Advent:One-Winged Angel ◆9L.gxDzakI
月の煌く空を見ろ。
夜天の空を見上げる時、かの者の名を思い出せ。
夜天の空を見上げる時、かの者の名を思い出せ。
死を誘いし者。
破壊の罪に生まれし子。
狂おしくも美しき、黒き翼を抱く堕天使。
今こそ終末をもたらさんがため、片翼の天使は夜に舞う。
愚かな人の子を滅ぼさんがため、片翼の天使は天に舞う。
破壊の罪に生まれし子。
狂おしくも美しき、黒き翼を抱く堕天使。
今こそ終末をもたらさんがため、片翼の天使は夜に舞う。
愚かな人の子を滅ぼさんがため、片翼の天使は天に舞う。
心せよ。
無知なる者よ、矮小なる者よ。
卑しく浅ましき人の子らよ。
今こそ死を呼ぶ夜天の使者が、断罪の鉄槌を振り下ろす。
無知なる者よ、矮小なる者よ。
卑しく浅ましき人の子らよ。
今こそ死を呼ぶ夜天の使者が、断罪の鉄槌を振り下ろす。
その名を聞くたび思い出せ。
そして二度と忘れるな。
たとえ地獄に堕ちようと、永劫にその名を語り継げ。
そして二度と忘れるな。
たとえ地獄に堕ちようと、永劫にその名を語り継げ。
かの者の名を。
セフィロスの名を。
◆
飛翔する。
銀の長髪をたなびかせ、黒き片翼を羽ばたかせ。
妖艶なまでに美しく、片方しかないが故に歪な翼。
宵闇の風をその身に受ける、セフィロスの姿がそこにあった。
眼下に広がるのは灰色の街。
家屋の明かりも、企業のネオンも、車のライトもない暗黒街。
生命の気配が感じられない死の街も、慣れてみればどうということもないものだ。
一切の感情の宿らぬ、妖しく輝く碧眼を下方に向け、内心で呟く。
そもそもこうした体験は、セフィロスにとっては初めてのことではない。
この場に連れられたすぐ直前、彼はこれとほぼ同じ殺し合いに参加していたのだから。
首に仕掛けられた爆弾首輪。その起爆コードとなる禁止エリア。優勝者に与えられる特典。
全てが万事、狂気の魔女プレシア・テスタロッサの招いた、あのデスゲームと同じもの。
そしてかの舞台において、セフィロスはこれとほぼ同じ光景を見ている。
忌まわしき大魔導師の催した殺し合いにおいても、街は灰一色に染まっていたのだ。
参加者が訪れない限り、永遠に無人のままのゴーストタウン。それはこの場においても変わらないらしい。
(まだこの周辺には、誰も来ていないようだな)
遥かな高みより、一望。
人気はなし。少なくとも現在いるエリアには、自分以外の人間は見受けられない。
こうした殺し合いが発生した場合、人は中央へと集まるものだ。それは過去の経験から学んだこと。
このバトルロワイアルでは、市街地は川を隔てて東西に分離している。
そして、自分の現在地から北東に向かえば、東側の街の中心にたどり着くということだ。
(だが恐らく、今そこに向かったとしても、さしたる成果は得られんだろう)
ちらと腕時計を見れば、未だに開始からほとんど時間が経っていないことが分かる。
恐らく他の参加者達も、今はその中央目指して移動中のはずだ。
逆に言うならば、今その中央に行ったとしても、まだ誰も到着していない可能性が高い。
現在のこの場所のような、もぬけの殻であってもおかしくないのだ。
ではどうするか。どのように動くのが賢明か。
銀の長髪をたなびかせ、黒き片翼を羽ばたかせ。
妖艶なまでに美しく、片方しかないが故に歪な翼。
宵闇の風をその身に受ける、セフィロスの姿がそこにあった。
眼下に広がるのは灰色の街。
家屋の明かりも、企業のネオンも、車のライトもない暗黒街。
生命の気配が感じられない死の街も、慣れてみればどうということもないものだ。
一切の感情の宿らぬ、妖しく輝く碧眼を下方に向け、内心で呟く。
そもそもこうした体験は、セフィロスにとっては初めてのことではない。
この場に連れられたすぐ直前、彼はこれとほぼ同じ殺し合いに参加していたのだから。
首に仕掛けられた爆弾首輪。その起爆コードとなる禁止エリア。優勝者に与えられる特典。
全てが万事、狂気の魔女プレシア・テスタロッサの招いた、あのデスゲームと同じもの。
そしてかの舞台において、セフィロスはこれとほぼ同じ光景を見ている。
忌まわしき大魔導師の催した殺し合いにおいても、街は灰一色に染まっていたのだ。
参加者が訪れない限り、永遠に無人のままのゴーストタウン。それはこの場においても変わらないらしい。
(まだこの周辺には、誰も来ていないようだな)
遥かな高みより、一望。
人気はなし。少なくとも現在いるエリアには、自分以外の人間は見受けられない。
こうした殺し合いが発生した場合、人は中央へと集まるものだ。それは過去の経験から学んだこと。
このバトルロワイアルでは、市街地は川を隔てて東西に分離している。
そして、自分の現在地から北東に向かえば、東側の街の中心にたどり着くということだ。
(だが恐らく、今そこに向かったとしても、さしたる成果は得られんだろう)
ちらと腕時計を見れば、未だに開始からほとんど時間が経っていないことが分かる。
恐らく他の参加者達も、今はその中央目指して移動中のはずだ。
逆に言うならば、今その中央に行ったとしても、まだ誰も到着していない可能性が高い。
現在のこの場所のような、もぬけの殻であってもおかしくないのだ。
ではどうするか。どのように動くのが賢明か。
(……今は網を張るべきか)
方針はここに定められた。
そもそも中心部を目指す際、人はどこから現れるのか。
決まっている。端からだ。
幸い現在陣取ったエリアからは、この高度を保ち続ければ、南北にその端の部分を見つけることができる。
