ニャングオウ

 私たちレプラカーンの生態というか文化というのはどうやら外の人たちにはあまり知られていないようで、謎めいた種族として扱われることが多いらしい。
 まあ別に、私も人族学者ではないので、レプラカーンという種族すべてについて語れるわけじゃないけど、自分の育った巣穴の雰囲気くらいは何となく分かる。
 私の育った巣穴の人たちはみんな、英雄を探していた。
 英雄というのは、我々が種族を上げて仕えるに相応しい相手のことで、レプラカーンなら一目見れば直感するらしい。
 その英雄の従者となって、正しい道へ導くのがレプラカーンというものだと、そう言い聞かされて育ってきた。
 ここで一つ英雄の条件というのがあって、レプラカーンでないことだそうだ。我々は従者であって、主人ではない。
「陰から的確に任務を遂行する、姿なき職人であれ」
 そんな話を聞いたとき、冗談だと思った。いやそんなわけなじゃんねって思った。だって私が英雄だもん。それこそ小さいころ、水面に映った自分を見て直感したもん。100パーセントの自信がある。
 みんな先入観に囚われて目が曇ってんだよ。幼くて純粋な私の目を信じて。
 えっ逆にみんな私を見て何も思わないの? どう見てもそうじゃん。こんなのコボルドの群れに混じったドレイクを見つけるのより簡単だよ。
 でも確かに変だと思ったんだよね、みんな英雄英雄言ってる割には私チヤホヤされてなかったもんね。全然仕えられている感なかったもんね。
 我こそは英雄だと何度も主張した。でも結局誰も信じてくれなくて、私はちょっとアレな人な扱いを受けた。
 それでも私は負けなかった。英雄は自分が信じる正しさに嘘をつかない。というかそもそも私が主人だからね、みんな従者のくせに意見しすぎじゃない? 立場弁えなよ。
 そんな感じで暮らしていたとき、目が節穴なみんなの中ではまだ見所のある奴が言った。
「自分が英雄だと思うなら気の向くままにすればいいだろう。俺たちはついていかないけど、世界を見て回ったらどうだ? 見聞を広めて、それでも自分が英雄だと思うならそれがお前の答えだろう?」
 めちゃくちゃムカつく顔と声だったし、実際一発殴ったけど、言ってることは割とマトモだった。
 別に奴の言うことを聞いたわけじゃないけど、私は旅に出た。
 英雄たる私の意志と、その導き手たる私の意思が一致した行動だ。まあうまくいくと思う。私は荒事もこなせるタイプの英雄だし、導き手だ。邪魔にならない程度の仲間が数人いれば冒険者とかも全然いけるだろう。
 ほかの導き手たちが当てにならない以上、雑事を任せる仲間が必要だ。テキトーにそこそこできそうな奴に声でもかけてみようか。
最終更新:2021年02月13日 15:27