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Advent:One-Winged Angel

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Advent:One-Winged Angel ◆9L.gxDzakI



 月の煌く空を見ろ。
 夜天の空を見上げる時、かの者の名を思い出せ。

 死を誘いし者。
 破壊の罪に生まれし子。
 狂おしくも美しき、黒き翼を抱く堕天使。
 今こそ終末をもたらさんがため、片翼の天使は夜に舞う。
 愚かな人の子を滅ぼさんがため、片翼の天使は天に舞う。

 心せよ。
 無知なる者よ、矮小なる者よ。
 卑しく浅ましき人の子らよ。
 今こそ死を呼ぶ夜天の使者が、断罪の鉄槌を振り下ろす。

 その名を聞くたび思い出せ。
 そして二度と忘れるな。
 たとえ地獄に堕ちようと、永劫にその名を語り継げ。

 かの者の名を。

 セフィロスの名を。


 飛翔する。
 銀の長髪をたなびかせ、黒き片翼を羽ばたかせ。
 妖艶なまでに美しく、片方しかないが故に歪な翼。
 宵闇の風をその身に受ける、セフィロスの姿がそこにあった。
 眼下に広がるのは灰色の街。
 家屋の明かりも、企業のネオンも、車のライトもない暗黒街。
 生命の気配が感じられない死の街も、慣れてみればどうということもないものだ。
 一切の感情の宿らぬ、妖しく輝く碧眼を下方に向け、内心で呟く。
 そもそもこうした体験は、セフィロスにとっては初めてのことではない。
 この場に連れられたすぐ直前、彼はこれとほぼ同じ殺し合いに参加していたのだから。
 首に仕掛けられた爆弾首輪。その起爆コードとなる禁止エリア。優勝者に与えられる特典。
 全てが万事、狂気の魔女プレシア・テスタロッサの招いた、あのデスゲームと同じもの。
 そしてかの舞台において、セフィロスはこれとほぼ同じ光景を見ている。
 忌まわしき大魔導師の催した殺し合いにおいても、街は灰一色に染まっていたのだ。
 参加者が訪れない限り、永遠に無人のままのゴーストタウン。それはこの場においても変わらないらしい。
(まだこの周辺には、誰も来ていないようだな)
 遥かな高みより、一望。
 人気はなし。少なくとも現在いるエリアには、自分以外の人間は見受けられない。
 こうした殺し合いが発生した場合、人は中央へと集まるものだ。それは過去の経験から学んだこと。
 このバトルロワイアルでは、市街地は川を隔てて東西に分離している。
 そして、自分の現在地から北東に向かえば、東側の街の中心にたどり着くということだ。
(だが恐らく、今そこに向かったとしても、さしたる成果は得られんだろう)
 ちらと腕時計を見れば、未だに開始からほとんど時間が経っていないことが分かる。
 恐らく他の参加者達も、今はその中央目指して移動中のはずだ。
 逆に言うならば、今その中央に行ったとしても、まだ誰も到着していない可能性が高い。
 現在のこの場所のような、もぬけの殻であってもおかしくないのだ。
 ではどうするか。どのように動くのが賢明か。