具体的に言うならば、C-5とE-5だ。
しばらくはここで待ち続ければ、外部から街にやってくる人間を、捕捉することもできるだろう。
先ほどまでいたホテルに戻るか。
そう思って踵を返し、その先にある湖を視界に捉えた、その瞬間。
「……ん?」
ふと。
目に止まるものがあった。
それは光。
注意深く見ていなければ、そのまま見失ってしまいそうな小さな光。
桜色に輝く光が、水面の上に輝いている。
左右一対の煌きに、セフィロスは見覚えがあった。
「なのはのアクセルフィンか……?」
時空管理局機動六課所属、高町なのは一等空尉。
かつての古巣に属していた、魔導師と呼ばれる戦士達の中でも、最強クラスの実力を有していたエース・オブ・エース。
弱冠19歳の小娘でありながら、その戦闘能力は、クラス1stのソルジャーにも匹敵する。
名簿に名前があったのは確認したが、思ったよりも近くにいたということか。
光の翼はこちら側の岸を目掛け、一直線に向かってくる。
「潰しておくに越したことはない、か」
どの道全て消し去ることに変わりはない。
であれば、強敵には早いうちに消えてもらった方がいい。
いかに最強のエースであろうと、自分にとっては勝てない相手ではない。ならば、ここで見逃す理由もない。
漆黒の翼をはばたかせ、進路を湖の岸へと取る。
かつての仲間を斬ることには、もはや一切の感慨もなかった。
それを抱くだけの心は、夜天の主と共に消え去ったのだから。
既に彼にとってのなのはは、自らの張った網にかかった、獲物の1匹に過ぎなかった。
方針はここに定められた。
そもそも中心部を目指す際、人はどこから現れるのか。
決まっている。端からだ。
幸い現在陣取ったエリアからは、この高度を保ち続ければ、南北にその端の部分を見つけることができる。
具体的に言うならば、C-5とE-5だ。
しばらくはここで待ち続ければ、外部から街にやってくる人間を、捕捉することもできるだろう。
先ほどまでいたホテルに戻るか。
そう思って踵を返し、その先にある湖を視界に捉えた、その瞬間。
「……ん?」
ふと。
目に止まるものがあった。
それは光。
注意深く見ていなければ、そのまま見失ってしまいそうな小さな光。
桜色に輝く光が、水面の上に輝いている。
左右一対の煌きに、セフィロスは見覚えがあった。
「なのはのアクセルフィンか……?」
時空管理局機動六課所属、高町なのは一等空尉。
かつての古巣に属していた、魔導師と呼ばれる戦士達の中でも、最強クラスの実力を有していたエース・オブ・エース。
弱冠19歳の小娘でありながら、その戦闘能力は、クラス1stのソルジャーにも匹敵する。
名簿に名前があったのは確認したが、思ったよりも近くにいたということか。
光の翼はこちら側の岸を目掛け、一直線に向かってくる。
「潰しておくに越したことはない、か」
どの道全て消し去ることに変わりはない。
であれば、強敵には早いうちに消えてもらった方がいい。
いかに最強のエースであろうと、自分にとっては勝てない相手ではない。ならば、ここで見逃す理由もない。
漆黒の翼をはばたかせ、進路を湖の岸へと取る。
かつての仲間を斬ることには、もはや一切の感慨もなかった。
それを抱くだけの心は、夜天の主と共に消え去ったのだから。
既に彼にとってのなのはは、自らの張った網にかかった、獲物の1匹に過ぎなかった。
◆
飛翔する。
桜色の光に輝く、天使の翼で風を掴み。
夜空を映した漆黒の水面が、視界の外へと流れていく。
白き管理局の制服が、湖面を滑るように飛行していく。
栗色のサイドポニーをたなびかせ、高町なのはが飛んでいた。
「ホントにすごいのねー、魔法って。空まで飛べるんだ」
「まぁ、デバイスがないから、トップスピードも出せないし、複雑な移動もできないんだけどね」
紫色のツインテールを揺らしながら、セーラー服の少女が感心したように呟く。
応えるなのはの腕の中には、柊かがみがしっかりと抱き止められていた。
桜色の光に輝く、天使の翼で風を掴み。
夜空を映した漆黒の水面が、視界の外へと流れていく。
白き管理局の制服が、湖面を滑るように飛行していく。
栗色のサイドポニーをたなびかせ、高町なのはが飛んでいた。
「ホントにすごいのねー、魔法って。空まで飛べるんだ」
「まぁ、デバイスがないから、トップスピードも出せないし、複雑な移動もできないんだけどね」
紫色のツインテールを揺らしながら、セーラー服の少女が感心したように呟く。
応えるなのはの腕の中には、柊かがみがしっかりと抱き止められていた。
何故こうした姿勢になったのか。
理由は簡単。一にも二にも、市街地へと急ぐためだ。
東の街を目指す場合、自分達のエリアのすぐ横にある川が邪魔になる。
橋もあるにはあるのだが、そこを通ろうとする場合、かなりの遠回りが必要となる。
そこで、フィールド中心の湖を、大胆にも一気に横切ろうということになったのだ。
目印に選んだホテルまでの距離は、迂回ルートよりも遥かに短い。
南にある西側の街へも、大体同じ距離を歩けば到着するのだが、さすがに徒歩よりも飛行魔法の方が速い。
もちろん、管制システムたるデバイスの補助なしに、飛行魔法を発動するのは、並の魔導師では困難を極める。
しかし、そこはエース・オブ・エース。
魔法を覚えたての10年前なら、できるかどうかは怪しかったが、今は単純移動なら可能とするだけの技量があった。
さらに、このルートを利用することになったきっかけの1つに、ホテルには高さという魅力的な要素がある。
これを利用し見晴台とすれば、広い街で行動するのも、圧倒的に楽になるはずだ。
