FALLEN GIRLS Ⅰ ◆7WJp/yel/Y
三橋は閉じていた瞳をゆっくりと開き、瞬きを幾度かした後ソファーに下ろしていた腰を持ち上げた。
充電は九割ほど済んだ、全快ではないが十分な量である。
腕を軽く振り体に不調がないかを確かめた後、荷物をまとめていく。
荷物は鋼の支給品は言わずもがな、事務室の中で思ったよりも物を見つけることが出来た。
魔法瓶、ライター、カップ麺、ボールペン、メモ用紙、ハサミ。
他にもノートや穴あけパンチやホッチキス、乾電池などが置かれある。
カップ麺は必要ない、サイボーグは食料を必要としない。
乾電池も必要ない、三橋の規格に合わない。
持っていく必要があるとしたらライターと熱湯ぐらいだろう。
事務室に置かれていた物をしまい込んだ後、鋼の残して行った支給品をデイパックへと放り込んでいく。
ポイポイ、と迷うことなく整理していが、鋼の持っていた『それ』を見て驚愕に固まってしまう。
『それ』は物騒なんて言葉を通り越した物だった。
何故それを使わなかったのか?
充電は九割ほど済んだ、全快ではないが十分な量である。
腕を軽く振り体に不調がないかを確かめた後、荷物をまとめていく。
荷物は鋼の支給品は言わずもがな、事務室の中で思ったよりも物を見つけることが出来た。
魔法瓶、ライター、カップ麺、ボールペン、メモ用紙、ハサミ。
他にもノートや穴あけパンチやホッチキス、乾電池などが置かれある。
カップ麺は必要ない、サイボーグは食料を必要としない。
乾電池も必要ない、三橋の規格に合わない。
持っていく必要があるとしたらライターと熱湯ぐらいだろう。
事務室に置かれていた物をしまい込んだ後、鋼の残して行った支給品をデイパックへと放り込んでいく。
ポイポイ、と迷うことなく整理していが、鋼の持っていた『それ』を見て驚愕に固まってしまう。
『それ』は物騒なんて言葉を通り越した物だった。
何故それを使わなかったのか?
この部屋にはライターもあった、使えなかったわけではないし、まさか見落としていたわけもあるまい。
……そんな疑問が浮かぶのも一瞬だけだ。
答えなんて決まっている、鋼は殺す気がなかったからだ。
もちろん、これを使えば明日香とスーツの男も巻き込むことになったという理由もあるだろう。
だが、その二人が立ち去った後、長々と話していた時に隙を見て使うことも出来た筈。
その素振りすら見せなかったことから、やはり鋼は三橋を殺す気などなかったのだ。
それは嬉しくも悲しくもない。
ただ、虚しい。
やはり、三橋にはこういう作業は向いていないのかもしれない。
だが、性格的に向いていないから、という理由で辞めることは出来ない。
それが出来たら三橋はこんな所に居はしない。
そんなことが出来るのならとうの昔に、亀田の命令に逆らってネオプロペラ団から離れている。
答えなんて決まっている、鋼は殺す気がなかったからだ。
もちろん、これを使えば明日香とスーツの男も巻き込むことになったという理由もあるだろう。
だが、その二人が立ち去った後、長々と話していた時に隙を見て使うことも出来た筈。
その素振りすら見せなかったことから、やはり鋼は三橋を殺す気などなかったのだ。
それは嬉しくも悲しくもない。
ただ、虚しい。
やはり、三橋にはこういう作業は向いていないのかもしれない。
だが、性格的に向いていないから、という理由で辞めることは出来ない。
それが出来たら三橋はこんな所に居はしない。
そんなことが出来るのならとうの昔に、亀田の命令に逆らってネオプロペラ団から離れている。
「……いつまでも、こうしてるわけにはいかないな」
何度目かになる台詞をつぶやき、前を見つめる。
鋼の持っていた支給品と事務室で必要と判断した物はすべて回収した。
いや、正確に言えば全てではない。
野球の硬式球、それだけは置いてきた。
先ほどの甲子園で人を殺す夢を思い出すし、何よりも幸せだった時期の象徴だ。
拳が鈍ってはいけない。
それは親友への裏切りだ。
しっかりと鬼の手を握りしめ、それを顔の前へと持っていく。
赤い、最初に見たときより幾分か赤い。
三人の血を吸ったのだから当然と言える。
そう、三橋は三人もの人間をこの手で殺したのだ。
かつての恩師を、かつてのライバルを、ユニフォームを着た名も知らぬ青年を。
鋼の持っていた支給品と事務室で必要と判断した物はすべて回収した。
いや、正確に言えば全てではない。
野球の硬式球、それだけは置いてきた。
先ほどの甲子園で人を殺す夢を思い出すし、何よりも幸せだった時期の象徴だ。
拳が鈍ってはいけない。
それは親友への裏切りだ。
しっかりと鬼の手を握りしめ、それを顔の前へと持っていく。
赤い、最初に見たときより幾分か赤い。
三人の血を吸ったのだから当然と言える。
そう、三橋は三人もの人間をこの手で殺したのだ。
かつての恩師を、かつてのライバルを、ユニフォームを着た名も知らぬ青年を。
「……」
だが、後悔しても何処にも進みはしない。
今はとにかく進まないといけない。
友のために殺人を犯したのだ、三橋の気持ちで最初からそれは変わっていない。
殺したことを後悔していても、何も変わらないのだから。
切り捨てることと拾うことが大事だ。
この場合、切り捨てるのはこの島に居る人間の命、拾うのは亀田光男との友情。
そう決めたのだ。
重い腰を起こして、様々な感情を秘めながら水族館を出る。
今はとにかく進まないといけない。
友のために殺人を犯したのだ、三橋の気持ちで最初からそれは変わっていない。
殺したことを後悔していても、何も変わらないのだから。
切り捨てることと拾うことが大事だ。
この場合、切り捨てるのはこの島に居る人間の命、拾うのは亀田光男との友情。
そう決めたのだ。
