前の廊下に散らばっているかもしれません
【E-1/地下研究所・B2 通信室/1日目・午後】
【
田中 花子】
[状態]:左手凍傷、疲労(中)
[道具]:H&K MP5(12/30)、使いさしの弾倉×2、AK-47(19/30)、使いさしの弾倉×2、ベレッタM1919(1/9)、弾倉×2、通信機(不通)、化粧箱(工作セット)、スマートフォン、研究所の見取り図、研究所IDパス(L3)
[方針]
基本.48時間以内に解決策を探す(最悪の場合強硬策も辞さない)
1.黒木真珠を切り抜ける
2.スヴィア達と合流
【
黒木 真珠】
[状態]:健康
[道具]:鉄甲鉄足、拳銃(H&K SFP9)、サバイバルナイフ、研究所IDパス(L1)、LED懐中電灯(碓氷誠吾より徴収)
[方針]
基本.ハヤブサⅢ(
田中 花子)の捜索・抹殺を最優先として動く。
1.ハヤブサⅢを殺す。
2.氷使いも殺す。
3.余裕があれば研究所についての調査
[備考]
※ハヤブサⅢの現在の偽名:
田中 花子を知りました
※上月みかげを小さいころに世話した少女だと思っています
【E-1/地下研究所・B2 神経工学研究室/1日目・午後】
【
乃木平 天】
[状態]:気絶、疲労(中)、ダメージ(大)、精神疲労(小)
[道具]:拳銃(H&K SFP9)、サバイバルナイフ、ポケットピストル(種類不明)、着火機具、研究所IDパス(L3)、謎のカードキー、村民名簿入り白ロム、ほかにもあるかも?
[方針]
基本.仕事自体は真面目に。ただ必要ないゾンビの始末はできる範囲で避ける。
1.研究所を封鎖。外部専用回線を遮断する。ウイルスについて調査し、VHの第二波が起こる可能性を取り除く。
2.一定時間が経ち、設備があったら放送をおこない、隠れている正常感染者をあぶり出す。
3.小田巻と碓氷を指揮する。不要と判断した時点で処する。
4.犠牲者たちの名は忘れない。
[備考]
※ゾンビが強い音に反応することを認識しています。
※診療所や各商店、浅野雑貨店から何か持ち出したかもしれません。
※ポケットピストルの種類は後続の書き手にお任せします
※村民名簿には午前までの生死と、カメラ経由で判断可能な異能が記載されています。
【E-1/地下研究所・B1~3 階段部屋のどこか/1日目・午後】
【
与田 四郎】
[状態]:健康
[道具]:AK-47(30/30)、研究所IDパス(L3)、注射器、薬物
[方針]
基本.生き延びたい
1.大田原から逃げる
【E-1/地下研究所・B1 or B2の通信室以東の部屋のどこか or B3/1日目・午後】
【
小田巻 真理】
[状態]:疲労(中度)、右腕に火傷、精神疲労(中)
[道具]:ライフル銃(残弾4/5)、血のライフル弾(5発)、警棒、ポシェット、剣ナタ、研究所IDパス(L2)
[方針]
基本.生存を優先。乃木平の指揮下に入り指示に従う
1.大田原から逃げる
2.隔離案による女王感染者判別を試す
3.八柳藤次郎を排除する手を考える
[備考]
※自分の異能をなんとなーく把握しました。
※創の異能を右手で触れた相手を昏倒させるものだと思っています。
【E-1/地下研究所・B2 階段部屋前廊下/1日目・午後】
【
大田原 源一郎】
[状態]:ウイルス感染・異能『餓鬼(ハンガー・オウガー)』、意識混濁、脳にダメージ(特大)、食人衝動(限界)、脊髄損傷(再生中)、鼓膜損傷(再生中)
[道具]:防護服(内側から破損)、装着型C-4爆弾、サバイバルナイフ、遺伝子操作室の扉
[方針]
基本.正常感染者の処理……?
1.感染者ヲ、ショリスル
2.正義ヲ、執行スル
※脳に甚大なダメージを受けました。
最終更新:2024年02月24日 20:42