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てゐ3

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orz1414

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■てゐ3




 春といっても暦の上だけのこと。
 昼を過ぎてもまださほど暖かくはなく、懐炉や炬燵、火鉢などの暖房器具はまだまだ現役稼働中である。
 ここ永遠亭でも人のある部屋には火鉢を入れ、暖を取っていた。

 これはそんなある日の昼下がりのこと――
 姫様と八意女史は若いイナバの子達とお稽古、幼いイナバの子達は身を寄せ合って昼寝中。
 鈴仙は配置販売業者よろしく人里へ出向中。
 てゐは賽銭箱を持って幸せの募金を集めに人里へ。

 そして我らが○○は寒くて外に出る気が起こらず、目下、自宅警備員として火鉢の番をやっていた。




 かすかに琴を掻き鳴らす音や、甲高い笛の音が聞こえてくる。
 同じ旋律が繰り返し鳴らされるのに混じって、時折輝夜やイナバたちの笑い声が聞こえてくる。
 そんな優しい音色をBGMに、○○は艶本を開いて火鉢のそばでヌクヌクしていた。

 途中まで読み進めたところで、ふと、○○は口寂しくなった。
 何か摘めるものでもないかと、台所へ足を向けた。がさごそと戸棚を漁り、食い物を探す。

「……おっ、いいもの見っけ」

 ○○が見つけたのは、戸棚の奥まったところにあったメザシの束だった。
 彼はそれを数匹と、あと餅を焼くのに使った網をそこから拝借した。

「……そういえば幻想郷には淡水湖しかないのに、どうやって鰯なんか取ったんだろ?
 昨日の晩もアンコウ鍋を皆でつついたし。……謎だ」

 ○○はそれ以上深く考えないようにして部屋に戻り、火鉢にメザシを置いて炙ることにした。
 赤々と焼ける炭。
 かすかにゆらめく空気を介して、メザシがゆっくりと火から逃げるように曲がっていく。
 やがて部屋の中にメザシの焼ける香ばしい匂いが漂い始めた。

 ゴシゴシと指先を擦り合わせつつメザシが焼けるのを待つ。

 焼き上がったそれを一口。
 ハフハフと口の中で熱を冷ましつつ噛み締めると、じゅわっと広がる鰯の旨味。そして香ばしさ。
 うんうん、美味いメザシだなぁ。
 ついでに酒が欲しくなってきた。や、流石に真昼間から酒は飲めないけど。



 こうして一人、幸せなひとときを過ごしていると、サッと障子が引き開けられた。
 吹き込んできた冷気に思わず身を竦める。
 膝の上に広げていた艶本の頁がパラパラとめくれていく。

 開けられた障子の方を向くと、そこには小柄な体躯に健康そうな太腿が覗くスカート。
 ……もとい、スカートから覗く白い足と、腹の黒さのギャップが素晴らしいウサギがいた。


 と――

「てりゃぁッ!」
「べぬろっ!?」

 おかえりと声を掛ける前に、ウサギに飛び蹴りをかまされた。
 テンプルに決まった。
 突き抜けた衝撃が痛かった。
 そして白だった。

「痛ぇな。いきなり人を蹴るなよ」
「じゃあ訊くけど、人が寒い思いをして外から帰ってきたら、一人だけヌクヌクと火鉢のそばで温まってる奴がいたの。
 そんな男、許せると思う?」

 ○○が抗議の声を上げると、腰に手を当て、小さく胸を反らして無体なことをのたまった。
 あまつさえ火鉢の上のメザシに勝手に手をつける始末。

 てゐはそのまま○○が座っていたところに腰を下ろし、火鉢に当たり始める。

「横に寄ってくれと素直に言えんのか、このウサギは。
 あと、人のメザシを勝手に食うな」
「なによ。あんただって勝手にコレを戸棚から持ってきてるくせに」
「…………それはそれ、これはこれだ。というか、なんで断りを入れてないと断言するかな、お前さんは」
「否定はしないのね」
「否定はしないとも。確かに勝手に取ってきて食ってるし」

 いつまでも寝転がっててゐ太腿を眺めていると、それこそ真の変態扱いされかねないので起き上がる。
 てゐの向かい側に腰を下ろし、残りのメザシを食べてしまうことにした。
 この際、食われたものは仕方がないと諦めよう。人間、諦めが肝心だというし。
 さらに転んだ拍子に畳の上に投げてしまっていた艶本を、こっそりと尻の下に――
 ……隠そうと思ったら、すでにそこにはなくなっていた。
 どこにいったんだろうかと焦る○○。流石にてゐを始めとした女性陣に見られるのは恥ずかしいから、とっとと見つけたかった。
 キョロキョロと部屋の中を隈なく探した。
 すぐに所在が判明した。

「へー、最近の艶本も大分様変わりしてるわね。
 何ていうの? こう、ホンモノっぽいっていうか、柔らかそうっていうか。……かなりエッチよね」
「女の子がそんなもの見ちゃいけません!」

 探していたエロ本は、因幡てゐ女史の手の中にいらっしゃいました。
 しかも開いている場所は、男女の絡みがバッチリ描かれているところだった。

 ら、らめぇ! そこ、ストーリーの山場! 最も作者がエロ方面で力を入れて描いてる部分~~!

