[Chapter 0] プロローグ
生まれてきたからこそ、君はここにいる
希望や夢のすべてを
他のだれかの人生に託したりしてはならない―――
「プロジェクトは失敗だ」
「仮想世界で管理AIが反乱している」
「いまだ誰も覚醒していません」
「死の幻影が現実にその命を奪ってしまう」
「まさかこんな大惨事になるなんて」
「夢を夢と見抜ける人でないと、生き残るのは難しいでしょうね」
西暦2065年。
仮想世界で夢を共有することを目的とした一般参加型の科学実験が行われた。
しかし、それは誰もが想定しなかった結果が待っていた…
[Chapter 1] ギコ
暗闇の中を行く。
分け入っても分け入っても暗闇。
「誰か…お願い…」
誰かの声がする。少女のような声だ。
「助けて…」
「…誰だ?」
…返事はない。
と同時に視界が開ける。
見たこともない世界…
誰もいない世界…
「…どこなんだゴルァ」
「…ろ」
また誰かの声がする。男の声だ。
その声が段々大きくなっていく。耳元で叫ぶように…
「起きろ」
「わあっ!!」
急激に起きたためか、フサギコは少し驚いたような顔をした。
「いつまで寝てるんだ。遅刻するぞ」
「何も耳元で叫ばなくても…それに今日は日曜だぞゴルァ」
「おっとまだ寝る気か?」
「寝かせろよ…休みだしさ…」
「残念ながら今日は科学実験の日でーす」
俺は目を見開いた。そしてまた急激に体を起こした。
「早く言えよゴルァ!!!」
外人4コマのようなポーズをして怒鳴る。
「っはは。集合時間まであと20分だ。朝飯は食えないから着くまでせいぜい苦しむんだなw」
「…っ」
何も反論出来ないのが妙に悔しかった。
実験会場である研究室は俺達の住んでいるアパートから10分程度の距離だ。
…ただし自転車でかっ飛ばしたらの話だが。
「おせーぞギコ!」
「うるせーゴルァ!朝飯抜きだから力が出ないんだよ!」
「だからせいぜい苦しめと…」
「何でも良いから急ぐぞゴルァ!!」
さっきからこんな会話ばかりである。
腹が減ると機嫌が悪くなる、という話は本当なのかもしれない。
[Chapter 2] フサギコ
まあ、ギコの頑張りもあって10分程度で着いた。
「何か買ってくれよーそこに店あるんだしさー受付まだ並んでるしさー」
とギコがうるさいので仕方なく近くのコンビニで鮭とツナマヨのおにぎりを買ってやった。
ギコに渡したら案の定黙ったので、
(物あげて黙るってどんだけ単純なんだよ…)
と思いつつギコを見ていると、ギコはおにぎりを驚異的なスピードで平らげてみせた。
「早食いすると体に悪いんだぞ」
「今くらい良いだろゴルァ」
口元についたツナを拭っている。
「行儀悪いからやめろ」
そうこうしているうちに受付に着いた。
「では、被験者の証明書を見せてください」
俺達被験者にはあらかじめ郵送で証明書が送られていた。
「これですか」
「そうですね。えー、被験者No.2359と2360。猫村儀古様と福生儀虎様ですね」
「はい」「へい」
「では奥の方に進んでください」
この日集められた被験者は3000人。
あらかじめ被験者をインターネットで募集していたので、2名で応募しておいた。
そして抽選の結果、見事に俺達が当選したのだ。
「俺の天性の運が見事当選させたんだぞゴルァ」
「まあな、確かにお前は運だけは昔から良かったよな」
「『だけは』って何だゴルァ」
ギコは運以外は本当にどうしようもない奴だった。
成績は中の下もいいところで、今日にまで及ぶ遅刻癖、そして性格の悪さ。
事あるごとに調子に乗りすぎて台無しにさせるところを何度も見てきた。
いつもこんな感じだから今日も何をやるか予測がつかなかった。
「うわー、さすがに人多いぞゴルァ」
「そりゃ3000人だからな」
何となく見渡していると、見覚えのある影を見つけた。
[Chapter 3] 兄者
「間に合ったか」