(……今は網を張るべきか)
 方針はここに定められた。
 そもそも中心部を目指す際、人はどこから現れるのか。
 決まっている。端からだ。
 幸い現在陣取ったエリアからは、この高度を保ち続ければ、南北にその端の部分を見つけることができる。
 具体的に言うならば、C-5とE-5だ。
 しばらくはここで待ち続ければ、外部から街にやってくる人間を、捕捉することもできるだろう。
 先ほどまでいたホテルに戻るか。
 そう思って踵を返し、その先にある湖を視界に捉えた、その瞬間。
「……ん?」
 ふと。
 目に止まるものがあった。
 それは光。
 注意深く見ていなければ、そのまま見失ってしまいそうな小さな光。
 桜色に輝く光が、水面の上に輝いている。
 左右一対の煌きに、セフィロスは見覚えがあった。
「なのはのアクセルフィンか……?」
 時空管理局機動六課所属、高町なのは一等空尉。
 かつての古巣に属していた、魔導師と呼ばれる戦士達の中でも、最強クラスの実力を有していたエース・オブ・エース。
 弱冠19歳の小娘でありながら、その戦闘能力は、クラス1stのソルジャーにも匹敵する。
 名簿に名前があったのは確認したが、思ったよりも近くにいたということか。
 光の翼はこちら側の岸を目掛け、一直線に向かってくる。
「潰しておくに越したことはない、か」
 どの道全て消し去ることに変わりはない。
 であれば、強敵には早いうちに消えてもらった方がいい。
 いかに最強のエースであろうと、自分にとっては勝てない相手ではない。ならば、ここで見逃す理由もない。
 漆黒の翼をはばたかせ、進路を湖の岸へと取る。
 かつての仲間を斬ることには、もはや一切の感慨もなかった。
 それを抱くだけの心は、夜天の主と共に消え去ったのだから。
 既に彼にとってのなのはは、自らの張った網にかかった、獲物の1匹に過ぎなかった。


 飛翔する。
 桜色の光に輝く、天使の翼で風を掴み。
 夜空を映した漆黒の水面が、視界の外へと流れていく。
 白き管理局の制服が、湖面を滑るように飛行していく。
 栗色のサイドポニーをたなびかせ、高町なのはが飛んでいた。
「ホントにすごいのねー、魔法って。空まで飛べるんだ」
「まぁ、デバイスがないから、トップスピードも出せないし、複雑な移動もできないんだけどね」
 紫色のツインテールを揺らしながら、セーラー服の少女が感心したように呟く。
 応えるなのはの腕の中には、柊かがみがしっかりと抱き止められていた。

 何故こうした姿勢になったのか。
 理由は簡単。一にも二にも、市街地へと急ぐためだ。
 東の街を目指す場合、自分達のエリアのすぐ横にある川が邪魔になる。
 橋もあるにはあるのだが、そこを通ろうとする場合、かなりの遠回りが必要となる。
 そこで、フィールド中心の湖を、大胆にも一気に横切ろうということになったのだ。
 目印に選んだホテルまでの距離は、迂回ルートよりも遥かに短い。
 南にある西側の街へも、大体同じ距離を歩けば到着するのだが、さすがに徒歩よりも飛行魔法の方が速い。
 もちろん、管制システムたるデバイスの補助なしに、飛行魔法を発動するのは、並の魔導師では困難を極める。
 しかし、そこはエース・オブ・エース。
 魔法を覚えたての10年前なら、できるかどうかは怪しかったが、今は単純移動なら可能とするだけの技量があった。
 さらに、このルートを利用することになったきっかけの1つに、ホテルには高さという魅力的な要素がある。
 これを利用し見晴台とすれば、広い街で行動するのも、圧倒的に楽になるはずだ。
 そうした様々な理由が重なり、このような移動手段を取ることになったのである。
(とはいったものの……やっぱり、どうにも調子が悪いかな)
 かがみに悟られないように、なのはが自身の顔を僅かにしかめる。
 さきほど試しに魔力弾を形成した時もそうだが、どうも魔法を上手く発動できないのだ。
 通常よりも魔力の効率が悪いし、術式構成や結合の精度も落ちている。
 デバイスだけではない。恐らくAMFのような、何らかのジャミングがかけられている。
 そういえば先の殺し合いの時、強力な力を持った参加者には、能力限定のような制限が課せられていた。
 自分はあの場で魔法を使ったことはなかったが、なるほどこういうことだったのか。
 ともかくも、こうして人1人を抱えたまま、そんな不調な状態で飛び続けては、無駄に魔力を消費しかねない。
 少しでも早く向こう岸に着こう。
 逸る気持ちが、アクセルフィンを加速させた。
 間もなくホテルに着く頃だ。近づいてくる対岸には、案の定巨大なビルがそびえ立っている。
 早くあの場所までたどり着いて、行動を起こさなければ。
 時間は無限ではない。こうしている間にも、何人の人間が危険にさらされていることか――
「……え?」
 その時。
 目の前に。
 浮かぶ人影があった。
「なのは、あれ……」
 かがみの方も、どうやらそれを視認したらしい。
 1人の男が、自分達の眼前で浮遊していた。
 全身を覆う漆黒のコートは、夜の帳よりしたてたかのよう。
 淡き月光を受ける銀髪は、さながら天上の銀月のごとく、神々しくも妖しき光に満ちる。
 青き瞳を輝かせるのは、息を呑むほどの美形の男。
 そしてその右肩からは――何故か、巨大なカラスのような、暗黒の翼が生えていた。
「……!」
 ――ぞわり、と。
 背筋が粟立つのを感じる。
 もちろん、視覚的な要素もある。羽の生えている人間など、通常存在するはずもない。
 だがそれ以上に、その男が放つ異様な気配が、なのはの全神経に警告を訴えかけていた。
 何だこの男は。
 何だこの殺気は。
 これほどまでに強烈な殺意を、自分は今まで体験した覚えがない。
 まして、それほどまでに涼やかな顔をしながら、ともなればなおさらだ。
 こいつはまずい。
 ロストロギアより出でし闇の書の闇や、暴走する我が子・聖王ヴィヴィオ、更にはクワガタムシの怪物。
 こうした強者と相対した経験は、決して少なくはなかった。
 だが、この男は違う。
 こいつは危険だ。
 これまで戦ってきたどの相手とも、纏う空気が明らかに違う。
 これほどまでの存在感を持つ相手だ。であればその実力も、それに見合ったものであるのは間違いない。
 頬を伝う嫌な汗。それを拭うこともせず、眼前の男を睨み付けた。

