第572話:干渉、感傷、観賞 作:◆5KqBC89beU
○<アスタリスク>・9
介入する。
実行。
実行。
終了。
・
・
・
・
・
黒い鮫の姿をした悪魔が猛り狂い、しずくの上半身に噛みついたまま暴れ回る。
機械知性体の少女は並外れた頑丈さ故に即死を免れたが、抗う力を失った。
カプセルを何個かまとめて嚥下し、甲斐氷太が笑う。虚空に白い鮫が出現する。
白鮫は、黒鮫の顎からはみ出ていた下半身に狙いを定めた。
不運な獲物が二つに裂ける。
この玩具には飽きた、とでも言いたげな様子で、二匹の悪魔は残骸を吐き捨てた。
瞳を真っ赤に輝かせて、甲斐の体が宙に浮かぶ。
鮫たちが、肉と骨を軋ませながら大きさを増していく。
暴走している。悪魔も、召喚者も。
カプセルを咀嚼しつつ、甲斐が背後を振り返る。
彼の次なる対戦相手は、凶行の現場へ駆けつけた男女だった。
宮野秀策が魔法陣を描いて触手を召喚し、光明寺茉衣子が蛍火を指先に作り出す。
鮫たちが尾を薙ぎ払った。機械知性体だった物体が二つ、砲弾のごとく飛翔する。
硬さと速さを兼ね備えた飛び道具は、それぞれ一瞬で二人組に激突した。
宮野の顔面が肉片の塊と化し、茉衣子の内臓が盛大に破
機械知性体の少女は並外れた頑丈さ故に即死を免れたが、抗う力を失った。
カプセルを何個かまとめて嚥下し、甲斐氷太が笑う。虚空に白い鮫が出現する。
白鮫は、黒鮫の顎からはみ出ていた下半身に狙いを定めた。
不運な獲物が二つに裂ける。
この玩具には飽きた、とでも言いたげな様子で、二匹の悪魔は残骸を吐き捨てた。
瞳を真っ赤に輝かせて、甲斐の体が宙に浮かぶ。
鮫たちが、肉と骨を軋ませながら大きさを増していく。
暴走している。悪魔も、召喚者も。
カプセルを咀嚼しつつ、甲斐が背後を振り返る。
彼の次なる対戦相手は、凶行の現場へ駆けつけた男女だった。
宮野秀策が魔法陣を描いて触手を召喚し、光明寺茉衣子が蛍火を指先に作り出す。
鮫たちが尾を薙ぎ払った。機械知性体だった物体が二つ、砲弾のごとく飛翔する。
硬さと速さを兼ね備えた飛び道具は、それぞれ一瞬で二人組に激突した。
宮野の顔面が肉片の塊と化し、茉衣子の内臓が盛大に破
・
・
・
・
・
○<インターセプタ>・5
干渉可能な改竄ポイントは数多く存在している。過程や結果は何度でも変えられる。
ただ、どうしても、宮野秀策と光明寺茉衣子の死を回避することができない。
死に至るまでの行動も、どのように死ぬのかも、多少は操作できるというのに。
また一つ、可能性が潰えた。
十三万八千七百四十三回目の介入は、彼と彼女の死によって終わった。
これまでの試行錯誤が無駄だったとは思わない。
宮野秀策がフォルテッシモに倒される結末は、抹消した。
光明寺茉衣子を小笠原祥子が刺殺する結末は、削除した。
宮野秀策と零崎人識が相討ちになる結末は、なかったことにした。
光明寺茉衣子がウルペンによって絶命させられる結末は、跡形もない。
彼と彼女がハックルボーン神父に昇天させられる結末は、もはやありえない。
あの二人を生還させることは未だ叶わないが、死を先延ばしにすることはできた。
歴史が改変され、あの二人を殺すはずだった殺人者たちは別の参加者たちを殺した。
宮野秀策と光明寺茉衣子の生還を確定した後、被害を最小限に抑える予定ではある。
だが、あの二人を守ることが最優先だ。
参加者たちの危機感を煽る必要がある。見せしめとして一人は開会式で死なせる。
炎の獅子の力は不可欠だ。主催者と戦えば惨敗は必至だが、挑んでもらわねば困る。
零時迷子を『世界』に嵌め込むため、涼宮ハルヒと坂井悠二の命は助けられない。
それらを犠牲にせねばあの二人が生き残れないというのなら、犠牲を厭いはしない。
誰がどれだけ死んでしまっても、彼と彼女は助けたい。
被害者全員を生かすことは、できない。
たった二名の人間すら救えないかもしれない程度の力しか、使えないのだから。
……あの二人を両方とも救うことは、ひょっとすると不可能なのかもしれない。
無論、諦めてはいない。だが、そのような事態を考慮しないわけにはいかない。
もしも彼を救えないなら、せめて彼女だけでも生き延びさせたい。
だから、打てる手はすべて打っておく。なるべく早く、できるだけ速やかに。
当然、『あの島の時間』と『わたしの時間』は異なるが、それは余裕を意味しない。