重い腰を起こして、様々な感情を秘めながら水族館を出る。
「……あのー、三橋一郎さん、ですか?」
その瞬間、関西方面特有の訛りを持った声をかけられた。
慌てて身構えながら振り返ると、そこに居たのは一人の少女だった。
少女、とは言ったものの一見すると少女とは思えない。
身長はプロスポーツ選手であった三橋よりもさらに高い。
目測なため確かなことは言えないが、少なくとも185センチは軽く超えているだろう。
声の高さと、童顔と、特注と思われる制服のお陰でなんとか高校生だと分かる。
いや、先に挙げた三つを考えれば普通は簡単に高校生だと分かるだろう。
だから三橋が少女を高校生だと思えなかったのは、目に見える部分以外による要素が大きい。
雰囲気、そう雰囲気だ。
普通の女子高生とは違う剣呑とした雰囲気を持っている。
ただ立っているだけなのに隙もない、笑ってはいるもののこちらの様子を静かに伺っている。
これは喧嘩が強いとかそういうレベルではない。
武道をやっている、それも素手でやる形のものだろう。
人を倒すことだけを重点を置いて、飽きもせずに毎日毎日と体を苛め続ける。
そんな連中に素手と素手の対決で勝てるとは思えない。
しかし、丸っきり不利とは言えない。
なにせこちらには一撃必殺の鬼の手がある。
鋼の鍛えられた腹筋はもちろん、木の幹すら貫けたのだ。
鍛えているとはいえ目の前に居るのは女子高校生。
当たれば殺せる。
そのアドバンテージがあれば殺せる。
慌てて身構えながら振り返ると、そこに居たのは一人の少女だった。
少女、とは言ったものの一見すると少女とは思えない。
身長はプロスポーツ選手であった三橋よりもさらに高い。
目測なため確かなことは言えないが、少なくとも185センチは軽く超えているだろう。
声の高さと、童顔と、特注と思われる制服のお陰でなんとか高校生だと分かる。
いや、先に挙げた三つを考えれば普通は簡単に高校生だと分かるだろう。
だから三橋が少女を高校生だと思えなかったのは、目に見える部分以外による要素が大きい。
雰囲気、そう雰囲気だ。
普通の女子高生とは違う剣呑とした雰囲気を持っている。
ただ立っているだけなのに隙もない、笑ってはいるもののこちらの様子を静かに伺っている。
これは喧嘩が強いとかそういうレベルではない。
武道をやっている、それも素手でやる形のものだろう。
人を倒すことだけを重点を置いて、飽きもせずに毎日毎日と体を苛め続ける。
そんな連中に素手と素手の対決で勝てるとは思えない。
しかし、丸っきり不利とは言えない。
なにせこちらには一撃必殺の鬼の手がある。
鋼の鍛えられた腹筋はもちろん、木の幹すら貫けたのだ。
鍛えているとはいえ目の前に居るのは女子高校生。
当たれば殺せる。
そのアドバンテージがあれば殺せる。
その言葉とともに後ろへと素早く下がることで距離を取る。
明日香とスーツの男に会ったと言うことは三橋が殺し合いに乗っているということを知っているはずだ。
だと言うのに話しかけてきたと言うことは、少女も三橋と同じく殺し合いに乗っているということか?
殺し合いに乗っているのなら協力する選択肢も出来る。
明日香とスーツの男に会ったと言うことは三橋が殺し合いに乗っているということを知っているはずだ。
だと言うのに話しかけてきたと言うことは、少女も三橋と同じく殺し合いに乗っているということか?
殺し合いに乗っているのなら協力する選択肢も出来る。
「あ、先に言っときますけどうちは殺し合いなんてしませんよ」
だが、三橋の頭によぎった考えは否定される。
ならば何故三橋に話しかける。
これ以上犠牲を増やさないために三橋を殺すのならば話しかけたりはしないはず。
と言うことは、鋼と同じ、ということか。
そう言えば、大江和那と言う名前は先ほど電話で話した浜野朱里の言っていた名前だ。
それでいて殺し合いに乗っていない。
期せずして三橋は朱里に電話越しに放った言葉を実行することになったようだ。
ならば何故三橋に話しかける。
これ以上犠牲を増やさないために三橋を殺すのならば話しかけたりはしないはず。
と言うことは、鋼と同じ、ということか。
そう言えば、大江和那と言う名前は先ほど電話で話した浜野朱里の言っていた名前だ。
それでいて殺し合いに乗っていない。
期せずして三橋は朱里に電話越しに放った言葉を実行することになったようだ。
「説得でもするつもりかい?」
「うーん……それはうちの役割やないと思います」
「……?」
「分かってるんでしょ? 進藤ちゃんは三橋さんを止めようとしてる、ってことぐらい」
「ッ!」
「うーん……それはうちの役割やないと思います」
「……?」
「分かってるんでしょ? 進藤ちゃんは三橋さんを止めようとしてる、ってことぐらい」
「ッ!」
「そうか、それは有難いな」
「……」
「探す手間が省ける」
「……」
「探す手間が省ける」
三橋は亀田にやれと言われた仕事を破棄することはできない。
それは身体を支配する回路を埋め込まれているからではない。
何度も言うことになってしまったが、三橋自身がそれをしたくないからだ。
亀田の願いは叶えてあげたいし、亀田に喜んでほしいし褒美も貰いたい。
今までそうすることによって亀田に付き合ってきたのだ。
それは身体を支配する回路を埋め込まれているからではない。
何度も言うことになってしまったが、三橋自身がそれをしたくないからだ。
亀田の願いは叶えてあげたいし、亀田に喜んでほしいし褒美も貰いたい。
今までそうすることによって亀田に付き合ってきたのだ。
「多分、彼がアンタぐらいの年になったらそんな感じなんやろうな」
「なに?」
「ちょっと三橋さんが知り合いと似とってな。嘘をつくのがヘタクソなところとか」
「……」