そうした様々な理由が重なり、このような移動手段を取ることになったのである。
(とはいったものの……やっぱり、どうにも調子が悪いかな)
かがみに悟られないように、なのはが自身の顔を僅かにしかめる。
さきほど試しに魔力弾を形成した時もそうだが、どうも魔法を上手く発動できないのだ。
通常よりも魔力の効率が悪いし、術式構成や結合の精度も落ちている。
デバイスだけではない。恐らくAMFのような、何らかのジャミングがかけられている。
そういえば先の殺し合いの時、強力な力を持った参加者には、能力限定のような制限が課せられていた。
自分はあの場で魔法を使ったことはなかったが、なるほどこういうことだったのか。
ともかくも、こうして人1人を抱えたまま、そんな不調な状態で飛び続けては、無駄に魔力を消費しかねない。
少しでも早く向こう岸に着こう。
逸る気持ちが、アクセルフィンを加速させた。
間もなくホテルに着く頃だ。近づいてくる対岸には、案の定巨大なビルがそびえ立っている。
早くあの場所までたどり着いて、行動を起こさなければ。
時間は無限ではない。こうしている間にも、何人の人間が危険にさらされていることか――
「……え?」
その時。
目の前に。
浮かぶ人影があった。
「なのは、あれ……」
かがみの方も、どうやらそれを視認したらしい。
1人の男が、自分達の眼前で浮遊していた。
全身を覆う漆黒のコートは、夜の帳よりしたてたかのよう。
淡き月光を受ける銀髪は、さながら天上の銀月のごとく、神々しくも妖しき光に満ちる。
青き瞳を輝かせるのは、息を呑むほどの美形の男。
そしてその右肩からは――何故か、巨大なカラスのような、暗黒の翼が生えていた。
「……!」
――ぞわり、と。
背筋が粟立つのを感じる。
もちろん、視覚的な要素もある。羽の生えている人間など、通常存在するはずもない。
だがそれ以上に、その男が放つ異様な気配が、なのはの全神経に警告を訴えかけていた。
何だこの男は。
何だこの殺気は。
これほどまでに強烈な殺意を、自分は今まで体験した覚えがない。
まして、それほどまでに涼やかな顔をしながら、ともなればなおさらだ。
こいつはまずい。
ロストロギアより出でし闇の書の闇や、暴走する我が子・聖王ヴィヴィオ、更にはクワガタムシの怪物。
こうした強者と相対した経験は、決して少なくはなかった。
だが、この男は違う。
こいつは危険だ。
これまで戦ってきたどの相手とも、纏う空気が明らかに違う。
これほどまでの存在感を持つ相手だ。であればその実力も、それに見合ったものであるのは間違いない。
頬を伝う嫌な汗。それを拭うこともせず、眼前の男を睨み付けた。
理由は簡単。一にも二にも、市街地へと急ぐためだ。
東の街を目指す場合、自分達のエリアのすぐ横にある川が邪魔になる。
橋もあるにはあるのだが、そこを通ろうとする場合、かなりの遠回りが必要となる。
そこで、フィールド中心の湖を、大胆にも一気に横切ろうということになったのだ。
目印に選んだホテルまでの距離は、迂回ルートよりも遥かに短い。
南にある西側の街へも、大体同じ距離を歩けば到着するのだが、さすがに徒歩よりも飛行魔法の方が速い。
もちろん、管制システムたるデバイスの補助なしに、飛行魔法を発動するのは、並の魔導師では困難を極める。
しかし、そこはエース・オブ・エース。
魔法を覚えたての10年前なら、できるかどうかは怪しかったが、今は単純移動なら可能とするだけの技量があった。
さらに、このルートを利用することになったきっかけの1つに、ホテルには高さという魅力的な要素がある。
これを利用し見晴台とすれば、広い街で行動するのも、圧倒的に楽になるはずだ。
そうした様々な理由が重なり、このような移動手段を取ることになったのである。
(とはいったものの……やっぱり、どうにも調子が悪いかな)
かがみに悟られないように、なのはが自身の顔を僅かにしかめる。
さきほど試しに魔力弾を形成した時もそうだが、どうも魔法を上手く発動できないのだ。
通常よりも魔力の効率が悪いし、術式構成や結合の精度も落ちている。
デバイスだけではない。恐らくAMFのような、何らかのジャミングがかけられている。
そういえば先の殺し合いの時、強力な力を持った参加者には、能力限定のような制限が課せられていた。
自分はあの場で魔法を使ったことはなかったが、なるほどこういうことだったのか。
ともかくも、こうして人1人を抱えたまま、そんな不調な状態で飛び続けては、無駄に魔力を消費しかねない。
少しでも早く向こう岸に着こう。
逸る気持ちが、アクセルフィンを加速させた。
間もなくホテルに着く頃だ。近づいてくる対岸には、案の定巨大なビルがそびえ立っている。
早くあの場所までたどり着いて、行動を起こさなければ。
時間は無限ではない。こうしている間にも、何人の人間が危険にさらされていることか――
「……え?」
その時。
目の前に。
浮かぶ人影があった。
「なのは、あれ……」
かがみの方も、どうやらそれを視認したらしい。
1人の男が、自分達の眼前で浮遊していた。
全身を覆う漆黒のコートは、夜の帳よりしたてたかのよう。
淡き月光を受ける銀髪は、さながら天上の銀月のごとく、神々しくも妖しき光に満ちる。
青き瞳を輝かせるのは、息を呑むほどの美形の男。
そしてその右肩からは――何故か、巨大なカラスのような、暗黒の翼が生えていた。
「……!」
――ぞわり、と。
背筋が粟立つのを感じる。
もちろん、視覚的な要素もある。羽の生えている人間など、通常存在するはずもない。
