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Advent:One-Winged Angel(後編)

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Advent:One-Winged Angel(後編) ◆9L.gxDzakI



 真実は時に残酷だろう。
 目を覆いたくもなるだろう。耳を塞ぎたくもなるだろう。
 こんな真実など望んでいなかった。
 知らない方が幸せだった。
 苦しすぎる現実など、わざわざ記憶に刻みたくなかった。
「……うそ……」
 そのことに気付くのは、大抵真実を聞いてしまった後からだ。
 力がごっそりと抜けていく。ふらふらの身体を支えていた、何かがぷつんと断ち切られる。
 正義の眼差しは力を失い、絶望の一色へと染められる。
 へなへなと。
 生きる糧を失った植物が、力なく萎れ地に伏すように。
 愕然とした表情で、なのははその場にへたり込んだ。
「そんな……」
 八神はやて。
 関西弁が印象的な、明るく優しい友人だった。
 守護騎士達との戦いの中、偶然出会った彼女らの主。
 闇の書を巡る闘争の果て、遂にはやては杖を取り、夜天の主として覚醒する。
 自分と彼女と、フェイトの3人。
 そしてヴォルケンリッターを始めとする、多くの人々の力を借りて、悲しき運命の連鎖を断ち切った。
 そして幼馴染みとして、頼れる戦友として、共に奔走してきた10年間。
 仲良し3人組の中でも、最も明るく積極的だった、太陽のごときムードメーカー。
「はやてちゃんが……!」
 しかし、そんなはやてはもういない。
 何故セフィロスが彼女を知っているのか。
 何故彼女はセフィロスと行動を共にしていたのか。
 そんなことは、もはや大した問題ではなかった。
 なのはにとって最も重要なことは、己が親友が既にこの世にいないということ。
 先の殺し合いの最中、はやてが何者かによって殺され、命を奪われたということ。
 もう、彼女は微笑まない。
 一緒に笑い合うことはできない。
 自分のせいだ。
 自分が無力だったから、彼女の力になることができなかった。
 見せしめになったあの子と同じだ。前の戦いで救えなかった、あのもう1人の友達と同じだ。
 自分が不甲斐ないばかりに、皆手の届かぬところで死んでしまった。
 何がエース・オブ・エースだ。大切な人々を守れずに、一体何のための力だ。
 希望の光は失意に呑まれ、深き闇へと沈んでいく。
「絶望を知ったか」
 故に、気付けなかった。
 引き裂けかかった心には、周りを見る余裕などなかった。
 ぽう、と。
 かがり火を灯すは暗黒の炎。
 暗き漆黒を宿した炎球が、なのはの周囲へと現れる。合計4つのシャドウフレア。
 ゆらゆら、ゆらゆらと。
 宵闇の中にあってなお、その存在を霞ませることなく、大気を揺らめかせる黒炎。
 夜の闇よりなお深き、絶望の深淵を宿す熱。
「ならば、先に逝くがいい。奴のもとへ」
 今まさに。
 4つの炎が、セフィロスの号令によって。
 解き放たれようとした。
 その、瞬間。
「――ちょっと、待ちなさいよっ!」
 割って入る声があった。