「ドヘタクソや。気が良すぎて人を不幸にする嘘をつくことが出来ん人間や。
……びっくりやで、うちの知り合いとよう似とるで」
「なに?」
「ちょっと三橋さんが知り合いと似とってな。嘘をつくのがヘタクソなところとか」
「……」
「ドヘタクソや。気が良すぎて人を不幸にする嘘をつくことが出来ん人間や。
……びっくりやで、うちの知り合いとよう似とるで」
目の前の大江という少女の言葉が終ると同時に飛びかかる。
何となく不快だった。
目の前の少女の見透かしたような眼が三橋の癇に障るのだ。
目の前の少女のまるで三橋が善人で、無理をしていると言わんばかりの言葉に苛立ったのだ。
そうだ、鋼もそんな眼をして、そんな言葉を放っていた。
憐れむような、懐かしがるような、まっすぐな眼を。
諭すような、引き留めるような、綺麗な言葉を。
そんな眼は、そんな言葉は今の三橋にとって不快な物でしかない。
何となく不快だった。
目の前の少女の見透かしたような眼が三橋の癇に障るのだ。
目の前の少女のまるで三橋が善人で、無理をしていると言わんばかりの言葉に苛立ったのだ。
そうだ、鋼もそんな眼をして、そんな言葉を放っていた。
憐れむような、懐かしがるような、まっすぐな眼を。
諭すような、引き留めるような、綺麗な言葉を。
そんな眼は、そんな言葉は今の三橋にとって不快な物でしかない。
「おっと……」
三橋の突進を少女は紙一重で、しかし余裕をもって避ける。
やはり格闘技、それも動き方からして空手に近い物をやっているようだ。
空手、そう高校時代のクラスメートである元空手部の村上海士や他の空手部員の動きと似ている。
何度も空手部に乗りこんだ記憶の中の部員が目の前の少女のように動いていた。
ただ、今の動きにそれだけでは説明のつかない妙な感じを覚えた。
どう妙なのだ、と聞かれるとうまく答えられないが、とにかく妙だった。
とは言え、戦いの最中に思考に大部分を取られるのは危険。
三橋は相手を観察しながら距離を取り直す。
やはり格闘技、それも動き方からして空手に近い物をやっているようだ。
空手、そう高校時代のクラスメートである元空手部の村上海士や他の空手部員の動きと似ている。
何度も空手部に乗りこんだ記憶の中の部員が目の前の少女のように動いていた。
ただ、今の動きにそれだけでは説明のつかない妙な感じを覚えた。
どう妙なのだ、と聞かれるとうまく答えられないが、とにかく妙だった。
とは言え、戦いの最中に思考に大部分を取られるのは危険。
三橋は相手を観察しながら距離を取り直す。
「なっ……!?」
「悪いけど、少し眠ってもらうで」
「悪いけど、少し眠ってもらうで」
だが、距離を取ろうとする三橋よりも早く、少女は三橋の眼前に『ノーモーション』で迫ってきた。
訳が分からない、とはこういうことを言うのだろう。
足を動かした様子はなかった。
腕を振った様子はなかった。
肩が動いた様子はなかった。
しかし、少女の身体によって風が切られていく感触は覚えた。
目の前の少女は身体を動かさずに、体を動かしたのだ。
唖然としているところを、素早く突き出された少女の掌底が三橋の顎を捉える。
顎に押されるような感触が続き、そして突き出されるような衝撃が頭に長く響いていく。
ぐらぐらと、世界が横に横にとずれていくような感覚を初めて覚えた。
訳が分からない、とはこういうことを言うのだろう。
足を動かした様子はなかった。
腕を振った様子はなかった。
肩が動いた様子はなかった。
しかし、少女の身体によって風が切られていく感触は覚えた。
目の前の少女は身体を動かさずに、体を動かしたのだ。
唖然としているところを、素早く突き出された少女の掌底が三橋の顎を捉える。
顎に押されるような感触が続き、そして突き出されるような衝撃が頭に長く響いていく。
ぐらぐらと、世界が横に横にとずれていくような感覚を初めて覚えた。
「こいつは……!?」
「かぁ……!」
「かぁ……!」
接近戦という鬼の手を突き刺すチャンスも忘れて転がるように逃げる。
少女は意外そうな、それでいて複雑な顔をして三橋を眺めている。
少女は意外そうな、それでいて複雑な顔をして三橋を眺めている。
「今の感触……サイボーグ?!」
少女の驚愕に歪んだ顔と何処か悲痛な声に対して、三橋は言葉を返さない。
正確に言うならば言葉を返す余裕がない。
立っていることすら危うい状況、気を失わなかったのが最大の幸運。
この状況はマズイ。
先ほどの動きを見るに正面からでは少女が迫ってくるのを悟るのは難しい。
正確に言うならば言葉を返す余裕がない。
立っていることすら危うい状況、気を失わなかったのが最大の幸運。
この状況はマズイ。
先ほどの動きを見るに正面からでは少女が迫ってくるのを悟るのは難しい。
「……くそっ!」
ならばここは引くしかない。
戦うにしても満足に動けない今の状況は危険だ。
殺される可能性はまずないとは言え、気絶すれば鬼の手を奪われる可能性は高い。
鋼から奪った支給品ならば、間違いなく殺すことができる。
きちんと発動して命中すれば人を十回殺しても余り得るほどの強力な武器なのだから。
ただ、回数制限とライターを使うことを抜いても準備に時間がかかること、そして場所を選ぶこと。
この三つの条件から今は使うことが出来ない。
故に現状は鬼の手が唯一の武器と言ってもいいだろう。
戦うにしても満足に動けない今の状況は危険だ。
殺される可能性はまずないとは言え、気絶すれば鬼の手を奪われる可能性は高い。
鋼から奪った支給品ならば、間違いなく殺すことができる。
きちんと発動して命中すれば人を十回殺しても余り得るほどの強力な武器なのだから。
ただ、回数制限とライターを使うことを抜いても準備に時間がかかること、そして場所を選ぶこと。
この三つの条件から今は使うことが出来ない。