だがそれ以上に、その男が放つ異様な気配が、なのはの全神経に警告を訴えかけていた。
何だこの男は。
何だこの殺気は。
これほどまでに強烈な殺意を、自分は今まで体験した覚えがない。
まして、それほどまでに涼やかな顔をしながら、ともなればなおさらだ。
こいつはまずい。
ロストロギアより出でし闇の書の闇や、暴走する我が子・聖王ヴィヴィオ、更にはクワガタムシの怪物。
こうした強者と相対した経験は、決して少なくはなかった。
だが、この男は違う。
こいつは危険だ。
これまで戦ってきたどの相手とも、纏う空気が明らかに違う。
これほどまでの存在感を持つ相手だ。であればその実力も、それに見合ったものであるのは間違いない。
頬を伝う嫌な汗。それを拭うこともせず、眼前の男を睨み付けた。
「アクセルフィンの光を見て、出迎えに来たつもりだったが……」
にやり、と。
男の口元が微かに歪む。
こいつは一体、何と冷たい笑顔を浮かべるのだ。
僅かにつりあがった唇以外に、楽しそうな気配などまるで見えない。
射抜くような眼光からは、実力の程など伺えはしない。
ほとんど無表情と変わりないような、怜悧な笑みでありながら、そこに渦巻くのは混沌。
さながら底も見えぬ深淵を、身を乗り出して覗き込むかのような感覚。
「そいつも一緒だったとはな……仮面ライダー」
「えっ?」
そして次の瞬間、既に男の瞳は、なのはの方を向いてはいなかった。
(仮面ライダー!?)
男の声を、胸中で反芻する。
仮面ライダー。
詳しいことは聞いてはいないが、特殊なアイテムを使用することで変身できる、鎧を纏った戦士の総称だ。
そしてなのはは間違いなく、その仮面ライダーを目撃している。
片翼の男の言うとおり、かがみが変身した瞬間を、その目でしかと見届けている。
仮面ライダーデルタ。
自身に支給されたケースを強奪し、彼女が使用することで変身した魔人。
思えばあの瞬間こそが、全ての悲劇の始まりだった。
鋼の装甲を身に纏った瞬間、かがみの態度は豹変し、襲い来る敵を猛然と迎え撃ったのだ。
そして彼女はなのはの前から姿を消し、なのはの知らぬ所で、多くの参加者へと牙を剥いた。死亡者さえも出していた。
だが、問題はここからだ。
何故目の前の男は、その事実を知っている。
ここにいるかがみは彼女とは別人だ。先の殺し合いに参加していなければ、彼女が仮面ライダーであると認識するはずがない。
いいや、ちょっと待て。その前に奴は何と言った。
奴は遠方より見たはずの魔力の光を、アクセルフィンだと推測した。
ああ、そうか。
そういうことか。
間違いない。
(この人は私と同じ……あの殺し合いに参加させられていた人だ!)
――びゅん、と。
鼻先を掠める、轟音。
反射的に身をのけぞらせ、回避。
気付けば男はすぐ目前にまで迫り、その左腕を振り下ろしていた。
コートの腕に握るのは、烈火の将が頼りとしていたレヴァンティン。
接近戦のスペシャリスト、シグナムが用いていたデバイスだ。その切れ味は痛いほど理解している。
加えてそれが、非殺傷設定の枷を外され、明確な殺意と共に振るわれているとしたら。
(このままじゃ勝ち目がない!)
二撃目が来る。
さながら雷鳴の一閃か。
目にも止まらぬ鋭い斬撃。
恐るべきはその太刀筋。込められたパワーとスピードは、家族が振るう竹刀とは比較にもならない。
防壁を張る余裕がない。両手がふさがれている以上反撃もできない。これでは回避するのがやっとだ。
否、この不安定な回避すらも、一体どこまで続くことか。
「くっ!」
アクセルフィン、スピードアップ。
現状で出せる飛行速度の、ギリギリ限界最高速まで加速。
銀髪の剣士へと背を向けて、対岸へ向かい一直線。
余裕など一切ない。脇目もふらさず全速全身。持てる速力の全てを発揮し、陸地に向かって突っ込んだ。
にやり、と。
男の口元が微かに歪む。
こいつは一体、何と冷たい笑顔を浮かべるのだ。
僅かにつりあがった唇以外に、楽しそうな気配などまるで見えない。
射抜くような眼光からは、実力の程など伺えはしない。
ほとんど無表情と変わりないような、怜悧な笑みでありながら、そこに渦巻くのは混沌。
さながら底も見えぬ深淵を、身を乗り出して覗き込むかのような感覚。
「そいつも一緒だったとはな……仮面ライダー」
「えっ?」
そして次の瞬間、既に男の瞳は、なのはの方を向いてはいなかった。
(仮面ライダー!?)
男の声を、胸中で反芻する。
仮面ライダー。
詳しいことは聞いてはいないが、特殊なアイテムを使用することで変身できる、鎧を纏った戦士の総称だ。
そしてなのはは間違いなく、その仮面ライダーを目撃している。
片翼の男の言うとおり、かがみが変身した瞬間を、その目でしかと見届けている。
仮面ライダーデルタ。
自身に支給されたケースを強奪し、彼女が使用することで変身した魔人。
思えばあの瞬間こそが、全ての悲劇の始まりだった。
鋼の装甲を身に纏った瞬間、かがみの態度は豹変し、襲い来る敵を猛然と迎え撃ったのだ。
そして彼女はなのはの前から姿を消し、なのはの知らぬ所で、多くの参加者へと牙を剥いた。死亡者さえも出していた。
だが、問題はここからだ。
何故目の前の男は、その事実を知っている。
ここにいるかがみは彼女とは別人だ。先の殺し合いに参加していなければ、彼女が仮面ライダーであると認識するはずがない。
いいや、ちょっと待て。その前に奴は何と言った。
奴は遠方より見たはずの魔力の光を、アクセルフィンだと推測した。
ああ、そうか。
そういうことか。
間違いない。
(この人は私と同じ……あの殺し合いに参加させられていた人だ!)