 食い入るように本を見つめている彼女の目は大きく見開かれ、興味と興奮とで爛々と輝いていた。
 慌てててゐの手の中から我が青春のバイブルを救出せんと、○○は手を伸ばした。
 が、本に手が届く直前に、するりとそれが目の前から逃げていき、掌は空を切った。

「いいじゃない。あんたが普段どんなものを好んで読んでるのか、知る権利がこっちにはあるわ」
「アホなこというな。ンな羞恥プレイなんぞされても、俺はちっとも楽しくないわぃ!
 それに俺の傾向と対策なんか知ってどうするつもりじゃ!」
「え? まあ色々と使えるわよ。
 流石にこんな風に咥えたり挟んだりはできやしないけど、○○が変態プレイを仕掛けてきたら、原因に理解をしてあげられるわ」

 そう言って可愛いものを見る目で流し目を送るてゐ。何を咥えたり挟んだりするかは、ここでは言及はすまい。
 一方、彼女の視線に耐え切れず、ごろごろと転がり悶えるのは○○。

「いやー! そんな可愛いものを見る目で見んといてー。
 出来心なんやー。博麗神社の例大祭で売ってたのを買ぉただけなんやー」
「うんうん、まあ○○も男の子だしねー」

 うぷぷ、と笑いをこらえつつ同意するてゐ。だが、○○としてはそんな顔で理解を示されても嬉しくないわけで。
 むしろどちらかといえば、腹が立ってくる始末。

 てゐは○○からわずかに距離をとると、ふたたび手元の本に視線をやっていた。
 そこまでして見たいものなのかと、ブツブツと愚痴を言う○○。


 ふと、そこで○○は気づいた。
 目の前でちょこんと座ってエロ本を読んでいるてゐまで、意外と距離が近いことを。
 そして彼女の意識が半ば以上自分ではなく、手元の本に注がれていることを。

 もう少し待てば、てゐの意識から自分が外れるだろう。
 その時こそが本を取り返すチャンスではないだろうか、と。

 ○○は気づいていないのか、気づかないふりをしているのかは分からない。けれどもこれだけは言えた。
 てゐが本の内容に集中し、○○がいるのを忘れるまで待つということは、先に読み進められるということもでもあるわけで……。
 読まれる前に取り返すという当初の○○の意識からすると、本末転倒だったりする。




 そろそろ行動を起こす時機かもしれない。
 ○○の視線の先には艶本に集中しきっているてゐがいた。
 頬をほんのり赤らめ、呼吸が浅い。
 パラリと頁をめくる度、ごくりと唾を飲み込んでいるのが傍目にも分かった。
 ここまで気に入ってもらえたなら、書いた作者的にも幸せだろう。
 が、鼻息荒くして読んでいるのが女子では色んな意味で浮かばれまい。

 息を潜め、足音と気配を消し、てゐに背後から近づいていく。

 ――今だ!

 ガバッとてゐのを背後から抱きしめるような形で捕まえに掛かる。
 これだけ近距離からの突撃、かわせるはずもあるまいとの判断だ。


 そういう判断だったんだけれども……。

 背後から襲い掛かった○○は、何故か空気を抱きしめていたのだった。
 より明確な表現をするならば、『スカ』、『はずれ』、『残念でした』。
 さらに分かり易く表現するならば、てゐに逃げられたと表現すべきだろう。

 この距離、このタイミングでよけられるとは思っていなかった○○は、自分自身を抱きしめた格好のまま、無様に頭から畳に突っ込んだ。

「ふっふーん。そう簡単にはこの素兎は捕まらなくってよ。というか、内容に集中してるフリをしたら、見事に掛かったわねー」
「ぬあ! 謀ったな! ウサギ~~!」
「君はいい友人であったが、君の持つエロ本がいけなかったのだよ」

 いやらしい顔でプッククッと笑うてゐ。
 障子口でにすすすっと艶本を携えたまま移動する。

 待て。待て待て待て!