故に現状は鬼の手が唯一の武器と言ってもいいだろう。
「あ、ちょい待ちや!」
水族館の作りは完璧ではないがある程度は把握している。
水族館と言う割には、ここはあまり入り組んだ場所ではない。
出入り口付近の一階ではなく、地下のトンネルや入り組んだ鑑賞水槽の傍を逃げ回るのが得策だろう。
幸いにも、この水族館は出入り口が複数ある施設だ。
逃げ切れる可能性が高い。
その利を生かして何とか逃げ回る、一瞬で考えれる策なんてそれぐらいのものだろう。
だが、三橋は逃げ切れるという確信に近い思いがあった。
三橋の体は走力パーツで強化してある、今の三橋の足は特別速くもないが遅くもない。
だが、そのスピードの基準は下手をすればプロをも凌ぐ超人揃いの裏野球大会が基準。
地の利+単純なスピード差、逃げることに重点を置けばほぼ安泰に近い確率で逃げ切れる。
水族館と言う割には、ここはあまり入り組んだ場所ではない。
出入り口付近の一階ではなく、地下のトンネルや入り組んだ鑑賞水槽の傍を逃げ回るのが得策だろう。
幸いにも、この水族館は出入り口が複数ある施設だ。
逃げ切れる可能性が高い。
その利を生かして何とか逃げ回る、一瞬で考えれる策なんてそれぐらいのものだろう。
だが、三橋は逃げ切れるという確信に近い思いがあった。
三橋の体は走力パーツで強化してある、今の三橋の足は特別速くもないが遅くもない。
だが、そのスピードの基準は下手をすればプロをも凌ぐ超人揃いの裏野球大会が基準。
地の利+単純なスピード差、逃げることに重点を置けばほぼ安泰に近い確率で逃げ切れる。
しかし、少女は三橋のそんな計算を軽く無視し迫ってくる。
「くぅ……!」
「進藤ちゃんと約束したさかいな……とは言え、サイボーグや。悪いけどマジでいくで」
「進藤ちゃんと約束したさかいな……とは言え、サイボーグや。悪いけどマジでいくで」
少女は三橋のスピードを簡単に上回り、正面へと立ち塞がる。
やはりおかしい。
確かに股下の長さとしなやかな身体ならばそれ相応のスピードは出るだろう。
だが、幾らなんでも速すぎる。
身体能力が優れている優れていない、鍛えている鍛えていない、とかそんなレベルではない。
何かがある、三橋が見落としている何かが。
やはりおかしい。
確かに股下の長さとしなやかな身体ならばそれ相応のスピードは出るだろう。
だが、幾らなんでも速すぎる。
身体能力が優れている優れていない、鍛えている鍛えていない、とかそんなレベルではない。
何かがある、三橋が見落としている何かが。
「っ!」
だが、少女は三橋の思考に割り込むように蹴りを入れてくる。
鋭く速い、三橋は不様に階段を転げ落ちていった。
身体に鈍い痛みが広がる。
迫ってきている、何度も言うがこのスピードはあまりにも速すぎる。
目を放していたのはわずかな間、階段を駆け降りる音も聞こえなかった。
飛び降りた着地の音も小さい。
まるで高所から飛び降りてきたような、そんなスピードだ。
鋭く速い、三橋は不様に階段を転げ落ちていった。
身体に鈍い痛みが広がる。
迫ってきている、何度も言うがこのスピードはあまりにも速すぎる。
目を放していたのはわずかな間、階段を駆け降りる音も聞こえなかった。
飛び降りた着地の音も小さい。
まるで高所から飛び降りてきたような、そんなスピードだ。
「!?」
不格好を承知でとにかく適当に鬼の手を振り回す。
当たりはしなかったが、向こうが距離を取るために離れてくれた。
恐らく鬼の手が非常にマズイ物だと悟ったのだろう。
劣勢に追い込まれた三橋がこの隙を逃すわけがなかった。
素早く振り返り、大急ぎで地下を駈けていく。
自分ではあの少女に勝てはない、それを三橋はハッキリと理解した。
戦略的撤退や仕切り直しなんて綺麗なものではない。
はっきりとした逃亡、恥も外聞もない行動。
三橋は体裁もなく懸命に走って行く。
目指すは別出入り口。
その瞬間、デイバックから二つの筒を取り出す。
一つは熱湯に入れ替えたペットボトル、振りまくだけで虚を突くことはできるだろう。
一つは三橋の切り札、鋼の元の支給品、恐らくこの殺し合いの中で最も強力な武器。
当たりはしなかったが、向こうが距離を取るために離れてくれた。
恐らく鬼の手が非常にマズイ物だと悟ったのだろう。
劣勢に追い込まれた三橋がこの隙を逃すわけがなかった。
素早く振り返り、大急ぎで地下を駈けていく。
自分ではあの少女に勝てはない、それを三橋はハッキリと理解した。
戦略的撤退や仕切り直しなんて綺麗なものではない。
はっきりとした逃亡、恥も外聞もない行動。
三橋は体裁もなく懸命に走って行く。
目指すは別出入り口。
その瞬間、デイバックから二つの筒を取り出す。
一つは熱湯に入れ替えたペットボトル、振りまくだけで虚を突くことはできるだろう。
一つは三橋の切り札、鋼の元の支給品、恐らくこの殺し合いの中で最も強力な武器。
(あの子、早めに殺しておきたいな……)
接近戦しか出来ない三橋にとってあの少女はかなり相性が悪い相手だ。
銃器を手に入れればまた別だが、鬼の手を当てることすら出来ない現状はかなりまずい。
故に、三橋は一方の筒を静かに開いた。
銃器を手に入れればまた別だが、鬼の手を当てることすら出来ない現状はかなりまずい。
故に、三橋は一方の筒を静かに開いた。
◆ ◆ ◆
浜野 朱里は水族館に来ていた。
手に持つは六尺棒とデイパックだけ。
いつも肌身離さず持っていた武器は全て奪われた。
そう思うとひどく不安になる。
戦力の低下、という面での不安もあるだろう。
だが、姉妹たちとの繋がりであるものが奪われた、ということが何処となく空虚感を覚えた。
手に持つは六尺棒とデイパックだけ。
いつも肌身離さず持っていた武器は全て奪われた。