――びゅん、と。
鼻先を掠める、轟音。
反射的に身をのけぞらせ、回避。
気付けば男はすぐ目前にまで迫り、その左腕を振り下ろしていた。
コートの腕に握るのは、烈火の将が頼りとしていたレヴァンティン。
接近戦のスペシャリスト、シグナムが用いていたデバイスだ。その切れ味は痛いほど理解している。
加えてそれが、非殺傷設定の枷を外され、明確な殺意と共に振るわれているとしたら。
(このままじゃ勝ち目がない!)
二撃目が来る。
さながら雷鳴の一閃か。
目にも止まらぬ鋭い斬撃。
恐るべきはその太刀筋。込められたパワーとスピードは、家族が振るう竹刀とは比較にもならない。
防壁を張る余裕がない。両手がふさがれている以上反撃もできない。これでは回避するのがやっとだ。
否、この不安定な回避すらも、一体どこまで続くことか。
「くっ!」
アクセルフィン、スピードアップ。
現状で出せる飛行速度の、ギリギリ限界最高速まで加速。
銀髪の剣士へと背を向けて、対岸へ向かい一直線。
余裕など一切ない。脇目もふらさず全速全身。持てる速力の全てを発揮し、陸地に向かって突っ込んだ。
「何よ!? 何だってのよ一体!?」
腕の中で、かがみがヒステリーな悲鳴を上げる。
無理もない。今ここにいる彼女は、あそこにいた自分のことなど、まるで知る由もないのだから。
それこそ仮面ライダーなどという名前にも、まるで覚えがないはずだ。
おまけになのは自身、あの男を見た覚えが全くない。つまり彼が「向こうのかがみ」に会ったのは、自分の認識の範囲外の時間。
この状況を説明する材料が、今の彼女にはまるでなかった。
ようやく広大な湖を越え、眼下の足場がアスファルトへと変わる。
デバイスもなく、制限つきの飛行魔法を行使していては、戦闘行動に移ることができない。
加えて、かがみを下ろす必要もある。彼女の安全を確保しようと、着地態勢に入ろうとした瞬間。
「――レヴァンティン、フォルムツヴァイ」
『し……知らんでフォーッ!』
鼓膜を打つ、声。
冷酷な響きを持った男の声と、妙にテンションの高い機械音声。
炎の魔剣、レヴァンティン。その第二形態の発動。
がしゃん、と鳴り響く重厚な音。
圧縮魔力の込められた、カートリッジのコッキング音が、なのはのすぐ背後で響き渡る。
まずい。
このままではやられる。
今まさに着地しようとする中で、その形態を使われては。
ほとんど直感に近い反応だった。
理性で考えている余裕などない。
本能のままに、身を翻す。
――斬。
一瞬前の現在地を、鉄色の刃が駆け抜けた。
「っ!」
回避成功。
しかし、油断はできない。
見下ろす顔を持ち上げれば、すぐ眼前に金属光が迫る。
襲来。回避。
激しくうねる刃の列。
さながら神話の大蛇のごとく。
三撃目。そして四撃目。
獰猛なる蛇の剣呑な牙が、次から次へと襲い掛かる。
レヴァンティン・フォルムツヴァイ、シュランゲフォルム。
その名が指し示すのは龍蛇。
蛇を象る鱗は刃。
鋼の鎖によって連結された刀身が、さながら鞭のようにしなり、曲線を描いて襲来する。
前から。後ろから。右から。左から。上から。下から。その他ありとあらゆる方向から。
さながら剣の嵐に呑み込まれたかのような感触だ。
360度全方位からの殺意の刃を、最大限の集中力と共に回避していく。
「きゃーっ!」
耐えかねず、かがみが悲鳴と共に両手で頭を押さえた。
集中を途切れさせている暇はない。一瞬でも足を止めれば、幾万幾億の斬撃に身を舐め尽くされる。
絶え間なく襲い掛かる頭痛。絶え間なく迫り来る嘔吐感。
デバイスによる慣性制御もないのに、これほどの戦闘機動だ。とっくの昔に脳の処理限界を超えている。
朦朧とする意識の中、しかしそれでも途切れさせることはなく。
執念のみでその身を突き動かし、蛇の毒牙を潜り抜ける。
斬。斬。斬。斬。斬。斬。斬。斬。斬。斬。斬。斬。斬。
耳元で空気を切り裂き続ける音が、皮肉にも、彼女の命を首の皮一枚で繋いでいた。
腕の中で、かがみがヒステリーな悲鳴を上げる。
無理もない。今ここにいる彼女は、あそこにいた自分のことなど、まるで知る由もないのだから。
それこそ仮面ライダーなどという名前にも、まるで覚えがないはずだ。
おまけになのは自身、あの男を見た覚えが全くない。つまり彼が「向こうのかがみ」に会ったのは、自分の認識の範囲外の時間。
この状況を説明する材料が、今の彼女にはまるでなかった。
ようやく広大な湖を越え、眼下の足場がアスファルトへと変わる。
デバイスもなく、制限つきの飛行魔法を行使していては、戦闘行動に移ることができない。
加えて、かがみを下ろす必要もある。彼女の安全を確保しようと、着地態勢に入ろうとした瞬間。
「――レヴァンティン、フォルムツヴァイ」
『し……知らんでフォーッ!』
鼓膜を打つ、声。
冷酷な響きを持った男の声と、妙にテンションの高い機械音声。
炎の魔剣、レヴァンティン。その第二形態の発動。
がしゃん、と鳴り響く重厚な音。
圧縮魔力の込められた、カートリッジのコッキング音が、なのはのすぐ背後で響き渡る。
まずい。
このままではやられる。
今まさに着地しようとする中で、その形態を使われては。
ほとんど直感に近い反応だった。
理性で考えている余裕などない。
本能のままに、身を翻す。
――斬。
一瞬前の現在地を、鉄色の刃が駆け抜けた。
「っ!」
回避成功。
しかし、油断はできない。
見下ろす顔を持ち上げれば、すぐ眼前に金属光が迫る。
襲来。回避。
激しくうねる刃の列。
さながら神話の大蛇のごとく。
三撃目。そして四撃目。
獰猛なる蛇の剣呑な牙が、次から次へと襲い掛かる。