「アクセルフィンの光を見て、出迎えに来たつもりだったが……」
 にやり、と。
 男の口元が微かに歪む。
 こいつは一体、何と冷たい笑顔を浮かべるのだ。
 僅かにつりあがった唇以外に、楽しそうな気配などまるで見えない。
 射抜くような眼光からは、実力の程など伺えはしない。
 ほとんど無表情と変わりないような、怜悧な笑みでありながら、そこに渦巻くのは混沌。
 さながら底も見えぬ深淵を、身を乗り出して覗き込むかのような感覚。
「そいつも一緒だったとはな……仮面ライダー」
「えっ?」
 そして次の瞬間、既に男の瞳は、なのはの方を向いてはいなかった。
(仮面ライダー!?)
 男の声を、胸中で反芻する。
 仮面ライダー。
 詳しいことは聞いてはいないが、特殊なアイテムを使用することで変身できる、鎧を纏った戦士の総称だ。
 そしてなのはは間違いなく、その仮面ライダーを目撃している。
 片翼の男の言うとおり、かがみが変身した瞬間を、その目でしかと見届けている。
 仮面ライダーデルタ。
 自身に支給されたケースを強奪し、彼女が使用することで変身した魔人。
 思えばあの瞬間こそが、全ての悲劇の始まりだった。
 鋼の装甲を身に纏った瞬間、かがみの態度は豹変し、襲い来る敵を猛然と迎え撃ったのだ。
 そして彼女はなのはの前から姿を消し、なのはの知らぬ所で、多くの参加者へと牙を剥いた。死亡者さえも出していた。
 だが、問題はここからだ。
 何故目の前の男は、その事実を知っている。
 ここにいるかがみは彼女とは別人だ。先の殺し合いに参加していなければ、彼女が仮面ライダーであると認識するはずがない。
 いいや、ちょっと待て。その前に奴は何と言った。
 奴は遠方より見たはずの魔力の光を、アクセルフィンだと推測した。
 ああ、そうか。
 そういうことか。
 間違いない。
(この人は私と同じ……あの殺し合いに参加させられていた人だ!)
 ――びゅん、と。
 鼻先を掠める、轟音。
 反射的に身をのけぞらせ、回避。
 気付けば男はすぐ目前にまで迫り、その左腕を振り下ろしていた。
 コートの腕に握るのは、烈火の将が頼りとしていたレヴァンティン。
 接近戦のスペシャリスト、シグナムが用いていたデバイスだ。その切れ味は痛いほど理解している。
 加えてそれが、非殺傷設定の枷を外され、明確な殺意と共に振るわれているとしたら。
(このままじゃ勝ち目がない!)
 二撃目が来る。
 さながら雷鳴の一閃か。
 目にも止まらぬ鋭い斬撃。
 恐るべきはその太刀筋。込められたパワーとスピードは、家族が振るう竹刀とは比較にもならない。
 防壁を張る余裕がない。両手がふさがれている以上反撃もできない。これでは回避するのがやっとだ。
 否、この不安定な回避すらも、一体どこまで続くことか。
「くっ!」
 アクセルフィン、スピードアップ。
 現状で出せる飛行速度の、ギリギリ限界最高速まで加速。
 銀髪の剣士へと背を向けて、対岸へ向かい一直線。
 余裕など一切ない。脇目もふらさず全速全身。持てる速力の全てを発揮し、陸地に向かって突っ込んだ。

