「………………は?」
古民家群南西部の外れ道。焼け残った木造建ての家屋が立ち並ぶ光景を背に小柄な金髪の美女――虎尾茶子は唖然としていた。
彼女の傍らにはTシャツとショートパンツ姿の見た目麗しい幼子――リンが驚いたように小さな口に両手を当てている。
「Yeah、驚くのも無理はないと思うわ。私だってこんなUnreal eventを受け入れきれてないもの」
そう答えを返すのは帽子を被る金髪碧眼の探偵少女――天宝寺アニカ。
俯いて昏い顔をする哀野雪菜も、拳を握り締めて顔を強張らせる天原創も、女性の亡骸の前でうなだれる犬山うさぎも。
山折圭介に憑依し、蹂躙の限りを尽くした「魔王ヤマオリ・テスカトリポカ」なる存在によって蹂躙の限りを尽くされた。
一同の悲惨な有様からアニカの言葉が荒唐無稽な妄言などではなく、現実であることが思い知らされた。
アニカは一度殺され、うさぎは召喚した愛する獣と大切な姉――犬山はすみを失った。
雪菜も同様に圧倒的な力の差を見せつけられ、その隣にいる創も砕けんばかりに奥歯を噛み締めている。
内心を知ることはできないが、彼も他の3人と同じく――否、アニカら三人以上に自身の無力と魔王への敵愾心を秘めているのだろう。
茶子は思わず繋いでいたリンの手を離し、自身の手で口を覆い、震える声で呟く。
「か……哉くんが…………連れ去らわれたなんて……」
「…………そっちなの?」
絶望の表情を浮かべる茶子に雪菜は思わず疑問を投げかける。
茶子と対面しているアニカは茶子の言葉に暗い顔をして俯いており、失言だったかと雪菜は自省する。
「――――ッ!」
茶子から悍ましい程強烈な殺気が浴びせられ、リンを除くの場にいる全員が身体を強張らせる。
突如ぶつけられる殺気に創と刹那は思わず身構え、茶子の方を見ていないうさぎも身体を震わせた。
真正面にいるアニカの目には憎悪で醜悪に歪んだ茶子の表情が伺えた。
しかし、それは一瞬。すぐに殺気は消え、表情も再会した時と変わぬものへと戻る。
「………………私を、殺そうとはしないのね……」
「当たり前だろ。お前の前歯全部折ったところで状況が好転するわけじゃないし、無駄なことはしたくないんだよ」
軽薄な言葉と態度で接しながらも、茶子がアニカに向ける目線は非常に冷たい。
金髪の非正規雇用役場職員がいくら軽い口調で話しても会話の内容が物騒すぎるため、場の空気は凍り付いたままだった。
その様子を察したのか、リンは茶子のブラウスの裾を二本指で摘まみ、不安そうな顔で見上げる。
「………おこってる?」
「まあ、少しびっくりしているだけだよ。此奴らをボコった相手がヤバい奴だったからね」
「でも、チャコおねえちゃんのしゃべりかたかわってるよ……?」
「それだけびっくりしているんだ」
リンに優しい笑顔を向けて彼女の頭を撫でる。それでもリンの気遣げな表情は変わらない。
「ごめんな」とリンに小さく謝罪し、未だ姉の亡骸の前で呆然としているうさぎへと歩み寄る。
茶子が目の前まで来たところでようやくうさぎは顔を上げ、濡れそぼった双眸で姉の親友の目を見つめた。
眠りにつく腐れ縁の友人の姿を一瞥した後、しゃがみ込む。そして悲愴に暮れる友人の忘れ形見と目を合わせた。
「…………はすみ、死んだのか?」
「…………………うん」
「…………そう、か。これしか使えそうなもの持ってないけど、顔拭きな」
「……………ありがと、茶子ちゃん」
「ん」
包帯――回復付与のない、医療道具の中の一つ――を茶子から手渡され、うさぎは悲しみを誤魔化すようにごしごしと荒っぽく顔を拭く。
傍から見れば茶子はうさぎと共にはすみの死を悲しんでいるようにも思えた。
アニカの探偵としての目から見ても、雪菜の演劇部で鍛えた表情から感情を読み取る経験でも、創のエージェントとしての観察眼から見てもそう映るので、茶子が友人の死を嘆き悲しんでいるのは事実に違いない。
しかし―――。
「――――ん……?」
探偵少女は思わず目を擦り、うさぎと悲しみを分かち合っている茶子の姿を凝視する。
しゃがみ込んで不器用な言葉で友人の妹を慰める茶子。それはいい。
だが、彼女の周りには赤子らしき肉塊を抱きかかえた女、如何にもヤクザといった風貌のスーツ姿の男、白衣を纏った研究者風の男女等々。数多の半透明な人々が無表情で茶子を見下ろしていた。
茶子自身にも黒い靄が纏わりついており、アニカはそれの正体を掴めないが受け入れ難い『ナニカ』のように思えた。
しかし、アニカの目に映ったのは僅か数舜。瞬きの後にはそれらは掻き消え、視界に入ったのは妹分に寄り添う茶子一人。
「天原さん、どうしました?」
茶子の様子を注意深く観察していた創の耳に囁きのような小さな声が聞こえた。
僅かに首を動かして声の方に顔を向けると、怪訝な表情を浮かべた雪菜と目が合った。
彼女も創と同様、突如現れて自分達を殺さんばかりに殺気を叩きつけてきた茶子を危険視していることが読み取れた。
その意図を理解し、若きエージェントは同盟者に短く彼女にだけ伝わるように言葉を選んで、囁き声で伝えた。
「…………彼女は、先生を連れて行った人間と同じ……いや、それ以上の気配がします」
思い出される二人の過去の失態。創は采配の過ち、雪菜は大切な恩師を目の前で連れていかれた数時間前の出来事を思い出す。
虎尾茶子の姿が碓氷誠吾や小柄な腕利きの女性を引き連れた特殊部隊を彷彿させる存在に見えてしまう。しかし、茶子の質は特殊部隊の男以上に感じる。
雪菜から見た茶子は碓氷誠吾のように軽薄でありながらその裏には言語化できない悍ましいものが隠されている気がしてならない。
創から見た茶子はエージェント相当の知性を持ちながら、戦闘をした小柄な女性--小田巻真理や特殊部隊の男--乃木平天以上の実力を持つ危険分子と思える。
その異質な茶子の在り様から、脳裏に浮かぶのは今は亡き師匠――青葉遥からの暗号手紙に書かれたある人物のコードネーム。
最強のエージェントである彼女が唯一完全敗北した所属不明の女性工作員。
辿った記憶について雪菜に伝えようと口を開こうとした瞬間―――。
「――――――ッ!!」
「天原さん!」
突如、創の脳に直接叩きつけられる強烈な感情の波。脳に誤認識を受け付けた上月みかげとは比べ物にならない程の強い衝撃に創はよろめき、膝をついた。
その感情を理性で理解する前に創は右手で自身の額に触れ、異能と思わしき力を打ち消す。
創に近寄って跪く彼の背中を擦る雪菜は眉を吊り上げ、下手人たる異能の持ち主を探すために背後を振り返る。
「―――チャコおねえちゃんをわるくいったら、リンおこるよ」
そこには長く艶やか黒髪の美しい童女が一人。黒曜石を思わせる眼を見開いて二人を凝視していた。
さしもの雪菜も就学したての児童には怒りをぶつけられず、不満を飲み込んで押し黙る他なかった。
「ありがと、リンちゃん」
いつの間にか創と雪菜のすぐ後ろには当の本人である茶子が立ち、リンを手招きして呼び寄せた。
呆然としている二人を他所にリンは茶子の元へ一直線に向かって幸せそうな表情を浮かべて抱き着いた。
「よしよし」と抱き着いてきた幼子を褒める傍ら、茶子はそうと雪菜二人へ冷たい視線を投げかける。
「お前らさ、あたしを睨みつけるのは勝手だけど状況分かってる?魔王にボコされてまだ現実見えない?
現状戦えそうなのは目隠れの中坊だけだよ。そんな有様でどう戦おうっていうのさ」
歯に衣着せぬ言い方でアニカら三人に現実を突きつける茶子。アニカらが茶子に不信感を露にする以上、茶子も相応の対応をする。
沈黙するアニカに痛恨の表情を浮かべる創。彼らに対して薄ら笑いを浮かべて嘲るような表情を浮かべた茶子。
「―――だったら、貴女は何ができるんですか?」
茶子の傲慢な態度に雪菜の口から漏れる反感。アニカの表情が強張り、うさぎが宥めようと口を開こうとした瞬間――。
「――――ッ」
ヒュッと風が吹く。
非戦闘要員のアニカやうさぎは疎か、エージェントの創でも反応が遅れる。
雪菜の首には鈍らの日本刀。それが薄皮一枚程の寸止めで止まっていた。
下手人は虎尾茶子。変わらず軽薄な表情を浮かべたまま居合を放っていた。その動きをこの場の全員、誰も目視できなかった。
ほんの僅かでも動作を誤れば命は刈り取られていたであろう。その事実に雪菜の背中には冷たい汗が流れる。
「…………どう?これで分かってもらえた?」
静かで穏やかな声に演劇少女はただ頷くことしかできなかった。
「Anyway、Ms.チャコを信用しましょう。理由はどうあれ、今は彼女をValuable forceとして数える以外選択肢はないわ。
少なくとも、Ms.チャコの目的は私達と同じ筈よ」
「悪いね、話が早くて助かるよ。ありがとね、アニカちゃん」
「You're welcome」
上面だけの感謝で締めた言葉のやり取り。アニカと茶子の間で何が起こったのか不明だが、少なくとも良好な関係ではなさそうだと創と雪菜は感じ取る。
少なくともアニカは「信用する」とは言っていても「信頼する」とは一言も言っていない。
「そ……そうだよ!茶子ちゃんは性格が悪いけど剣道有段者だし、お仕事でも村の人に頼りにされてるから皆の力になってくれるはずだって!」
「フォローありがとな、うさぎ。でも性格悪いのは余計だ」
しかし、犬山うさぎは違う。姉の犬山はすみの死を共に悲しんでくれた女性であり、幼い頃から世話になっていた分、彼女への信頼も厚い。
うさぎの言葉にうんうんと嬉しそうに頷くリンも言わずもがな、茶子の完全な味方といえる。
「ま、とにかくだ。目的も一致してるし、お前らの味方でいてやるよ。このままだと魔王ヤマオリナントカはやばいことしでかす予感がする。
時間が惜しいし、奴を止めるためにも情報を教えな」
◆
一同の話を聞き終わり、茶子は目を閉じる。
そのまま数秒、何も動かないまま。一同は不審がり、代表してアニカが声をかけようとするとーー。
「‐―勝てるな」
そう、断言した。
◆
生者の気配より死者の数の方が上回り、既に滅びの道を辿っている山折村。
その道を悠々を歩くのは黒髪の巨漢。かつて山折圭介と名乗っていた魔王。
現在の名は「ヤマオリ・テスカトリポカ」南米で信仰される戦争の神にインスピレーションを得て名乗っている。
その真名は「アルシェル」。地球の法則が成り立たないとある異世界にて全てを支配し、全てから恐怖の対象として畏れられた存在。
「魔王(かみ)」を冠する名に偽りなし。万能に等しい力を持ち、彼の気まぐれ一つで容易く国は滅び、死体の山が築かれた。
彼を討伐せんと生み出された勇者は数知れず。ほとんどは肉塊と化し、勇者と縁があった者は、人間・獣人・魔族区別なく鏖殺された。
中には魔王に致命傷を与えた者もいた。しかし―――。
『なるほど、オレの肉体を殺すとは強いな。では、その肉体を貰ってやるとしよう』
魔王の肉体はただの入れ物に過ぎず、自身を殺した勇者を依代に黄泉返りを果たし、魂に刻み込まれた経験も魔術も我が物にした。
元勇者であった肉体に入り込んだ魔王は勇者の尊厳を破壊しながら暴虐の限りを尽くして魔王の座に返り咲く。それを何度も繰り返した。
数千年ともなると魔王は虐殺に飽き始め、趣向を変えて楽しむことにした。
『己に降りかかる不幸を憎んでいるのだろう?その願いを叶えてやる』
自らの不条理に嘆き悲しみ、全ての元凶ではなく自身を害した存在に力を貸して悲劇を作り出すことでその有様を見て楽しんだ。
幾度となく勇者の体に乗り移り、力を蓄えた魔王は最早願望器の力すら担うようになっていた。そしてその願いの質により魔王はさらに力を増す。