レヴァンティン・フォルムツヴァイ、シュランゲフォルム。
その名が指し示すのは龍蛇。
蛇を象る鱗は刃。
鋼の鎖によって連結された刀身が、さながら鞭のようにしなり、曲線を描いて襲来する。
前から。後ろから。右から。左から。上から。下から。その他ありとあらゆる方向から。
さながら剣の嵐に呑み込まれたかのような感触だ。
360度全方位からの殺意の刃を、最大限の集中力と共に回避していく。
「きゃーっ!」
耐えかねず、かがみが悲鳴と共に両手で頭を押さえた。
集中を途切れさせている暇はない。一瞬でも足を止めれば、幾万幾億の斬撃に身を舐め尽くされる。
絶え間なく襲い掛かる頭痛。絶え間なく迫り来る嘔吐感。
デバイスによる慣性制御もないのに、これほどの戦闘機動だ。とっくの昔に脳の処理限界を超えている。
朦朧とする意識の中、しかしそれでも途切れさせることはなく。
執念のみでその身を突き動かし、蛇の毒牙を潜り抜ける。
斬。斬。斬。斬。斬。斬。斬。斬。斬。斬。斬。斬。斬。
耳元で空気を切り裂き続ける音が、皮肉にも、彼女の命を首の皮一枚で繋いでいた。
ばりん、と。
鳴り響いたのは、ガラスが砕け散る音だ。
両手を回し、かがみの身体を自身の五体で覆い、ほとんどやけくその体当たり。
自動ドアのガラスを盛大にぶち破り、エントランスの中へと転がり込む。
ごろごろ、ごろごろと。
そのまま3回転した辺りで、両者の身体はようやく停止した。
倒れ伏すかがみをその場に残すと、デイパックより拳銃を取り出す。
マテバ 6 Unica。英国製のリボルバー・ピストル。
上手く扱える確証はどこにもなかったが、身を守る手段は今のところこれしかない。
途端、強烈な目眩と吐き気が彼女を襲った。
あれほど頭脳を酷使したアクロバティック飛行、それにかけられた急激なブレーキ、更に先ほど披露した回転受身。
それらのショックが三位一体となり、一斉になのはの身体を苛んだのだ。
比喩でもなんでもなく、まさに死にそうになるほどのショック。
頭を振ってそれを強引に振り払うと、銃を片手に外へと躍り出る。
待ち受けるのは銀髪の男。既に刀剣レヴァンティンは、元のシュベルトフォルムへと戻っていた。
黒き片翼を羽ばたかせ、あざ笑うようになのはを見下ろしている。
「何故その娘を庇う? 犠牲を増やすだけの殺戮者だと言うのに」
「あの子、は……っ……私達と同じ殺し合いの場にいた子じゃ……ないっ!」
「信じろと? そのような虚言を」
息も絶え絶えな声を遮ったのは、強大な魔力の襲撃だ。
衝撃波。あるいは刃の弾丸。
その言葉が一番近いのか。
炎の魔剣へと込められた力が、そのまま刃の形となり、素振りと共に射出される。
その破壊力は絶大。自身の砲撃ディバインバスターにも匹敵する、驚異的なまでの出力。
牽制のつもりだったのか。それとも自分で遊んでいるのか。
放たれた刃はなのはのすぐ右横をかすめ、深々とアスファルトに傷痕を刻み込んだ。
「フッ……お前らしくもないな。デバイスもなし、制限も課せられているという状況で、湖を飛んで渡るという愚策を取るとは」
やっぱりだ。間違いない。
なのはは剣士とのやりとりの最中、もうひとつの確信を抱く。
この男は自分のことを知っていた。アクセルフィンの存在を言い当て、さも自分と知り合いのように言葉を発した。
それだけではない。こいつはシグナムのことも知っている。彼女のレヴァンティンの使い方を把握している。
それが意味する結論は、1つ。
「貴方も知ってるんですか!? 私達を……機動六課のことを!」
パラレルワールド。
数多広がる世界の中、幾多の世界で催され、繰り返されたバトルロワイアル。
彼女らが参加させられたデスゲームは、それら無数の殺し合いの中でも、極めて特異な性質を有していた。
自分達の世界を中心とし、幾重にも枝分かれた並行世界から、参加者達が集められているのだ。
故に、目の前のそれと同じ現象を、なのはは一度経験している。
自分にとっては、全く見覚えのない人間。しかし相手は、その自分を知っている。
天上で魔剣を振りかざす、この殺戮の天使もまた、他ならぬ「あの柊かがみ」と同じなのではないかと。
返された答えは。
「そうか……やはりお前も、私のことを知らんようだな」
鳴り響いたのは、ガラスが砕け散る音だ。
両手を回し、かがみの身体を自身の五体で覆い、ほとんどやけくその体当たり。
自動ドアのガラスを盛大にぶち破り、エントランスの中へと転がり込む。
ごろごろ、ごろごろと。
そのまま3回転した辺りで、両者の身体はようやく停止した。
倒れ伏すかがみをその場に残すと、デイパックより拳銃を取り出す。
マテバ 6 Unica。英国製のリボルバー・ピストル。
上手く扱える確証はどこにもなかったが、身を守る手段は今のところこれしかない。
途端、強烈な目眩と吐き気が彼女を襲った。
あれほど頭脳を酷使したアクロバティック飛行、それにかけられた急激なブレーキ、更に先ほど披露した回転受身。
それらのショックが三位一体となり、一斉になのはの身体を苛んだのだ。
比喩でもなんでもなく、まさに死にそうになるほどのショック。
頭を振ってそれを強引に振り払うと、銃を片手に外へと躍り出る。
待ち受けるのは銀髪の男。既に刀剣レヴァンティンは、元のシュベルトフォルムへと戻っていた。
黒き片翼を羽ばたかせ、あざ笑うようになのはを見下ろしている。
「何故その娘を庇う? 犠牲を増やすだけの殺戮者だと言うのに」
「あの子、は……っ……私達と同じ殺し合いの場にいた子じゃ……ないっ!」
「信じろと? そのような虚言を」
息も絶え絶えな声を遮ったのは、強大な魔力の襲撃だ。
衝撃波。あるいは刃の弾丸。