 何がなんだか分からなかった。
 いきなり変な銀髪の男が現れたら、明らかにあたしの方を見て、「仮面ライダー」なんて変な名前であたしを呼んだ。
 そこから先は、できることなら、金輪際二度と思い出したくない。
 鞭みたいにしなる剣が、あちこちから物凄い勢いで襲ってくる。
 なのはがそれを必死で避けて、ホテルのロビーへと突っ込む。
 怖いなんてもんじゃないわ。
 いくら殺し合いのゲームだからって、こんな目に遭わされるなんて思ってもみなかった。
 アニメやゲームの世界じゃないんだし、なんでこんなでたらめに強いのよ?
 かと思えば、つらそうな顔で出ていったなのはが、愕然としてその場にへたり込んでた。
 銀髪は、八神はやてが死んだ、とか言ってた気がする。
 要するに、なのはの友達が、知らないうちに前の殺し合いで死んでしまっていたらしい。
 そこになのはを取り囲むように、4つの黒い炎が現れた。
 このままじゃ殺されちゃう。四の五の言ってる暇はなかった。
「ちょっと、待ちなさいよっ!」
 制止の声を張り上げながら、ホテルの外へと駆け出していく。
「かがみ……?」
 弱々しい、蚊の鳴くような声がした。
 声の主を庇うように、あたしは男の前に立つ。
 怖い? 決まってるじゃないの!
 今でもアイツが見下ろす先で、膝がガタガタ震えてるわよ!
「クク……お前か。そういえば、忘れていたな」
 言いながら、銀髪が炎を引っ込める。
 よかったようで、全然よくない。今のあたし達なんて、その剣ですぐにぶった斬れる。
「アンタさっきから何言ってんのよ!? あたしが何かしたっていうの!?」
 目の前のこいつが、何故かあたしを目の敵にしてるのは、何となくだけど理解してた。
 最初に出くわした時も、意識を向けたのはあたしだった。レヴァンティンとかいうのの攻撃だって、明らかにあたしを狙ってる。
 でも、あたしアンタとは初対面よ? 何でそんなことされなきゃなんないのよ?
「よく言う。八神はやてを最初に殺さんとしたのは、他ならぬお前だったろうに」
「あたしそんなの知らないわよっ! はやてって人もアンタも見たことないし、まして殺そうなんてしてない!」
「今さらシラを切ったところで、お前の罪は消えはしないがな」
「知らない知らない知らない! 八神はやてって誰よ! 仮面ライダーって誰よ!
 罪って一体何なのよっ! ホントにあたしは何も知らないんだってば!
 もうほっといてよ! 何であたしやなのはばっかり、こんな目に遭わすのよぉっ!」
 多分、泣いてたと思う。
 それくらいには必死だったわけだし、そうして自分が泣いてるとも、気付かないくらいには必死だった。
 我ながらみっともなかったとは思う。
 それでも、たとえみっともなかったとしても、否定しないわけにはいかなかった。
 少しでも沈黙を見せようものなら、そのまま肯定と受け取って、あたし達を殺しにかかっただろうから。
 嫌だ。死にたくない。
 こんなわけの分からないところで、こんな怖い思いの中で死にたくはない。
 あたしはまだまだ死にたくないのよ!
 だからって逃げたいわけじゃない。そんなの選べるわけがない。なのはを見殺しになんてできない!
 殺さないで! もうあたし達に関わらないで! どっかにでも行っちゃってよ!

「……本当に覚えていないのか?」
「!」
 突然だった。
 本当に、突然。
 ほとんどパニック寸前になったあたしの頭が、すっと冷静になっていった。
 冷たい水をぶっかけられたように、頭の熱が下がっていく。
 もう銀髪の男は笑ってなかった。あの妙に怖くて危ない笑顔はなくて、真顔でこっちをじろじろ見ていた。
 殺気が消えてく、ってのは、こういうことを言うのかしら?
 ついさっきまでの、尖ったナイフみたいな空気が、だんだんあたしの周りから遠ざかっていく。
「だから、知らないって言ってるでしょ……」
 空飛ぶ男を睨みながら、あたしは言い返した。
 湿り気を帯びた目もとを拭う。自分が泣いていたと気付いたのは、ちょうどこの頃だった。
 無表情な男の顔に、僅かに難しそうな色が浮かぶ。怪訝そうな顔、とかいうやつ。
 そのまま何を考えているかも分からない、不気味な沈黙がしばらく続いて。
「……興が醒めた」
 返ってきたのは、ため息まじりの言葉だった。
「ろくに戦う意志もない、今のお前を殺したところで、私の気は収まらん」
 頭上の銀髪の男が、心底つまらなさそうに言った。
 呆れた、というか、しらけた、というか、失望したぞ、といったような、大体そんな感じの表情。
 ちょっと待てコラ。アンタ一体何様のつもりよ。
 散々人を怖がらせて、なのはもあんなに苦しめてといて、気が向かないからやめるですって?
 ふざけんのもいい加減にしなさいよ。
 そう怒鳴り散らしたくもなったけど、でも今のあたしにとっては怒りよりも、安心感の方が大きかった。
 これで助かる。自分達が殺されることはなくなる。
 目の前にあいつがいなければ、そのまま息の1つでもつきたかった。
「だが……そうだな」
 ぴくり。
 不意に、何かをひらめいたような顔をした銀髪の男に、思わず身体がぴくんと動く。
「私はお前と同じ服を着た奴を、1人この殺し合いで見ている」
「あの見せしめのこと?」
「その服は何だ? どこかの制服か何かにも見えるが」
「……そうよ、あたし達の学校の制服よ」
 少し棘のある口調だったな、と思う。
 まぁでも、無理もないわ。この期に及んでまだ何か用があるのか、って具合にイライラしてたもの。
「なるほど……」
 男は男で、何か納得がいったとでも言わんばかりの顔と声音をしてる。
 もういいからあっち行ってよ。……あ、ちょっと待った、やっぱり駄目。
 さっき殺し合いを一緒に止めるって、なのはと約束したばかりじゃない。
 そう。殺し合いなんてさせちゃ駄目。みんなで脱出しなきゃいけないんだ。
 だから、今アイツにどこかに行かれるとまずい。
 そのまま人殺しをされてしまっては困る。でも、どうやって説得すればいいのかしら?
 答えの出ない疑問が、頭の中でぐるぐる回る。
 でも、それもほんの一瞬だった。
 あたしの思考は、ものの見事に止められてしまった。