最早、彼の世界に魔王を討伐する勇者はおらず。このまま世界は滅びの一途を辿るばかり―――。
しかし、魔王の暴虐は名も知れぬ一人の「勇者」と、彼の持つ「聖剣」によって終わりを迎える、筈だった。
「懐かしい光景だな。数千年前まではライフワークで幾つもの村を滅ぼしていたんだが、もう一度見られるとは思えなかったぞ」
肩に背の高い少年――八柳哉太を抱えながら、懐かしそうに魔王は独り言ちた。
哉太は死んでいない。しかし、彼に想いを寄せる少女が眼前で命を散らす姿を目にした瞬間、彼の精神は限界を迎えた。
魔王にとってその悲劇は喜劇でしかなく、これを使って彼と親しい人間を追い詰めるのも悪くないと思っていた。
「ん……?お前も喜んでいるのか?ハハハ、良いだろう。不条理に対して思う存分憂さを晴らさせてやるとも」
魔王の内面で依代たる山折圭介が元親友を徹底的に嘲笑し、憎悪の言葉をぶつける。
八柳哉太の相棒である天宝寺アニカに手を下したのは山折圭介自身。魔王は憑依時に圭介の魂に魔力を流し込んで捻じ曲げて汚染した。
魔王自身が手を下して命を奪ったのは犬山はすみ一人。正真正銘、他ならぬ圭介が哉太の存在を否定している。
「ん……?何だ?」
ふと魔王は何かの気配を感じ取る。索敵の魔法の復活には未だ目覚めておらず、仕方なく気配の方向へと視線を向ける。
そこに佇むのはヒトの形をした影法師。肉付きから第二次成長期を迎えたばかりの少女のように思えた。
「ほう、お前がこの村に潜んでいた呪い……いや、違うな。使い魔程度か」
顔を上げ、じっとこちらへと顔を向ける影。元の世界にあった魔力とは根本が違う力を持っているが、魔王の力に比べるとあまりにも微弱。
山折村に巣食う呪いがこれでは拍子抜けである。魔王が感じ取った力はそれ以上に強大な異質。
「出迎えという認識で構わないな。心配するな。必ずお前の主には会ってやる」
無言を貫く影法師に向かって優しい声で囁き、その小さな頭を撫でようと手を伸ばした瞬間。
――――おいで。おいで。こっちにおいで。
山折圭介の脳を介して伝わる舌っ足らずな幼子の声。
煩わし気に声の方向を向くと、手招きする黒い髪の童女の姿。
童女は目の前の影法師と違い肉体を持っていることが分かる。恐らく童女はテレパシーか魅了(チャーム)の異能を持っているのだろう。
魔王が軽く視線を向けると、童女は商店街の方へと駆け出し、建物と建物の間の道へと消えた。
「鬼ごっこか。「烏宿亜紀彦」だった頃、娘にやってみたが、何が面白いのか分からんな」
だが多少の暇潰しにはなるだろう。自身の精神的抵抗(メンタル・レジスト)を軽々と突破するとは面白い異能だ。
魔術にてすぐさま異能を解除し、哉太を担ぎながらゆっくりと幼子の後を追う。
商店街に入って曲がり角へと到達する前に童女が顔を出し、魔王へと異能を使用する。その度に魔王は魔術を駆使して魅了を解除し手後を追う。
(オレを誘い込んでいるようだな。まあいい。ガキに誘き寄せられたオレに待ち構える存在がいれば面白い。
そいつの目の前でガキを嬲り殺すか、ガキの前でそいつを嬲り殺すかの違いでしかない。せいぜいオレに退屈させるなよ)
山折圭介の顔で醜悪に歪んだ表情を浮かべる。再び童女が角を曲がり、魔王もそれに続こうとしたその刹那―――。
「―――――ぐッ………!?」
ダァン!という銃声とともに圭介の脇腹に激痛と衝撃が走る。それに伴い、魔王も一瞬意識が飛ぶ。
肩に担いだ少年が道端に投げ出され、魔王はコンクリートに顔を叩きつけられる。
漂白した視界が戻り、グレーのセメントが映し出された瞬間、今度は背中に激痛が走る。
そこでようやく魔王は意識外で襲撃を受けたことを悟り、身体をアダマンタイト並みに高質化する魔術を繰り出そうとする。
しかし、その前に今度はいくつもの黒い鏡のような物質が張り付いた右太腿への激痛。
その直後に魔王ヤマオリの黒髪が金の混じった毛髪へと変貌し、戦闘形態へと移行する。
同時に周囲一帯に暴風が吹き荒れ、謎の襲撃者の肉体を押し戻す。
傷口や破損した内臓や骨を魔術にて修復しながら、襲撃者の正体を暴くために起き上がり、首を動かす。
そこには腰に日本の打刀と脇差を携え、大口径のリボルバーを片手に持った金髪の小柄な女性一人、薄笑いを浮かべていた。
「ほう。現地の人間に不意打ちされるとは思っても見なかったぞ」
「―――よう。初めまして……でいいな?あたしは虎尾茶子。よろしくな、自称魔王の幽霊くん」
◆
「Can be defeated……。そのままの言葉で受け取ってもいいのよね、Ms.チャコ」
「おうとも。根拠がなきゃ言わないよ。あたしが気休めでお前らを元気付けるおめでたい女に思えるか?」
「Don't think so。そのEvidenceを私達でも分かりやすいように教えてもらえるかしら?」
強い口調で問い詰める天才少女に役場職員は睨みを聞かせながら返答する。
アニカと茶子。決して歩み寄りを見せない両者の間に冷え切った空気が漂う。
「おい、中坊。魔王テスカポカトリとやらは山折圭介(クソ)の身体に憑依したんだよな?」
「……名前はテスカトリポカですが、はい。気絶した圭介さんの肉体を依代に顕現しました。虎尾さん、何か心当たりはあるんですか?」
「まあな。それと性質が似た存在もアニカちゃんと別行動した後に知ったし、丁度そいつを祓える手段もあたしの手にある」
一同の度肝を抜くような発言。魔王と性質が類似した存在と対抗手段。あくまで村役場の一職員でしかない茶子が一人で見つけ出したとは思えない。
しかし、こちらには慰めの言葉をかけることがない女が虚言を吐くとは思えず、内心はどうあれ目的が一致している以上嘘を履いてるとは到底思えない。
「とりあえずお前らが一番知りたがっている奴に対抗できる手段を教えるよ。中坊、この銃お前には見覚えがあるよな」
「――――こ、これは……!?」
茶子の腰のホルスターから抜かれた所々に文字が彫られ、装飾が施された大口径のリボルバー銃。
それが驚愕の表情を顔に張り付けた創の手元に向けて軽く投げられる。
反応が僅かに遅れたものの、若きエージェントは銃を難なくキャッチし、それをまじまじと見る。
「お前の知り合いの銃だろ。確か名前は鈴木、ジャック……ジャックでいいか。それで伝わるよな」
「…………Ms.Darjeeling。この銃、どこで手に入れました?」
創の声から明確な怒気が発せられる。雪菜が初対面時に聞いた、違う世界の人間と思わせる声色。
未だ成長過程にいる創が一流エージェントを下した茶子に勝てる可能性は限りなくゼロに近い。
それでも少年にとって狙撃や格闘術の教えを乞うた第二の師匠である戦闘特化エージェントの安否は無視できない。
拙い殺気をぶつける創に茶子は肩を竦める。
「お前と出会う前、SSOGクラスのクソ爺と殺り合ったんだ。その時にジャック氏のゾンビを見つけて両腕をへし折って銃と弾を拝借した」
「…………生きてはいるんですね?」
「あたしが最後に見ていた限りではね。一応近くの民家にぶち込んでおいたし、ジャック氏に余程の恨みを持つ人間が見つけなきゃ大丈夫だろ」
「貴女の言葉、一応信用します」
「そいつはどーも」
「無駄なことはしない」「こちらに対して虚偽の言動は吐かない」「リンとうさぎを除くメンバーに気を使わない」
これまでの茶子の言動から鑑みるに、ジャック氏は腕を折られた重傷を負っているが、命に別状はないらしい。
その確信を以て天原創は虎尾茶子への疑念を解消させた。
「……Mr.アマハラ。話についていけないんだけど、Ms.チャコとアナタがいうMr.ジャックってどんな人なの?」
「それは―――」
「ジャック氏――
ジャック・オーランドはハンターだ。一般的には知られてないけど、世界各国で危険種認定された規格外のグリズリーみたいな猛獣とかから民間人を守っている。
まあ、胡散臭い幽霊とか怪異を狩っている狩人として一部界隈ではヒーロー扱いされているけどね」
「……それを、何で貴女が知っているんですか?」
「あたしは役場職員だろ?二日前に役場で適当に喋っていたら「幽霊狩人
ジャック・オーランドの冒険」っていう自伝を渡されたのさ。中身はそれなりに面白かったからよかったけどね。
中坊、お前はジャック氏と姉貴を通じて知り合ったんだろ?」
「……ええ、その通りです」
雪菜の問いにジャックの奇行を思い出したのだろう、茶子はやれやれとため息をついて首を振りながら答えた。
ジャック氏の簡易プレゼンで茶子は一部を隠して話したものの、嘘は全くついていない。
まあ、創の知る
ジャック・オーランドらしいといえばらしい奇行だと納得する。
「それで話が逸れたけどこの銃がどうして有効なのか気になるよな。おい、中坊。もういいだろ、早く返せ」
「………はい」
怪訝な表情を創は浮かべるものの、素直に言葉に従って茶子へと投げ返した。
受け取った茶子はシリンダーから弾丸を取り出し、掌に乗せた。
「銃自体はあの自称魔王には効果は薄い。普通の銃弾をいくらめり込ませようとも奴が万能ならばすぐ回復させちまうだろうよ」
「だったら――――!?」
「でも、こいつらと予備六発は違う。ジャック氏の職場で開発された「怪異」特攻の銃弾。
標的が強ければ強いほど効果が増す癌細胞を怪異に植え付けるものだと思えばいい。
弾の効能とかはご丁寧に彫られている。時間がないから見せるのはなしな」
そう言い、茶子は取り出した銃弾を吟味する。その中から選んだ三発をジャックの銃に装填し、残りの二発はポケットへとしまい込んだ。
プロらしい茶子の言い分に非戦闘要員の雪菜やアニカ、うさぎは疎か経験が少ないとはいえ前線で活躍するエージェントである創も黙り込む。
土台は師匠である青葉遥とは違うモノを感じながらも、辿る過程は最強のエージェントと同じになると思えた。
違う反応を示すのは「チャコおねえちゃんがかっこいいリーダーになってる♡」と目を輝かせるリン唯一人。
「それで、後は奴と多少渡り合えるように成りたいからあたしの身体能力をあげられそうな支援(バフ)できそうな奴いる?」
「それなら私が「僕の師匠の職場で開発された薬品があります」天原さん……」
茶子に異能を使おうとする雪菜の前に出て、創はウエストポーチから薬品の入った五本無針注射器を取り出す。
雪菜の異能は自身の生命力を消費して肉体を回復・活性化させる「線香花火」。現在魔王による負傷した傷を回復させている彼女を簡単に酷使したくはない。
「これは何だい?」
「…………活性アンプル。身体能力や反応速度を爆発的に上昇させる代わりに服用者の神経をすり減らす劇薬です。
上昇効果は約十分と短時間しか効き目がない上、全神経――特に目に負担をかける薬です。
五本ある内の一本渡しますから、使いどころを間違えないように―――」
「おう、サンキュ。三本貰うわ」
忠告を最後まで聞かず、危険性を理解しても尚、茶子は創の手からアンプルを三本奪い取る。
信じられないような目で茶子を見る創。その様子をさして気にする様子もなく、変わらぬ平然とした口調で語りかける。
「お前らの言う通りの魔王なら性格がどれだけアホでもヤバい奴には変わりない。場合によっちゃあたしが逆に討伐される可能性がある。
それに一応、神経ダメージを回復させるアイテムがある。
オラ、中坊。そのアイテムとやらを身体に巻き付けるからあっち向け。あたしの裸はガキの見世物にされるほど安いものじゃねえ」
「あ、あの、茶子ちゃん……?」
「……ん。うさぎ、どした?」