そう思うとひどく不安になる。
戦力の低下、という面での不安もあるだろう。
だが、姉妹たちとの繋がりであるものが奪われた、ということが何処となく空虚感を覚えた。
「……」
朱里は無言で、それでいて周囲を警戒しながら水族館の中へと入っていく。
理由は単純、先ほどの電話の主、三橋一郎を殺しに来たのだ。
参加者を減らしてくれる存在だが、紫杏を殺すようなことは断じてあってはならない。
大江和那は……保留だ。あまり考えたくない。
とにかく、紫杏と合流するにもとにかく動く必要がある。
ならば、危険要素も排除しておこうと考えたのだ。
不意打ちならば殺せる、銃を持っていない人間ならば確実に殺せる。
都合のいいことに、先ほどから音が聞こえる。
しかも複数で地を蹴る音と壁にたたきつけられる音。
間違いなく戦闘、ならばやることは一つ。
決着のついたところを横合いから思いきり殴りつける、それで終わりだ。
理由は単純、先ほどの電話の主、三橋一郎を殺しに来たのだ。
参加者を減らしてくれる存在だが、紫杏を殺すようなことは断じてあってはならない。
大江和那は……保留だ。あまり考えたくない。
とにかく、紫杏と合流するにもとにかく動く必要がある。
ならば、危険要素も排除しておこうと考えたのだ。
不意打ちならば殺せる、銃を持っていない人間ならば確実に殺せる。
都合のいいことに、先ほどから音が聞こえる。
しかも複数で地を蹴る音と壁にたたきつけられる音。
間違いなく戦闘、ならばやることは一つ。
決着のついたところを横合いから思いきり殴りつける、それで終わりだ。
(下を駆ける音……一方が逃げ出して終わりか。なら、ためらう必要はないわね)
聞こえた音がした場所は階段の踊り場。
大丈夫だ、素手で行ける。
そう判断し素早く駆ける。殺すのに一分もかけない、数秒でケリをつける。
大丈夫だ、素手で行ける。
そう判断し素早く駆ける。殺すのに一分もかけない、数秒でケリをつける。
「なっ……!?」
だが、廊下の角を曲ったときに見つけた階下に想像もしなかった姿で身体を固まらせてしまう。
うすい青色を基調としたブレザー、そして190センチを軽く超える身長とそれに似合わない童顔。
その姿を朱里はよく知っている。
神条 紫杏とは別の意味で殺すことを躊躇う人物。
思えば高校時代で共に居ることが多かったかも知れない人物、大江和那だ。
うすい青色を基調としたブレザー、そして190センチを軽く超える身長とそれに似合わない童顔。
その姿を朱里はよく知っている。
神条 紫杏とは別の意味で殺すことを躊躇う人物。
思えば高校時代で共に居ることが多かったかも知れない人物、大江和那だ。
「……お、おー、ようやっと見つけたで朱里」
「カズ……」
「カズ……」
和那が少し驚いた表情を浮かべた後、手を上げてカツカツと階段を昇りながら話しかける。
戦闘のためか額から汗が流れている上、言葉にも疲れを感じさせる。
朱里はその様子にはっきりとした言葉を返せない。罪悪感に似た、らじくない感情が胸に渦巻いていく。
戦闘のためか額から汗が流れている上、言葉にも疲れを感じさせる。
朱里はその様子にはっきりとした言葉を返せない。罪悪感に似た、らじくない感情が胸に渦巻いていく。
「走太くんと真央に聞いたで。アホなことやっとるらしいやないか」
「…………」
「誤解や、とは言わんのか?」
「……言わないわ。どうせアンタ信じないでしょ」
「信じるかもしれへんで?」
「嘘ね。アンタ、そう言うことは無駄に鋭いんだから」
「…………」
「誤解や、とは言わんのか?」
「……言わないわ。どうせアンタ信じないでしょ」
「信じるかもしれへんで?」
「嘘ね。アンタ、そう言うことは無駄に鋭いんだから」
吐き捨てる様に朱里は言葉を投げかける。
和那は相変わらず笑みを浮かべたままだ。
ひどく気分が悪い、まるでお前には私を殺せないと言われているようだ。
和那は相変わらず笑みを浮かべたままだ。
ひどく気分が悪い、まるでお前には私を殺せないと言われているようだ。
「退いてほしいの、カズ。ここに居る男に用があってね」
「三橋さんを殺すんか?」
「知らないのなら教えてあげるわ。その三橋って言う男は」
「殺し合いに乗ってんのやろ? そんなん知っとるで」
「三橋さんを殺すんか?」
「知らないのなら教えてあげるわ。その三橋って言う男は」
「殺し合いに乗ってんのやろ? そんなん知っとるで」
なら、と口を開こうとするところを和那の笑みで遮られる。
いつにも増して大江和那という女が余裕を持っている。
こんな状況だと言うのに、その余裕が朱里には不思議だった。
いつにも増して大江和那という女が余裕を持っている。
こんな状況だと言うのに、その余裕が朱里には不思議だった。
「朱里、うち少し考えたんや」
「……なにをよ?」
「どうにかして、殺し合い以外の方法でここから生きて帰れんかなって」
「はっ!」
「……なにをよ?」
「どうにかして、殺し合い以外の方法でここから生きて帰れんかなって」
「はっ!」
その言葉に思わず笑ってしまう。
余裕ぶっている割には言葉は理想もいいところだ。
和那の言葉からは具体的な策を感じることが出来ない。
甘い、とことん甘い。
余裕ぶっている割には言葉は理想もいいところだ。
和那の言葉からは具体的な策を感じることが出来ない。
甘い、とことん甘い。
「アンタ馬鹿? いや、馬鹿だったわね。なら聞いてあげるわカズ。
首輪はどうするの?どうやってこの島から出るの?我威亜党とか言う頭のイカレた連中はどうするの?
少なくともこの三つは考えてるんでしょ?」
「そんなん、後で考えればええ」
「はぁ?」
首輪はどうするの?どうやってこの島から出るの?我威亜党とか言う頭のイカレた連中はどうするの?
