FoxTail《Ⅰ》

帰路に就く


今日は、こんなものだろう。

籠を背負おうとして、思わずよろめく。
ぎちぎちに詰まった作物が、疲れた体に牙を向いている。
疲れた足取りで、畑を後にした。

黄金色をなびかせる風が、心地良く感じられる。
暑さは遠のいて、ようやく涼しい時期を迎えたからだろう。
その辺で横になれたら気持ち良いのだろうが、あまりゆっくりもしていられない。
日が沈む前には帰らなければならないからだ。
「夜は恐ろしい魔物が出る」
なんて、幼い頃からよく言い聞かせられたものだ。

畑ばかりの小さな集落。それが、村娘の故郷だ。
名も無き平凡なこの場所は、幸いにも平和に恵まれている。

大人たちは「魔物」が出るとはよく言うが、出ても稀に"狼"くらいなもの。
隠れていればやり過ごせる程度。危険だが、恐れる程じゃないだろう。

そんなものよりも、遅い帰りにご立腹な母親の方が余程恐ろしい。
村娘は、そんな風に思っていた。
最終更新:2020年04月03日 22:06