その言葉が一番近いのか。
炎の魔剣へと込められた力が、そのまま刃の形となり、素振りと共に射出される。
その破壊力は絶大。自身の砲撃ディバインバスターにも匹敵する、驚異的なまでの出力。
牽制のつもりだったのか。それとも自分で遊んでいるのか。
放たれた刃はなのはのすぐ右横をかすめ、深々とアスファルトに傷痕を刻み込んだ。
「フッ……お前らしくもないな。デバイスもなし、制限も課せられているという状況で、湖を飛んで渡るという愚策を取るとは」
やっぱりだ。間違いない。
なのはは剣士とのやりとりの最中、もうひとつの確信を抱く。
この男は自分のことを知っていた。アクセルフィンの存在を言い当て、さも自分と知り合いのように言葉を発した。
それだけではない。こいつはシグナムのことも知っている。彼女のレヴァンティンの使い方を把握している。
それが意味する結論は、1つ。
「貴方も知ってるんですか!? 私達を……機動六課のことを!」
パラレルワールド。
数多広がる世界の中、幾多の世界で催され、繰り返されたバトルロワイアル。
彼女らが参加させられたデスゲームは、それら無数の殺し合いの中でも、極めて特異な性質を有していた。
自分達の世界を中心とし、幾重にも枝分かれた並行世界から、参加者達が集められているのだ。
故に、目の前のそれと同じ現象を、なのはは一度経験している。
自分にとっては、全く見覚えのない人間。しかし相手は、その自分を知っている。
天上で魔剣を振りかざす、この殺戮の天使もまた、他ならぬ「あの柊かがみ」と同じなのではないかと。
返された答えは。
「そうか……やはりお前も、私のことを知らんようだな」
◆
これで自分を知らない知り合いに会うのは3回目だったか。
苦しげな表情で銃を構えるなのはを見下ろしながら、銀髪の剣士――セフィロスは、そんな感想を浮かべた。
『ヒドイッス! マジありえねーッス! 何故なのはさんを傷つけるッスか!
美女ッスよ!? ムチムチボインッスよ!? 人類とデバイスの共有財産なんスよ!?』
「………」
『あっいや、すいませェん……』
何故か急に騒ぎ出したレヴァンティンを、一睨みで黙らせた。
思考の邪魔だ。鬱陶しくて仕方がない。
そもそもこいつのこの性格は何だ。
デバイスと直接話したことなどほとんどないが、少なくともこんなうざったい奴ではなかっただろうに。
まぁそれはさておいて、思考をなのは達の方へと戻す。
これまでに出会った機動六課のメンバーは4人。
八神はやて、シグナム、高町なのは、そして死体だったが、ティアナ・ランスター。
そのうち既に死亡したティアナを除く、3人全員が、自分に関する記憶を失っていた。
はやてに至っては、何故か身体も記憶も10年近くは退行していた。
恐らくティアナや、ここにいるフェイトやスバルも、自分のことは知らないのだろう。ここまで来るとその可能性が高い。
もっとも、例外はある。何故アンジール・ヒューレーだけが、自分のことを覚えていたのか。
だが、当の本人がここにいない以上、それにさしたる意味はない。
恐らく自分を知る者はここにいない。完全なる孤立無援の状態だ。今はそれが分かればいいだろう。
それに、だからといって何も困ることはない。どうせ皆殺しにするのだから。
今一度、殺戮の対象となった、かつての仲間の顔を伺う。
(随分と無様なものだな)
時空管理局のトップエース、神童と謳われた彼女の姿の、何と痛ましいことよ。
顔は土気色一色に染まり、息絶え絶えといった弱々しい呼吸。だらだら、だらだらと、絶え間ない汗が頬を伝う。
誰の目に見ても明らかなオーバーワークだ。デバイスもなく、制限もないのに、あんな無茶な機動を取ったが故の。
そもそもこいつは何故、あのような愚かしい手段を取ったのだろう。
現状で人を抱えながら飛べば、まず間違いなく消耗する。湖の上を飛行すれば、岸から姿が丸見えだ。
なのはらしくない。
何かと無理をする奴だったが、馬鹿をやらかす奴ではなかったはずなのに。
一体、何が彼女をこうも急がせた。何が彼女の思考力を奪ったのだ。
「貴方は……どうして、こんな殺し合いに乗るんですか……!?」
他ならぬなのは自身が、セフィロスの思考を遮った。
それが正常だろう。正義感に満ちた彼女ならば、そうやって殺人を否定するに決まっている。
満身創痍といった様相でありながら、その左右の瞳だけは、確かな覇気に燃え盛っていた。
殺し合いに乗った理由。
言うまでもなく、侵略者ジェノバの意志のみが理由ではない。そもそもこの場に集まった人間は、自らの星とは関係がない。
彼の内にたぎる憎悪は、全く別のベクトルに向けられていた。
だが、それを話せと言うのか。
あの茶髪の少女の笑顔を、永劫に喪われた笑顔を思い出す度、今でも微かに胸が痛む。
己が人であるが故か。
人であるが故の痛みか。
「……そうしない意味がないからだ」
ならばその痛みは、ここで切って捨てねばならない。
殺戮の目的こそは違えど、この身がジェノバへと戻ったことに変わりはないからだ。
「この殺し合いを止めるため、力を貸せと……私にそう言った者は、既に死んだ」
「死んだ……?」
何より、彼女にもまた、それを知る権利がある。
八神はやてと同じ星に生まれ、八神はやてと肩を並べ戦った、八神はやての生涯の友には。
静かに。
厳然と。
片翼の天使は問いに答える。
ただ淡々と、その笑みすらも消し去って、揺るがぬ真実のみを突きつける。
苦しげな表情で銃を構えるなのはを見下ろしながら、銀髪の剣士――セフィロスは、そんな感想を浮かべた。
『ヒドイッス! マジありえねーッス! 何故なのはさんを傷つけるッスか!
