[Chapter 6] ギコ
俺は路地裏に立っていた。
ちょっと通りに出て見渡してみると、なんだか見覚えのある町並みだった。
「ん…これは…夢で見た街かゴルァ…」
今朝見た夢で出た街にそっくりだった。夢と違って人はいるが確かにあの街だ。
ビル街、交差点、車、人……人?
いや、人と言えば人なのだが何かが違う。猫耳がついて尻尾が生えている…
ということは俺も…
「…なんだゴルァ!」
俺自身がまさに猫そのものになっていた。手には肉球もある。
その辺のガラスに自分を映してみる。まさに猫だ。黄色い猫だ。尻尾もあって猫耳もある。
本物の猫とは違って常に二足歩行だが。
「容姿が違うって…このことだったのかゴルァ」
行く前に渡された諸注意を思い出す。
ということはその辺にいる人たちは皆被験者という事になる。
きっとフサギコや流石兄弟、しょぼんたちもこういう姿なんだろう。
とりあえず集合場所の喫茶店に向かうことにした。
ドスッ。
また人にぶつかった。今日は人にぶつかる運が強いようだ。
「気をつけろよゴルァ…?」
「あ…ごめんなさい」
見ると女の子だった。俺ぐらいの年齢だろうか。
「あー…悪いな…」
「…ううん、こちらこそ」
「…名前は」
「えっ…えっと…しぃ」
「そうか、俺はギコだ」
「あ…私これから行くところあるんで…それじゃあ!」
「あ、待てよゴルァ!」
行ってしまった。結構速いスピードだ。
仕方がないのでまた喫茶店に向かって歩き出す。
それをしぃが別の路地から見ていたのを俺は気が付かなかった。
喫茶店の近くの十字路を曲がったところで、これでもかというほど青い人とすれ違った。
その人は不敵な笑みを浮かべつつ、
「さて…もうすぐだな」
と呟いていた。
[Chapter 7] フサギコ
「あ、おーい!」
ギコに気が付いて呼び止める。
ギコも気づいたようで、こっちに向かって走ってきた。
「おせーぞ。何かあったか?」
「あー…いや何も」
「…それはどうかな」
「まあそれは置いといて…って何でフサだけ犬なんだよゴルァ!」
「知るか!この姿に変えたシステムに聞け!」
「…元々毛深かったしなあゴルァ」
「ああん?今何か言ったか?」
「あっいや何も」
俺は元々胸から足まで毛が濃かった。まあそれはどうでもいいのだが。
「…で、他の奴らは?」
「流石兄弟ならそこだ」
指を指す。指した方向を見てギコは驚愕していた。
流石兄弟は、兄者は緑色、弟者は青色の猫になっていた。そして妹者は…
「妹者全然変わってねーじゃんかゴルァ」
「変わったのじゃー!ちょっとだけ背が伸びたのじゃー!」
妹者は普通に人である。
「俺なんかもっと凄いぞ」
「どこがだ兄者」
「どうだ、研究員の目を盗んでPC持ってきた」
「凄いな…流石だな兄者」
物を持ち込むのは禁止だが、どうやら持ち込めることを証明したらしい。
またドアが開く。2人組だ。それに続けて6人入る。
「…あ、もしかしてフサか」
「お、1か?それに隣はおにぎりか」
1は妹者と同じく人型で、金髪である。
おにぎりは、その名前通り頭におにぎりが乗っかっていた。
「…なんかどれもこれも名前や性格通りの姿だなゴルァ」
「あ、ギコくん」
「お、しょぼんか」
「驚いたなあ。全然顔変わってない」
「うるせーなゴルァ」
「まあ一番驚いたのはジエンくんだけどね」
そういえばジエンの姿がない、と思っていたら何かがテーブルの上に乗ってきた。
「ギコ!ギコ!オレジエーン!」
「えええええええ!?」
もはや顔だけの姿になっている。
いくらなんでもこれは研究者に直訴しても良いレベルだが、本人は満更でもないようだ。
他のメンツを見ると、毒男とヒッキーも普通に人型だ。
レモナは猫耳と尻尾が生えた人型というような感じになっている。
「…やっぱり変わってないなみんな」
「あーそうだ、お前ら武器買ったか?」
「武器?何でそんな物騒な物が要るんだゴルァ」
「護身用に決まってるじゃないか、何かあった時のために」
そう言って、俺は日本刀を見せた。
「何故日本刀…」
「昔は剣道やってたんだぞ」
「そういえばそうだったなゴルァ」
「俺らは銃買ったぞ」
兄者は拳銃を見せた。
「銃!?」
「いやー…触る機会なかなか無いし」
「それだけの理由か…」
「お前らの分もあるぞ」
そう言って弟者と妹者に渡す。
「兄者いつの間に…流石だな」
「僕らの分は無いんですか」
しょぼんは少し悲しそうな目をした。
[Chapter 8] ギコ
「…コ!ギコ!聞いてるのか」
「わあっ!!」
相当呼んでいたらしく、フサギコは妙な顔になっている。
「お前何で無視してた」
「あー?ちょっと考え事をな…」
「お前のような単細胞が何考えても無駄だっつーの」
「それはさすがに一理あるぞゴルァ」
「じゃあ何考えてたんだ」
「えっ?そりゃあー…まあいろんな事を…」
「…ははっ」
「何がおかしいんだゴルァ」
「さてはお前来る前にいきなり一目惚れしてたな」
「はあ?何言ってんだゴルァ!」
「…図星だな」
「うっ…うるせーなゴルァ」
そんなこんなで街に来て20分くらいが経っていた。
「…ちょっと他の所見てくるぞゴルァ」
「…なんだよいきなり」
「俺にもこういう時くらいあるさ」
気晴らしに散歩にでも行こうかと思っていた。
一目惚れ、か…
確かにそうかも知れない。さっき考えていたのもあの少女、しぃの事だったからだ。
今朝の夢で聞いた声。あの声は少女のような声だった。
そしてさっきぶつかった時のしぃの声。
…間違いなくそれは、しぃの声だったのだ。
だとしたらしぃは何故助けを求めていたのか…
まあそれはひとまず置いといて、ちょっと外に出ようかな。
そう思ってドアを開けた瞬間、喫茶店のガラスが割れた。
悲鳴が響く。
「アヒャヒャ!」
見ると、そこには光る短剣を持った赤い猫がいた。
「仮想世界版の荒らしかな」
兄者が冗談を言うが、そんな場合ではない。
喫茶店にいた客は一目散に外に出るが、詰まりすぎてなかなか出られなかった。
将棋倒しになって押し倒される人もいる。
「ちっ…つーの奴早まりやがって…」
ドアに一番近くて、真っ先に出られた俺はこんな声が耳に入ってきた。
あの青い奴だった。そいつはすぐにいなくなった。
喫茶店を襲った赤い奴…つーと呼ばれた奴はもう喫茶店にはいなかった。
外に出ると他の仲間もいたらしく、あちこちで殺戮を繰り返している。
殺された人は次々と消えて行く。
「こんな集団で逃げてたらすぐに狙われてしまうぞゴルァ。とりあえず分かれるぞゴルァ」
「そうだな。じゃあ俺らは西へ逃げる」流石兄弟。
「俺らは南だ」おにぎりと1。
「僕らは東に行こう」しょぼん達。
「じゃあ俺らは北だなゴルァ。行くぞ」
そう言って、俺らは4つのグループに分かれた。
「生きて帰れよ!」
最終更新:2012年08月01日 15:55