「何よ!? 何だってのよ一体!?」
 腕の中で、かがみがヒステリーな悲鳴を上げる。
 無理もない。今ここにいる彼女は、あそこにいた自分のことなど、まるで知る由もないのだから。
 それこそ仮面ライダーなどという名前にも、まるで覚えがないはずだ。
 おまけになのは自身、あの男を見た覚えが全くない。つまり彼が「向こうのかがみ」に会ったのは、自分の認識の範囲外の時間。
 この状況を説明する材料が、今の彼女にはまるでなかった。
 ようやく広大な湖を越え、眼下の足場がアスファルトへと変わる。
 デバイスもなく、制限つきの飛行魔法を行使していては、戦闘行動に移ることができない。
 加えて、かがみを下ろす必要もある。彼女の安全を確保しようと、着地態勢に入ろうとした瞬間。
「――レヴァンティン、フォルムツヴァイ」
『し……知らんでフォーッ!』
 鼓膜を打つ、声。
 冷酷な響きを持った男の声と、妙にテンションの高い機械音声。
 炎の魔剣、レヴァンティン。その第二形態の発動。
 がしゃん、と鳴り響く重厚な音。
 圧縮魔力の込められた、カートリッジのコッキング音が、なのはのすぐ背後で響き渡る。
 まずい。
 このままではやられる。
 今まさに着地しようとする中で、その形態を使われては。
 ほとんど直感に近い反応だった。
 理性で考えている余裕などない。
 本能のままに、身を翻す。
 ――斬。
 一瞬前の現在地を、鉄色の刃が駆け抜けた。
「っ!」
 回避成功。
 しかし、油断はできない。
 見下ろす顔を持ち上げれば、すぐ眼前に金属光が迫る。
 襲来。回避。
 激しくうねる刃の列。
 さながら神話の大蛇のごとく。
 三撃目。そして四撃目。
 獰猛なる蛇の剣呑な牙が、次から次へと襲い掛かる。
 レヴァンティン・フォルムツヴァイ、シュランゲフォルム。
 その名が指し示すのは龍蛇。
 蛇を象る鱗は刃。
 鋼の鎖によって連結された刀身が、さながら鞭のようにしなり、曲線を描いて襲来する。
 前から。後ろから。右から。左から。上から。下から。その他ありとあらゆる方向から。
 さながら剣の嵐に呑み込まれたかのような感触だ。
 360度全方位からの殺意の刃を、最大限の集中力と共に回避していく。
「きゃーっ!」
 耐えかねず、かがみが悲鳴と共に両手で頭を押さえた。
 集中を途切れさせている暇はない。一瞬でも足を止めれば、幾万幾億の斬撃に身を舐め尽くされる。
 絶え間なく襲い掛かる頭痛。絶え間なく迫り来る嘔吐感。
 デバイスによる慣性制御もないのに、これほどの戦闘機動だ。とっくの昔に脳の処理限界を超えている。
 朦朧とする意識の中、しかしそれでも途切れさせることはなく。
 執念のみでその身を突き動かし、蛇の毒牙を潜り抜ける。
 斬。斬。斬。斬。斬。斬。斬。斬。斬。斬。斬。斬。斬。
 耳元で空気を切り裂き続ける音が、皮肉にも、彼女の命を首の皮一枚で繋いでいた。