美女ッスよ!? ムチムチボインッスよ!? 人類とデバイスの共有財産なんスよ!?』
「………」
『あっいや、すいませェん……』
何故か急に騒ぎ出したレヴァンティンを、一睨みで黙らせた。
思考の邪魔だ。鬱陶しくて仕方がない。
そもそもこいつのこの性格は何だ。
デバイスと直接話したことなどほとんどないが、少なくともこんなうざったい奴ではなかっただろうに。
まぁそれはさておいて、思考をなのは達の方へと戻す。
これまでに出会った機動六課のメンバーは4人。
八神はやて、シグナム、高町なのは、そして死体だったが、ティアナ・ランスター。
そのうち既に死亡したティアナを除く、3人全員が、自分に関する記憶を失っていた。
はやてに至っては、何故か身体も記憶も10年近くは退行していた。
恐らくティアナや、ここにいるフェイトやスバルも、自分のことは知らないのだろう。ここまで来るとその可能性が高い。
もっとも、例外はある。何故アンジール・ヒューレーだけが、自分のことを覚えていたのか。
だが、当の本人がここにいない以上、それにさしたる意味はない。
恐らく自分を知る者はここにいない。完全なる孤立無援の状態だ。今はそれが分かればいいだろう。
それに、だからといって何も困ることはない。どうせ皆殺しにするのだから。
今一度、殺戮の対象となった、かつての仲間の顔を伺う。
(随分と無様なものだな)
時空管理局のトップエース、神童と謳われた彼女の姿の、何と痛ましいことよ。
顔は土気色一色に染まり、息絶え絶えといった弱々しい呼吸。だらだら、だらだらと、絶え間ない汗が頬を伝う。
誰の目に見ても明らかなオーバーワークだ。デバイスもなく、制限もないのに、あんな無茶な機動を取ったが故の。
そもそもこいつは何故、あのような愚かしい手段を取ったのだろう。
現状で人を抱えながら飛べば、まず間違いなく消耗する。湖の上を飛行すれば、岸から姿が丸見えだ。
なのはらしくない。
何かと無理をする奴だったが、馬鹿をやらかす奴ではなかったはずなのに。
一体、何が彼女をこうも急がせた。何が彼女の思考力を奪ったのだ。
「貴方は……どうして、こんな殺し合いに乗るんですか……!?」
他ならぬなのは自身が、セフィロスの思考を遮った。
それが正常だろう。正義感に満ちた彼女ならば、そうやって殺人を否定するに決まっている。
満身創痍といった様相でありながら、その左右の瞳だけは、確かな覇気に燃え盛っていた。
殺し合いに乗った理由。
言うまでもなく、侵略者ジェノバの意志のみが理由ではない。そもそもこの場に集まった人間は、自らの星とは関係がない。
彼の内にたぎる憎悪は、全く別のベクトルに向けられていた。
だが、それを話せと言うのか。
あの茶髪の少女の笑顔を、永劫に喪われた笑顔を思い出す度、今でも微かに胸が痛む。
己が人であるが故か。
人であるが故の痛みか。
「……そうしない意味がないからだ」
ならばその痛みは、ここで切って捨てねばならない。
殺戮の目的こそは違えど、この身がジェノバへと戻ったことに変わりはないからだ。
「この殺し合いを止めるため、力を貸せと……私にそう言った者は、既に死んだ」
「死んだ……?」
何より、彼女にもまた、それを知る権利がある。
八神はやてと同じ星に生まれ、八神はやてと肩を並べ戦った、八神はやての生涯の友には。
静かに。
厳然と。
片翼の天使は問いに答える。
ただ淡々と、その笑みすらも消し去って、揺るがぬ真実のみを突きつける。
「――八神はやてが死んだ。それが、私が殺し合いに乗る理由だ」
039:まあ、どうせここヘンタイさんばっかだし。 | 投下順に読む | 040:Advent:One-Winged Angel(後編) |
039:まあ、どうせここヘンタイさんばっかだし。 | 時系列順に読む | 040:Advent:One-Winged Angel(後編) |
011:めぐりあう双星 | 柊かがみ | 040:Advent:One-Winged Angel(後編) |
高町なのは(StS) | ||
030:夜天の天使、飛び立つ | セフィロス |