ブラウスと下着を脱いで、心臓を覆うように直で包帯――回復能力が付与された――を巻き付けている最中の茶子にうさぎは声をかける。
創と茶子の会話の中で気になるキーワードがあった。わずかな時間だが多少場が落ち着いたため、思い切って聞くことにした。
茶子のうさぎへの対応はアニカ達三人に比べ、いくらかは柔らかい。うさぎ自身も茶子に対しては悪い感情を持っていない。
「創くんとの会話で「怪異」って言葉が出たよね?」
「言ったよ。ニュアンス的に魔王はあたしの知る怪異と性質が似てるって伝えたつもりだ」
不安そうな顔で背中を見つめるうさぎに、茶子は続けて声をかける。
「悪いけど、あたしのナップザックからデコった黄色いスマホと羊皮紙を束ねた本っぽいヤツ、それから悪いとは思うけどお前んちから拝借した家系図をアニカちゃんに渡してくれない?」
「すぐ傍に私がいるんだから、直接声をかければいいじゃない」
「嫌だよ、探偵に荷物漁られるのなんざ。一応お前の落とし物を拾ってやったんだから感謝してくれてもいいと思うけど?」
「There's no need for that。でも私のスマホを見つけてくれたことだけは感謝するわ」
「はい、アニカちゃん。もう落としちゃダメだよ」
「Thanks。ところで魔王に似た「怪異」って何かしら?それとこのParchment manuscriptとは何の関係があるの?」
うさぎから荷物を手渡されたアニカが茶子に疑問を投げかける。
その様子を雪菜は少し困惑の表情を浮かべながら、リンは何故か得意げな表情を見せていた。
「降臨させる怪異の特性が魔王戦だけじゃなくてVH収束の鍵になりそうなんだよ。まあ、良い機会だし一足先に教えとくか。リンちゃんは知ってるよな?」
「うん、しってる!」
「そっか。偉い偉い。あたしが言うからお口チャックしててくれよな」
「いいよー!」
元気良く返事するリンを言葉だけで褒める。それでも幼子はとても嬉しそうな表情を浮かべていた。
一同が静まり返った事を確認すると、一同から背を向けたまま声を上げる。
「中坊。お前も無関係じゃないからしっかりと聞いとけよ」
「…………分かってます」
「魔王テスカトリポカは依代に憑依して力を与える。その性質は山折村の絶対禁忌「巣食うもの」に酷似している。
魔王は一人で神を名乗る痴れ者であるが、「巣食うもの」は違う。分割され、それぞれが意志を持つ存在になった。二つとも真名は同一なんだ。
『彼女』の真名は―――」
◆
「気配遮断からの銃撃といったところか。勇者ケージの仲間の獣人もオレを暗殺しようとしていたな」
「ふーん。で、あたしの隠形はその獣人とやらと比べてどっちが上なん?」
「まあ同程度といったところか。しかし悲しいかな。地力の差はあちらが上だ。銃を使わなければならないお前に対してあちらは素手でオレの身体を貫いてきたぞ?」
「お前の世界では……だろ?足元簡単に掬われる魔王って案外大したことないんじゃない?」
軽薄な言葉の応酬で魔王ヤマオリと虎尾茶子は対峙する。
その最中で既に魔王に与えた銃創は巻き戻しのように再生し、ものの数秒で襲撃前と同じ肉体に戻った。
「この通りだ。現地住民にしては工夫を重ねてオレに傷を負わせたつもりらしいが、これで何の意味もなくなった」
「あら残念。ところで中には猛獣もぶち殺せる神経毒やらが入っていたはずなんだけど、急いで取り出さなきゃお前の仮住まいがヤバいことになるけど大丈夫?」
「ああ、道理で山折圭介の肉体が痺れているわけだ。まあ安心してくれ。肉体の痛覚はオレには届かないし、依代の奴にも痛みはない。オレの中で奴はお前を笑っているぞ?」
魔王の身体が淡い光に包み込まれ、「これで解毒はすんだ」と茶子に嘲るように笑いかける。
己の奇襲がたいして意味もなく終わったにも関わらず、茶子は「やれやれ」とわざとらしくため息をついただけだった。
「んで、取り込んだ銃弾はどうしたん?」
「取り込んだまま溶かしてこの肉体の栄養に変えたぞ?鉄分……だったか?人間に必要な不可欠な栄養素は」
「質問良いですか~?あたしらは手前の肉体で戦っているのにお前は他人の肉体で元の世界の魔法?を持ち込んで「俺TUEEEE」すんの無法すぎません?」
「ああ、そういえばお前達は持たざる世界の住人であったな。元々世界は不平等だ。搾取される側として諦めて己の運命を受け入れた方が楽になるぞ」
「いるよねこういう降って沸いた力でイキり散らかすアホ。器のサイズがたかが知れてるね」
煽りに対して煽りで返す舌戦。魔王は未だ顕現したばかりで本来の力を発揮できずにいるが、それでも眼前の娘程度ならば本気を出せばあっさりと殺せる力がある。
そもそも元の世界の住民と地球の住民とは肉体強度を始めとした地力が違いすぎる。
虎尾茶子は現地住民の中ではトップクラスの身体能力を誇っているのだが、魔王の世界ではせいぜい中級冒険者程度。ドラゴンとすらまともな戦闘ができそうにない。
だから敢えて乗ってやった。ただ殺すだけでは何の面白みもない。遊びを交えなければ退屈を紛らわせない。
「それでさ、魔王さん。お前何の取柄もない自称次期村長のクソガキの身体を乗っ取って何がしたいの?」
「おいおいオレが自主的にコイツを依代にしたって言いたいのか?風評被害もいいところだ。
コイツがオレを必要としたのさ。だからコイツの願いを叶えてやるために力を貸してやっているのさ」
「山折帝國……だっけ?頭逝ってるとしか思えないクソ下らない願い事だよな。やっぱ依代もお前も似た者同士だわ。
山折圭介の山折圭介による山折圭介のためだけの國。素晴らしいディストピアだな。圭介の味方する奴なんで誰もいなくなるんじゃねえの?」
恐らく茶子は先ほど遊んでやった天原創達と遭遇し、多少の情報交換をしたのだろう。ならば話は早い。
魔王は内心で面倒な説明を省くよう仕向けてくれた現地住民達に軽く感謝を述べた。
「まあそう言うな。お前のお陰で多少は退屈が紛れそうだよ。呪いの親玉とやらもわざわざ憑かれている人間を遣わしてくれるとは気が利いている」
「あん?あたしが誰の使いパシリだって?」
「自覚はないのか。ならばオレ達を観戦しているギャラリーくらいは見えているだろう?」
「リンちゃんはお前が振り落とした男の子を引っ張って隠れているはずだからここにはいないよ。お前、マジでヤクキメてるんじゃない?」
「それすらも目視できていないとは、中途半端な。茶子くん、少しキミには失望したぞ」
肩透かしを食らい、やれやれと肩を落とす魔王に茶子は「何言ってんだコイツ」と怪訝な目を向けていた。
魔王の目には茶子がどす黒いナニカを纏っているのが見える。そして魔王のすぐ隣には「大いなる呪い」の使い魔らしき影法師がくすくすと笑っていた。
「魔王さん。妄想ほざくのは個人の自由だけどさ、結局お前さんは人を小馬鹿にするくらいしか―――」
そう言い終わる前に茶子へ硬質化した拳が、頭蓋を粉砕せんと迫る。
その紙一重。茶子の姿勢が深く沈み、腰から打刀――哉太の持っていた――が抜刀される。
頭のあった位置を拳が通過し、打刀が頭上に振り抜かれ、魔王の腕を縦一文字に切り裂いた。
同時に抜かれた逆手持ちの脇差が勢いよく突っ込んできた魔王の腹を深々と切り裂く。
切り裂かれた流血が茶子の黒いブラウスを濡らす。魔王が茶子に視線を向ける直前、縮地にて魔王の脇を通り抜ける。
一連の動作が終了する。魔王は二つの裂傷を負ったまま茶子を振り返り、茶子は二本の刀を握りしめたまま魔王の方を向いた。
「いや、ずるくね?会話の途中でぶん殴ろうとするなんて」
「先にやってきたのはそちらだろう。だが、悪くない太刀筋だ。技術だけは彼の勇者に並んでいるな。少しはオレの中でお前の株が上がったぞ」
「うわー嬉しくねー。その株ドブに投げ捨ててくんね?」
切り裂かれた腕と鮮血が滴り臓物が顔を出す腹を魔術にて再生させながら、魔王は笑いかける。
その様子と彼の言動に心底嫌そうな顔をしながら毒を吐いた。
「少なくとも退屈はしなさそうだ。若き剣士よ、少しゲームをしよう」
「ゲームぅ?どうせクソゲーだろ」
「そう言うな。ゲームの
ルールは簡単だ。一〇分の間、オレはお前程度でも対処できる魔法(ほんき)を出す。お前はそれを耐え忍んでみせろ」
「うわやっぱクソゲー」
「呪いの親玉との前哨戦だ。奴と対峙する前のウォーミングアップに丁度良い」
そう言い、身構える魔王。だが、茶子は身構えず首を傾げたままでいた。
何かまだ言い足りないことがあるのかと不思議に思っていると茶子がわざとらしく手を挙げて問いかける。
「魔王さんさぁ。エージェントの中学生から聞いたんだけど、前の世界では聖剣と勇者に負けたんだよね?」
「…………それがどうした?」
「いや、怒らないで聞いてほしいんすけどぉ、今もビビってるって認識であってる?」
「…………」
こちらを徹底的に嘲る言葉に魔王の眉がピクリと動く。
その様子を薄笑いで眺めながら、茶子はポケットから無針注射器――活性アンプルを取り出し、首に打ち込んで言葉を続ける。
「つまり「俺TUEEE」したいから尻尾を巻いて地球(こっち)に逃げた訳だよね。どんだけ偉そうにしていても中身はゴブリンそっくりじゃね?(笑)」
「――――ゲーム開始だ」
◆
高く上った太陽が徐々に沈み始める。
閑静だった商店街に破壊の風が吹き荒れ、その渦の中心には黄金の髪の大男と艶やかな金髪の小柄な美女。
立ち並ぶ店舗を破壊しながら立ち回る二者の姿はまさに死の輪舞。
魔王たる男が茶子の周囲に黒曜石の槍を展開し、疾風の如き速度で一斉掃射する。
茶子は聖刀を握りしめて周囲の殺気を読み取り、自分を確実に抹殺する槍の軌道を計算する。
美女の矮躯に黒き槍が殺到する。一つ一つが着弾する時間差はコンマ数秒。
―――八柳新陰流『蠅払い』
腰の捩じりで回転し、四方八方から襲い来るヤクザを一刀のもと切り捨てる術理が一つ。
活性アンプルによって身体能力及び全神経が爆発的に情報した剣姫の技は、襲い来る漆黒の槍を一刀のもと切り払う。
「―――余所見をしている場合か?」
直後、魔王のテレフォンパンチが迫る。
魔術を付与されているのだろう。彼の腕には鎌鼬が纏わりついている。
直撃は即死。紙一重の回避では風の刃にて首から上がミキサーで砕かれたように粉微塵と化す。
ゆえに選択が迎撃一択。抜刀される脇差にて渦の中心である握りしめられた指に刃の中心を当て、弾き返す。
魔王の指に真一文字の傷が刻まれる。同時に一歩踏み出し、茶子の利き手に握られた打刀が下から上に上昇するように振り上げられる。
八柳新陰流『朧蟷螂』の応用。魔王は前屈みに突進してきたため、その体制を整えて回避するのは困難。
しかし、魔王には異能ではない第三の手がある。
地点指定を行い数メートル先に瞬間移動する回避(バックスタブ)。テレフォンパンチを仕掛ける前の場所に戻り、茶子の斬撃は空振りする。
「ふむ、オレが遊んでやった奴らとは一味違うな」
「当たり前だろ。お前がボコってイキり散らかしていた一人を除いた烏合の衆と一緒にすんなよ。
まああたしと同格の一人は特殊部隊のせいで満身創痍でめちゃくちゃ疲弊していたみたいだし、あの子が万全だったら結果は違っていたかもね」
「口がよく回る」
荒い息を吐きながらも不敵な笑みで返す茶子に、魔王は嘲りで返す。
「今度は宿主の異能とやらとオレの魔術を組み合わせてみるか」
依代の異能で商店街を彷徨っていたゾンビが三体茶子の前方数メートルに集まる
その直後、ゾンビの頭が溶解し、代わりに豹の頭の乗った出来の悪いコスプレ人間が生み出された。