この身が模造品であるならば、短命な粗悪品だったとしてもおかしくはない。
急がねばならない。
ただ、どうしても、宮野秀策と光明寺茉衣子の死を回避することができない。
死に至るまでの行動も、どのように死ぬのかも、多少は操作できるというのに。
また一つ、可能性が潰えた。
十三万八千七百四十三回目の介入は、彼と彼女の死によって終わった。
これまでの試行錯誤が無駄だったとは思わない。
宮野秀策がフォルテッシモに倒される結末は、抹消した。
光明寺茉衣子を小笠原祥子が刺殺する結末は、削除した。
宮野秀策と零崎人識が相討ちになる結末は、なかったことにした。
光明寺茉衣子がウルペンによって絶命させられる結末は、跡形もない。
彼と彼女がハックルボーン神父に昇天させられる結末は、もはやありえない。
あの二人を生還させることは未だ叶わないが、死を先延ばしにすることはできた。
歴史が改変され、あの二人を殺すはずだった殺人者たちは別の参加者たちを殺した。
宮野秀策と光明寺茉衣子の生還を確定した後、被害を最小限に抑える予定ではある。
だが、あの二人を守ることが最優先だ。
参加者たちの危機感を煽る必要がある。見せしめとして一人は開会式で死なせる。
炎の獅子の力は不可欠だ。主催者と戦えば惨敗は必至だが、挑んでもらわねば困る。
零時迷子を『世界』に嵌め込むため、涼宮ハルヒと坂井悠二の命は助けられない。
それらを犠牲にせねばあの二人が生き残れないというのなら、犠牲を厭いはしない。
誰がどれだけ死んでしまっても、彼と彼女は助けたい。
被害者全員を生かすことは、できない。
たった二名の人間すら救えないかもしれない程度の力しか、使えないのだから。
……あの二人を両方とも救うことは、ひょっとすると不可能なのかもしれない。
無論、諦めてはいない。だが、そのような事態を考慮しないわけにはいかない。
もしも彼を救えないなら、せめて彼女だけでも生き延びさせたい。
だから、打てる手はすべて打っておく。なるべく早く、できるだけ速やかに。
当然、『あの島の時間』と『わたしの時間』は異なるが、それは余裕を意味しない。
この身が模造品であるならば、短命な粗悪品だったとしてもおかしくはない。
急がねばならない。
干渉不能な部分を補うため、操作不能な部外者に協力を乞うべきだと提案する。
<自動干渉機>に求める。
対面交渉の許可を。
<自動干渉機>に求める。
対面交渉の許可を。
・
・
・
・
・
○<アスタリスク>・10
承認する。
十三万八千七百十四回目以降の介入履歴を消去し、改竄ポイント変更後に介入する。
実行。
十三万八千七百十四回目以降の介入履歴を消去し、改竄ポイント変更後に介入する。
実行。
終了。
・
・
・
・
・
霧の中、“吊られ男”の眼前には幾人かの参加者がいる。
少し前に第三回放送が終わったばかりだ、ということになったところだ。
以前の『現在』とは少しだけ違うはずだが、似たような『現在』が視線の先にある。
美貌の吸血姫は、黒衣の騎士を伴い、隻腕の少年と気丈そうな少女を連れて進む。
光明寺茉衣子が向かっているのかもしれない、C-6のマンションを目指して。
「苦労しているようだね」
空気を振動させない“吊られ男”の声は、誰の鼓膜も揺らさない。
しかし、その一言は独白ではなかった。
「お願いがあるのです」
応じた相手もまた“吊られ男”と同様に『ゲーム』の参加者ではない。
いつのまにか隣にいた<インターセプタ>を、“吊られ男”は見ようとしない。
「徒労に終わると思うよ」
「徒労に終わるか否かを確認することは……それ自体が徒労だと言うのですか?」
投げかけられた質問に対し、マグスは苦笑を浮かべた。
「まさか。ありとあらゆる知的好奇心を、ぼくは否定しない」
時間移動能力者は、悲しげに顔をしかめた。
「では……この殺し合いを企てた悪意すらも肯定する、と?」
参加者たちが去っていった道から目を逸らし、“吊られ男”は隣人を見た。
「前提が間違っているとしたら、正しい答えは導き出せないな」
怪訝そうな表情で見上げる彼女に、彼は要点を述べる。
「『知りたがっている』のと『知りたいと言いたがっている』のは違う」
困惑する<インターセプタ>に向かって、“吊られ男”は微笑する。
「この『ゲーム』の主催者は、心の実在が証明された瞬間に消えるのかもしれないよ?