「そのようだな」
「やれやれ…妹者が忘れ物をして一旦家に帰って10分前に着くなんて」
「流石だよな俺ら」
「間に合ったからいいのじゃー!」
「おっ、兄者!弟者!妹者!」
フサギコの声である。
「…ん、今誰か俺達を呼ばなかったか」
「空耳だろう」
「そうか」
「行くのじゃー」
その場を立ち去ろうとする。
「おい無視すんなよ!」
慌ててフサギコが駆けつけてきたので少し可笑しかった。
後からギコも続く。
「お、ギコとフサか」
「久しぶりなのじゃー」
「…移動するのが面倒だったわけでは無いからな」
弟者がぼそっと言う。
それを聞き漏らさなかったのか、ギコが怪訝そうな顔をした。
「…じゃあ、ここで待ち合わせな。夢の中で会おうぜ」
「おk、あとでな」
事前に夢の中の街の地図を渡されていた俺達は、集合場所を決めておいた。
夢の中に入って10分後に近くの喫茶店に集合することになった。
[Chapter 4] ギコ
夢の中の街は「ナイトメアシティ」と言うらしい。
全て完璧にプログラミングされた街で、見た目は現実とほぼ変わらない。
しかし違うのは、自分の容姿だという。どういう事だろう。
地図とともに渡された説明と諸注意を見つつ、研究者のアナウンスを聞く。
「えー、ログアウト方法は、北の方角にあるトンネルを抜け、橋を渡り、荒野に行ってください。そこに行けば現実世界に戻ることが出来ます」
まあ、思いっきり楽しむから当分ログアウトする気はない。
「ただし一度ログアウトすると二度と戻れませんのでご注意下さい」
「2001番から3000番の方は3階になりまーす」
「俺らは3階か」
「いちいち誘導する研究員も大変だなゴルァ…」
3階に着くと、そこには見たこともない光景が広がっていた。
薄暗い中、ずらりと並ぶカプセル。それに繋がれた計器類。
「研究所ってこんな感じなのかゴルァ…」
カプセルには一つにつき一人分、3000人だから3000個ある。
カプセルに付けられた番号と証明書の番号を見つつ、自分のカプセルを探す。
ドスッ。
「おい気を付けろゴル…って、しょぼんじゃねーか!」
「ギコくん?なんでいるの?」
「何でって、そりゃ当選したからに決まってるじゃねーかゴルァ」
「僕たちも当選したんだよ」
しょぼんはそう言った。後ろを見ると、ネーノにレモナ、ジエン、毒男にヒッキーもいる。
「当選するくらいいいんじゃネーノ」
「そうだ、街について10分後にその辺の喫茶店に集合って事になってるからな」
「わかった。じゃあ後でね」
そう言って、しょぼん達は自分達のカプセルを探しに行った。
「えーっとE列、2359番…あったぞゴルァ」
「自分のカプセルを見つけましたか?ではカプセルを開けて中で寝ころんでください」
「じゃあ後でな」
フサギコはそう言うと真っ先にカプセルの中に入った。それを見て俺も入る。
カプセルの中は意外と広かった。それにフカフカしている。
「それではシステムを作動させます。みなさん、いってらっしゃい!」
「お、始まるぞゴルァ」
不思議な音が部屋中に響く。
「どんな街かな…少し緊張するぞゴルァ…」
目をつむる。
その瞬間、街の光景が見えた。どうやらナイトメアシティに着いたようだ。
[Chapter 5] ???
「…ついに来るな。犠牲者とやらが」
「このために腕を鍛えておいたモナ」
「どんな色男来るかなハァハァ」
「アヒャヒャ!ウデガナル!」
「まあそう早まるな」
「…」
「いいか、始まって20分くらいまでは良い奴で居るんだ。20分経ったら合図がある。そして計画開始だ」
「モナ」「ハァ」「アヒャ」
「…」
「…お前はそんなに嫌か」
「…」
「まあ、俺達の計画を邪魔しなかったら、何してくれても良いがな」
「…」
「お、そろそろ来るぞ。みんな位置に着いとけ」
ついに被験者達がやってきた。
最終更新:2012年08月01日 15:56