コスプレ人間――戦士(ジャガーマン)の手にはそれぞれ魔力で紡いだアサルトライフル。戦士がかりそめの命を失えば即座に消える銃。
同時に茶子の頭上に魔力の雲が浮かぶ。戦士達を即座に抹殺しなければ頭上に魔力県が降り注ぐ仕様である。
「―――せいぜい頑張れよ、茶子くん」
その言葉と同時に豹頭の戦士たちがライフルを構えて引き金を引く――その寸前。
茶子が肉薄し、下段に構えた聖刀が二度振るわれ、豹の首がポトリと落ち、白い煙を上らせながら消滅した。
女の背後に魔力剣の雨が降り注ぐ。
――――そうして、魔王と研究所特殊部隊最強の戦いは続く。
活性アンプルにより茶子の身体能力及び反応速度は爆発的に上昇した。
八柳流最強の上昇幅は、山折村殲滅を掲げ、暴虐の限りを尽くしたかの八柳藤次郎を上回る。
しかし、妄言を吐く魔王はそれを軽々と凌駕した。
茶子の戦闘スタイルは銃があるものの剣が届くクロスレンジ。
だが、魔王は自身の魔力ブーストでそれを上回り、魔術による遠隔攻撃も可能。
己の技量で誤魔化していても彼の地力で押されつつある。
そして、運命の時が来る。
「―――存外、頑張った方だったな」
活性アンプルの効果が切れて肩で息をする茶子を見下しながら嘲笑する。
剣姫は顔を上げる。アンプルの影響で神経にダメージがあったのか、双眸と鼻から血を垂れ流している。
しかし、それでも茶子は不敵な笑みで魔王を嗤い返していた。
「これで詰みだ。矮小な現地民としては割とよく頑張ったほうだぞ、茶子くん」
「ああそうですか。……で、ゲームはどうしたん?」
「そういう形式だったな。オレはこの通り無傷で君はズタボロだからオレの勝ちだな」
未だ希望を捨てきれていない茶子へ出来の良い生徒を褒めるように魔王は語り掛ける。
このまま女を殺してもいいが、今のまま殺しても面白くない。
ふと隣を見ると、未だ影法師の少女がくすくす笑いをしていた。
「勝者の特権として聞きたいことがある。いいえとは言わせないぞ、茶子くん」
「へーへー、何でございましょうか?」
「山折村の呪いの元凶たる存在の名を言いたまえ」
「知らないっつったら?」
その言葉の直後、茶子の周囲数十センチを取り囲むように魔力剣の雨が降り注ぐ。
魔王が軽く指を鳴らすと地面に突き刺さった剣は塵のように跡形もなく消え去った。
「オレはあまり気が長い方じゃないんだ。質問はいいが無駄話はしたくない」
「おーこわ。じゃあ質問ね。それを知ってどうするのさ」
状況を分かっていないのか相変わらずの減らず口を叩く茶子に含み笑いを漏らす。
「ああ良い質問だ。山折帝國を作る際、オレがその名前を名乗ろうと思ってね」
「へえ。じゃあ今いるそいつはどうすんの?」
「調伏し、名を奪う。テスカトリポカではこの村では馴染み難いだろう?」
「まあそうだな。でもさ、そいつが聞いたらブチ切れて依代ごと祟られるよ?」
茶子の意外な言葉に魔王は嗤いを堪え切れず、プッと吹き出した。
隣を見ると影法師の少女がくすくす笑いを止め、じっと魔王を見上げていた。
「随分と酔狂なことを言う。呪いとは言っても大したことはあるまい。オレの世界では何人もの呪術師がいた。
この世界ではコードが全く違うが、似たようなものだろう。丁度いい学習教材だ」
「…………警告は一応したからな。いいよ、教えてやる」
今度は哀れみを込めて魔王へと言葉を残す。一息ついた後、村の娘は言葉を紡ぐ。
「この村に巣食う呪いは通称「巣食うもの」。かつてこの村の巫女だったけど『呪い』となり祟り神として転生した女だ」
「ほう、ありがちだな。それで、その女の名前は?」
「――――隠山祈」
「イヌヤマ」という名称を聞いたとき、魔王の脳裏を過ったのはかつて勇者一行を裏切った召喚師イヌヤマとこの地で殺し損ねた女子校生犬山うさぎ。
自分を見上げる使い魔たる影法師からはどちらの気配もしない。しかし、何かが似通っている。
「ま、どちらでも良いか。それでそいつの特徴は?」
「性質だけはお前と似てる。でもお前みたいにアホ丸出しじゃねえよ」
「まだ減らず口を叩けるのか元気のいいことだ」
負け犬の遠吠えのように毒を吐く茶子に思わず苦笑を漏らす。
これだけの情報が聞き出せればこの女は用済みだ。
「―――少し調子が戻ってきた。オレの魔術の実験台になれ、虎尾茶子」
「やれるもんならやってみやがれ、神騙り」
未だ己を侮り続ける茶子の挑発に、思わず笑みが零れる。
怯えも憎悪もぶつけず最期まで変わらない茶子に対して苛立ちを感じはしたものの、終わりが近ければ微笑ましさすら感じた。
精神体から肉体に魔力を伝わせ手イメージする。空想するのは煉獄の矢。標的を追尾し、着弾した瞬間、対象を一万度の熱で焼き尽くす地獄。
細胞一つ残さず燃え尽きた後、魂にも飛び火し、こちらは永劫の業火に焼かれ続ける。決して消えることのない魔炎。
未だ不敵な笑みを浮かべる茶子に左手三本の指で弓の形を作り、右手指で矢をつがえる様な形を取る。
くみ上げた魔力で灼熱の矢を作ろうとした瞬間――――。
―――その名を騙る痴れ者に、祟りあるべし。
魔王アルシェルの耳に、少女の声が響く。
「――――!?」
傍らにいる影法師が、口ずさむ。
同時に魔術のイメージが反転する。
「ぐ……おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!?」
山折圭介の肉体に灼熱の炎が燃え広がる。
逆流した魔力がアルシェルに飛び火し、精神体を蓄えた魔力ごと焼き尽くす。
実験台であった剣姫の前で倒れ、山折圭介の肉体は纏わりつく炎を消そうとゴロゴロと地面を転がる。
「―――だから言ったじゃん。祟られるって」
女の声が届く。同時に銃を抜いて弾丸を装填する音がアルシェルの耳に響いた。
(まずい……!オレはともかく、依代が殺される……!)
この地にて始めて魔王が焦りを見せる。
逆流した灼熱の矢の影響で魔力は大幅に減少。魂への攻撃も兼ねていたため、徐々に取り戻しつつあった力も完全に潰される。
圭介の肉体とアルシェルの魂を修復するため、回復魔術の使用を試みるも、再び声が届く。
――――その名を騙る痴れ者に、祟りあるべし。
傷が、開かれる。
「な……なんだお前達は……!?ぎいいいいいいいいいいいいいいいいいいいい!!」
山折圭介の肉体でアルシェルは絶叫する。
魔王の口に悍ましい感触が伝わる。激痛のあまりせき込むと、口から頭の部分だけ傍らの影法師の頭を持った蛆が吐き出された。
回復魔術は正常に使用され、圭介と魔王の傷は元通りに回復した。しかし、同時に彼の中に巣食う「ナニカ」を活性化させた。
圭介の肉体を介して植え付けられた呪巣。実体を持たないそれは精神体に刻まれた魔術式を食い荒らし、書き換えながら成長し、外へと這い出る。
取り戻した魔術は蛆が食い尽くす。それによって時間によって徐々に取り戻すはずだった魔術(かのうせい)は断たれる。
「く……鬱陶しい!」
怒りの赴くまま、魔王は吐き出した蟲を全て手で叩き潰す。
殺された蟲は何も吐き出さず、塵となって風に飛ばされた。
「お前には何が見えているんだよ」
冷たい銃口が、四つん這いになった圭介の背中に当てられる。
「ったく、もう少し早く本気出してくれなかったかなぁ。無駄にダメージ食らっちゃったじゃん。ヤマオリ・テスカトリポカ。いや、カラトマリ・テスカトリポカ」
首を動かして声の方へと振り返るとつい先ほどと変わらない、徹底して己を見下した虎尾茶子の薄笑いが深紅の目に飛び込んだ。
「お前の性根は果てしなく小物だけど力だけは最大クラスの脅威だ。あたしが何の対策もなく馬鹿正直に戦おうと思った?」
「な……ならば、いつから……?!」
「最初からだよ。不意打ちが成功した時から終わってた。あたしの忠告通りに銃弾を取り出していれば良かったんだ」
「だが……!頼みの神経毒はすでに解毒……?!」
「バーカ、あれは囮だよ。本命は別だ。てめえが吸収した弾丸は呪いを凝集した弾丸。
『呪詛への抵抗弱化』『呪詛返し』『土地神宿し』。ここまで綺麗に嵌ってくれるとは思わなかったよ。
それじゃもう一発いっとくか。あたしのおごりだ、気にするな」
「まっ―――――」
魔王が最後まで言い終わる前に、辺りに銃声が響く。
◆
「私は反対です」
茶子がリンを連れて行くと宣言した瞬間、雪菜は渋い顔をした。
雪菜だけではなく、うさぎも同じ考えであった。
「そうだよ、茶子ちゃん。私も反対。こんな小さな子だよ。もしかしたら魔王の巻き添えになっちゃうかも」
「でも、だ。奴を誘き寄せなければ何も始まらない。それに、リンちゃんの異能は陽動には持って来いだ。
安心しろよ、うさぎ。この子を死なせるつもりはない。この子の異能、知ってる奴いるよな?」
そう言って茶子はアニカと創に目を向ける。
探偵少女は苦い顔をしながらも頷き、エージェント少年は同様に複雑な顔をする。
「No problem。Ms.セツナもMr.アマハラも、ウサギも心配する必要はないわ。リンの異能の範囲は広いから気づかれずに誘導することが可能よ。
それに、Ms.チャコもリンをきちっと守ってくれる……って事でいいわよね?」
「そこだけは信用してくれ。誘い込んだらすぐに離脱させる。リンちゃん、あたしの言うことなら聞いてくれるよな?」
「うん!チャコおねえちゃんのじゃまはしたくないもん!リン、いいこだよね?」
言い終わった後、幼い姫君は愛しの王子様に抱き着いて甘える。茶子は苦笑し、リンの艶やかな黒髪を撫でてあげた。
一同は完全には納得していない。しかし、魔王打倒のためには反論を吞み込む他なかった。
事実、魔王の手によって犠牲者が出ている。現状戦力で主軸になるのは間違いなく虎尾茶子。
「あの、茶子ちゃん。少しいい?」
「いいよ。何でもいいな」
「囮、私じゃダメかな?私の異能は動物さんたちを召喚する異能だし、もう白兎――ウサミちゃんを呼べるから。
そ、それからウサミちゃんはとても足が速いし、魔王を誘き寄せるのだって―――」
「ダメ。聞く限り魔王は召喚獣には興味なさそう。それに例えターゲットが向いても奴の魔法で狩られる可能性の方が高い」
「あ……!」
見落としていた可能性にうさぎがうなだれる。リンを守る以上に姉を殺した仇敵に一泡吹かせたかったのだろう。
その気持ちが何となく伝わり、茶子もうさぎを詰るつもりはなかった。
結論が出たことを感じ取り、創が話を進めるために口を開いた。
「では、議題を変えます。虎尾さん、魔王を弱体化させた後はどうするつもりですか?」
「そうだな。それは―――」
銃に装填していなかった残りの二発をガンホルスターの内部ポケットにしまい込み、茶子は答えを出す。
「――――依代の『山折圭介』を引き摺り出す」
◆
瓦礫が辺りに散らばった商店街にて再び始まる戦闘。
だが、演者は変わらずとも今度は先程のような暴風は吹き荒れず、規模も縮小化された。
そして、演者の役割も反転する。
聖刀を振るって魔王を切り刻まんとするのは八柳流免許皆伝、虎尾茶子。
対するはその鋭き斬撃を得意の魔術を使わずに、山折圭介の肉体で回避し続ける魔王。
埋め込まれた四発の銃弾。その内の三発が山折圭介の肉体から魔王の精神体に伝わり、呪厄に浸食されていく。
茶子の方も全くの無傷ではない。つい先程の戦闘で彼女の肉体は酷使され、神経のダメージを始めとした傷は身体に巻かれた異能の包帯で回復しつつあるも疲労までは抜けていない。
だが、それでも現状の魔王を追い詰めるのには十分だった。
(クソ……このままでは……!)
