分析哲学には二つの特徴がある、一つは厳密な論理を使用する(分析する)ことと、もう一つは経験的事実に基づく実証主義の傾向である。 これらの特徴を備えた20世紀初頭の論理実証主義が分析哲学の始まりとされる。
実証主義的傾向は論理実証主義以前に、エルンスト・マッハによって、学問の役割を経験的な事実を法則によって整備することにあるという 「思惟経済」の考え方によって提起されていた。 哲学においても、形而上学的な独断を排し、経験に基づいた事実を論理的に厳密な思考によって分析することによって哲学の科学化を目指そう とする動きが1922年、モーリッツ・シュリックを中心としたウィーン学団によって展開され、論理実証主義と呼ばれるようになった。
こうした実証主義とは無関係に、19世紀に数学の論理学を用いて基礎づける「論理主義」を展開したゴットロープ・フレーゲによる現代論 理学が誕生していた。フレーゲは命題論理(真もしくは偽の真理値を持つ命題を結合子によって組み合わせたものについての真理値を計算する 方法)と述語論理(∀や∃といった量化子を用いて量を表す表現を導入したもの)を導入した。
現代論理学はバートランド・ラッセルによって更に発展させられ、かつ経験論と合流した。 ラッセルの弟子であるルトヴィヒ・ウィトゲンシュタインは『論理哲学論考』において世界を命題論理で明晰に記述できるものとし、形而上学 については命題として明晰に語れない以上、語りうるものを明晰に表現してその存在を示唆する以外に方法はないことを示し、哲学の世界に 「言語論的転回」をもたらした。
論理実証主義は「哲学の科学化」するための方法論を『論理哲学論考』の影響による「語りうるもの」すなわち事実についての明晰な言語化 に定めた。そこでは形而上学的命題を疑似命題として退ける一方で経験に基づく科学のような綜合命題が有意味な命題であるとされ、綜合命題 は体験的な所与に還元されるという還元主義を唱えた。
しかし、経験への還元を徹底した場合、最終的に何に還元されるのかという問題(プロトコル命題についての論争)を通じて論理実証主義は行き 詰まりをみせ、最終的にナチスによる弾圧により主要メンバーがアメリカに渡ることで論理実証主義運動は消滅した。
論理実証主義の方法論自体もウィラート・ヴァン・オーマン・クワインの「経験主義の二つのドグマ」において全面的に批判された。クワイン は還元主義のような基礎づけを否定し、自然科学と哲学を同列におき、科学を積極的に用いて哲学を議論する「哲学の自然化」プログラムを提唱 した。
今日、経験科学や論理と結託した形で、明晰な議論を心がけるという特徴を残しつつ、分析哲学は様々な領域へと浸透している。そこでは形而 上学や倫理学のような論理実証主義が排除した主題も扱われている。