 ○○は嫌な予感がして止まらなかった。

「こーゆーモノは皆で分かち合わなくっちゃねー」
「ちょっ……てゐ、それっ……やめっ……!」

 止めるいとまもあらばこそ。
 ○○が一歩踏み出した瞬間、てゐは脱兎のごとく彼の部屋から逃げ去った。
 どたたたっ、と廊下を駆ける足音が次第に遠のいていく。

「姫様、皆ー! いいもの拾ったよー!!」

 そして聞こえてくる破滅の足音。というか破滅に向かう声音。

「ぐあ。洒落にならーん! まてや、クソウサギぃぃぃ!」

 ○○も慌ててその後に続く。
 もはや無駄かもしれないが、いや、八割方手遅れだろうが。



 今日も永遠亭の騒がしき日常という名の戦場の幕が切って落とされた。












 NGシーン(15禁注意)


 息を潜め、足音と気配を消し、てゐに背後から近づいていく。

 ――今だ!

 ガバッとてゐを背後から抱きしめるような形で捕まえに掛かる。
 ○○は見事ガシッとてゐを背後から捕まえることに成功した。

「捕まえた!」
「ひゃっ!?」

 次いでそのままてゐを逃がさぬよう、背後からしっかりと羽交い絞めにした。
 てゐの手の中にあったエロ本を取り上げる。
 そして再度奪い返されない内に、ひとまず本を彼女の手の届かない距離に放り投げておいた。
 バサッと部屋の隅に投げ出されるエロ本。

「…………あ……」

 本を投げ捨てた途端、何やらてゐが切なげな声を漏らした。
 そのままポスッと○○に身を預けてきたではないか。

 をや? 何やらてゐの様子がおかしい。

 そこで初めて○○はてゐの様子に目がいった。
 息が荒いのは先程確認したとおりだ。
 次に発見したことは、こうやって密着していて分かったことだが、てゐの体温が上がっているように感じられた。
 そして目が潤んでいるように見えた。

 ここで身の危険を感じ逃げていたならばと、○○は後になって時折思い返すことがある。
 後になって考えている時点で手遅れだったわけだが。

 とにもかくにも、てゐが力なく○○にしなだれかかってきた。


「おい」

 普段なら○○の声に反応し、羞恥心や反発心からすぐさま離れるはずだった。
 ところが、声に反応したてゐは逆に鼻先を肩越しに、○○の首筋に押し付けてきた。

 少女の柔らかい頬が左頬に触れる。
 少しひんやりした肌の感覚。
 であるにもかかわらず、まったく反対の熱い吐息が○○の首筋を撫でた。

 すっと上を向いたてゐの鼻先が、○○の鼻先とぶつかる。

「……てゐ?」
「……○○」

 ○○の失策は、ここでてゐの名を呼んでしまったことだろうか。
 潤みを帯びたてゐの瞳が、名を呼ばれたことにより、より一層深いものとなる。
 熱にうかされた様子のてゐ。
 いつもと違った彼女の艶っぽさ。
 てゐが彼の名を呼ぶしっとりした声に、○○は思わずごくりと生唾を飲み込んでしまった。

 そのを様子見て、嬉しそうに微笑んだてゐは、背筋を伸ばし、軽くついばむように唇を重ねてきた。

 ――柔らかい。
 ――そして甘い。

 女の子の唇ってこんなに柔らかかったんだと、○○は妙な感動を覚えていた。

「んふふふっ」

 てゐのはにかんだ笑顔が可愛いかった。

「……○○……ちょうだい……」

 はたして、何と答えるべきか。
 彼女の熱がうつったか、霞がかかったような頭で○○は考えた。

 だが、考えるまでもなかった。
 言葉はいらない。
 今はいらない。

 ○○は熱のおもむくまま、てゐの首筋に唇を這わせた。
 くすぐったそうに身じろぎをする。
 ○○はキスの雨を降らせながら、薄い――が、それでも女の子を感じさせる――胸に掌を乗せ……


(裁かれました)


>>新ろだ335

───────────────────────────────────────────────────────────

握り飯を振り回しつつ、迷いの竹林へと歩を進める。
本日の目的はただ一人、嘘を生業とする白兔因幡てゐに会う事だ。

しばしうろうろと歩くと、竹の間を縫って見慣れた長い耳がぴょこいらと顔を出した。
因幡──と、言おうとしたがそれは引っ掛け。里に薬でも売りに行くのか、鈴仙うどんげがそこにいた。