他者を嘲る余裕が消え、魔王はひたすら剣姫の攻撃を回避し続ける。
『呪詛への抵抗弱化』『呪詛返し』『土地神宿し』の三つの弾丸。一つ一つなら効果はそこまで効果は薄く、弱体化前の彼ならばあっさりと解呪できていたであろう。
しかし、時間が置かれずに埋め込まれた三発はほぼ同時に呪いを発現し、魔王の依代である山折圭介を浸食した。
溶かされた吸収された呪いは相乗効果を発揮してそれぞれが絡み合い、複雑な呪詛に変化した。
発現した呪いを解除するためには憑依した魔王自身が本来のスペックの1パーセントでも取り戻さなければ難しい。
そのための緊急措置として、呪いに対する抗体を魔術にて作り出そうとしているのだが―――。
くすくすくす。
魔王の耳元で囁く少女の声が、それを許さない。
彼が魔力を汲み上げて魔術を使おうとする度に精神体が浸食され、目覚めた可能性の目を摘み取る。
回復魔術は最悪だ。使おうものなら魔王の内面に巣食った呪いが勢いを増し、魔術を別のものに書き換えるどころか技能回顧の可能性すら塗り替える。
軽く身体能力向上する魔術で自身にバフを施しても本来のスペックを発揮できない。
魔王の魔術は現在進行でコードを流動的に書き換えられ続けているため、複雑な術式の大規模魔術は大量のエラーを吐き出し続けて実質使用不可。
地殻変動クラスの大量魔力を消費するのを承知で、初級クラスでしかない数秒先の未来を予知できる魔術にて回避し続けるしかない。
呪いへの適応には年単位の時間が必要になっている。
現状を打破するためにはただひたすら茶子の斬撃を回避し続け、魔力を練って抗体を作り、機をうかがうほかなない。
「―――何ボーっしてやがる。自称魔王」
「しまっ―――ー!!」
斬撃を回避し続ける中で集中力が途切れ、未来予知の魔術の効果が切れる。
赤い瞳に映るリボルバーの銃口。初級レベルの攻撃魔術すら封じられ、魔力大量消費を承知の上でバリアを張ろうとするが。
「遅えよ、クソアホ」
冷酷無慈悲な宣言。銃弾は再び魔王の腹を抉った。その勢いで魔王は仰向けに道路に転がった。
未だ体内に残る呪弾二つ。取り出す時間も技術も圭介と魔王は持っていない。
しかし―――。
「ハ、ハハハハハハハハハハ!!」
「うわキモ。なんだ急に。気でも違ったか?」
突如高らかに笑い出した魔王に剣姫の顔が引き攣り、後ずさりする。
その様子すらツボに入ったのか、魔王の哄笑は止まらない。
「ハハハハハハ……ハァー。オレに卓袱台返しを仕掛けるとは、なかなか面白かったぞ、女」
「ああそう。で、何が変わったの?」
状況を掴めていないのか、呑気に声をかける茶子にどす黒い邪悪な笑みを返す。
「お前が埋め込んだ呪詛の抗体がようやく完成した。成程、これがカタルシスか。中々面白い!」
「ふーん、良かったねー。抗体ができても進行を遅れさせるのが精一杯だろうに。それで?」
「少なくともお前達を鏖殺できる力を取り戻せたのだ!もう油断はしない。散々楽しませてくれた礼をしてやろう」
ぎらついた赤い眼を向けられた村娘はぶつけられた殺気に反応せず、心底呆れたように淡々と言葉を紡ぐ。
「そりゃすごい。てめえは魔法さえ使えればあたしらを全員殺せるわけだ。その技術も持っていると。
でもさ、お前が依代にしている圭介くんはどうなの?」
「何を―――」
言葉が終わる前に魔王は沈黙し、体躯と異形と化した肉体はそのままに燃えるような赤眼が黒い瞳に戻り、黄金の髪が髪の先が茶色の黒に戻る。
四発目の弾丸は「反魂」。銃の持ち主が「巣食うもの」に取りつかれた少女に飲み込ませ、彼女の肉体を傷つけずに炙り出すために持っていた弾丸。
依代は荒く息を吐いて、下手人である小柄な美女を睨みつける。
「よう、圭介。うちの哉くんがお世話になったな」
「てめえ……。虎尾、茶子……!!」
◆
昔から、山折圭介と八柳哉太は日野光には敵わなかった。
「こらー!何喧嘩してるの=!?」
広場端にある公園の中。少女が怒声を上げて二人の少年に駆け寄る。
「何って……哉太がおれのポーズがかっこ悪いって言ったから……」
「うう、ぐす。うえええええん……!」
釣り目がちの少年が座り込んでべそをかく少年のシャツを引っ張りながらばつの悪そうな表情を浮かべる。
土塗れの二人を見て、駆け寄ってきた少女は大きくため息をついて―――。
「いたっ!何すんだよ、光!」
「もう終わり!これ以上やったら怒るよ、圭ちゃん!」
「ぐすぐす、光ちゃん。おれ、こうすればかっこよくなるって言っただけなのに……いてっ……うえええええええん!」
「言い訳しない!いい加減泣き止みなさい!、二人とも八歳にもなってかっこ悪い!」
喧嘩両成敗。拳骨を食らわせた少女は眉を吊り上げて二人を睨みつける。
その後、座り込んだ少年を立ち上がらせ、そっぽを向くもう一人の少年と向き合わせた。
「はい、喧嘩はもうおしまい!仲直りの握手しなさい!」
大声を上げ、未だそっぽを向く少年と目をこすり続ける少年の腕を掴んで前に出させる。
不貞腐れる少年も泣きべそをかく少年も少女には逆らえず、二人とも手を取り合おうとして―――。
◆
「どうした茶子先輩よぉ!薬漬けにならなきゃ何もできないってか!?」
「チッ、威勢だけは一丁前だなァ、圭介ェ!」
破壊された店舗が立ち並ぶ商店街。その大通りにて、廃村の主と剣の乙女が衝突する。
表舞台に再び舞い戻った魔王の依代――山折圭介は己の内側より聞こえる声を無視し、魔術を放つ。
対し、虎尾茶子は連戦により消耗しており、傷ついた神経を異能の包帯の力で回復するためにもその猛攻を回避し続ける他なかった。
その間にも魔王の魂は抗体で症状を抑えられているとはいえ浸食され続け、圭介は認識していないものの口から魔術式(かのうせい)が吐き出され続ける。
茶子の足元が淡い光を放つ。その直後地面から黒曜石の弾丸が撃ち出される。
異常を察知した剣姫は素早く前方に跳び、直撃を免れる。しかし、それを待ち受けるは圭介の右ストレート。
急ぎ手に持つ聖刀で防ごうとするが間に合わず、拙い身体能力向上の魔術で威力を増した拳が茶子の胸部を強かに撃ちつけた。
その勢いで、反対側にある木造の壁を破り、小洒落たカフェの店内に強制入店した。
本来ならば肋骨を砕いて心臓すら止めかねない一撃。しかし、茶子の胸から背中に巻かれた犬山はすみが付与を施した包帯が衝撃を緩和し、打撲程度の負傷に留める。
追撃に茶子がいる店内の一帯を吐く吐息すら凍りつくす絶対零度の空間を作り出す。
しかし、未だ健在の茶子は起き上がるとまっすぐに圭介へと向かっていき、その体に聖刀を振り下ろす。
確実に抹殺できたと確信していた圭介はその出来事に動揺するがすぐに余裕を取り戻し、魔力で作り上げた鋼鉄の壁で襲い来る刃を弾いた。
「すげえ頑張るな。本当に感心するぜ、アンタ。でもさ、状況分かってないだろ、茶子先輩?」
「お前よりは理解しているつもりさ。神経は大分元に戻って、目もハッキリと見えるようになった。でも少しだけ身体が痛むかな」
「いつもより動きにキレがないんだよ。魔王の奴、なんでこんな雑魚に手間取ってたんだ?」
魔王戦と同様。圭介の嘲りに対して茶子は挑発じみた言葉で返す。
強大な力を手に入れた凡人は傷を負った達人を軽視し、己に力を与えた存在をせせら笑う。
「なあ、圭介くん。君さあ、いつもとキャラ違うよね。もしかして魔王に人格捻じ曲げられたんじゃないの?」
「ハッ!だから何だってんだ?」
「魔王が全ての元凶って聞いてたろ?アイツが光を殺した仇だって何でキレないか不思議だなぁ」
わざとらしく困ったように額に手を当てる茶子。その滑稽な仕草を性根を歪まされた少年は鼻で笑う。
「そんなことはもうどうでもいい!魔王は願いを叶える力を持っている!奴の力があれば元通りどころか、俺の思うがままに世界を変えられる!」
「それが山折帝國っていうトチ狂った思想に変わったわけだ。死んだ奴らを生き返らせるのは一億歩譲って理解できるとしても、生きている珠とか哉くんとかどうするの?」
再び茶子からの馬鹿馬鹿しい問い。圭介は腹を抱えて大笑いする。
「あのクソ野郎が好きな奴がアンタだっけ?そりゃ気になるよな。死んだらそのままだ。珠は俺と光に必要な存在だから生かしておいてやる」
「―――――一応伝えておくけどさ。あたしの見る限り前のお前も、あの子も、もう一度友達に戻りたいって思っていたはずなんだけど」
「知るかボケ。勝手にそう思ってろっての。光を失った俺だけが不幸で、俺らを裏切ったアイツだけが何も失っていないなんざ納得できるか。だから―――」
蓄積された魔力の莫大な消費を顧みず身体能力を向上させ、茶子へと肉薄する。
「あの野郎には俺より不幸になって貰わねえと気が済まねえッ!手前の罪から勝手に逃げ出した金魚の糞野郎が俺達の仲間なんて絶対認めない!
「くっ…………!」
剣姫の矮躯へと村王の拳の連打が殺到する。息をつかせぬ猛攻。茶子にはその殺気を読み取り、聖刀で嵐を凌ぎ切ることしかできないでいた。
「目の前で金髪のクソガキを串刺しにした時の奴の顔は嗤えたな!あれが絶望したって事か。ざまあみやがれってんだ!