「では……お前に戦う理由を与えてやろう」

 …
 ……
 ………
 ………………
 ………………………
 ………………………………………、はい?

 今、アイツは何て言ったの?
 戦う理由を与える? それって一体どういうことよ?
 まさか、あたしがアンタみたいな化け物と、戦うなんて本気で思ってるの?
 何がなんだか分からない。言ってる意味が全く分からなかった。
 だから、あたしはそのまま聞き返す。
「戦う理由? アンタ、それってどういう――」





「――これからお前と同じ服を着た奴を、一人ずつ殺していくことにする」







 心臓が止まるかと思った。
 全身の血の気が引いていった。
 瞳がくわっと見開かれて、手足の全てがぶるぶる震えた。
「私を止めるか、友を捨てるか……その裁量はお前に委ねることにしよう」
 コイツはいきなり何言い出すの?
 あたしの制服を着た子達……陵桜学園の友達を、皆殺しにするっていうの!?
 一年の後輩達も、みゆきも、こなたも?
 つかさも……みんな、みんな?
 あたしが戦わないからって理由だけで……みんなコイツに殺されちゃうの!?
「放送を聞くたびに思い出せ」
 黒い背中が遠ざかっていく。
 黒い翼が羽ばたいて、銀の長髪がたなびいて、あたし達から遠ざかる。
「ま……待って!」
「お前の命は、私によって生き永らえることができたのだとな」
 制止なんて無駄だった。まともに話を聞くような奴じゃなかった。
「それが嫌なら追ってこい。選択権はお前にある」
 自分に都合のいいことだけ言って、男はさっさと行ってしまった。
 右の背にしかない翼で、器用に夜空を飛んでいく。
 すぐにアイツの姿は、建ち並ぶビルの陰に隠れて見えなくなった。
「……ぁ……」
 呆然としながら、あたしはその場にへたりこむ。
 どうして。
 どうしてこんなことになっちゃったの。
 あたしは何もしてないのに、勝手に因縁吹っ掛けられて、今度はみんなの命が狙われた。
 あたしのせいでみんなが死ぬ?
 あたしがアイツに会っちゃったせいで、みんながアイツに殺されちゃう?
 ……そんなの嫌よ!
 何で!? どうして!?
 何でみんなが死ななきゃいけないの!? 何であたしのせいで、みんなが殺されなきゃいけないのよ!?
 そんなこと、許せるわけがないじゃない! 駄目に決まってるじゃない!
 何としてでもアイツを止めないと!
 でも、どうやって止めたらいいの? あんな化け物みたいな奴、あたしが勝てるわけがない。
 このまま追いかけて行ったって、返り討ちにあって自分が死んじゃう。
 あたしは、一体どうすれば……