少なくともこの三つは考えてるんでしょ?」
「そんなん、後で考えればええ」
「はぁ?」
あまりの返答に朱里は思わず、意味が分からない、と言った気持ちを表情に出してしまう。
この三つが解消されるのなら、朱里は喜んで殺し合いを放棄しよう。
最も、襲いかかってくる相手はその限りではないが。
この三つが解消されるのなら、朱里は喜んで殺し合いを放棄しよう。
最も、襲いかかってくる相手はその限りではないが。
「なあ、朱里。そうやないんや、そんな仕方なしに殺すとかやりたくないんや。
うちはまだ高校生のガキンチョや。お前や紫杏や彼と一緒に笑い合うような年ごろや。
それでええし、それだけで構わへん。
朱里、うちは完全無欠のハッピーエンド以外お断りや。
死ぬんは畳の上で息子やら娘やら孫やら曾孫やらに囲まれて死ぬって決めとるからな」
「……そんなの、無理に決まってるじゃない」
うちはまだ高校生のガキンチョや。お前や紫杏や彼と一緒に笑い合うような年ごろや。
それでええし、それだけで構わへん。
朱里、うちは完全無欠のハッピーエンド以外お断りや。
死ぬんは畳の上で息子やら娘やら孫やら曾孫やらに囲まれて死ぬって決めとるからな」
「……そんなの、無理に決まってるじゃない」
強く否定したいはずなのに、朱里はかすれた小さな声が漏れるように出ただけだった。
何故かはわからない。
おかしいとは思う。だが、否定することが出来ない。
何故かはわからない。
おかしいとは思う。だが、否定することが出来ない。
「アンタは……私たちは、そんな平凡な日常なんて送れないのよ。
大げさな話じゃ決してないわ。
死ぬまで戦って、死ぬまで利用されて、死ぬ時は誰にも知られずにひっそりと、よ。
私たちはね、生きるために死ぬまで戦うなんて馬鹿なことしか出来ない類の生き物なのよ」
「アホなこと言うなや、そんなん抗ってみなぁ分からんやないか」
「無理よ、私とアンタはいつか死んじゃうの。
もちろん死ぬ場所はアンタの言う畳の上でじゃないわ。
打ちっぱなしの冷たいコンクリートの上で、誰にも見届けられず惨めに死ぬの。
……そういうものなのよ。アンタはどうなるかは知らないけど、私は間違いなくそう死ぬわ」
「そんな、そんな悲しいこと言うなや」
大げさな話じゃ決してないわ。
死ぬまで戦って、死ぬまで利用されて、死ぬ時は誰にも知られずにひっそりと、よ。
私たちはね、生きるために死ぬまで戦うなんて馬鹿なことしか出来ない類の生き物なのよ」
「アホなこと言うなや、そんなん抗ってみなぁ分からんやないか」
「無理よ、私とアンタはいつか死んじゃうの。
もちろん死ぬ場所はアンタの言う畳の上でじゃないわ。
打ちっぱなしの冷たいコンクリートの上で、誰にも見届けられず惨めに死ぬの。
……そういうものなのよ。アンタはどうなるかは知らないけど、私は間違いなくそう死ぬわ」
「そんな、そんな悲しいこと言うなや」
つかつか、と足音を立てながら朱里の目前まで和那が迫る。
人一倍背の高い和那と人一倍背の低い朱里の差は子供と大人以上のもの。
見上げる朱里の険しい目線と見下げる和那の笑っている目がかち合う。
そして沈黙が数瞬だけ続き、再び和那が口を開いた。
人一倍背の高い和那と人一倍背の低い朱里の差は子供と大人以上のもの。
見上げる朱里の険しい目線と見下げる和那の笑っている目がかち合う。
そして沈黙が数瞬だけ続き、再び和那が口を開いた。
「朱里が居らんなったらうちは誰にツッコめばいいんや」
「関係ないわね、何度も言うけど私たちはドライな関係のはずよ。
アンタが思ってるような幸せな関係じゃないわ」
「朱里がどう言おうと、うちらはダチや。
うちがボケた時は朱里が突っ込んで、朱里がボケた時はうちが突っ込む。そうやろ?」
「……アンタねぇ」
「言っとくけど、これだけは譲らんで。朱里のやってることはうちにはどうしても許容出来んかってな。
どうしても進みたい言うんやったらうちの屍を越えて行きぃ!」
「関係ないわね、何度も言うけど私たちはドライな関係のはずよ。
アンタが思ってるような幸せな関係じゃないわ」
「朱里がどう言おうと、うちらはダチや。
うちがボケた時は朱里が突っ込んで、朱里がボケた時はうちが突っ込む。そうやろ?」
「……アンタねぇ」
「言っとくけど、これだけは譲らんで。朱里のやってることはうちにはどうしても許容出来んかってな。
どうしても進みたい言うんやったらうちの屍を越えて行きぃ!」
カッカッカ、と愉快気に笑いながら立塞がるように朱里の前に出る。
恐らくここをやり過ごしても死ぬまで追いかけてくるだろう。
それに、喧嘩は慣れたものだ。
思えば喧嘩と稽古の違いはあれど、会うたびに殴り合っていたのだ。
やるしかない、とため息を吐きながら身構える。
恐らくここをやり過ごしても死ぬまで追いかけてくるだろう。
それに、喧嘩は慣れたものだ。
思えば喧嘩と稽古の違いはあれど、会うたびに殴り合っていたのだ。
やるしかない、とため息を吐きながら身構える。
何故か六尺棒は、使う気になれなかった。
デイパックを地面へと落として和那を見据える。
最初に相対した時よりも威圧感を持っており、何処か余裕も感じさせる。
この一年弱の間で何倍も大きく成長したのだろう。
そう素直に思えると目の前の天才だ。
ふと蘇るのは、朱里と和那の通っている保険医でありジャジメントの一員でもある桧垣という男の言葉。
デイパックを地面へと落として和那を見据える。
最初に相対した時よりも威圧感を持っており、何処か余裕も感じさせる。
この一年弱の間で何倍も大きく成長したのだろう。
そう素直に思えると目の前の天才だ。
ふと蘇るのは、朱里と和那の通っている保険医でありジャジメントの一員でもある桧垣という男の言葉。
『貴方の代わりなら幾らでもいる』
この貴方と言うのは朱里だけを指している、決して和那のことを言っているわけではない。
熟練しているとはいえアンドロイドである朱里が、未熟ではあるとはいえ超能力者である和那を。
間違っても壊すような真似をするなと、そう言っているのだ。
熟練しているとはいえアンドロイドである朱里が、未熟ではあるとはいえ超能力者である和那を。
間違っても壊すような真似をするなと、そう言っているのだ。
そう考えていると、和那が迫ってくる。
身体を動かさずに、不自然な体勢で迫って来ているのは、こちらに向かって『落ちてきている』からだ。