 ばりん、と。
 鳴り響いたのは、ガラスが砕け散る音だ。
 両手を回し、かがみの身体を自身の五体で覆い、ほとんどやけくその体当たり。
 自動ドアのガラスを盛大にぶち破り、エントランスの中へと転がり込む。
 ごろごろ、ごろごろと。
 そのまま3回転した辺りで、両者の身体はようやく停止した。
 倒れ伏すかがみをその場に残すと、デイパックより拳銃を取り出す。
 マテバ 6 Unica。英国製のリボルバー・ピストル。
 上手く扱える確証はどこにもなかったが、身を守る手段は今のところこれしかない。
 途端、強烈な目眩と吐き気が彼女を襲った。
 あれほど頭脳を酷使したアクロバティック飛行、それにかけられた急激なブレーキ、更に先ほど披露した回転受身。
 それらのショックが三位一体となり、一斉になのはの身体を苛んだのだ。
 比喩でもなんでもなく、まさに死にそうになるほどのショック。
 頭を振ってそれを強引に振り払うと、銃を片手に外へと躍り出る。
 待ち受けるのは銀髪の男。既に刀剣レヴァンティンは、元のシュベルトフォルムへと戻っていた。
 黒き片翼を羽ばたかせ、あざ笑うようになのはを見下ろしている。
「何故その娘を庇う? 犠牲を増やすだけの殺戮者だと言うのに」
「あの子、は……っ……私達と同じ殺し合いの場にいた子じゃ……ないっ!」
「信じろと? そのような虚言を」
 息も絶え絶えな声を遮ったのは、強大な魔力の襲撃だ。
 衝撃波。あるいは刃の弾丸。
 その言葉が一番近いのか。
 炎の魔剣へと込められた力が、そのまま刃の形となり、素振りと共に射出される。
 その破壊力は絶大。自身の砲撃ディバインバスターにも匹敵する、驚異的なまでの出力。
 牽制のつもりだったのか。それとも自分で遊んでいるのか。
 放たれた刃はなのはのすぐ右横をかすめ、深々とアスファルトに傷痕を刻み込んだ。
「フッ……お前らしくもないな。デバイスもなし、制限も課せられているという状況で、湖を飛んで渡るという愚策を取るとは」
 やっぱりだ。間違いない。
 なのはは剣士とのやりとりの最中、もうひとつの確信を抱く。
 この男は自分のことを知っていた。アクセルフィンの存在を言い当て、さも自分と知り合いのように言葉を発した。
 それだけではない。こいつはシグナムのことも知っている。彼女のレヴァンティンの使い方を把握している。
 それが意味する結論は、1つ。
「貴方も知ってるんですか!? 私達を……機動六課のことを!」
 パラレルワールド。
 数多広がる世界の中、幾多の世界で催され、繰り返されたバトルロワイアル。
 彼女らが参加させられたデスゲームは、それら無数の殺し合いの中でも、極めて特異な性質を有していた。
 自分達の世界を中心とし、幾重にも枝分かれた並行世界から、参加者達が集められているのだ。
 故に、目の前のそれと同じ現象を、なのはは一度経験している。
 自分にとっては、全く見覚えのない人間。しかし相手は、その自分を知っている。
 天上で魔剣を振りかざす、この殺戮の天使もまた、他ならぬ「あの柊かがみ」と同じなのではないかと。
 返された答えは。
「そうか……やはりお前も、私のことを知らんようだな」