今度はアンタのミンチを見せたときはどうなるかな?もしかすると目の前で自殺しちまうかも知れねえな!」
体勢を崩してたたらを踏む茶子。その隙を狙ってバフを重ね掛けした大振りの拳を茶子に叩きつけた。
再び吹き飛ぶ剣姫。今度はコンクリート壁に衝突し、彼女の身体に崩れたブロックが降り注ぐ。
首だけを残し、その肉体をミンチに変えようと足を踏み出そうとしたその刹那。
「―――ああ、そうかい。そこまでお前は腐っちまったか。王仁や沙門のクソ共そっくりだわ。クソ爺にも負けちゃいねえ」
身体に乗ったブロックを振り払い、虎尾茶子が立ち上がる。
圭介を射抜く目は絶対零度。ペっと血の混じった痰を吐き捨て、怪訝な顔をする圭介を見据える。
「ハッ。そのザマで吐く言葉がそれか?!次はどうする?腰の拳銃で俺の頭でも撃ち抜いてみるか?」
「お前を叩き潰すのには刀も銃もいらねえよ」
聖刀を納刀し、腰のリボルバーをホルスターごと後ろへと投げ捨てる
「アンタのお得意分野放り出して何がしたいんだよ。状況分かってないなら達人止めちまえ」
「お前何にも分かってねえな。もうお前の行動は全部見切った」
最強はガキ大将に向けて拳を構える。
「来いよ、クソガキ。お姉さんが社会の不条理(
ルール)ってもんを教えてやる」
◆
『―――きて』
微睡の中、誰かの声が聞こえる。
夢か現実か。揺蕩う小波に漂っているように心地良く、それでいて疲れが溜まっているように身体を動かす気になれない。
『せめて、さいご、くらい』
過ぎる幼い誰かの声。最期を悟ったかのような穏やかな声。
彼女は何を伝えようとしていたのか。その答えを知ることはもう二度とない。
他ならぬ、愚かにも親友と思っていた人でなしの手によって、殺された。
もう疲れた。このまま眠ってしまおう。
『起きて』
ひんやりとした手が当てられる。その冷たさで目を覚ます。
『良かった。戻ってこられたんだね。おはよう』
影法師の少女の小さな手で大事なものに触れるように優しく撫でる。
ここはどこだ……と聞こうとしても、伝える口がなく、よく考えれば少女を認識する目も耳もない。
『ここは現世と幽世の間。まだ、たくさんの人がまだここに留まっている』
穏やかだが感情の読み取れない幼い声。
ならばここに彼女はいるのか。自分はどうなっているのか。
『あの子はここには来ていない。アナタもあの子も、まだ生きている』
口のない体でほっと息をつく。
だったら、自分がここにいる理由は何でだろう。
『わたしがアナタを呼び寄せた。わたしから名前を取ろうとした余所者にも裏切者にもすきにはさせたくなかった』
ほんの少し、怒気を込めた少女の声。続けて彼女は優しげな声で語り掛ける。
『アナタが十歳のとき、森の洞窟の前でもう一人の女の子と一緒に手を合わせてくれたのを覚えてる?』
回想される出来事。立ち入り禁止区域で、今もずっと想いを寄せている彼女と一緒にそこを見つけて、何となくそこで誰かが眠っている気がして。
お腹が空いているだろうからって、おにぎりとパックのお茶を供えて、名も知らない誰かさんに手を合わせた。
その次の日、お供えは跡形もなくなっていて、森の獣が食べたんだろうって思っていた。
『あそこでわたしが眠っていた。忘れられていたわたしをアナタ達は思ってくれた。とても嬉しかった。
もちろん、アナタ達は決して清純潔白な人達って訳じゃないのは知ってる。それでもほんの少しの優しさを手放さなかっただけ』
影の少女からかけられる感謝の言葉。
そしてまた少女の手が自分を優しく撫でる。
『本当はアナタだけじゃなく、アナタと一緒に手を合わせてくれた子も、辛いことがいっぱいあった子も、力を継いだ異国の血を引く子も、無邪気で小さな子も、いなくなった友達のために頑張る子も、わたしの―――も。
皆の力になってあげたかった。でも、今のわたしではアナタ一人が限界。多分ここに呼べるのはこれが最初で最後。いつか、アナタ達がわたしの前に立ち塞がっても、決してアナタ達の心を穢したりはしない。約束する』
指切りのように少女の影は小さな小指を出す。それを自分の小指で握り返すイメージを返すと、彼女ははにかんで笑った。
『アナタ達はここに来て欲しくない。でも、それ以上に余所者の糧にされるのは許せない。わたしも精一杯頑張るから、安心して』
その言葉の直後、頭に冷たい感触。
『もうそろそろ時間。せめて、アナタがもう一度立ち上がれるようにしてあげる』
身体に木漏れ日のような淡い光が注ぐ。そのすぐ後、少女から離れるように身体が浮く。
キミの名前は何?そう伝えようにも、もう自分の声は少女には届かない。
『現世に戻るとき、きっとアナタはここに来た記憶は忘れてしまう。それでもわたしを祈ってくれた時のように、お話ししたことを忘れない。覚えていなくてもいい。それでも聞いて』
――わたしの名前はいのり。もう片方の隠山祈。
◆
頭に水が足らされる感触で八柳哉太は目を覚ました。
「やっとおきた。カナタおにいちゃんはほんとうにおねぼうさんだね」
目を開けると、しゃがみ込んだ長く美しい黒髪の女児――リンが蔑んだ目で哉太を見下ろしていた。
少年が目を覚ましたこと確認すると、ペットボトルの蓋を閉めて起き上がった哉太を睨みつける。
「リンちゃん、だよな。君が助けてくれたのか」
「そんなのどうでもいいでしょ、ねぼすけ」
分かっていたことだが、リンの態度は哉太に対してだけ刺々しい。
辺りを見渡すと馴染の飲食店の看板が目に入る。どうやらここは商店街のようだ。
約一時間の間に何があったか全思い出そうしても上手くいかず。ただ外道の手によって殺されたはずのアニカが生きているという確信だけがあった。
軽く肩を回す。最早元友人とすら呼びたくもない男との喧嘩や魔王との戦闘の疲労は完全に消え、以前のような動きができそうだ。。
喪失感や精神的な疲労は戻りきっていないが、完全に忘却するよりはその痛みを抱え続ける方が良い。
「何にせよ、また動けそうだ。ありがとな、リンちゃん」
小さな少女の頭を撫でようとすると、パシッと小さな手が哉太の手を弾く。
理由は分からないが、相当リンに嫌われているらしい。結構ショックを受けた。
落ち込む哉太をリンは睨みつけて、ボソリと呟く。
「チャコおねえちゃんがずっとがんばっているのに、カナタおにいちゃんはおひるねしてるなんてひきょうものだよ。
リンとちがってたくさんがんばれるくせに……。おひるねしないであっちにいるチャコおねえちゃんをたすけないカナタおにいちゃんはきらい」
◆
剣を手に取らない剣姫と魔王の力を継いだ素人の戦闘は一方的であった。
「さっきの減らず口はどうしたァ!ガキ大将様はか弱い乙女すら押し倒せねえのか!?男名乗るのやめちまえクソガキィ!」
「こ……んな……!?アンタのどこがか弱い乙女なんだよ!全女性に謝れよクソ女ァ!」
自称か弱き乙女の拳打が髪を黄金に染めた男の身体を幾度となく叩き込まれる。
反撃しようにも両腕は八柳流の関節技で肘をぽっきりと折られ、ブラブラと力なく垂れ下がるばかり。
魔術で回復、または攻撃を試みようにもその直前で茶子の抜き手が圭介の喉仏を打ち、激痛と共に咳き込まされる。
それでも全身に刃を生やして攻撃封じの魔術が成功し、反撃しようと試みるも、足が傷つくのにも関わらず軽い足払いをかけられて前のめりに転倒する。
倒れこむ寸前、唯一生身の顔面に茶子の膝蹴りが鼻面にヒットし、頭に星が浮かぶ。
攻撃は全て見切られ、その反撃が圭介の倍以上の手数で叩き込まれる。既に村王は村娘のサンドバッグ状態だった。
(哉太と……同じ道場のはずだろ……!?何で俺が一方的にボコられるんだよ……!)
剣術や身体能力では哉太が圧倒的に上。しかし喧嘩に限れば圭介の方が強い。魔術すら使える今ならば、八柳流最強でも難なく倒せると思い込んでいた。
だが現実はその真逆。哉太の想い人の格闘術は田舎道場の門下生とは思えぬほど洗練されていた。まるで特殊部隊のように。
拳銃を持った素人が素手の特殊部隊員に取り押さえられる様に力の差は歴然。掌で内部に衝撃を伝える裏打ちが圭介の腹部を打つ。
衝撃が伝わり、身体をくの字に折る。咳き込んで空っぽの胃から胃液が吐き出される。同時に体制を低くした頭上から聞こえる良く澄んだ女の声。
「馬鹿にでも分かるように言ってやる。お前がどんだけ絶望したのか知らないけどよ、てめえの不幸に酔いしれて悲劇の王子気取るんじゃねえクソガキ!!」
その言葉の後、圭介の頭に衝撃が走る。意識が闇に沈む寸前、最後に見えたのはブーツの踵を振り下ろした茶子の蔑んだ双眸。
◆
空がオレンジ色に染まり、夕日が山折高校を照らす。自然的な明かりが校舎内のとある一教室を窓越しに電灯代わりに光を灯す。
教室の中には一組のカップルらしき男女。青春の真っただ中のカップルの様に机を挟んでお喋りをしていた。
「―――でさ、俺は皆と元通りの日常を取り戻したいから、山折帝國を作りたいんだ」
「…………そう」
少年――山折圭介は目を輝かせて楽しそうに話しているのに対し、反対側の少女――日野光はただ相打ちを打つだけ。
お喋りとは言っても一方的に圭介が光に理想を話しているだけであった。
圭介の顔は希望に満ち溢れているのに対し、光の顔は夕日の逆光を浴びてその表情は窺い知れない。
「お前も生き返って元に戻れる。みかげも元通りになってまた五人で馬鹿をやれるんだぜ。楽しみだよな」
「…………そう」
「さっきから反応薄いな。どうした光。具合でも悪いのか?」
表情の見えない恋人に心配そうな顔で声をかける。それにも大した反応を圭介にせず、沈黙するばかり。
アオハルの恋人同士とは思えない沈黙が続く。少年はそろそろ帰ろうか、と声をかけようす。
「――貴方の理想郷『山折帝國』に哉太君はいるの?」
感情が読み取れない恋人の声。意図が分からず、やっと反応してくれた光に圭介は明るい口調で答えを返す。
「あんな奴に居場所なんかねえよ。そのまま一人で勝手に死んでればいい」
「でも、哉太君は珠に何もしていない。魔王による冤罪だったんだよ」
「そんなことどうでもいいんだ。俺と光の世界にあの野郎はいらない」
「それは貴方の本心で言ってるの?」
「当たり前だろ」
軽蔑しきった声の後、今度は優しい声で恋人へと語りかける。
「もう少しで全部元に戻る。魔王の力(デウス・エクス・マキナ)が俺達の希望を叶えてくれるんだ。だから――」
少年は愛しき恋人との手を取ろうとするが、その手を乱暴に振り払った。
信じられないような目で少女を見る少年。そして、断ち切るように告げられる禁忌の言葉。
「別れましょう」
日が落ち、夜が訪れる。逆光が消え、薄闇に浮かぶ少女の顔は、少年を徹底的に軽蔑したものだった。
光の冷え切った視線が圭介を射抜く。いつも朗らかに笑っていた少女と同一のものとは思えない、思いたくないもの。
「ひ……ひか、り……?」
「そのままの意味よ。もう無理。貴方には付き合いきれない」
声を震わせ、手を伸ばしかける圭介の希望を踏み潰すかのように別れを告げる。
嘘だ。そんなのは嘘だ。だって光は俺のことをいつも想ってくれていて、哉太と絶交した時も俺に寄り添ってアイツの存在を否定してくれて。
それに都合のいい奇跡(まおうのちから)があれば、あいつの記憶を綺麗さっぱり消して、それで、またあの日に戻れるはずなのに。
「―――私が好きになったのは、力に溺れて私達を都合の良い人形に変える貴方じゃない。
最期の力を振り絞って特殊部隊から庇ったのは、貴方にそんなことをさせたいからじゃない」
次期村長候補の少年を冷たく見据え、言葉を紡ぐ恋人の少女。
呆然とする圭介。暗闇に染まった教室の中。それ以上に黒いヒトガタが、少年を指差す。
くすくすくすくす。
心から可笑しそうに嗤う。
その笑い声にハッとする。そして恋人の「都合の良い人形」という言葉に怒りを覚え、ダンと両手で机を叩く。
「俺が皆をそういう風にするわけないだろ!いい加減目を覚ませ!!」
「今の貴方ならするでしょ!!!」
それ以上の怒鳴りで返され、言葉を失う。その迫力に押され、少年は黙り込んでしまう。
思考停止した圭介を他所に光は言葉を続ける。
「私はね、貴方が思っているような清純潔白な人間でも貴方の全てを許すイエスマンでもないの。
私はずっとみかげちゃんに嫉妬していた。お淑やかで頑張り屋さんなあの娘に。もしかしたら貴方が振り向くのはあの娘かもしれないって思ってた。
それから、哉太君の好きな人が茶子さんだって分かったとき、とても安心したの。もしかしたらドロドロの関係になって私達の居場所がなくなっちゃうかもって」
「だ……だったら……!」
「貴方が哉太君を追い出したとき、私はとても悲しかった。でもいつかはもう一度笑い合えるって希望を捨てなかった。だから私達三人は手を取り合った。
何で哉太君が私と貴方が恋人関係を知ってたって思う?私が珠にお願いしてLINEを送ってもらってたの。
その様子だと哉太君が山折村に戻ってきた理由も知らないでしょ。私達がおばさん達に頼み込んで呼んでもらったの」
「…………だったら、俺に一言声をかけてくれても……」
「自己分析くらいしたら?貴方も哉太君も突っぱねるでしょ」
「………………」
こちらを思いやる気持ちの欠片もない、圭介を遠ざけるような冷たい言い分に圭介は言葉を紡げない。
誰よりも大切な光と別れたくない。その思いを口に出そうとしても、否定されるのが怖くて言い出せない。
アナタがやろうとしてること、度見たい?