主催者の正体は、具象化した疑問そのものなんじゃないのかな? 答えを認めたら
疑問という『器』を維持できなくなって雲散霧消する存在だ、とは思わないかい?
主催者は本当に『知りたがっている』のかな? 『知りたいと言いたがっている』
だけじゃないかい? ああ、『主催者が消えた後に答えを残すためのもの』として、
参加者ではない存在がここにいる、という考え方はできるね。観測装置兼記録媒体
というわけだ。君の場合は検査機具かもしれない。歴史の改変くらいで消えるなら
記録の意味がないはずだから。でも、実は『答えを求めているふりをしているだけ』
なのかもしれないだろう? ――本当に、心の実在は証明できるのかな?」
突然の長広舌に絶句する彼女へ、彼は断言してみせる。
「主催者は、達成できないと考えている。答えはない、故に消されることはない、と。
本当は簡単なことなのにね。本来の望みから大きく歪んだあれは、もはや御遣いとは
呼べない。この『ゲーム』の目的は心の実在を証明すること。でも、主催者の目的は
永遠に問い続けること。だからこそ主催者は答えを認めようとしない」
「……あなたがどういう方なのか、なんとなく理解できたような気がするのです」
拗ねたような口調でそう言い、<インターセプタ>は肩を落とした。
「ところで、お願いって何だい?」
「徒労に終わると思っているのでしょう?」
「聞かないとも断るとも言っていないはずだけど?」
時間移動能力者の瞳が、マグスの顔を映す。
「この島の南部へ、できれば城の中まで歩いていってほしいのです」
「いいよ。散歩の行き先を変えよう」
「……ありがとう、ございます」
一礼して、<インターセプタ>は姿を消した。
少し前に第三回放送が終わったばかりだ、ということになったところだ。
以前の『現在』とは少しだけ違うはずだが、似たような『現在』が視線の先にある。
美貌の吸血姫は、黒衣の騎士を伴い、隻腕の少年と気丈そうな少女を連れて進む。
光明寺茉衣子が向かっているのかもしれない、C-6のマンションを目指して。
「苦労しているようだね」
空気を振動させない“吊られ男”の声は、誰の鼓膜も揺らさない。
しかし、その一言は独白ではなかった。
「お願いがあるのです」
応じた相手もまた“吊られ男”と同様に『ゲーム』の参加者ではない。
いつのまにか隣にいた<インターセプタ>を、“吊られ男”は見ようとしない。
「徒労に終わると思うよ」
「徒労に終わるか否かを確認することは……それ自体が徒労だと言うのですか?」
投げかけられた質問に対し、マグスは苦笑を浮かべた。
「まさか。ありとあらゆる知的好奇心を、ぼくは否定しない」
時間移動能力者は、悲しげに顔をしかめた。
「では……この殺し合いを企てた悪意すらも肯定する、と?」
参加者たちが去っていった道から目を逸らし、“吊られ男”は隣人を見た。
「前提が間違っているとしたら、正しい答えは導き出せないな」
怪訝そうな表情で見上げる彼女に、彼は要点を述べる。
「『知りたがっている』のと『知りたいと言いたがっている』のは違う」
困惑する<インターセプタ>に向かって、“吊られ男”は微笑する。
「この『ゲーム』の主催者は、心の実在が証明された瞬間に消えるのかもしれないよ?
主催者の正体は、具象化した疑問そのものなんじゃないのかな? 答えを認めたら
疑問という『器』を維持できなくなって雲散霧消する存在だ、とは思わないかい?