「あっ、○○さん…」
「…よぉ鈴仙、久しぶりだな」
「あれ?昨日会ったばかりですよね?」

はて、というふうに首を傾ぐうどんげ。

「いや、挨拶なんぞに意味はない。実は少し、この竹林に用があってな」
「はあ…師匠にですか?」
「いや違う。俺の目的は……鈴仙、お前に会いにきたんだ」

なっ…と、息を飲むような声が一瞬聞こえる。

「いやなに、昨日会ったばかりだが…まあ、鈴仙の顔なら毎日見ても飽きないからな」

ななななななな…という声も聞こえる。頬が朱色に染まってきた。

「…そうだ、今日会ったら伝えなきゃならない事があったんだ。……鈴仙、俺はお前が───「バカーーーーっ!」




セリフはこの場にいる二人のどちらとも違う声で遮られた。
ハッとして声のするほうを振り向く。そこには俺の最愛の白兎(笑)、因幡てゐが目に涙を浮かべて叫んでいた。




「バカっ、バカバカバカッ、○○のバカっ!私の気持ちも知らないで…バカバカバカバカバカーーーーッ!」
「て、てゐ!?ちょっと、それってまさか……」

慌てふためく鈴仙。
一瞬、俺は唇の端を吊り上げてニヤリと笑う。見様見真似の大袈裟な手振りで、俺はセリフを続けた。

「てゐ……分かってくれよ!俺は鈴仙の事が……本当に、好きなんだよ!」
「嘘つき!どうして気づかないのよ……どうして応えてくれないのよ!私の想いに!」
「俺だって…俺だって好きな人くらいいるさ!分かってくれよ…頼むから!」
「分かんないわよそんな事!そんな…そんな…うどんげのバカーーーッ!」
「ええっ!?わ、私っ!?」
「鈴仙…頼む…嫌なら嫌でいいんだ、ただ…答えを聞きたい!」
「○○さんっ!?え、えと、その………」
「はっきりしなさいよ、駄目兔!」
「わ、わた、私はその、えと、ええと………ああああああああどうしろって言うのよもーーーっ!」

俺とてゐの修羅場のど真ん中にいたうどんげは、やがて重圧に耐え切れなくなって光の彼方に飛んでいった。
彼女の描いた飛行機雲を消えるまで眺め、俺とてゐは顔を見合わせる。やがてどちらからともなく──。

「「だーいせーいこーう」」

ハイタッチ。

「いやあ、人妖問わず騙したけど、やっぱうどんげが一番騙し易いわ」
「根が真面目だからなあ。俺とお前で何億と騙したけど、今回も随分アッサリ引っ掛かったよなあ」

はははははと顔を見合わせて笑いあう俺ら。流石だよな俺ら。

ひときしり笑い終えた後、てゐは落ち着きを取り戻すようにこほんと咳払い。
手ごろな石の上に飛び乗り、打って変わって静かな口調で始めた。

「───それで、何の用?」
「用がなくちゃ来ちゃいかんのか?」
「困るわね。あんたに来られると私困る。何故って、私あんた嫌いだから」
「そりゃお互い様だ。てめえみたいなチビ兔、こっちだって大嫌いだね」

互いの間に無言の微笑が交わされる。いつの間にか、竹林は元の静けさを取り戻していた。

「四月一日だからな。お上公認で嘘がつける日だし、今日くらいはお前に真実を語ってやってもいいと思った」
「あら、愛の告白?やってみなさいな。その場で蹴り飛ばしてあげるから」
「図に乗るんじゃねえアホ兔。だーれがテメエなんぞ相手にするかい。お前に比べりゃまだ毛玉の方が可愛いね」
「のらくらのらくら五月蝿い事この上無いわね。言いたい事があるなら、さっさと言ったらどう?」

石の上に腰掛けたてゐは驚くほど穏やかな笑みを表情に浮かべていた。
こちらも同じように微笑み返したつもりだが、上手く笑えた自信が無い。彼女は俺の顔が可笑しかったのか、口元に手を当てくすくすと笑った。

「表情作るのは得意みたいね。まるで牛の笑いみたい」
「あーそうですか。お前の悪魔の微笑みに比べりゃちったあマシだと思うが?」

けらけらけらと笑いあう。俺は不意に石の上に足をかけ、てゐの横に腰掛けた。
自然と近づく体。照れ臭いのは彼女も一緒らしく、少しばかり頬を染めてけれど顔を背けようとはしなかった。

「てゐ……」
「○○……」

数秒、見詰め合う。
俺はてゐの首筋を持ち上げ、彼女の唇に自分のを素早く重ねて、そして離した。

「俺は、テメエの事が、世界で、誰よりも、一番大嫌いだ」
「私も、○○の事が、世界で、誰よりも、大っ嫌いよ」


竹林に、二人の笑い声が響いた。

>>新ろだ429

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