虚空から少女の声がする。圭介が反応しないため、代わりに光がその声に向かって「うん」と頷く。
くすり。そんな笑い声が聞こえて、視界が白く染まる。
◆
「はい、喧嘩はもうおしまい!仲直りの握手しなさい!」
光に言われ、泣きべそをかく哉太と強制的に仲直りさせられそうな圭介の手。
少女に掴まれた腕を振り払い、きょとんとした哉太の顔面を殴りつける。
「ぐえ……!」
「きゃーー!何してるの!?喧嘩はおしまいって言ったでしょ!?」
「うるせえ!おれに指図すんな!」
「きゃっ!」
制止しようとする光を突き飛ばし、鼻血を垂らした哉太を突き飛ばして馬乗りになる。
そして拳を振り上げて何度も殴りつける。
「が……ぎぃ……ウグゥ……!ご、ごめんなさい圭ちゃん!許してよぉ……!」
「許すわけないだろ……哉太の分際でおれに逆らいやがって……!」
「ご、ごめんなさい……!二度と圭ちゃんには逆らいませんから許してしてください……!」
「それじゃ足りねえよ!」
「お、おれのお小遣い全部上げます!剣道も止めますからもう殴らな……ぎゃん!」
「そんなの当たり前だろ!おれに逆らった罰としてサンドバッグになれ!」
腕で顔を守りながら号泣する哉太。そんな彼に取り憑かれたように何度も拳を振るう。
「ハハッ!お前がこんなザコなんなら道場の茶子さんも大したことないんだろうな!」
「―――――ッ!」
「悔しかったら何か言ってみろ!おれが全部叩き潰して――うわッ!」
拳を振り上げた圭介が突き飛ばされる。
予期せぬ反撃を食らった圭介の前にはふうふうと荒い息を吐く顔を腫らした哉太が立っていた。
「茶子姉を馬鹿にするなーーーーーー!!!」
「てめえ、何を――――ぎゃん!!」
怒りの形相を浮かべた哉太が思い切り圭介の顔面を殴りつけた。
衝撃にもんどりうち、鼻を拭うと赤い血が垂れていた。
格下の子分に殴られた屈辱が逆鱗に触れ、ふらつく哉太を突き飛ばしてもう一度馬乗りになる。
「ハハハッ!ざまあみやがれ、クソ野郎!」
数えきれない程のパンチが子分へと降り注ぐ。
次第に哉太の反応も鈍くなる。鼻は潰れ、顔は目が隠れる程パンパンに腫れあがっていた。
それでも気が晴れず拳を振り下ろそうとするが、その細い腕を誰かに掴まれた。
「何だよてめえ!おれの爺ちゃんは村長だぞ!おれに逆らったら―――ぎゃん!!」
強烈な蹴りが脇腹に突き刺さり、サッカーボールのように芝生を転がった。
痛みに涙を流しながら、哉太の方へと目を向ける。
自分達より年上のセーラー服姿の少女が意識を失った幼い哉太を背負い、公園の出口へと向かていく、。
「おい、クソ女!覚えてろよ!おれの村から追い出してやるからな!」
「…………………」
圭介の悪罵など気にも留めず、哉太を背負った少女は公園から出て行った。
出る直前、少女は光とすれ違う。そこでようやく圭介は光が少女を呼んだことに気が付いた。
その事実を認識すると、幼い圭介の頭に血が上る。
「おい光!大人呼ぶなんて卑怯だぞ!何でおれに逆らったんだ!」
「………………」
幼い光は沈黙を貫く。彼女の様子に不安を覚えながらも罵声を浴びせようとする。
「―――これが、貴方が一度やって、もう一度繰り返そうとしていたことよ」
その言葉の後、八歳の光は十八歳の日野光の姿に戻る。
口をパクパクと動かす圭介も、本人が気づかない内に十八歳の山折圭介の姿に戻る。
そのまま、光は圭介へと背を向ける。
「貴方だけに都合が良いディストピアで私達は生きるつもりはない」
日野光、湯川諒吾、上月みかげ、浅葱碧。
いつの間にか、光の周りには圭介の幼馴染達がおり、誰もが圭介から背を向けていた。
ふと、足元を見るとみかげの持ち物だった木製プレートの御守り――その残骸が散らばっていた。
それは圭介が茶子を嬲っていた時に落とし、自ら踏み砕いた木片。
「さようなら、山折圭介君。貴方のお人形にされたくないから私達は逝くね」
「――おい、待てよ!待ってって!」
ようやく足が動き、光たちに手を伸ばそうとするも、何かの壁に阻まれる。
そうして何もできないまま、別れを告げた元恋人達は光の中に消えていく。
「――――ぁ」
圭介の中で光を殺された時――それ以上の絶望が広がる。
しばらく呆然としていたが――。
「…………ぅ、ううううううううううううううっ!!」
頭を掻き毟り悶絶する。吸う息が肺を締め付け、吐き出される酸素が喉を突き刺す。
俯いた頭を何度も芝生にに叩きつける。力に溺れ切った圭介を求める存在など、もう誰もいない。
自ら業で、全てを失った。想えばいくらでも後戻りできるチャンスはあった。
哉太と再会した時。そこで共に共同戦線を張れば、周りの人間がフォローしてくれていただろう。
助けを求めるうさぎと会った時。彼女と共に袴田邸を訪れれば、うさぎが仲裁してくれただろう。
光が殺され、創達が助けに来た時。青葉遥を殺さないように立ち回れば、かつての親友は共に光の死を悼んだだろう。
哉太と最後の喧嘩をした時。魔王の声を突っぱねれば、まだ「光」は圭介を見捨てなかっただろう。
他にも数多ある選択肢を、圭介は無視して目を背けた。
圭介は想い人の死を受け入れられるほど強くなく、特殊部隊という脅威から逃げられるほど弱くなかった。
それ故、最悪の結末を迎えてしまったのは必然だったのかもしれない。
そして自殺衝動に駆られた少年に付け込むように、現れた存在が一つ。
くすくすくすくす。
教室で聞いた幼い笑い声が一つ。
その声に反応して顔をあげると、少女の形をした影法師が一つ。
「――――うさ公?」
反射的に影の少女に問いかける。何となく、幼い頃の犬山うさぎの気配がした。
半狂乱だった全てを失った少年に、少女はくすりと笑いかける。
『裏切者は許さない』
直後、その影は膨れ上がり、圭介を飲み込んだ。
闇の濁流に飲み込まれる。黒い影が、圭介の口から全身を浸食し、身体も、想いも、全てを書き換えていく。
『何もかもが中途半端なんだよ、クソガキ』
圭介の中の何かが壊れる寸前に聞こえてきたのは、自身の幻影が放った一言だった。
◆
「おいおいおい、なんて酷いことしやがる。依代が壊れてしまったじゃないか」
「人のせいにするなよ重病患者。元を辿ればお前が発端だろ」
「しかし、手を下したのはお前だぞ。虎尾茶子」
山折圭介から魔王へ人格が戻り、彼は肩を竦めて茶子を咎める。
圭介の末路を対して気にも留めることはなく、軽い口調で返答した。
既に圭介は魔王に願いを込める力も、誰かを憎む気力も存在しない。
例え彼の精神が戻ったとしても自殺衝動が沸き上がり、魔王への祈りは己の存在抹消。叶わなくとも罪悪感に囚われ、勝手に死ぬだろう。
呪いが浸食した器。依代が後先考えずに大量の魔術を使用したことで魂に介入する力も精神を回復させる力も失った。
ここが潮時か。目の前の女にここまでコケにされたのは業腹だが、壊れた器に興味ない。幸い、別の依代に見当がついている。
「では、お暇するとしよう」
「え、なんで?魔王さんは何でも願いを叶えてくれるドラえもんじゃなかったの?」
「最早願望すら持てなくなった器には興味がない。その上呪われた依代は最悪だ」
「お前程度を縋ってくれた信者に対してそれはないんじゃね?てか、こいつ以外に受け入れてくれる奴いるの?」
「いる。山折村の北東部。資材管理棟だったか?そこに未名崎錬がいる。お前のことを殺したいほど憎んでいるぞ?」
「ハハハ。そりゃ怖い。クソザコになったお前であたし殺せるの?」
「それは奴次第だ」
勇者ケージとの戦闘以来の二度目の敗北。表面上は平然を装っているが、腹の中は茶子への憎悪で煮えたぎっている。
少なくとも、山折圭介の中にいるよりはこれ以上の消耗はしない。
「ではさようなら。短い間の平穏をじっくりと味わうといい」
そうして依代から抜け出そうとするも―――。
――――その名を騙る痴れ者に、祟りあるべし。
祟り神が、逃がさない。
圭介という器から飛び立とうとするも、『ナニカ』―――『隠山祈』が逃がさない。
言葉を発する前に器の破片から這い出る小さな手によって引き戻され、魂を逃がさぬように穢れた楔を打ち込まれ、肉体に縛り付けられる。
驚愕と焦燥の表情を浮かべる魔王に、剣姫はひたすら見下す。
「―――最後に撃ち込んだ弾丸は『魂縛り』。喜べよ、魔王。お前と圭介は一蓮托生。沈みゆくタイタニックで運命を共にできるんだぜ。良いラブストーリーだろ?」
「く……貴様……!!」
怒声を放ち、魔王は茶子に向けて真空の刃を放つ。それを回避しようとするが―――。
(嘘だろ……!?こんな時に……!)