主催者は本当に『知りたがっている』のかな? 『知りたいと言いたがっている』
だけじゃないかい? ああ、『主催者が消えた後に答えを残すためのもの』として、
参加者ではない存在がここにいる、という考え方はできるね。観測装置兼記録媒体
というわけだ。君の場合は検査機具かもしれない。歴史の改変くらいで消えるなら
記録の意味がないはずだから。でも、実は『答えを求めているふりをしているだけ』
なのかもしれないだろう? ――本当に、心の実在は証明できるのかな?」
突然の長広舌に絶句する彼女へ、彼は断言してみせる。
「主催者は、達成できないと考えている。答えはない、故に消されることはない、と。
本当は簡単なことなのにね。本来の望みから大きく歪んだあれは、もはや御遣いとは
呼べない。この『ゲーム』の目的は心の実在を証明すること。でも、主催者の目的は
永遠に問い続けること。だからこそ主催者は答えを認めようとしない」
「……あなたがどういう方なのか、なんとなく理解できたような気がするのです」
拗ねたような口調でそう言い、<インターセプタ>は肩を落とした。
「ところで、お願いって何だい?」
「徒労に終わると思っているのでしょう?」
「聞かないとも断るとも言っていないはずだけど?」
時間移動能力者の瞳が、マグスの顔を映す。
「この島の南部へ、できれば城の中まで歩いていってほしいのです」
「いいよ。散歩の行き先を変えよう」
「……ありがとう、ございます」
一礼して、<インターセプタ>は姿を消した。
・
・
・
・
・
○<アスタリスク>・11
介入する。
実行。
実行。
終了。
・
・
・
・
・
霧の中、“吊られ男”の眼前には幾人かの参加者がいる。
少し前に第三回放送が終わったばかりだ、ということになったところだ。
以前の『現在』とは少しだけ違うはずだが、似たような『現在』が視線の先にある。
美貌の吸血姫は、黒衣の騎士を伴い、隻腕の少年と気丈そうな少女を連れて進む。
光明寺茉衣子が向かっているのかもしれない、C-6のマンションを目指して。
「さて、行くか」
空気を振動させない“吊られ男”の声は、誰の鼓膜も揺らさない。
ささやかな異変は、その一言の直後に起きた。
美貌の吸血姫が立ち止まり、“吊られ男”のいる辺りを不思議そうに見る。
何かの痕跡を探るかのように、沈黙したまま、わずかに目を眇めて。
“吊られ男”は踵を返し、何やら独り言を垂れ流しながら歩き始めた。
「……ふむ」
短くつぶやいた美姫の足は、“吊られ男”の行く方に向いた。
少し前に第三回放送が終わったばかりだ、ということになったところだ。
以前の『現在』とは少しだけ違うはずだが、似たような『現在』が視線の先にある。
美貌の吸血姫は、黒衣の騎士を伴い、隻腕の少年と気丈そうな少女を連れて進む。
光明寺茉衣子が向かっているのかもしれない、C-6のマンションを目指して。
「さて、行くか」
空気を振動させない“吊られ男”の声は、誰の鼓膜も揺らさない。
ささやかな異変は、その一言の直後に起きた。
美貌の吸血姫が立ち止まり、“吊られ男”のいる辺りを不思議そうに見る。
何かの痕跡を探るかのように、沈黙したまま、わずかに目を眇めて。
“吊られ男”は踵を返し、何やら独り言を垂れ流しながら歩き始めた。
「……ふむ」
短くつぶやいた美姫の足は、“吊られ男”の行く方に向いた。
しばらく島を歩いた後、辿り着いた城内の一室で、美姫は豪奢な椅子に腰掛けた。
室内に、人という生物の範疇に含まれている、と表現できそうな者はいない。
美姫は、無言で部屋の片隅を眺めている。
その位置には、一組の男女がいた。
“吊られ男”と“イマジネーター”だ。
「つまり、天使の議長は見つけたけれど管理者には会えなかった、と」
「薔薇十字騎士団とは別系統の管理者なのかと思っていたけれど……犠牲者だった」
「徒労に終わったようだね」
「そういうことになるのかしら」
『世界』の裏側も、所詮この『世界』の内部だ。決して到達できない場所ではない。
「そういえば……そこの彼女や、連れの三人には、私やあなたが見えているの?」
「どうだろう……語りかけたことも話しかけられたこともないから判らないな」
「あなたの後ろをついてきていたように見えたけれど」
「ぼくの隣に、ぼくたちには見えないけど彼女には見える何かがいるのかもしれない。