「ん、く……」
「!」
 視界の端で誰かが動く。
 そっちの方を見ると、よろよろとしながらなのはが立ち上がっていた。
 どう見てもまともに歩ける具合じゃない。それでも男の飛んでいった方に、ふらつきながら歩いていく。
 いけない。このままじゃ危ない。
 反射的にあたしは駆け出し、なのはの右腕を掴んでいた。
「何やってるのよ、なのは!?」
「すぐに……あの人を、止めないと……かがみの友達が、あの人に殺されちゃう……」
「そんな身体でできるわけないじゃない!」
「大丈夫……私は、大丈夫だから……」
 言うと思った。
 こういう人はみんなそうして、自分の無理を通したがるんだ。
 ほとんど土気色の顔色に、顔中をぐっしょりと濡らしてる汗。どこからどう見ても、大丈夫になんて見えない。
「もう……ちょっと、そこに座りなさいっ!」
 苛立ちと共に、あたしは思いっきり大声で命令した。
 そう、命令だ。聞かないなんて許さない。
 なのはは一瞬、きょとんとしたような顔を浮かべたけど、言われるままにその場に座った。
 あたしも向かい合うようにして、アスファルトの上に座る。
「なのは……アンタ、さっきから何焦ってるのよ」
「えっ……いや、私は、別に……」
「それくらい分かるわよ。どうせさっき湖を渡ったのも、正直結構キツかったんでしょ?」
 ふうっ、とため息をつきながら言った。
 当のなのははというと、ばつの悪そうに俯いてる。あたしの言ったのは、やっぱり当たりだったみたいだ。
 そもそも今の不調だって、男の攻撃を避けまくった時からだった。
 なのははこのことを分かってたんじゃないんだろうか。今の状態で空を飛ぶのが、どれだけしんどいことなのかを。
 根拠なんてない。強いて言うなら、この場の気まずい沈黙こそが証拠だ。
「……私ね」
 ややあって、観念したようになのはが語り出した。
「友達を守れなかったんだ。
 今あの人が言ってた、はやてちゃんって人もそうだけど……もう1人、アリサちゃんって友達が、犠牲になっちゃった」
 話すなのはの表情は暗い。
 なのはの話によると、彼女が前に参加させられていた殺し合いで、アリサ・バニングスって人が見せしめにされたんだそうだ。
「友達が目の前で殺されたのに、何もできなかった……私は、もうあんな無力感を、味わいたくないから……」
「なのは……」
 友達が目の前で殺される。
 すぐには実感は沸かないし、あまりすぐ沸くような経験もしたくない。
 ただ、もしもあの体育館で死んだのが、つかさと姿が同じだけの他人じゃなく、
 それこそつかさ本人や、こなた達だったらどうだっただろう――そう考えると、心底身体が凍えた。
 なのははこの何倍も悲しくて、何倍もつらくて、何倍も苦しかったんだと思う。
 だから、焦ったんだろうか。こんな思いをしないためにも、誰にもこんな思いをさせないためにも。
「……とにかく、分かったから、しばらく身体休めなさい。今の体調じゃ、アイツにやられちゃうわ」
 それでも、だからこそ、あたしはなのはにそう言った。
「そんな……かがみの友達の命が危ないんだよ!? もたもたしてるうちに、殺されちゃうかも――」
「――アンタの場合『かも』じゃなくて、ホントに友達死んじゃってるじゃないのっ!」
 分かってるわよそれくらい!
 こうしてる間にも、アイツがこなた達の命に、一歩一歩確実に近づいてるかもしれない。
 友達が殺されるかもしれないなんて不安、抱えてるに決まってるじゃない。
 でも、なのはは違う。あたしよりももっとひどい。
 なのははアリサとはやてって友達を、本当に喪ってるんだから。
 あたしの一喝に、なのはは一瞬びくりと震えた。相当でかい声だったと、自分でも思う。
「だから、あたしが我慢するの。……アンタはここで一度休みなさい。心も身体も、休憩が必要だわ」