ほんの一瞬の油断。疲弊した身体の反応が遅れ、コンマ数秒だけの遅延が起きる。
風の刃が迫る。魔王が嗤う。横一文字の形の斬撃が茶子の身体を両断する直前。
「――――茶子姉ッ!!」
想い人の、声が響く。
声の方に顔を向ける前に、茶子の身体が長い腕に掴まれて空中に舞う。
「―――哉くんッ!!」
「悪い、茶子姉!寝坊した!!」
魔術の射程範囲外まで跳躍した哉太。大事なものを扱うように、ゆっくりと想い人を降ろす。
「あ、あははは……!やっと起きたか、寝坊助め……!いい夢見れた?」
「まあ、覚えてないけどいい夢だったと思う。……アンタ、泣いてる?」
「当たり前だろばかやろ!どんだけ心配かけたと思ってるんだ!」
泣き笑いする想い人に、少年はほんの少しだけ困った顔をする
「再会早々悪いけど、戦うよ。キミの刀、返すね、それとこれも渡しとく。アンプル剤。使うと十分くらい爺並みに強化されるけど、身体がめっちゃ痛む」
「ああ、助かる。でも、脇差は茶子姉が持っててくれ。アンタに死んで欲しくない」
姉弟のような会話。そこに偽りはなく、この瞬間だけはかつての絆があった。
魔王の中にどす黒い炎が燃え広がる。この二人は、視界に入るだけで許せない。
「二対一か。良いだろう。まとめて地獄におくってやろう!」
「いいや、三対一だ」
凛とした決意を秘めた声。同時に銃声が轟き、魔王の腹部に銃弾がめり込む。
「お前は……天原創!!」
「さっきぶりだな。ここがお前の終着点だ。神に祈れ!」
◆
「My bad。セツナ、傷の治療がまだなのに運転任せちゃって」
「気にしないで、アニカちゃん。貴方達は魔王に対するイメージを焼き付けて」
「『怪異に遭ったら、堂々とせよ。決して恐れるな。常に主導権を握り、てのひらで転がせ』……うん、茶子ちゃん私も頑張ってみる!」
「ええ、うさぎさんも頑張って。貴女ならできるはずよ。演劇部だった私が保証する」
おーい、のせてー!
「Stop!リンがいるわ!マイクロバスに乗せましょう!」
「了解。彼女もキーパーソンだもの」
「ありがとう、ええと…ほうたいのおねえちゃん!」
「雪菜よ。次からそう呼んで」
「わかった!」
「Actorも揃ったし、目的地に着いたら実行しましょう」
「ええ」「うん」「はーい!」
「Anti-Demon King Destruction Operation、PhaseⅡを」
【E-3/商店街/一日目・夕方】
【
虎尾 茶子】
[状態]:異能理解済、全身にダメージ(中・回復中)、疲労(大)、精神疲労(中)、山折村への憎悪(極大)、朝景礼治への憎悪(絶大)、八柳哉太への罪悪感(大)、????化(無自覚)
[道具]:八柳藤次郎の刀、包帯(異能による最大強化)、脇差(異能による強化&怪異/異形特攻・中)、活性アンプル
[方針]
基本.協力者を集め、事態を収束させ村を復興させる。
1.有用な人材以外は殺処分前提の措置を取る。
2.魔王を討伐する
3.天宝寺アニカに羊皮紙写本と彼女のスマートフォンを渡し、『降臨伝説』の謎を解かせる。
4.リンを保護・監視する。彼女の異能を利用することも考える。
5.未来人類発展研究所の関係者(特に浅野雅)には警戒。
6.朝景礼治は必ず殺す。最低でも死を確認する。
7.―――ごめん、哉くん。
[備考]
※未来人類発展研究所関係者です。
※リンの異能及びその対処法を把握しました。
※天宝寺アニカらと情報を交換し、袴田邸に滞在していた感染者達の名前と異能を把握しました。
※羊皮紙写本から『降臨伝説』の真実及び『巣食うもの』の正体と真名が『隠山祈(いぬやまのいのり)』であることを知りました。。
※月影夜帳が字蔵恵子を殺害したと考えています。また、月影夜帳の異能を洗脳を含む強力な異能だと推察しています。
※『隠山祈』の封印を解いた影響で■■■■になりました。しかし、自覚していません。
【
八柳 哉太】
[状態]:異能理解済、精神疲労(中)、喪失感(大)、山折圭介への嫌悪感(極大)
[道具]:打刀(異能による強化&怪異/異形特攻・中)、活性アンプル
[方針]
基本.生存者を助けつつ、事態解決に動く
1.アニカを守る。絶対に死なせない。
2.茶子姉を守り、共に魔王を討伐する。
3.いざとなったら、自分が茶子姉を止める。
4.ゾンビ化した住民はできる限り殺したくない。
[備考]
※虎尾茶子と情報交換し、
クマカイや薩摩圭介の情報を得ました。
※虎尾茶子が未来人類発展研究所関係者であると確認しました。
※リンの異能及びその対処法を把握しました。
※広場裏の管理事務所が資材管理棟、山折総合診療所の地下が第一実験棟に通じていることを把握しました。
※8年後にこの世界が終わる事を把握しました、が半信半疑です
※この事件の黒幕が烏宿副部長である事を把握しました
※夢の中で隠山祈と対話しました。その記憶はありませんが、何かのきっかけがあれば思い出すかもしれません。
【
天原 創】
[状態]:異能理解済、記憶復活、顔面に傷(中)、虎尾茶子への警戒(中)
[道具]:???(青葉遥から贈られた物)、ウエストポーチ(青葉遥から贈られた物)、デザートイーグル.41マグナム(0/8)、スタームルガーレッドホーク(5/6)(呪弾装填済)、ガンホルスター、、活性アンプル×2(青葉遥から贈られた物)、、他にもあるかも?
[方針]
基本.パンデミックと、山折村の厄災を止める
1.魔王を討伐する。
2.スヴィア先生を取り戻す。
3.スヴィア先生を探す。
4.珠さん達のことが心配。再会できたら圭介さんや光さんのことを話す。
5.虎尾茶子に警戒。だが今は彼女に協力する。
[備考]
※上月みかげは記憶操作の類の異能を持っているという考察を得ています
※過去の消された記憶を取り戻しました。
※山折圭介はゾンビ操作の異能を持っていると推測しています。
※活性アンプルの他にも青葉遥から贈られた物が他にもあるかも知れません。
【
山折 圭介】
[状態]:『隠山祈』寄生とそれによる自我浸食(絶大・増加中)、精神崩壊、自殺衝動(絶大)、『魔王』弱体化(絶大)、呪詛への抵抗弱化(絶大・抑制中)、呪詛返し・神宿し付与、魂縛り状態、魔力使用量増加状態、魔力消費(超極大)、焦燥(特大)、虎尾茶子への憎悪(大)
[道具]:なし
[方針]
基本.『この器から一刻も早く抜け出す』
1.『最早魔王へと返り咲くのは不可能。せめて少しでも力を取り戻す』
2.『浸食する呪詛を止めたい』
3.『役立たずになった器を捨てて『未名崎錬』の身体に憑依したい』
4.死にたい。
5.裏切者も、余所者も絶対に許さない。
[備考]
※山折圭介の願いにより『魔王』に憑依されました。すでに山折圭介は精神崩壊し、主導権を取り戻したときは魔王諸共速やかに命を断ちます。
※現状使える技能は以上な身体能力及び魔術(炎、黒曜石精製、魔法剣)ですが、時間経過によって使える魔術等が徐々に増えていきますが、成長の余地は完全に断たれました。
※魂に干渉する術を失いました。また、魔術の大部分が使用不可になり、使用できる魔術は中級魔術が最大です。特大魔術を使おうとすると魔王の魂にダメージを受けます。
※精神回復の魔術は使用不可能です。
※
ジャック・オーランドの銃弾により、他の人間に憑依できなくなりました。また、山折圭介が死ぬと魔王の魂も消滅します。
※日野光、湯川諒吾、上月みかげ、浅葱碧の魂は完全消滅しました。もう二度と山折圭介の前に現れることはありません。
※基本的に黒髪ですが、力を使う間は金髪になります。
※隠山祈の存在を視認しました。
【F-5/商店街付近・道路/一日目・夕方】
【
哀野 雪菜】
[状態]:異能理解済、強い決意、肩と腹部に銃創(簡易処置済)、全身にガラス片による傷(簡易処置済)、スカート破損、二重能力者化、、異能『線香花火』使用による消耗(中)、疲労(大)、虎尾茶子への警戒(中)、、マイクロバス運転中
[道具]:ガラス片、バール、
スヴィア・リーデンベルグの銀髪
[方針]
基本.女王感染者を探す、そして止める。
1.絶対にスヴィア先生を取り戻す、絶対に死なせない。絶対に。
2.目標地点に向かい、アニカ考案の作戦を実行する。
3.虎尾茶子は信頼できないけれど、信用はできそう。
4.天原さん、無事でいて。
[備考]
※叶和の魂との対話の結果、噛まれた際に流し込まれていた愛原叶和の血液と適合し、本来愛原叶和の異能となるはずだった『線香花火(せんこうはなび)』を取得しました。
※天宝寺アニカから作戦内容を伝えられています。
【
犬山 うさぎ】
[状態]:感電による熱傷(軽度)、蛇・虎再召喚不可、深い悲しみ(大)、疲労(大)、精神疲労(大)、マイクロバス乗車中
[道具]:ヘルメット、御守、ロシア製のマカノフ(残弾なし)
[方針]
基本.少しでも多くの人を助けたい
1.魔王を倒す。
2.茶子ちゃんの事を手伝いたい。
[備考]
※※天宝寺アニカから作戦内容を伝えられています
【
天宝寺 アニカ】
[状態]:異能理解済、衣服の破損(貫通痕数カ所)、疲労(大)、精神疲労(大)、悲しみ(大)、虎尾茶子への疑念(大)、強い決意、生命力増加(???)、マイクロバス乗車中
[道具]:殺虫スプレー、スタンガン、斜め掛けショルダーバッグ、スケートボード、ビニールロープ、金田一勝子の遺髪、ジッポライター、研究所IDパス(L2)、コンパス、飲料水、登山用ロープ、医療道具、マグライト、サンドイッチ、天宝寺アニカのスマートフォン、羊紙皮写本、犬山家の家系図
[方針]
基本.このZombie panicを解決してみせるわ!
1.魔王は絶対に倒さなきゃ!
2.「Mr.ミナサキ」から得た情報をどう生かそうかしら?
3.negotiationの席をどう用意しましょう?
4.あの女(Ms.チャコ)の情報、癇に障るけどbeneficialなのは確かね。
5.やることが山積みだけど……やらなきゃ!
6.リンとMs.チャコには引き続き警戒よ。
7.I'll definitely help. だから待ってて、カナタ。あの時の言葉を、ちゃんと伝えるために
[備考]
※虎尾茶子と情報交換し、
クマカイや薩摩圭介の情報を得ました。
※虎尾茶子が未来人類発展研究所関係者であると確認しました。
※リンの異能を理解したことにより、彼女の異能による影響を受けなくなりました。
※広場裏の管理事務所が資材管理棟、山折総合診療所が第一実験棟に通じていることを把握しました。
※8年後にこの世界が終わる事を把握しました、が半信半疑です
※この事件の黒幕が烏宿副部長である事を把握しました
※犬山はすみが全生命力をアニカに注いだため、彼女の身体に何かしらの変化が生じる可能性があります。
【リン】
[状態]:異能理解済、健康、虎尾茶子への依存(極大)、マイクロバス乗車中
[道具]:メッセンジャーバッグ、化粧品多数、双眼鏡、缶ジュース、お菓子、虎尾茶子お下がりの服、御守り、サンドイッチ、飲料水(残り半分)
[方針]
基本.チャコおねえちゃんのそばにいる。
1.ずっといっしょだよ、チャコおねえちゃん。
2.またあおうね、アニカおねえちゃん。
3.チャコおねえちゃんのいちばんはリンだからね、カナタおにいちゃん。
4.セツナおねえちゃんたちといっしょにチャコおねえちゃんのおてつだいをする
[備考]
※VHが発生していることを理解しました。
※天宝寺アニカの指導により異能を使えるようになりました。
※マイクロバスの中に虎尾茶子と八柳哉太の残りの持ち物があります。
◆
―――うらうらおもて。
卓袱台返しは巻き戻り、元の姿に戻る。
機械仕掛けの神(デウス・エクス・マキナ)の歯車は朽ち果て、崩壊する。
全てを嘲笑う絶対神の失墜を、村を裏切った村王の破滅を、影の姫君は待ち望む。
※商店街一帯に『隠山祈』が顕現しています。
最終更新:2024年03月22日 14:37