彼女が朱里側へと落ちてきた原因となった超能力。
それは『和那本人にかかる重力の向きを変える』という能力。
単純な、それでいて強力な能力。
一山幾らのアンドロイドに過ぎない朱里とは比べ物にならない貴重な戦力だ。
だが、朱里は簡単に和那の拳を避わし当てるだけのジャブとはいえカウンターを入れた。
身体を動かさずに、不自然な体勢で迫って来ているのは、こちらに向かって『落ちてきている』からだ。
彼女が朱里側へと落ちてきた原因となった超能力。
それは『和那本人にかかる重力の向きを変える』という能力。
単純な、それでいて強力な能力。
一山幾らのアンドロイドに過ぎない朱里とは比べ物にならない貴重な戦力だ。
だが、朱里は簡単に和那の拳を避わし当てるだけのジャブとはいえカウンターを入れた。
「くぅ……!」
この勝負、朱里は負けるとは思っていない。
勝率的に見れば六分四分、低く見積もっても精々割合が逆になるぐらいのものだろう。
何故なら、朱里には和那がいつ落ちてくるかぐらいなら分かるのだ。
落ちると言う動作は思っているよりも恐ろしいものだ。
想像してみればわかる、僅か10メートルとは言えそこから飛び降りるのだ。
幾ら和那が慣れているとはいえ、落ちる瞬間は身を強張らせる。
それは僅かな動きだが、構えが固められている和那が強張らせれば直ぐに見抜くことが出来る。
旧式だとはいえ朱里は戦闘用にカスタムされているサイボーグだ。
手数で言えば互角、単純な速さならば向こうが上。
だが、和那よりも朱里の方が目も良ければ耐久も優れている。
負ける要素が見当たらない、と言うほどではないが朱里が優位に立っているのは間違いない。
勝率的に見れば六分四分、低く見積もっても精々割合が逆になるぐらいのものだろう。
何故なら、朱里には和那がいつ落ちてくるかぐらいなら分かるのだ。
落ちると言う動作は思っているよりも恐ろしいものだ。
想像してみればわかる、僅か10メートルとは言えそこから飛び降りるのだ。
幾ら和那が慣れているとはいえ、落ちる瞬間は身を強張らせる。
それは僅かな動きだが、構えが固められている和那が強張らせれば直ぐに見抜くことが出来る。
旧式だとはいえ朱里は戦闘用にカスタムされているサイボーグだ。
手数で言えば互角、単純な速さならば向こうが上。
だが、和那よりも朱里の方が目も良ければ耐久も優れている。
負ける要素が見当たらない、と言うほどではないが朱里が優位に立っているのは間違いない。
「てりゃい!」
「……」
「……」
腹にカウンターに入れたと言うのに、和那は体勢を崩したままで上段蹴りを入れる。
無茶な体勢で放った蹴り、だが異常なまでに重い蹴りだ、防いだ腕がビリビリと痺れを覚える。
彼女の能力は移動のためだけでなく攻撃にも転じることが出来る。
恐ろしいことに、能力を応用すれば彼女は真上に向かって体重を乗せた攻撃も出来る。
他にも掴んだだけでも骨を折ることも出来るし、超上空へ持ち上げて落とすことも出来る。
その上、和那自身が優れた武術家でもある。
恐らく槍、もしくはそれに準じた武器があれば間違いなく朱里は簡単に抑え込まれるだろう。
朱里に本来の武装を入れたとしても、難しいところだ。
無茶な体勢で放った蹴り、だが異常なまでに重い蹴りだ、防いだ腕がビリビリと痺れを覚える。
彼女の能力は移動のためだけでなく攻撃にも転じることが出来る。
恐ろしいことに、能力を応用すれば彼女は真上に向かって体重を乗せた攻撃も出来る。
他にも掴んだだけでも骨を折ることも出来るし、超上空へ持ち上げて落とすことも出来る。
その上、和那自身が優れた武術家でもある。
恐らく槍、もしくはそれに準じた武器があれば間違いなく朱里は簡単に抑え込まれるだろう。
朱里に本来の武装を入れたとしても、難しいところだ。
そこまで考えた思わず笑みが浮かぶ。
最初はそれほどの差はなかった。
たとえ槍を持っていたとしても朱里の方が完全に上回っていた。
それは覚悟の問題とか以前の単純な技能の差が故だ。
変わってしまった。
目の前の少女はあの最低の世界で立派に生きていける程に強くなっているのだ。
最初はそれほどの差はなかった。
たとえ槍を持っていたとしても朱里の方が完全に上回っていた。
それは覚悟の問題とか以前の単純な技能の差が故だ。
変わってしまった。
目の前の少女はあの最低の世界で立派に生きていける程に強くなっているのだ。
蹴りの衝撃をそのままに、痛みを逃がすように後ろへと蹴りの勢いに任せて飛ぶ。
衝撃を逃がすために後ろへと飛ぶ、言葉にすると馬鹿らしいものだ。
しかし、それぐらい出来なくてはあの世界で近接戦闘など出来はしない。
二・三メートルほど飛ばされ、階段を転がり落ちる。
鈍い痛みに襲われながら体を立て直そうとするが、和那は既に目の前に迫ってきていた。
機動力では和那が明らかに上回っていると認めざるを得ない。
そして間髪をおかずに朱里の顔に強い蹴りが叩き込まれる。
容赦はない、もちろん容赦なんてしていたらその隙に反撃している。
階段の踊り場の壁に大きく叩きつけられて、肺の中の空気を全て吐き出す。
だが、それが助かった。
痛みには慣れている、追撃のために目の前に迫っていた和那。
その蹴りに対して、滑るようにしゃがみ込んで躱わす。
完全に避け切れず頭に僅かに蹴りが決まるが、その痛みを無視するように足払いをかける。
和那が強制的に重心を低くするところを狙って攻撃を入れようとするが――――
衝撃を逃がすために後ろへと飛ぶ、言葉にすると馬鹿らしいものだ。
しかし、それぐらい出来なくてはあの世界で近接戦闘など出来はしない。
二・三メートルほど飛ばされ、階段を転がり落ちる。
鈍い痛みに襲われながら体を立て直そうとするが、和那は既に目の前に迫ってきていた。
機動力では和那が明らかに上回っていると認めざるを得ない。
そして間髪をおかずに朱里の顔に強い蹴りが叩き込まれる。
容赦はない、もちろん容赦なんてしていたらその隙に反撃している。
階段の踊り場の壁に大きく叩きつけられて、肺の中の空気を全て吐き出す。
だが、それが助かった。
痛みには慣れている、追撃のために目の前に迫っていた和那。
その蹴りに対して、滑るようにしゃがみ込んで躱わす。
完全に避け切れず頭に僅かに蹴りが決まるが、その痛みを無視するように足払いをかける。