「……かがみは優しいね」
 自分自身を嘲笑うような顔で、なのはが言った。
 確かに、荒事にかけては本職なはずの自分が判断力を欠いて、
 挙げ句一般人に諭されるなんてことがあったら、そんな顔をしてもおかしくない。
 何やってんだろうなぁ、あたしは。あたしでも多分、大体そんな風に思う。
「……優しくなんかないわ」
 でも、違う。そうじゃない。
「アンタが無茶してやられちゃったら、弱いあたしはアイツに勝てない……
 あたし1人だけじゃ、つかさやこなた達を守れない……きっと、それが怖いだけなんだと思う」
 我ながら最低だな、と思った。
 もちろん、なのはが死んでほしくない、と純粋に思う気持ちはある。
 でも、多分それだけじゃない。
 むしろ彼女への心配よりも、きっと打算の方が強いんだと思う。
 自分1人になってしまったら、あんな奴に勝てるはずがない。
 でも、なのはが体調を整えて、どこかでデバイスを手に入れてくれれば、どうにか対抗できるかもしれない。
 どこかでそんな風に考えてる自分がいるのよ。
 なのはを戦うための武器として見なしてる。自分がすべき戦いをなのはに押しつけてる。
 優しくなんてない。ましてや、冷静に判断してるわけでもない。ただの卑怯で最低な計算よ。
 本当に優しいだけなのなら、なのはに戦わせたりなんてしない。
 本当に冷静にいられるのなら、この手がぶるぶると震えるはずがない。
「……でも、かがみが私を気遣ってくれてるのは、本当だから」
 ふっ、となのはの顔に笑みが浮かんだ。
 すごく疲れて見えるけど、すごく優しい穏やかな笑顔。
「ありがとう」
 あぁ、本当に優しいのは、なのはの方なんだ。
 まるで母親みたいな笑顔を浮かべるなのはを見ると、余計に申し訳ない気持ちになって、微かに俯いた。
 「ちょっと待ってて」と言うと、立ち上がった白い制服が、ビルの隙間へ歩いていく。
 何をするつもりなんだろう。
 最初はそう不思議に思ったけど、すぐに理由は分かった。
 おぼつかない足取りで物陰を目指して、結局耐えきれずに崩れ落ちて、膝と両手を道路に突いて、
「うぅ……っ! ……げほ、げほっ……」
 こちらに背中を向けて、思いっきり嘔吐した。
 多分さっきの戦いの時から、ずっと吐き気を堪えていたんだろう。
 咳き込むようにしながら、胃の中のものを盛大にぶちまけていく。多分、さっき食べたチョココロネも。
 さすがにもらいゲロとまではいかなかったけど、この殺し合いの最初に、げえげえ吐いてた自分を思い出した。
「う……ぁ……ああ……」
 吐くもの全部吐き出した後に、なのはの泣き声が聞こえたのも、その原因の1つだったかもしれない。
 そのまま立ち上がろうともせず、軍服の背中を震わせて、人目もはばからず涙を流す。
「はやてちゃん……アリサちゃん……っ!」
 変わらないんだ。あたしも、なのはも。
 強い力を持ってるだけで、それ以外は何も変わらない、同じ1人の女の子。
 身体を酷使すれば傷つくし、苦しみや悲しみを感じれば泣きたくなる。
 なのはだってあたしと同じ、1人の人間なんだ。
 それをたとえ一瞬でも、利用しようと考えた自分が情けなくなる。
 ごめん、なのは。本当にごめん。
 何の償いにもならないかもしれないけど、せめて思いっきり泣かせてあげる。
 泣かずに後から後悔しないように、涙を全部流すまで待っててあげる。
 今は休んで。
 なのはが守りたいと思う人達のために。

(ごめん……みんな)
 つかさ、ごめん。
 こなた、みゆき、みんな本当にごめんなさい。
 今あたしのせいで、みんなの命が危険にさらされようとしてる。
 そのくせあたしはまだ、みんなを助けに行くことができない。
 もうちょっとだけ待ってて。
 もう少しだけ待っててくれたら、あたし達がすぐに行くから。
 無力なあたしだけじゃない。なのはだけに押しつけるわけでもない。
 あたし達2人で、みんなを助けに行くから。