 これで自分を知らない知り合いに会うのは3回目だったか。
 苦しげな表情で銃を構えるなのはを見下ろしながら、銀髪の剣士――セフィロスは、そんな感想を浮かべた。
『ヒドイッス! マジありえねーッス! 何故なのはさんを傷つけるッスか!
 美女ッスよ!? ムチムチボインッスよ!? 人類とデバイスの共有財産なんスよ!?』
「………」
『あっいや、すいませェん……』
 何故か急に騒ぎ出したレヴァンティンを、一睨みで黙らせた。
 思考の邪魔だ。鬱陶しくて仕方がない。
 そもそもこいつのこの性格は何だ。
 デバイスと直接話したことなどほとんどないが、少なくともこんなうざったい奴ではなかっただろうに。
 まぁそれはさておいて、思考をなのは達の方へと戻す。
 これまでに出会った機動六課のメンバーは4人。
 八神はやて、シグナム、高町なのは、そして死体だったが、ティアナ・ランスター。
 そのうち既に死亡したティアナを除く、3人全員が、自分に関する記憶を失っていた。
 はやてに至っては、何故か身体も記憶も10年近くは退行していた。
 恐らくティアナや、ここにいるフェイトやスバルも、自分のことは知らないのだろう。ここまで来るとその可能性が高い。
 もっとも、例外はある。何故アンジール・ヒューレーだけが、自分のことを覚えていたのか。
 だが、当の本人がここにいない以上、それにさしたる意味はない。
 恐らく自分を知る者はここにいない。完全なる孤立無援の状態だ。今はそれが分かればいいだろう。
 それに、だからといって何も困ることはない。どうせ皆殺しにするのだから。
 今一度、殺戮の対象となった、かつての仲間の顔を伺う。
(随分と無様なものだな)
 時空管理局のトップエース、神童と謳われた彼女の姿の、何と痛ましいことよ。
 顔は土気色一色に染まり、息絶え絶えといった弱々しい呼吸。だらだら、だらだらと、絶え間ない汗が頬を伝う。
 誰の目に見ても明らかなオーバーワークだ。デバイスもなく、制限もないのに、あんな無茶な機動を取ったが故の。
 そもそもこいつは何故、あのような愚かしい手段を取ったのだろう。
 現状で人を抱えながら飛べば、まず間違いなく消耗する。湖の上を飛行すれば、岸から姿が丸見えだ。
 なのはらしくない。
 何かと無理をする奴だったが、馬鹿をやらかす奴ではなかったはずなのに。
 一体、何が彼女をこうも急がせた。何が彼女の思考力を奪ったのだ。
「貴方は……どうして、こんな殺し合いに乗るんですか……!?」
 他ならぬなのは自身が、セフィロスの思考を遮った。
 それが正常だろう。正義感に満ちた彼女ならば、そうやって殺人を否定するに決まっている。
 満身創痍といった様相でありながら、その左右の瞳だけは、確かな覇気に燃え盛っていた。
 殺し合いに乗った理由。
 言うまでもなく、侵略者ジェノバの意志のみが理由ではない。そもそもこの場に集まった人間は、自らの星とは関係がない。
 彼の内にたぎる憎悪は、全く別のベクトルに向けられていた。
 だが、それを話せと言うのか。
 あの茶髪の少女の笑顔を、永劫に喪われた笑顔を思い出す度、今でも微かに胸が痛む。
 己が人であるが故か。
 人であるが故の痛みか。
「……そうしない意味がないからだ」
 ならばその痛みは、ここで切って捨てねばならない。
 殺戮の目的こそは違えど、この身がジェノバへと戻ったことに変わりはないからだ。
「この殺し合いを止めるため、力を貸せと……私にそう言った者は、既に死んだ」
「死んだ……?」
 何より、彼女にもまた、それを知る権利がある。
 八神はやてと同じ星に生まれ、八神はやてと肩を並べ戦った、八神はやての生涯の友には。
 静かに。
 厳然と。
 片翼の天使は問いに答える。
 ただ淡々と、その笑みすらも消し去って、揺るがぬ真実のみを突きつける。

「――八神はやてが死んだ。それが、私が殺し合いに乗る理由だ」


039:まあ、どうせここヘンタイさんばっかだし。 投下順に読む 040:Advent:One-Winged Angel(後編)
039:まあ、どうせここヘンタイさんばっかだし。 時系列順に読む 040:Advent:One-Winged Angel(後編)
011:めぐりあう双星 柊かがみ 040:Advent:One-Winged Angel(後編)
高町なのは(StS)
030:夜天の天使、飛び立つ セフィロス


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