例えば、“魔女”が視ている異界の住民は、ぼくの目には全然見えない。この島には
何がいたって変じゃないよ。木工細工を作るときに使うような接着剤を自由自在に
操り、接着剤で像を作る才能を持った者だけが認識できる精霊――そういうものが
今ここにいても不自然じゃないくらいだ」
「…………」
やがて、ダナティア・アリール・アンクルージュの演説が聞こえ始めた。
部屋の片隅で、男女が唇を閉ざし、顔を見合わせる。
美姫はただ静かに顔を上げ、すべてを聞き終えると元の姿勢に戻った。
白い牙が生えた口から、言葉が零れ落ちる。
「日付が変わる前に潰されるようであれば、見物する価値はあるまい」
会いに行くか否かの判断は第四回放送後まで保留する、ということらしい。
部屋の片隅で、男女が対話を再開する。
「行くのかい?」
「あなたは行かないのね」
「せっかくだから、君が見ない光景をぼくは眺めておくよ」
「じゃあ、あなたが見ない光景を私は見届けてくるわ」
室内に、会話は存在しなくなった。
後には、ただ“吊られ男”の独り言が無為に漂い続けるのみ。
室内に、人という生物の範疇に含まれている、と表現できそうな者はいない。
美姫は、無言で部屋の片隅を眺めている。
その位置には、一組の男女がいた。
“吊られ男”と“イマジネーター”だ。
「つまり、天使の議長は見つけたけれど管理者には会えなかった、と」
「薔薇十字騎士団とは別系統の管理者なのかと思っていたけれど……犠牲者だった」
「徒労に終わったようだね」
「そういうことになるのかしら」
『世界』の裏側も、所詮この『世界』の内部だ。決して到達できない場所ではない。
「そういえば……そこの彼女や、連れの三人には、私やあなたが見えているの?」
「どうだろう……語りかけたことも話しかけられたこともないから判らないな」
「あなたの後ろをついてきていたように見えたけれど」
「ぼくの隣に、ぼくたちには見えないけど彼女には見える何かがいるのかもしれない。
例えば、“魔女”が視ている異界の住民は、ぼくの目には全然見えない。この島には
何がいたって変じゃないよ。木工細工を作るときに使うような接着剤を自由自在に
操り、接着剤で像を作る才能を持った者だけが認識できる精霊――そういうものが
今ここにいても不自然じゃないくらいだ」
「…………」
やがて、ダナティア・アリール・アンクルージュの演説が聞こえ始めた。
部屋の片隅で、男女が唇を閉ざし、顔を見合わせる。
美姫はただ静かに顔を上げ、すべてを聞き終えると元の姿勢に戻った。
白い牙が生えた口から、言葉が零れ落ちる。
「日付が変わる前に潰されるようであれば、見物する価値はあるまい」
会いに行くか否かの判断は第四回放送後まで保留する、ということらしい。
部屋の片隅で、男女が対話を再開する。
「行くのかい?」
「あなたは行かないのね」
「せっかくだから、君が見ない光景をぼくは眺めておくよ」
「じゃあ、あなたが見ない光景を私は見届けてくるわ」
室内に、会話は存在しなくなった。
後には、ただ“吊られ男”の独り言が無為に漂い続けるのみ。
【G-4/城の中の一室/1日目・21:35頃】
【美姫】
[状態]:通常
[装備]:なし
[道具]:支給品一式(パン6食分・水2000ml)
[思考]:気の向くままに行動する/アシュラムをどうするか
/ダナティアたちに会うかどうかは第四回放送を聞いてから決める
[備考]:何かを感知したのは確かだが、何をどれくらい把握しているのかは不明。
[状態]:通常
[装備]:なし
[道具]:支給品一式(パン6食分・水2000ml)
[思考]:気の向くままに行動する/アシュラムをどうするか
/ダナティアたちに会うかどうかは第四回放送を聞いてから決める
[備考]:何かを感知したのは確かだが、何をどれくらい把握しているのかは不明。
【座標不明/位置不明/1日目・21:35頃】
【アシュラム】
[状態]:状況、状態、装備など一切不明
[状態]:状況、状態、装備など一切不明
| ←BACK | 目次へ(詳細版) | NEXT→ |
| 第571話 | 第572話 | 第573話 |
| 第538話 | 時系列順 | 第575話 |
| 第504話 | 美姫 | - |
| 第477話 | イマジネーター | - |
| 第478話 | インターセプタ | 第577話 |
| 第477話 | アイネスト | - |