【D-5 ホテル前/一日目 黎明】

柊かがみ@らき☆すた(原作)】
【状態】:健康、自責
【装備】:モーゼルC96(9/10発)@現実
【所持品】:支給品一式、モーゼルC96のマガジン×4@現実
【思考・行動】
基本方針:知り合いをマーダーの手から守る。
1.高町なのはが落ち着くまで待つ。
2.銀髪の男(=セフィロス)に殺される前に、知り合いを助けに行く。
3.みんな、ごめん……あたしのせいで……
※参戦時期は一年生組と面識がある時期です。

【高町なのは(StS)@なのはロワ】
【状態】:疲労(大)、左肩負傷(止血済) 、眩暈、吐き気、深い悲しみ、焦り
【装備】:マテバ 6 Unica(6/6発)@現実
【所持品】:支給品一式、マテバ 6 Unicaの弾×30@現実、カートリッジ×3@なのはロワ、チョココロネ×8@らき☆すた
【思考・行動】
基本方針:悲劇の連鎖を止め、一人でも多くの人間を救う。
1.はやてちゃんが……!
2.柊かがみと行動を共にする。
3.銀髪の男(=セフィロス)に殺される前に、知り合いを助けに行く。
※参戦時期はなのはロワ26話、『残る命、散った命』の直後です。
※何らかの原因により魔力が減衰しています。
※八神はやて@なのはロワが、前の殺し合いで死亡したと知らされました。
 また、彼女を自分の知るはやて(StS)だと思っています。
※身体に制限がかけられていることに気付きました。

※ホテルの自動扉が破られたことで、ガラスの割れた音が鳴り響きました。
 ホテル周辺、またはホテル内の低い階層には、音が伝わったかもしれません。



 間もなく日が昇る。
 東方が青く染まり始めた夜空の中、ぽつりと浮かぶ人影が1つ。
「……私を甘いと思うか?」
 ぽつり。
 闇の中へと溶け込むような、小さく呟く言葉ひとひら。
『知ったこっちゃねーッス』
「お前に言ったのではない」
『スイマセンスイマセンマジごめんなさい』
 左手に握った剣にひと睨みくれると、セフィロスは再び空を見上げる。
 視線の先には月明かり。片翼の天使の銀髪のごとく、煌々と輝く銀月だ。
 自らの宿敵たる金髪の男へと、問いかけた先の呟きを、再び胸の内で反芻する。
 ホテル前で紫髪の娘と相対したあの時、轟々と渦巻く自らの殺意が、急速に消え失せていくのを感じた。
 煮えたぎるマグマのごとき憎悪が、瞬く間に熱を失っていったのだ。
 理由はただひとつ。
 確かに今の彼女には、少なくとも前の戦いの記憶はないと認識したからだ。
 自分が戦った時のあの娘は、見ているだけで腹が立つような、どうしようもなくいかれた女だった。
 仮面ライダーになれなければ、大した実力もないくせに、過剰なまでに好戦的。
 しかし、今の彼女の瞳には、その時の狂的殺意が全く感じられなかったのだ。
 セフィロスも馬鹿ではない。雰囲気を見れば、相手が嘘をついているか否かくらいは見抜ける。
 記憶を抹消されたのか、はたまた自ら閉ざしたのか。
 どちらにせよ、今の奴はシグナムを抹殺した殺人者ではなく、ただの矮小な小娘だった。
 あんなクズを斬ったところで、自分の怒りは収まらない。
 はやての心を蝕んだ、あの闘争心を折らぬ限り、自分の憎しみは消えはしない。
 故にあの場は捨て置き、こうして人質を取ることで、自らへと牙を剥くように仕向けたのだ。
(だが、なのはまで生かす道理はないはずだ)
 引っ掛かっているのはそこだった。
 彼女の戦意を揺り起こすのが目的なら、なのははあのまま殺しても、何ら問題はなかったはずである。
 否、逆だ。むしろ目の前で仲間を殺すことで、自分へ憎しみを向けさせることができた。
 しかし、そうはしなかった。
 無意識にとはいえ、自分は殺すべき相手のなのはに、情けをかけてしまったのだ。
(未だ断ち切れていないというのか)
 この期に及んで、まだ未練があるのか、と。
 確かになのはやはやてを始めとした、機動六課の連中は、かつては大切な仲間達として認識していた。
 母の顔も知らず、親代わりの研究員は殺害され、友は自分の元から遠ざかり、挙げ句人間であることさえ否定された。
 ないない尽くしの英雄が、破壊者として目覚めて以来、初めて同胞と見なすことができた者達。
 夜天の主が与えてくれた、孤独な黒翼を休められる場所。
 初めて、故郷と思えた、居場所。
 それを失うのが怖いのか。故郷の仲間を斬るのが怖いのか。
 故に己は刃を引き、なのはを斬ることなく立ち去ったのか。
「……まぁ、いい」
 今はどうだっていいことだ。為すべきことは他にある。
 己が思考をクリアにすると、当面の目的へとシフトする。