和那が強制的に重心を低くするところを狙って攻撃を入れようとするが――――
「……ちっ」
だが、それは決まりはしなかった。
和那の重力を操る能力で朱里とは逆方向に向かって『落ちて』いったからだ。
急な動作だったためか、上手く着地できずに背中を壁に思いきり叩きつけられる。
それでも朱里のワン・ツーをまともに食らうよりは何倍もマシだっただろう。
もし決まっていたら痛みのあまり見せた隙で良いように責められていただろう。
とは言え、結果は同じだ。
朱里もこれで決まるとは思っていなかったし、そこで手を止めるつもりなどさらさらない。
和那には劣るとはいえ素早い動きで迫る。
まずは鳩尾に拳を入れて動きを止め、次に意識を刈り取る顎への一撃。
和那の重力を操る能力で朱里とは逆方向に向かって『落ちて』いったからだ。
急な動作だったためか、上手く着地できずに背中を壁に思いきり叩きつけられる。
それでも朱里のワン・ツーをまともに食らうよりは何倍もマシだっただろう。
もし決まっていたら痛みのあまり見せた隙で良いように責められていただろう。
とは言え、結果は同じだ。
朱里もこれで決まるとは思っていなかったし、そこで手を止めるつもりなどさらさらない。
和那には劣るとはいえ素早い動きで迫る。
まずは鳩尾に拳を入れて動きを止め、次に意識を刈り取る顎への一撃。
これで終わりだ。
これで終わらせて、人を殺しに行く。
そこまで考えて、ふと思考に意識をやってしまう。
結局自分はどうしたいのだ、と朱里は考えてしまったのだ。
和那を殺す、という選択肢が浮かばなかった。
おかしい、明らかに自分はおかしい。
これが神条紫杏ならばまだ分かる、神条紫杏は浜野朱里が命を懸けてでも守るべきだと思った対象だ。
だが、何故大江和那を殺すという選択肢が浮かばなかったのだ。
和那を殺す、という選択肢が浮かばなかった。
おかしい、明らかに自分はおかしい。
これが神条紫杏ならばまだ分かる、神条紫杏は浜野朱里が命を懸けてでも守るべきだと思った対象だ。
だが、何故大江和那を殺すという選択肢が浮かばなかったのだ。
「朱里ぃぃぃぃ!」
その声にはっ、とさせられる。
動きが鈍っている、このままではマズイ。
直ぐに動きに集中させようとするが、もう遅い。
動きが鈍っている、このままではマズイ。
直ぐに動きに集中させようとするが、もう遅い。
伸ばした朱里の腕が届くよりも速く、和那は懐に潜り込み、全体重をこめた拳を顎へと打ち上げた。
瞬間、この意識を刈り取られそうなほど痛烈な一撃で、抱えていたもやもやの正体を何となく理解した。
それは、今はもう懐かしい記憶と春先に起こった二つの大事な記憶。
そのどちらも痛みに襲われる中の、朱里にとって忘れることのできない記憶だ。
―――――それは、かけがえのない姉妹を失った記憶と、かけがえのない親友が出来た記憶。
どうして偽名を使う際に和那の名前を使わなかったかが分かった。
――――それは不快だからではなく、友達を利用するような真似をしたくなかったから。
どうして三橋に紫杏だけでなく和那も殺すと言われた時に不快な感情が生まれたか分かった。
――――それは和那が朱里にとって、居なくなって欲しくない人物だったから。
どうして和那を殺すと言う選択肢が浮かばなかったかの分かった。
――――それは浜野朱里にとって、大江和那は大切な友人だから。
ふらつく足元。ぐらぐらと揺れる脳髄。力の籠らない身体。
和那は警戒するように朱里を見ている。
それとは対照的に朱里は口元を弛ませる。
おかしくてたまらなかった。
朱里にとって大切なのは自分だけのはずだった。
大切だと思った姉妹はもう死んでしまい、さらにその姉妹は朱里に生きていて欲しいと思ったから。
だと言うのに、今は大切なものが自分以外にも出来てしまっている。
それとは対照的に朱里は口元を弛ませる。
おかしくてたまらなかった。
朱里にとって大切なのは自分だけのはずだった。
大切だと思った姉妹はもう死んでしまい、さらにその姉妹は朱里に生きていて欲しいと思ったから。
だと言うのに、今は大切なものが自分以外にも出来てしまっている。
「……カズ」
「なんや」
「なんや」
未だに警戒を解こうとしない。
思ったよりも自分は信用されていないようだと朱里は少しおかしくなる。
まあ、この友人兼弟子とこれから親交を深めるのも悪くない、とも思った。
思ったよりも自分は信用されていないようだと朱里は少しおかしくなる。
まあ、この友人兼弟子とこれから親交を深めるのも悪くない、とも思った。
「とりあえず、お腹空いたから何か食べましょうか」
「――――! ああ、ええで!」
「――――! ああ、ええで!」
一瞬で警戒を解いて駆け寄ってくる和那。
それがどうにもおかしくて朱里は思わずクスリと口を動かすだけとはいえ笑みが浮かぶ。
一度笑みがこぼれるともう止められない。
クスリと笑うだけでなく大口を開けて笑いが零れる。
和那はその様子を見て一瞬だけキョトンとした顔を見せるが、すぐに釣られるように笑いだす。
朱里と和那自身にも何故笑っているのかよく分からない。
ただ、おかしくて楽しくて、とても嬉しいと言うことだけは分かっている。
笑いを止めようとはしない。
まるで二人は凱歌を歌いながら故郷へと帰る兵士のようだ。
彼女たちの笑いは事務室にたどり着くまで続いた。
それがどうにもおかしくて朱里は思わずクスリと口を動かすだけとはいえ笑みが浮かぶ。
一度笑みがこぼれるともう止められない。
クスリと笑うだけでなく大口を開けて笑いが零れる。
和那はその様子を見て一瞬だけキョトンとした顔を見せるが、すぐに釣られるように笑いだす。
朱里と和那自身にも何故笑っているのかよく分からない。
ただ、おかしくて楽しくて、とても嬉しいと言うことだけは分かっている。
笑いを止めようとはしない。
まるで二人は凱歌を歌いながら故郷へと帰る兵士のようだ。
彼女たちの笑いは事務室にたどり着くまで続いた。
| 前へ | キャラ追跡表 | 次へ |
| 062:爆ぜる陰謀 | 大江和那 | 072:FALLEN GIRLS Ⅱ |
| 064:命の価値 | 浜野朱里 | 072:FALLEN GIRLS Ⅱ |
| 064:命の価値 | 三橋一郎 | 072:FALLEN GIRLS Ⅱ |