 確かあの紫の髪の娘は、柊かがみという名だったか。なのはの呼んだ名前と、名簿を照らし合わせ分かったことだ。
 そのかがみが発揮した、本来の凶暴性を蘇らせるべく、奴の大切な者を殺していく。
 友の命が失われるとあれば、泣き喚くことしかできなかったかがみも、さすがに黙ってはいないだろう。
 やはりこの殺し合いにも、能力制限は存在するようだ。
 平時に比べて消耗しやすくなっている。だがこの程度なら、まだ戦闘には支障を来たすこともない。
「その幼稚な闘争心を、真っ向から叩き折ってこそ、お前の命に意味を見い出すことができる」
 そして、探すべき獲物は――既に、セフィロスの真下にいた。
 ピンク色の髪をした、セーラー服姿の少女が、遥か下方に立っている。
 緊張感などまるでなく、ただへらへらと笑っている。
 ――小早川ゆたか
 陵桜学園の一年生。
 かがみの願いも虚しく、すでにこの殺戮の天使は、獲物を射程の範囲内に捉えていたのだ。
「その時こそ……」
 捕食者に睨まれているとも知らず、呑気に振る舞うちっぽけなネズミ。
 今こそ片翼を羽ばたかせ、鷲は天より舞い降りる。
 無知なる者よ、無力なる者よ。
 今ここに、天使の裁きが下される。
 喜ぶがいい。歓喜に打ち震えるがいい。
 汝は天使に選ばれたのだ。
 1人の愚かな殺戮者を、葬るための布石として。
 さぁ、娘よ。
 卑しくも浅ましき人の子よ。
 今こそ私は剣を振ろう。
 お前の身を支える四肢を、お前の身を動かす臓腑を、お前をお前たらしめす精神も、全てこの私が奪い去ってやる。
 そして、その時こそは。
「――跪き、許しを請う姿を見せてくれ」


【D-5 小早川ゆたかの頭上/一日目 黎明】
【セフィロス@なのはロワ】
【状態】疲労(小)、ジェノバ覚醒、片翼で飛行中
【装備】レヴァンティン(カートリッジ2/3)@ニコロワ
【道具】デイパック、基本支給品一式、ランダム支給品0~2
【思考】
 基本:全ての参加者をを皆殺しにする
 1.シグナムにはやての事を伝える
 2.かがみのクラスメート(=原作らき☆すたキャラ)を殺していき、かがみの本来の闘争心を蘇らせ、その上で殺す。
 3.まずはピンク髪の女(=ゆたか)を殺す。
 4.レヴァンティンが鬱陶しい。もっと使いやすい剣が手に入ったら、そのまま捨ててやろうか
※なのはロワ79話「月蝕」はやて死亡直後から参加
※レヴァンティンはニコロワ210話「城・逃・げでリセット!」から参加
※なのは、スバル、かがみが、自分の記憶を失っていると思っています。
 彼女らが自分の知る人間と別人であるとは思っていません。
※身体に制限がかけられていることに気付きました。


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